著者
今井 勝 市橋 卓也
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.360-366, 1986-09-05
被引用文献数
1

低緯度地方のマイナークロップとして栽培されている食用カンナの光合成, 物質生産に関する研究はほとんどなされていない. 本報告では研究の第一段階である, 光環境に対する適応性を知ることを主眼として, 人工気象室内で異なる光強度の下に栽培された植物につき, 個葉のガス交換特性を検討した. 得られた結果の大要は次の通りである. 1. みかけの光合成の適温は28℃前後であった. 2. 強光(650μEm^<-2>s^<-1>PPFD)下で生育した植物は, 開葉後3日目でガス交換速度が最大に達し(1000μEm^<-2>s^<-1>PPFD下で光飽和せず, 光合成23.0mgCO_2dm^<-2>h^<-1>, 蒸散2.2gH_2 Odm^<-2>h<-1>), 以後漸減した弱光(290μEm^<-2>s^<-1>PPFD)下で生育した植物は, ガス交換速度が最大に達するのに強光下の場合よりもやや時間を要したが, 光合成能力はかなり高かった(20.8mgCO^2dm^<-2>h^<-1>). 3. ガス交換の主要な場は葉の背軸面であり, 強光条件下では向・背軸面の気孔密度(約1:3)に比例した値が得られたが, 弱光下では向軸面の割合が極端に減少した. 4. 食用カンナはガス交換の面から, 耐陰性の優れた陽生値物とみなされ, 幅広い光環境下での栽培可能性が示唆された.
著者
細谷 啓太 杉山 修一
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.266-273, 2016-07-05 (Released:2016-07-26)
参考文献数
21
被引用文献数
2 3

無施肥栽培は収量の著しい低下を招くと考えられているが,長期間無施肥でも慣行栽培に匹敵する収量を安定的に生産している農家が存在する.本研究では,無施肥条件におけるイネの生育と収量成立過程を明らかにすることを目的とし,青森,岩手,宮城,新潟の計16の無施肥農家水田の収量と収量形成要因を解析した.2011年から2013年までの過去3年間の全国の無施肥農家水田の平均収量は約300 kg/10aだったが,一部の水田においては420~480 kg/10aの収量が毎年安定的に生産されていた.収量解析の結果,収量はm2当たり籾数に強く依存し,特に穂数との間には高い正の相関関係 (r=0.92***) が認められた.また,穂数と最も高い相関を示したのは移植日から出穂43日前までの日平均気温 (r=0.66**) であった.無施肥水田土壌を用いて異なる移植日でイネのポット栽培試験を行った結果,分げつ増加速度は日平均気温 (r=0.92***) と高い正の相関を示した.重回帰分析に基づくパス解析の結果,日平均気温が分げつ増加速度に与える影響は,気温の生育促進効果と,気温による土壌無機態窒素の供給増加効果がほぼ等しく貢献していることが分かった.これらのことから,北日本の無施肥栽培では栄養成長期の気温が高くなることを通じた穂数確保が高い収量を達成するために重要であることが示された.
著者
吉村 泰幸
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.90, no.3, pp.277-299, 2021-07-05 (Released:2021-08-03)
参考文献数
281

ベンケイソウ型有機酸代謝(CAM)型光合成は,水分の損失を最小限に抑えた代謝経路であり,近年,温暖化する気候条件下に対して安定した収量を確保する農業生産の一つの手段として,圃場試験も進められている.この代謝を持つ植物は高温・半乾燥地帯の景観を占めるが,熱帯林や亜熱帯林の着生植物,高山植物,塩生植物,水生植物としても確認されており,現在,地球上の様々な環境下で生育している.よって日本においてもCAM植物が自生し,農業利用に適用できる可能性もあるが,国内に自生する植物種やその生育地についての情報はほとんどない.そこで本研究では,国内外の文献を元に国内に分布するCAM植物種を抽出し,特に,その生育環境について検討した.その結果,日本においても,岩場,海岸,山草地,畑・路傍,極相林,貧栄養湖等にCAM植物が生育していた.栽培種を含め国内に分布するCAM植物は,ヒカゲノカズラ植物門ミズニラ科の5種,シダ植物門ウラボシ科3種,イノモトソウ科1種,マツ門(裸子植物門)ウェルウィッチア科1種,被子植物では,モクレン類コショウ科1種,単子葉類7科25属86種,真正双子葉類11科53属140種で,合計23科83属237種であった.そのうち栽培されている種が185種と全体の約8割を占め,在来種も56種の分布が確認されたが,ほとんどの種は,岩場や海岸など厳しい水分環境下で生育していた.また,帰化種も33種確認されたが,海外で確認されているアカネ科等におけるCAM型光合成を持つ種は確認できなかった.
著者
金田 吉弘 西田 瑞彦
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.87, no.3, pp.242-249, 2018-07-05 (Released:2018-07-28)
参考文献数
25

有機栽培水稲において,収量550~600 g m–2を目指す目標生育を設定した.また,有機肥料の窒素肥効率と窒素無機化特性を明らかにし,生育診断による追肥が収量に及ぼす影響を検証した.その結果,有機栽培の茎数はいずれの時期においても慣行栽培に比べて少なく推移するものの有効茎歩合が高い生育となり穂数はほぼ同等であった.有機栽培の葉色値は7月上旬までの生育初期は慣行栽培に比べて低いが,幼穂形成期以降は慣行栽培を上回った.5種類の有機肥料の窒素肥効率は,約40から80%で平均では69%であった.反応速度論的手法により求めた有機肥料の窒素無機化率は約20から60%であり,窒素肥効率との間には有意な正の相関が認められた.生育診断に基づき追肥を実施した結果,ほぼ目標値に近い穂数と葉色値に接近し,550~600 g m–2の目標収量が得られた.以上のことから,有機栽培水稲において,目標生育と生育診断に基づく追肥により550~600 g m–2の収量が得られることが明らかになった.
著者
及川 聡子 西 政佳 由比 進 柏木 純一 中島 大賢 市川 伸次 木村 利行 大平 陽一 長菅 輝義 黒田 榮喜 松波 麻耶 下野 裕之
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.88, no.4, pp.259-267, 2019-10-05 (Released:2019-11-12)
参考文献数
16
被引用文献数
1

寒冷地における水稲栽培の作期拡大を目的として,雪解け後の春作業の制約を受けない初冬播き乾田直播栽培の可能性が検討されている.水稲の初冬直播き栽培の実用化においては,出芽率の向上が極めて重要な課題である.本研究では,初冬直播き栽培での出芽率向上のため,種子表面へのコーティング素材 3種類(鉄,カルパー,デンプン)を検討した.2016/2017年に岩手県において,初冬直播き栽培での出芽率は無コーティングでは2%に低下するのに対して,3つの素材のうち鉄をコーティングした場合のみ24%まで有意に向上した.鉄のコーティングによる出芽率の向上効果を2017/2018年に4品種(ひとめぼれ,まっしぐら,あきたこまち,萌えみのり)について検討した結果,無コーティングでは1~3%であった出芽率が鉄のコーティングによって11~30%に有意に向上した.岩手県以外の4地点(北海道,青森県,秋田県,三重県)でも,同様の結果が得られた.以上,種子表面への鉄のコーティングが初冬直播き栽培での出芽率向上に高い効果を示すことを明らかにした.
著者
小葉田 亨 植向 直哉 稲村 達也 加賀田 恒
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.315-322, 2004 (Released:2004-11-17)
参考文献数
36
被引用文献数
39 45

近年, 西日本を中心に乳白米多発による品質低下が起きている. 乳白米発生原因としては, 登熟期高温による子実成長過程への直接的影響, あるいは着生穎花数が多い, あるいは葉色の落ちたイネで乳白米発生が著しくなるなどから子実への同化産物供給不足が考えられる. そこで, 本研究では3年間にわたり島根県と大阪府の気温・立地条件の異なる3地域でコシヒカリを栽培し, 圃場条件下での乳白米発生状況と登熟期間引きにより物質生産を増やしたときの乳白米発生を調べ, 同化産物供給不足が乳白米発生の主原因であることを明らかにしようとした. 一部地域では登熟期にフィルムで覆った高温区を設けた. その結果, 穂揃い後30日間の平均気温(T30)は23~29℃となり, 籾の充填率は70~90%, 乳白米発生率は0.8~16.0%の変異を示した. T30が高いほど乳白米率が大きなばらつきを持ち増加した. そこで穂揃期以降, 栽植密度を半分に間引いたところ, どの地域, 温度処理でも間引きにより籾の充填率はほぼ90%近くまで増加し, ほとんどの地域で乳白米率が6%以下に減少した. 全結果を込みにすると, 充填率が増えると乳白米発生率が低下した. したがって, 間引きは幅広い温度域で籾の充填率と乳白米発生率を改善した. 以上から, 乳白米は子実の同化産物蓄積過程自体が高温で阻害されるよりも, 高温によって高まった子実乾物増加速度に対して同化産物供給が不足することにより主に生ずると推定された. そのため, 登熟期の同化促進技術は乳白米発生の抑制に有効であると考えられた.
著者
新田 洋司
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.74, no.1, pp.95-97, 2005 (Released:2009-07-07)
参考文献数
11
被引用文献数
3 3
著者
源馬 琢磨 三浦 秀穂 林 克昌
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.62, no.3, pp.414-418, 1993-09-05 (Released:2008-02-14)
参考文献数
11
被引用文献数
2 4

わが国の水田利用再編対策のもとで, ワイルドライス (アメリカマコモ) のもつ水生植物としての特性や寒冷地での適応性は, 北日本での実用的な水田栽培の可能性に対する興味を刺激している. 本研究では, 幼植物体の生育に及ぼす水深と温度の影響を検討するため, ニつの実験を行った. 実験1はNetumを用いてガラス室で, 実験2はK2を用いて人工気象室で実施した. 移植後30日目の乾物重でみた生育は, 実験1では水深2cmで, 実験2では2~6cmで促進された. これらには葉と根の数とサイズの増加が貢献していた. 草丈は水深の違いによって大きく影響されないが, 8cm以上の水深で栽培したとき徒長気味の生育を示し, 幼植物体の乾物重は大きく低下した. 実験2でみた温度の影響は強く表れ, 12℃に比べ20℃での生育が優った. 温度と水深の間には相互作用がなく, これら二つの要因は独立して幼植物体の生育に影響を及ぼすとみられた.
著者
浅野 紘臣 磯部 勝孝 坪木 良雄
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.174-177, 1998-06-05 (Released:2008-02-14)
参考文献数
8
被引用文献数
4 3

慣行栽培とアイガモ栽培(有機農法)により栽培された米の食味について官能試験により調査した.米の食味は, 総合評価ではアイガモ栽培米より慣行栽培米の食味が高いと判断された.その要因として, 慣行栽培米に比べてアイガモ栽培米はタンパク質含量が1%以上高いことが上げられる.しかし, 官能試験を行う前にアイガモ栽培米に関する幾つかの情報をパネルに伝えることによって, アイガモ栽培米の食味評価が若干高まった.言い換えれば, 米の情報を消費者に提供することによって, 消費者の米に対する評価が変化することを示唆していると思われた.
著者
今井 勝
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.80, no.2, pp.145-156, 2011 (Released:2011-04-28)
参考文献数
107
被引用文献数
1 2

食用カンナは南米のアンデス地域に起源し,紀元前2500年頃にはすでに利用されていた記録がある.大型の多年生単子葉類の草本で,育種的改良はほとんど受けていないと思われるが,世界各地の熱帯・亜熱帯において小規模に栽培されている.観賞用の花カンナとは異なり,地際にイモ(根茎)を多数形成してデンプンを蓄積する.食用カンナのデンプンの物理的・化学的性質に関する研究は進んできたが,用途には未開発の部分が多い.草高が3 m,LAIが12にも達する大きな茎葉部は,直接家畜の青刈り飼料となるが,サイレージとしての利用も可能である.大型で楕円形の葉を着生する茎は,根茎から生じて分枝はしない.野生型の植物は湿気のある林地の周縁部に見出され,栽培型も多湿の土壌を好み,旺盛に無機養分を吸収する.光合成の面からは,多様な光環境と温暖な気候に適応した,中庸な純光合成速度を有する陽生のC3植物である.生育中・後期の個体群は高い葉面積指数を有し,良好な個体群成長速度を維持することができ,キャッサバやジャガイモに匹敵するかまたはそれ以上の生産能力を有しているものと考えられる.しかしながら,この植物に関する植物学的および農学的観点からの研究はかなり限られている.本総説では,多くの可能性を秘めた食用カンナの来歴,形態形成に関わる特徴,光合成,乾物およびデンプン生産能力,利用の側面等について包括的な紹介を行った.
著者
大江 真道
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.77, no.2, pp.229-232, 2008 (Released:2009-07-02)
参考文献数
14

イネ科作物の分枝は分げつと呼ばれる.植物学的には側芽が発達した分枝であるが,わが国ではこのように呼ばれ,学術用語として位置づけられている.分げつの出現や成長,つまり分げつ性は種や品種によって特徴があり,その特徴が草型を特徴づけている.また,作物生産においては子実収量,バイオマス生産に直結する要素で,その消長は栽培の良否,施肥の適期,生育相を知る主要な手段として活用されている.一方,研究分野においても,その推移,規則性,他分げつとの相互関係の解析は,品種の特性,生育の特性,生育の良否を知る手段として重要な意味を持つ.分げつに関しては,分化発達,種や品種と分枝構造との関係,環境条件や栽培条件との関係など,興味深い側面を多々含むが,本稿では主にイネの分げつについて,基本となる表記や呼称,生育の様相,規則性,調査方法を述べることとした.
著者
磯部 勝孝 藤井 秀昭 坪木 良雄
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.65, no.3, pp.453-459, 1996-09-05 (Released:2008-02-14)
参考文献数
11
被引用文献数
6 8

サツマイモ栽培における木炭の施用が土壌環境とサツマイモの収量に与える影響について調べた. 供試した木炭には多量のカリウムが含まれており, これを施用すると土壌中の交換性カリウム含有量が増大した. さらに中粒炭を10a当たり2,000kg施用すると土壌物理性が改善され, 気相割合や孔隙率が高まり固相や液相の割合は低下し, サツマイモがカリウムを吸収するのに良好な土壌環境となった. この結果, 木炭を施用すると塊根の加里/窒素比が高まり, 塊根肥大が促進され収量が高まることが明らかになった.
著者
続 栄治 島崎 敦 ナイバルレブ ロサバティ ウルカラ 富山 一男
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.64, no.2, pp.195-200, 1995-06-05
被引用文献数
1

サトイモは宮崎県における主要な作物であり, 需要の増加と共に生産量も増えている. これに伴い栽培農家ではサトイモの連作障害の発現が問題となってきている. 本研究ではサトイモの連作障害の実態を調査すると共に, 連作土壌の理化学性, 土壌線虫, およびサトイモ由来の生長抑制物質について分析・調査した. サトイモを5年連作すると地上部の乾物重および塊茎収量は著しく低下し, 初年度作に比べ地上部乾物重において50%, 塊茎収量においで59%それぞれ低下した. サトイモ連作区と輪作区における土壌について分析した結果, 両者間に土壌の理化学性および線虫数について明瞭な差異は認められなかった. サトイモ地上部(茎葉)およびその連作土壌を水ならびにメタノールで抽出し, その抽出液について生理活性を検討した結果, これらの抽出液はダイコンならびにカブの初期生育を著しく抑制することが認められた. 以上の結果から, サトイモの連作障害はサ卜イモ由来の生長抑制物質と密接に関連しているものと推察した.
著者
小葉田 亨 植向 直哉 稲村 達也 加賀田 恒
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.315-322, 2004-09-05
被引用文献数
6

近年,西日本を中心に乳白米多発による品質低下が起きている.乳白米発生原因としては,登熟期高温による子実成長過程への直接的影響,あるいは着生穎花数が多い,あるいは葉色の落ちたイネで乳白米発生が著しくなるなどから子実への同化産物供給不足が考えられる.そこで,本研究では3年間にわたり島根県と大阪府の気温・立地条件の異なる3地域でコシヒカリを栽培し,圃場条件下での乳白米発生状況と登熟期間引きにより物質生産を増やしたときの乳白米発生を調べ,同化産物供給不足が乳白米発生の主原因であることを明らかにしょうとした.一部地域では登熟期にフィルムで覆った高温区を設けた.その結果,穂揃い後30日間の平均気温(T_<30>)は23〜29℃となり,籾の充填率は70〜90%,乳白米発生率は0.8〜16.0%の変異を示した.T_<30>が高いほど乳白米率が大きなばらつきを持ち増加した.そこで穂揃期以降,栽植密度を半分に間引いたところ,どの地域,温度処理でも間引きにより籾の充填率はほぼ90%近くまで増加し,ほとんどの地域で乳白米率が6%以下に減少した.全結果を込みにすると,充填率が増えると乳白米発生率が低下した.したがって,間引きは幅広い温度域で籾の充填率と乳白米発生率を改善した.以上から,乳白米は子実の同化産物蓄積過程自体が高温で阻害されるよりも,高温によって高まった子実乾物増加速度に対して同化産物供給が不足することにより主に生ずると推定された.そのため,登熟期の同化促進技術は乳白米発生の抑制に有効であると考えられた.
著者
福田 直子 湯川 智行
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.67, no.4, pp.505-509, 1998
被引用文献数
8

ソラマメの在来種を含む41品種を用いて積雪条件が異なる2ヵ年にわたり, 越冬前の生育特性と雪害程度を調査し, 品種の耐雪性との関連について検討した.雪害による枯死葉面積率と枯死株率をもとに供試品種は耐雪性強, 中, 弱の3品種群に分類できた.耐雪性強品種群は新潟市近郊の在来種とその突然変異品種の2品種, 耐雪性中品種群は原産地や育成地が西日本中心に分布する35品種, 耐雪性弱品種群は海外から導入された品種および鹿児島県の在来種の4品種であった.それぞれの品種群は原産地や育成地に共通性が認められ, 品種の耐雪性と育成環境との間に関連が示唆された.越冬前の生育特性と品種の耐雪性との間には密接な関係が認められた.耐雪性弱品種は花芽分化の時期が早く分化葉位が低いために越冬前に花芽の顕著な発育が認められたことから春播き型の品種であると考えられる.一方, 耐雪性強品種群は花芽分化の時期が遅く, 越冬前の花芽の発育ステージは初期段階であった.また耐雪性に関わる形態的特徴として, 耐雪性の強い品種は越冬前の草丈, 節間長, 茎葉生重が小さく, 茎葉乾物率が高い特性をもっていた.
著者
山本 良孝 川口 祐男 高橋 渉
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.485-490, 1993-12-05
被引用文献数
2

水稲「コシヒカリ」を供試し, 気温による水稲の発育段階予測法 (DVS方式) が作期及び栽培地域の異なる条件で, どのような適合性を示すかについて検討した. 4月20日から6月1日までの移植においてはDVS方式が良く適合し, この期間の標準誤差は幼穂形成期が1.21日, 出穂期が1.48日, 成熟期が1.45日であった. しかし, 6月15日の移植においては推定値が実測値より遅くなり, 生育が進むにつれて拡大した. この理由としては日長の影響が大きく, 短日条件が発育段階を早めたものと考えられた. 富山県内における入善町, 立山町, 砺波市の3カ所において, 近隣のアメダスの日平均気温をもとにDVS方式の適合性を検討したところ, 標準誤差は幼穂形成期が2.76日, 出穂期が2.33日, 成熟期が2.55日と高い適合性を示し, 県内においてもDVS方式により水稲の発育段階を予測することが可能と考えられた.
著者
齊藤 邦行 速水 敏史 石部 友弘 松江 勇次 尾形 武文 黒田 俊郎
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.169-173, 2002-06-05 (Released:2008-02-14)
参考文献数
17
被引用文献数
1

岡山大学農学部附属農場の水田において,水稲品種日本晴を供試して有機栽培を1990年に開始し,7~9年目の3ヵ年に米飯の食味と理化学的特性を比較した.試験区は基肥に完熟堆厩肥と発酵鶏糞を用い,農薬施用の有無により有機・無農薬区(油粕追肥),有機・減農薬区(除草剤,油粕追肥),有機・有農薬区(除草剤+殺虫殺菌剤,化学肥料追肥),さらに化学肥料のみ用いた慣行区(除草剤+殺虫殺菌剤)の4区を設定した.食味官能試験の結果,3ヵ年の平均でみると総合評価と粘りは慣行区に比べ,有機・無農薬区,有機・減農薬区との相違は小さかったが,有機・有農薬区の食味は劣った(粘りのみ有意).有機・無農薬区の総合評価は慣行区に比べ1996年には劣り,1997年には優り,1998年にはほぼ等しかったことから,有機質肥料の施用による食味の向上や,農薬施用の有無が食味に及ぼす影響は明確には認められなかった.1997年に,各試験区の一部について無施肥栽培を行ったところ,いずれの区でも総合評価は向上し,これには精米のアミロース含有率ではなくタンパク質含有率の低下とアミログラム特性の向上により粘りの増加したことが関係すると推察された.さらに1998年には,実肥施用を行わず基肥を増施することにより,有機・無農薬区,有機・有農薬区では精米のタンパク質含有率の低下とともに総合評価が向上した.以上の結果,有機質肥料を用いて良食味米の生産を行うには,穂肥・実肥における肥効発現に留意し,登熟期に窒素吸収を抑制することが重要であると結論された.