著者
中野 尚夫 杉本 真一
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.357-363, 1999-09-05
参考文献数
18
被引用文献数
8

緑肥作物の立毛中に不耕起播種した水稲の苗立ちを検討した. 前作緑肥作物は1994年と1995年がレンゲ, クリムソンクローバ, ヘアリーベッチ, アルサイククローバで, 1996年と1997年がこれらとアルファルファであった. いずれの年にも裸地に播種する対照区を設けた. 水稲の播種期は1994年が4月15日, 4月28日と5月13日, 1995年が5月8日, 1996年が4月23日, 4月30日と5月9日, 1997年が4月16日, 4月25日と5月12日で, 供試品種は吉備の華であった. 前作緑肥作物の被陰度は, 地際相対照度でヘアリーベッチ, アルサイククローバ, アルファルファが5〜10%, レンゲ, クリムソンクローバが約20%であった. 水稲の出芽開始は播種期が早いほど早く, 緑肥作物立毛播種で遅く, 被陰度の大きいアルサイククローバ, ヘアリーベッチで顕著に遅かった. 最終出芽数はレンゲ, クリムソンクローバでは裸地よりやや少なかったが, 裸地と同様に播種期による差がなかった. これに対し被陰度の大きい緑肥作物での最終出芽率は裸地に比べ少ないばかりでなく, 播種期が早いと少なくなった. この出芽の違いは, 前作緑肥作物の被陰度に応じて地温が低下したことに基づくと考えられた. さらに, 被陰度の大きい緑肥作物のもとではその立毛中と, 被陰の解消した入水後に枯死する水稲個体がみられた. このため, 被陰度の大きい前作緑肥作物立毛中への不耕起播種では出芽の低下, 枯死の両面から水稲の苗立ちが著しく低下した. これに対しレンゲ, クリムソンクローバの場合には裸地での苗立ちと大差なかった.
著者
巽 二郎
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.604-609, 2007 (Released:2009-07-03)
参考文献数
39
被引用文献数
1 1

根系の形態や土壌中の分布は,根圏を通じた養水分の獲得や植物体の支持などの植物生育の基本的な機能と密接に関わるものであり,環境条件やストレスに対応して変化する.根系のマクロな外部形態は構築構造(root system architecture)を有し,この構造は発育モデル(growth model)やトポロジーモデル(topological model),形状モデル(geometric model)などで定量的に記述・解析される.ここではそれらのなかで最も新しい方法の1つであるフラクタルモデル(fractal model)についてその解析法と応用および研究の動向を紹介する.
著者
露崎 浩 武田 和義 駒崎 智亮
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.345-350, 2000-09-05
参考文献数
9
被引用文献数
1

オオムギが主食として栽培されているチベット高原の東部地域(標高2670m~3550m)において, オオムギの栽培, 生育状況を収穫期に調査した.さらに, その場で収集したオオムギ在来品種333系統を日本で栽培し, 出穂期や収量関連形質などを調べた.栽培されていたオオムギのほとんど(収集系統の99%)が六条・裸性であった.粉食をするチベット民族が製粉の容易なハダカムギを好んで栽培していると推察される.穎や穎果が紫や青色を呈する系統が多数認められた.オオムギ栽培は, 河岸段丘や山腹の小規模な畑で行われていた.ヤク(牛の一種)を使う耕起の他は, 全て手作業で栽培が行われていた.元肥として, 主に有機質肥料が使われていた.播種様式は散播が最も多かった.春播き栽培されており, 播種期(3月中旬~4月上旬)と収穫期(8月上旬~下旬)が標高により異なった.収穫物は架掛けや屋根の上で乾燥された後, 踏みつぶしや唐竿により脱穀されていた.収穫時の生育状況(草高および被度)に, 大きな圃場間差が存在した.日本での出穂期に1ケ月近くの系統間変異が認められ, 標高2900~3100mから収集した系統に出穂の遅いものが多かった.このような出穂期の遺伝的分化には, 栽培標高帯の気象条件や播種, 収穫期の早晩が関わっていると思われた.収集系統の千粒重は, 世界各地の六条・裸性品種と比べ明らかに大きかった.最後に, 現地での多収化を計る上での栽培上の視点を提示した.
著者
吉田 智彦
出版者
日本作物學會
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.64, no.4, pp.698-702, 1995-12-01
被引用文献数
4

北部九州での水稲早期栽培の後作を想定し, 6種類の穀類を8月10日〜30日に播種して子実収量をみた. 比較として5月播種も行った. 子実として固定された太陽エネルギーの割合は最大0.2%前後で, キビ, アワ, ソバは5月播種より高かった. 最大葉面積指数は5月播種より小さかった. CGRや乾物生産における太陽エネルギー利用効率は生育前半で5月播種より大きく, 後半で小さくなった. 収量はソルガム, キビ, アワは8月10日播種で151〜131 gm^<-2>であり, 20日播種は低下した. 一方ソバ, オオムギは30日播種でも130, 119gm^<-2>の収量が得られた. ヒエは低収であった. アワは登熟期間の有効積算気温の減少による収量低下程度がソルガム, ヒエに比べて著しく, 一方ソバは収量の変動が少なかった. 8月播種に向く品種改良の可能性は大きいと思われる.
著者
石川 哲也 鈴木 保宏
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.72, no.3, pp.350-357, 2003-09-05
被引用文献数
1 1

米粒の成分音量や物性を1粒単位で測定することが最近可能となり,これらの測定値と穂上の着生位置との関係を明らかにするための研究が進められている.そこで,イネの穂の分枝構造を模式的に図示し,個々の穎花の持つ情報を穂上の着生位置に対応させて表示するためのプログラムを作成し,その有用性について検討を行った.他の分核構造をリスト形式で記述することにより,その多様性に対応することが可能となった.描画プログラムの作成には,「パターン照合」や「単一化」などの特色を有するプログラム言語Prologを採用し,再帰的呼び出し機能を活用した.表形式で記録された既存の分析結果を有効に利用するため,それらをリスト形式のデータに変換するプログラムを作成した.さらに,穎花の現存・退化といった定性的情報の表示に加えて,新鮮重など定量的情報に対応した塗り分け機能をプログラムに追加した.描画された模式図は,枝梗の長さや穎花の形状という観点からは正確ではないが,枝梗や穎花の相対的な位置は正しく表現されており,穎花の定性的・定量的特性と着生位置との関係を直観的に把握する一助となる.さらに,この描画プログラムは,同様の分核構造を持つイネ属の穂や,イネの分げつ体系等の描画への応用も可能である.
著者
前田 英三 三宅 博
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物學會紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.65, no.2, pp.340-351, 1996-06-05
被引用文献数
1

イネの反足細胞は, 卵細胞から離れ珠心側壁に接して存在する. 多くの裂片をもつ巨大な異常核, 粗面小胞体, 細胞壁内向突起などが, 開花直後のイネ反足細胞内に観察された. 細胞核の裂片は核質の小さな架橋により連結しており, プラスチドやミトコンドリアや粗面小胞体を含む細胞質の一部を取り囲んでいる. 珠心細胞と接する反足細胞の細胞壁には, よく発達した内向突起が見られる. 粗面小胞体の先端が細胞壁内向突起と融合している場合も観察される. 反足細胞付近の珠心細胞は, すでに退化しはじめている. これらの細胞構造及びリボゾームを表面に伴った小胞の行動などから, 珠心細胞から胚嚢内中心細胞へのアポプラスチックな物質輸送に関する反足細胞の役割につき考察した. また, 胚嚢内の物質の移動経路についても, 簡単に述べた.
著者
王 桂云 阿部 利徳 笹原 健夫
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.307-311, 1998-09-05 (Released:2008-02-14)
参考文献数
12
被引用文献数
2 4

無農薬・無化学肥料栽培(有機栽培)および慣行栽培した水稲白米の全窒素・アミロース含量およびアミノ酸含量・組成を検討した.白米の全窒素含量は供試した2品種(コシヒカリ, ひとめぼれ)とも無農薬・無化学肥料栽培に比較して, 慣行栽培で有意に高くなった.しかし, アミロース含量は無農薬・無化学肥料栽培米と慣行栽培米とで2品種間に有意の差異が見られなかった.一方, 白米粉末のアミノ酸含量についてみると加水分解アミノ酸は, 慣行栽培の場合の全窒素含量の増加傾向を反映して, 検出できた16のアミノ酸はむしろ慣行栽培で高まる傾向を示した.遊離アミノ酸含量は加水分解アミノ酸含量の1/100ないしそれ以下であった.しかし, 遊離アミノ酸のうちアスパラギン酸, グルタミン酸, アスパラギン, グルタミンがコシヒカリおよびひとめぼれ2品種とも, 慣行栽培に比較して無農薬・無化学肥料栽培で有意に高くなった.以上の結果は, 無農薬・無化学肥料栽培で白米の窒素含量が低下し, 遊離のグルタミン酸, アスパラギン, グルタミン含量が増加することを示している.今後, これらの結果と炊飯米の食味との関係を検討する必要がある.
著者
境谷 栄二 井上 吉雄
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.317-331, 2012 (Released:2012-08-06)
参考文献数
30
被引用文献数
11 6

近年,全国の米産地では,リモートセンシングで推定した玄米タンパク含有率 (以下,玄米タンパクと呼ぶ) を活用して,栽培指導や区分集荷が試みられるようになってきた.しかし,特に本州以南では推定精度が不十分で実用化が進んでいない場合が多い.本研究では推定精度および実用性の向上を目的として,青森県津軽中央地域の水田地帯100 km2を対象に航空機ハイパースペクトルで複数年の観測実験を行い,玄米タンパク推定の誤差要因をNDSI (正規化分光反射指数) を用いて分析した.地上で調査した葉色と玄米タンパクは,年次を通して密接な関係があった.しかし,反射スペクトルからの推定力の傾向は,葉色と玄米タンパクで違いがみられた.観測時の葉色に対しては赤と緑の双方の波長で推定力が高いが,収穫時の玄米タンパクに対しては赤の波長では大きく劣った.これは赤の波長が生育ステージの変化に対する感受性が強いことに起因している.この影響を分析するため,生育ステージの変動を施肥条件と田植時期の違いによる部分に分割したモデルを提示した.施肥条件は玄米タンパクと強く関係するのに対し,田植時期はほぼ無関係である.そのため,田植時期に起因する生育ステージの変動が大きい場合は,玄米タンパクの推定精度が低下しやすい.また,観測時期が早いほど,田植時期に起因する変動の影響が相対的に大きくなることも精度低下の一因となる.したがって,玄米タンパクの推定には,従来のNDVI (=NDSI[赤,近赤外]) に替わり,NDSI[緑,近赤外] を用いることで,生育ステージによる影響が緩和され,精度の低下を軽減できる.
著者
浅井 辰夫 飛奈 宏幸 前田 節子 西川 浩二
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.85, no.3, pp.274-281, 2016-07-05 (Released:2016-07-26)
参考文献数
16
被引用文献数
1 2

静岡大学農学部附属地域フィールド科学教育研究センターの水田において,堆肥を連用した水稲の有機栽培試験を早生品種を用いて15年間継続して実施した.試験区として,基肥に籾殻堆肥と菜種油粕を用い,農薬を使用しない籾殻堆肥区(1996~2010年)および基肥に牛糞堆肥を用い,農薬を使用しない牛糞堆肥区(1996~2010年)の2種類の有機栽培と,基肥に化学肥料と農薬を使用する化学肥料区(1996~2010年)および基肥無しで農薬を使用する無肥料区(1998~2010年)を設定した.堆肥を連用する牛糞堆肥区で5年目以降,籾殻堆肥区で6年目以降に堆肥の連用効果が認められた.2006~2010年の5年間の平均収量は,籾殻堆肥区437 g m-2,牛糞堆肥区430 g m-2,化学肥料区523 g m-2および無肥料区329 g m-2であった.食味分析計で測定した食味値は,籾殻堆肥や牛糞堆肥を施用する有機栽培が,化学肥料を施用する化学肥料栽培より高い傾向にあることが確認された.また,連用水田の土壌分析から,堆肥連用の有機栽培区は,化学肥料区と比べて全窒素量が増加することが確かめられた.
著者
中村 充 水上 優子 青木 法明 梅本 貴之 日渡 美世 池田 達哉 荒木 悦子 船生 岳人 加藤 満 城田 雅毅
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.126-135, 2014 (Released:2014-04-21)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1

米の澱粉組成タイプとその製粉特性および吸水特性との関係を解明するために,澱粉組成が異なる 「日本晴」 の準同質遺伝子系統を含む水稲27品種・系統の澱粉組成と製粉特性の米粉粒径,澱粉損傷度,米粉および精米の吸水性を調査し,さらに胚乳細胞組織の形態との関係を検討した.その結果,澱粉組成はDNAマーカー分析も併用して,アミロペクチン超長鎖比率による3タイプ(K,H,Y)と短鎖比率による2タイプ(S,L)の組合せから,KS,KL,HS,HL,YS,YL の6グループに大別された.米粉粒径中央値はアミロペクチン超長鎖比率の低いKタイプが,同比率の高いYタイプより有意に大きく,同比率が米粉粒径に関連していた.澱粉損傷度はYL<(HL,YS)<(KS,HS)のタイプ間で有意差が認められ,アミロペクチン短鎖比率が低くアミロペクチン超長鎖比率が高いと,澱粉損傷度が低くなることが明らかとなった.米粉の飽和吸水率は澱粉損傷度と正の相関があるだけではなく,アミロース含有率と負の相関のあることが精米の吸水性から確認された.澱粉組成の異なる「日本晴」の準同質遺伝子系統(KL,HS,HLタイプ)の玄米白色度を調査し,胚乳細胞組織の形態を走査型電子顕微鏡で観察したところ,KLおよびHLタイプの玄米白色度が高く,アミロプラストや澱粉粒の形態がタイプ間で異なっていた.このため,澱粉組成タイプによって澱粉の蓄積様式が異なり,それが製粉特性に影響している可能性が示唆された.
著者
磯部 勝孝 坪木 良雄
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.67, no.3, pp.347-352, 1998-09-05 (Released:2008-02-14)
参考文献数
22
被引用文献数
11 16

種々のイネ科・マメ科作物のアーバスキュラー菌根菌接種による生育促進について比較検討を行うとともに, 根の形態およびリン吸収の関係について考察した.実験に供試した作物は, オカボ, コムギ, ソルゴー, オオムギ, シコクビエ, インゲンマメ, シロクローバー, ササゲ, アズキ, ダイズの10種である.調査項目は, 1.アーバスキュラー菌根菌の宿主作物への生育促進効果の違い, 2.根の形態, 3.生育に必要な土壌中の有効態リン含有量である.アーバスキュラー菌根菌の接種による宿主への生育促進効果は, イネ科作物よりマメ科作物のほうが顕著であった.また, イネ科作物はマメ科に作物に比べ, 土壌有効態リン含有量が低くても十分な生育を示した.これは, イネ科作物が, マメ科作物に比べ根毛が発達し, 地上部乾物重に対する根長が大きくリン吸収に有利な根系を有し, 低リン下でも高いリン吸収能を示すため, アーバスキュラー菌根菌の感染による宿主作物の生育促進が小さかったと考えられる.又, マメ科作物のほうがアーバスキュラー菌根菌による生育促進効果が著しいのは, アーバスキュラー菌根菌感染率が高いこともひとつの理由と推察された.これらのことから, イネ科作物とマメ科作物を比較した場合, マメ科作物のほうがアーバスキュラー菌根菌の利用価値が高いと言える.
著者
中谷 誠 小柳 敦史 荻原 英雄 渡辺 泰
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.83-89, 1988-03-05 (Released:2008-02-14)
参考文献数
12
被引用文献数
1

サツマイモ苗の5-10日間の取り置きが活着, 塊根形成, 収量に及ぼす影響をコガネセンガンと高系14号を用い, ポリエチレンフィルムマルチ栽培で1985-86年の2か年3作期にわたり検討した. 取り置きは約14℃, 相対湿度約80%, 弱光の条件下で行い, 以下の結果を得た. 挿苗直後, 対照区では葉身や茎頂が地表まで垂れ下がっているものが多かったのに対し, 取り置き区では茎や葉柄が立っているものが多く, 挿苗1, 2週間後の展開葉数や蒸散速度はいずれの作期, 品種でも取り置きにより増加した. 塊根形成期ではいずれの作期でも取り置きにより塊根数や塊根乾物重は増加した. また全乾物重や葉面積も増える傾向を示した. 収穫期の上いも収量は取り置きしたものの方が高い値を示した. 1985年には有意な差がなかったが, 1986年には有意な差があり, 上いも数, 上いも1個重とも増加した. 全乾物重や収穫指数も取り置きしたものの方に高い傾向が見られた. 以上から, 5-10日間の苗の取り置きは活着や塊根形成を促す効果を持つことが明らかになった. また, これらの点が全乾物重や収穫指数の向上につながり, 塊根収量の増大をもたらす可能性が強いことも判明した. さらに, 必ずしも増収に結びつかない場合にもサツマイモ栽培の安定性を高める効果が期待できると思われた.
著者
南 さやか 薮田 伸 富永 克弘 山本 夕菜 中之内 亜紀子 壹岐 香代 石川 大太郎 石黒 悦爾 箱山 晋
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.89, no.4, pp.277-284, 2020-10-05 (Released:2021-05-20)
参考文献数
25
被引用文献数
1

熱帯・亜熱帯に広く適応し高い生産性を持つキャッサバを,バイオマス資源作物として温帯地域へ導入・利用が可能か否かを知るため,2007~2009年にブラジル国育成のデンプン含有率が高い品種 IAC-576-70を鹿児島で圃場栽培し,その生育,乾物生産の推移と収量を調査した.年平均気温18.3℃,年平均降水量2280 mm,冬期に降霜もある鹿児島の気象条件で,栽培可能期間は4月下旬~12月上旬までの7~8ヶ月間に限られた. 3ヵ年間における最大生産量は全乾物重が 1793 g m–2,塊根乾物重が 524 g m–2,生鮮塊根収量が2000 g m–2であり,熱帯地域の植え付け8ヶ月後における収量と同程度の生産であった.
著者
臼木 一英 山本 泰由 田澤 純子
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.76, no.3, pp.394-400, 2007 (Released:2007-08-10)
参考文献数
30
被引用文献数
8 10

不耕起栽培ではトウモロコシへのアーバスキュラー菌根菌感染を促進する事が多い. しかし, 前作の異なる場合の不耕起栽培がアーバスキュラー菌根菌と作物との関係に及ぼす影響については知見が少ない. そこで耕起法および前作の冬作物の違いがトウモロコシへのアーバスキュラー菌根菌感染と生育・収量との関係に及ぼす影響について検討した. その結果, トウモロコシの生育は前年の夏作がアーバスキュラー菌根菌の非宿主作物であるソバの跡地では劣るが, ソバを栽培した後作に冬作として宿主作物のエンバクを栽培し, その跡にトウモロコシを不耕起で栽培することによってトウモロコシへのアーバスキュラー菌根菌感染率が向上するとともに生育も促進された. 特にトウモロコシの播種直前までエンバクを作付けることでアーバスキュラー菌根菌感染率の向上が顕著になった. これはトウモロコシ播種直前の宿主作物(エンバク)の栽培が重要な役割を担っていることを示しており, その要因の一つとしてアーバスキュラー菌根菌の外生菌糸ネットワークの保護が関与している可能性が考えられた. 以上のことから温暖地においてアーバスキュラー菌根菌の密度が減少した圃場では, 夏作のトウモロコシを不耕起栽培する際に播種前に宿主作物を作付けることで生育が改善される可能性が認められた.
著者
小田 正人 宝川 靖和
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.80, no.4, pp.457-461, 2011 (Released:2011-11-02)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

埼玉県富士見市に,無施肥栽培を継続し,地上部作物残渣を全て持ち出しながら標準的な出荷量を実現している圃場がある.圃場の土質は典型的な関東ロームで,作土pHは5.5,NO3—Nは検出域以下,可給態Pは17 mg L-1(一般圃場並),Kは検出域以下であった.この圃場で栽培されるトマトの吸収窒素の由来を,その安定同位体自然存在比(δ15N 値)を使って推定することを試みた.無施肥栽培の対照とした隣接慣行栽培圃場は年一作で,化成肥料(100 g N m-2),堆肥(45 g N m-2)が全量元肥で施用されており, 肥料のδ15N値は各々—1.7,+9.3‰であった.土壌のδ15N値は,無施肥栽培が上層(0—20 cm)で+7.1‰,下層(20—35 cm)で+7.2‰,慣行栽培が上層で+8.9‰,下層で+7.5‰であったのに対し,トマト葉身のそれは,無施肥栽培(+3.2±0.4‰),慣行栽培(+3.0±1.0‰)ともに+3‰程度と,いずれも土壌と比較して低い値であった.慣行圃場ではこれをδ15N値の低い化学肥料の吸収による希釈として説明できるが,無施肥圃場では人為的投入物はなく,またδ15N値の相対的に高い土壌窒素の吸収からも説明できない.この無施肥栽培圃場で得られた結果は,大気窒素の固定など,相対的にδ15N値の低い窒素の流入が系外から相当量あった可能性を示唆しており,本圃場ではそれにより標準的な出荷量が実現している可能性がある.
著者
大川 泰一郎 石原 邦
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.419-425, 1992-09-05 (Released:2008-02-14)
被引用文献数
69 100

国内外22品種の水稲を用いて, 圃場条件下における耐倒伏性の品種間差異を検討した. わが国の長稈品種は倒伏しやすく, 国外の品種に比べていずれも稈基部の挫折強度を表す葉鞘付挫折時モーメントが著しく小さかった. 収穫期まで倒伏しなかった長稈品種および短稈品種は, 登熟期間を通じて倒伏指数の増加程度が小さかった. このことには, 地上部モーメントは大きいのに葉鞘付挫折時モーメントが高く維持されていることが関係しており, 葉鞘付挫折時モーメントは耐倒伏性と密接に関与する性質で, 品種によって大きく異なることがわかった. 葉鞘付挫折時モーメントが異なる要因を検討した結果, 葉鞘付挫折時モーメントの小さいわが国の品種はいずれも葉鞘補強度が小さく, 稈の挫折時モーメントも小さかった. 一方, 葉鞘付挫折時モーメントの大きい台中189号, 台農67号のような長稈品種は, 葉鞘補強度が大きく, 断面係数および曲げ応力がともに大きいことによって稈の挫折時モーメントが大きかった. また, 葉鞘付挫折時モーメントの大きい短稈品種には葉鞘の老化が遅く葉鞘補強度が49%と高いアケノホシ, 稈の断面係数が著しく大きいことによって稈の挫折時モーメントが大きい密陽23号のような品種があった. 本研究の結果, 葉鞘補強度, 断面係数および曲げ応力を大きくし稈の挫折時モーメントを大きくすることによって, 長稈穂重型品種に強稈性を付与することが可能であることがわかった.
著者
小林 徹也 宮崎 彰 松澤 篤史 黒木 美一 島村 智子 吉田 徹志 山本 由徳
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.79, no.1, pp.10-15, 2010 (Released:2010-02-12)
参考文献数
8
被引用文献数
3 1

ウコンおよびハルウコンの根茎におけるクルクミンの蓄積経過を調査した.ウコンにおいてクルクミン含有率は種イモで最も高く,次に2次分岐根茎,1次分岐根茎,主根茎,3次分岐根茎であり,地上部および根にはほとんど含まれていなかった.ウコンおよびハルウコンを5月に植付けると,種イモの乾物重は7月にかけて減少し,1次分岐根茎重は9月から11月にかけて急激に増加した.特にハルウコンでは9月から10月の生育中期に,ウコンでは生育中期(2006年)または10月から11月の生育後期(2007年)に根茎生長が最も盛んであった.ウコンにおいて種イモのクルクミン含有率は乾物重の減少に伴い増加し,1次分岐根茎より高濃度となった.1次分岐根茎のクルクミン含有率は9月から10月の根茎形成直後に増加したが,10月から11月の根茎肥大期にほとんど増加しないかやや減少した.一方,ハルウコンのクルクミン含有率は種イモにおいて5月から11月まで緩やかに増加したが,1次分岐根茎において9月から10月の根茎形成直後に有意に減少した.このようなクルクミン含有率の減少の結果,成熟期のクルクミン含有量(含有率×乾物重)はウコンに比べハルウコンで有意に低くなった.株当たりのクルクミン含有量は根茎収量の増加に伴い増加し,クルクミン含有量の増加のためには根茎収量の増加が重要であることが示唆された.貯蔵期間中のクルクミン含有率はウコンおよびハルウコンともほとんど変化しなかった.
著者
妹尾 拓司 橋本 晋輔 三ツ井 奨一朗 山本 涼平 猪谷 富雄
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.90, no.2, pp.182-193, 2021-04-05 (Released:2021-05-20)
参考文献数
52

葉色が緑色でないイネ(葉色変異稲)は,観賞用イネとして水田アートやドライフラワーなどに用いられる.中でも植物体が紫色に見える品種を紫稲,黄色に見える品種を黄稲という.紫稲および黄稲の利用に際して,その品種特性の解明と安定した色素発現が重要になる.紫稲の着色はアントシアニンによるもので,その生合成は他の作物の場合と同様に栽培時の光質・光量の影響を強く受けると考えられるが報告は少ない.本研究では,紫稲9品種および黄稲2品種の計11品種を対象に,水田での栽培のほか,UVカットフィルムや黒色寒冷紗などの被覆資材を用いて植物体に対する光量・光質を変化させたポット栽培を行い,色彩色差計を用いた葉身の色調とアントシアニン含量を測定した.実験の結果,紫稲の品種は出穂期や稈長の変異が大きく,アントシアニン含量は10倍以上の違いが認められ,その含量によって色調も赤から緑へと段階的に変化した.紫稲は,UVカットフィルムの被覆処理区でアントシアニン含量の減少が大きく,アントシアニン生合成には390 nm以下の光質が特に重要であることが示された.黄稲の2品種の色調は黄色と黄緑色を示し,また被覆処理区の色調はすべて緑に近づいた.とくに黒色寒冷紗でその傾向が強かったことから,黄稲の着色には光量が重要であると考えられた.また,年次と栽培地を変更して紫稲・黄稲など5品種を栽培し,3種類の非破壊測定器を適用して,葉身の色彩色差値,葉緑素含量(SPAD値),アントシアニン含量(ACI値)の測定値から,その違いを明確にした.
著者
福嶌 陽 太田 久稔 梶 亮太 津田 直人
出版者
日本作物学会
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.84, no.4, pp.439-444, 2015 (Released:2015-10-29)
参考文献数
7
被引用文献数
2 4

東北地域の飼料用水稲品種においては,育苗の際に種子の発芽・出芽が不良となることが問題となっている.その原因を解明することを目的として,飼料用を含む20の水稲品種・系統を用いて,温湯消毒および低温浸種が発芽に及ぼす影響を調査した.60℃・30分の長期間の温湯消毒によって,発芽率は低下した.その低下程度は,主食用品種よりも飼料用品種,糯品種,インド型品種で大きかった.東北地域の主な飼料用品種の中では,「べこごのみ」,「べこあおば」,「いわいだわら」,「うしゆたか」,「夢あおば」で発芽率が特に低下した.また,穂発芽状態の種子は,温湯消毒によって発芽率が顕著に低下したことから,穂発芽性が“易”の飼料用品種は,種子が穂発芽状態にあり,温湯消毒によって発芽率が低下する危険性があると推察された.12℃の低温および5℃の極低温の浸種試験においては,東北地域の主要な飼料用品種の中で「べこごのみ」,「べこあおば」,「いわいだわら」が5℃の極低温によって発芽率が低下した.以上の結果から,東北地域の飼料用水稲品種の一部においては,長時間の温湯消毒や極低温の浸種によって,発芽率が低下する危険性があると推察された.
著者
佐藤 暁子 末永 一博 高田 寛之 川口 數美
出版者
CROP SCIENCE SOCIETY OF JAPAN
雑誌
日本作物学会紀事 (ISSN:00111848)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.97-104, 1988-03-05 (Released:2008-02-14)
参考文献数
15
被引用文献数
3 3

関東東海地域の4種類の畑土壌で, 2ヵ年, 同一施肥量でコムギ7品種を栽培し, 土壌の種類とコムギの生育・収量との関係を検討した. 生育は, 灰色低地土で最も旺盛であり, 赤色土では初期の茎数増は旺盛であったが, 1月下旬頃から茎数増が停滞し, 葉色が淡くなり始めた. 厚層多腐植黒ボク土と淡色黒ボク土では生育初期から茎数の増加が少なく, 葉数の増加も遅れた. 冬~春先の幼穂・稈の伸長は, 赤色土で早く, 厚層多腐植黒ボク土と淡色黒ボク土では遅かった. 平均収量は, 灰色低地土で649 g/m2と高く, 他の3土壌では500 g/m2以下だった. 赤色土では, 有効茎歩合の低下からくる穂数の不足と一穂粒重の低下, 厚層多腐植黒ボク土と淡色黒ボク土では最高茎数の不足からくる穂数の不足が低収の主な原因だった. 土壌の違いによるコムギの生育及び収量成立経過の差異は, 肥沃度との関係から赤色土では生育途中からの窒素の不足, 厚層多腐植黒ボク土と淡色黒ボク土では, 生育初期からのリン酸の不足からきていると考えられた. また冬~春先の幼穂・稈の伸長程度には, 冬期の地温の土壌間差も影響を与えていると考えられた. 土壌の種類によって多収の得られる品種が異なった. 肥沃な灰色低地土では, 有効茎歩合が50%前後で穂数を確保し, 穂数が多くても倒伏が少なく千粒重・一穂粒重を大きく低下させないアサカゼコムギが収量が高かった. 黒ボク土では, 茎数の増加が旺盛で穂数を確保した農林64号が収量が高かった. また, 赤色土では有意な品種間差が認められなかった.