著者
中谷 丈史 石丸 優 飯田 生穂 古田 裕三
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.17-23, 2008 (Released:2008-01-28)
参考文献数
12
被引用文献数
8 9

木材に対する数種の有機液体の吸着に及ぼすリグニンの寄与について検討を行った。有機液体には分子寸法の異なる3種のアルコール類および前報でリグニンに対して高い親和性が示唆されたDMSOを用い,吸着媒には木粉から段階的な脱リグニン処理を施した乾燥および膨潤状態の試料を用いた。得られた主な結果は以下の通りである。(1)前報1)で示唆された乾燥リグニン中に多く存在する空隙あるいは水素結合の比較的ルーズな吸着サイトはエタノール程度の大きさの液体分子にアクセシブルであることが明らかとなった。(2)DMSOのリグニンに対する親和性は乾燥試料だけでなく膨潤試料でも高いことが明らかとなった。(3)リグニンがセルロースやヘミセルロースの膨潤を抑制させていることが示唆された。
著者
中村 晋平 二村 伸一 前野 和也 葭谷 耕三 棚橋 光彦
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.178-185, 2011-05-25 (Released:2011-05-28)
参考文献数
12
被引用文献数
2

木材の3次元成形技術は国産針葉樹材の利用拡大および,プラスチック代替資源としての木材利用に大きく寄与できる可能性を持つ技術の一つである。しかし,これまでに原料として用いられて来た半固定材はR方向に圧縮を加えた柾目材のみであり,木目の美しさ等を最大限に生かすことが出来なかった。本研究では,2段階の圧縮工程を経ることにより陥入を生じることなくT方向へ木材を圧縮することを実現し,湿潤条件下において100%程度の伸び率を有する板目材を得ることに成功した。また,まさ目材および板目材の半固定材を成形し,これらを原料として木材単板からのスピーカーコーンの成形を試みた。0.4 mm厚および0.5 mm厚の柾目材を用いた場合80%程度の成形成功率を示し,板目材を用いた場合でも50%程度の成功率を示した。音圧周波数特性の測定の結果,これらが市販ウッドコーンに匹敵する音響特性を有することが示された。
著者
杉山 真樹
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.148-153, 2015-05-25 (Released:2015-06-01)
参考文献数
28

「木材の良さ」に関するこれまでの研究をアプローチ方法で分類すると,1)木材の良さを木材の物理・化学的特性から説明,2)木材が人間の心理面に与える影響をアンケートや行動観察等の間接的手法で評価,3)木材が人間に与える影響を人間の生理指標から直接的に評価,の3つに分けられる。現在,社会的要請の最も大きい研究分野は3)であるが,中長期的には2)を事例研究からより科学的普遍性のある疫学的研究に発展させることが必要であると考える。また,この分野の研究推進は急務であるが,同時に成果情報の社会への発信を強化することが重要である。
著者
雉子谷 佳男 高田 克彦 伊藤 哲 小川 雅子 永峰 正教 久保田 要 坪村 美代子 北原 龍士
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.340-349, 2011-11-25 (Released:2011-11-28)
参考文献数
21
被引用文献数
6 6

日本における造林樹種としてのslash pineの有用性を探ることを目的に,南九州で生育した46年生slash pineについて年輪形成と木材材質を明らかにした。slash pineは,スギやヒノキに比べて晩材形成期間においてより活発に細胞分裂をおこなうことがわかった。容積密度数および曲げ性能は,北米産slash pine材とほぼ同じであった。ミクロフィブリル傾角および晩材仮道管長さでは,胸高直径の大きなslash pineにおいて,未成熟材から成熟材への移行がより早い時期におこり,成熟材部での変動が小さかった。日本におけるslash pineでの木材生産は,スギに比べてより効率的に力学的な性質の優れた木材を安定して生産できると考えた。
著者
渋井 宏美 佐野 雄三
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.68, no.3, pp.107-116, 2022-07-25 (Released:2022-07-30)
参考文献数
30
被引用文献数
1

軟X線写真法は,木材の密度プロファイルの取得をはじめとして,木材科学および関連分野において広く用いられてきた。しかし,樹皮の構造解析には汎用されてはいない。そこで,北海道産12樹種の樹皮組織の軟X線写真撮影を行い,樹種ごとの特徴を調べた。高コントラストの軟X線透過像が得られた。各樹種の濃淡パターンは,樹皮の解剖学的な特徴とともに,カルシウム(Ca)結晶の偏在を反映していることが明らかになった。この結果から,軟X線写真法は植物全般に普遍的に存在するCa結晶の樹皮組織における集積場所を可視化するのに有効であると言える。光学顕微鏡観察では,同一の樹皮組織内に複数の形態タイプのCa結晶が存在する場合でも,厚壁組織にはもっぱら菱形結晶が随伴することが明らかであった。菱形結晶は,他のタイプのCa結晶とは機能が異なり,厚壁組織の力学的な機能を補強する役割をもつことが示唆される。
著者
西宮 康治朗 照屋 武志 羽地 龍志 谷口 真吾
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.43-52, 2022

<p>沖縄の伝統楽器である三線は棹が重要であると古くから言われているが,棹材として用いられる木材の科学的調査はあまり行われていない。さらに,近年これら木材の数が激減し,代用樹種を探す必要性も増している。楽器としての棹材の性能を工学的に評価する事で適正な材料選定が可能になると共に代用樹種の選定にも役立つ。本研究では棹材としてリュウキュウコクタン (<i>Diosphyrosferrea</i>) とイスノキ (<i>Distylium racemosum</i>),代用樹種の候補の一つとしてモクマオウ (<i>Casuarina equisetifolia</i>) の計3種について両端自由たわみ振動法を用いて動的ヤング率や対数減衰率を求めた。また,これらの材を用いて実際に三線の棹を製作し音色の評価も行った。その結果,特に減衰率において定性的に結果が一致した。これは原木状態での適切な棹材の選定指標の可能性を示している。また,代用樹種の候補であるモクマオウに関して,三線の棹材として利用できる可能性も示された。</p>
著者
中谷 丈史 石丸 優 飯田 生穂 古田 裕三
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.52, no.5, pp.285-292, 2006 (Released:2006-09-28)
参考文献数
18
被引用文献数
6 7

木材の主要3構成成分に対する各種有機液体の親和性について新たな知見を得ることを目的として,木材パルプ,ホロセルロースおよび木粉の乾燥および膨潤試料について,6種類の有機液体すなわちメタノール,エタノール,酢酸メチル,酢酸エチル,アセトンおよびジメチルスルホキシドの希薄ベンゼン溶液からの吸着性を比較して検討した。その結果,供試液体の中で,エタノール,ジメチルスルホキシドは乾燥リグニンに対して強い親和性を示した。また,乾燥試料と膨潤試料の吸着性の比較から,乾燥リグニンには乾燥セルロースやヘミセルロースと比較して,吸着サイトの新生にあまり大きなエネルギーを必要とせずに液体分子が近接できる吸着サイトがより多く存在していること,分子容の小さなメタノールの吸着には,乾燥リグニンだけでなく,セルロース,ヘミセルロースにおいても,吸着サイトの新生にあまりエネルギーを必要とせずに近接可能なサイトが存在していることが示唆された。
著者
鈴木 養樹 黒田 克史 高野 勉 張 春花 鈴木 敏和 高田 真志
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.9-15, 2014

2011年3月の福島第一原子力発電所爆発事故による放射性物質放出からすでに2年経過したが,福島県内の多くの森林域では,まだ林業施業従事者の作業は制限されている。本研究では,簡易的な森林管理手段として市販のサーベイメータによる樹木内部放射能濃度の推定手法の開発を試みた。検出限界向上のため,遮蔽容器付きGM管サーベイメータを用いて個々の樹木表面汚染密度を測定した。測定後に,伐倒した樹木を樹皮,辺材,心材に分けて粉砕,乾燥した後,Ge半導体検出器によるγ線スペクトロメトリー法でそれぞれの放射能濃度を測定した。両測定値の関係を調べた結果,調査に用いた全ての樹種において,それぞれの部位の放射能濃度(<i>y</i>)と表面汚染密度(<i>x</i>)との関係を関数(<i>y</i>=A<i>x</i><sup>B</sup>)で表すことができた。従って,樹木の表面汚染密度による樹木内部の放射能濃度の簡易推定は可能であると考えられる。
著者
沼田 淳紀 吉田 雅穂 濱田 政則
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.55, no.5, pp.305-315, 2009-09-25 (Released:2009-09-28)
参考文献数
74
被引用文献数
2 3

温室効果ガス削減の一方策として,木材利用を拡大するとともに木材を長期利用することが考えられる。このために建築の分野では,耐久性の長い住宅建設の取り組みなどが既に行われている。一方,土木の分野では,本体工事に木材を使うことはほぼ皆無となってしまった。著者らは,地盤の液状化対策として木材を地中に打設することを考えている。本論文では,この内,木材を利用する上で大きな誤解が持たれている木材の耐久性について検討を行った。まず,代表的な設計書に示される木杭基礎の変遷を示し,現在ではこれらの設計書から木杭の記載が姿を消したことを示す。次に,木材の腐朽に関する文献調査結果から,地中における木材の耐久性について示す。さらに,1964年新潟地震の事例より,木杭が液状化対策として用いられた事例を示し,最後にそれによる炭素貯蔵効果を示す。
著者
渡辺 隆司
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.1-13, 2007 (Released:2007-01-31)
参考文献数
92
被引用文献数
13 9

バイオリファイナリーとは,バイオマスから燃料,エネルギー源,化学品を化学産業,エネルギー産業として体系的に生産することであり,20世紀に発達した石油化学工業を,根本的に変える新しいコンセプトである。原料となるバイオマスは,植物の光合成による二酸化炭素の固定化によって作られるため,地球温暖化と資源枯渇問題の切り札になると期待されている。近年,バイオマス由来のエタノールやその他の有用化学品の生産に関する研究が急展開しており,米国エネルギー省(DOE)ではバイオリファイナリーの核となる基幹化合物(プラットフォーム化学品)を12種選定し,新しい化学産業の創成に向けた研究開発が活発に行われている。ここでは,バイオリファイナリーのプラットフォーム創成に向けた動きと,リグノセルロース変換のための白色腐朽菌を利用した生物的前処理法を紹介する。
著者
清水 邦義 吉村 友里 中川 敏法 松本 清 鷲岡 ゆき 羽賀 栄理子 本傳 晃義 中島 大輔 西條 裕美 藤田 弘毅 渡邉 雄一郎 岡本 元一 井上 伸史 安成 信次 永野 純 山田 祐樹 岡本 剛 大貫 宏一郎 石川 洋哉 藤本 登留
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.63, no.3, pp.126-130, 2017-05-25 (Released:2017-06-01)
参考文献数
4
被引用文献数
3 2

木材を用いた家の価値が見直されている中で,木材から放散される揮発性成分の機能性が注目されている。季節ごとの温度や湿度の変化の大きい我が国においては,木材から放出される揮発性成分も大きく変化していると考えられる。本研究では,スギ(Cryptomeria japonica)の無垢材を内装に用いた建物(A棟)と,表面に塗装を施された内装材またはビニールクロスで覆われた内装材を用いた建物(B棟)の室内において,年間を通して揮発性成分を定期的に捕集し,ガスクロマトグラフ質量分析計(GC/MS)分析による比較を行った。その結果,木材の揮発性成分の大半を占めるセスキテルペン類の量は,どちらの棟においても冬季より夏季で高く,年間を通してB棟よりもA棟の方が常に高いことが明らかになった。
著者
石栗 太 榮澤 純二 齊藤 康乃 飯塚 和也 横田 信三 吉澤 伸夫
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.52, no.6, pp.383-388, 2006 (Released:2006-11-28)
参考文献数
14
被引用文献数
4 4

小径丸太の土木資材への有効利用のために,異なる樹齢と地上高から採取された同程度の直径を持つヒノキ材の木材性質(丸太の気乾密度,ピロディン打込み深さ,年輪幅,容積密度及び縦圧縮強さ)を調べた。試料には,16年生林分の間伐材の地上高1.2 m部位から採取した丸太と64年生林分の主伐時に発生した地上高約18 m以上の林地残材から採取した丸太を使用した。16年生の丸太は,64年生の丸太の約 1/2 の年輪数から構成されていた。容積密度の平均値は,16年生と64年生でそれぞれ,0.39及び0.51 g/cm3 を示し,64年生の方が高い値を示した。16年生及び64年生ともに,ピロディン打込み深さと辺縁部の容積密度との間に負の相関関係が認められた。縦圧縮強さは,いずれの部位においても,16年生の試料と比較して64年生の試料の方が大きい値を示した。これらの結果から,強度が要求される土木資材等への利用にあたっては,同程度の直径であっても,樹齢や採取位置が異なると強度特性が大きく異なることに留意する必要がある。
著者
寺嶋 芳江 渡辺 智子 鈴木 亜夕帆 白坂 憲章 寺下 隆夫
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.170-175, 2009

シイタケ培地へトレハロースを0.5,1,2,3,4%添加して栽培し,子実体の収量,トレハロース含有量,鮮度保持,食味への影響を試験した。その結果,収量には有意差のある変化を生じなかったが,0.5,1,2,3%添加培地から1回目に発生したMサイズ以上の子実体の個数割合が多くなった。無添加に比べて,2,3,4%添加培地からの子実体のトレハロース含有量は3回目までのいずれの発生回でも多くなった。鮮度については,2%添加ではいずれの発生回でも高い保持効果が認められ,特に4%添加では1回目に有意に高かった。官能検査では,2%と3%添加の場合に摂取時の「香り」,「食感」,「味」と「総合評価」が比較的高かった。
著者
澁谷 栄 山内 繁 桐越 和子 谷田貝 光克
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.64, no.1, pp.17-27, 2018-01-25 (Released:2018-01-28)
参考文献数
33
被引用文献数
1

木酢液類の消臭剤としての機序を検討するため,中和した木酢液類を用いて消臭試験を行い,原液との比較から悪臭原因物質の削減効果を化学的に考察した。本研究ではナラ,ウバメガシ,モウソウチクから得られる3種類の木酢液類(順に黒炭木酢液,白炭木酢液,竹酢液と呼ぶ)を水酸化ナトリウムで中和して用いた。代表的な5つの悪臭原因化合物を対象として消臭試験を行った。アンモニアに対する消臭効果は,原液よりは低くなるが,いずれの中和木酢液類でも明確に確認された。トリメチルアミンでも同様に各中和木酢液類で消臭効果が確認されたが,白炭木酢液では効果の低下が著しかった。硫化水素ではいずれの木酢液類についても,メチルメルカプタンでは黒炭木酢液と竹酢液で,中和により消臭効果の増加が認められた。また,中和によって,木酢液類から放散するアセトアルデヒドの量が大幅に抑制されることが示された。
著者
錢谷 菜々未 小幡谷 英一 松尾 美幸
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.250-258, 2016-11-25 (Released:2016-11-29)
参考文献数
51

長期にわたる経年により,木材の音響特性や安定性が向上すると言われている。しかし最近になって,それらの変化の一部が,高湿度での吸湿履歴によって解消するような一時的な変化であることが明らかとなった。類似の一時的な現象は,木材を水分存在下で加熱した場合にも認められる。これらの一時的な変化は,木材構成分子の物理エージングに伴う一時的な細孔の閉鎖に起因すると推察される。木製の古楽器や古文化財を保存する際には,経年によって変化した物性が吸湿に伴って回復することを考慮しなければならない。また,熱処理材の実用性能を正確に評価するためには,加熱によって生じる一時的な変化を除外しなければならない。本論文では,木工芸品や木製楽器の品質に関わる木材物性の経年や熱処理に伴う可逆的および不可逆的な変化について概説する。
著者
一宮 孝至 大住 政寛 小林 靖尚 長坂 健司 井上 雅文
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.14-19, 2021-01-25 (Released:2021-01-30)
参考文献数
17

特別養護老人ホームとして使用される延床面積1977.75m2の鉄筋コンクリート造建築,および,同等の規模と機能で設計した木造建築について,材料製造,輸送,建設,解体における温室効果ガス (GHG) 排出量をライフサイクルアセスメントによって算出した。GHG排出量は, 木造建築で592.3 t-CO2eq,鉄筋コンクリート造建築で1155.6 t-CO2eqとなり,木造建築の優位性が示された。木造建築において準耐火構造を耐火構造に変更するとGHG排出量は6.5%増加し,基礎構造を杭基礎に変更するとGHG排出量は8.4%増加するが,木造建築の優位性はそれらの変更後も保たれた。重量カバー率とGHG排出量の関係を検討したところ,軽量な部材であっても原単位の大きな部材の影響が大きいことが確認された。
著者
塔村 真一郎
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.62, no.2, pp.27-41, 2016
被引用文献数
3

近年の大規模木造建築物には,大断面の構造用集成材やCross-Laminated Timber(CLT)のような構造用木質材料の使用が不可欠である。構造用木質材料の強度性能を設計通り発揮させるためには,接着が適正に行われていることが前提となり,使用する接着剤も耐久性への信頼が高いものに限られる。構造用木材接着剤としては,長い間レゾルシノール系樹脂接着剤などが使われてきたが,近年水性高分子-イソシアネート系接着剤や,最近欧米では1液ポリウレタン接着剤も使われ始めている。これらイソシアネート基の反応をベースとした接着剤は,レゾルシノール系接着剤とは化学構造や物性が異なる。したがって,構造用木材接着剤の要求性能や評価法について再検討する必要があり,規格も各国で整備されつつある。そこで本稿では,現行の構造用木材接着剤に要求される接着性能に関する規格とその評価法について概説する。
著者
須藤 竜大朗 河原 大 落合 陽 青木 謙治 稲山 正弘
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.128-139, 2020-07-25 (Released:2020-07-30)
参考文献数
14

釘接合部の耐力の推定式にはヨーロッパ型降伏理論(EYT)によるものと,釘の頭部径をパラメータにしたものがある。また降伏後の荷重の上昇について理論的に考察した例は少ない。本報ではMDFの釘接合部を対象に,降伏耐力と最大耐力の推定を試みた。釘頭がMDFに回転しながらめり込むことで発生するモーメントを考慮したEYT式を降伏耐力の推定に用いた。またロープ効果を考慮したビス接合部の最大耐力の推定式を本研究に適用した。その結果釘頭の回転めり込みモーメントを考慮しEYT式を改良することで推定精度の向上がみられた。またビス接合部の設計式でも釘接合部のロープ効果を推定できる可能性が示された。一方釘の塑性ヒンジより先の支圧耐力が降伏耐力の推定値と実験値の誤差へ影響している可能性が示唆された。また最大耐力時の釘引抜耐力を実際より低く,釘頭貫通力を実際より高く推定している可能性も見受けられた。
著者
重藤 潤 堤 祐司
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.62, no.4, pp.91-100, 2016-07-25 (Released:2016-08-05)
参考文献数
54

植物ペルオキシダーゼは,大きな遺伝子ファミリーを形成しており,大部分が細胞壁に局在することが知られている。しかし,細胞壁におけるそれらの機能については不明な点が多い。植物ペルオキシダーゼの中にはフェノール類に対する酸化酵素としてだけでなく,活性酸素種の発生源としても機能するものが存在する。さらに近年の生化学的な研究によって,木化に関与する植物ペルオキシダーゼのもつ特徴的な基質酸化能力が明らかとなった。したがって,植物ペルオキシダーゼは反応特性の面でもそれぞれ差別化されており,相応の役割を細胞壁で果たしていると考えられる。
著者
中田 了五
出版者
一般社団法人 日本木材学会
雑誌
木材学会誌 (ISSN:00214795)
巻号頁・発行日
vol.60, no.2, pp.63-79, 2014
被引用文献数
3

日本を代表する林業樹種であるスギとトドマツでは,心材に水分が集積する現象であるwetwood(高含水率心材・水食い材)がしばしば出現することが木材利用上の欠点となっている。Wetwoodは上記2樹種に特有なものではなく多くの樹種に認められ,wetwoodの出現する頻度は種または属の特徴とできる。本稿では,wetwoodとはどのような現象で,いかに定義するべきかについて議論する。また,wetwoodの記述に必要であり,手法が容易であるにも関わらず実はあまりよく調べられていない重要な木材の性質である木材の生材含水率についてやや詳細に述べる。