著者
渡辺 研太郎 佐々木 洋 福地 光男
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.103-114, 1993-03

平成3年度から3年計画で, 「南極海海洋環境変動と生物過程の研究」との研究課題の下にオーストラリアと共同観測が始められた。初年度はプリッツ湾を主とした海氷域および沿岸観測基地周辺における生物生産過程の解明を研究テーマとし, H. MARCHANT博士(オーストラリア南極局)との共同研究"The production and fate of biogenic particles in the Antarctic marine ecosystem"をオーストラリア南極観測船, オーロラ・オーストラリス(RSV AURORA AUSTRALIS)の第6航海(1992年1月9日から3月27日)で行った。本研究の目的は, (1)係留実験により, プリッツ湾海氷域での低次生産およびその生産物の沈降過程の経時変化を年間を通して観測し, (2)低次生産者群集を構成する各種群の寄与を調べることである。そのため, プリッツ湾海域に時間分画式セディメントトラップおよび現場クロロフィル記録計, 海流計を係留し, かつ採水, プランクトンネットによる採集, 培養実験を実施した。また, 南大洋における優占的な一次捕食者, ナンキョクオキアミの摂餌選択性に関する電気生理学的実験を行った。
著者
工藤 栄 伊倉 千絵 高橋 晃周 西川 淳 石川 輝 鷲山 直樹 平譯 亨 小達 恒夫 渡辺 研太郎 福地 光男
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.279-296, 2002-03

第39次および第40次日本南極地域観測隊夏期行動期間中(それぞれ1997年12月4日∿12月13日及び, 1998年2月15日∿3月19日と1998年12月3日∿12月20日及び1999年2月24日∿3月19日), 南大洋インド洋区で南極観測船「しらせ」の航路に沿って表層海水をポンプ連続揚水し, プランクトンネットで3∿8時間濾過して動物プランクトン試料を得た。動物プランクトンの湿重量測定を行い, 航路に沿って現存量を整理した。連続試料採取したにもかかわらず, 隣接した試料間においても現存量の変動は大きく, 動物プランクトンの不均一分布が伺えた。動物プランクトン現存量は「しらせ」南下時に顕著に認められる海洋前線通過時にしばしばきわだって大きくなり, その前後の海域で得られた値との格差は際立っていた。これら海洋前線では水温・塩分変動が大きく, 南大洋インド洋海区を四つの海域(亜熱帯海域, 亜南極海域, 極前線海域, 南極海域)に区切っている。2回の航海で得た現存量の平均値を比較したところ, 高緯度海域ほど平均値が大きくなる傾向があり, 南極海域で最大となった。南極海域の内でもプリッツ湾沖から東方にかけての海域(東経70-110°)で現存量が大きく, これまでの停船観測結果で推察されていた同海域の生物生産性が高いことに呼応する現象と考えられた。また, リュツォ・ホルム湾沖からアムンゼン湾沖の大陸近くの航行時に得られた現存量は, より沖合部を航行する東経110-150°間に得られた値よりも1/2程小さなものであり, さらに, 東経110°以東において大陸沿岸よりを航行したJARE-39とやや沖合いを航行したJARE-40で得られたデータ間でも前者の現存量が小さく, これらから南極海域では表層水中の動物プランクトン量が生物生産期間がより短くなると考えられる沿岸部ほど小さいことが推察された。今回表層水中で連続試料採取して得られた動物プランクトン湿重量値は, 過去四半世紀間に停船観測において同海域で主にプランクトンネット採集によって得られた値と大きくは異なってはいなかった。動物プランクトン分布の正確な測定のためには動物プランクトンの鉛直分布特性など考慮する必要があるが, 海域ごとの空間分布特性や海域内での変動性などの研究には今回のようなポンプ揚水による試料採集でも適用可能な部分が多く, その研究実施方法の容易さを考慮すると今後の長期的な動物プランクトンモニタリングなどに適した手法と思われた。
著者
半貫 敏夫 岸 明 平山 善吉 佐野 雅史 Toshio Hannuki Akira Kishi Zenkichi Hirayama Masashi Sano
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2A, pp.456-472, 2002-09

昭和基地で約29年間、居住施設として使われてきた木質プレハブ建築システムを日本に持ち帰り、その耐久性を調査した。先ず、持ち帰った部品を用いて基礎を除く鉄骨架台から上の建物部分を組み立てて復元し、建物全体の劣化状況を観察した。復元工事は5日間、延べ22人の労働力によって完成した。工事は建築専門職人によって行われたが、短期間の人力作業という条件で設計された建築システムの優れた性能が証明された。それぞれの部品はまだ数回の組み立て、解体に耐えられる性能を維持していると判断された。 復元建物の耐久性目視調査の結果、部分的に補修を要する個所もあったが、建物全体としては、まだ設計条件をクリアする性能を維持していることが分かった。パネル外装のめっき鋼板は防火が目的であったが、木質パネルの保護層として有効に作用し、合板の劣化を遅らせた。防水設計を改良すればさらに建物全体の耐久性を増すことが可能である。
著者
半貫 敏夫 高橋 弘樹 石鍋 雄一郎 佐野 雅史 平山 善吉 Toshio Hannuki Hiroki Takahashi Yuichiro Ishinabe Masashi Sano Zenkichi Hirayama
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2A, pp.490-503, 2002-09

南極昭和基地で約29年間使われてきた居住棟の主要構造部品、屋根、壁、床の各木質パネルの耐久性を評価するための曲げ強度試験を行った。その結果外気に接するパネルの構成材に部分的劣化が認められ、それが構造強度に影響していることが確かめられた。パネルの強度は総体的に落ちているとはいえ、設計強度はまだ十分に維持しており、南極で安全に使用できる構造性能を保っていることが確かめられた。 実験結果を整理すると、南極のような極限環境にある木質サンドイッチパネルの耐久性設計では、表面合板の保全が構造上最も重要な課題であることが分かった。
著者
菅沼 悠介 三浦 英樹 奥野 淳一 Yusuke Suganuma Hideki Miura Jun'ichi Okuno
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.56, no.2, pp.85-90, 2012-07-31

宇宙線生成核種を用いた表面露出年代測定法は,地球表層における様々な現象を理解するために非常に重要な年代測定法である.この年代測定法には,年代決定精度が試料形状に依存するという特徴があり,試料採取の際に試料の厚さと形を高精度で測定することが必要となる.しかし,ハンマーやタガネを用いた従来の手法では,このような要求を満たす試料採取は時として困難であった.そこで本研究では,新たに携帯型電動カッターを用いた試料採取手法を提案する.この手法は,迅速かつ精密な試料採取および形状測定を可能とすることから,結果として年代測定精度の向上につながるものである.簡単な理論計算に基づき不完全な試料形状に起因する年代差を求めたところ,試料の採取深度が大きくなるにしたがって年代差が大きくなることが分かり,表面露出年代測定法における精密な試料形状測定の重要性が示された.
著者
松島 健 山下 幹也 安原 達二 堀口 浩 宮町 宏樹 戸田 茂 高田 真秀 渡邉 篤志 渋谷 和雄 Takeshi Matsushima Mikiya Yamashita Tatsuji Yasuhara Koh Horiguchi Hiroki Miyamachi Shigeru Toda Masamitsu Takada Atsushi Watanabe Kazuo Shibuya
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.395-408, 2003-11

南極氷床上のクレバス帯等の,地上からは到達困難な地域での人工地震観測を目的とした投下型地震観測装置(南極ペネトレータ)を開発し,第43次日本南極地域観測隊で実施する東南極みずほ高原における人工地震探査で使用するために,22本のペネトレータを昭和基地に持ち込んだ.しかし,開発の遅れに伴う国内試験の不足から種々の不具合が発生し,今回は本観測での使用をあきらめざるを得なかった.当初の目的は果たすことができなかったが,国内では得られない環境でのペネトレータ投下実験を行い,投下姿勢,着地衝撃力,温度変化等の貴重なデータを得るとともに,南極内陸部での実際のヘリコプター運用への知見を得ることができた.これらの成果はペネトレータ型地震計の改良のみならず,今後の各種投下型観測機器の開発・製作に多いに役に立つものと考えられる.
著者
西尾 文彦 Fumihiko Nishio
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.29-52, 2013-03-29

第43次隊は総勢60名で構成され,このうち夏隊は20名,越冬隊は40名であった.ほかに夏隊同行者として7名が参加した.南極観測船「しらせ」は,2001年11月14日に晴海埠頭を出港,観測隊本隊は11月28日に航空機で成田を出発し,西オーストラリアのフリーマントルで「しらせ」に乗船した.「しらせ」は12月3日に同地を出発し,海洋観測を実施しつつ12月14日に氷縁へ到着した.12月18日に昭和基地第一便が飛び,12月23日に昭和基地に接岸して氷上輸送,その後の本格輸送が開始された.2002年2月12日の最終便までの間に,第43次越冬成立に必要な物資の輸送と越冬隊員の交代を滞りなく完遂した.また,観測隊ヘリコプターは12月23日に「しらせ」から昭和基地へ移動し,その後2002年2月3日まで氷床内陸域も含めた観測支援作業に従事した.人工地震の観測では内陸に雪上車行動を展開したが,適宜ヘリコプターを利用し空路支援した.基地作業では,昭和基地内の多くの地域で土木・建築作業,基地設備の更新などが行われた.なお,夏隊員のうち4 名は専用観測船「タンガロア号」を利用した観測を実施し,国内出発から帰国まで完全に別行動であった.
著者
北村 泰一 小川 徹 Tai-ichi KITAMURA Tohru OGAWA
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.65, pp.75-80, 1979-03

この論文では,昭和基地におけるHFドップラー法によるTIDの観測が提案されている.TIDの中でも,現在その性質や発生源がよくわかっていない中規模TIDに特にねらいをつけ,送受信局の距離を80-300kmに想定し,重力波の方位と分散を測定して,その発生源の位置を推定し,また,電離層高度における中性大気の温度を評価するのがその主な目的である.具体的な場所を提案し,その費用の概略も算出されている.
著者
坂 翁介 飯島 哲二 糸長 雅弘 石津 美津雄 北村 泰一 Ousuke SAKA Tetsuji IIJIMA Masahiro ITONAGA Mitsuo ISHIZU Taiichi KITAMURA
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.68, pp.311-319, 1980-02

低緯度(ASO:地磁気緯度22°N)におけるPi 2,PC 4型の地磁気脈動に対する電離層の影響を調べた.地磁気脈動は超伝導磁力計によって測り,電離層のデータはE層,F2層の臨界周波数の時間平均値を用いた.解析の結果,朝方に起こる電離層臨界周波数の増加を境にして,その前後で脈動の偏波軸の方向およびだ円率にちがいが出ることがわかった.つまり南北に主軸をもつ直線偏波が,電離層の出現ののち,だ円偏波へと変化する.この結果は,低緯度地磁気脈動に対して石層が,重要な役割をはたしていることを示している.その役割についてモデルを作り議論した.
著者
藤原 玄夫 北村 泰一 Motowo FUJIWARA Tai-ichi KITAMURA
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.69, pp.181-190, 1980-03

ライダーによる南極の中層大気圏の探査を提案する.これはYAGレーザーおよびYAGレーザー励起色素レーザーをライダー送信系に用いて,成層圏のエアロゾル,オゾンや中間圏,下部熱圏のアルカリ金属原子,エアロゾル等の微量成分と,大気分子個数密度の高度分布およびその時間的変動を精密に測定しようとするものである.南極のライダー観測は,中層大気圏の組成的,力学的構造のグローバルな理解のためにきわめて重要であり,また,オーロラなどの極域電離圏における電磁気的じょう乱に対する中層大気の応答を調べる上できわめて有意義である.
著者
半貫 敏夫 小石川 正男 平山 善吉 佐野 雅史 佐藤 稔雄 Toshio Hannuki Masao Koishikawa Zenkichi Hirayama Masashi Sano Toshio Sato
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.61-102, 1993-03

昭和基地建設の歴史的経緯をふまえて, 基地建物の現状と計画的な建物更新の必要性およびその概要を述べた。次いで昭和基地に建つ南極観測用建物の設計・製作に関する制約条件を整理し, これまでに昭和基地で試みられてきた極地建築システムについて概観した。国立極地研究所観測協力室の立案による昭和基地整備計画の最初の事業として企画された「管理棟」の基本構想をまとめるまでの経緯と基本設計の概要を紹介し, 建築・防災・構法などの新しい試みについて解説した。また, これからの南極観測用建築のありかたについても言及した。
著者
神沼 克伊 Katsutada KAMINUMA
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.20-28, 1976-07

日本,アメリカ,ニュージーランド3国共同事業として,ドライバレー掘削プロジェクト(DVDP)が1971-1976年の夏のシーズン,アメリカのマクマード基地を中心に行われた.このプロジェクトの一環として, 1974-75, 75-76年のシーズンに微小地震の観測を行った.観測は,マクマード基地北東城のアライバル・ハイツで3週間,オブザベーション・ヒル北方麓で1ヵ月,ドライバレーのティラー谷で10日,バンダ基地で3週間,実施した.マクマード基地は火山島であるロス島の南西端に位置し,活火山エレブスの火口から30km離れている.マクマード基地付近での観測からは,1日に1個程度の頻度で微小地震が発生していることが明らかになった.また大陸にあるドライバレーでの観測では,2日に1個程度の発生頻度であった.この二つの事実からマクマードサウンド周辺の地震活動は,2日に1個程度の割合で微小地震が発生し,火山地域ではそれに重なりさらに同程度の割合で微小地震が起こるものと推定される.For the purpose of observing micro earthquakes around the McMurdo Sound area and volcanic earthquakes around Mt. Erebus on Ross Island, in Antarctica, seismological observations were carried out in the austral summer seasons of 1974-75 and 1975-76, as one of the research programs of the Dry Valley Drilling Project (DVDP) which was carried out by scientists from Japan, New Zealand and the United States. The sites and duration of observations are as follows: 1) Arrival Heights, McMurdo Station (three weeks in 1974-75); 2) Lake Leon, Taylor Valley, one of the dry valleys in Victoria Land (10 days in 1974-75); 3) Northern foot of Observation Hill, McMurdo Station (one month in 1975-76). The micro seismic activity around McMurdo Station obtained from the observations is about one earthquake per day, and that in the Taylor Valley is about 0.5. Background seismicity around the McMurdo Sound area is estimated to be one micro earthquake every two days. In addition to this background seismicity, one earthquake occurs in every two days in the volcanic area around McMurdo Station.
著者
神沼 克伊
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.20-28, 1976-07

日本,アメリカ,ニュージーランド3国共同事業として,ドライバレー掘削プロジェクト(DVDP)が1971-1976年の夏のシーズン,アメリカのマクマード基地を中心に行われた.このプロジェクトの一環として, 1974-75, 75-76年のシーズンに微小地震の観測を行った.観測は,マクマード基地北東城のアライバル・ハイツで3週間,オブザベーション・ヒル北方麓で1ヵ月,ドライバレーのティラー谷で10日,バンダ基地で3週間,実施した.マクマード基地は火山島であるロス島の南西端に位置し,活火山エレブスの火口から30km離れている.マクマード基地付近での観測からは,1日に1個程度の頻度で微小地震が発生していることが明らかになった.また大陸にあるドライバレーでの観測では,2日に1個程度の発生頻度であった.この二つの事実からマクマードサウンド周辺の地震活動は,2日に1個程度の割合で微小地震が発生し,火山地域ではそれに重なりさらに同程度の割合で微小地震が起こるものと推定される.
著者
井上 正鉄 Masakane Inoue
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.35, no.3, pp.271-284, 1991-11

第27次観測隊に参加した筆者によって採集された標本を中心に基準標本等と比較検討した結果, 広義のヘリトリゴケ属地衣類の1新種, 1新組み合わせ種を含む3属5種を認めた。すべて, 昭和基地周辺地域では新産種である。各々について形態・地衣成分・地理分布を記載し, 近縁種との関係を論じた。(1) Carbonea capsulataは亜南極地域に分布する近縁のC. vorticosaと, 子器殻excipulumの菌糸の太さ及び地衣成分の異同で区別できる。本種は大陸性南極の数ヵ所で知られている。本地域では大陸周縁の露岩域に普通にみられる。(2) Lecidea andersoniiは, 北半球に広く分布し南極地域でも数ヵ所から報告されているLecidea auriculataに酷似するが, これとは子嚢下層hypotheciumの着色の有無や胞子サイズで区別できる。本種はウイルクスランドから新種として記載されて以来, 他地域からは報告されていないが, 昭和基地周辺地域では比較的普通にみられる。(3) Lecidea cancriformisは光沢のある褐色の地衣体を有する点で他の種と容易に区別がつく。北半球に広く分布し, 亜南極の数ヵ所にもその生育が知られている近縁のLecidea atrobrunneaとは地衣成分の違い, 地衣体髄層のヨード反応で区別できる。本種は大陸性南極に広く分布し, 昭和基地周辺地域でも普通にみられる。(4) Lecidea soyaensisは子嚢下層下部の髄層がクモの巣状の菌糸で構成され, よく発達した子器殻を有する点, また本種と近縁なLecidea auriculata群にみられない地衣成分スチクチン酸を産する点で新種として区別された。宗谷海岸ラングホブデ産。(5) Lecidella sipleiは側糸と子器殻を構成する菌糸の形状, 及び子嚢頂部の構造からLecidella属のもとに置くのが妥当と考えられる。北半球に広く分布し, 亜南極からもその生育が報告されているLecidella bullataに最も近縁と思われるが, これとは地衣体の形状, 地衣成分の異同で区別できる。本種は大陸性南極のマリーバードランドとビクトリアランドの2ヵ所から報告されているにすぎないが, 昭和基地周辺地域では普通にみられる。
著者
倉沢 一 Hajime KURASAWA
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
no.58, pp.204-234, 1977-03

南極の火山の分布は,後期新生代に関して,いわゆる造山帯の傾向あるいは歴史と同様な特徴をもっている.南極のマリー.バードランドとビクトリアランド地域はアルカリ岩系の岩石区の特徴をもって,さまざまな変化をみせている.南極半島地域の南シェトランド諸島は玄武岩~安山岩の組み合わせで,Na成分に富むとはいうものの,それらの性質からは,アルミナに富む高アルカリソレアイト系列に属すると考えられる.ストロンチウム同位体組成などから,ロス島火山岩類は,大陸に隣接していながら,ホット・スポットという意味をもって,海洋島のそれらによくにた性質をもっているという結論がえられた.同位体地質学的あるいは化学的性質から,南極地域の火山および火山岩類を検討した.
著者
神沼 克伊 高橋 正義
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.75-83, 1975-12

1973年9月,第14次越冬隊により,上下動1成分の地震計を用いた地震観測がみずほ観測拠点で行われた.観測条件の悪い南極の内陸基地での地震観測の試みは南極点基地以外には例が無いと思われる.基地内の人工的雑音などのため十分な観測ができなかったが合計210時間の間の記録をとることに成功し多くの氷震を観測した.その結果,この地域では気温が-35℃以下で,その変化の割合が1時間に-2.5℃以下,または-1℃/hourが数時間続く時には例外なく氷震が発生している.
著者
谷村 篤 岡 信和 川口 創 西川 淳 高橋 邦夫 真壁 竜介 Hosie Graham 小達 恒夫 Atsushi Tanimura Nobukazu Oka So Kawaguchi Jun Nishikawa Kunio T. Takahashi Ryusuke Makabe Graham Hosie Tsuneo Odate
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.1-8, 2008-03

2002年及び2003年の南極海の夏季,東部インド洋区のウイルクスランド沖の東経140度線上において,白鳳丸及びタンガロアによる3回の調査航海によって行われたRMT-8(目合: 4.5mm, 開口面積: 8m3)ネット採集によって得られた標本に基づいて,大型動物プランクトン群集構造を調べた.クラスター解析の結果,大型動物プランクトン群集は,南極周極流の南縁(SB-ACC: Southern Boundary of the Antarctic Circumpolar Current)で大きく二つの群集に分けられた.すなわち,SB-ACCの北方では大型動物プランクトン群集は,Salpa thompsoni, Euphausia frigida及びThemisto gaudichaudiiなどのoceanic communityが卓越していた.一方,SB-ACCの南方ではEuphausia superba及びEuphausia crystallorophiasなど大陸寄りに主分布域をもつ動物プランクトンが卓越していた.SB-ACCは,南極海の上記の主要な大型動物プランクトン種の出現の差によって特徴付けられることが示唆された.
著者
渡邉 研太郎 Kentaro Watanabe
雑誌
南極資料 = Antarctic Record (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.9-54, 2009-03-30

第41次南極地域観測越冬隊(第41次越冬隊)は40名で構成され,全員が昭和基地で越冬し,所期の観測をほぼ実施して2001年3月28日,全員無事帰国した.2000年2月1日,第40次越冬隊より基地運営を引継ぎ,翌2001年2月1日に第42次越冬隊へ引き継ぐまでの間,第V期5カ年計画の4年次にあたる観測・設営活動を実施した.設営活動は,昭和基地整備計画(10カ年計画)の9年次として計画された,夏期隊員宿舎の増設,設備更新を主としたものだった.観測系ではみずほ基地滞在による吹雪観測,航空機による基地上空の大気採集や内陸大気観測等を行い,やまと山脈域での隕石探査では50 kgを超す鉄隕石を含む3554個の隕石を採集した.予想外の出来事としては試験的に持ち込んだ10 kWの風力発電装置が7月初頭の大型ブリザードにより倒壊したほか,12月中旬に発電棟内の燃料タンクから軽油が棟外へ漏れる事故があった.
著者
渡辺 研太郎 中嶋 泰 内藤 靖彦
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
no.75, pp.p75-92, 1982-03
被引用文献数
1

1981年1月15日から31日にかけて, 昭和基地付近の3点(底質は砂地と岩場)において, 第21次南極地域観測越冬隊および第22次夏隊に参加した3名が, SCUBA(自給気潜水器)を用いた生物調査を行った。潜水回数は15回, 延べ33回・人。各回の潜水時間は約45分, 最大55分で, 最大潜水深度は18mであった。使用したドライスーツをはじめとする潜水機材は, 南極の夏季の潜水作業には十分な性能を備えていることが判明した。調査の結果, これまでトラップでは採集できなかったナンキョクツキヒガイなどのろ過食性生物を含め, 約200点の底生生物を採集した。このほか35mmカラーフィルムで約250こま, 8mmカラーフィルムで約400フィートの水中写真に生物の生態を記録し, 所期の目的を達成した。