著者
村松 謙生
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.149-157, 1986-09-30 (Released:2009-08-07)
参考文献数
18
被引用文献数
4 4

本報は雪を利用した野菜の貯蔵に関する試験結果をとりまとめたものである.北陸地域では,積雪の低温・多湿条件を活用してダイコン・キヤベツなどを貯蔵することができる.しかし,積雪深や根雪期間は年次間変動が大きいので,貯蔵を開始する時期に注意するとともに,少雪年次には凍害,多雪年次には積雪の重圧に対する回避策,あるいは貯蔵期間を延長するための覆雪や融雪制御などの対策が必要である.雪中貯蔵の可能な期間は,積雪条件や貯蔵を開始する際の野菜の処理などによって異なるが.ダイコン・キヤベツは90~100日,ハクサイは50~80日,ニンジンはさらに長期間の貯蔵が可能であった.また,雪中に貯蔵した野菜は糖度が増したり,生体重が増加するなどの現象が認められた.これらはいづれも食味の向上につながる興味ある現象である.基礎的な実験結果をふまえて,貯蔵総量が約300tに達する実証試験を行ない,低コスト・大量貯蔵の可能性を得た.
著者
竹内 政夫
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.83, no.3, pp.307-315, 2021 (Released:2021-12-17)
参考文献数
24

視界が白一色になり交通に危険をもたらす視界ゼロのホワイトアウトが日常的に使われるようになった.しかしホワイトアウトの定義も実体も曖昧であり,人により受ける語意やイメージの違いは大きい.ホワイトアウトの実体を理解しやすくするため,同じ様に視界が白一色に見える極地で発生するWhiteout と比較した.この二つには気象用語の視程がゼロの共通イメージがある.しかしホワイトアウトは視程が小さくなると発生するが,Whiteout は視程100m 以上でも発生し視程は比較の物差しにはならない.物理的には空中浮遊物の有無という発生メカニズムに違いがある.また吹雪時のホワイトアウトでは雪粒子が可視大であることため,同じ粒径や形状でも眼の近くにあるほど残像の影響も大きくなり視程を低下させてもいる.共通する部分では光と雪粒子の相互作用や広い雪原などの周辺環境が人間の感じ方に影響して発生するなどがある.ホワイトアウトと視程の観測例から,視程計で測定して得られる視程(以下,計測視程とする)は100m を超えても,肉眼で見える最も近い地物までの距離である見かけの視程が0m のホワイトアウトになることがある.ホワイトアウトと感ずるのは人間であり,生理や心理,経験などの個人差を含めたヒューマンファクター,発生状況や環境も影響する.Whiteout もホワイトアウトも,「視界は白一色で見かけの視程(顕在視程)は0m」という点で共通している.
著者
鈴木 啓助 渡辺 泰徳
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.58, no.4, pp.295-301, 1996-07-15 (Released:2010-02-05)
参考文献数
9

林冠環境の異なる3地点(コナラ林,アカマツ林,林外)において,積雪中の化学物質濃度および生物量の変化を調べた.積雪中の陰イオン濃度は,アカマツ林内でコナラ林内および林外よりも高くなっている.各地点とも積雪中のCl-,NO3-,SO42-濃度は,融雪の進行によって低下する.しかしながら,積雪中のPO43-濃度は,いずれの地点でも融雪最盛期に増加する.その濃度が,アカマツ林内とコナラ林内で林外よりも高いことから,積雪中のPO43-は有機物の二次生成物と考えられる.顕微鏡観察によると,林内の積雪中には細菌・カビ・藻類の存在が認められるが,積雪初期には低密度で,融雪最盛期に増加する.積雪中のクロロフィルaとフェオフィチンaの濃度は,アカマツ林内においてコナラ林,林外よりも高い.また,アカマツ林内およびコナラ林内のクロロフィルa濃度は,融雪最盛期に増加し,藻類が増加することを示している.積雪中のバクテリア数は,アカマツ林内>コナラ林内>林外の順であり,融雪最盛期に多くなる.積雪融解試料による培養実験の結果,アカマツ林内の試料を明所に置いた場合のみ,NO3-濃度が減少し,25日目以降NO3-が検出されない.積雪融解試料に緑藻を添加した培養実験では,アカマツ林内の試料で,2週間でクロロフィルaとして14.7μg/lの緑藻が増加した.この結果から窒素の消費量を見積もると,藻類の増加によって積雪中からNとして220μg/lが消費されたことになる.
著者
川田 邦夫
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.131-136, 2009 (Released:2021-04-09)
参考文献数
14

高度1000 m 以上の山岳地では一般に風も強く, 地吹雪や降雪時には吹雪となることが多い. その結果として山岳地での積雪は再配分によることが多い.尾根状の地形の所での積雪は風上側が削られ,風下側に多く溜まる.また窪地には雪が多く堆積して,元の地形と大きく異なった表面形態となる. 標高が高い分だけ気温も低く, 強い風速下で積雪は変態と地吹雪によるパッキング, 及び深い積雪による荷重を受けて平地では見られない程硬い雪へと変質する. 山稜部に見られる雪庇というのは本来吹き溜まりの一種と考えられるが, ここに積雪地形という概念を用いて, 雪庇の形成過程を説明した. 風下側の元の地形が急崖であれば, 庇状に伸びた小さな雪庇ができ, 風下側の斜面が緩い場合には最初は吹き溜まり状の形態から前面が次第に急になり, 段差を持つ大型の雪庇を形成する. 巨大に成長する雪庇について, その形成過程を述べた.
著者
力石 國男 登城 ゆかり
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.66, no.5, pp.567-580, 2004-09-15 (Released:2010-02-05)
参考文献数
15

気象庁のアメダスによる1980~97年(85年と95年を除く)の厳寒期(1月・2月)の気象観測データ(3時間毎のデータに編集)を解析して,横手盆地の降雪特性および降雪機構を調べた.横手で3時間降水量が3mm以上の強い降雪がみられるのは,横手で無風の場合が約40%,北西寄りの季節風の場合が約35%である.無風の状態は季節風が弱くかつ陸風が弱い夜間に発生する.このとき日本海沿岸では2m/s前後の非常に弱い北西風であり,横手盆地周辺の谷間や山間部でも無風に近い状態となる.横手だけでなく秋田県南部の広い範囲で強い降雪が観測される.これは日本海からの弱い季節風が大気下層の冷気の上を上昇することにより雪雲を発生させるためであると考えられる.一方,比較的強い季節風が横手盆地方面に向けて収束し,風下の山脈を越えるときにも,横手で風が弱まり,強い降雪が観測される.この場合は,横手の風が弱まるほど盆地内の降水強度が増す傾向があり,発生時刻は昼夜を問わない.横手盆地の降雪特性を旭川・新庄・十日町の降雪特性と比較して,内陸盆地の降雪機構について考察した.
著者
藤本 明宏 河島 克久 渡部 俊 村田 晴彦
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.507-522, 2021 (Released:2022-02-16)
参考文献数
13

本研究では,大雪時のスタック発生メカニズムの解明を目的に,大雪による車両滞留時の路面圧雪調査および圧雪路面での停車試験,タイヤ空転試験および車両発進試験を実施した. 路面圧雪調査では,大雪による車両滞留時の圧雪路面に窪みや波打つような凹凸の発生を確認した.停車試験およびタイヤ空転試験より,タイヤの輪荷重,熱および回転は圧雪を融解や圧密させ,タイヤを圧雪に沈ませると同時に,タイヤ直下のすべり摩擦係数を低下させることが分かった.車両発進試験より,輪荷重が大きいほどスタックは発生し難いことが分かった. 上記の研究より,車両のスタックは以下のメカニズムで発生することを明らかにした.大雪時には車両の走行性が低下し,停車時間や発進回数が増える.停車時間や発進回数の増大は,圧雪路面の窪みの発生やすべり摩擦係数の低下を誘発する.これらがタイヤの空転を助長し,それが圧雪路面の窪みの拡大やすべり摩擦係数のさらなる低下を引き起こす負の循環を生じさせ,スタック車両の発生に至る.本論文では,このメカニズムを踏まえて,タイヤが圧雪窪みに嵌った状態からスタックに陥る場合とスタックを回避する場合のフローチャートを示した.
著者
香内 晃
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.56, no.1, pp.63-70, 1994-03-30 (Released:2010-02-05)
参考文献数
23

宇宙空間にはアモルファス氷が大量に存在し,太陽系の起源と深くかかわっている.アモルファス氷の構造と性質および生成条件を紹介するとともに,惑星科学上の意義を解説する.

1 0 0 0 OA 四国の雪

著者
日下部 正雄
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.7-18, 1968-01-30 (Released:2009-07-23)

The date of the first and the last snowfalls, the number of days of snowfall and the maximum depth of snow cover are widely used climatological data, but are not sufficient for a plan of various industries as well as agriculture. To improve the situation, the period and area of heavy snow fall in Shikoku Island are studied.Generally the snow cover quickly melts away in this district, however, in some area or in some years it covers the ground for a long period of time, i. e, the phenomena called NEYUKI (continuos snow cover) in the snowy district are recognised. The necessity of estimation of probable maximum snow depth is discussed. Snow damage on the agriculture, traffics and electric powers, and a note on the histrical aspects of snow in this district are briefly described.

1 0 0 0 OA 雪と国鉄

著者
小竹 豊
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.9-15, 1959 (Released:2009-07-23)
著者
志水 宏行
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.84, no.4, pp.323-340, 2022-07-15 (Released:2022-08-04)
参考文献数
87

煙型雪崩と火砕流は,粒子濃度の成層構造をもつ固気混相重力流である.本論文では,既存の二層火砕流モデルについてレビューし,二層火砕流モデルの雪崩への応用可能性について議論する.二層火砕流モデルは,成層化した流れの上部を低濃度乱流サスペンション流として,下部を高濃度粒子流としてモデル化し,それらの相互作用(粒子のやりとりなど)を考慮することによって,火砕流の流動・停止を評価する.特に,高温である火砕流の上部低濃度流の停止プロセス(低濃度流が周囲大気より軽くなり離陸するプロセス)を評価するために,低濃度流上面から取り込まれた周囲大気の熱膨張の効果が評価される.煙型雪崩の流動・停止における多くの物理プロセスは火砕流と共通する.しかし,煙型雪崩の上部低濃度流(雪煙り層)の停止プロセスは,火砕流とは異なり,低濃度流内部の乱れ速度の減少によって流れ内部の全粒子が沈降するという物理プロセスによって説明される.このプロセスを二層火砕流モデルに組み込むことにより,雪崩・火砕流の統一モデルを構築できることが期待される.
著者
上村 靖司 星野 真吾
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.70, no.5, pp.477-485, 2008 (Released:2021-04-09)
参考文献数
5

一般に氷を製造する場合の熱移動は,熱伝導または対流熱伝達が支配的であり,放射を工業上利用した製氷技術は見当たらず,その得失は未知である.本研究は,放射冷却による製氷(放射製氷) の技術開発を目的とし,実証実験装置を試作しその製氷過程の観察を行った.実験装置は低温熱源と断熱水槽で構成され,両者の間の熱伝導と対流熱伝達を排除し,かつ霜の成長を抑制するための真空層を挿入した. 実験は雰囲気温度約2℃に保持された低温室内で行い,水槽側面の静止画像撮影と水温測定を行った.初晶は冷却開始から数時間後に水槽上面で自然発生し,その後鉛直下向きにほぼ一定速度で成長し,40時間で約20mm の厚さとなった.その間の成長速度は0.6mmh-1であった. 生成された氷は目視では完全に透明で気泡も見られなかった.そして結晶は全体が鉛直方向をc軸とする単結晶であった.熱伝導による製氷(伝導製氷)と比較を行った結果, 伝導製氷は氷が厚くなると成長速度が低下するのに対し,放射製氷では速度低下が見られず,また取り込まれる気泡のサイズが小さいという違いが見られた.
著者
新保 正樹
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.22, no.5, pp.147-156, 1960 (Released:2009-09-04)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

In the preceding paper, the author reported the outdoor observation results on the surface friction of snow. This time, it is recognized from the laboratory experiments that the changes of water content and rheological properties of snow according to air temperature are the dominant factors to control the values of friction coefficient, μs and μk, and also the roughness and film thickness of the sliding surface and penetration affect those values. Moreover, it is proved by using three different methods that the snow crystals are molten by the heat of sliding friction.From these results together with those of the preceding experiments, it is concluded that sliding on the snow surface is able to be considered simply as one of the frictional phenomena of organic or inorganic crystals near melting point and not as a characteriftic phenomena of snow.
著者
杉山 慎 近藤 研
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.83, no.2, pp.193-204, 2021 (Released:2021-09-29)
参考文献数
48

北極域では,温暖化に伴う環境変化が人間社会に影響を与えつつある.本稿ではその事例として,グリーンランドで発生した氷河流出河川の洪水災害を紹介し,数値モデルを用いた氷河融解と流出量解析について解説する.2015 年7 月21 日と2016 年8 月2 日に,グリーンランド北西部カナック氷河の流出河川が増水し,村と空港を結ぶ道路が破壊された.これらの事象を詳しく解析するために,2017-2019 年に氷河と河川で実施した観測に基づいて,氷河融解・流出モデルを構築した.この数値モデルによって2015年と2016年の流出量を再現したところ,両年の洪水時における流出量は,一時間値で9.1 および19.9m3 s−1 と示された.2015 年の洪水は,氷河全域平均で51mm w.e. d−1に及ぶ雪氷融解によるもので,2015-2019年では2 番目に顕著な融解イベントであった.一方で2016年の洪水は,2015-2019 年で2 番目の規模を持つ豪雨(90mm d−1)によるものであった.数値実験の結果は,気温上昇,強風・降雨の頻度増加,裸氷域の拡大などの環境変化が,氷河流出量の増加傾向をもたらすことを示している.
著者
前野 英生 浦塚 清峰 神山 孝吉 古川 晶雄 渡邉 興亜
出版者
The Japanese Society of Snow and Ice
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.59, no.5, pp.331-339, 1997-09-15 (Released:2009-09-04)
参考文献数
10
被引用文献数
1

雪上車搭載高感度アイスレーダにより, 1992年に南極大陸ドームF (77°19'S, 39°42'E, 標高3810m) 周辺の深さを最大3520mまで氷厚観測することができた.ドームF頂上部のDF80付近は, 周囲の基盤地形にくらべ盆地上の地形をしており, かつ, 内部層構造は, 傾きが小さいことからから, 流動によって氷床の鉛直分布が大きく乱されていないことを確認した.また, ドームF周辺およびその地点から大陸沿岸のS16までの基盤地形と氷床内部層の構造を明らかにし, それらの特徴について考察した.レーダ観測により判明した基盤高度は, ドームFからMD164 (S16より南へ約440kmの地点) までの内陸部では平均高度約500mであるのに対し, この点を境に沿岸部では海抜高度0m程度にステップ状に段差があることを見出した.また, この段差を境に氷の内部の構造が異なっている.氷床内部層構造は, 沿岸に近いほど複雑であり, 内陸部は沿岸部に比べ連続的で単純な構造であった.その要因は, MD164での段差が氷床流動に影響を与えているためと考えられる.
著者
小玉 正弘
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.39, no.4, pp.207-211, 1977
著者
及川 周
出版者
公益社団法人 日本雪氷学会
雑誌
雪氷 (ISSN:03731006)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.1-4, 1949

雪の多い地方の生活には, 他では見られない特殊な様式が衣食住の各方面に亘つてあらわれて居り, それば降雪期には勿論のこと, 雪の無い時期に於ても, 直接間接に多かれ少かれ雪と云うものに支配され影響をうけて居ることが多い。<BR>單に住まいの點から丈け見ても, 家の構造は雪につぶされない様にがつちりしたものになり, 雪の吹つ込みを防ぐ爲に窓口が少くなる。一面そのために家の中が暗くなるし, 換氣の具合も惡くなる。家の外側を藁や莚で雪圍することも他には見られないことである。住まい方の點から云つても, 雪國の冬はどうしても蟄居の生活になり勝ちだし, 雪下ろしと云う余分な特殊の勢働るある。炉と云うものも雪國に於ては特別の趣がある。<BR>ここには主として保温, 防濕乃至雪國の人の温感などと云う立場から, 雪圍や炉邊や就眠のことに就いで調べた成績を述べで見たいと思う。