著者
河原 紗穂 三雲 亜矢子 豊田 美都 中原 真希子 菊池 智子 古江 増隆
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.75, no.6, pp.491-495, 2013

34 歳,女性。元来,アトピー性皮膚炎のため近医で加療されていた。不明熱,視野欠損,両手掌,足底に紫斑,血疱を認め,当科を受診した。足底の血疱穿刺液および血液培養にて Methicillin-sensitive <i>Staphylococcus aureus</i> (MSSA)を検出し,経胸壁超音波検査では僧房弁に疣贅と思われる所見と僧帽弁逆流を認め,感染性心内膜炎と診断した。弁破壊に伴う僧帽弁逆流と疣贅による脳梗塞などを含めた遠隔病巣があることから,手術目的に転院し,僧房弁置換術が施行された。アトピー性皮膚炎に感染性心内膜炎を併発した報告例は本邦では約 10 例認めるのみである。そのアトピー性皮膚炎患者の多くは重症型で,ほとんどの症例で起炎菌として黄色ブドウ球菌が検出されていることから,感染経路としてはバリア機能の低下した皮膚から細菌が侵入したと考えられている。黄色ブドウ球菌による感染性心内膜炎は,疣贅による弁破壊や全身諸臓器に転移性病巣を作りやすいといわれており,致死的となることが多い。このような重篤な合併症を予防するためにも,アトピー性皮膚炎に対して適切な治療を行い,皮膚におけるバリア機能を保つことが,重要と思われる。
著者
古谷野 さとみ 籏持 淳 山崎 雙次 石川 准子 北原 隆 成田 博文 近藤 直樹 増川 克典
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.494-499, 2010-09-15 (Released:2010-11-19)
参考文献数
11
被引用文献数
11 13

角層のセラミド(Cer)は,皮膚のバリア機能や保湿機能に重要な役割を果たしており,乾癬やアトピー性皮膚炎においては,角層の機能低下にともなうCerの減少が知られている。そこで,乾癬における角層Cerの詳細解析を行い,アトピー性皮膚炎との比較を行った。その結果,乾癬皮疹部においては,健常と比較して総Cer量が顕著に減少しており,このうちCer[NDS],Cer[NH],Cer[NP],Cer[AH],Cer[AP],Cer[EOS],Cer[EOH],Cer[EOP]の顕著な減少と,Cer[NS]とCer[AS]の顕著な増加が認められた。ヒト角層に存在する11クラスのCerのうち7クラスにおいては,Cerの短鎖化(短鎖成分の増加と長鎖成分の減少)が認められた。このような角層におけるCer異常は,アトピー性皮膚炎角層で認められたものと一致した。また,乾癬皮疹部で認められたCer異常の一部は,無疹部においても認められ,表皮におけるCer代謝異常が病態形成に及ぼす影響や,角化異常との関連が推察された。
著者
松田 光司 川津 智是 三木 吉治
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.864-871, 1979

Hydroa vacciniformeの3例を報告した。いずれも顔面, 手背, 下腿に丘疹, 小水疱をみとめ, 小瘢痕を残して治癒した。うち2例に眼病変をみとめた。検査成績では, いずれも尿, 血液ポルフィリンは正常域であり, 3例ともに血清鉄の減少と1例に尿アミノ酸の軽度増加をみた。また光線検査はいずれも陰性であつた。わが国での報告例中, 尿, 血液ポルフィリン検索で異常をみとめない19例を自験例と比較し, hydroa vacciniformeの独立性について考察した。
著者
水谷 仁 高橋 眞智子 清水 正之 刈屋 完 佐藤 広隆 芋川 玄爾
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.63, no.4, pp.457-461, 2001-08-01 (Released:2010-09-02)
参考文献数
15
被引用文献数
14 14

アトピー性皮膚炎は,環境抗原に対する湿疹反応とともにIgEの産生過剰を伴うアレルギー性の免疫異常のほか,臨床的に乾燥性皮膚といわれる病態を示す。これは,皮膚バリアー機能に重要な役割を果している角質細胞間脂質であるセラミドが,顕著に減少していることによっていると推測されている。このことは減少したセラミドを外から補うことにより,バリアー機能が改善される可能性があり,さらにはアトピー性皮膚炎の改善が期待できる。天然セラミド2の類縁体である合成擬似セラミドを8%配合したクリームを外用することによる,アトピー性皮膚炎患者の乾燥皮膚に対する効果について,10%尿素クリームを対照として比較検討した。対象はアトピー性皮膚炎患者19例で前腕皮膚へ塗布し,皮膚所見及び総合判定により有用性を判定した。その結果,合成擬似セラミドを8%配合したクリーム使用群はその68%に有用性を認め,対照クリームとの比較でも有意な差を持って有用であった。さらに本試験開始前にダニの貼付試験で陽性であった4例について,試験製剤を4週間使用後に再度貼付試験を実施した。その結果,合成擬似セラミドを8%配合したクリーム使用群では4例すべてが陰性となり,バリアー機能が向上したと考えられた。以上より合成擬似セラミドを8%配合したクリームは,アトピー性皮膚炎患者皮膚に対する日常的なスキンケア剤として有用な製剤であると考えられた。
著者
前田 学 藤沢 智美 日置 加奈 永井 美貴
出版者
Western Division of Japanese Dermatological Association
雑誌
西日本皮膚科 = The Nishinihon journal of dermatology (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.7-10, 2005-02-01
参考文献数
24

症例は両下腿の丘疹・紅斑及び紫斑などを主訴とする16歳の女学生。2001年8月より両下腿に痒みを伴った丘疹及び紫斑が出現し,上肢にも拡大した。初診の1週間前より再燃し,2002年5月7日当科を受診した。既往歴・家族歴には特記すべきことはなかった。血液検査ではWBC 10300/mm<SUP>3</SUP>とやや上昇,赤血球528万/mm<SUP>3</SUP>とやや多血症傾向で,IgE上昇(950IU/ml)以外は異常所見はなかった。左下腿部の病変から皮膚生検を施行したところ,表皮は不規則に延長肥大し,表皮内に海綿状変化を認め,真皮には上層に限局して好酸球を混じた単核球の細胞浸潤が目立った。自験例が使用していた靴下止め糊(ソックタッチ<SUP>®</SUP>)の皮膚貼布試験は48,72時間共に小水疱を伴う紅斑を形成し,本邦判定基準で陽性(+++)と判定したが,各成分別の同試験は患者の同意が得られなかったために未施行。躯幹の皮疹は自家感作性皮膚炎(イド反応)として矛盾しないものと考えられた。ソックタッチ<SUP>®</SUP>は白元(株)製のアクリル系粘着剤の液体靴下止めで,スティックのり状になっており,接着剤成分としてポリアクリル酸ナトリウム・トリエタノールアミン塩の混合物(CH<SUB>2</SUB>・CH・COONa)n,(CH<SUB>2</SUB>・CH・COON(C<SUB>2</SUB>H<SUB>4</SUB>OH)<SUB>3</SUB>)nのジュリマーを5~15%含有し,局方エチルアルコール10~30%,グリセリン15%以下,香料微量,精製水残量から構成されていた。
著者
相模 成一郎
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.66-69, 1977
被引用文献数
1

慢性PCB中毒症と診断した36才主婦が, 結婚13年目, 絶食療法終了後2年目に正常児を初産した。出産時に採取した母体血, 臍帯血, 大網(母体), 胎盤, 臍帯, 羊水, 新生児血を材料としてそれぞれのPCB含有量を測定した。また, 産後9ヵ月間の乳汁分泌量を計量し, 乳汁中のPCB含有量を測定した。これらの測定成績に基づいてつぎのことがいえる。<BR> 1) 母体中のPCBは胎児を汚染する。臍帯血, 羊水, 胎児血のPCBによる汚染度は母体血中のPCB濃度に比しそれぞれ1/4, 1/6, 1/42である。また, 胎盤と臍帯とのPCBによる汚染度は母体の大網に比べると1/230, 1/1200となつている。<BR> 2) 乳汁中に排泄されるPCB含有濃度は母体血中のそれよりも常に高い。したがつて, 大量の乳汁分泌は母体内におけるPCB排泄のための大きな経路であり, その授乳は乳児に危険である。<BR> 3) PCB中毒症の実験成績から自験症例の妊娠と分娩とは絶食療法の成果であると推定した。
著者
與那嶺 周平 宮城 拓也 新城 愛 下地 志月 山城 充士 高橋 健造
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.83, no.4, pp.351-356, 2021

<p>80 歳台男性。全身に広がる血疱を伴う紅斑と紫斑で当科を受診した。血液検査でヒト T 細胞白血病ウイルス 1 型(Human T-cell leukemia virus type 1,HTLV-1)抗体陽性で,成人 T 細胞性白血病・リンパ腫(Adult T-cell Leukemia/Lymphoma,ATL)様細胞 6360/μl,可溶性 IL-2 レセプター(sIL-2R)22,545 U/ml と高値であり,CT 検査で多発リンパ節腫大と脾腫があった。皮膚生検で真皮血管周囲に異型リンパ球浸潤があり,免疫組織化学的に浸潤細胞は CD3,CD4,CD7,CD25,CCR4 陽性であった。左鼠径リンパ節生検でも異型細胞浸潤があった。急速に呼吸状態が悪化し,FiO<sub>2</sub> 0.6 でSpO<sub>2</sub> 94%と呼吸不全となった。CT 検査で小葉中心性陰影やスリガラス影があり,胸水細胞診で ATL 細胞を多数確認し,ATL 急性型と診断した。年齢や既往,全身状態から,多剤併用化学療法ではなく,メチルプレドニゾロン 40 mg/day とエトポシド 25 mg/day の内服を開始したが効果は不十分であった。モガムリズマブの投与追加により,呼吸状態は改善し,皮疹と末梢血中 ATL 様細胞は消失し,sIL-2R も 346 U/ml と低下した。ATL は近年,骨髄移植に適さない高齢発症例が増えており,治療戦略に苦慮するが,経口化学療法とモガムリズマブによる治療を組み合わせることで良好な治療結果を得られた 1 例を経験したため報告する。</p>
著者
山下 利春 黄倉 真恵 菊地 梨沙 佐藤 牧人 高田 知明 小野 一郎 神保 孝一
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.69, no.4, pp.408-413, 2007

Polymerase chain reaction(PCR)を用いると帯状疱疹患者の末梢血リンパ球からも水痘帯状疱疹ウイルス(varicella-zoster virus: VZV)核酸が検出される。本研究では,札幌医大附属病院皮膚科に入院しビダラビン(アラセナ<SUP>&reg;</SUP>A)600mg/日を5日間投与された帯状疱疹患者10例よりリンパ球を調製し,PCRによって末梢血リンパ球のVZV gene 29およびgene 62のDNAおよびRNAの検出を行った。検討した10例のうち基礎疾患のある重症帯状疱疹の3例と中等症の1例は補体結合反応値が128倍と高値を示し,さらにPCRによりVZV DNAおよびRNAが検出された。しかし,これら4症例とも入院7~10日後(第14病日)には末梢血リンパ球からウイルス核酸は検出されなかった。他の中等症の1例と軽症5例の末梢血リンパ球からはVZV gene 29あるいは62のDNAとRNAは検出されなかった。患部皮疹が潰瘍化した重症の1例を除き,いずれの症例も3週間以内に上皮化し2~4週間後の帯状疱疹関連神経痛はVASスコアで0/5あるいは1/5まで低下した。これらの結果より,重症例ではウイルス抗体価が上昇し末梢血リンパ球にVZV遺伝子が検出され少なくとも一部のウイルス遺伝子が発現しているが,ビダラビン600mg/日,5日間の投与によって発症2週間後には末梢血よりウイルスが駆逐されると考えられた。
著者
小川 秀興 植木 理恵 西山 茂夫 伊藤 雅章 西岡 清
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.1206-1211, 1995
被引用文献数
3

円形脱毛症に対する抗アレルギー剤(アゼラスチン:アゼプチン<SUP>&reg;</SUP>)の臨床症状におよぼす影響と有用性について広く円形脱毛症の治療薬として用いられているセファランチンと比較検討した。総症例数は53例であった。円形脱毛症患者のアトピー素因の有無に関係なくアゼラスチン投与群ではセファランチン投与群に比較し脱毛巣およびその周辺の病的毛や抜け毛の程度は速やかに改善された。再生毛の推移は両試験群とも同様の改善経過であった。抗アレルギー作用を有するアゼラスチンが円形脱毛症の臨床像改善に効果をおよぼしたことは円形脱毛症の治療上にも, その病態形成を考える上でも興味深い知見であると考えられた。
著者
廣田 洋子 武藤 正彦 廣田 徹 倉田 佳子 田尻 雅夫 麻上 千鳥
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.6-9, 1996-02-01 (Released:2011-07-12)
参考文献数
7

34歳の女性。平成4年7月頃より健康のためプロポリス(ブラジル産)を飲用していた。飲用約10ヵ月後, 運動会に参加した後, 露出部に紅斑出現。紅斑にプロポリスと馬油混合液を塗布したが皮疹に変化はみられなかった。塗布2週間後には顔面, 両前腕, 両手背, 両手掌, 両下肢に初診時にみられたと同様の瀰漫性浮腫性紅斑, 紅色丘疹, 鱗屑が認められるようになった。パッチテストを施行したところプロポリスasis, 10%pet., 1%pet. にて強陽性。馬油陰性。プロポリスによる内服テストならびに内服フォトテストにて, 共に陰性。パッチテスト, 内服テストのいずれでもflare upは認められなかった。健康人17名に施行した1%プロポリスのパッチテストでは全員陰性であった。以上よりプロポリスによるアレルギー性接触皮膚炎と診断した。
著者
稲福 寿史 稲福 和宏 宮城 嗣名 野中 薫雄
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 = The Nishinihon journal of dermatology (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.23-26, 2005-02-01
参考文献数
6

Hydroxyurea(以下HU)は,慢性骨髄性白血病(以下CML)の治療薬として現在外来で広く使用されているが,本剤を長期にわたって維持投与された症例に下腿潰瘍を合併したとする報告例が増加している。症例は57歳の男性。1997年9月CMLと診断され,HUの投与(1000~1500mg/日)が開始された。投与12ヵ月後,外顆部に有痛性の潰瘍が出現し始め,近医にて種々の外用療法を行ったが改善はみられなかった。潰瘍出現の原因検索と潰瘍治療法の選択のため,当科紹介入院となった。病理組織学的には真皮中層から深層にかけて小血管と結合織の増生,炎症細胞の浸潤を軽度認めた。血管壁の膨化や変性はなく,血管炎の所見も認められなかった。本症例の潰瘍の原因は,うっ滞性,糖尿病性,血管炎性などが疑われた。入院4日目よりHUを中止し,アクトシン<SUP>&reg;</SUP>軟膏外用の保存的治療で約2ヵ月で略治したのでHUによる潰瘍と診断した。HU中止後3年6ヵ月の現在に至るまで潰瘍の再発はみられない。
著者
松本 忠彦 中山 樹一郎 永江 祥之介 堀 嘉昭
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.53, no.4, pp.815-818, 1991-08-01 (Released:2011-09-29)
参考文献数
8
被引用文献数
1 1

汎発型皮膚そう痒症27例, 慢性蕁麻疹7例, 計34例に自律神経調整剤のグランダキシン®と抗ヒスタミン剤のメキタジンを併用して治療効果を検討した。総症例34例中著明改善および改善が28例(82%), 疾患別では汎発型皮膚そう痒症27例中著明改善·改善が22例(81%), 慢性蕁麻疹7例中著明改善·改善が6例(86%)であった。また, グランダキシンの使用によりCMIの改善が18例中5例(28%)にみられた。副作用は34例中1例(3%)にみられた。以上のように, そう痒, 紅斑, 膨疹などの皮膚症状を示す疾患にグランダキシンとメキタジンの併用療法は高い有用性が認められた。
著者
安里 豊 野中 薫雄 青木 武雄
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 = The Nishinihon journal of dermatology (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.66, no.6, pp.559-563, 2004-12-01
参考文献数
27
被引用文献数
1 1

46歳の男性。27歳頃より両下肢に慢性湿疹と静脈瘤が出現して, 時々疼痛を自覚するようになった。30歳頃, 近医にて静脈ストリッピング術を受けたが, その後も湿疹症状が持続していた。2003年4月, 左足関節の疼痛を主訴に当院皮膚科を受診した。当初, うっ滞性皮膚炎の悪化と診断したが, 患者の外見から何らかの合併症の存在を疑った。さらなる精査を行った結果, Klinefelter症候群であることが判明した。30歳頃に既に診断され, それ以後よりテストステロンの補充療法がなされていた。Klinefelter症候群は47 XXYなどの性染色体異常が主な原因であると考えられており, 一般的に高身長, 長い四肢, 女性化乳房, 睾丸の発育不全などの症状が認められるが, うっ滞性皮膚炎, 静脈瘤, 下腿潰瘍等の報告例は比較的少ない。本邦では下腿潰瘍の報告例は21例, 静脈瘤との合併の報告例は自験例を含め5例, うっ滞性皮膚炎の報告例は5例であった。本症例では, うっ滞性皮膚炎に対してプレドニゾロン内服療法を行い, 皮疹は軽快した。
著者
千貫 祐子
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.80, no.5, pp.419-424, 2018-10-01 (Released:2019-01-10)
参考文献数
30
被引用文献数
1

IgE 依存性即時型食物アレルギーの発症には二段階の免疫学的機序が関与する。まず,ある外来抗原に対して生体がこれをアレルゲンと認識すると,抗原特異的 IgE 抗体が産生され,組織中のマスト細胞あるいは末梢血中の好塩基球の表面に高親和性 IgE 受容体(FcεRI)を介して結合する(感作成立)。次いで,同じ抗原あるいは交差反応性を持つ抗原が侵入すると,細胞表面に結合した抗原特異的 IgE が架橋され,ヒスタミンなどの化学伝達物質が遊離され,蕁麻疹やアナフィラキシーが生じる(症状誘発)。これまで長らく,食物アレルギー発症における感作成立は,主に経口摂取した食物に対して経腸管的に生じると考えられてきた。ところが近年,本邦で生じた加水分解コムギ含有石鹸の使用による小麦アレルギー発症の事例を契機に,食物アレルギー発症における経皮・経粘膜感作の重要性が注目されることとなった。
著者
南光 弘子 池田 美智子 尾形 順子 吉野 博子
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 = The Nishinihon journal of dermatology (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.58, no.5, pp.876-886, 1996-10-01
参考文献数
34
被引用文献数
2 1

爪白癬に対する経口抗真菌剤itraconazole 50mgカプセル剤の1日1回1&sim;2カプセル(50&sim;100mg)16週間以上投与での臨床成績を検討した。混濁比の平均は治験開始時8.7であったものが2週以降週を追うごとに軽減し24週時には1.6まで改善した。有効性は病爪の混濁比推移を指標に評価し7例中6例(85.7%)が著効であり全症例有効であった。安全性に関しては副作用として2例に消化器症状を認めたものの投与中止後すみやかに消失もしくは投与量の減量により再発もなく継続投与ができたことより, 比較的長期の治療が必要な爪白癬に対しても安全に使用できる薬剤であると考えられた。しかしながら基礎疾患ないし既往に消化器系の潰瘍を有する患者では長期間投与する際には注意が肝要と思われる。
著者
本田 哲也
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.80, no.1, pp.5-8, 2018-02-01 (Released:2018-06-04)
参考文献数
28

脂質は,糖質・たんぱく質と並ぶ三大栄養素の一つであり,多種の脂肪酸から構成される。脂肪酸は,細胞膜などの生体膜構成,エネルギー源,シグナル伝達などの機能を有し,生体恒常性維持に極めて重要な役割を果たしている。一方で,その過剰な摂取やアンバランスな摂取が,皮膚疾患を含めた様々な病態の悪化因子として注目されている。また,脂肪酸の中でも,オメガ 3 系脂肪酸やオメガ 6 系脂肪酸は食事からの摂取が必要な必須脂肪酸である。特にオメガ 3 系脂肪酸は抗炎症作用を有している可能性が多数報告されており,新たな創薬ターゲットとしても注目されている。食事由来脂肪酸の観点からの疾患の病態解明,および創薬展開が今後益々期待されている。
著者
松尾 敦子 緒方 亜紀 水足 謙介 彌永 和宏 城野 昌義
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.76, no.2, pp.115-120, 2014

2 回の急性転化を経て,19 年間にわたり経過観察できた慢性型成人 T 細胞白血病/リンパ腫 (ATLL) の症例を報告する。発症は 1991 年で,熊本大学医学部附属病院にて "慢性型 ATLL の急性転化" の診断の下, recombinant interleukin-1β (rIL-1β) による治療を開始し,治療開始 5 カ月後に完全寛解 (CR) が得られ,ATLL 関連の検査値異常すべてが 10 カ月後には正常に回復した。その後は治療なしで CR を13年間維持していた。しかし 2007 年に四肢の紅色丘疹と肺病変が再発,今回も "慢性型 ATLL の急性転化" と診断し,低容量ソブゾキサン+エトポシド併用内服療法を開始した。本治療法は皮膚・肺病変の両方に著効し,治療開始 6 カ月後には CR が得られ,腎盂腎炎に続発した多臓器不全で 2010 年に死亡するまでの2年間,ATLL は CR を維持できた。自験例の長期生存には,複合化学療法を避けて選択した免疫賦活療法と内服抗癌剤による治療が著効した点と,皮疹の病理組織検査の所見として ATLL 細胞の皮膚浸潤に加え肉芽腫反応が観察された点が重要であったと考えた。
著者
岩元 凜々子 佐久川 裕行 宮城 拓也 山口 さやか 山本 雄一 高橋 健造
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.83, no.1, pp.22-25, 2021

<p>特に既往症のない 79 歳,男性。四肢に環状の紅斑が出現し,その後,胸痛,多発関節炎,有痛性皮下結節,発熱,リンパ節腫脹,上強膜炎が次々に生じ,最終的に,初発の皮膚症状の 4 カ月後に生じた耳介腫脹により,再発性多発軟骨炎の診断に至った。気道や心病変は合併しておらず全身状態は良好であるが,ステロイド内服と免疫抑制剤の併用では,いまだ病勢はコントロールできていない。<br>再発性多発軟骨炎は,軟骨組織を主体に多彩な全身性の自己免疫性の臨床症状を呈し,寛解再燃を繰り返す。半数以下の症例に皮疹を伴うが,皮疹自体も多様で特異的なものはない。自験例の様に,軟骨炎や鼻軟骨炎などの典型的な症状がない病期での診断は非常に困難である。</p>
著者
指宿 敦子 内宮 礼嗣 松下 茂人 河井 一浩 金蔵 拓郎
出版者
日本皮膚科学会西部支部
雑誌
西日本皮膚科 = The Nishinihon journal of dermatology (ISSN:03869784)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.3-5, 2010-02-01
参考文献数
8

48歳,女性。8年前から両前腕を中心に環状の浮腫性紅斑が多発していた。毎年6月下旬に赤くなり,11月頃に改善することを繰り返していた。半袖になる時期に皮疹の悪化が両前腕に著しかったこと,事務職でデスクマットを使用していることより,デスクマットによる接触皮膚炎を疑い,デスクマットのパッチテストを施行したところ,強陽性反応を認めた。デスクマットの成分は塩化ビニル樹脂,フタル酸ジ-2-エチルヘキシル(DEHP,可塑剤),エポキシ化亜麻仁油(安定剤),金属石けん系安定剤,N,N'-メチレンビスステアロアミド(転写防止剤)の5種類で,このうち製造中止のため入手できなかった金属石けん系安定剤を除く4種類について,パッチテストを施行したが結果は全て陰性であった。以上の結果より,デスクマットの成分のうち,金属石けん系安定剤による接触皮膚炎が推測され,デスクマット製造会社より同じ金属塩を含むが構造式の異なる金属石けん系安定剤を入手し,パッチテストを行ったところ陽性であった。近年デスクマットに含まれる抗菌剤による接触皮膚炎が多数報告されているが,自験例が使用していたデスクマットは抗菌剤は含有されていなかった。抗菌剤を含まないデスクマットによる接触皮膚炎はこれまでに報告されていない。おいて発表した。