著者
大石 幸二
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.53-63, 2000
被引用文献数
1 3 3

本稿では、特殊教育教師の「現場研修」について、(1)その必要性、(2)実践研究の成果、(3)具体的なアプローチに注目し、その実施上の課題を明らかにした。先行研究から、(1)に関して研修の必要性が指摘される一方、1)教師の自己努力に負う考え方や、2)現場を離れて行う研修も根強く、他方、3)教育・訓練カリキュラムが系統的でない現状を示した。また、(2)に関して1)目標と方法の特定化、2)効率性の重視、3)観察事実に基づく指導実践の見直しが典型的な要素であることを示唆した。さらに上記1)から3)までの要素を重視する応用行動分析学の知見に触れ、このアプローチの成果のひとつである教師訓練を概観した。このアプローチでは、近年、教師自身が問題記述と分析を行い、介入計画および指導実践を直接管理することを支援するシステム構築が指向されている。特殊教育サービスにかかわる特殊事情を抱えるわが国では、今後、このシステムの有効性に関する実証研究の蓄積が求められることを、課題として指摘した。
著者
武藤 崇
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.1-15, 2001
被引用文献数
1 1

本研究は自閉性障害児2名に対する異同概念の成立について検討することを目的とした。まず、異同概念に関する課題分析が刺激等価性パラダイムを応用して実施された。それに基づいて異同概念に関する課題が4つ選定された。さらに、4つの課題構造が分析され、訓練課題が選定された。その訓練課題では、「同じ」という概念に基づく標的反応が正の強化で維持され、「違う」という概念に基づく標的反応が負の強化で維持されるように随伴性が配置された。その結果、1名は1つの刺激セットに対する訓練のみで、異同概念に基づく反応が他の3つの課題や他の新奇な刺激セットに転移した。もう1名においても3つの刺激セットを訓練された後、新奇セットへの転移が得られた。以上の知見は「関係の概念」に対する分析・援助パラダイムへの拡大という観点から考察された。
著者
奥田 健次 井上 雅彦
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.37, no.3, pp.69-79, 1999
被引用文献数
1 1 5

本研究は強いこだわりを持つ中度知的障害を伴う自閉症児における対人関係の改善のための指導について検討することを目的とした。本事例においては、家庭中心型指導により対象児の家庭でフリー・オペラント技法による介入を行った。その結果、対象児の自発的なかかわり行動や指導者との会話のターン数が増加し、それとともに指導者との遊びや会話内容も多様になった。さらに、指導者以外の他者に対しても自発的にかかわりを求めることが増加したことが報告された。これらの結果から、本事例におけるフリー・オペラント技法による介入の効果、般化を促進した要因について考察された。
著者
山岡 祥子 中村 真理
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.93-101, 2008-07-31
被引用文献数
1

本研究では、HFPDD児・者をもつ父母の障害の気づきと障害認識の相違を明らかにすることを目的とし、父母80組を対象に質問紙調査を行った。その結果、診断前後とも父母の障害の気づきと障害認識に有意な違いがあった。診断前、母親は父親よりも子どもの問題に幼児期早期から気づき深刻に悩んでおり、受診に対しても能動的であった。しかし、成長に伴い問題は解消すると考える傾向は父母で相違がなかった。診断時において、告知は父母どちらにも精神的ショックを与えていたが、障害認識は父母で違いが認められた。母親の多くは肯定・否定の両面的感情をもち、障害であると認めたのに対し、父親の多くは否定的な感情のみをもち、障害を認めにくかった。診断後は父母とも1年以内に障害を認めたが、母親は父親よりも積極的に障害を理解しようとしていた。
著者
中山 奈央 田中 真理
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.46, no.2, pp.103-113, 2008-07-31

本研究は、小学校高学年におけるAD/HD児の自己評価と自尊感情を定型発達児との比較から明らかにすることを目的とした。調査では、子どもの自己認知尺度(Harter,1985)をもとに作成された日本語版自己認織尺度(Tanaka,Wada,&Kojima,2005)を使用した。自己評価とは特定領域(学業、運動、容貌、社会性、振る舞い)に関する自身の能力や適性に対する評価をいい、自尊感情とは人間としての全体的な自己の価値をいう。調査の結果、AD/HD児は、振る舞いと社会性において、定型発達児よりも低い自己評価を行っていた。加えて、AD/HD児および定型発達児において、各領域の自己評価が自尊感情に与える影響について検討した。その結果、定型発達児では運動を除く全領域の自己評価が自尊感情に影響していたのに対し、AD/HD児では自尊感情に影響を与える領域が学業と容貌のみであり、定型発達児よりも少なかった。
著者
関戸 英紀
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.29-37, 1998-06-30

質問に対してエコラリア(誤答)で応じるCA12歳5カ月の自閉症男児に対して、「買い物・トーストづくり」ルーティンを用いて、五つの型(Who型,Yes-No型,AorB型,Whose型,How型)の質問に対する適切な応答的発話の習得を目的とした指導を約8カ月間(23セッション)行った。その際に、スクリプトの獲得を評価するために、適切な応答的発話のバリエーションと獲得した応答行動の日常場面での般化を指標として新たに設定した。その結果、Who型、Yes-No型、Whose型の質問に対して適切な応答的発話が習得された。またAorB型、Which型、What型においてバリエーションが、Yes-No型において般化がみられた。以上のことから、次のことが検討された。(1)視覚的な手がかりが弁別刺激となり、対象児に対して適切な応答的発話の表出を促進した。(2)ルーティンを繰り返すことにより、それに含まれる言語・非言語を問わず行為の系列を再現できるようになったが、その意味や伝達意図の理解が可能になるまでには至らなかった。
著者
菊池 哲平 古賀 精治
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.39, no.2, pp.21-29, 2001-09-30
被引用文献数
3

自閉症児・者における情動理解の特徴を明らかにするため、顔写真を用いた表情認知能力と表情表出能力の実験的検討を行った。自閉症児・者とその母親および彼らと接触経験のない大学生が3人一組になり、それぞれの「嬉しい」「悲しい」「怒っている」時の情動を表した顔写真をお互いに判定してもらった。統制群である健常幼児と比較したところ、主に次のような結果が認められた。1)他者である大学生や母親の顔写真に対する自閉症児・者の正答率は健常幼児と比較して低かった。2)自閉症児・者が表出した表情を他者である大学生や母親が判定した場合、健常幼児の表情に対する場合と比べ正答率が低かった。3)自閉症児・者が表出した表情を自閉症児・者自身が判定した場合、健常幼児と比べて正答率に差がみられなかった。4)自閉症児・者の表情認知には健常幼児とは異なり「嬉しい」表情の優位性が認められなかった。
著者
澤 隆史
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.255-264, 2009
被引用文献数
1 4

本研究では、過去10年ほどの国内外の研究を中心として、聴覚障害児における言語の理解と産出について言語学的観点から考察するとともに、今後の言語獲得研究の方向性について展望した。先行研究を「統語」「意味」「使用」の観点から整理し、各観点について、生成文法理論による統語能力の解明、統語処理における意味情報の利用、発話・作文における語の使用に関する研究の成果と残された課題について述べた。従来の言語獲得研究は、生成文法理論などに基づく統語能力の解明を軸として進展してきた。一方、近年では認知言語学や用法基盤モデルといった新たな理論が発展しつつあり、聴覚障害児の言語研究においてもことばの意味や使用の側面を重視した研究が必要であることを考察した。
著者
鳥越 隆士
出版者
The Japanese Association of Special Education
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.50, no.1, pp.87-96, 2012
被引用文献数
1

本研究は、聴覚障害児へのインクルーシブな教育実践に関して、欧米の実践や調査研究をレビューし、その現状と課題を議論した。学業成績や学力および社会性や友達関係の観点から検討した結果、単に通常の学級にいることよりも、通常の学級での活動への参加やそれに伴う肯定的な経験が重要な契機になっていることが明らかになった。また通常の学級への参加を促進する取り組みとして、健聴児と聴覚障害児がともに学ぶco-enrollmentプログラムについて言及した。調査はまだ十分でないが、概して肯定的な成果が報告されていた。またco-enrollmentプログラムでの手話の活用に関して、モダリティ分離的取り組みとモダリティ混交的取り組みが比較され、言語入力の問題だけでなく,質的に高い相互交渉をいかに活発にさせるかの観点から考察を行った。
著者
海津 亜希子 田沼 実畝 平木 こゆみ
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.1-12, 2009-05-30

通常の学級において、特殊音節に関する多層指導モデル、Multilayer Instruction Model(MIM;海津・田沼・平木・伊藤・Vaughn,2008)を実施した。多層指導モデル(MIM)は、まずは通常の学級においてすべての子どもに対し、効果的な指導が実施される1stステージ、1stステージ指導のみでは伸びが十分でない子どもに対する通常の学級内での補足的な指導である2ndステージ、それでも依然、伸びが乏しい子どもに対し、より柔軟な形態で集中的な指導として実施される3rdステージで構成される。本稿では、3rdステージ指導に進んだ9名の子ども(平均年齢7.2歳、標準偏差0.24)への指導効果を評価した。3rdステージ指導は、1月以降に週1度、給食の準備時間や放課後に1回20分から40分、小集団(5名以下)にてMIM特殊音節指導パッケージを用いて行った。このパッケージでは、(a)視覚化や動作化を通じた特殊音節の音節構造の理解、(b)日ごろよく用いる語を逐字でなく、視覚的なかたまりとしてとらえることによる読みの速度の向上、(c)日常語彙の拡大と使用を焦点においた。指導前後の効果測定には、特殊音節の読みのアセスメント、MIM-Progress Monitoring(MIM-PM;海津・平木・田沼・伊藤・Vaughn,2008)を用いた。結果、指導後に得点の上昇が有意にみられ、さらに読みに対する子どものとらえ方も肯定的なものへ変化した。
著者
近藤 隆司 光真坊 浩史
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.47-53, 2006-05-31

本研究では、軽度発達障害をもつ青年Aが、一般事業所雇用に至るまでの経過を紹介し、これをもとに軽度発達障害をもつ人が、就労をめぐり直面する課題、それを切り抜けていくための支援について考察した。就労支援開始当初、Aおよび保護者は、療育手帳取得や地域障害者職業センターの利用に対し否定的であったが、Aの障害特性や就労に対する見通し等を話し合う過程でこれを受け入れ、職業リハビリテーションの利用に至った。Aは高校卒業後、障害者職業能力開発校を経て一般事業所に就職したが、対人関係や就労への不安等を抱くようになり、精神的サポートが必要となった。この事例から、軽度発達障害の就労支援として、(1)障害受容への支援、(2)職業リハビリテーションの活用、(3)精神的サポート、(4)職業体験の重要性が示唆され、今後の課題として、職業体験の場の確保、就労後のフォロー、高校・大学等における軽度発達障害の理解と支援体制づくりがあげられた。
著者
佐々木 かすみ 竹内 康二 野呂 文行
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.49-59, 2008

本研究は(1)演奏スキルの形成、(2)家庭における自己練習、(3)演奏発表から構成されるピアノ指導プログラムを自閉性障害児2名に実施し、その効果を各事例に即して検討することを目的とした。(1)ピアノスキルの形成は、楽譜・鍵盤へのプロンプトの配置による「系列指導」、音楽の随伴プロンプトによる「リズム指導」を行った。その結果、系列は速やかに学習し、リズムの学習は2名で異なった獲得経過を示した。(2)家庭における自己練習は、自己記録および録音により演奏そのものが強化子となり練習が維持された。(3)演奏発表は参加児の社会的強化機会だけではなく、参加児に対する周囲の評価が高まる可能性が示唆された。自閉性障害児においてピアノ演奏が余暇として定着するためには、演奏技術の習得、家庭練習における技術の習熟、発表会での社会的強化の経験を含む包括的なピアノ演奏指導の有効性が検証された。
著者
関戸 英紀
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.33, no.5, pp.41-47, 1996-03-30

電話の使用をスクリプトに組み込んで指導することによって、その応答の獲得が促進されるのではないかと考えた。また、獲得したスクリプトを累積的に発展させることによって、より高次の行動や新たな行動の獲得が可能になるであろうと考えた。そこで、16歳の自閉症男児に対して、「おかわり」、「報告」、「応答」の三つのルーティンのスクリプトを用いて約5ヵ月間指導した結果、校内電話をかける、自宅の電話をかける・受ける技能の獲得が可能になった。以上のことからスクリプトを利用したことによって、文脈の理解に対する認知的な負荷が軽減され、またスクリプトにおいて電話の使用が手順の一部になっていたために対象児は言語に注意を集中することができ、その結果応答の獲得が促進されたこと、スクリプトの行動手順を遂行していくなかで対象児なりにその意味の生成がなされ、その過程は語用論上の誠実性原則に反するものではなかったことが検討された。
著者
霍間 郁実 四日市 章
出版者
The Japanese Association of Special Education
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.51, no.5, pp.421-430, 2013
被引用文献数
1

本研究では、手話から日本語への同時通訳(読み取り通訳)の量的な側面を明らかにするために、訳出率と変換作業について分析を行った。分析対象とした手話話者の発話の文節数は307文節であり、各通訳者5名が発話した文節数は207~283文節であった。訳出率は41.7%~71.8%であり、通訳資格をもつ者の中でも差が大きいことが示された。通訳者は重要語を選択的に訳出しており、訳出率の高い通訳者は少ない発話数で効率よく訳出を行っていることが推察された。訳出における変換作業は「同等」「言い換え」「付加」「省略」「誤り」に分類され、「言い換え」や「省略」では、通訳者が共通して選択する文節があることが示された。
著者
小野 昌彦 小林 重雄
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.355-362, 2002
被引用文献数
3

中学3年生女子不登校S(14歳)へ再登校行動の形成・維持を目的として介入を実施した。Sは、不登校発現前の不登校に至る要因として主張的スキルの欠如が考えられた。Sの対人関係困難場面からの回避行動へ正の強化刺激が随伴してしまったことにより、不登校が誘発されたと考えられた。Sへの再登校のための介入として、学習指導、体力訓練、登校行動の再形成、再登校行動維持のために主張的スキル訓練を実施した。また、家庭指導、学級担任への助言も実施した。6期(7か月間)、51セッションの介入の結果、再登校した。予後も良好であった。Sおよび家庭への総合的アプローチの有効性が示唆された。本研究において登校行動を維持する目的で体力、学力、再登校状況に関する情報を収集する必要性が示唆された。
著者
土屋 立 山本 淳一
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.38, no.6, pp.33-49, 2001

Referential looking was defined as the behavior chain in which the child looked at the stimulus, then looked at the listener's face, and again looked at the stimulus. The purpose of this study was to examine in children with autism the conditions for establishing referential looking, pointing to the object, and a verbal and non-verbal response to direct the listener's attention to the object. The listener, sitting facing the child, replied to the children's communicative responses using a time-delay procedure. The stimulus was presented where the child could see it, but the listener could 'not'. The results showed that spontaneous referential looking with pointing was established by manipulating environmental conditions, such as use of a setting in which the listener did not 'know' the presented stimulus, and the time-delay procedure, which facilitated spontaneous responses from the child. The declarative verbal and non-verbal behavior, which might have a function for guiding the listener's face in a more accurate direction toward the stimuli, occurred without any instruction. These results were discussed in terms of the function of environmental stimuli and the behavioral mechanism of joint attention in children with autism.
著者
新美 明夫 植村 勝彦
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.1-12, 1984-09-30

先に構成した学齢期心身障害児をもつ父母のストレス尺度(植村・新美、1983)について、その因子構造と、障害児の加齢に伴う変化を明らかにすることを目的として、調査・分析を行った。父母各31下位尺度について、主因子解/バリマックス回転の結果、母親は、問題行動と日常生活、将来不安、人間関係、学校教育、夫婦関係、社会資源、療育方針の7因子、父親は、人間関係全般、現状と将来、社会資源と地域社会、学校教育、問題行動、健康状態の6因子を抽出した。次に、障害児の加齢に伴う因子構造の変化を探るべく、障害児の学年によってサンプルを父母各3群に分け、おのおのの因子構造を比較した。その結果、母親は7因子中5因子、父親は6因子中4因子が、3群すべてに共通する因子と判断された。他の因子については、障害児の加齢に伴って因子構造に変化がみられ、その多くが小学校低学年と高学年の間に起こることが指摘された。
著者
江田 裕介 平林 ルミ 河野 俊寛 中邑 賢龍
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.257-267, 2012 (Released:2013-09-18)
参考文献数
29
被引用文献数
1

特別支援学校(知的障害)高等部に在籍する軽度障害の生徒201名を対象として、視写書字速度とその正確さを測定した。生徒は漢字の含有率が異なる小学3年生水準と6年生水準の文章を、有意味文と無意味文の条件で3分間ずつ書き写した。生徒の書字数の平均を、課題の (1) 学年要因、(2) 意味要因、および (3) 生徒の性別の3要因で分析した。その結果、3年生水準では有意味文の視写が無意味文の視写より速いが、6年生水準では意味要因による差を生じなかった。生徒の性別では、どの条件でも女子の書字数が男子より多かった。また、同時に調査を実施した障害のない成人の平均書字数を2標準偏差下回った。視写速度と正確さについてエラーを調べたところ、エラーのない生徒の書字速度はエラーのある生徒より遅かった。一方、エラーのある生徒のエラー率は書字速度と負の相関がみられた。文の意味を記憶しながら書く方略が弱く、1文字ずつ転写する傾向があり、特別支援学校生徒には正確だが速度が遅いという特徴が多くみられた。