著者
楠見 友輔
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.213-222, 2016
被引用文献数
1

本稿では、異なる学校や学級に在籍する障害児と健常児の直接的交流を射程とし、わが国の交流教育に関する研究の課題と今後の展望を示した。筆者は交流教育の先行研究をその目的によって、1. 交流経験とその効果の関係を検証する研究、2. 交流の実施状況や交流に対する意識の実態の調査、3. 実践の開発を志向した事例分析、4. 交流計画や実践の報告の4領域に整理し、その知見をまとめた。今後の展望は4点に整理された。第一は、形式・内容・構造の違いによる目的・効果の差異を考慮することである。第二は、集団間接触理論の知見との結合により、効果的な交流の条件を解明することである。第三は、事例研究と態度研究の併用によって、交流の過程と効果の関係を明らかにすることである。第四は、障害児と健常児の交流機会を継続的に確保し、全学校種・障害種における交流の効果や有効な方法を検討することである。
著者
大石 幸二
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.47-56, 2016 (Released:2019-03-19)
参考文献数
59
被引用文献数
1

行動コンサルテーションとは、応用行動分析や認知・行動療法の考え方に基づく間接援助モデルである。本論文では、行動コンサルテーションに関するわが国の研究と実践を概観し、今後の課題を指摘した。学会誌に発表された研究論文はその数が少ないが、関係者の相談行為が相互に強化されるような介入研究の増加が求められる。一方、大学・研究機関の紀要に発表された実践報告は大学教員が主導するものが多いが、実践家による成功を修めた実践報告の増加が求められる。行動コンサルテーションの理論と技法がわが国に導入されてから10年が経過した現在、この間接援助モデルは、着実に発達障害児の指導・支援に活用されつつある。今後は、相談過程の詳細な分析と、長期的維持・般化の検討が、行動コンサルテーション研究の発展に欠かせないであろう。
著者
有川 宏幸
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.265-275, 2009-11-30 (Released:2017-07-28)

応用行動分析学に基づく自閉症児への介入法は、有効性が認められてはいたものの、米国心理学会臨床心理学部会が示した「十分に確立された介入法」としての基準を満たしていなかった。しかし、それに準じる介入法として注目されていたのがUCLA早期自閉症プロジェクト(UCLA YAP)であった。Lovaas(1987)は、UCLA YAPを4歳未満の自閉症児に週40時間、2〜3年にわたり行ったところ、47%が標準範囲のIQに達したことを報告した。この結果は前例のないものであったことから、多くの研究者に精査され、自閉症からの「回復」という表現の問題や、無作為割付けの有無といった実験手続き上の問題などについて批判を浴びることとなった。そのため追試・再現研究は、可視的に、科学的な厳密さをもって実施されており、こうした批判への反証データも示されるようになっている。しかしながら、この成果については依然として不明な点も多く、「証拠」(evidence)に基づく継続的議論が必要であろう。
著者
涌井 恵
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.381-390, 2013 (Released:2015-03-19)
参考文献数
38
被引用文献数
1

本稿では、おもにLD児を対象に含む通常の学級における協同学習の研究動向について概観し、今後の研究の課題について探った。協同学習は単なるグループ学習ではない。協同学習の5つの基本要素を満たすことで、学力のみならず、社会性、仲間の受容、多様性の理解、高次の思考スキルの促進など、さまざまな効果を及ぼすことができる。学習障害(LD)等の障害のある子どもにも活用される協同学習の代表的な教授モデルについて整理した。また先行研究において協同学習にはどのような効果が示され、今後LD児等を対象にした研究が進展していくためには、どのような課題があるのかを論考した。
著者
金谷 京子
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.31-37, 1994-03-31

本研究は対人行動に問題を持つ、軽度の発達障害幼児にパートナーとの2人学習の場面で1年9ヵ月の間、社会的スキルの獲得のための指導を行った経過を通して、そのプログラムと指導法について検討したものである。指導法には、行動修正技法を用い、初期の段階では、個別的課題を2人で同じ机上で移行し、お互いを観察すること、模倣することを強化した。第2段階では、パートナーとの共同作業やゲームを増やし、適切な言語伝達法を学習させるとともに、ルールの理解や競争意識の喚起を促した。そして最終段階では、ごっこ遊びやゲームを通して相手への援助行動や協力行動を強化し、子ども同士の相互作用を促して、教師の介入は漸次撤去していった。以上の結果、対象児の注目行動の定着、適切なコミュニケーション手段の獲得、相手との協力・援助行動の増加をもたらした。
著者
北 洋輔 田中 真理 菊池 武剋
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.46, no.3, pp.163-174, 2008-09-30 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
1 2

発達障害に対する正しい認識と適切な支援を導くために、広汎性発達障害児と注意欠陥多動性障害児を中心にして、発達障害児の非行行動発生にかかわる要因について研究動向を整理し、問題点と今後の改善点を指摘した。先行研究からは、個体の障害特性に密接にかかわる非行行動の危険因子と障害を取り巻く環境の危険因子が指摘された。だが、危険因子に着目した取り組みは、非行行動にかかわって発達障害児本人と親・関係者に対する支援を進める際の社会的意義を十分に達成できない問題点がある。その改善点として、非行行動の保護因子の導入と発達障害児の内面世界への着目が挙げられた。
著者
高橋 智
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.33-43, 1997-06-30

「精神薄弱」概念の理論史研究の一環として、戦前を代表する呉秀三・三宅鑛一・杉田直樹らの精神病学書を素材に、19世紀末から昭和戦前期までの精神病学における「精神薄弱」概念の形成過程とその特質を検討した。その結果、(1)クレペリン精神病学体系はわが国の「精神薄弱」の成立に影響を与え、「白痴・痴愚・魯鈍」の三分類法の確立や「精神薄弱」の疾病から障害への転換の重要な契機になった。(2)「精神薄弱」の精神病学的診断や定義における知能測定法の適用の問題として、三宅鑛一の提起により、クレペリン精神病学体系による医学的診断を基礎に知能測定法はその補助手段として活用され、1930年代末にはクレペリン精神病学体系と知能測定法の併用方法が採用された。(3)「精神薄弱」児の生活年齢・経験のもつ発達的意味に光を当てた杉田直樹の知能と社会生活適応性の二次元による「精神薄弱」の概念規定は、戦前の到達点であり、戦後の「精神薄弱」概念にも影響を与えた。
著者
佐藤 曉
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.23-28, 1997-03-31 (Released:2017-07-28)
被引用文献数
1

本研究は、漢字書字に困難を示した学習障害児における漢字の書字指導と学習過程を分析した。その結果、漢字形態の構成要素を視覚的に分節化してとらえることやそれらを空間的に配列する構成行為のまずさが、漢字視写の困難をもたらしていることが示された。これに対し、漢字を構成する十の要素(宮下,1989)に注目して漢字の形態をとらえさせるとともにこれらの要素の運筆技能を習得させたところ、漠字視写や直接練習の対象としなかったかな書字に大きな改善が見られた。一方、漢字の書き取りの困難は、視覚的な記憶の問題と深い関わりがあることが示唆された。そこで、漢字一つ一つについて構成要素を言語化させることによって視覚的記憶のまずさを補ったところ、書き取りの成績が向上した。さらに、書き誤りの多い漢字については、書字過程におけるメタ認知やモニター機能(海保・野村,1983)に着眼して指導することによって、書字の誤りが軽減された。
著者
栗田 季佳 楠見 孝
出版者
The Japanese Association of Special Education
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.49, no.5, pp.481-492, 2012
被引用文献数
3

障害者に対する態度は両面価値的であるといわれているが、その構造は、明確にはわかっていない。本研究は、障害者に対する両面価値的態度について、態度の現れ方に関する表明次元と、態度の内容に関するステレオタイプ内容次元という2つの視点から検討した。大学生・大学院生30名に対して、潜在的および顕在的な障害者に対する評価、能力ステレオタイプ、人柄ステレオタイプを測定した。その結果、表明次元にかかわらず障害者に対して、ネガティブな能力ステレオタイプ(能力が低い)とポジティブな人柄ステレオタイプ(あたたかい)が存在することがわかった。障害者に対する評価は表明次元によって異なり、顕在的にはニュートラルであったが、潜在的にはネガティブであった。これらの結果は、障害者に対する両面価値的態度が表明次元と内容次元に生じていることを示している。
著者
大久保 賢一 井上 雅彦 渡辺 郁博
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.29-38, 2008-05-31
被引用文献数
1

本研究では自閉症児・者の保護者を対象に子どもの性教育に関するニーズ調査を実施した。調査では、性教育の必要性、性教育が必要であると考えられる時期、必要とされる性教育の内容、そして保護者の学習の場の必要性とその形態に関して質問を行った。その結果、大部分の保護者が子どもに対する性教育の必要性を認識しており、小学校(小学部)高学年から性教育が必要であると回答した保護者が最も多かった。必要とされる性教育の内容については、子どもの生活年齢、知的障害合併の有無、性別に関連して保護者の回答に違いがみられた。また、大部分の保護者が、子どもの性教育に関する保護者自身の学習の場を望んでいることが明らかとなった。保護者の性教育に対するニーズの実態、そして今後の課題について考察を行った。
著者
福田 友美子 田中 美郷
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.17-26, 1986-12-29
被引用文献数
2

6〜11歳の聴覚障害児40名(平均聴力レベル50〜130dB)を対象にして、文のイントネーションと単語のアクセントを検査材料に用いて、発話の音声サンプルを録音した。それらの基本周波数を観測し、疑問文と平叙文の分末の音程の変化の差や単語のアクセント型による前後の音節の音程の変化の差を分析した。一方、各検査項目についての発話の品質を、聴覚的に判定して、正しい発話と誤った発話とそれらの中間の発話に分類した。そして、これらの音響的分析の結果に基づいて、標準的な発話の場合の音声の性質を参照して、正しい発話の領域を設定すると、聴覚的判定の結果と良く対応した。従って、このような音響的分析の結果から、文のイントネーションや単語のアクセントの品質を客観的に評価できることが示されたことになる。さらに、このような評価方法より得られた結果と対象児の聴力レベルの特性との関係を調べたところ、発話の声の高さの調節は低い周波数域の聴力レベルと密接に関連しており、250Hzと500Hzでの聴力レベルで境界を設定することによって、高さの調節能力を予測できることが示された。
著者
関戸 英紀
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.35-45, 2004-05-30
被引用文献数
1

通常学級に在籍する自閉的傾向と知的障害のある小学校5年生の男児に対して、(1)対象児に対する個別的な支援、(2)学級担任に対するコンサルテーション、(3)全校の教師の対象児に対する理解の促進、(4)学級の他の児童の対象児に対する理解の促進、という4つの観点から約9か月間(24セッション)支援を行った。その結果、対象児と支援者との間で、交渉的なやりとりや役割交代が成立するようになり、学習態度の形成も可能となった。学級担任も、対象児の実態に基づいた、一貫性のある対応が可能になった。また、対象児の所属学年にかかわりのある教師の問でも、対象児への対応が統一されていった。さらに、学級の他の児童の対象児に対する対応も、肯定的になってきた。以上のことから、共感的関係を基盤にしながらやりとり行動を形成していったことの妥当性、巡回指導および小・中学校と関係機関とが連携・協力することの有効性、校内支援体制を構築することの必要性などが検討された。
著者
田実 潔
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.109-118, 2001-03-31
被引用文献数
1

知的障害養護学校中学部に在籍している3名の自閉症児を対象に、他の知的障害養護学校の生徒と、テレビ会議システムを利用して1週間に2回、約2か月の間、計16セッションの交流を行った。交流相手は軽度の発達遅滞児であり、「テレビ会議」ルーティンにおいては、弁別刺激となる言葉の使用に問題のない生徒たちであった。対象となった自閉症児は、日常の生活の中で反響言語的な応答発話やパターン化した非応答的発話が目立つ生徒であり、質問に対して適切な応答的発話の獲得が望まれている生徒たちである。標的行動は5種類であり、応答的言語行動はReturn型、許可型、What型に分類され、1、2セッションをベースライン期、Return型応答的言語行動と、What型応答的言語行動のうちの自分の名前を聞かれる弁別刺激に対する標的行動がほぼ100%獲得された6セッションまでを第I期、すべての標的行動の正反応率が100%となった14セッションまでを第II期、15、16セッションを第III期(プローブ)とした。約2か月後に、標的行動について教師が「テレビ会議」ルーティンでの相手役になり般化を調べたが、標的行動(1)と(2)および(4)では100%の正反応率となり、標的行動(3)と(5)ではそれぞれ3名中2名が正の応答的発話を維持していた。自閉症児の応答的発話については、指導者との1対1の指導体制から応用行動分析の手法で指導がなされることが多かった。今回、知的障害養護学校の生徒同士の交流(テレビ会議ルーティン)から複数での応用行動分析手法による指導を行ったが、1対1の構造化された指導場面でなくても、標的行動を明確に分析し、強化していくことで自発的な応答的発話が形成されることが示された。特に、What型応答的言語行動では、標的行動を自閉症児がわかりやすい具体物に設定することで、応答的発話が獲得されやすいことが示された。また、テレビ会議では、社会的相互作用に困難を示す自閉症児の場合でも、通常のやりとり行動では視覚的に確認できない自分の姿を、交流相手の姿とともにリアルタイムで、しかも動画で視覚情報として提供されることになり、自閉症児の興味関心を持続して保つことができ、応答的発話獲得に有効な手段であることが示された。
著者
大塚 玲 宮坂 由喜子 神園 幸郎
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.13-22, 1991-06-30

優れた暦計算能力をもつ自閉症者4症例に対して、その暦計算の処理機構について検討した。その結果、次のような知見を得た。1.本研究で対象とした4症例すべてにおいて、優れた記憶機能が介在していた。したがって、暦計算能力の出現の背景には優れた記憶能力の存在が想定された。2.暦計算能力の差異性を規定しているのは、暦の記憶範囲における違いもさることながら、暦の規則に関する知識量および暦の規則を利用した演算アルゴリズムの洗練度合に負うところが大きい。3.上記の観点から暦計算者の方略は、全面的な記憶依存による記憶依存型、簡単な暦の規則の適用によって記憶範囲外の年代を補う規則利用型、暦の構造から独自の演算方略を編み出し、利用するアルゴリズム主導型の3タイプに類型化された。
著者
鈴木 滋夫 武田 鉄郎 金子 健
出版者
一般社団法人 日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.39-48, 2008
被引用文献数
1 3

本調査の目的は、特別支援学校<病弱>におけるLD・ADHD等で適応障害のある生徒の実態把握および実際の支援の状況を調査することであり、全特別支援学校<病弱>94校に在籍するLD・ADHD等で適応障害のある生徒を対象とした。特別支援学校<病弱>の60.5%にLD・ADHD等(もしくはその疑いがある)で適応障害のある生徒が在籍し、生徒数の11.4%が該当の生徒であった。3年間でほぼ倍増している。彼らは多くの困難を抱えて転入してくる(前籍校では、85.7%が登校状況に問題あり等)が、特別支援学校におけるさまざまな支援を通して、改善の状況(担任の85.5%が「かなり改善」「一部改善」と回答)にあることが明らかになった。しかし、進路指導については、制度上の問題も含め、多くの課題を抱えている。これら調査結果をふまえ、在籍状況、生徒の実態、指導上の困難とその支援、進路指導の視点から考察を行った。
著者
田辺 恵子
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.29-35, 2001-01-31
著者
夏堀 摂
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.11-22, 2001-11-30
被引用文献数
7

本研究の目的は、障害種別による母親の障害受容過程の差異を検討することである。対象者は、自閉症児の母親55名とダウン症児の母親17名。調査は質問紙法を用い、選択方式および自由記述方式で回想法により回答を求めた。その結果、以下の点が明らかになった。(1)種別によって、障害の疑い、診断、療育開始の時期、心理的混乱がもたらされる時期に有意差が認められた。(2)受容までに要する時間は、ダウン症群に比べ自閉症群の方が有意に長かった。(3)障害種別間で有意な関連が認められた7つの変数は、診断の困難さに関係している変数であった。(4)自閉症児の母親の心理的反応には、障害の疑いから診断までの第一次反応と診断後に生じる第二次反応があった。診断が確定され障害認識に至っていても新たな問題の生起によって、母親の障害受容は阻害されていた。
著者
村本 浄司 園山 繁樹
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.111-122, 2010-07-31

本研究では、施設に入所する、多飲行動、自傷や便踏みなどの激しい行動問題を示す自閉症者1名に対して、PECSを用いて代替行動を形成し、形成された代替行動を日常生活に応用することによって行動問題が軽減するかどうかを検討した。機能的アセスメントによって対象者の行動問題の機能が要求や注目の機能を有しているという仮説が導かれた。支援Iにおいて、対象者の代替行動を形成する目的でPECSにおけるフェイズIIIまで実施した。その結果、必要な写真カードによる要求言語行動を獲得することができた。支援IIでは、日常場面において多飲行動への代替行動として写真カードを導入することで相対的に多飲行動が減少するかどうかを検討した。その結果、対象者の多飲行動は減少し、このアプローチの有効性が示唆された。支援を行ううえで職員の注意は常に対象者に向けられる必要があったため、職員の注目が確立操作として作用し、注目の機能を果たす行動問題の強化効力を低減した可能性がある。