著者
藏澄 美仁 堀越 哲美 土川 忠浩 松原 斎樹
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.5-29, 1994-04-01 (Released:2010-10-13)
参考文献数
41
被引用文献数
60

日本人の体表面積の現状を把握するために, 45人の青年の体表面積を実測し比較・検討を行った.実測は, 体表解剖学上の区分に従って区分された区域毎に, 直接非伸縮性の粘着テープを貼付することで行った.その結果, 1) 性別による体表区分面積の間に有意な差が認められた.また, 同様に体型別による体表区分面積の間にも有意な差が確認された.2) 体表面積算出式の根拠となっているDuBoisら, 高比良, 藤本・渡邊らの行った実測値と本実測値との間に有意な差が認められた.3) 身長や体重といった身体諸値の一要因による体表面積の推定値は, 身長と体重の両方を構成要素とする算出値に比べ, 実測値との偏差が大きくなる傾向がある.4) 実測の結果より, 現在の日本人に最も適合性のある体表面積の算出式として, S=100.315W0.383H0.693を提案した.また, 日本人に対してDuBoisの体表面積算出式の定数項を修正した結果, S=72.18W0.425H0.725を提案した.
著者
藤井 直人
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.3-13, 2022-07-30 (Released:2022-09-03)
参考文献数
64

夏の暑い日には汗が出て,不快に思う人も多いかもしれないが,発汗は体温調節反応として重要な役割を果たし,我々にとって欠かせない機能の1つである.発汗研究はin vitroでの実験を中心に行われ,その結果,汗生成の様々なメカニズムが明らかとなった.しかし,in vitroでの汗腺の応答が,体温上昇時のヒトの発汗応答と必ずしも同様であるとは限らない.本総説では,in vitroの汗腺の研究結果を紹介しながら,最近の in vivoにおけるヒトの発汗メカニズム研究の知見について概説する.
著者
黒島 晨汎
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.25-34, 2003 (Released:2003-06-06)
参考文献数
6

体温の認識から,体温計の開発,発熱を含む体温調節反応の発見とそれらの調節機序の解明に至るまでの体温医学の歴史的発展について概観した.
著者
福永 篤志 小山 英樹 布施 孝久 原口 安佐美
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.127-133, 2021-03-31 (Released:2021-04-23)
参考文献数
16

脳梗塞の発症メカニズムは明らかでなく予防法も確立されていない.今回,rt-PA療法が施行された比較的重症な脳梗塞初発例を対象に脳塞栓(A群)と脳血栓(B群)に分類し,発症時刻と月,当日の気圧配置パターンを調査し,両群の発症の違いを統計学的に分析した.平均気温が最も高かった7~9月は,B群が有意に多かった(p=0.0248,フィッシャーの直接確率法.以下同じ).時間帯は,午前6~7時はB群が有意に多く(p=0.0357),午後2~7時と午後11~午前5時はA群が有意に多かった(p=0.007,p=0.0467).気圧配置パターンは,その他高気圧型(移動性高気圧型,帯状高気圧型のどちらにも分類できない高気圧型)がB群に有意に多かった(p=0.0166).脳梗塞の主な原因は動脈硬化と不整脈であるが,気象変化や生活リズムなどの体外環境の影響で脱水状態等となり突然血栓・塞栓が形成されてしまう可能性がある.脱水予防のため適時適度な飲水補給等の指導が必要だろう.予防法の確立に向け,さらなる調査に期待される.
著者
前田 亜紀子 山崎 和彦 野尻 佳代子 栃原 裕
出版者
Japanese Society of Biometeorology
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.103-112, 2006

本研究の目的は,濡れた衣服を着用したときの体温調節反応について観察することであった.被験者は健康な成人女子11名であった.人工気候室は,気温30,25,20℃(相対湿度は80%一定)に制御された.衣服の様式は,スウェット上下(様式 S)と T シャツおよび短パン(様式 T)とし,気温と衣服の条件より 5 種条件(30S, 30T, 25S, 25T, 20S)を設定した.衣服の濡れ条件は,D(乾燥),W1(湿った),W2(びしょ濡れ)の 3 種とした.条件 D, W1, W2 における全衣服重量の平均は,様式 S では各々819, 1238, 2596 g,様式 T では各々356, 501, 759 g であった.各濡れ条件において,安静期と作業期を設けた.作業期における踏み台昇降作業のエネルギー代謝率は2.7であった.測定項目は,酸素摂取量,直腸温(Tr),平均皮膚温(Tsk),および主観申告値とした.酸素摂取量は,衣服重量および寒冷ストレスの影響を受けて変化した.Tr の値は,条件 25T と 20S では漸減した.Tsk は環境温に依存して漸減し,特に条件 20S においては著しく低下した.本研究の要点は次の通りである.1)濡れた衣服を着用した場合,気温30℃では着衣の工夫により温熱ストレスは最小に止めることができる.2)気温25℃以下では,軽装の場合,寒冷ストレスが生じ得る.3)衣類が乾燥状態であれ濡れた状態であれ,全身温冷感が中立であるとき,Tsk は約33℃であった.4)濡れた衣服条件における特色は,全身温冷感が「冷たい」側へシフトするとき,平均皮膚温が著しく低下することである.<br>
著者
江頭 和道 鈴木 尊志 阿部 和彦
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.65-70, 1986-10-15 (Released:2010-10-13)
参考文献数
10
被引用文献数
3

Seasonal variation of suicidal deaths in Japan for 1900-41 and 1947-82 was studied. As suicide seasonality index, we used the sum of deviations of the monthly suicidal rates from the annual average, which was normalized to 100. The long-term trend of the suicide seasonality was negatively correlated to the logarithm of the per capita GNP. The correlation coefficient between them was -0.83 for men and -0.88 for women, respectively (p<0.001) . Elimination of the effect of GNP on suicide seasonality by using the regression line of the latter on the former lead to the “corrected” suicide seasonality. The short-term fluctuations of five-year moving averages of the corrected suicide seasonality resembled to those of annual hours of sunshine. The correlation coefficient between them was 0.69 for men and 0.64 for women, respectively (p< 0.001) . The corrected suicide seasonality was similarly correlated to the sunshine seasonality, and the correlation coefficient between them (each, five-year moving averages) was 0.51 for men and 0.41 for women, respectively (p<0.001) . Although these values are smaller than those obtained for the correlation of the corrected suicide seasonality to the annual hours of sunshine, the differences are not significant. One possible explanation is that annual hours of sunshine and/or sunshine seasonality influence the suicide seasonality and that the two sunshine factors are proportional to each other. With a moving average period more than three years, we obtained significant correlation coefficient between the corrected suicide seasonality and annual hours of sunshine. We discussed the limitation of this study and proposed future studies on the association of suicide with sunshine.
著者
鷹股 亮
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.57-64, 2017-09-01 (Released:2017-10-16)
参考文献数
27

体液の浸透圧と量は浸透圧調節系と容量調節系で調節されている.浸透圧上昇時には口渇とバソプレッシン分泌による腎臓での水の再吸収の亢進により浸透圧が調節される.エストロゲンは,口渇を抑制する作用が報告されているが,浸透圧調節機能に及ぼすエストロゲンの影響についてはわからない部分も多い.容量調節系は主に体内のナトリウム量を調節することにより行われる.エストロゲンとプロゲステロンはともに血漿量を増加させるが,そのメカニズムは異なる.また黄体期は立位時の下肢静脈への血液の貯留と血管外への水の漏出を促進する.しかし,女性ホルモンの体液調節系に及ぼす影響については未だに不明な点が多い.
著者
相原 まり子 入來 正躬
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.30, no.4, pp.159-168, 1993-12-01 (Released:2010-10-13)
参考文献数
34
被引用文献数
4

I.腋窩温について検討した.腋窩温10分値の平均値と標準偏差は, 36.67±0.36℃ (n=827) であった.左右差は認められなかった.しかし腋窩には温度勾配があり, 閉鎖30分後においても, 部位による有意差が認められた.個人差も大きかった.従って, 点として測定した値は再現性に乏しく, 平均的な温度を測定しうる水銀体温計のような体温計で測定することが必要と考えられる.II.口腔温について検討した.口腔温5分値の平均値と標準偏差は, 36.96±0.28℃ (n=242) であった.口腔内にも温度勾配が存在し, 舌下に最高温部があった.舌下であれば左側, 中央, 右側で有意差はなく, この部での測定が, 望まれる.III.口腔検温と腋窩検温を比較した.口腔温の方が腋窩温より有意に高かった.口腟の血流量は腋窩の血流量より有意に多かったことから, 口腔温の方が腋窩温より, 腔閉鎖後早く平衡に達することが説明できる.腋窩温, 口腔温とも正しく測定すれば, 核心温の指標として用いることができるが, 口腔温の方が短時間で測定できる点で優れている.
著者
辻 道夫 久米 雅 芳田 哲也
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.127-139, 2015-01-10 (Released:2015-01-29)
参考文献数
27

湿球黒球温度(Wet Bulb Globe Temperature, WBGT)28℃以上の輻射環境下において,四肢部露出の有無が運動時の温熱ストレスに与える影響を明らかにすることを目的として 7 名の被験者を対象に実験を実施した.輻射環境はスポットライト 2 基を用いて WBGT 28.3±0.1℃を設定し,着衣は長袖・長ズボン(L 条件)と袖なし・半ズボン(S 条件)の 2 条件で最大酸素摂取量の 20% と 50% 負荷の自転車漕ぎ運動を 20 分間,5 分間の休息を挟んで 3 回実施した.その結果,20% 時および 50% 時における食道温,平均皮膚温(Tsk),平均体温,衣服内温度・湿度,総発汗量,および運動後半の温冷感と主観的運動強度は着衣条件による顕著な差異は認められなかった.しかし,L 条件における Tsk の安静時からの上昇度(ΔTsk)や上腕,前腕,下腿の皮膚温は S 条件に比べて両運動時共に有意に低く,さらに 20% 時の心拍数は,L 条件が S 条件よりも有意に低くかった.したがって,WBGT 28℃以上の輻射環境下における中程度運動時の温熱ストレスは四肢部露出の有無による顕著な差異は認められないが,軽運動時には四肢を衣服で覆うことにより皮膚温や心拍数の上昇を抑制し,温熱ストレスを軽減できる可能性が示された.
著者
松本 勅 寺沢 宗典 田和 宗徳 山川 緑 西川 弘恭 森本 武利
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.17-25, 1990-04-01 (Released:2010-12-10)
参考文献数
20

寒冷刺激に対する足趾の反応の特性を明らかにするため, 男性25名の左第一趾と示指の同時氷水浸漬時の寒冷血管反応を測定し, 比較検討した.同室温 (25~26℃) にもかかわらず, 浸漬前皮膚温は示指で4.5℃, 第一趾で9℃の個体差があり, 第一趾皮膚温は示指のそれに比べて有意な低値を示した.浸漬後の第一趾の皮膚温下降の時定数は示指の1.8倍で有意に大きく, 上昇発現時間は有意に長く, 浸漬中平均皮膚温は有意に低い値を示した.浸漬前皮膚温が等しいグループ間の比較においても指趾の反応には有意な差が認められた.浸漬前の足底深温部は手掌深部温に比して有意に低く, 浸漬中は共に有意な下降を示した.浸漬終了20分後に手掌深部温は速やかに回復を示したが, 足底深部温は測定終了までには回復しなかった.足趾と手指の反応の差異には, 両部位の体積差 (足趾が手指の約2.2倍) に基づく組織熱容量の相違等の関与が示唆された.
著者
星 秋夫 稲葉 裕 村山 貢司
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.3-11, 2007 (Released:2007-07-02)
参考文献数
22
被引用文献数
5

東京都と千葉市における 2000~2004 年の熱中症発生について解析した.熱中症発生率は東京都(人口 10 万対:4.4 人)よりも千葉市(9.4 人)で高かった.年齢階級別熱中症の発生は両都市共,5~19 歳と 65 歳以上とに,発生のピークを示す二峰性を示した.5~19 歳における熱中症発生は東京都,千葉市共に平日よりも日曜日,祭日で多かった.千葉市において,スポーツ時の発生は大部分が 5~19 歳であった.高齢者(65 歳以上)では大部分が生活活動時に発生した.熱中症の発生した日の日最高気温分布は東京都よりも千葉市で低温域にあった.日最高気温と日平均発生率との間に東京都と千葉市にそれぞれ異なる有意な相関関係を認め,千葉市で急勾配であった.日最高気温時 WBGT 分布は東京都と千葉市で同様であり,東京都と千葉市における日最高気温時 WBGT と日平均発生率との間に有意な相関関係を認めた.多重ロジスティックモデルの結果,日最高気温時 WBGT,日平均海面気圧,日照時間,降水量の因子について有意性を認めた.
著者
山仲 勇二郎
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.69-81, 2016-07-01 (Released:2016-08-08)
参考文献数
44

私たちの行動(睡眠覚醒),血圧,ホルモン分泌などの生理機能を長時間にわたり観察すると明瞭な 24 時間リズム(概日リズム)がみられる.概日リズムの発振源は,内因性の自律振動機構である生物時計である.ヒトを含め哺乳類の生物時計は,視床下部の視交叉上核に存在する中枢時計と肝臓,肺,心臓など全身の末梢組織に存在する末梢時計からなる階層構造をもつ.生物時計の役割は,外部環境への同調と生理機能を時間的に統合することであり,ヒトが昼間に活動し夜間に睡眠をとるのに最適な体内環境を整えている.しかし,生活環境および生活リズムが多様化した現代においては,生物時計の支配に逆らった生活を余儀なくされるものも少なくない.睡眠や生体リズムの不安定化は,エネルギー代謝障害や気分障害等と関連することが報告されている.本論では,ヒトの生物時計の基本性質について解説すると共に,光環境,食習慣,運動習慣といった生活環境が生物時計に与える影響について紹介する.
著者
永坂 鉄夫
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.3-13, 2000 (Released:2002-02-28)
参考文献数
67
被引用文献数
1

動物には高体温時に体温とは独立して脳を冷却する機構がある.この選択的脳冷却(SBC)はヒトにも存在し,鳥類,哺乳類に普遍的な機構である.ヒトは多くの動物にみられるような頚動脈網をもたず,頭蓋内で強力な対向流熱交換が期待できないとする意見もあるが,ヒトでは導出(眼角—眼)静脈の血流の増加と分時換気量の増加がこのSBCに大きく貢献する.ヒトでSBC機構が有効に作動するためには,導出静脈や眼角静脈を経て頭蓋内に還流する静脈血が,頭部の汗の蒸発と上気道粘膜での水の蒸発により十分冷却される必要がある.このような事実を十分理解し応用することにより,極端な高温環境下での作業,スポーツ,あるいは温熱療法時のヒトの健康と快適性,パーフォーマンスの向上を図りうるが,その具体策につき提言した.ヒトの脳温測定の目的で用いる鼓膜温の有用性についても考察した.
著者
望月 宏美 山口 隆子
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.135-141, 2021-03-31 (Released:2021-04-23)
参考文献数
15

ツマグロヒョウモンの著しい生息域の拡大は,地球温暖化の影響として広く一般に知られている.一方,近年,本種の食草であるスミレ類(パンジー等)の増加も一要因ではないかと言われているが,実際に双方の関係性に関する研究論文は少ない.本研究では,ツマグロヒョウモンの北上を,冬季の最低気温の上昇とパンジーの栽培地域の拡大という観点から複合的に考察した.その結果,1990年代初頭のガーデニングブームを契機に,パンジーの栽培地域は顕著に拡大した事が分かり,全国的な冬季の最低気温の上昇と共に,ツマグロヒョウモンの北上を助長した可能性が示唆された.
著者
松本 孝朗 小坂 光男 菅屋 潤壹
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.36, no.2, pp.65-69, 1999-08-01 (Released:2010-10-13)
参考文献数
20
被引用文献数
1

暑熱に繰り返し暴露されると, 暑熱による負荷を軽減する適応が生じる.規期の暑熱順化では, 発汗能の亢進により熱耐性が獲得される.一方, 長期暑熱順化した熱帯地住民は, 非蒸散性熱放散能に優れ, 少量の発汗で有効に熱放散を行える.その発汗抑制には発汗中枢の活動性抑制と汗腺のアセチルコリン感受性低下の両者が関与する.発汗量を減少させる長期暑熱順化は, 暑熱環境での生存のための経済性を重視した適応戦略であり, 発汗量を増加させる短期暑熱順化は暑熱環境下での行動能率を重視した適応戦略と言えよう.後者は脱水の危険をはらんでおり, 体液・浸透圧調節の面からは, 前者が優れている.発汗反応の点からは両者は両極に位置するが, 果たして短期暑熱順化の延長線上に長期暑熱順化が位置するのか否か, 興味深い.地球温暖化が危惧されている今日, 暑熱環境への適応は重要な課題となるであろう.
著者
藤井 義晴 濱野 満子
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.40, no.1, pp.49-54, 2003 (Released:2003-06-06)
参考文献数
17
被引用文献数
1

アレロパシー(Allelopathy)は他感作用ともいい,植物が個体外に放出する化学物質が,他の生物個体に何らかの作用を起こす現象を意味し,作用物質を他感物質(Allelochemical)という.アレロパシーの作用経路の中で,生気象学と関係が深い揮発性物質による作用に関する研究を紹介する.1)植物から放出される揮発性物質を,常温吸着法により同定・定量する方法を開発した.この手法を用いて,農耕地を構成する植物から放出される揮発性物質を検定した.2)バイオアッセイによって植物由来の揮発性物質を検定する「ディッシュパック法」を開発した.3)ディッシュパック法によって,クレオメの作用成分としてメチルイソチオシアネートを同定した.4)ミレニアムプロジェクトの一環として,ヒバやヒノキ等の間伐材を原料にした樹木由来成分に含まれる生理活性物質を分析し,農業に利用する研究を,産官学共同研究として実施している.
著者
上野 照剛
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.35, no.1, pp.5-11, 1998-04-01 (Released:2010-10-13)
参考文献数
69

電磁界とは, 電界 (電場) , 磁界 (磁場) および電磁波の総称である.昨今問題になっている電磁界と生体との関りあいについての論議は低周波磁界, 特に50Hz, 60Hzの商用周波数帯域の超低周波ELF (Extremely Low Frequency) 磁界と, 携帯電話に使用される800MHz―1.5GHz帯域の電磁波に関するものが中心になっている.ここでは, 静磁界および低周波電磁界の生体影響によって研究の現状を概観し, 電磁界生体影響評価について論じる.
著者
山中 伸一 中村 泰人
出版者
日本生気象学会
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.34, no.1, pp.45-52, 1997-04-01 (Released:2010-10-13)
参考文献数
10
被引用文献数
1

北海道, 東京都, 京都市, 和歌山県, 沖縄県の5地域における肺炎・気管支炎死亡率について, その経年変化の回帰曲線から算出した値を基準に, 月別粗死亡率の偏差 (%で表示, 過剰死亡指数と呼ぶ) を用いて, 平均気温, 平均湿度, 降水量との関係を重回帰分析により検討した.その結果, (1) 5地域すべてにおいて説明変数は一つであり, 死亡指数 (正規化後過剰死亡指数) は平均気温と負の有意の相関を示した.しかも散布図によれば高温側では正の相関に変化する傾向が見られた. (2) 月別に平均した15年間の死亡指数と平均気温の関係をプロットしたスプライン曲線の観察から, 冬季の低温とともに夏季の高温が危険因子であることが明らかとなった. (3) 向暑期における死亡指数極小点に相当する気温は, 北海道: 15.0, 東京都: 22.0, 京都市: 23.0, 和歌山県: 22.5, 沖縄県: 23.5.Cで, 北海道では極小点気温が他の地域に比して低く, その差は平年気温の差にほぼ対応していた.
著者
吉野 正敏
出版者
Japanese Society of Biometeorology
雑誌
日本生気象学会雑誌 (ISSN:03891313)
巻号頁・発行日
vol.41, no.4, pp.141-154, 2004

紀元前21世紀ころから中国では季節観測,特に季節現象の継続的な観測と記述,その体系化や,農事季節を取り込んだ季節暦が作成された.このことは世界の生気候学史ではもちろん,自然科学史のなかでも注目すべき事柄である.紀元前11世紀には天気現象だけでも約200種に分類して記述していた.古代ギリシャのParapegmata(紀元前5世紀,大理石に書いた天気暦)に比較すると数百年早かった.時間スケールの細かさも中国が進んでいた.中国の季節学(中国語では物候学)は農民の農作業・農業生産に貢献するのが主目的であったから,農耕生活に関係する現象ばかりでなく,動植物季節や人間の疾病現象の季節変化についても把握し記述していた.紀元前11世紀には15日を単位とする二十四節気ができ,紀元前1世紀には5日を単位とする七十二候が完成していた.また,気候把握に重要な正常年と異常年の差に着目して占いの形式ではあるが,役所の専門の部署が季節予報を行った.俚諺の形式で農民の間に季節変化,年によるその異常発生の知識が浸透し,今日でもこれらは役立っている.<br>