著者
池上 知子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.133-146, 2014 (Released:2014-12-24)
参考文献数
75
被引用文献数
8 6

社会から差別をなくそうという長年の取り組みにもかかわらず, 現代においても依然として差別に苦しむ人たちは存在する。本稿では, この問題にかかわる社会心理学の理論や研究パラダイムの変遷を追いながら, なぜ事態が改善しないのかを考察する。その一つの理由として, 差別的行動や偏見に基づく思考は, 人間が環境への適応のために獲得した正常な心理機能に根ざしていること, その機能はわれわれの意識を超えた形で働くため, これを統制することがきわめて困難である点を指摘する。そして, それにもかかわらず, 社会心理学はそれらを意識的に制御することを推奨してきたことが, 問題をさらに複雑にする結果となっていることを議論する。最後に, 最近, われわれに楽観的見通しを与えてくれる新しい観点が登場してきたことに言及する。それらは, 伝統的接触仮説を発展させた研究と潜在認知の変容可能性を検討している研究の成果に基づいている。本稿では, これらの新しい方向性についても考察する。
著者
村山 航
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.118-130, 2012 (Released:2013-01-16)
参考文献数
50
被引用文献数
33 17

妥当性とは曖昧な構成概念を扱う心理学にとって, もっとも重要な概念の1つである。妥当性というと「基準連関妥当性」「構成概念妥当性」「内容的妥当性」という3つのタイプがあると一般に説明されることが多い(妥当性の三位一体観)。しかし, 1980年代以降の妥当性研究では, こうした妥当性のタイプ分けは適切ではなく, 「構成概念妥当性」という考え方にすべての妥当性は収斂するという考え方が主流である(単一的な妥当性概念)。本稿の前半では, こうした妥当性概念の歴史的変遷について, 思想的な背景や近年の議論などを踏まえた解説を行った。本稿の後半では, 妥当性に関するより実践的なトピックを取り上げ, 心理測定学的な観点から議論を行った。具体的には, 1. 「内容の幅の広い項目群を用いた尺度作成」というアイディアと伝統的な心理測定学的モデルの矛盾, 2. 「個人間相関」と「個人内相関」を区別することの重要性とその関係, そして3. 心理学における「尺度の不定性」が結果の解釈などに与える影響などについて議論を行った。
著者
小塩 真司
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.165-183, 2023-03-30 (Released:2023-11-11)
参考文献数
75

日本では,非認知スキルや社会情動的スキルと同様の心理的特徴の集合を「非認知能力」と呼ぶことが多い。本論文では,非認知能力について基本的な考え方を概観し,心理測定や応用可能性を含む多様な観点から問題点を論じた。非認知能力は4つの観点から概念的に定義された。まず非認知能力が認知的能力以外の多様な心理学的な特徴を含むという概念設定上の定義が確認された。続いて非認知能力の定義として測定可能性,予測可能性,介入可能性の3点が整理された。測定可能性については,信頼性と妥当性の問題,因子分析モデル,そして近年のスキルについての研究動向の問題点から論じられた。予測可能性については,帯域幅と忠実度のジレンマの観点から予測力の大きさの問題,そして社会的な結果指標の問題が論じられた。介入可能性については,介入を行う観点や立場の問題や,変化の対象となった心理特性に関連する別の心理特性の変容の可能性の問題が論じられた。以上の論点を踏まえ,今後さらに検討すべき問題が整理された。
著者
岡田 謙介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.71-83, 2015 (Released:2015-08-25)
参考文献数
61
被引用文献数
1 15

測定の信頼性は,実証的研究のおよそすべてに関わる問題である。本稿ではまず,信頼性の観点から直近1年間の教育心理学研究を概観する。近年のわが国における心理学諸分野のレビューからも確認されたように,研究場面において最もよく利用される信頼性の指標としてCronbachのα係数がある。しかし,α係数とはどのような指標なのかについては,心理学者の間で必ずしも理解がされていなかったり,誤解がされていることも少なくない。そこで本稿では,α係数がどのように解釈できる指標なのか,またどのように解釈してはいけない指標なのかを論じる。具体的には,前者についてはα係数が (1) 可能なすべての折半法による信頼性の平均であること,(2) 信頼性の下界の一つであること,(3) 本質的タウ等価の条件のもとで信頼性と一致することを述べる。後者については,α係数が (1) 大きいことが一次元性(等質性)の根拠とはならないこと,(2) 内的一貫性の指標とされることが多いが近年批判も高まっていること,(3) 項目数など様々な要因に依存すること,(4) 信頼性の「下限」ではないことを述べる。最後に,α係数に代わる信頼性の推定法と今後の展望,そして信頼性を高めるような測定の重要性を述べる。
著者
冨永 敦子 向後 千春
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.53, pp.156-165, 2014-03-30 (Released:2014-12-24)
参考文献数
57
被引用文献数
2 9

本研究では最近のeラーニングに関する実践的研究の進展を概観した。情報通信技術の進展とともに,eラーニングと呼ばれる,ネットワークとパソコンやモバイル端末を利用した教育が一般的になりつつある。本稿ではまず,従来の教育とeラーニングを活用した教育を比較した研究を取り上げ,eラーニングが従来の教育方法と同程度かそれ以上の効果があることを示唆した。次に,eラーニングがより効果的となる特質として,反復学習の最適化が可能であることと学習者に対するフィードバックがシステムとして可能であることを取り上げた。さらに,ドロップアウトが比較的多いと言われるeラーニングの短所を補うための方策として,ドロップアウトしやすい時期や学習者の特定,講師のプレゼンス,ブレンド型授業の採用,メンタリングといった観点から工夫していくことが必要であることを主張した。最後に,これからのeラーニングの課題について述べた。
著者
平野 真理
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.60, pp.69-90, 2021-03-30 (Released:2021-11-16)
参考文献数
188
被引用文献数
1 1

本邦におけるここ数年のパーソナリティ研究の動向を2つの観点から概観した。第1に,ビッグ・ファイブを用いた研究を網羅的に概観し,それらの研究の領域的・国際的な拡がりを確認するとともに,それらの知見の適用に関する限界について言及した。第2に,敏感さやダークトライアドといった,病理や不適応と親和性の高いパーソナリティに関する研究を取り上げ,そうしたネガティブな特性のもつポジティブな側面に関する知見について検討した。それらを通して「よい/よわい/わるい」性格の多様な側面に目を向けるなかで,多様な個人の共存に向けたパーソナリティ研究の必要性が議論された。
著者
光永 悠彦
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.116-127, 2020-03-30 (Released:2020-11-03)
参考文献数
101
被引用文献数
2

本稿は2018年7月から2019年6月の1年間を中心とした「測定・評価・研究法」に関連する研究成果について,その動向をまとめた。そのうえで,今後の教育測定学や教育評価の研究が,新しい大学入試制度の導入に代表される,大規模なテストの制度設計にどのように役立てられるかについて,一つの指針を示すことを目的とした。新しい高大接続のための仕組みとして導入が予定されていた,大学入学のための共通テストに英語4技能入試や記述式を導入する試みが,導入を目前にして再考を迫られている今,これまで発表されてきた「心理尺度構成」「測定法に関する方法論的検討」「テストに関連する応用・実践研究」「その他,測定・評価・研究法に関連する研究」の諸論考から,テストで測られる構成概念の必要性の議論や,測定方法の実現可能性に関する議論を充実させることと,教育測定関連の研究環境の充実や新しい分析手法の検討が今後重要になることを指摘した。
著者
村井 潤一郎
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.63-78, 2017-03-30 (Released:2017-09-29)
参考文献数
72
被引用文献数
8

本稿の目的は, 主として2015年7月から2016年6月までの期間について, 教育心理学領域における社会心理学的研究の概観をした上で, そこで用いられている研究法・統計法について考察することである。本稿前半では, 2016年に開催された日本教育心理学会第58回総会における社会心理学的研究のテーマと研究法について概観した。その結果, テーマ, 発表件数についてはほぼ例年通りの傾向であり, 大多数の研究で質問紙調査法が用いられていた。また, あわせて, 上記期間における「教育心理学研究」の社会心理学的研究についても概観した。以上を受け, 本稿後半では, 尺度作成, ウェブ調査, 重回帰分析, 事前事後テストデザインの4点から研究法・統計法について論じ, 今後の研究の改善のためにいくつかの考えを述べた。
著者
栗田 季佳
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.92-106, 2020-03-30 (Released:2020-11-03)
参考文献数
72

本論文では,過去5年間の『教育心理学研究』に掲載された特別支援教育に関連する論文を中心に,心理学にみられる障害観を考察し,インクルーシブ教育に向けた教育心理学の課題を述べた。特別支援教育をテーマとする近年の教育心理学研究は,(1)アセスメント,(2)困難が生じる心理プロセスの解明,(3)カウンセリング,(4)介入プログラムの実施と効果検証に分類された。心理学研究においては,問題と関連する説明力の高い個人の内的な安定的特性として障害(あるいは特別支援の対象となる特性)を扱っており,実証主義的方法論に基づく個人モデル的な障害観であることが示唆された。障害は心理学における心のモデルや研究方法と関係しており,心理学的な状況や環境に埋め込まれたものであって,特定の個人に由来するわけではないことを指摘した。排除されないインクルーシブ教育において,状況や場に着目する学習理論,研究者の三人称性,研究者自身の差別という課題と向き合う必要性がある。
著者
旦 直子
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.52, pp.140-152, 2013 (Released:2013-10-30)
参考文献数
105

本稿では, わが国における子どもとメディアについての近年の研究を, 1. 対象としてのメディア, 2. 環境としてのメディア, 3. 道具としてのメディア, という三つの観点から概観した。対象としてのメディア研究では, 子どものテレビ映像認識における大人と異なる様々な側面が報告されている。また, 環境としてのメディア研究については, 多くの研究者によってメディア接触が子どもにもたらすネガティブな影響が議論されているが, 最終的な結論を求めるためには実証的な研究結果の蓄積が必要である。さらに, 道具としてのメディアについては, 実践において様々なメディアを使った教育支援の試みが報告されているが, メディアの教育的利用を効果的に行うための実証的かつ体系的研究が望まれる。最後に, 現在の研究における問題点を指摘し, 今後求められる研究について論じた。
著者
木村 真人
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.56, pp.186-201, 2017-03-30 (Released:2017-09-29)
参考文献数
77
被引用文献数
5

高等教育がユニバーサル化段階に入り,在籍する学生の多様化とともに,学生支援に対するニーズも多様化している。それとともに,教育の一環という理念に基づき,学生相談は高等教育機関において果たす役割や期待が高まっている。その一方で,学生相談活動において,悩みを抱えていながらも相談に来ない学生への対応が多くの大学における必要性の高い課題となっている。そこで,本稿では学生相談活動実践における必要性の高い課題である悩みを抱えていながら相談に来ない学生の対応について,援助要請研究の視座から検討した。まず先行研究を概観し,援助要請に関連する知見の不一致および実践活動に向けては,援助要請行動のプロセスおよび計画的行動理論を援用することの有用性を示した。次に,悩みを抱えていながら相談に来ない学生への対応に向けて,学校心理学の枠組みに基づく,学生支援モデルを提案した。最後に,援助要請研究の視座から見た,大学における学生相談・学生支援の研究および実践における課題と展望を示した。
著者
岡田 猛 縣 拓充
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.59, pp.144-169, 2020-03-30 (Released:2020-11-03)
参考文献数
173
被引用文献数
1

芸術は,多様な動物の中でも,我々ヒトのみがその営為を行っている活動である。それゆえに,芸術を取り巻く活動の理解と支援に向けた研究からは,創造,表現,イマジネーション,触発,シンボルによるコミュニケーション,あるいは学習といった現象の我々に固有の特徴について,本質的な示唆がもたらされる可能性がある。本論文は,主にこの10年の間に報告された,芸術表現の創造と鑑賞,ならびにその学びに焦点を当てた心理学的研究を概観するものである。芸術創造のメカニズムに関しては,特に認知的なアプローチから国内でも様々な知見が得られている。特にアイデアの生成や展開,身体的スキルやわざ,あるいは表現者としての熟達に関わる研究には豊かな蓄積がある。また鑑賞に関わる研究も,脳神経科学の発展も助けとなり,近年ますます活発に行われている。他方で芸術に関わる学習や教育を扱った研究は,実践レベルでは多様な展開が見られるものの,心理学者が関わることは多くない。今後は,現状ではあまり繫がっていない,芸術表現の創造と鑑賞に関わる知見と,その学びや触発を促すことを目的とした実践とが,有機的に結びついていくことが期待される。