著者
石川 健介
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.54, pp.84-101, 2015 (Released:2015-08-25)
参考文献数
117
被引用文献数
1 1

本稿では,2013年7月から2014年6月までの1年間に,わが国で発表された「臨床心理学」に関する研究の動向を展望した。はじめに日本教育心理学会第56回総会の「臨床」部門に発表された論文を概観し,年齢区分ごとに特徴的なキーワードを挙げた。次に,6つの学術雑誌に掲載された「臨床心理学」に関する研究を概観した。この結果,心理的不適応/精神症状では,「抑うつ」に関連する研究が最も多く,「反すう」や「ストレス」,「バーンアウト」を扱った研究も同様に多かった。尺度開発を扱った研究は少なかった。介入プログラムや心理療法では,認知行動療法・行動分析・アクセプタンス&コミットメント・セラピー(ACT)が多く取り上げられていた。
著者
鹿毛 雅治
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.57, pp.155-170, 2018-03-30 (Released:2018-09-14)
参考文献数
91
被引用文献数
2

本論文では,学習動機づけをテーマとした日本における過去10年間の研究を概観するとともに,今後の研究の方向性について展望する。その際,理論的な枠組みとして,動機づけ規定因として四要因(認知,感情,欲求,環境),動機づけの安定性に関わる区分として三水準(特性レベル,領域レベル,状態レベル)を取り上げて,知見を整理した。学習とそれを支える動機づけの複雑なプロセスについて解明するためには,認知や感情に関わる多様な要因を同時に取り上げるとともに,特に状態レベルの動機づけに着目して実証的,理論的な研究を進めること,介入研究や開発研究など,教育実践の実際の場面で研究を計画,実施すること,質問紙調査に偏ることなく,実験法,観察法などによる研究を積極的に実施したり,複数の研究手法を組み合わせたマルチメソッドアプローチを推進したりすることなどが今後の研究に期待されている。また,知識,技能の習得を主たる目的とした旧来型の教育観を刷新し,学習動機づけに支えられた思考や表現が活性化するような授業を前提とする発想が研究の基盤として求められている。
著者
東 清和
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.156-164, 1997-03-30
被引用文献数
2 1

本論文は, かつては性差が認められるとされた視空間能力, 数学的能力, 言語能力および攻撃性に関するメタ分析, および性差が認められないとされた原因帰属, 被影響性, 非言語的コミュニケーション, 援助行動, 自尊感情, 不安, 主張性などのメタ分析の概観を試みたものである。加えて, 1970年代以降の日本における性差・性役割に関する学会誌論文での研究動向を紹介した。
著者
向後 千春
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.42, pp.182-191, 2002
被引用文献数
1

大学でいくつかの科目についてWebベースの個別化教授システム(PSI)を実践している。本論文はそのデザイン,実践と評価について報告する。PSIコースは自己ペースによる学習と,単元ごとの通過テストによって完全習得学習を指向することを特徴としている。学習教材はHTMLで記述され,受講生にCD-ROMの形で配布された。3~5年間の実践でのドロップアウト率は10%以下であった。コースの最後に行った授業評価によると,PSIコースは一斉講義形式の授業よりも高い評価を得た。
著者
最上 嘉子
出版者
日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.147-156, 1996-03-30
被引用文献数
2

この論文は, 学校現場における体罰を無くさなければならないという多くの声があるにも関わらず, なかなか無くならない現実に鑑みて書かれたもので, 体罰禁止の法律的な根拠, いくつかの代表的な裁判所の判断, および行政当局による指導例を紹介しながら体罰が無くならない背景について考察し, 体罰を根絶するための方策について論じたものである。特に, 体罰を是とする意見の解析にも論を進め, 学校現場の生の状況をも考慮し, 体罰は無くならないという結論を得ている。体罰が一向に絶えない大きな背景には, 家庭に代わって行うしつけ, 勝利を得るためのスポーツのハードトレーニング, 体罰の即時的効果への期待, 愛の鞭という解釈などがあり, また, 複数の児童生徒の間での人権問題, およびいじめ防止問題が絡んでいるために, 撲滅の困難さがある。しかし, 体罰の根絶は最大の目標であり, そのためには, 教師の職業上の心のゆとり, 人格向上のための援助などが必要とされる。
著者
浜谷 直人
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.51, pp.85-94, 2012 (Released:2013-01-16)
参考文献数
43
被引用文献数
1 3

特別支援教育に関する最近の研究動向には, 二つのベクトルがあることを指摘した。一方は, 個への支援に力点を置き, 行動レベルで支援の成果を実証することを重視し, それに関わる手法・組織・制度などの整備拡充発展を志向する。発達障害児へのSST(ソーシャル・スキル・トレーニング)による支援と成果の研究などが代表的であり, 論文数が多い。もう一方は, 学級内における関係性, 子どもの自己・人格の発達などに注目し, 今日的状況における学校や授業のあり方や教員の同僚関係などを再構築することを志向する。教育心理学会での発表論文を通覧すると, 通常学級での発達障害児への教育をテーマとするものが多く, その視点からの重要な論文(支援対象児への個別対応と集団・学級の経営について, 通常学級への外部の専門家からの支援, コーディネーターに関する研究, 移行に関する研究, ニューカマーへの支援)を概観した。今後の展望として, 通常学級での特別支援教育の発展のためには, 教育実践の現場から学ぶというスタイルの研究が生まれること, また, 論文において, 著者が, 教育実践における価値をどう考えるかを, 明確に示すことへの期待を述べた。
著者
山口 一大
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.62, pp.143-164, 2023-03-30 (Released:2023-11-11)
参考文献数
108

本稿では,『教育心理学研究』第69巻3号から第70巻2号に掲載された実証的な論文28本を対象に,事前登録やオープンサイエンスフレームワークの利用およびベイズ統計学的方法を含む最近の統計的分析方法の利用の実態について概観した。結果として,事前登録や研究マテリアルのオープンサイエンスフレームワークでの公開は十分に普及していなかった。さらに,こうした研究実践と統計的方法について,厳格なテストという観点から考察を行った。また,統計的仮説検定の結果を図示する方法として,信頼曲線を紹介した。最後に,こうした新しい研究実践を推進するための方策について議論した。
著者
川崎 直樹
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.58, pp.167-184, 2019-03-30 (Released:2019-09-09)
参考文献数
105
被引用文献数
1 2

自己愛の問題を抱えた人への理解と支援は,教育を含む対人援助の領域において重要な課題である。その研究の主流は実践事例に基づく理論的研究であったが,近年は実証的な知見も増加しつつある。本稿では自己愛に関する実践的な研究と実証的な研究の双方を概観しながら,理解や支援への示唆を探ることを目的とする。実践事例に基づく精神力動論的な議論から自己愛的なパーソナリティ構造に関する見解が提起されている一方で,DSMに基づいた臨床群対象の研究や,一般的なパーソナリティ特性に関する研究は,それを検証したり,簡略化したり,異なる視点を提供したりしている。それらを概観しながら,自己愛的な自己システムにある矛盾やその統合の過程,二者関係の中で生じる対人的・感情的な過程についての議論が行われた。
著者
久保 沙織
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.61, pp.133-150, 2022-03-30 (Released:2022-11-11)
参考文献数
103

直近の1年間に『教育心理学研究』に掲載された論文で,量的研究法を用いていた24編中9編でパス解析・共分散構造分析(SEM)が利用されていた。本稿ではまず,SEMに焦点を当てて,『教育心理学研究』におけるその利用の現状を報告し,SEMの理論の正しい理解と適切な適用に資する論考を紹介した。近年は,多母集団同時分析や,縦断データ及び階層データを対象としたモデルなど,より複雑かつ高度なSEMのモデルが利用される傾向が見られた。今後は,項目反応理論やベイズ統計モデリングなどさらに数学的に高度な方法論への理解も求められるだろう。高度な手法を利用する研究者には,それ相応の説明責任が伴う。心理統計・測定評価の専門家は,応用研究者が手法を正しく使いこなせるように,ユーザーの視点に立った教育・啓発活動を継続する必要がある。学会には,査読を経た掲載論文の質保証と,執筆マニュアルの充実が望まれる。SEMに限らず,数学的に高度な統計的手法が正しい理解に基づき適切に利用されるためには,「ユーザーとしての応用研究者」,「心理統計・測定評価の専門家」そして「学会」の三者協働による不断の努力が必要不可欠である。
著者
小泉 令三
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.55, pp.203-217, 2016-03-30 (Released:2016-08-12)
参考文献数
56
被引用文献数
7

わが国でも,すべての子どもを対象とした予防教育として,社会性と情動の学習(SEL)に関する研究が進展しつつある。本研究では,そのための学習プログラム(SELプログラム)の学校での実施と持続に焦点を絞り,検討を行った。まず,(1) 社会性と情動の学習および関連する概念を説明した後,(2) SELの実施と持続に関する欧米の研究にみられる諸概念を概説した。そこでは,大きくエビデンス(科学的根拠)の立証と学校等での実施と持続に分けて説明した。その後,これらの動向をふまえて,(3) わが国における今後の取り組みとして,まず学習プログラムのエビデンスの立証について,わが国の教育事情をふまえた妥当性の検討とプロセス評価の必要性を述べた。最後に (4) アンカーポイント(構造化の基点)概念を適用して,わが国での実施と持続への取り組みのための手続きや着眼点の整理を行った。具体的には,教師―子どもシステム,単一の学校システム,中学校ブロックシステム,そして教育委員会レベルのシステムごとに,SELプログラムの実施と持続が促進されるようなアンカーポイントを示し,積極的に利用する方策(アンカーポイント植え込み法)を提案した。
著者
波多野 誼余夫
出版者
一般社団法人 日本教育心理学会
雑誌
教育心理学年報 (ISSN:04529650)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.45-47, 2001-03-30 (Released:2012-12-11)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2