著者
真鍋 淑郎
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.40, pp.933-937, 1994-03-31

大気中の二酸化炭素増大に伴う気候変化の研究は大気・海洋結合モデルを使ってすでにいくつか行われており, おもに数10年先の予測がなされてきた.(Bryan et al., 1982;Schlesinger et al., 1985;Bryan et al., 1985;Bryan et al., 1988;Washington et al., 1989;Stouffer et al., 1989;Manabe et al., 1990;Manabe et al., 1991;Hansen et al., 1988;Cubasch et al., 1992).しかし, より遠い将来の予測はあまり注目されてこなかった.炭素ガスが増加すると, 地球の平均温度の永年的上昇を通じて海洋大気の結合システムの大規模現象が影響を受け, 気候が大きく変わるので, その効果は非常に重大である.たとえば, 海洋の熱塩循環が大きく変わる可能性がある.氷期の終わりころ, 温度上昇と氷床融解にともなって海洋循環が突然変わったらしいというBroeckerの議論(Broecker, 1987)も, その可能性を示唆する.ここでは, 海洋大気結合気候モデルを用いて, 炭酸ガス量の2倍ないし4倍増加による全球気候の数100年間の変動を計算した.結論的には, 500年後の全球平均気温上昇は, 炭酸ガス2倍増の場合は3.5度, 4倍増の場合は7度に達する.また, 海水の熱膨張による海面水準の上昇はそれぞれ1mと1.8mに及ぶことがわかった(氷床の融解が加わると, 海面上昇はこれよりさらに大きい).さらに, 炭酸ガス4倍増の時は, 海洋の温度構造や力学構造が著しく変わる.すなわち, 海洋の熱塩循環はぱったり止み, 温度躍層がぐっと下がる.というまったく新しい安定な状態に落ち着いてしまう.このような変化は海洋深層との物質の交換を阻害するので, 大気海洋結合系の炭素循環や生物地球化学過程に大きな影響を及ぼす可能性がある.
著者
常松 展充 甲斐 憲次
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.50, no.7, pp.527-537, 2003-07-31
被引用文献数
5

夏の晴れた日の名古屋周辺域における収束雲の有無に着目し,それと局地的な風系および大気汚染との関係に焦点を当て,濃尾平野を中心とする地域の夏季晴天日について,統計解析,現地観測,数値シミュレーションを行った.まず,夏季晴天日として抽出した82日の,15時における統計解析の結果,伊勢湾からの南西風(海風)と,その前方の弱風域,および関ヶ原・養老山地方面からの西風が,名古屋市北部〜北東部で収束しており,同地域でSPM (Suspended Particulate Matter)の濃度が周辺地域に比べて高いことが分かった.また,気象衛星ひまわりが捉えた可視光線のアルベドを統計解析した結果,名古屋市北東部に,周辺の平野部と比べてアルベドの特に高い領域(雲の存在しやすい領域)が認められた.つぎに,夏季の晴天日に行ったSPM濃度の現地観測の結果により,名古屋市北部〜北東部においてSPM濃度が周辺地域よりも高い,という統計解析の結果を確認することができた.これらのことから,夏季晴天日の名古屋市北東部においては,風の収束に伴い,人為起源のSPMを凝結核とする収束雲が形成されやすいものと考えられる.また,この現象は南関東に発生する環八雲に類似した点があるといえよう.さらに,数値シミュレーションの結果により,伊勢湾からの海風およびその前方の弱風域との間で収束する関ヶ原・養老山地方面からの西風は,琵琶湖の影響を受けていることが示唆された.
著者
常松 展充 甲斐 憲次
出版者
日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.50, no.7, pp.527-537, 2003-07-31
参考文献数
20
被引用文献数
5

夏の晴れた日の名古屋周辺域における収束雲の有無に着目し,それと局地的な風系および大気汚染との関係に焦点を当て,濃尾平野を中心とする地域の夏季晴天日について,統計解析,現地観測,数値シミュレーションを行った.まず,夏季晴天日として抽出した82日の,15時における統計解析の結果,伊勢湾からの南西風(海風)と,その前方の弱風域,および関ヶ原・養老山地方面からの西風が,名古屋市北部~北東部で収束しており,同地域でSPM (Suspended Particulate Matter)の濃度が周辺地域に比べて高いことが分かった.また,気象衛星ひまわりが捉えた可視光線のアルベドを統計解析した結果,名古屋市北東部に,周辺の平野部と比べてアルベドの特に高い領域(雲の存在しやすい領域)が認められた.つぎに,夏季の晴天日に行ったSPM濃度の現地観測の結果により,名古屋市北部~北東部においてSPM濃度が周辺地域よりも高い,という統計解析の結果を確認することができた.これらのことから,夏季晴天日の名古屋市北東部においては,風の収束に伴い,人為起源のSPMを凝結核とする収束雲が形成されやすいものと考えられる.また,この現象は南関東に発生する環八雲に類似した点があるといえよう.さらに,数値シミュレーションの結果により,伊勢湾からの海風およびその前方の弱風域との間で収束する関ヶ原・養老山地方面からの西風は,琵琶湖の影響を受けていることが示唆された.
著者
田口 晶彦 奥山 和彦 小倉 義光
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.49, no.8, pp.649-659, 2002-08-31
参考文献数
17
被引用文献数
11

第1部に引き続き,1995〜97年の梅雨明け以降の7月と8月の期間,SAFIRが測定した関東地方の雲放電数並びに落雷数と,館野の09時の高層データに代表される大気環境との関係を調べた.特に1日あたりの雲放電数が1000以上の大発雷日を無発雷日と比較すると,下層から中層にかけて,温度・露点温度・相対湿度・風の高度分布に顕著な差が認められた.いろいろな安定度指数についてスキル・スコアを計算し,発雷の有無を判別する能力を調べた結果によると,Showalter Stability IndexとK-Indexはほぼ同じ程度によく,Total Totals Indexが少し劣り,CAPEが最も成績が悪かった.安定度指数に中層の風向や相対湿度の影響を加味した発雷予測の方式を提案した.最後に,館野の高層ゾンデ観測に見られる混合比の日変化についても述べた.
著者
大村 浩王 遠峰 菊郎 細川 尚
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.365-375, 1999-06-30
被引用文献数
2

1997年8月4日および8月9日の2日間,群馬県の榛名山山麓においてオメガゾンデによる高層気象観測を行い,状態曲線の日変化と雷雲の発生・発達との関係を調べた.その結果,雷雲が観測された8月4日には,朝から日中にかけて,接地混合層の上端高度は上昇し,自由対流高度(LFC)は下降した.その結果,雷雲が発生した時刻にはCIN (convective inhibition)の値も小さくなり,対流が発生しやすい状態であった.さらに,LFCから大気上層の間には顕著な安定層が見られず,背が高い対流が発達可能な状態にあったことが示された. これに対し,雷雲が発達しなかった8月9日には,日中は接地混合層の上端高度は上昇した.しかし大気中層への暖気移流により顕著な安定層が形成され,上空の気温が高かったためにLFCは存在していなかった.このため,対流雲は存在していたが,背は低いままで発達しなかった.また,雷雲発生の有無にかかわらず,2日間とも日中から夕方にかけて大気安定度は同程度減少する日変化が認められた.
著者
遠峰 菊郎 小林 文明 道本 光一郎 緒方 秀明 和田 保徳 郷津 寿夫 酒井 勉
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.13-22, 1994-01-31
参考文献数
7
被引用文献数
2

3,4時間先の冬季雷予測の可能性を探るために,1992年1月22日から同月24日まで,レーウィンゾンデによる3時間間隔の観測を実施した。観測期間中に雷活動が活発であった時間帯は3回あった。これらの雷活動の中にはいわゆる気団雷も含まれるが,それぞれ熱的に不安定な小領域や小さい収束線が観測された.このことから,これらの小擾乱の存在を確認することができれば,冬季雷の予測はより精度が高まると考えられる.
著者
松山 洋
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.48, no.12, pp.921-926, 2001-12-31
被引用文献数
2
著者
佐藤 昇
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.45, no.3, pp.187-197, 1998-03-31

大阪管区異常気象報告(大阪管区気象台)によれば, 近畿地方の降雹の機会は少なく、過去30年間、各府県で1回/年以下の頻度でしか観測されていない。また、直径5cm以上の大きさの雹粒の観測記録はない。1994年6月16日16時10分過ぎ大阪市南部で、上空寒気移流による成層状態の不安定化から発達したと思われる積乱雲からの降雹が観測された。この積乱雲のレーダー・エコーは大阪府内で約2時間停滞した。近畿地方では雹粒のエンブリオを観測した例はないので、今回採集された雹粒の薄片観察を行った。その結果、エンブリオとしては霰よりも、凍結水滴のものが多かった。これは雲中の気温が高いことによるものと考えられる。
著者
藤部 文昭
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.53, no.10, pp.785-790, 2006-10-31
参考文献数
13
被引用文献数
3

本州〜九州では,5月下旬〜6月初めの半月程度の期間,梅雨入りに先立って一時的な少雨期になる.その実態を,44年間(1961〜2004)の日別資料に基づいて記述する.少雨期は九州〜近畿の南岸では5月24日ごろ,東海〜関東では5月29日ごろ,東北では6月1日ごろを中心として現れ,その期間は降水率(≧1mm)や降水量が前後に比べて20〜30%少ない.この期間は大雨日数もやや少ないが,東日本を中心として雷や雹が多発する.850hPa相当温位の解析結果から,5月後半には本州付近の傾圧性が一時的に弱まることが確認される.
著者
石井 正好 栗原 和夫
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.49, no.8, pp.597-606, 2002-08-31
被引用文献数
1
著者
糟谷 司 川村 隆一
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.917-925, 2012-10-31

1997年から2009年までの期間について全国規模でGPS可降水量を算出し,その季節変化の気候学的な特徴について調べた.冬期から春期への季節進行と共に可降水量は全国的に増加していくが,西日本では5月末の少雨期の直前に可降水量の増加が停滞し,その後約20mm程度の可降水量の急増に伴って6月中旬に梅雨入り(オンセット)を迎える.オンセット時の最大増加率は1mm/dayを超え,増加率の極大後約10日後に降水量が最大値を示す.また,盛夏期の可降水量の上限値は50mm程度である.秋期に可降水量が急激に減少する時期は西日本では2回,東日本では1回で,特に9月中旬の減少傾向は全国規模である,可降水量の夏期前後の季節変化にみられる非対称性は西日本で特徴的であるが,北海道では8月初めを極大とする対称性が際立っており,可降水量の季節変化に地域的な特徴が見出された.
著者
田中 創 守屋 岳 岩淵 哲也 日下 博幸
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
天気 (ISSN:05460921)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.213-228, 2010-04-30
被引用文献数
1

近年,GPS可降水量の解析技術の進歩,計算機の高性能化,データ通信回線の大容量化等により数値予報のデータ同化に利用できる精度のリアルタイム解析が可能になった.本論文では,GPS可降水量のリアルタイム解析データの同化について事例解析で予測が改善した例について報告した後,予測ルーチンでの運用を想定した夏季(2007年7-8月)の同化実験を行い,GPS可降水量データのWRFモデルへの同化の影響を評価した.GPS可降水量データに関してはリアルタイム解析でも一定の精度のデータが得られた.事例解析の同化実験では,局地的な強雨の予測に成功した例を示した.統計解析を目的とした夏季2ヶ月間(2007年7-8月)の同化実験では,弱い雨,強い雨ともに降水頻度が増加し,スコア(ETS)がやや悪化した.そのため改善策として同化の際の条件設定について再考した.全期間のスコアでは弱い雨(0〜1mm/h程度)については若干スコアの改善が見られた.気象現象別のスコアでは前線性の降水や台風など比較的スケールの大きな現象についてはスコアの改善は見られなかったが,雷雨などの不安定性降水については陸上の水蒸気の詳細な分布を同化することによりスコアが改善し,GPS可降水量の同化が有効であることがわかった.