著者
伊地知 秀明
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.28-34, 2010 (Released:2010-03-03)
参考文献数
19

ヒト膵癌に高頻度な遺伝子やシグナル伝達系の異常をマウスの膵臓に導入することにより,通常型膵癌をよく近似する膵発癌モデルが得られるようになった.恒常活性型Krasが生理的なレベルで膵臓に発現すると前癌病変であるPanINが生じ,同時に癌抑制遺伝子(p16,p53,TGF-βシグナル等)の不活性化が加わると浸潤癌に進行し,著明な間質の増生・線維化を伴う管状腺癌というヒト膵癌の組織学的特徴をよく模倣する.これら膵発癌モデルは,従来のxenograftモデルに比べ,多段階発癌過程を模倣している点・腫瘍の微小環境が保たれている点において臨床の膵癌像に大きく近づいたモデルであり,その詳細な解析から,膵癌の発癌から進展までの病態をよりよく理解することができ,膵癌の新たな診断法・治療法の確立や膵癌の起源細胞の解明へとトランスレーショナルリサーチ発展への寄与が期待される.
著者
森安 史典 糸井 隆夫 永川 裕一 土田 明彦
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.30, no.2, pp.210-218, 2015-04-20 (Released:2015-05-08)
参考文献数
22

IRE(Irreversible electroporation)は,2008年に米国で市販され,軟部組織の悪性腫瘍の治療に広く使われるようになった.中でも膵癌は放射線療法以外によい局所療法がないことから,IREの治療対象として注目されている.IREはnon-thermal ablationの局所治療法であり,胆管,膵管,血管,消化管などの構造を温存して,細胞のみに細胞死を惹起せしめることから,切除不能局所進行膵癌の治療法として期待されている.本稿では,IREの原理から臨床応用まで,膵癌の新治療法について概説する.
著者
水谷 泰之 大塚 裕之 森島 大雅 藤塚 宣功 片山 雅貴 石川 英樹
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.785-791, 2013 (Released:2014-01-18)
参考文献数
16
被引用文献数
1 8

患者は65歳,男性.検診で膵管拡張を指摘され当科受診となった.US,単純および造影CTで主膵管拡張を認め,膵実質内に明らかな腫瘤は指摘出来なかった.EUSで主膵管は体尾部で4mmと著明な拡張を認め,その頭側に境界不明瞭で辺縁不整な低エコー領域を認めた.膵上皮内癌を念頭におきERCPを施行した.主膵管は頭体部移行部で限局性狭窄を来たし,尾側膵管は数珠状拡張を呈していた.膵液細胞診の結果は陰性であった.画像診断で腫瘤の認識は困難であったが,膵管像からは膵癌を強く疑い膵頭十二指腸切除を行った.病理学的所見は,主膵管と分枝膵管に低乳頭状増殖を示し,PanIN1からPanIN3に相当する異型上皮の置換性増殖を認めた.検索の限り明らかな浸潤像は確認されなかった.
著者
鈴木 裕 中里 徹矢 横山 政明 阿部 展次 正木 忠彦 森 俊幸 杉山 政則 土岐 真朗 高橋 信一
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.102-105, 2012 (Released:2012-05-15)
参考文献数
12

急性膵炎の重症化と合併症発生に対する肥満の影響について概説した.肥満の影響を考えるに当たり,多くはBMI(Body mass index)を用いているが,近年はCTを用いて内臓脂肪や皮下脂肪をパラメーターとしている報告も散見される.各報告をみると重症化や合併症発生に肥満は何らかの影響があると予想される.BMIでは,欧米では多くの肥満例が重症化と全身合併症に相関し,全身合併症の多くは呼吸不全である.本邦ではBMIは有意な重症化の危険因子とはならず人種差の可能性はある.しかし,日本人でも内臓脂肪の増加は急性膵炎重症化や合併症の発生に影響する可能性があり,肥満のタイプが重要であると思われる.今後は内臓脂肪面積などを画像診断による肥満のタイプをパラメーターとして詳細な検討を行う必要があると思われた.その際は,可能な限り発症早期の画像を用いるべきであり,理想は膵炎発症直前の測定が望まれる.
著者
須藤 研太郎 山口 武人 中村 和貴 原 太郎 瀬座 勝志 廣中 秀一 傳田 忠道 三梨 桂子 鈴木 拓人 相馬 寧 中村 奈海 北川 善康 喜多 絵美里 稲垣 千晶 貝沼 修 趙 明浩 山本 宏 幡野 和男 宇野 隆 多田 素久 三方 林太郎 石原 武 横須賀 收
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.656-662, 2012 (Released:2012-11-28)
参考文献数
25
被引用文献数
1 1

近年,化学療法および化学放射線療法の進歩により局所進行膵癌の治療成績は向上している.切除不能症例を対象とした臨床試験で生存期間中央値15ヶ月を超えるものも報告される.また,非切除治療が奏効し根治切除可能となった局所進行例も報告され,conversion therapyとしての役割も注目される.一方,局所進行膵癌に対する治療はエビデンスの乏しい領域であり,化学放射線療法の意義についても未だcontroversialである.今回,われわれは化学放射線療法82例(S-1併用56例,その他26例)の成績を供覧し,非切除治療の現状と意義について考察を行う.全82例の生存期間中央値15.4ヶ月,3年生存率17.5%,5年生存率6.7%と化学放射線療法のみでの長期生存例も経験された.さらなる成績向上のためには外科切除との連携に期待されるが,本稿ではわれわれの経験を供覧し,今後の展望について考察を行う.
著者
江川 新一 当間 宏樹 大東 弘明 奥坂 拓志 中尾 昭公 羽鳥 隆 真口 宏介 柳澤 昭夫 田中 雅夫
出版者
Japan Pancreas Society
雑誌
膵臓 = The Journal of Japan Pancreas Society (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.105-123, 2008-04-25
被引用文献数
22 46

目的:日本膵臓学会膵癌登録委員会の公表した膵癌登録報告2007のダイジェストとしてすでに公表された28655例のデータに基く解析を加え,主要な図と,新たな図,正誤表をつけて報告する.<br> 方法:構成を膵癌登録報告と同じくし,ページ数により示したデータから得られる解釈をなるべく客観的に解説した.統計解析は新たに加えた図も膵癌登録報告と同様に生命保険数理法とWilcoxon Gehan testを用い,既存のデータの統計結果はそのまま利用した.膵癌取り扱い(JPS)規約とUICC規約による生存率を主に比較した.<br> 結果:1980年代,1990年代と比較し,観察期間は短いが2001-2004年登録の膵癌の生存率は有意に改善した.膵管内腫瘍,粘液性嚢胞腫瘍,膵内分泌腫瘍の進展度分類でJPS規約のほうが良好な生存率予測を示した.膵管内腫瘍の深達度別生存率がはじめて示され,世界に類をみないデータである.<br>
著者
松本 慎一
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.176-182, 2011 (Released:2011-05-10)
参考文献数
22

膵島移植は提供された膵臓から膵島細胞を分離し,分離された膵島細胞を移植するインスリン依存状態糖尿病に対する移植治療である.移植手技そのものは低侵襲であり,患者にとって優しい治療であるが,膵島を分離する技術は難しく,膵島分離の技術革新は重要な研究テーマである.我々は,膵島分離の成績を向上させるために,膵管保護技術,酸素化二層法膵保存,密度を調整した密度勾配遠心法などを導入した.その結果,最新のプロトコールを用いると膵島分離成功率は90%に達し,さらに,1名のドナーの膵臓を用いてのインスリン離脱が可能であった.膵島分離成績の向上は,直接膵島移植の成績に貢献し,膵島移植を標準治療とするために重要と考えられる.
著者
有田 好之 伊藤 鉄英
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.20, no.6, pp.501-510, 2005 (Released:2006-11-17)
参考文献数
30
被引用文献数
4 2

膵管内乳頭粘液性腫瘍 (IPMN) は主膵管型と分枝膵管型に大別され, 悪性化の頻度の違いから治療方針が異なる. 分枝型IPMNの良悪性については, 膵嚢胞径, 壁在結節, 主膵管径, 膵液細胞診をもとに判断し, 手術適応が決定される. 分枝型IPMNの予後に関連する因子としては, IPMN自体の悪性度, 通常型膵癌の合併, 他臓器癌の合併, 残膵IPMNの再発, 糖尿病, 併存する基礎疾患が挙げられる.国際診療ガイドライン (Tanaka M, et al : Pancreatology 2006 ; 6 : 17-32.) が作成されたことにより, 今後IPMNの治療方針は標準化されてゆくものと思われるが, 高齢者に多い本疾患の治療方針の決定にあたっては, 膵局所の問題だけでなく, 患者の全身状態, 併存する基礎疾患の予後, 膵癌や他臓器癌などの悪性疾患の存在する可能性や膵内外分泌能についても考慮し, 決定されるべきである.
著者
入澤 篤志 高木 忠之 渋川 悟朗 佐藤 愛 池田 恒彦 鈴木 玲 引地 拓人 佐藤 匡記 渡辺 晃 中村 純 阿部 洋子 二階堂 暁子 宍戸 昌一郎 飯塚 美伸 鈴木 啓二 小原 勝敏 大平 弘正
出版者
日本膵臓学会
雑誌
膵臓 (ISSN:09130071)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.29-36, 2011 (Released:2011-03-07)
参考文献数
27
被引用文献数
2

慢性膵炎の予後は芳しくなく,より早期での慢性膵炎診断の重要性が認識されていた.早期慢性膵炎は微細な膵実質・膵管変化のみが伴うと考えられ,従来の画像診断(体表超音波検査,CT,内視鏡的逆行性胆膵管造影:ERCP,など)では異常を捉えることは困難であった.近年,超音波内視鏡(EUS)による慢性膵炎診断が提唱され,その有用性は高く評価されてきた.EUSは経胃もしくは経十二指腸的に,至近距離から高解像度での観察が可能であり,他の検査では捉えられない異常が描出できる.2009年に慢性膵炎診断基準が改定され早期慢性膵炎診断が可能となり,この診断基準にEUS所見が明記された.より早期からの医療介入のためにも,慢性膵炎診療におけるEUSの役割の理解はきわめて重要である.特に,上腹部痛や背部痛を訴える患者で,明らかな消化管異常が認められず慢性膵炎が疑われる症例においては,積極的なEUS施行が推奨される.