著者
松原 康介
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.163-168, 2008-10-15
参考文献数
33
被引用文献数
4 2

番匠谷尭二は、生涯に渡って中東・北アフリカ地域の都市計画に携わった計画家である。清家清の門弟から出発して、パリのATBATでG.アニング、G.キャンディリスらに学んだ。その後アルジェに渡り、イスラム教徒とキリスト教徒が共存できるような住宅地計画に関する業務に従事した。1962年よりM.エコシャールとともに、国連開発計画の専門家として、ベイルート、ダマスカス、アレッポの都市基本計画を策定した。CIAMの理念も参照しつつ、彼らは自動車の導入によって旧市街の活性化を試みた。残念ながら、彼らの近代主義的政策には反対運動が起こり、番匠谷は失意の中で引退した。しかし、それでも彼の業績は多大であり、計画論的分析がなされるべきである。それは中東都市計画物語の序説となるであろう。
著者
牧 大佑 吉武 哲信 出口 近士 外井 哲志
出版者
社団法人日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.409-414, 2008-10-15
参考文献数
4
被引用文献数
2

本研究の目的は、散歩行動の特性や散歩に適した空間整備のなされた地区において、散歩経路の特性と経路の変更要因を把握することにより、散歩に配慮した空間整備のあり方について検討することである。具体的には、宮崎市中心部に位置する天満橋周辺地区での散歩者を対象としたアンケート調査にもとづき、散歩行動の特性を分析した。分析内容は、散歩の目的や時間、距離など散歩行動に関する対象地区の特性、天満橋開通に伴う散歩経路の変化、散歩経路として利用されたリンクやそのリンクと魅力的な場所との関係、散歩経路の変更要因等である。この結果、多くの散歩者が経路変更前後での散歩距離の差が小さくなるよう経路変更すること、特にそのような散歩者の散歩距離は3~4kmが多いこと、散歩に適した空間整備を行なう際、3~4km程度に収まる多様な散歩経路を確保する重要性が高いこと、整備を行う空間とその周辺の魅力的な場所とを結ぶ必要があること等、いくつかの知見を得ることができた。
著者
本間 裕大
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.763-768, 2009-10-25
参考文献数
17
被引用文献数
1

複数の施設を連続的に訪問する周回行動は、日常生活で頻繁に観察される。しかしながら、周回行動は施設を訪問する際の重要なスキームであるにも関わらず、それを施設の立地計画へと明示的に考慮した研究はあまり見受けられない。本研究では、複数の施設を訪問する周回行動を前提とした、集客施設のための最適立地問題を提案する。具体的には、利用者がランダム効用理論に基づく周回行動を行う前提の下、新規施設の集客数最大化問題を提案する。その上で、利用者の行動特性の変化が、最適立地点に如何なる影響を及ぼすか考察する。また、人々が周回行動を行う際は、異なるサービス種別の施設を訪問する場合も多い。この点に鑑み、複数のサービス種別を考慮した場合の、集客数最大化問題も提案する。本研究で得られる主たる知見は以下の通りである:(a)利用者が2ヶ所の施設を訪問する場合、新規施設は既存施設に隣接するよう立地するのが、多くの場合最適となる;(b)3ヶ所の施設を訪問する場合、新規施設の最適立地点は既存施設のWeber点付近となる;(c)複数のサービス種別を考慮し新規施設を立地する場合、施設規模に多寡によって適切な戦略は異なる。
著者
ダリオ パオルッチ マッテオ
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.529-534, 2008-10-15
参考文献数
29
被引用文献数
1 1

この論文は文化的景観保護の起源と、その時代ごとの文化的景観の価値の捉え方の違いについて研究したものである。時代を通じ、文化的景観の価値観は変化してきた。文化的景観保護の分析方法は、法律システムに基づいている。この論文では19世紀から現在に至るまでの文化景観保護のアプローチの変化を指摘している。19世紀の終わりから20世紀の中頃までの初期段階においては、中央政府による文化的景観保護を重視していた。20世紀後半からは、州政府による文化的景観保護を新規に設け、文化的景観保護は州政府の景観計画に関連づけられた。現在は美しい景観保護の拡大と社会へ認識させる運動の促進を、州政府と県が行ない、これによって中央政府による文化的景観保護の重要性は減少していきました。最後に、19世紀から文化的景観の価値は常に変化しつつ、景観価値を保護する主要機関も変化し、これによって文化的景観保護を実施するための地方の独自性も必要になったことを指摘している。
著者
宮脇 勝
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.421-426, 2009-10-25
参考文献数
5
被引用文献数
2

本論は、イタリアで2004年に公布され、2006年と2008年に改正された文化財と景観の新しい法律、ウルバーニ法典について、その景観の定義、権限、景観計画、景観許認可(景観アセスメント)の観点から論じている。ウルバーニ法典は、2000年のヨーロッパ・ランドスケープ国際条約における景観政策と2001年のイタリアの憲法改正に基づいて、新たに誕生した。このため、従来からのガラッソ法の景観計画からウルバーニ法典の景観計画へと移行が始まっている。本論の結論において、ウルバーニ法典がもたらす景観への取り組みの発展は、1)景観の定義による価値付け、2)景観財の特定、3)国と州政府の協力の下、自然景観、歴史的景観、そして現代景観の総合化した新しい景観計画の策定、4)景観マネジメントを実施するための、景観許認可制度(景観アセスメント)の仕組みが準備されたこと、特に、2008年の改正ウルバーニ法典による中央政府に景観の許認可の権限を強化した点を明らかにしている。
著者
栢木 まどか 伊藤 裕久
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
no.37, pp.517-522, 2002-10-15
被引用文献数
1 1

本研究では耐火建築助成を目的として東京市と民間の共同運営の形で実現した復興建築助成株式会社(以下助成会社)について、公的な建築助成機関の先駆的事例としての本会社の事業の具体像を解明することを目的とする。また会社設立の背景として、震災以前からの都市計画関連の法制度や、都市の住宅供給問題に対する公的な建築会社設立案から、実際の助成会社にまつわる提案までの経緯を明らかにしたい。更に、 2においては、復興期の建築の特徴的な事例として、助成会社が積極的に支援した共同建築について、特に代表例とされる九段下ビル(旧今川小路共同住宅)を取り上げて分析を行う。
著者
是澤 紀子 堀越 哲美
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
no.39, pp.145-150, 2004-10-25
参考文献数
15
被引用文献数
4 1

本研究では、京都市街地を通過する花折断層南部の周辺地域を取り上げ、地震情報としての活断層を含む自然環境の条件と、信仰の場としての神社の立地との関係性を探ることによって、立地場所の地形地質的要素が神社とその周辺における景観の様相に及ぼす影響を把握し、景観整備のための景観形成を評価する指標を探ることを試みた。神社立地の頻度分布において活断層付近の神社は、活断層沿いに分布する様相を呈していることが示された。地形と地質の構成を検討した結果、活断層周辺の神社景観を形成する自然環境の表出は、基盤岩と被覆層という地質条件により区別できる可能性が考えられ、地形的特徴となる断層崖の地質のうち隆起した被覆層は、神社立地と自然環境との関わりを考察する上で、両者のインターフェースかつ指標であると推察される。このような自然環境条件の指標は、その土地固有の自然と文化により構成されるものであり、建造物と一体化した神社の周辺環境すなわち景観を保存整備していく上で重要である。
著者
近藤 裕陽 木下 光
出版者
日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
vol.43, no.3, pp.475-480, 2008-10-15
参考文献数
16
被引用文献数
2

本研究は、坂出人工土地の開発手法の意義と限界をその計画、事業プロセスの変遷を通して明らかにしたものである。結論は主に以下の三点である。1)坂出人工土地は公共用地を生み出す実験的な開発手法であったが、予定以上に事業が遅延し、事業途中の1969年都市再開発法が施行されたため、特殊解として位置づけられることになった。2)坂出人工土地はすべての土地の買収を前提としない画期的な開発手法であり、区分所有や立体換地による今日の再開発手法とは異なるものであった。3)坂出人工土地は構造や設備の観点において、土地と同等として捉える試みがなされたが、法的には位置づけられることがなかったため、結果的には建築床と同じ扱いになっている。
著者
鵜飼 孝盛 栗田 治
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.163-168, 2003-10-25
参考文献数
5
被引用文献数
4 2

交通網に伴う地の利に関する理論的な値を計算する.この値はグラフ理論に基づいており,交通網に対応する隣接行列の固有ベクトルとして計算され,その特徴は交通網の位相的構造にのみ依存するということである.しかしながら,この値は交通網の結節点に対してのみ定義されている.人々が2次元平面上に住んでいることを考えると,この欠陥を無視することはできない.本論分ではまず,首都圏鉄道網でこの値を計算した後,その特徴を損なうことなく,所要時間を考慮するように値の定義を一般化する.また,メッシュ・システムを用いて,対象を平面へと拡張する.
著者
楊 慶雲 花岡 利幸 大山 勲
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
no.37, pp.799-804, 2002-10-15
参考文献数
8
被引用文献数
2

中国成都市の府南河総合整備事業は1992-1997年の5カ年の短期間に実施された都心大規模再開発事業である。この事業は(1)洪水防止、過密人口移転、歴史資源復元、公園・緑地整備、道路整備、下水道整備を目標とする総合整備事業であり、事業区域面積357haに及ぶ都市中心部の再開発事業である、(2)この事業は10万人の移転事業を含み、5年という短期間に行った、(3)民間投資を中心とする資金調達で財源を賄っている、などの特徴を持つ。本論は、中国成都市の都市計画が、都心大再開発事業において如何にその実行可能性を確保したかを、実例を基に都市計画制度、総合計画策定、資金調達、実施体制の視点から分析したものである。
著者
小伊藤 亜希子 上野 勝代 中島 明子 松尾 光洋 室崎 生子
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
no.39, pp.68-73, 2004-10-25
参考文献数
1
被引用文献数
2

女性が仕事を続け、責任ある地位にも昇級し、女性の視点を生かして建築・都市計画分野の仕事に貢献するための条件を探ることが、本研究の目指すところである。本稿は、都道府県の建築・都市計画分野における建築職女性の進出状況の量的な把握と女性の働く職場環境の実態を明らかにした。近年、当分野で働く女性が増加し働く環境も改善されつつあるが、昇級に関しては今なお男女差が存在し、女性が責任ある地位につき能力を発揮できているとは言えない。一方、家庭と仕事の両立に奮闘している女性が、家庭生活の中で身につけた細やかな生活者の視点が、主に住宅設計に関わる分野で発揮されることが期待されていることがわかった。
著者
山崎 賢悟 津々見 崇
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.163-168, 2007-10-25
参考文献数
12

同業種の小売商業店舗が高密度に集積する専門店街は、広域的な集客力を有することから、商業地が目標とする姿の一つである。専門店街は、街を訪れる人がいることで活気を維持しており、それが減少すれば衰退する危険性がある。そこで本研究では、成熟した専門店街としての「本の街」神田神保町を対象とし、専門店街の継続的発展に関する知見を得ることを目的とする。本研究の結論は以下の通りである。神田神保町は、古本まつりが始まった1960年頃に『本の街』として成熟したと捉えられる。書店数は1995年以降大幅に増加し、近年は約200軒に達する。1995年以降は一般消費者へのメディア露出が高まっている。書店立地は、かつての線的分布から、面的分布に変化した。成熟後もエリア内外の活発な新陳代謝があることで、専門店街の活力を保っている。成熟期以前から立地する書店と、成熟期以後に立地した書店とでは、基本属性や立地の特徴が異なる。成熟した専門店街・神保町エリアでは、象徴的イメージを保つ界隈と、新しい展開を育む界隈の両方があることで、「本の街」としての位置づけを保ちながら継続的に発展することができてきたと総括する事ができる。
著者
宮脇 勝 梶原 千尋
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.115-120, 2007-10-25
参考文献数
8
被引用文献数
5

本論は、景観整備の価値を経済的な側面から明らかにする目的で、地価公示及び固定資産税路線価を用いたヘドニック・アプローチによって地価関数を推計している。対象地域として、景観条例や重要伝統的建造物群保存地区に着目し、長い間景観行政が行われてきた金沢市、倉敷市、萩市を取り上げて分析する。分析の結果は次のような概要となっている。1)金沢市全域について、景観規制に係わる要素として、近代的都市景観創出区域のみが説明変数として採用された。2)地区単位で推計した結果、金沢市内の異なる景観規制がかけられた複数地区の比較で、高度地区12m は、伝建地区とともに指定された場合にのみ地価を上昇させており、伝建地区の経済的効果を明らかにした。3)一方、 用途地域などの条件の異なる他都市の伝建地区との比較の結果、倉敷市と萩市の住居系及び商業系地域でプラスの効果が明らかにされている。
著者
安藤 章 森川 高行 三輪 富生 山本 俊行
出版者
日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
vol.42, no.3, pp.907-912, 2007-10-25
参考文献数
11
被引用文献数
5

ロードプライシングは、渋滞問題を解決する最も有効な政策のひとつと考えられているが、合意形成の困難さゆえ、国内での導入実績は皆無であるし、また海外においてもロンドン、シンガポールのように限定的なものになっている。筆者らは、受容性の高い新型ロードプライシングとして駐車デポジットシステム(PDS)を提案している。従来のロードプライシングとPDSの需要面の相違を把握するため、2006年秋に名古屋都心来訪者を対象としたアンケート調査を実施した。本研究は、このデータを用いて、ロードプライシングに対する地域住民の意識構造を解明するとともに、賛成派・反対派の意識構造の相違を明確にすることで、合意形成戦略の視点を明らかにした。最後に、この意識構造方程式を用いて、ロードプライシングと比較した場合のPDSの有効性を検証した。
著者
片山 健介 大西 隆 城所 哲夫 瀬田 史彦
出版者
The City Planning Institute of Japan
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.817-822, 2003-10-25
被引用文献数
2

本論文では、地域統合の進展に伴う空間計画制度の変容に関する研究のケーススタディとして、イギリスの空間計画制度におけるEUの空間政策・計画の影響について論じている。はじめに、EUレベルでの地域政策・空間計画の展開について整理している。第3章では、(1)主としてEU地域政策の影響によるリージョナリズムによって、地域レベルの組織が設立されたこと、(2)EUレベルの政策・計画がRPGにおいて考慮されていること、を述べている。第4章では、National Planという考え方が、ESDPの最終合意の後に現れてきていることを示している。結論として、EUレベルと地域レベルの重要性が高まるにつれて、国レベルの計画は、地域計画の枠組みとしての機能とともに、EUレベルと地域・地方レベルの「導管」としての役割を求められている。
著者
平山 豪 中井 検裕 中西 正彦
出版者
The City Planning Institute of Japan
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.595-600, 2003-10-25
被引用文献数
6

昨今、地球温暖化をはじめとする地球規模の環境問題が大きく取り上げられてきた。その中でも多くの人が住む都市の環境悪化が課題として注目されている。都市の環境悪化の例を挙げればヒートアイランド現象・大気汚染・ごみ問題・都市型洪水・エネルギー問題等々きりが無く、またこれらの原因は非常に多岐にわたり、その解決は困難を極めている。その中でも都市内における緑の喪失は多くの問題の原因であり、いかに緑地を確保していくかが大きな課題である。しかし、高密度に利用されている現在の都市においては新たに緑地を創出する為の土地はほとんど無い。そのため、新たに新規緑地を創出できる場としての屋上が注目され始めている。この様な背景を受け、行政は屋上緑化推進のために様々な施策を設けているがそれらがどの程度の効果又は害をもたらすか、屋上緑化推進の目的を本当に果たしているかは未だ明確に把握されていない。本論文では屋上緑化を義務化した屋上緑化義務条例と屋上緑化面積と引き換えに容積率を与える容積率割増制度を対象として取り上げる。 また、既存研究によると屋上緑化の経済的な効果にのみ着目すれば断熱材の利用や配色の工夫など代替的な方法でより安く・効果的な方法がある事が示され、屋上緑化の有効性が疑問視されている。しかしそれらの屋上緑化の評価には、本来緑地が持つ安らぎ・豊かさ感といった生理・心理的な効果は考慮されていない。ゆえにこれからの屋上緑化施策を考えるにはこの生理・心理面の効果を考慮に入れた経済的評価が必要であると思われる。 東京全体で屋上を緑化できる平坦屋根面積は屋上開発研究会によると約2000haと港区に匹敵する面積であり、その中でも宅地の占める割合が大きく、住宅の屋上緑化は東京における今後の緑地増加に対して大きな役割を果たすと思われる。よってその効用を明らかにする事は重要である。 そこで本研究では住宅の中でも、今後都心部おいて増加が予想され、しかも緑化義務条例・容積率割増制度の対象となり易い集合住宅に着目し、屋上緑化のなされた集合住宅の住民・周辺住民を対象とした仮想市場法(CVM)により生理・心理面を含めた屋上緑化による効用を定量化し、この結果を踏まえた上で、現在行政が行っている2つの屋上緑化推進施策と両制度併用時の評価を行なう事を目的とする。 結果として、まずCVMにより定量的に把握した。住民の平均WTPは679円・周辺住民の平均WTPは179円であった(抵抗回答は除く)。また分析により住民が利用可能な屋上緑地の方がその効用が高まり効果的であり、屋上緑化が効果的な地域は市街地等緑の不足が問題視されている地域であると考えられる。 次にそれに基づいて施策への評価を行った。「屋上緑化の義務化」制度(緑化率20%)にはある程度の妥当性が認められたが、指定容積率による段階的な緑化率の設定等改善の可能性もあると考えられる。「屋上緑化に対する容積率の割増」制度(緑化率50%、容積率50%増)は建物経営者にとって魅力的な制度となっており多くの適用が予想されるが、その結果として住民・周辺住民にとってマイナスの効果を及ぼす危険性があると思われ、高い指定容積率の建物に絞った適用が考えられる。また義務化制度のある東京都において容積率割増制度(緑化率30%、容積率30%増)を併用することは住民・周辺住民にとってマイナスの効用しか与えなく、さらには本来の屋上緑化推進という目的を果たし切れていないと思われる。
著者
郷内 吉瑞 大貝 彰 鵤 心治 加藤 孝明 日高 圭一郎 村上 正浩 渡辺 公次郎
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.34-40, 2008-10-15
被引用文献数
1

本研究は、防災まちづくりを支援するための技術開発として、地域防災力の評価手法の開発を試みるものである。はじめに、既往研究と防災に関する専門家へのヒアリング調査を基に、地域の災害時対応能力を構成すると考えられる評価の視点と項目、指標を設定した。その後、評価構造の階層をISM(Interpretive Structural Modeling)を用いて定量的に構築した。更にAHP(Analysis Hierarchy Process)を用いて、各評価項目の重み付けを行い、地域の災害時対応能力評価のための階層構造を構築した。加えて、DEMATEL法(Decision Making Trial and Evaluation Laboratory)を用いて、地域の災害時対応能力の基礎となる評価項目間の影響関係とその度合を明らかにした。そして、愛知県豊橋市の自治会を対象として、試験的に開発した手法を適用し、この手法により、地域の災害時対応能力の定量的評価が可能であることを確認した。
著者
村上 尚 村橋 正武
出版者
The City Planning Institute of Japan
雑誌
都市計画. 別冊, 都市計画論文集 = City planning review. Special issue, Papers on city planning (ISSN:09131280)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.757-762, 2003-10-25
被引用文献数
3

現行の斜線制限等に代表される形態規制によって導かれる市街地景観は混乱している。このような市街地景観の現状に対して街並み誘導型地区計画は全国一律の形態規制を地域の実情に即した規制に置き換え、一定の市街地環境を確保しつつ、土地の有効利用の促進に併せて整った街並みの形成を誘導することが可能となった制度であり、その効果が期待される。 そこで本研究では、本制度が導入された事例を対象として制度導入の背景・目的、計画内容を分析し、制度の運用実態を明らかにする。次に適用地区における更新建築物、敷地状況より景観形成への実効性を分析し、制度の適用効果を明らかにし、本制度の効果と課題を明らかにすることを目的としている。