著者
津田 恭充
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.101-109, 2011

人は不確実な対人状況におかれたとき,不確実性を低減させるための情報収集が動機づけられる。このとき,他の人から本心を聞き出すスキルが低いと十分な情報収集ができず,不足した情報を補完するための反すうが生じる。そして,それが関係妄想的認知につながることが先行研究により明らかにされている。しかし,他の人の本心を知るための方略は実際には数多く,それらの方略ごとの効果の違いは明らかにされていない。そこで,本研究では,どのような情報収集行動をどの程度とるのかを測定する情報収集スタイル尺度を開発した。探索的および検証的因子分析の結果,尺度は"当事者とのコミュニケーション""当事者の観察""他の人の意見""メディアの活用"の4因子で構成されることがわかった。次に,反すうを媒介した情報収集行動と関係妄想的認知の関連を調べるためにパス解析を行った。その結果,"当事者とのコミュニケーション"は反すうとの間に負の関連を,他の3つの情報収集行動は反すうとの間に正の関連を示した。反すうは関係妄想的認知と正の関連を示していた。反すうに対する情報収集行動の対照的な影響を説明するため,情報価について考察がなされた。
著者
新藤 永実子 佐野 秀樹
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.214-220, 2014 (Released:2016-10-04)
参考文献数
17

本研究は,臨床美術アートプログラムが与える心理的影響に,描画への苦手意識をもつ者とそうでない者の間で違いがみられるかどうかを検討したものである。臨床美術とはもともと認知症予防や改善のために開発されたアートプログラムであり,そこで用いられる抽象的対象を表現するアナログ表現というものは,作品にうまい・下手といった技術的評価は存在しない。そのため描画に対する抵抗が少なく,誰にも受け入れやすい表現活動であると考えられる。実験参加者は23名(描画得意群13名,描画苦手群10名)で,アートプログラム実施前後で心理尺度に回答してもらった。本研究では心理状態の変化を“二次元気分尺度”,アートプログラム制作における体験過程の深まりを“芸術療法における体験過程尺度”を用いて測定した。その結果,描画に対して苦手意識がある者でもそうでない者でも,アートプログラムの実施前より実施後のほうが,ポジティブで活力がありリラックスした心理状態へと変化し,アートプログラムにおいて同程度に充実した体験ができることがわかった。
著者
中村 恵子 田上 不二夫
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.51, no.2, pp.114-124, 2018-10-31 (Released:2020-01-05)
参考文献数
16
被引用文献数
1

本研究の目的は,うつ症状を伴う不登校生徒に対する別室登校での学校環境調整と,そこで行われた対人関係ゲームの効果の探求である。クライエントは優秀児であったが,小学3年から継続して標的いじめの対象となり,中学2年の夏から不登校に陥り,仮面うつ病と診断された。10か月余にわたる薬物療法と並行して,中学3年8月から別室登校での個別学習支援と1日3時間の対人関係ゲームを行ったところ,急速に症状が改善し,2か月後に寛解した。クライエントは,支援開始後約1か月で症状消失が認められたが,対人関係ゲームの中断で再発し,再開後に症状が消失した。 対人関係ゲームの中断は,その効果を評価する支援チームの教師と,教育活動としての適切性を否定する管理職との意見の不一致によるものであった。しかし,その適切性に対する意見が一致し,ゲームの許可が得られると,症状は消失した。症状の発現は,支援環境を提供する教師への信頼感に影響されていることがうかがわれた。また,対人関係ゲームには,①対人不安の拮抗制止,②仲間や教師との関係形成の促進効果が認められた。別室登校での仲間とのゲーム経験は,学校環境認知をポジティブに再構成し,その適応力を促進した。
著者
野中 俊介 尾棹 万純 嶋田 洋徳
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.52, no.2, pp.87-98, 2019-10-31 (Released:2022-02-19)
参考文献数
49

ひきこもり支援の初期段階においては,家族を介して間接的に支援せざるを得ないことが多い。 しかしながら,家族を対象とした心理的支援のどのような要因がひきこもり状態の改善に影響を及ぼすのかは明らかにされているとはいいがたい。本論考の目的は,ひきこもり者の家族を対象とした心理的支援を系統的に展望し,どのようなアプローチがひきこもり状態の改善に影響を及ぼすのかを予備的に検討することであった。文献収集においては,心理的支援の前後でひきこもり状態の改善を検討しており,日本語または英語でピアレビュージャーナルに公刊されていること,ひきこもり者の家族を対象としていること,という条件を満たす心理的支援の10本の研究を分析対象とした。χ2分析の結果,家族を対象とした心理的支援手続きのうち,「対応レパートリーの拡充」または「家族内相互作用の変容」を含む場合は含まない場合よりも,ひきこもり改善を示す者が多いことが明らかにされた。今後は,対応レパートリーや家族内相互作用に焦点を当てたアセスメントおよび介入研究を実施して知見を蓄積し,改善プロセスを明らかにする必要がある。
著者
高橋 哲 藤生 英行
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.48, no.2, pp.75-85, 2015 (Released:2017-03-31)
参考文献数
36

本研究の目的は,非行少年の自傷行為の経験率,その心理的機能,他の臨床的特徴について調べることである。少年鑑別所に入所した294名(男子204名,女子90名)の非行少年に対して質問紙調査を実施したところ,調査対象者の約3分の2が,少なくとも一度の自傷行為に及んだことがあると報告し,生涯経験率は「切る」で28.6%,「燃やす」で28.6%,「殴る」で33.3%,「抜く」で19.7%,「噛む / 引っかく」で49.7%であった。女子は男子よりも「切る」経験を有意に多く報告していた(女子52.2%,男子18.1%)が,他の方法では性差は認められなかった。また,非自傷群に比して自傷群のほうが,自殺企図歴,違法薬物使用歴,過食歴の比率が高く,抑うつ,解離傾向も高かった。自傷行為の機能に関する探索的因子分析の結果,感情調整,顕示,自他の境界/解離への抵抗,承認希求,自罰の5因子が見いだされた。自傷行為の頻度や性差の観点から自傷行為の査定と治療に関する臨床的な示唆について議論した。
著者
矢島 道 矢島 新 松田 英子
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.46, no.4, pp.214-225, 2013 (Released:2016-03-12)
参考文献数
17

本事例は,実際には色素斑が認められないにもかかわらず,顔のしみへのこだわりや関係妄想を主訴とする中年女性に対し,認知行動療法にて援助した面接過程の報告である。本事例のクライエントは,数年前に偶然夫と見知らぬ女性との写真を見つけたことをきっかけに,身体醜形障害と妄想性障害を併発(皮膚科医院メンタルクリニックの医師が診断)し,皮膚科受診を繰り返していた。カウンセラーは,クライエントと支持的な関係を作り,被害妄想や顔のしみへのこだわりに対しては自動思考記録表により現実に即した認知的再構成を促し,また,症状の遷延化に基づく二次的な不安や抑うつ症状に対しては行動の活性化を図るため週間活動記録表を導入した。クライエントの認知と行動の適応的変容を目的として,6か月間に12回の心理面接と面接終了1か月後に1回のフォローアップ面接を実施した。その結果,クライエントは現実と妄想の区別が可能になり,社会生活上のトラブルに対処できるようになった。同時に顔のしみへのこだわりも消失していった。心理アセスメントの結果からも,身体醜形障害と妄想性障害を合併する成人事例に対する認知行動療法の有用性が示唆された。
著者
中村 美穂
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.81-91, 2017

本研究の目的は,高校教師が,1)スクールカウンセラー活用事業をどのように評価し,当事業による教師自身の体験に伴う変化を認識しているかを明らかにし,2)スクールカウンセラーの教師へのコンサルテーションにどのような役割と機能を期待しているかを探索的に調査すること,さらに 3)予防援助的および危機管理的問題状況に対するコンサルテーションに期待するスクールカウンセラーの役割と機能は,各問題状況によってどのように異なるかを検討することである。112名の高校教師対象の調査の結果,スクールカウンセラーの専門性に対する安心感や教師への援助を評価している一方,スクールカウンセリング活動への不満や教師自身の葛藤を認識していることが明らかとなった。また,高校教師は,スクールカウンセラーに,予防援助的問題状況においては,(1)教師主体の援助活動のコーディネーター役,(2)教師の適切な援助活動のアドバイザー役,(3)教師の内省促進のモニター役,(4)教師と保護者の関係調整のコネクター役,危機管理的問題状況においては,(1)チーム援助活動のコーディネーター役,(2)教師の緊急支援活動のディレクター役,の役割と機能を期待することが示された。
著者
横谷 謙次 長谷川 啓三
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.244-253, 2011 (Released:2016-03-12)
参考文献数
22
被引用文献数
1

本研究のねらいは,日本語版Communication Patterns Questionnaire(CPQ)の信頼性と妥当性を検討することである。対象者は,既婚女性76名と既婚男性55名である。対象者は,CPQに加えて,夫婦関係満足度,離婚願望に関する質問にも答えた。その結果,ほとんどすべてのCPQが,先行研究と同程度の信頼性をもつことが示された。また,CPQは,夫婦間の不満や離婚願望とも有意に関連した。これらの結果は,CPQが日本の夫婦にも適用可能であることを示す,実証的証拠とみなされる。
著者
沢崎 達夫 小林 正幸 新井 肇 藤生 英行 平木 典子 岩壁 茂 小澤 康司 山崎 久美子
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.108-122, 2016 (Released:2018-06-03)
参考文献数
39

日本カウンセリング学会資格検討委員会は,その任期中に新たなカウンセラーの資格について検討を進めることになった。そして,公認心理師資格が実現した中,現在のわが国におけるカウンセリングの位置づけをより明確にし,また日本カウンセリング学会の発展に向けて何をすべきかを,さまざまな観点から議論してきた。認定カウンセラーに続く新たな資格は,将来的には「カウンセリング心理士」として実現される手はずであるが,そこに至る道筋の一端をここに示す。全体の構成は,「カウンセリング,カウンセラーとは(概念,定義,活動内容,領域など)」,「カウンセリング心理学と臨床心理学」,「学校におけるカウンセリングの将来展望」,「カウンセラー資格の現状と課題」,「国際資格について」,「カウンセラーとして学ぶべきこと」となっている。これらを踏まえて,日本カウンセリング学会として,カウンセリングをどのように捉え,どのようなカウンセラーを養成すべきかを明確にし,それを実現するための具体的なカリキュラムと養成方法を検討していくことが今後の課題となっている。
著者
小粥 宏美
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.189-196, 2019

<p>本稿は,双極Ⅱ型障害と診断された女子大学生との学生相談における面接経過と,認知行動療法を取り入れたかかわりについて報告する。本事例では,女子大学生の環境要因や気分の波に影響されやすい症状に対して,心理教育や活動記録表によるセルフモニタリング,価値のワークなどを取り入れたことにより,女子大学生は問題行動を視覚的に把握しながら,不快な気持ちにはとらわれずに物事に取り組めるようになった。さらには,不快な出来事を回避せずに行動レパートリーを増やしていくことが卒業を可能にし,その後の生活基盤を形成する行動に繋がったものと考えられた。</p>
著者
土田 まつみ 三浦 正江
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.323-335, 2011 (Released:2016-03-12)
参考文献数
21
被引用文献数
1

本研究の目的は,小学校における不登校の予防を目的として,心理的ストレス尺度の結果に基づく理解と働きかけといった一連の介入アプローチの効果を検討することであった。計22学級の児童に対して,学校ぎらい感情,ストレス反応,学校ストレッサー,ソーシャルサポートの測定尺度を実施し,学校ぎらい感情の高得点者をスクリーニングした。学級担任と心理学の専門家とで,当該児童のストレス状態について情報・意見交換を行い,それに基づいた介入を学級担任が行った。その結果,当該児童の学校ぎらい感情が介入後に低減することが示された。さらに,学級担任を対象とした面接の結果,本アプローチは効果的で負担感が少なく,特に児童のストレスについて学校スタッフ間での共通理解が得られる点が有効だと報告された。最後に,スクールカウンセラーと学級担任,学級担任と同学年・学校の教師との協働の可能性が議論された。
著者
田附 紘平
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.48, no.3, pp.147-159, 2015 (Released:2017-06-30)
参考文献数
24

本研究は,カウンセリング場面でのクライエントによるセラピストへの感受のあり方とアタッチメントスタイルの関連を見いだすための基礎的研究を行うことを目的とした。具体的には,カウンセリング場面の映像観察の差異を検討することを通じて,セラピストへの感受の表れである注目の仕方や印象の抱き方についてのアタッチメントスタイルによる特徴を検討した。まず,見捨てられ不安と親密性の回避という二次元に基づくアタッチメントスタイルの4分類(安定型,とらわれ型,軽視型,おそれ型)についての質問紙調査を行い,各スタイル10名の映像観察調査協力者を選出した。映像観察調査の結果,見捨てられ不安低群は高群よりもセラピストの動作に有意に注目しやすく,高群は低群よりもセラピストの表情に有意に注目しやすかった。親密性の回避低群はセラピストの言葉のうち,言葉の内容に有意に注目しやすく,高群は言葉のリズムやトーンに有意に注目しやすかった。さらに,セラピストへの印象の抱き方について,各アタッチメントスタイルによる特徴が見いだされた。その後,カウンセリング実践を反省的に捉え直すための視点生成という点から考察を行った。
著者
鈴木 孝 佐々木 淳
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.145-156, 2019-02-28 (Released:2020-10-06)
参考文献数
25

臨床心理面接にて,カウンセラー(以下,Co.)がクライエント(以下,Cl.)に対して自己開示をする効果が指摘されており,多くのCo. が自己開示を使用している。その効果については実証研究が蓄積されてきた。しかし,どのような自己開示をCl. が求めているか,そしてCo. がその期待にどう応じるのかは明らかにされていない。そこで本研究では,Co. の自己開示について,Cl. の期待とCo. の実際の応答との差異を検討することを目的とした。心理援助職14名(Co. 役)と大学生53名(Cl. 役)を対象に,Cl. がCo. に自己開示を求めた仮想事例を提示し,Co. 役には自身がすると予想する応答を,Cl. 役には自身がCo. に求める応答を回答させた。Co. の気持ちの開示を求めた仮想事例では,傾聴に徹することが両者に共通する応答として見いだされた。一方で,Co. の見立ての開示を求めた仮想事例では,Cl. 役は解決策の開示を期待したのに対し,多くのCo. 役が解決策を提示しないと予想した。Cl. の期待とCo. の応答が異なる点について,面接における時間軸の観点から考察し,Co. に求められる姿勢を論じた。
著者
熊澤 紅実
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.197-207, 2019

<p>本事例は,スクールカウンセラーが行った,母親との過剰な愛着を持つ男子高校生との面談過程の報告である。男子高校生が語る不安や学校不適応感の背景には,青年期の分離―個体化期の課題である母からの精神的離脱と個の自立,エディプス・コンプレックスの克服,超自我の形成が問題として考えられた。12回の時間制限カウンセリングで,それらの克服と男子高校生の精神的自立を目指して援助を行った。また,母への強い愛着がある男子高校生に対して,Co. は発達促進的な新しい対象(new object)(小此木, 1976)の役割を意識し,精神的成長を援助した。本事例では,青年期の分離―個体化に時間制限カウンセリングが果たした効果を考察する。</p>
著者
谷井 淳一
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.111-122, 2012 (Released:2016-03-12)
参考文献数
35

本研究の目的は,サイコドラマ効果測定尺度を開発することにある。調査は3回の調査全体で大学生312名(男子139名,女子167名,不明6名)について実施された。最尤法・プロマックス回転を用いて因子分析した結果,4因子が抽出され,第1因子は自己肯定感,第2因子は自己の再認識,第3因子は普遍性,第4因子は支えられ感,と命名された。これらの下位尺度について信頼性と妥当性の検討がなされた。さらに,312名のうちサイコドラマの授業を履修中の学生31人(男子11人,女子20人)には縦断的な調査が実施された。受講学生は授業に積極的なA群(16人)とやや消極的なB群(15人)に分けられた。サイコドラマの授業はグループごとに2週間おきに合計8回実施され,そのうち授業の終わりに5回調査が行われた。サイコドラマ参加者31人のうち,主役を1度以上経験したものを主役あり群(14名),主役を経験しなかったものを主役なし群(17名)として,5回の調査の結果を比較した。自己肯定感,自己の再認識については,最初のセッションから8回目にかけて有意な増加がみられた。普遍性については,A群にのみセッションを通じた増加がみられた。支えられ感については,B群の主役あり群にセッションを通じた増加がみられた。
著者
上條 菜美子 湯川 進太郎
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.11-21, 2016 (Released:2018-05-31)
参考文献数
50

本研究では,ストレスフルな出来事に遭遇したときに生じるネガティブ感情がその後の意味づけ過程に及ぼす影響と,その意味づけ過程がストレスフルな出来事の種類によって異なるかどうかを検討することを目的とし,場面想定法による質問紙調査を実施した。大学生351名を対象に,原因の所在を操作した仮想場面(自己原因場面・他者原因場面・曖昧原因場面)を提示し,仮想場面に対する原因帰属の対象,ネガティブ感情,脅威評価,反すう(侵入的熟考と意図的熟考),意味づけを測定した。多母集団同時分析の結果,出来事の種類によって諸変数間の関連の強さが異なることが示されたが,全出来事に共通して,自己帰属から悔恨,悔恨から意図的熟考,そして意図的熟考から意味づけに,それぞれ正のパスが示された。また,落胆から脅威評価,脅威評価から侵入的熟考にも,全出来事においてそれぞれ正のパスが示された。考察では,本研究で得られた結果に関する基礎的知見,および本研究の限界と今後の展望について議論した。
著者
星野 翔一 青木 健一 福住 紀明 山口 正二
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.127-135, 2011 (Released:2016-03-12)
参考文献数
13

本研究では,きょうだい構成と性格特性・シャイネス特性・心理的距離との関連性を検討することを主たる目的とした。性格特性を測定するため,柳井・国生(1987)が作成した新性格検査を用いて,共感性・自己顕示性・持久性を測定した。次に,シャイネス特性を測定するため,鈴木ら(1997)が作成した早稲田シャイネス尺度を用いて,行動(消極性)・感情(緊張・過敏さ)・認知(自信のなさ)を測定した。最後に,心理的距離を測定するため,山口ら(1989)が作成した心理的距離測定用スケールを用いて,被験者と家族・教員・ペット間の心理的距離を測定した。その結果,きょうだい構成と性格特性・シャイネス特性・心理的距離が,おおいに関係していることが明らかにされた。性格特性・シャイネス特性・心理的距離において,きょうだい構成は重要な要因であることが示唆された。
著者
藤井 茂子 石隈 利紀 濱口 佳和
出版者
日本カウンセリング学会
雑誌
カウンセリング研究 (ISSN:09148337)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.14-26, 2018

<p>本研究の目的は,母子保健室登校の援助経験によって生じる,養護教諭の心理的変容過程についての仮説的モデルを生成することである。小学生の子どもの母子保健室登校の援助を経験した13名の養護教諭を対象に,半構造化面接を実施した。面接によって得られた逐語記録を修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチによって分析した結果,57概念,14カテゴリー,3カテゴリーグループが抽出された。選択的コーディングにより,母子保健室登校の援助経験における養護教諭の心理的変化は,学校のサポート要因や母子保健室登校の学校の援助の影響を受け,養護教諭の子どもの成長発達と職務特性についての理解としてまとめられた。養護教諭の心理的変容は,母子保健室登校の援助過程を通して,担任や級友など学校の援助者や母親とかかわりながら,相互に影響を受けることが明らかにされた。また,養護教諭は援助者をつなぐコーディネーターとして機能していた。養護教諭が保健室でともに過ごした母親の心情を受容的共感的に理解したことで,養護教諭の子どもへの理解が深まり,保健室機能や職務特性を理解したことが明らかになった。</p>