著者
中山 幹康
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.238-247, 1997-05-05 (Released:2009-10-22)
参考文献数
37
被引用文献数
4 4

アスワン・ハイ・ダムは, 環境へ多くの悪影響を与えたと認識されている. しかし, 1960年代末から1970年代初めにおいて為された, 同ダムが環境へ与える影響の予測の幾つかは, 今日ではその妥当性が疑問視される結果となっている. 環境問題についての初期の予測には, 環境影響評価の方法論上の問題によって不正確な予測が行われたと思われる局面が存在する. 当初に予想あるいは観察された環境への影響の内, 上流部からの土砂をダムが遮蔽したことによる地中海沿岸における漁獲量の減少, ナセル湖における淡水漁業の不振, 導水路の増加による住血吸虫病の蔓延, 上流部からの土砂をダムが遮蔽したことによる化学肥料の使用量の増大, の4項目については, 正確な予想が行われていないか, あるいは事実が誤認されている. その原因としては, ダム建設の直前に得られた指標値をプロジェクト前の状態における代表値としたこと, 「類似の事例からの類推」に問題が有ったこと, プロジェクトの実施前の状態についての理解の不足, および, プロジェクト後に観察された変化は全てがプロジェクトに起因するという誤った認識, などが挙げられる.
著者
白木 克繁
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.85-92, 2007 (Released:2007-04-23)
参考文献数
9
被引用文献数
1 3

粗い空間刻み幅を用いて浸透数値計算を行う際に,グリッド境界透水係数の算出法の相違がどのような影響をもたらすか比較検討した.また,新たに粗い空間刻み幅においても定常状態の圧力水頭分布を近似計算できる,変動重み付け法(η法)を提示した.計算手法として,圧力水頭算術平均法,体積含水率算術平均法,透水係数算術平均法,透水係数相乗平均法,透水係数調和平均法,上流法,η法を比較した.定常状態の数値実験より,上流法,η法を除いて,粗い空間刻み幅の時に圧力水頭分布に空間的な振動が発生することが分かった.ここで,透水係数算術平均法での振動幅がもっとも大きかった.乾燥土壌への浸透数値実験より,透水係数算術平均法,上流法,η法で安定して計算可能であることがわかった.一方,圧力水頭算術平均法,体積含水率算術平均法,透水係数相乗平均法,透水係数調和平均法において,空間刻み幅を粗くした場合に計算不能になる場合があることが分かった.排水過程での非定常数値計算より,圧力水頭算術平均法とη法が粗い空間刻み幅においても精度の良い近似結果を示すことが分かった.総合的に見て,粗い空間刻み幅を用いる場合はη法が有効であるが,事前にη値を算出するという前処理が必要になる.
著者
竹田 稔真 朝岡 良浩 林 誠二
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.351-366, 2021-11-05 (Released:2021-11-20)
参考文献数
31
被引用文献数
2

将来の気候変動の影響も考慮した大規模豪雨時に,下流側市街地の洪水緩和に寄与する田んぼダムの雨水流出抑制効果を検討した.まず,田んぼダムの流出抑制機能と畦畔越流を組み込んだ雨水流出モデルの妥当性を検証した上で,田んぼダムの効果を2019年台風19号の降雨を適用した数値計算により確認した.次いで,気候モデルにより推定された阿武隈川流域内4地点の現在並びに将来降雨を適用した計算を行い,水田水深や排水路水深の変動状況の比較から,気候変動に対する田んぼダムの有用性を定量評価した.結果として台風19号に対しては,田んぼダムにより排水路水深を0.10 m~0.16 m低下させ,流出ピークを60分遅延できることが示された.次いで,現在並びに将来降雨を適用した場合,現況の畦畔高では畦畔越流が生じ,田んぼダムの効果は必ずしも機能しなかった.これに対し,越流が生じないよう畦畔高を最大0.42 mまで嵩上げした場合,将来降雨適用時にも田んぼダムにより排水路水深の上昇が抑えられ,水害リスク軽減に繋がる可能性が示された.以上より,田んぼダムは畦畔高の嵩上げと併せて行うことが適応策として効果的と考えられる.
著者
本谷 研
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.16, no.4, pp.408-419, 2003 (Released:2004-05-21)
参考文献数
10
被引用文献数
3 3

1998年の観測後に改修された2001年航空機搭載型分光走査放射計 (AMSS) の観測データについて, 各種地表面に対応するスペクトラム, 3波長 (可視1近赤外2) による植生·積雪指標の代表値を求めた. また検証のための詳細な植生密度観測を行い, 指標や積雪のある森林におけるアルベドと植生密度との関係を求めた. さらに, 2高度における観測の比較から大気補正の問題と指標に与える影響について, 放射伝達モデルの理論値と比較して考察した. 高度3960m (13200ft) での観測では490nmよりも短波長側ではレイリー散乱による影響が無視できないが, 植生·積雪指標に用いる可視 (625nm) , 近赤外1 (865nm) では大気の影響は少なく, 近赤外2 (165nm) も水蒸気により若干減衰するが指標への影響は少ない. さらに, 2高度について近紫外 (380nm) , 可視 (625nm) , 近赤外1 (865nm) , 近赤外2 (165nm) のセンサのViewing Angle依存性を調べたところ, 1000nmより短い波長帯ではViewing Angle依存性は1998年のデータの半分程度になった. これはセンサの瞬時視野角 (IFOV) を2.5mradから5mradに大きくしたためと考えられる.
著者
木下 陽平
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.46, 2018-01-05 (Released:2018-02-20)

誰もしていないことをするというのは研究の醍醐味のひとつであろう.著者の研究経過を振り返り,考えてきたこと・学んだことを簡単に紹介する.
著者
ニャダワ モーリス 小葉竹 重機 江崎 一博
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.84-92, 1995

ケニアのAthi川は赤道直下の流域であるが,標高1500m~2000mの水源地帯から河口のインド洋まで,気候的には大きくは3つに分けられる流域である.首都ナイロビが位置する上流部の年降水量は1000mm前後で2回の雨期があり,沿岸部も1000mm前後ではあるが雨期は年1回である.その中間には年降水量500mm前後の半乾燥地帯が広がっており,雨期は上流と同じく2回ある.各地域の日雨量と日流量の年最大値に対して極値分布をあてはめて,その特徴を比較した.その結果,上流湿潤地域と中流半乾燥地域の年降水量は大きく異なるが,日最大雨量の確率分布はほぼ同じであり,大きな雨についてはほぼ同じ降り方をしていることが分かった.沿岸湿潤地域は上流湿潤地域と年降水量はほぼ同じであるが,日最大雨量は,沿岸部の方が大きな値となる.流量については3気候区についてそれぞれ異なった分布となるが,多くの流量観測点のある上流域については流域面積と年平均流量の間に一定の関係が認められ,少なくとも上流域は洪水流量については等質の流域とみなすことができる.
著者
高薮 出 花崎 直太 塩竈 秀夫 石川 洋一 江守 正多 嶋田 知英 杉崎 宏哉 高橋 潔 仲江川 敏之 中北 英一 西森 基貴 橋爪 真弘 初鹿 宏壮 松井 哲哉 山野 博哉 横木 裕宗 渡部 雅浩
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.34, no.6, pp.377-385, 2021-11-05 (Released:2021-11-20)
参考文献数
11
被引用文献数
3

過去20余年にわたり,気候変動とその社会への影響に関する膨大な予測情報や知見が創出されてきた.しかし,これらの予測情報や知見が国・地方公共団体や事業者などに広く利活用されるようになるまでにはまだ様々な課題が残っている.そこで,気候予測と影響評価に関する研究に長く携わってきた著者らが現在見られる各種の障害や,解決の糸口について議論した.その結果,気候予測・影響評価・利用者のコミュニティーにはそれぞれ業務の前提と他コミュニティーへの期待があり,それらの間にずれが生じていることが浮かび上がった.解決のためには,気候予測・影響評価・利用者のコミュニティー間の協働が重要である.具体的には,予測情報や知見が創出される前の段階での相互の情報交換やすり合わせによるギャップの解消や,その実現のための制度や設備の整備が必要であることが示された.
著者
成田 樹昭 落藤 澄 小林 三樹 長野 克則 船水 尚行
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.8, no.3, pp.309-321, 1995-05-05 (Released:2009-10-22)
参考文献数
15
被引用文献数
2

寒冷都市の水が持つ熱エネルギーの評価とその利用の可能性の検討を,札幌市を例に行った.まず,河川水・地下水・水道水・下水の月別熱賦存量を算出し,下水についてはその排熱分布図を作成し,さらに上下水道系の熱エネルギーフローを推定することによって,都市内での水が持つ熱エネルギーの賦存状況を明らかにした.次いで,水の熱利用形態に応じ熱源としての利用可能性の検討を行った.以上のエンタルピー的評価に加え,熱力学に基づく評価指標を用いた質的評価も行なった.これらの検討の結果,下水処理場の排熱が最も有望であることがわかった.最後に,広域熱供給に下水処理場排熱を利用した場合,得られる1次エネルギー削減量を地域毎に算定し,その分布図を作成した.
著者
青木 正敏 千村 隆宏 石井 健一 開發 一郎 倉内 隆 虫明 功臣 仲江川 敏之 大手 信人 ポルサン パンヤ セマー スティーブ 杉田 倫明 田中 克典 塚本 修 安成 哲三
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.39-60, 1998-01-05
参考文献数
23
被引用文献数
6 7

アジアモンスーンエネルギー水循環観測研究計画(GAME)の予備的な観測が,地表面フラックスと土壌水分を測定するためのプロトタイプ自動気象ステーションの性能の評価といくつかのフラックス測定法の相互比較を目的に1996年の夏,タイ国スコタイ付近において行われた.使用された3つの観測システムで得られたデータに渦相関法,バンドパスコバリアンス法,ボーエン比法,プロファイル法,そしてバルク法を適用することで地表面フラックスが得られた.乱流統計量やフラックスの相互比較の結果,統計量そのものは正確に得られているものの,潜熱フラックス評価のためのバンドパスコバリアンス法のアルゴリズムには改良の余地があることが示された.また,熱収支的な方法を利用する場合,水田の水体の貯熱量変化の正確な評価が重要であることがわかった.全体としてステーションは短期間の高温度高湿度下の運用に満足のいくものであったが,長期運用のためにはこの地域特有の強い雨に対する備えが必要であることがわかった.
著者
橘 治国
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.254-267, 1993
被引用文献数
2

石狩川は, 1975年8月23日に北海道に上陸した台風6号がもたらした豪雨によって増水し,下流部においては溢水した.筆者は,この洪水期間に石狩川水系内の6地点で水質調査を行い,増水時の水質特性および水質成分の流出機構について考察した.結果は以下のように要約できる.(1)懸濁態成分濃度は流量の増加とともに高くなり,最大値は空知川豊橋でSS4,500mg/1, COD (Cr) SSで266mg/1を観測した.主要無機成分の濃度は,流量の増加とともに減少したが,汚濁関連成分(BOD,硝酸イオンなど)は増水時に増加するなど特異的な変化を示した.(2)増水時においても主要無機イオンの構成には大きな変化はなかった.しかし懸濁物質はシルト・粘土成分の割合が,また有機物質は生物難分解性の割合が高くなるなどの変化が認められた.(3)洪水時の水質成分の流出特性から,水質成分の供給源を無制限供給型(懸濁成分),一定量供給型(主要無機成分),環境一時蓄積型(BOD,溶解性有機物質,硝酸イオン等)に分類できた.(4)洪水期間の水質成分流出負荷量を年間総流出負荷量と比較し,懸濁成分の割合が他の成分より著しく高く,SSでは82.5%に達することを明らかにした.
著者
西田 かおり 大瀧 雅寛 荒巻 俊也
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.29, no.6, pp.362-371, 2016

<p>&emsp;途上国の成長等により工業用水需要量の急増が懸念され,今後の需要量予測のための様々な予測モデルが提案されている.本研究では,国内総生産(GDP)及び水利用効率改善率<i>η</i>を独立変数としたモデル(高橋ら,2000)にて,より正確な予測を目的として<i>η</i>決定方法を検討した.解析対象61カ国を国毎の各業種占有割合を考慮したクラスタ分析により,それぞれ,産油国,先進国~中進国,中進国~発展途上国,発展途上国が主に属す4クラスタに分類した.クラスタ毎に<i>η</i>に関連すると考えられた因子(GDP成長率,水資源賦存量等)と<i>η</i>の相関を検討した.決定因子はクラスタ毎に異なり,産油国中心,中進国~発展途上国中心の2クラスタで相関は高くなった.また<i>η</i>は変化すると仮定し,国毎に<i>η</i>差分(&Delta;<i>η</i> )と一人当たりGDP<sub>PPP</sub>や<i>η</i>との相関を調べた結果,一人当たりGDP<sub>PPP</sub>で分類できた.一年当たりの<i>η</i>差分(&Delta;<i>η</i>/year)は一人当たりGDP<sub>PPP</sub>が14,000 $ よりも大きい国では0.00345 の定数となり,14,000 $ 以下は国毎にばらついた.以上の結果を利用した<i>η</i>の推定により,より正確な工業用水需要量予測ができると考えられた.</p>
著者
檜山 哲哉 阿部 理 栗田 直幸 藤田 耕史 池田 健一 橋本 重将 辻村 真貴 山中 勤
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.158-176, 2008 (Released:2008-05-12)
参考文献数
162
被引用文献数
10 8

水の酸素・水素安定同位体(以下,水の安定同位体)を用いた水循環過程に関する重要な研究および最近の研究のレビューを行った.海水の同位体組成(同位体比)に関する知見,同位体大循環モデルを用いた全球スケールの水循環研究,降水形態による同位体比の差異や局域スケールの降水過程に関する研究,流域スケールでの流出過程,植生に関わる蒸発散過程(蒸発と蒸散の分離)の研究をレビューした.加えて,幅広い時間スケールでの気候変動や水循環変動に関する研究として,氷床コアや雪氷コアを利用した古気候・古環境復元とそれらに水の安定同位体を利用した研究についてもレビューした.最後に,水の安定同位体を利用した水循環研究の今後の展望をまとめた.
著者
菅原 広史 近藤 純正
出版者
THE JAPAN SOCIETY OF HYDROLOGY AND WATER RESOURCES
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.440-443, 1994-01-20 (Released:2009-10-22)
参考文献数
9
被引用文献数
1
著者
村上 雅博
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会誌 (ISSN:09151389)
巻号頁・発行日
vol.7, no.4, pp.305-314, 1994-07-05 (Released:2010-02-10)
参考文献数
12