著者
玉置 啓二
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.39.3, pp.853-858, 2004-10-25 (Released:2017-08-02)
参考文献数
39

本稿は『ユルバニスム』へと結実するル・コルビュジエの探求の足跡を、「ルネサンス・デ・シテ」の活動において主導的な役割を果した米国の都市計画家ジョージ・ビー・フォードとの関連から考察するものである。そのため、まず昀初にフォードの経歴と業績を概観し、その都市計画の特質を明らかにする。次に、その特質がル・コルビュジエによってどのように評価され、どのように「現代都市」の制作に反映されたのかを検証する。結論は以下の通りである。1)「現代都市」の対角線街路はランスの再建プランにおけるフォードの意図を忠実に反映している。2)「現代都市」の摩天楼はフォードから学んだ「ゾーニング条例」の基本理念を反映したものではないかという可能性を指摘できる。3)「現代都市」の空港はフォードが提示した敷地の問題に対する解答ではないかという可能性を指摘できる。
著者
王 穎楠 野村 理恵 森 傑
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.1015-1020, 2012
被引用文献数
1

2005年10月の中国共産党16期5中全会で採択された第11次5ヶ年計画(2006~2010年)において、「社会主義新農村建設」(以下、「新農村建設」)という政策が重要な歴史的任務と位置付けられ、中国の都市と農村間の経済格差解消に関わる一連の政策措置が提出された。これらは、農業の近代化、農民の収入増を目指すとともに、集落の生活環境の総合整備事業も具体的に位置づけられている。新たな小都市の建設や、集落移転も導入されており、中国各地で大規模な農村集落の整備事業が起こっている。本研究は、2005年より「社会主義新農村建設」政策のもと全国各地で大規模な農村集落の再整備が相次いでいる中国において、整備中の「尚庄新村」を事例として、現行の新農村建設の政策と具体的な実践のモデルを解明し、「新農村建設」における集落再整備の手法と特徴を明らかにすることを目的とする。
著者
村本 浩一 藤井 さやか 有田 智一 大村 謙二郎
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.42.3, pp.727-732, 2007-10-25 (Released:2017-02-01)
参考文献数
11

本研究では日立製作所の企業城下町である日立市を事例として、社有施設の整備プロセスを明らかにするとともに、近年進展している社有地の利用転換の実態と今後のあり方についての示唆を得ることを目的としている。戦後からの企業所有の社宅・寮などを中心とした土地・建物ストックの形成過程とその用途転用の実態の調査及び日立ライフへのインタビュー等を実施し、以下の点が明らかになった。1)日立製作所は大規模な社有地を既成市街地内に所有し、90年代から旧社宅地を中心に用途転用を進めており、これが日立市の市街地構造に与える影響は大きい。2)日立製作所では社有施設を事業所単位で保有してきたが、それらの用途転用は実質的に系列会社の日立ライフが担当し、これまでは住宅・商業用途の立地バランスをある程度考慮した用途転用がなされてきた。3)しかし、今後は日立製作所本社レベルで社有施設の再編方針が検討される方向にあり、必ずしも日立市の都市構造に配慮した再利用がなされるとは限らない恐れがあり、行政と企業の協力による土地利用転換方針の検討が現状では不十分である。
著者
森 朋子 黒瀬 武史 西村 幸夫
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.1304-1309, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
12
被引用文献数
1

丹下健三が、当時のウ・タント国連事務総長から直々に釈迦生誕の地ルンビニの荒廃を聞き、この「聖地を永久に残すためのプラン」を依頼されたのは1969年であった。半世紀前に描かれたプランが、今もなお実現に向けて工事が進む一方で、近年では約17km東に位置するバイラワ空港の国際空港化工事が進み、周辺では幹線道路の拡幅と、大規模工場やホテル建設が進む。丹下プランの内部でも、当時描かれていない大規模ホールの建設や、各国から寄贈された仏像の建立等、統制のない変化が著しい状況にある。本稿は、国際連合が事業化を模索した初動期を対象に、丹下プラン完成までの一連の事業化プロセスから、具体的に明示された空間計画に着目して丹下プランの位置付けを明らかにし、そこから丹下プランの全体枠組みに対する計画意図を捉えることを目的とする。
著者
長野 基 饗庭 伸
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.42.3, pp.235-240, 2007-10-25 (Released:2017-02-01)
参考文献数
9

本研究では東京都内49市区を対象に地方議会と都市計画の関係を都計審への議員参加の実態分析から明らかにする。計量的分析から議会と都計審の人的な重複は自治体によって実態が異なっており、議会と都計審参加議員の政治構造は必ずしも重複しているわけではないことが示される。そして事例調査からは法定都市計画や関係諸政策で首長部局側と議会とは都計審の場以外に常任委員会と会派別勉強会、あるいは個別接触による情報提供というフォーマル・インフォーマル両方のルートを通じて調整が行われるという実態が明らかにされる。都計審を中心とする都市計画過程への議会関与の是非は古くからの論点だが、議会を代表した議員が都計審に参加し、常任委員会や本会議での議論と調整をしながら、議会の意思を都市計画に反映する、とした場合には以上の諸問題を踏まえて都計審への議会からの代表性を実質化するあり方を工夫することが課題となろう。
著者
北岡 勝江 宮脇 勝
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.43.2, pp.1-10, 2008-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
12

本論文は、東京で最も寺院が多い地域である台東区を取り上げ、歴史的な寺町の景観を創り出した土地利用特性を分析している。寺史文献資料と88枚の歴史的な地図、3枚の火災保険地図、道路登記名簿に基づき、道路、街区および寺院を地図上にデーターベース化して、その歴史性を詳細に比較分析した。その結果、1)震災や戦災の影響が少ない谷中地区には、江戸時代からのものが集中して残っている。台東区全体で、わずかであるが2%の街区と道路と寺院が、江戸時代のものとして谷中地区に現存している。2)関東大震災の後、区画整理事業により台東区全体の71%の街区が新設され、細分化された。3)寺院は、台東区内に起立した全550寺院のうち、73%が台東区内に現存し、全体の半数近い253寺院(46%)が江戸時代から残っている。4) 地区別の特性を取り上げ、谷中地区と浅草地区の違いを図とデータで示す等、歴史的特性を明らかにしている。
著者
長瀬 恵一郎 松本 昌二
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.27, pp.493-498, 1992-10-25 (Released:2019-12-01)
参考文献数
4

IN ORDER TO GRASP THE ATTITUDE OF INHABITANTS TOWARD THE URBAN STRUCTURE OF A LOCAL CITY,THE IMAGE MAPS WERE COLLECTED BY QUESTIONNAIRE. THE ANALYSIS OF THE OBTAINED IMAGE MAPS REVEALED THAT THE RIVER CHANGED THE COGNITIVE DISTANCE OF INHABITANTS AND THE RAILWAY DID THE COGNITIVE DIRECTION. IT WAS CONFIRMED THAT THE IMAGE MAP METHOD COULD ANALYZE THE COGNITIVE STRUCTURE OF URBAN SPACE SUCH AS A DIVIDING EFFECT.
著者
齋藤 亮 後藤 春彦 佐久間 康富 上原 佑貴
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.39.3, pp.259-264, 2004-10-25 (Released:2017-08-02)
参考文献数
11
被引用文献数
1

本論文は青森県弘前市における看板建築を対象にする。看板建築においてファサードの境界と、住宅と商店の境界部分に着目し、そこで、住み手がどのような意識で改築をおこなったのかを明らかにする。その結果、以下の3つが明らかになった。ファサードに対する意識が変化したこと。住宅と商店の境界変化は商業的要因が大きく関係する。2境界の変化は同時期に起きている。
著者
青木 嵩 角野 幸博
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.1176-1183, 2019-10-25 (Released:2019-11-06)
参考文献数
7

郊外戸建住宅地は,画一的な開発と類似した居住者の同時期の流入により,高齢化および人口減少が進行してきた.一方で近年一部の郊外住宅地では近隣からの二次取得層の転入や子育て世帯の流入など,新しい世帯が少なからず流入しており,世代交代の兆しも見え始めているが,若い世代の生活行動の実態と地域内の施設やサービスとの乖離が示唆される.本稿の目的は,それら人口減少・高齢化が進む郊外戸建住宅地の中・若年層居住者に着目し,今後の郊外戸建住宅地を担う彼らの購買および外食行動における行動実態を明らかにしていくことである.そして特に如何なる居住者がそうした行動をとりやすいかを統計的に分析し,郊外戸建住宅地再編の一助とする. 本稿では,主に2017年に緑が丘で実施した“緑が丘町・志染町青山地区のまちづくりに関するアンケート”の結果を用いる.アンケート回答者の内,中・若年者を便宜上①若年層:20歳~34歳,②中間層:35歳~49歳,③プレリタイア層:50歳~64歳の3区分に分類し,階層型クラスター分析とアソシエーションルール分析を用いてそれらの類型化および特徴の抽出を行った.
著者
宮川 智子 中山 徹
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.35, pp.253-258, 2000-10-25 (Released:2018-02-01)
参考文献数
7

This paper aims to investigated twenty-eight cases of treatment and redevelopment of contaminated land such as brownfield site from the view of care for the public consultation, and decision-making meetings are practiced by local governments, and care for the public is clearly seen as one of the core element in the approach of treating and redeveloping contaminated land. The presence of residential groups and environmental groups is found to be effective to promote public participation. Especially, residential groups have promoted for the participation to the meeting, which is the most direct and active form of public participation. Citizen participation is found to be promoted by environmental groups and Groundwork Trust.
著者
横澤 直人 関本 義秀
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.1475-1482, 2019-10-25 (Released:2019-11-06)
参考文献数
18

我が国では1990年代以降,国際化の進展や本格的な少子・高齢化社会の到来を背景に,都市計画分野において分権化が進められてきた.各種の権限移譲に伴い,地方自治体が地域の実情に即した柔軟な計画策定が可能になった半面,市町村間での計画の不整合や競合が課題となってきた.従来の研究では,主として実証的な立場から都市計画策定段階における広域調整の必要性が示されてきたが,実際に広域調整を行うための支援手法は開発されてこなかった.本研究では,都市計画マスタープラン及び立地適正化計画を念頭に置いて,都市計画の方針及び立地規制の厳格さの調整問題を対象として,市民の立地行動と計画の影響を考慮した将来土地利用予測シミュレーションを構築し,広域調整の影響評価手法を開発した.シミュレーションを富山県内の市町村に対して適用し,検証実験や現地でのヒアリング調査,実際の事例との比較などを通じて手法の妥当性を確認するとともに,広域調整の影響に関する新たな知見を獲得することが出来た.今後は,シミュレーションの高度化や他の広域調整問題への対応,ユーザビリティ改善などを図ることが望まれる.
著者
岡田 昌彰
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.733-738, 2001-10-25 (Released:2017-12-01)
参考文献数
10

Kuzuu town in Tochigi Prefecture has been known as one of the most developed cement industrial town in Japan and they established quite characteristics culture related to the cement industry. Now this town is on the crossway with the social background of recent stagnant demand for cement. This study attempt to manifest the transition of image to cement industry in descriptions of student's essays, local folksongs, or school anthems in Kuzuu Town. Obtained images are, (1) The tendency of indirect perception of environmental issues brought by cement industry, (2) Descending attention to the cement industry, and (3) Reinstatement of image as line industrial town.
著者
小田 雅俊 加我 宏之 下村 泰彦 増田 昇
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.36, pp.217-222, 2001-10-25 (Released:2017-12-01)
参考文献数
13

The purpose of this study is to investigate the riverside design in Osaka of the Edo period, which by making clear the relationship between managements, uses and the design of riverside. We grasped the management regulations of riverside in those days, and then selected 15 famous landscape portraits. According to the characteristics of uses in those landscape portraits were classified into terminal, market, landing place, and place of entertainment. We analyzed the relationship between the uses and the design of riverside; as a result, we made clear that the riverside was designed to secure by the management regulations and to function by the characteristics of uses in each places.
著者
村尾 俊道 藤井 聡 中川 大 松中 亮治 大庭 哲治
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.44.3, pp.103-108, 2009-10-25 (Released:2017-01-01)
参考文献数
12

本研究では、京都都市圏での通勤交通における課題を明らかにするとともに、京都府での実際のプロジェクトを紹介することを通じ、職場MMの実行過程に着目し成功要因や課題を整理する。その結果、実施に至る準備段階においての関係者間の合意、組織の意思形成が重要であることを明らかにするとともに職場MM成功のための知見を提供した。これは、今後、職場MMを他地域で展開される際に極めて有益な知見となる。
著者
長瀬 健介 中井 検裕 沼田 麻美子
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.51, no.3, pp.1030-1037, 2016-10-25 (Released:2016-10-25)
参考文献数
11
被引用文献数
1

東京では駅を中心に作られた街が多く、異なる路線の複数駅が近距離に位置する地域では各駅が相互に影響しながら街の発展に貢献してきた。複数駅に挟まれた地域では都市整備のあり方として駅間を一体的に見た発展の可能性が考えられる。東京都郊外地域において駅間の距離が1km以内で住宅地を挟んでいるものを除く67ペアを商業地の連続性により分類し、駅のペアの特徴についての分析、街の歴史的発展過程や自治体による複数駅を一体的に見た施策の調査を行った。その結果、駅間が連続的に発展している地区の多くは両駅の規模の差が小さく、戦前に開業していたことがわかった。一方、同様の条件のペアで駅間が発展していないものもあり、そのような地域では一体的に見た拠点整備が望まれる。
著者
青木 信夫
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.33, pp.439-444, 1998

It is well known that the population in the suburban area around the city of Tokyo grew rapidly between the 1900s and the 1930s, especially right after the Kanto Earthquake in 1923 and that many new residential districts were developed then. The aim of this paper is to show not a few people moved to suburban areas at that time by checking the addresses, the title of the people (the Imperial Family and the Nobility) who listed on a who's who called "Kazoku-Meikan". The results were as follows; 1) It can be cleare that there was a tendency that the people emigrated from the city of Tokyo to its suburban area. 2) there is an intimate relationship between it's tendency and their changes of the economical bases.
著者
鈴木 雅智 新井 優太
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.55, no.3, pp.1136-1142, 2020-10-25 (Released:2020-10-25)
参考文献数
22

本稿では、資料請求情報という新しい住宅市場データを用いて、首都圏中古戸建て住宅市場における需給バランスの把握を試みた。この指標は、1物件に対する購入検討者のボリュームを示し、アンケート調査やヘドニック価格関数の構築といった既存手法では限界があった、売り手に対する潜在的な買い手の比率を明示的に捉えられる。分析を通して次の傾向が明らかとなった:①都心から離れるほど資料請求レベルは低下するが、近年では(都心に比べて相対的に)近郊・外縁での資料請求レベルが高まってきている。②最寄り駅から徒歩15分以上の地域で資料請求レベルが低下するが、近年では近郊・外縁で、駅近物件志向がより顕著になってきている。③築年数が増加しても資料請求レベルは低下することはなく、むしろ都心では資料請求レベルが上昇する。④延床面積120m2以上の広い物件に比べ、価格を抑えられる延床面積80m2未満の狭い物件の方が関心を持たれている。
著者
堂免 隆浩
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.202-209, 2015-10-25 (Released:2015-10-25)
参考文献数
17

東京都練馬区では、従来、都市公園において危険と見なされるサッカー利用が禁止されてきた。これに対し、「練馬区立みんなの広場公園」では、サッカーゴールが設置されサッカー教室の公園使用申請に許可が出ている。そこで本研究は、同公園においてサッカーゴールの設置およびサッカー利用の許可が成立する条件の解明を目的とする。結果、条件の第一として、サッカー教室の開催運営を明記した「公園育て計画」の内容が練馬区まちづくり条例において規定されている施設管理型地区まちづくり計画の提案および認定の条件を満たすこと、第二として、「公園育て計画」において明記されている「3時間に1回以上、公園を訪れて施設や利用の状態に問題がないかのチェック」という見守りの水準を「NPO法人公園づくりと公園育ての会」の見回り・見守り活動が満たすこと、第三として、この見回り・見守り活動の効果および持続性を高める仕組みがあること、を明らかにした。
著者
小谷 裕枝
出版者
公益社団法人 日本都市計画学会
雑誌
都市計画論文集 (ISSN:09160647)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.1191-1198, 2017-10-25 (Released:2017-10-25)
参考文献数
15

本研究は,滋賀県安曇川沖積平野の条里制集落群を対象として,中世応永29年(1422年)から平成27年(2015年)まで継承される「文化的景観」の特徴に関する研究である。遺産でも遺構でもなく,文化財に付帯もしないが,地域風土による社会的な歴史が作用し,現在の農林地や構造物等にその歴史に基づく利用が確認できる景観を「文化的景観」と定義している。対象地が中世に属した木津荘には,中世応永20年前後の間に2つの史料が存在し,近現代の景観のルーツとされる大きな変化を捉えたとされる。本研究では,これら中世史料の既往研究の成果,明治初期の絵図(1873,74年頃)の復元図,対象地の圃場整備前後の昭和40年(1965年)と平成27年(2015年)のベースマップの5時点を基点に,同一二時点による質的変化と分布変化から分析を行っている。結論として,条里地割に展開する,以降の景観の礎(景観の骨格や関係性,敷地の文脈)を形成した点が中世から現存する「文化的景観」の特徴であることを明らかにした。また,圃場整備を境に生じた,屋敷地の核としての公共施設という地域居住域の特徴の変化も明らかにしている。