著者
谷本 丈夫 豊田 武司 渡辺 富夫 飯田 滋生 苅住 昇 千葉 春美
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
no.369, pp.1-61, 1995-03

本研究は,熱帯・亜熱帯地域における造林技術,小笠原諸島の固有種と景観の保護,保全技術の確立に必要な基礎的情報を得ることを目的に,1971年に小笠原諸島父島に設定された林業試験場(現森林総合研究所)小笠原試験地において植生区分及び遷移,群落構造などについて固定試験地を中心に調査・解析を行った。父島における立地環境からみた自然植生は,海岸植生,山地風衝型植生など五つの型に分けられ,これらに加え導入種であるリュウキュウマツ,ギンネム林などの人為植生を併せて10型の植生型が認められた。小笠原試験地の植生は山地緩斜地型が多く,山地風衝型植生は少ない。防風林に取りまかれた畑地跡には,乾燥する尾根を中心に天然更新したリュウキュウマツ林が多く,人為的要素の強い群落が特徴的であった。マツノザイセンチュウ病によるマツ枯れは,これらの景観を一変させ,ウラジロエノキなどの陽樹,ヒメツバキ,キバンジロウなど母樹の多い樹種の侵入,タマシダなどの林床植生を繁茂させ,新たな種の侵入を阻害していた。マツ類は畑地放棄跡など新たに侵入定着できる立地環境が少なく,小規模な崩壊地などで生育するものと思われた。同じく導入種であるギンネムは,一度植栽されると容易には遷移が進行せず,林分が維持され分布の拡大は少なかったが,アカギは適潤地の林冠疎開地に容易に侵入していた。一方,母樹から遠い畑地の放棄地には,いまだにつる植物や草本に覆われているなど,遷移の進行に及ぼす母樹の位置,種子の散布力,結実量などの役割が評価できる資料が得られた。小笠原の自然植生は,戦中,戦後と急速な入為的影響を受け,特殊な立地環境とあいまって植物社会の成立過程が複雑であり,その維持と復元には積極的な更新補助手段を加えることが必要であることが示唆され,小笠原試験地の継続調査で得られる成果はその基礎的情報として重要な役割を果たす。
著者
鈴木 秀典 岡 勝 山口 浩和 陣川 雅樹
出版者
森林総合研究所
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.153-162, 2010 (Released:2012-12-03)

近年の林業では、経済性や安全性の観点から機械化やそのための路網整備が必要不可欠となっているが、機械作業や路網整備にはエネルギーの使用が不可欠で、これらの機械からは必ず二酸化炭素が排出される。 よって、森林による二酸化炭素吸収量を適正に評価するためには、また、今後の機械化作業や路網整備の方向性を議論するためにも、林業活動に伴う排出量を明らかにする必要がある。 本研究では日本の森林を対象に路網整備過程に着目して、林道、作業道の開設工事において、建設機械の燃料消費による二酸化炭素排出量を算出した。このために、民有林林道では設計書から土工量および燃料消費量を調べた。国有林林道では民有林林道の値からこれらの値を推定した。作業道では既存の調査による土工量および民有林林道の値から燃料消費量を推定した。これらの値と、各年間開設延長から排出量を算出した結果、2007年度の排出量が、民有林林道から48.09ktCO2/年、国有林林道から11.71ktC02/年、民有林作業道から97.64ktCO2/年と算出された。また、森林・林業基本計画(2006)における林道・作業道の整備目標を達成すると、2007年以降、19.11~20.39MtCO2の二酸化炭素が排出されるとの予測結果を得た。
著者
勝木 俊雄 岩本 宏二郎 石井 幸夫
出版者
森林総合研究所
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.7-48, 2011 (Released:2012-12-03)

多摩森林科学園のサクラ保存林では全国の主な名木や栽培品種を収集し、およそ600栽培ライン1600個体のサクラを植栽している。サクラの栽培品種に対してその開花期はきわめて重要な特性であるが、‘染井吉野’の開花期以外の観測例は少ない。多摩森林科学園では、開花期の観測を1981年から総計で494個体に対しておこなってきた。そこで2010年までの30年間の494個体の平均開花日と平均満開日、および欠測が少ない148個体の各年の開花日・満開日を公表する。
著者
勝木 俊雄 岩本 宏二郎 石井 幸夫
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.10, no.1, pp.7-48, 2011-03
被引用文献数
1

多摩森林科学園のサクラ保存林では全国の主な名木や栽培品種を収集し、およそ600栽培ライン1600個体のサクラを植栽している。サクラの栽培品種に対してその開花期はきわめて重要な特性であるが、'染井吉野'の開花期以外の観測例は少ない。多摩森林科学園では、開花期の観測を1981年から総計で494個体に対しておこなってきた。そこで2010年までの30年間の494個体の平均開花日と平均満開日、および欠測が少ない148個体の各年の開花日・満開日を公表する。
著者
井上 大成
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.2, no.4, pp.238-246, 2003-12

茨城県北茨城市の小川学術参考林とその周辺地域(小川地域)で、1996年~2002年までチョウ類相を調査した。成虫の主要飛翔時期に233日(約1135時間)の野外調査を行った結果、97種が記録された。科別の内訳は、セセリチョウ科16種、アゲハチョウ科8種、シロチョウ科7種、シジミチョウ科30種、タテハチョウ科23種、テングチョウ科1種、マダラチョウ科1種、ジャノメチョウ科11種だった。これらのうち、17種(森林性13種、草原性4種)は茨城県の、7種(森林性2種、草原性5種)は環境省のレッドデータリスト掲載種だった。また、生息場所として原生林を好むと考えられる種が6種、自然草原を好むと考えられる種が4種記録された。文献調査の結果とあわせて、この地域には現在約100種のチョウが生息していると推定されたが、これは実質的に茨城県でみられるチョウ全種の約94%にあたる。この地域がこのような豊富なチョウ類相をもつ背景とチョウ類の保護について議論した。
著者
林 典子 井上 大成
出版者
森林総合研究所
巻号頁・発行日
vol.13, no.4, pp.173-182, 2014 (Released:2015-03-30)

都市近郊において、造林地の管理状態によって、哺乳類の活動にどのような変化がみられるのかを明らかにするために、下層密度が異なる造林地および人工的にギャップを作成した地点に自動撮影カメラを設置し、けもの道として利用する哺乳類相の違いを定量評価した。下層密度が高い林分の方が、低い林分よりもけもの道として利用する在来哺乳類種の多様度は高かった。しかし、ハクビシン、アライグマ、イエネコなど外来生物においても、下層植生密度が高い地点を多く利用する傾向が見られた。また、人工ギャップを形成した時、下層が繁茂している林分では、ギャップを作成することによって、哺乳類の利用総数は周辺に比べて減少する傾向がみられたが、多様度はギャップの方が高い傾向が見られた。また、タヌキ、アナグマ、ハクビシンはギャップを通過する頻度がコントロールに比べて有意に低かったが、イノシシ、アカネズミでは有意な傾向は認められず、ノウサギではギャップの利用頻度がやや高かった。都市近郊造林地の下層植生を管理したり、小規模な人工ギャップを作成することによって、哺乳類の種ごとの行動に異なる影響が及ぶことが明らかになった。
著者
小林 政広 吉永 秀一郎 伊藤 優子 篠宮 佳樹 相澤 州平 岡本 透 釣田 竜也
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.333-373, 2018

茨城県城里町に位置する桂不動谷津流域における2001年から2014年の降水および渓流水の主要溶存成分濃度および流入量についてまとめ、各年の平均値の変化傾向を解析した。降水中の非海塩性硫酸イオンおよび無機態窒素イオンの流入量はともに変動しながら減少する傾向が認められた。渓流水中の硫酸イオン濃度は2011年までほぼ一定であったが2012年および2013年の間伐施業時に上昇した。硝酸イオンは間伐前減少傾向にあったが間伐以降上昇に転じた。間伐時の濃度上昇はカリウムイオンおよびカルシウムイオンでも認められた。ケイ素濃度は年平均値の変動が小さく、緩やかに上昇する傾向が認められた。
著者
安部 哲人
出版者
森林総合研究所
巻号頁・発行日
vol.6, no.3, pp.151-156, 2007 (Released:2011-07-26)

既存の文献から、キブシの性表現には曖昧な点があることが示唆されているが、野外でキブシの性表現を含む繁殖状況について研究された例はみられない。そこで、キブシの花の性表現、性差、訪花昆虫、結果率を筑波山の林縁個体群で2年間調査した。花の形態や性器官(花粉と胚珠)の有無、結実状況よりキブシは雌性両全性異株であることが示唆された。性差は花序当りの花数が雌で有意に少なく、結果率が雌で有意に高かったが、それ以外には有意差がなかった。両性花には胚珠があるものの、結実は非常に稀(ほぼ0.0%)であり、強制受粉を施しても結実しなかった。このため、キブシの両性花はほとんど雄として機能しており、本種は機能的にほぼ雌雄異株であると考えられた。また、一つの花序内に両性花と雌花が混在する花序が調査個体群外で1個体発見されたことから、キブシの性表現は安定していないものと思われる。一方、雌花は両年とも35%前後の結果率であり、強制受粉でも結果率が増えなかったことから花粉制限は起こっていないと考えられた。訪花昆虫はハエ類や単独性ハナバチが中心であり、春先の林縁環境でこれらの送粉昆虫が有効に機能していた。
著者
北原 英治 原田 正史
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
no.370, pp.21-30, 1996-03
被引用文献数
4

紀伊半島産ヤチネズミ個体群の分類学的位置を調べるため,その染色体を本州中部産ヤチネズミと比較した。その結果,紀伊半島産と本州中部産ヤチネズミの核型(2n=56,FN60)はほとんど同一であることが明らかとなった。すなわち,ヤチネズミ両個体群の染色体はとも2対のサブテロセントリック,1対のメタセントリック,24対のアクロセントリック,サブテロセントリックのX染色体とサブメタセントリックのY染色体からなっていた。また,供試ヤチネズミの染色体をClethrionomys rufocanus及びEothenomys smithiiと比較することにより,本ヤチネズミはC. rufocanusよりもE. smithiiに近縁であることが分かった。従って,ヤチネズミ両個体群は分類学的に同一種に属することが結論され,両者を一括してEothenomys andersoniとするAIMI(1980)の考えを一層強く支持した。
著者
阿部 学 北原 英治
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
no.356, pp.p29-45, 1989-12

新たに開発したヘリコプターセンサス法を用いて,群馬県の国有林2297haにおいてカモシカ等のセンサスを行った。1982~1984年の各々3月に実施したセンサスで,105個体,134個体,119個体のカモシカを数え,三者間に有意差はなかった。また,同調査地内の1314haで二日間にわたって行った再現性のテストでも,各々48個体,43個体を数え,互いに有意差はなく,当調査法の再現性の高いことが判明した。区画法との比較を行った結果,316haの中で地上では2.37~2.96個体/km2を,空からは5.7個体/km2を数え,空からの調査は地上調査の約2倍となった。三か年間の調査でカモシカをはじめノウサギ,ツキノワグマ,イヌワシ,ヤマドリなど13種の鳥獣が識別できた。ノウサギとヤマドリはカモシカと並行してセンサスを行い,各々74個体,54個体を数えた。この結果,当調査法はカモシカのみならず他の鳥獣への適用の可能性を示唆した。ヘリコプターセンサスの利点は,1)地形,植生,積雪などの地上条件に左右されない,2)動物に動きを与えるので発見が容易である,3)地上調査に比べて広範囲の調査が可能で,小面積調査に由来する誤差が小さい,4)再現性が高い,5)非積雪地帯でも適用可能で汎用性が高い,6)同時に複数の鳥獣のセンサスが可能,などである。
著者
関 伸一
出版者
森林総合研究所
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.89-92, 2007 (Released:2011-12-19)
著者
金子 真司 後藤 義明 田淵 隆一 赤間 亮夫 池田 重人 篠宮 佳樹 今村 直広
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.259-264, 2018

福島県十万山(浪江町・双葉町)の森林火災(2017年4月29日~ 5月10日)の延焼地において、火災直後に山頂部のアカマツ林と谷部のスギ林で樹木と土壌の試料を採取して放射性セシウム(RCs: <sup>134</sup>Cs+<sup>137</sup>Cs)濃度を測定して火災の影響を調べた。樹木については、同一木の幹の燃焼側と非燃焼側から樹皮を採取した。土壌は燃焼地と隣接する非燃焼地から堆積有機物層と表層土壌を採取した。アカマツでは燃焼樹皮が非燃焼樹皮に比べて現存量とRCs 濃度とRCs 蓄積量が小さかった個体が存在した。また、アカマツ林、スギ林で調査したすべての堆積有機物層のRCs 濃度が燃焼箇所に比べて非燃焼箇所で高かった。
著者
高野 麻理子 服部 力 根田 仁
出版者
国立研究開発法人森林研究・整備機構 森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.133-140, 2018

パルプ漂白菌の選抜に色素の脱色を利用するため、30 株の木材腐朽菌を、パルプとRBBR, Poly R-478, Poly S-119, Azure B の各色素を含む寒天培地で培養した。その結果、20 株がRBBR 脱色を示し、そのうちの15 株がPoly R-478 の脱色を示した。さらに、Poly R-478 脱色株のうちの6 株がPoly S-119 の脱色を示し、そのうちの 3 株が Azure B の脱色を示した。試験管中で、ラッカーゼ( Lac)、マンガンペルオキシダーゼ( MnP)、リグニンペルオキシダーゼ( LiP) の各酵素による RBBR、Poly R-478、Poly S-119、Azure B の脱色試験を行った。RBBR は、Lac、MnP、LiP の全酵素に対し、高い脱色性を示した。Poly R-478 は、Lac では脱色せず、MnP とLiP による脱色を示した。Poly S-119 とAzure B は、Lac とMnP による脱色性が低く、LiP による脱色性が高かった。これらの結果は、RBBR 脱色は、Lac のみを生産する株やリグニン分解酵素活性の低い株をも検出する可能性のあること、Poly S-119 およびAzure B の脱色は、LiP 生産株の検出に適することを示した。一方、Poly R-478 の脱色は、RBBR、Poly S-119、Azure B の脱色と比較して、MnP 生産株の選択的な選抜に適すると考えられた。MnP は、未晒しクラフトパルプの漂白に高い効果を示すことが報告されており、パルプ漂白菌の選抜には、Poly R-478 が最も適した色素であると結論した。
著者
服部 重昭
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
no.362, pp.p1-34, 1992-01
被引用文献数
28

近年,関西地域では,人工造林面積に占めるヒノキ植栽面積が高率で推移している。ヒノキ造林の拡大は,造林不適地にまで延びることが危惧されるので,造林適地区分法の開発や適地選定指針の提示が行われている。一方,ヒノキ林の表土流亡に起因する地力減退の防止については,林床植生やA0層の効果が指摘されているが,その効果の定量的評価は進んでいない。そこで,ヒノキ純林へのアカマツの混交と林床のササが,土砂とリターの流亡防止に及ぼす影響を定量的に把握した。これに加え,落葉堆積量と侵食土砂量の関数関係を実験的に検討し,リター堆積の効果を数量化した。ヒノキ純林にアカマツやササが侵入すると,年間侵食土砂量は1/4~1/8,流亡リター量は1~1/2程度まで減少した。また,A0層の一部を除去すると,侵食土砂量と流亡リター量が大幅に増加した。これにより,アカマツの混交やササの侵入は,土砂とリターの流亡防止に効果があることを実証した。土砂とリターの移動は,斜面を流下する地表流よりも降雨因子,特に10分間最大降雨強度と降雨エネルギーに強く依存すると推察された。つぎに,許容限界侵食土砂量の概念を提示し,花崗岩地帯のA層生成速度から,これを1~3t/ha/年と見積もった。これらの結果に基づいて,ヒノキ林の侵食防止を考慮した施業の目標を具体的に示すため,人工降雨実験から推定された侵食土砂量と落葉堆積量の指数関数式を援用し,ヒノキ・アカマツ混交林において許容限界侵食土砂量を維持するのに必要なリター堆積量が,5~7t/haであることを導いた。
著者
平川 泰彦 藤澤 義武 中田 了五
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.31-41, 2003-03
被引用文献数
16

水戸市の旧林木育種センター育種素材保存園に植栽されていた約30年生のスギの精英樹クローン、563クローン1060個体を対象に基礎材質を調べた。供試木のクローンは、関東育種基本区(関東、甲信、東海地方及び福島県と岐阜県)に成育していた精英樹から接ぎ木または挿し木により育成されたものである。供試木の地上高約1.8m部分から約50cm長さの短尺丸太を採取し、年輪幅、晩材率、密度、生材含水率、心材率、心材色、無欠点小試験体の曲げヤング係数と曲げ強度、仮道管長および仮道管の二次壁中層のミクロフィブリル傾角を調べた。また、地際から1.8m長の丸太の動的ヤング係数を調べた。個体間の変動係数は、心材の生材含水率、外側10年輪の年輪幅、晩材率およびミクロフィブリル傾角で30%以上と特に大きく、丸太の動的ヤング係数と小試験体の曲げヤング係数では17.5%と25.6%でやや大きく、密度、心材率、心材色及び仮道管長では15%以下と小さかった。本研究で示したスギ精英樹クローンの材質変動は、日本全国におけるスギの若齢造林木のそれをほぼ表しており、スギの間伐材の利用で問題になっている心材の高含水率や丸太の低ヤング係数に関しては、育種による改良効果が期待できるものと考えられる。
著者
杉田 久志 岩本 宏二郎 森澤 猛
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.81-89, 2008-06

御嶽山南東面の密なチマキザサ林床をもつコメツガ、トウヒ、シラビソ、オオシラビソの混交した亜高山帯針葉樹林において、50m×50mの調査プロットを設置し、林分構造と8年間の動態を解析した。林冠層は隙間が多く、その面積比率は32%であった。シラビソとオオシラビソはL字型の胸高直径階分布を示し、コメツガとトウヒは一山型の林冠木集団とL字型の被陰木集団とが分離する分布を示した。コメツガとトウヒは根返りマウンドや根張り上で定着したもの、あるいはタコ足形態のものが多く、地表で定着したものはほとんどなかった。シラビソとオオシラビソは地表で定着したものが比較的多くみられたが、その割合はシラビソで15%、オオシラビソで35%にすぎず、大半は根返りマウンド、根張り、岩の上に定着したもの、あるいはタコ足状形態のものであった。モミ属樹種の定着場所が地表以外の基質に偏ることは、密なチマキザサによる地表での定着阻害が林分構造に影響していることを示唆する。1998~2006年の林分全体の死亡率、加入率(胸高直径5cm以上)、胸高断面積の減少率、増加率はそれぞれ0.60%/年、1.44%/年、0.91%/年、0.96%/年であった。樹種別にみると、トウヒのみで死亡率・減少率が加入率・増加率を上回り、その他の樹種は逆の関係を示した。
著者
伊ヶ崎 知弘 石田 由美 毛利 武
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.1, no.4, pp.235-240, 2002-12
被引用文献数
6

Populus albaの茎切片にバイナリーベクターpSMAB704を保持するAgrobacterium tumefaciens、GV3101(pMP90)を感染させ形質転換体を得た。pSMAB704はT領域にビアラホス耐性遺伝子(bar)とβ-グルクロニダーゼ遺伝子(GUS)を保持しているバイナリーベクターで、bar遺伝子の発現はノパリン合成酵素遺伝子のプロモーターで制御されている。また、ポリA付加シグナル領域(ターミネーター)配列としてアラビドプシスのリブロース-1、5-二リン酸カルボキシラーゼ/オキシゲナーゼのスモールサブユニットRbcS-2B遺伝子由来のものを用いている。ビアラホス存在下で形質転換処理した組織片よりカルスが生成・増殖し、植物体が再生・成長すること、植物組織のGUS染色およびゲノミックPCR解析により形質転換の成功を確認した。この形質転換法では、形質転換細胞を厳密に選抜することができるので、エスケープ(非形質転換体)やキメラ個体は出現しなかった。また、形質転換体の外観は、元の個体と同様で形態異常は見られなかった。
著者
末吉 昌宏 前藤 薫 槙原 寛
出版者
森林総合研究所
雑誌
森林総合研究所研究報告 (ISSN:09164405)
巻号頁・発行日
vol.2, no.3, pp.171-191, 2003-09
被引用文献数
7 2

茨城県北部の温帯落葉樹林の二次林、混交林、自然林に調査地を設定し、皆伐後の二次林回復時における有弁類を除く双翅目短角類の種数・個体数を通年で調査した。その結果、41科441種余りを見い出し、それら短角類群集の種構成は森林の成熟に伴って変化する傾向にあることが明らかになった。植食性、菌食性、腐食性、捕食性および捕食寄生性といった短角類の多様な食性を代表する分類群としてミバエ科、トゲハネバエ科キイロトゲハネバエ属、ハナアブ科、クチキバエ科、キアブ科、キアブモドキ科、アタマアブ科が挙げられ、それぞれが森林の遷移に対して異なった応答を示すことが明らかになった。また、本研究では森林に生息する主要な短角類として、オドリバエ科、ハナアブ科、シマバエ科が挙げられ、そのうちハナアブ類群集の種構成は遷移の進んだ林齢の似通った二次林および自然林間では殆ど変化は無く、皆伐地、混交林、壮齢林のように異なる森林タイプで大きく異なっていた。そのため、ハナアブ科は様々な森林タイプを含む景観の多様性を評価するのに有用であると考えられる。