著者
八並 光信 渡辺 進 上迫 道代 小宮山 一樹 高橋 友理子 石川 愛子 里宇 明元"
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.227-235, 2005
被引用文献数
1

本研究の目的は,造血幹細胞移植患者の無菌室治療期間中に生じる廃用症候群に対して,理学療法の頻度による効果の違いを検討することにある.対象は,2002年1月より2003年12月までの患者57名中,重度のGVHDおよび早期死亡を除いた34名であった.理学療法評価は,移植患者の握力・下肢伸展筋力・運動耐容能について無菌室入室前後(移植前後)で行った.理学療法は,理学療法士のデモンストレーションに従って,患者が自覚的運動強度で「きつい」と感じる強度で,ストレッチングおよび筋力増強訓練を15分から20分間行った.この他,理学療法士の非監視下で行う自主訓練は毎日行った.理学療法士のデモンストレーションに従って患者が行った理学療法頻度の違いにより,隔日群(16名)と毎日群(18名)の2群に分けた. 移植前後の筋力の変化率に対する,訓練頻度の違いによるに効果は認められなかった,運動耐容能の変化率に対する効果は,運動耐容時間を除き認められなかった.移植前後の筋力・運動耐容能の変化率を従属変数,性別・年齢・入院から移植までの期間・無菌室期間・訓練頻度を独立変数として重回帰分析を行った.筋力の変化率に関しては,無菌室滞在期間が寄与していた.しかし,運動耐容能の変化率は,この回帰モデルで説明できなかった. 我々は,今後も,移植治療中の廃用症候群を抑制できる理学療法システムについて検討していきたい.
著者
"坂本 圭"
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.471-484, 2006

"わが国の医療費は,1961年に実施された「国民皆保険」により,高度経済成長と比例して増加してきた.このことが,わが国の医療サービス,医療技術を発展させ,すべての国民が安心して生活できる環境を作り上げる要因のひとつになったと言える.しかし,その一方で国民医療費は,単に,少子高齢化だけでなく,医療保険制度自体が内包する制度的問題点により,高度経済成長終焉後も増加の一途をたどってきた.その間,幾度となく制度改革はなされたものの,医療費増加に対する十分な効果は今のところ得られていない.その背景には,「供給サイドの改革」が不十分であることがあると考える. そこで,本稿では,医療費抑制策を精力的に行った5カ国(ドイツ,フランス,イギリス,スウェーデン,アメリカ)の事例を取り上げ,「需要サイドの改革」「供給サイドの改革」について吟味し,日本の医療費抑制策と比較分析を行った.分析の結果,以下の内容が明らかになった. (1)諸外国では,「供給サイドの改革」を行うことにより,一定の医療費抑制効果が見られた. (2)わが国では,ほとんど「供給サイドの改革」が行われていない結果,効果的な医療費抑制に繋がらなかった."
著者
McCrimmon Mary F.
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.181-188, 1994

シェイクスピアの「マクベス」とサムエル記上のサウル王の物語とを詳細に比較検討した結果, シェイクスピアが「マクベス」著作に際して, サウル王の物語を念頭に置いていたことが明白であることを論じる.また, その結果は, もしサウル王がマクベスに該当しているなら, ジェイムズ王が自分の祖先と考えているバンコーはダビデに該当していることを示唆していることも併せて論じる.
著者
保住 芳美
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.337-346, 2009

ドイツでは,2003年に施行された「老人介護の職業に関する法律」に基づき,老人介護士を国家資格として制度化し,その養成のためのプログラムも設定された.老人介護士の養成期間は3年間,4,600時間である.教育内容は,4領域「14の学習領域」が設定されている.実習はデュアルシステムとして実習先と生徒の間で「訓練契約」を結ぶなど人材の育成が体系化されている.老人介護士養成学校の教員の資格要件は,老人介護士養成学校3年課程を卒業,職業経験,老人介護士教員養成訓練,教員養成大学を卒業していることであり,原則的にその職業に就いている者である.実習指導教員の資格要件は,実務経験2年以上,老人介護に相応する職業資格,看護・介護指導員養成訓練が義務づけられている.学習内容で注目したいのは,ドイツでは複数の専門職間における連携教育が導入され始めていることである.日本でも連携教育を学び,卒業後現場で活用ができる力量を身に付けさせる必要がある.教員養成課程においては,教員の質を向上させるため,専門課程の「教授学」を学ぶことが重要であり,現実に即した問題解決が可能となるような教員養成の方法を考える必要があると考える.
著者
橘 智子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.209-219, 1992

トマス・ハーディ(Thomas Hardy)は19世紀末英国文壇の偉大な小説家として名声を得た後,詩作に情熱を傾注した。おおよそ1000篇の詩を世に問い,現代詩人の萌芽を内包する個性的で特異な詩人として高い評価を受けている。詩のテーマは多種多様であるが,とりわけ生と死,死後の世界,墓地,幽霊をテーマに近代から現代に即した内容で多くの詩を書いている。ハーディーは若い頃,キリスト教の信仰を喪失し,加えて,ダーウィンの『種の起源』やショーペンハウアーの『無神論』,『内在性』に感化され,世紀末から20世紀初頭へのペシミズムに傾倒する。従って死者にキリスト教的死後の生命を与える希望が持てず,シェイクスピアやブラウニングのように死後の不滅を楽観的にうたい上げることができなかった。そして不滅を求めて深いペシミズムと限りない回生の希望の狭間で揺れ動き,その揺曳の果てに死後の魂の行方を希求して彼独自の工夫と観想をこらし作詩する。やがてハーディーは,死は生の否定であるとする生と死のパラドックスから脱却し,それを矛盾しない一体のもので不可分と考えるようになる。つまり生は死に向かって間断なく移行するプロセスに過ぎないと止観する。老齢と共に微妙に変化するハーディーの生死観は一層次元の高いものとなり,相矛盾する概念を止揚して,幽明の問に詩的効果を出している。しかしハーディーの生死観の根底をなすものは, 全て生あるものは個としては滅びるが,種としては不滅であるという「生の循環」論であり,宇宙観であると言えよう。
著者
石井 孝治 山本 裕陸
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.81-85, 1998

本稿は, 3次元空間R^3における境界要素法による3次元ラプラス方程式の数値解に関するものを考える.まず, R^3内の同心円環領域におけるディリクレ問題の厳密解と数値解を求める.境界要素法においては境界である球面を平面三角形により近似させる.厳密解と数値解を比較し, 厳密解に最も近づく近似法G_nを得た.次に, 境界が球面である非有界領域におけるディリクレ問題を考える.この問題の厳密解は求まっていない.球面に最も近似するG_nで数値解を求め, その結果をグラフ化した.さらに, R^3内の曲線族に対する2-モジュールの数値解を与えた.
著者
進藤 貴子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.29-44, 2010

高齢者心理学の発展,とりわけ1980年代以降のそれは,衰退し排除される対象としての高齢者観から,成長と自己実現の可能性をはらんだ高齢者観へのパラダイムシフトを後押しした.あわせて高齢者心理学は,対象者主体の高齢者福祉を営んでいく上で欠かせない知識である.高齢者心理学の基礎的研究は,(1)知能の加齢変化の様相,高齢者の知恵の特徴,加齢とともに適応性を増す人格変化の示唆など,加齢の発展・超越的側面,さらに,(2)感覚機能・身体機能・記憶機能の衰退と補償など,加齢に伴う喪失的側面,そして,(3)「エイジレス」な自己意識にみられる不変的側面と,加齢の3つの側面を浮き彫りにしている.こうした研究成果を現場に生かす高齢者臨床心理学の実践は,まだ十分に普及しているとは言いがたい.その背景には,臨床家の高齢者への偏見,専門的な心理ケアが制度上の位置づけをもたないこと,専門職の役割を分離しにくい高齢者領域の特異性などがある.それでも心理士の専門性には期待がもたれており,高齢者領域に特化した知識・技術,生老病死に向きあう姿勢,個を尊重しながらの集団へのかかわり,高齢者との世代を超えたつながりへの理解,認知症者への共感的な姿勢を備えての高齢者福祉領域への参入がのぞまれる.
著者
添田 正揮
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.1-13, 2012

本論文では,欧米のソーシャルワーク教育と実践の研究の発展過程を踏まえ,国際人口移動が進展し多文化・多様化社会となった今日,外国にルーツを持つ人々の問題に対応可能なソーシャルワーカーを養成する必要があることを示した.そのためには,文化的コンピテンスとダイバーシティの価値と理論に基づき,教育側と実践現場側が連携し,教育と実践の基準を構築することの必要性を示した.また,国際人口移動に伴う生命や生活の安定や安全保障の整備にあたっては,彼/彼女らのエスニックリアリティを念頭に置くことが求められる.それと同時に,各国の社会保障・安全保障という枠組みで考えるだけではなく,国家の枠組みを超えて人間の安全や生命をいかに守っていくかというヒューマン・セキュリティの考え方が重要となることが示唆された.
著者
井上 康二郎
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.411-426, 2011

慢性疾患の発生状況を示す罹患率は,通常前向き調査で大きな労力を必要とする.そこで,既存統計データを用いた,経年の連続する集団である年齢階級の有病率の差に死亡率を加算することで計算される式から,この推定の罹患率が計算できないか,糖尿病,高血圧性疾患,脳血管疾患について,その可能性を調べた.まず統計データである患者調査による,経年の有病率と,経年間の死亡率から計算される,理論的な年齢階級別推定罹患率(Age-Specific Estimated Incidence rate ; ASEI)の計算式を導いた.この式により,国際疾病分類での糖尿病,高血圧性疾患,脳血管疾患について,実際のデータを用いてASEIを算出した.また,ある保健所の死亡データから,その疾病の既往はあるが,死亡原因で他の疾患になっているものの総死亡数に対する割合(Rates of Persons who have Died by Another disease : RPDA)を算出し,死亡率にそれらのデータを加算して修正してから,ASEIを再計算した. 糖尿病のASEIは60歳でピークが見られたが,75歳以上で負の値であった.RPDAによる修正により,その負の値は,かなり0に近づいた.高血圧性疾患のASEIは65歳でピークが見られたが,80歳で負であった.RPDAによる修正によっても,その負の値は,ほとんど変わらなかった.脳血管疾患のASEIは80歳でピークが見られた.統計調査での1患者複数疾患のカウントによる有病率の推定や,前調査から現調査までにある疾患に罹っていたが現調査で異なる疾患に変化した人の全疾患に対する割合(Rate of Persons who suffered from the disease but Changed to Another disease : RPCA)を,付加調査として加えることにより,高齢者での負の推定罹患率は是正されるものと考えられた.また,推定治癒率(Estimated Cure Rate ; ECR)についても,実施された患者調査の患者についての後ろ向き調査による算出方法を検討した.また調査期間内に罹患し治癒したものについて,推定潜在罹患者数比(Estimated Potential Incidence Ratio ; EPIR)の算出も検討し,それらを式に組み込み,統計データを用いたASEIの計算式を完成した.
著者
塚原 貴子 矢野 香代 新山 悦子 太田 茂
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.235-242, 2010

本研究の目的は,大学生が外傷体験を筆記により開示することが,心身の健康に及ぼす影響を検討することであった.実験参加者は,A大学の学生で研究の同意が得られた対象に外傷体験の重症度を測定する出来事インパクト尺度 (Impact of Event Scale Revised:IES-R) の調査を行い得点の高かった12名である.実験は,外傷体験を事実と感情に分けて15分間筆記した後に読み返しをするトラウマ筆記群と,1週間の日常を筆記する統制群とに無作為で分け,3日間行った.開示の影響を評価するため,IES-R調査の他に精神的健康度(General Health Questionnair:GHQ60)調査,唾液アミラーゼ活性によるストレス度調査,近赤外光トポグラフを用いた前頭部の血流測定,継続的な脈拍測定を行った.その結果,IES-R得点,GHQ60の得点がトラウマ筆記群で有意に低減した.身体的な評価指標には個人差があり,明らかな効果は認められなかったが,筆記による開示のストレス軽減効果の可能性は示唆された.
著者
田中 昌昭 川部 健
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.119-127, 1993

複素対数写像Z → lnZ+Cのスケーリング則について報告する.我々はこの写像のマンデルブロ集合におけるk-周期解領域の面積はk^-6でスケールされることを見い出した.これは対数写像に埋め込まれた円写像によって説明することができる.周期加算則もまたこの円写像の性質を用いることによって解明できる.周期加算則に関連して固定点領域との境界線に沿って悪魔の階段が現れることも示す.複素対数写像に見られるこのような現象は, この写像の背後にある, いわゆる2-frequency systemに起因する.
著者
何川 凉
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.9-14, 1992

過去約30年にわたり,共同研究者と共に行ってきたアルコールに関する研究成果の概略を述べる。アルコール研究の足跡(1962年以来現在に至る経過)アルコールの測定法(気化平衡GC法の開発)生体のアルコールに関する研究1) 飲酒後の体液アルコール濃度の比較と影響する諸条件 2) 血中アルコール濃度から飲酒量の推定 3) アルコールの吸収,代謝,排泄と遺伝形質 4) 悪酔,宿酔とその原因 5) アルコールと薬毒物の併用 6) 交通医学的研究(飲酒時の運転能力,飲酒運転取り締まりにおけるアルコール測定法) 7) その他の研究(飲酒の効用,市販のドリンク類のアルコール含有)死体のアルコールに関する研究1) 法医学の鑑定実務における諸問題 2) 検屍と解剖における試料の選択と採取 3) 以前の時点における血中濃度の推定法 4) アルコール類の死後産生と飲酒との鑑別 5) 胃内アルコールの拡散による周囲体液への影響 6) 死因とアルコール濃度の関係 7) 受傷時や死亡時の酩酊度の推定
著者
松本 真
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.35-41, 1996

正中動脈を例にあげて, 形態にたいする見かた, 方法論について述べる.現象論ないし変異論的には, 正中動脈は成体の8%ほどに出現する枝である.その形成を要因論または機械論的に実証することは, 他の肉眼解剖学的形態についてと同様, きわめて困難である.過程論的には, 個体発生において, 正中動脈は前腕部で骨間動脈にひきつづいて形成される主要枝である.さらに, ツパイにおける個体発生や比較解剖学的考察から, 正中動脈は系統発生的に霊長類の祖先段階で, 成体においても残存し, 機能する枝であったことが推測される.真猿類, 狭鼻類としての段階における変化について, 機能的意義を推論した.これらのさまざまな見かたは, 形態の持つ要素を互いに相補的に分析するものだが, 系統発生がその中心に認識されることが肝要である.また, そのような分析を可能にするうえで, 霊長類の比較研究の重要性が認識される.
著者
竹内 一夫
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.67-73, 1992

効果的な対人援助関係は,迅速で創造的でかつ問題解決的な活動でなければならないし,それは援助者と被援助者の関与を要求する。それ故,両者間でのコミニュケーションは対人援助関係において重要な因子となる。最近,援助者と被援助者間の良き関係作りを促進する新しいコミニュケーションの技術が示された。それは自己開陳である。本稿では,自己開陳の効果について,特にその一部であるユーモアとあそび心の有効性について検討する。
著者
齋藤 芳徳
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.83-89, 2001
被引用文献数
1

車イス使用高齢者のシーティングについて, (1)「高齢者一軍イス」の関係を探るために, 車イス座面の変更が高齢者の座圧分布に与える影響を把握するとともに, (2)「車イス使用高齢者一生活環境」の関係を捉えるために, シーティングの改善が生活展開に与える影響を時系列的に探り, (3)高齢者が使用する車イスのあり方について若干の考察を加えた.以下にその内容を要約する.(1)車イス座面のスリングシートから固定シートへの変更と車イスの調整により, 座圧分布の改善がみられた事例がある一方で, 改善がみられない事例もあり, 1種類の座面による対応の限界が示された.(2)シーティングの改善による車イス環境の変化が, 生活展開にも影響を与えている傾向がみられた.(3)高齢者が使用する車イスは, モジュラー型車イス等の個別対応可能な車イスが必要である.また, シーティングの改善に際しては, 「高齢者一車イスー生活環境」に関連する現状での馴染みへの配慮も必要である.
著者
吉岡 豊 森 壽子 藤野 博 瀬尾 邦子 濱田 豊彦 寺尾 章
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.169-176, 1992

本研究では42例の失語症患者と3歳から8歳の正常児94例を対象に, 文理解力と物語理解力を調査し, 失語症患者と正常児の相違点を考察した.課題として文理解力の評価には2種類の3文節能動文を用い, 物語理解力の評価には失語症鑑別検査(老研版)を用いた.主な知見は以下の如くであった.1.失語症患者では物語理解力が文理解力よりも良好であった.両課題の成績には乖離が見られ, 特に重度・中度群で著しく, 軽度群では差がやや縮まった.2.正常児ではどの年齢でも物語理解力と文理解力はほぼ並行して発達した.また, 理解良好な者の比率は4〜5歳代で有意に上昇した.以上の結果から, 文理解力と物語理解力の乖離は失語症患者に特有な現象であることが確認された.その原因としては, 文理解力には主に左脳の能力が, 物語理解力には右脳の能力も関与しているためと考えられた.
著者
矢野 里佐 矢野 博已 木下 幸文
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.133-138, 1995

本研究では, 高強度運動が肝機能に及ぼす影響を検討することを目的とし, Sprague-Dawley系雄性ラット5匹を用いて高強度運動時の肝門脈血流変化を捉え, さらに血清GOT, GPT, CPK, LDH活性値などの肝機能検査に加えて, 肝障害を特異的に反映するとされる血清グアナーゼ活性と, 血清ピアルロン酸の分析を行った.(1)高強度運動は, 運動開始後5分以降に, 門脈血流量を有意に減少させた.(2)肝機能検査では, 血清GOT, GPT, CPK活性はともに高強度運動によって有意に上昇した(p<0.05)が, 血清LDH活性は変化を認めなかった.高強度運動は血清グアナーゼ活性を有意に上昇させた(p<0.05).一血清HY濃度は, 肝門脈血清HY濃度から肝静脈血清HY濃度を差し引いたHYuptakeで比較すると高強度運動群で有意に低位(p<0.05)を示した.これらの結果から, 高強度運動は, 肝門脈血流量を減少させ, 肝実質細胞, 及び類洞細胞の機能に影響を及ぼすことが示唆された.
著者
長尾 光城 馬渕 博行 Michael KREMENIK 長尾 憲樹 松枝 秀二 柚木 脩
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.319-323, 2001-12-25

スポーツ外傷と障害でもっとも頻繁にみられるものの一つが足関節内反捻挫である,捻挫を経験した選手にたいして, スポーツ現場ではテーピング, 装具のいずれにするか, その選択に苦慮している。そこで現在使用頻度の高い各種装具, テーピングについて, 装着感, 固定性, 価格について検討した.足関節に不安を感じているもの10名に対して両足関節に内反ストレステストをおこないX線で撮影し, 健側と患側の比較をした.比較の結果, 両者の距骨傾斜角度に5度を越える被検者に対して, 6種の装具, テーピングを装着後, 再度内反ストレステストをおこない, 固定性, 装着感を調べた.被検者の主観と距骨傾斜角度, 価格から一覧表にしてまとめた.その結果2種類の装具とテーピングで良好な固定性をみた.装具の固定性に関しては, 金額の高いものほどよかった,また足関節を筒状につつみこみ, フィギアエイトがほどこされているものが, 固定性を保っていた.重度の損傷に対しては固定性の良い装具かテーピングが有用であることが確認できた.しかし, 競技種目(たとえば, サッカー)によっては装具が使用できない場合があるので, 競技特性を考えた装具の開発がのぞまれる,テーピングは非常に有用であるが, 毎回の利用で経費がかかることを念頭にいれないといけない.固定性重視か, 不安感解消かで使い分けるとともに, 足関節周囲の支持組織の強化を怠らないことが重要である.