著者
川崎 靖子 寺本 房子 武政 睦子
出版者
川崎医療福祉学会
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.285-293, 2020

川崎医療福祉大学の管理栄養士養成課程4年生を対象に,職業選択と管理栄養士のコンピテンシーの達成度との関係を調査した.有効回答者42名を病院(以下,病院群)25名(59.5%),福祉施設(以下,福祉群)8名(19.0%),企業7名(16.7%),その他2名(4.8%)に分けた.本研究におけるコンピテンシー平均達成度を,全国管理栄養士養成課程の4年生を対象にした調査と比較した.病院群は基本コンピテンシーが最も高く,学修目標到達度の「栄養マネジメント能力」および「職域分野別コンピテンシー」のすべての項目が高かった.しかし,福祉群は基本コンピテンシーの「自己確信」の項目が低かった.管理栄養士養成課程の教育やカリキュラムを改善するための提案について考察した.
著者
関 和俊 石田 恭生 小野寺 昇 田淵 昭雄
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.113-119, 2007

高所において生体は,いわゆる急性高山病(Acute Mountain Sickness ; AMS)症状に悩まされることが少なくない.動脈血酸素飽和度(SpO_2)を簡易に測定ができるパルスオキシメータは,酸素不足と高所順応の状態を的確に把握し,ヘモグロビンの透過率を測定できる機器であり,最近の登山には必要不可欠な装備とされている.富士山は,海抜3,776mの日本最高峰であり,低圧低酸素環境下にある.本研究では,心拍数,SpO_2およびAMSスコアを用い,富士登山における生体変化を明らかにすることを目的とした.被験者は健康な成人男女26名(男性15名,女性11名)であった.登山中の心拍数およびSpO_2の測定にはパルスオキシメータを用いた.AMSスコアの事後アンケート調査を実施した.心拍数は五合目登山前(88.8±11.8bpm;beats per minute)と比較して,富士山頂(101.2±19.3bpm)において有意に上昇した(p<0.05).SpO_2は,五合目登山前(91.4±2.0%)と比較して,富士山頂(82.1±6.5%)において有意に低下した(p<0.05).AMSスコアは「頭痛」および「めまい及び/またはふらつき」に関して山頂時に有意に高値を示した(p<0.05).このことから,富士登山においても心拍数やSpO_2は高所順化の指標となることを示唆する結果となった.また,SpO_2の測定は富士登山における高所順応が順調に獲得されているかどうかを知るための適切な指標であることが示唆された.心拍数,SpO_2およびAMSスコアを用いることによって,富士登山における急性高山病を事前に防ぐことが可能であると考えられた.
著者
脇本 敏裕 宮川 健
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1-1, pp.201-205, 2020

剣道は面を着用していることや稽古および試合中に不規則的な動きをするため,生理学的な測定が難しく実測が行われた研究は少ない.剣道稽古中の呼吸波形や呼吸循環機能についての研究は散見さ れるが,剣道稽古中のエネルギー消費量,呼吸代謝応答の実測を行った研究は少ない.本研究では, 剣道の試合形式の稽古を行った際の呼吸代謝応答を実測し生理応答を明らかにするとともに自転車エ ルゴメーター運動との差異を検討することを目的とした.対象は K大学剣道部に所属する剣道鍛錬者の男性5名,女性5名とした.自転車エルゴメーターを用いた最大酸素摂取量の測定,および試合を想定した剣道稽古中の心拍数,呼吸代謝応答を測定した.剣道稽古中の呼吸代謝応答は面金の下半分 を切り取った面を用い,フェイスマスクを介して背中に背負ったダグラスバッグに呼気ガスを採取して行った.剣道稽古中の呼吸代謝応答を,剣道稽古中と同一心拍数における自転車駆動時の呼吸代謝応答と比較した.酸素摂取量は剣道稽古中:26.1±5.6ml/kg/分,自転車駆動中:22.0±6.4ml/kg/ 分で有意な差が認められた(p<0.05).換気量は剣道稽古中:32.0±10.3L/分,自転車駆動中:26.0± 10.9L/ 分で有意な差が認められた(p<0.05). METs は剣道稽古中:7.5±1.6METs,自転車駆動中:6.3±1.8METs で有意な差が認められた(p<0.05).剣道で打突時に発生を伴わなければ一本にはならない.この剣道特有の呼吸や発声が,同一心拍数での呼吸代謝応答の違いの原因ではないかと考えられる.
著者
田並 尚恵
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1-2, pp.353-361, 2020

「大学全入時代」を迎えた日本の大学では,リメディアル教育をはじめ,学力の質を担保する取組みが行われている.現在,ソーシャルワーカーを養成している大学で,公民科目(現代社会,倫理, 政治・経済)をリメディアル教育に採用している大学は,ほぼ皆無である.ソーシャルワーカーに求められる知識や社会の理解は,高校までの学習を基礎に専門的な知識を積み上げるものであり,基礎的な知識や理解がないままに学んでも体系的な理解にはつながらない可能性がある.このような問題意識から,X大学 A学科では,現代社会のリメディアル教育を導入した.本稿は,2017年度と2018 年度に実施したリメディアル教育の取組みを紹介し,その効果を考察したものである.いずれの年度も入学前学習の課題として社会保障制度に関するワークシートを作成し,入学予定者を対象としたスクーリングのミニ講義で課題の内容を確認した.そして初年次教育科目(基礎ゼミナールⅠ)の初回に基礎学力テストを実施した.さらに,基礎ゼミナールⅠの授業でテストの振り返りと社会保障に関するグループワークを実施した後,確認テストを行った.2回のテスト結果を統計的に分析したところ, 2018年度は,確認テストの平均が上昇し,リメディアル教育の効果が確認された.ただし,2回のテストとも成績の低い学生が全体の15%程度おり,基礎学力不足の学生には別途支援の必要があると考えられる.
著者
富田 早苗 西田 洋子 石井 陽子 波川 京子
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1-2, pp.377-384, 2020

A大学では,2015年度から新たなカリキュラムに基づいた公衆衛生看護学実習を展開している.本研究は,保健師コースを選択した学生の3年間の学習到達度と全国保健師教育機関協議会が実施した全国調査との比較から A大学の保健師教育の現状と課題を明らかにすることを目的とした.調査は2015~2017年度に公衆衛生看護学実習(以下,実習)を行った4年次生を対象に,無記名自記式質問紙調査を行った.調査項目は実習体験,保健師に求められる卒業時の学習到達度である.調査時期は,各年とも実習が終了した直後に行い,3年間の総計と全国調査との比較を記述的に行った.実習での技術体験では,本調査対象者は,家庭訪問,健康相談,健康診査において,主体的な体験割合が低く,地区活動計画立案,健康危機 / 災害と感染症の項目においても体験割合が低い傾向にあった.また,専門領域では,児童虐待防止対策,自殺対策,依存症対策,がん対策の体験割合が低い傾向にあった. 学習到達度では,「保健師としての責任を果たす」は高かったが,その他の項目は低い傾向にあった.3年間の調査結果から,A 大学対象者は,少しの助言で自立してできると判断した者が少ないことが明らかとなった.主体的な実習体験の拡充と,専門領域を意識できる学内講義・演習の充実が課題である.
著者
人見 裕江 塚原 貴子 中西 啓子 千田 美智子 森安 孝子
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.91-98, 1996

水分摂取は簡便で身近な看護ケアの一つであるが, この飲水が健康な成人の排便習慣に及ぼす影響を, 日本語版便秘評価尺度と便形評価尺度を用いて調べた.普段より実験的に水分を多く飲むことの了解の得られた対象に, 所定の用紙に研究期間中の水分量, 排便時間と負荷前・負荷中・負荷後のCAS評価と便形評価を依頼し, その排便習慣を検討した.その結果, 成人の排便習慣に及ぼす水分の影響として, 飲水を負荷することによって便は柔らかな形となり, 便硬度の軟化傾向があることが明確になった.この飲水の効果の自覚や飲む時間帯による差は, CASおよび便形評価のいずれの場合にも認められない.しかし, 飲水の負荷は, 便秘でない者, また下剤を使わない者の便形を変化させるが, 便秘者への影響は少ない.さらに, 身体の変調を含むCASでは, 飲水の負荷により, 腹部の身体症状を来たしやすく, 飲水が便秘を改善するかどうかCAS得点上にあらわれにくい.
著者
小野寺 昇 望月 精一
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1-1, pp.9-14, 2020

「人を対象とする医学系研究に関する倫理指針」に基づく,川崎医療福祉大学(以下,本学と略す)における研究倫理研修への取り組みを述べる.本学の学術研究の信頼性及び公正性を確保することを目的に「川崎医療福祉大学における研究者等の行動規範」と「川崎医療福祉大学研究倫理基準」が施行されている.これら2つの規程に基づき,本学の研究費不正防止計画が施行されている.文部科学省が定める「研究機関における公的研究費の管理・監査のガイドライン(実施基準)」が要請する公的研究費の管理・監査にかかる取り組みを「研究費不正使用防止計画」として具体化し,11項目の計画が示されている.平成28年度から e-ラーニングを導入した.研究倫理への理解深化と周知徹底を目的に外部講師を招聘し,コンプライアンス研修会(大学の取り組み・不正使用防止計画に関する事項, 利益相反,安全保障輸出管理に関する事項,知的財産に関する事項など)を開催している.特に,公的研究費(科学研究費等)執行に関する不正使用に関して注意を喚起している.理解不足(知らないこと)から生じる不正使用の案件が生じないように取り組んでいる.社会の研究に対する認識の流動性を鑑み,最新情報を提供する取り組みを継続する.
著者
鈴井 江三子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.319-328, 1998-12
被引用文献数
1

この研究は, 妊婦健診を受けた妊婦の肯定的な体験を分析し, 助産婦と妊婦のあいだにみられる効果的な相互作用のあり方を探求した質的研究である.インタビューをおこなった対象は, 妊娠26週から36週までの初産婦で, 複雑な産科疾患を伴わない妊婦7名とした.データーの収集はテープ・レコーダーによる逐語記録とし, 半構成的質問内容にそって実施した.その結果, 妊婦と助産婦の対人関係の中で, 妊婦の体験の要素は, 1.耳を傾けてくれる, 2.心遣い, 3.聞くチャンスをくれる, 4.保証してくれる, 5.細やかに教えてくれる, 6.妊婦に合わせてくれる, 7.妊婦ができるように援助してくれる, 8.何でも気軽に聞ける, 9.精神的に支えてくれるの9項目が抽出された.これらの項目は, 人間関係の中に見られる肯定的な相互作用である.
著者
"鈴井 江三子"
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.59-70, 2004
被引用文献数
2

"本研究は,超音波診断を含む妊婦健診の導入と普及要因を明らかにするため,戦後の医療制度再編に施行された医療法,医療保険制度,医療金融公庫法および母子保健法の4つの領域に焦点を当てて分析したものである.その結果,超音波診断装置の導入,普及には医療産業育成政策が動因として挙げられ,政府の政策支援によって達成したものであることが明らかになった.また同装置の開発と臨床への導入には医師,技術者以外に,日本ME学会の功労も大きいものであった.さらに超音波診断の保険診療の適応が広く導入を促した.その結果,超音波診断を含む妊婦健診が一般的になり,本来は順調に妊娠の経過を観察するという妊婦健診は,胎児異常の早期発見に傾倒した妊婦健診になったといえる."
著者
中尾 善隆 橋本 勇希 田淵 昭雄 小野寺 昇
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.107-111, 2007

富士山(海抜3,776 m)は日本一高い山として,登山客が足を運ぶことが多い.しかし,眼圧は気圧により変化することから,登山中の眼圧の変化には注意が必要である.しかし,これまで富士登山と眼圧との関係を報告した例は我々が調べた範囲内ではなかった.今回,我々は富士登山による眼圧の変化を調べるため,実際に登山を行い平地と山頂での眼圧を計測した.対象は正常眼圧で眼科的疾患を伴わない正常成人23名(男性11名,女性12名),平均年齢26歳であった.眼圧測定は接触型眼圧測定機器TONO-PEN^(R) XLを用い,測定者は視能訓練士1名とした.今回,アセタゾラミド服用による眼圧の変化がないことを確認し,高山病予防のため全被検者にアセタゾラミド250 mgを服用させた.登山前の平均眼圧は右眼13.0±2.4mmHg,左眼11.8±2.9mmHg,山頂での平均眼圧は右眼13.1±2.5mmHg,左眼11.8±2.5mmHgであり,これらに有意な差はなかった.この結果は,富士登山による急激な眼圧の変化はないことを示唆した.
著者
矢野 博己 宮地 元彦 矢野 里佐
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.139-143, 1995

本研究は, 運動時の肝門脈血流量低下に対して, それを決定する因子である肝門脈本幹断面積および血流速度がおよぼす影響について検討した.肝門脈血流量は運動強度に依存して低下した.運動時の門脈血流量と血管断面積問の単相関係数は高かった(r=0.812,p<0.01).門脈血流量に対して血流速度も単相関係数には有意性が認められた(r=0.375,p<0.05).門脈血流量に対する偏相関係数は, 門脈本幹断面積が高かった(vs, cross-sectionalareaandvs.venousvelocity, r_<xy-z>=0.809and r_<xy-z>=0.301).門脈本幹断面積変化が門脈血流量により強く寄与したメカニズムについて考察した.In the present study, we examined the effect of cross-sectional area and venous velocity on portal venous flow during exercise. Portal venous flow was reduced at 60% and 80% VO_2max intensities of exercise as compared with the resting level. A high simple correlation coefficient value between portal venous flow and the cross-sectional area was observed (r=0.812,p<0.01). A significant simple correlation coefficient value between portal venous flow and venous velocity was also observed (r=0.375,p<0.05). The partial correlation coefficient of portal venous flow and cross-sectional area was high during exercise (vs. cross-sectional area and vs. venous velocity, r_<XY-Z>=0.809 and r_<XZ-Y>=0.301,respectively). The mechanisms of the effects of the cross-sectional area on portal venous flow were discussed.
著者
"香西 はな 矢野 博己 加藤 保子"
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.11-19, 2006
被引用文献数
1

"現在,小麦はアレルギーを引き起こす三大食品の一つとされており,更に食物依存性運動誘発アナフィラキシーの最多原因食品としても注目されている.これまで,小麦アレルギーとしては,Baker's Asthmaやセリアック病などがよく知られており,原因タンパク質としてはそれぞれ塩溶性タンパク質,グリアジンであるとの報告が多い.近年問題となっている小麦依存性運動誘発アナフィラキシー(WDEIA)に関しては,ω-グリアジンであると報告されている.WDEIAの発症メカニズム解明のため,我々は,B10.Aマウスと卵白リゾチーム(Ly)を用いて,モデル実験動物系を確立した.各小麦タンパク質で感作したB10.Aマウスのアレルゲン投与後の疲労困憊運動時間は非感作群と比較して短く,更に,グリアジン次いでグルテニン群の小腸粘膜上皮組織の損傷は激しいものであった.マウスを用いて検討したWDEIAの原因タンパク質はグリアジン次いでグルテニンである可能性が高く,これらのタンパク質が小腸粘膜上皮組織を著しく損傷させ,体内へのアレルゲンの吸収も促進,更に,運動がこの損傷を増悪させることが考えられた.このような小腸粘膜上皮組織の損傷は,セリアック病でも観察され,セリアック病では,グリアジンの消化生成物であるペプチドがかなりの毒性ペプチドであることが報告されてきており,このようなグリアジンタンパク質の特性とWDEIAとの関係も示唆されるものであった.本報告では,小麦タンパク質とWDEIAに関して,これまで進められてきている研究の流れと,原因小麦タンパク質に関する情報を解説した."
著者
井村 亘 石田 実知子 渡邊 真紀 小池 康弘
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2-2, pp.433-439, 2018

本研究は,高校生の自傷行為に対する自己および他者に対するネガティブなスキーマと対人ストレスとの関連を明らかにすることを目的に,高校生に対して無記名自記式の質問紙調査を実施した.統 計解析には553人分のデータを使用し,ネガティブなスキーマが対人ストレス認知を介して自傷行為 に影響するとした因果関係モデルを構築し,そのモデルの適合性と変数間の関連性について構造方程 式モデリングにより検討した.仮定した因果関係モデルのデータへの適合度は統計学的許容水準を満 たしていた.変数間の関連性は,自己および他者に対するネガティブなスキーマが対人ストレス認知 に対して有意な正の関連性を示し,同時に対人ストレス認知が自傷行為に対して有意な正の関連性を 示していた.なお,本分析モデルにおける自傷行為に対する寄与率は35.0% であった.本研究結果は, 高校生の自傷行為に対する有効な支援方法の開発に対して一定の示唆を与えると考える.
著者
高尾 堅司
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.621-626, 2006

本稿は,新聞等報道で示された野球が被災地において果たす役割について報告する.1959年に伊勢湾台風雨に見舞われた名古屋市を本拠地とするプロ野球チーム(中日ドラゴンズ)は,主催ゲームの利益の一部を義援金として寄附した.1995年に阪神・淡路大震災に見舞われた神戸市を本拠地としていたオリックス・ブルーウェーブは,イベント等で被災者と触れ合うとともに,リーグ制覇という形で市民を励ました.同球団の優勝は,新聞等の報道で神戸市の復興と関連づけて報じられた.また,同年に高校野球が実施されたことに対しても,被災地の復興を象徴するものとして新聞に取り上げられた.2004年,福井豪雨に見舞われた福井市においては,被災地の高校野球部の全国大会出場と,甚大な被害を受けた地区のリトルリーグの活躍が,被災地を勇気づけるものとして新聞にとりあげられた.以上の事例は,被災地における野球チームの活躍は被災地の復興の象徴であり,被災者を勇気付けるものとして取り上げられることを示している.
著者
頓田 智美 諏訪 利明 小田桐 早苗 武井 祐子 門田 昌子 寺崎 正治
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.369-378, 2019

自閉スペクトラム症(ASD)児は,共同注意(joint attention)や関わり(engagement)といった対人相互性の発達プロセスに困難があることが先行研究から明らかになっている.本研究では,脳の可塑性が期待される発達早期に,ASD の疑いのある幼児(療育開始時1歳8か月,終了時1歳11か月)に対して対人相互性の発達を促す個別療育を実施し,対人相互性と適応状態の変化のプロセス及びその背景要因について検討した.個別療育は,児の特性や興味関心に即し,児が楽しんで参加できるように遊びの形で,原則週1回45分,全8回実施した.アセスメントにあたっては,新版 K 式発達検査2001,SPACE,Vineland- Ⅱ適応行動尺度を実施し,分析時には質的側面にも注目した.その結果, 新版 K 式発達検査2001による発達指数に変化は見られなかったが,要求,共同注意の回数,協応した相互的な関わりの時間が増え,遊びの内容が変化し,適応行動尺度による数値が上昇した.また, 各回の療育場面を詳細に検討することで対人相互性の変化のプロセスを想定し,その変化の要因として,療育者の玩具の選択及び示し方,療育者の関わり方,環境設定の3つの観点から整理した.
著者
福澤 雪子 山川 裕子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.81-89, 2006
被引用文献数
3

本研究の目的は,産後1か月間の母親の対児愛着の形成の様相を明らかにし,精神状態との関連を検討することにある.赤ちゃんへの気持ち質問票日本版(吉田,1998)とエジンバラ産後うつ病質問票(EPDS:Cox,1987,)を用い,356名の母親(初産婦188名,経産婦168名)を対象に,退院時と産後1か月時に調査を行った.対児愛着得点は,退院時1.92±2.18点,1か月時1.57±2.10点で有意差があった.1か月間で喜び感情が増大し,怒り感情は減少していた.初産婦と経産婦別では,退院時(2.48±2.42点 vs 1.29±1.67点),1か月時(1.94±2.22点 vs 1.15±1.88点)共に有意差があった.EPDS高得点者は,退院時32名(9%),1か月時17名(4.8%)で,2時点共に低得点者は314名(88.2%)であった.EPDS低得点・高得点別の対児愛着得点は,退院時(1.75±1.99点 vs 3.59±3.17点)・ 1か月時(1.43±1.98点 vs 4.18±2.81点)で有意差が見られた.2時点共に低得点の母親とそれ以外の母親では,退院時(1.70±1.96点 vs 3.57±2.94点)・1か月時(1.40±1.96点 vs 2.79±2.69点)で有意差が見られた.以上より,母親の対児愛着は,産後1か月間で変化していることが明らかになり,愛着形成途上であると考えられる.また,経産婦は初産婦と比べてより肯定的な対児愛着であることから,愛着形成には育児経験の差が影響すると考えられる.母親の対児愛着と精神状態には関連が見られ,産後1か月間の母親の精神状態が継続して健全であることが,対児愛着の形成に影響することが示唆された.子どもに対する母親の愛着形成を育むためには,心身共に変化しやすい産後1か月間の母親へのサポートが重要である.