著者
熊谷 忠和 クレミンソン ティム
出版者
川崎医療福祉学会
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.55-64, 2018

本研究の目的は,これまでの筆者の研究である社会構築主義的思考に基づくソーシャルワークの理論・方法の枠組み構築を目指した「生きていることの有意味感を見据えたソーシャルワーク援助枠組みについての研究」を踏まえ,さらに当事者のライフ・ストーリー分析を多文化視点も加え,すでに筆者が提示している「生きていることの有意味感を見据えたソーシャルワーク援助枠組み」の妥当性を検証することである.そのための研究方法として,マレーシアのハンセン病当事者(中華系マレー人)への聞き取り調査を行った.分析の結果,スティグマをきせられた当事者が,自身のさまざまな対処を通して,人生においてポジティブな見解を築き上げる過程が明らかとなった.そして,エピファニー(語源はキリスト教における「顕現」を示すが,ここでは当事者が人生の見方を変えるような宗教的な体験も含む日常的な生活や出来事の体験とする)の体験を経て,当事者自身が人生の見方を変え,スティグマを乗り超えていく過程が明らかとなった.さらにライフ・ストーリーのダイナミクス,すなわち「マスター・ナラティブ」「モデル・ストーリー」「ニュー・ストーリー」の展開過程が認められ,その要因として「ストレングス」「利用者文化」「公からの他者承認」「実体ある復権」が明らかとなった.従って,研究の目的とした前段研究の妥当性は検証された.しかしながら,今回の事例的検証から本「援助枠組み」援用について,当事者との安定した信頼関係形成などに関しての限界性が認められた.
著者
松本 啓子 若崎 淳子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.67-72, 2006
被引用文献数
1

Successful Agingの研究は主に米国において進んでいるが,用語そのものの意味も研究者によって見解が異なる.我が国では未だ独自の社会的文化的民族的背景からの示唆は得られていない段階である.そこで今回,著者らの先行の報告を基に,65歳以上の高齢者36名へのアンケート調査から,Successful Agingの現状について質的因子探索型研究を行った. 高齢者におけるSuccessful Agingの現状としては,【満足】【健康】【自己保存】【参加】【チャレンジ】【自負心】の6カテゴリーが抽出された.`健康・元気にむけて努力する'から【健康】,`過去も現在も満足している'から【満足】,`満足している今の自分を,努力して維持させたい'から【自己保存】,`社会や人との関わりに意味を見出している'から【参加】,`好奇心旺盛で前向き'から【チャレンジ】,`高い自己評価とともにある自信'から【自負心】,の6カテゴリーであった.高齢者におけるSuccessful Agingの現状を明らかにすることは,新たな高齢者像の構築,医療・看護教育における高齢者理解の一端に寄与することができる.
著者
八田 徳高 福永 真哉 太田 富雄
出版者
川崎医療福祉学会
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.449-455, 2018

標準純音聴力検査の結果は正常であるが,日常生活,特に職場での聞こえの困難さを訴える成人2例に対して,聴覚情報処理に関する検査を実施し,聞こえの困難さについて分析を行った.また,聞こえの問題と同時に注意や記憶など他の背景要因の関連についても検討するために神経心理学的検査を実施した.その結果,2名とも聴覚情報処理に関する問題をもっていることが明らかになった.1名は,神経心理学的検査の結果では成績の低下はなく,聴覚情報処理障害の可能性が考えられた.もう一方の症例は,記憶及び注意に関する検査においても成績の低下がみられたことから,他の要因からくる聞こえの困難さが疑われる結果となった.このことから聴覚情報処理機能の評価では,神経心理学的検査を実施し,その背景にある要因について検証することの重要性を確認することができた.
著者
吉利 宗久 手島 由紀子 母里 誠一
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.237-242, 2000

本研究は, アメリカ合衆国の学校教育における医療的サービスの提供をめぐる7つの判例を取り上げ, その特徴と問題点を把握することを目的とした.個別障害者教育法(IDEA)は, 障害児のユニークなニーズに対する「特殊教育及び関連サービスを強調する無償で適切な公教育」を保障している.また, 「関連サービス」は, 診断と評価を目的とする「医療的サービス」及び, 有資格スクールナースやその他の有資格職員によって提供される「学校保健サービス」を含む.しかし, これらの法定義が不明確であるために, 学校における医療的ケアの提供をめぐる問題が生じ, 法廷で争われている.1984年のTatro訴訟に端を発するこの問題は, その後の訴訟においても引き続き議論されてきた.その後の判例において検討されたことは, IDEAの医療的サービスから除外されるべき範囲, 施行規則の「学校保健サービス」及びTatro訴訟の連邦最高裁判所判決に関する解釈であった.1999年に連邦最高裁判所は, Garret訴訟において, 障害児が必要とするサービスが医師によって提供されない限り, サービスの性質や範囲に拘わらず, 学校において提供されるべきことを認めた.Garret訴訟は, 15年間にわたる学校での医療的ケアの提供をめぐる訴訟を集約する結果をもたらした.今後, 判例の一層の検討により, 障害児の医療的ケアに関する教育的課題が解明されるべきである.
著者
植田 嘉好子 三上 史哲 松本 優作 杉本 明生 末光 茂 笹川 拓也
出版者
川崎医療福祉学会
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.47-59, 2020

人工呼吸器や経管栄養等の医療的ケアを日常的に必要とする子どもは「医療的ケア児」と呼ばれ, この10年でおよそ2倍に増加し,全国に約2万人いると推計される.医療的ケア児の保育ニーズの高まりから,国や地方自治体は保育所への看護師配置等の支援体制を整えつつあるが,実際の保育所受入れは全国で329か所,366人に留まる(2017年度).そこで本研究では,保育所での受入れの条件やそれを支えるシステムの検討を目的に,医療的ケア児と家族へのインクルーシブな支援の実際と課題を明らかにした.2件のケーススタディの結果,医療的ケア児の保育所受入れには,看護師の配置等の制度的課題だけでなく,健常児も含めた多様なニーズにいかに対応するかという保育実践上の課題が見出された.一方で,クラスでは園児らが自然と医療的ケア児に関わり,医療的ケア児自身も集団生活の中で自立心や所属感,社会性が芽生えており,互いの違いを認め合いながら成長・発達していくインクルーシブ保育の成果も確認された.同時に,保育所の利用によって,保護者への子育て支援と就労を通した社会参加とが実現されており,このようなインクルーシブな支援には,医療的ケア児に関わる諸機関(病児保育室や相談支援事業所等)との形式的でない有機的な連携が重要であった.しかし現実には,医療機関でない保育所という施設で医療的ケアを安心・安全に提供することの負担やリスクは少なくなく,医療事故に対する補償制度等を国が整備していくことも今後必要と考えられる.
著者
Hashimoto Nobuko
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.259-265, 1992

8編の作品から成る短編集「家の中の鳥」はローレンスの唯一の自伝的作品である.この作品に於て, 大恐慌や戦争, さらには人種差別による人々の苦しみが, ローレンス自身であるバネッサという名の少女の目を通して語られる.バネッサは常に物語を書くことに熱中しているが, 周囲の大人達の苦しみ, 悲しみを目撃することによって物事を見る目が深められ, 現実から遊離した自身の作品と決別する.子供時代に恐れ, 嫌っていた母方の祖父のパイオニアとしての辛酸の日々を理解し, 受け入れる過程も併せて語られる.
著者
北澤 正志 橋本 美香 國弘 保明 根来 麻子
出版者
川崎医療福祉学会
雑誌
川崎医療福祉学会誌 = Kawasaki medical welfare journal (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.165-173, 2019

社会変動の激しい現代社会においては,確かな情報収集と論理的思考力に基づく課題解決能力の育成が重視されている.こうした学力の育成に,高等学校の学習指導要領で示されている「論理の構成や展開を工夫し,論拠に基づいて自分の考えをまとめること」という意見文の学習は有効である.「書くこと」に関する学習活動は「思考力,判断力,表現力」を鍛え,課題解決に対する資質・能力の向上に繋がる.しかし,大学に入学した時点では,主体的に情報収集を行うという姿勢が身についておらず,事実と意見を区別する表現さえあいまいである.そこで,本稿では,高等学校の「書くこと」に関する学習活動について,具体的にどういう点に課題があるのかを明らかにすることを目的とした.このための方法として,本学の必修科目「文章表現」の受講者を対象としてアンケートを実施し,高等学校の「書くこと」に関する指導の現状と学生の実態を分析した.その結果,高等学校においては,主体的な情報収集,客観性の高い資料に基づいて書くという経験が少ないことが明らかとなった.このことから,大学の初年次教育においては,こうした現状をふまえて指導しなければならないことが示唆された.また,課題解決能力の育成のためには,高等学校の「書くこと」の学習活動における情報収集から推敲にいたるまでの学習過程を具体的に構成する必要があるという今後の課題が明らかとなった.
著者
深井 喜代子 新見 明子 大倉 美穂
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.285-291, 2000

患者側から看護者を評価する心理社会的尺度, 対象一看護者関係評価尺度(Client-NurseRelationshipScale, CNRS)を新たに開発した.まず, 既成の文献と観察法から138の項目を抽出し, 表面妥当性と重複の有無を検討して52項目の初版CNRSを作成した.初版CNRSでは某有名タレントを288名の学生に評価させた.初版の再テスト法による信頼性係数は0.93(p<0.01), Cronbachα係数は0.89であった.ついで初版から因子負荷量の低い項目を除外して31項目の改訂版CNRSを作成し, 看護学生に理想の看護者を評価させた.因子分析の結果, 初版, 改訂版ともに「人間的信頼感」「専門性」「威圧感」の3因子が抽出された.改訂版による調査結果の因子分析から項目をさらに厳選し, 最終的に24項目からなる完成版を作った.完成版CNRSは患者一看護者関係だけでなく友人関係や学生一教師関係なども評価できる信頼性と妥当性の高い対人関係評価尺度であることが示された.
著者
竹内 一夫
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.59-66, 1991-10-11

平成元年に「医療ソーシャルワーカー業務指針」が, 医療ソーシャルワーカー業務指針検討会により提出されたが, 我が国では未だ, 医療ソーシャルワーカーの法資格はできていない.本稿では, これまで厚生省や関連団体から出された公的文書の中で, 精神衛生法正前の1947年から1964年までを対象とし, 医療ソーシャルワーカーの役割, 定義, 業務, 教育体系などがどのように変化して来たのかを, 経時的に検討した.1965年以降のものは続報で検討する.今回の検討では以下のことが確認できた.1)保健所法制定後10年で, 医療ソーシャルワークは「医療チームの一部門」として位置づけを得, その扱う対象も「患者」から「患者及び家族, 地域社会」へと拡大している.2)同時期, 医療ソーシャルワークの専門技法は, 初期のケースワークから, それに加えグループワーク, ソーシャルワークリサーチ, コミニティーオガニゼーションの一部, ソーシャルワークアドミニストレーションの一部へと拡大している.3)専門的教育に関しては, 保健所法制定後15年で, すでにスーパーバイザー養成を含んだ大学レベルでの教育が提案されていた.
著者
若井 和子 小河 孝則
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.377-382, 2011

本研究は,乳児院で就業する看護師および保育士の協働意欲に影響する要因について明らかにし,入所児に専門性を発揮したケアを提供できることを目的とする.研究方法は,関西地方,中国地方,および九州地方の乳児院で就業している看護師5人および保育士5人,合計10人を対象とし,個別に半構造化面接調査を実施した.言語データを収集し,質的帰納的方法で分析した.その結果,【役割遂行ができた達成感の獲得】の有無が抽出された.カテゴリーには,専門職としての葛藤や孤独感などマイナス因子が含まれていた.複数の専門職で構成されている乳児院において協働意欲を向上させるためには,他職種との意思疎通を円滑にし,専門職としての役割が遂行できるように職場環境を整える体制づくりが重要である.
著者
山田 景子 津島 ひろ江
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.11-25, 2013

昭和54年の養護学校義務制度の開始により,重度障害のある児童生徒等の就学が可能となったが,医療的ケアを行う者は,学校に同伴する保護者であった.しかし,保護者負担の軽減や児童生徒等の 教育的ニーズにこたえる形で,各学校に配置された看護師や研修を受けた教員等へとケアを行う者が 推移していった.平成23年6月に出された「介護保険等の一部を改正する法律による社会福祉士及び 介護福祉士法の一部改正」により,特別支援学校において,教員等が医療的ケアを実施することが制 度上可能になった.本研究では,医療的ケアや医療的ケアを行う者についての法制度に係わる背景及 び変遷について述べ,教員等と看護師,養護教諭の職務に係わる課題を考察した.1特定行為を行う教員等が,教員の養成段階で医療的ケアの知識を得ておくことで,医療的ケアの 理解につながる.2看護師は,医療的ケアを行う者であり,教員等の指導者でもある.学校と病院と の看護の相違に戸惑うことがあり,学校における看護やその在り方について研修が必要である.3医 療的ケアに係わる校内体制のキーパーソンとなる養護教諭は,養護教諭の養成段階で医療的ケアに関 する知識や技術を取得しておくことが求められている.さらに,学校内外の連絡調整や医療的ケア校 内委員会等のコーディネーターとしての能力育成が課題である.
著者
橘 智子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.15-23, 1991-10-11

『エセルバータの手』(The Hand of Ethelberta)でトマス・ハーディ(ThomasHardy)はシェイクスピア風の貴族社会を風刺した軽いタッチの喜劇を書こうとしてか, 副題に『数章から成る喜劇』と付加しているが, 失敗作としてその評価は極めて低く, minor novelに分類されている.しかし, ヒロイン・エセルバータは, Hardyが創造した他の女性たちより興味深くユニークな存在である.家族のために恋人を諦めて裕福な老貴族と結婚する自己犠牲的行為は, 人身御供として本来ならテスの場合のように悲劇的であるが, エセルバータの場合, 考えようによっては, 環境の犠牲者(召使いの娘として, 10人の兄弟姉妹の5番目に生まれたという)とも言えるが, 彼女の自尊心及び虚栄心がらみの野心にのっとり, 自ら選んだ道を邁進し, 子爵夫人として夫も財産も管理・支配する姿には, 悲劇よりむしろしたたかな生命力を感じる.この小論では, 19世紀の時代背景と, その思潮に触れ, ヒロインが職業で果し得なかった女性の自立, 並びに持てる才能の開花を結婚によってどのように達成し維持していくか, 彼ざま女の生き様を「新しい女」と位置づけ論を進めていく.
著者
寺崎 正治 綱島 啓司 西村 智代
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.43-48, 1999-06-25

本研究においては, 主観的幸福感の構造について検討した, 367人の大学生に対して, 人生に対する満足感質問紙と感情の特性尺度を実施した.その結果, 人生に対する満足感評価は, 「活動的快」感情と正に相関し, 「倦怠」感情とは負に相関した.満足と感情測度の因子分析の結果, 単一の幸福概念が成立することが確認された.主観的な幸福感は人生に対する満足感, 肯定的感情, 否定的感情の部分的には独立している3つの構成要素から成る単一次元であると結論した.
著者
松本 義信 津崎 智之 奥 和之 小野 章史
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.147-152, 2017

日本食品標準成分表2015年版において,ひじきの項目は下処理の加熱時に用いる材質がステンレス 製と鉄製に分類されて表記された.しかし,この時の加熱時間は考慮されなかった.そこで,本研究 ではひじきの下処理時の加熱時間が鉄含有量に及ぼす影響について検討した.実験は鹿児島県沿岸 ならびに静岡県沿岸で収穫された下処理等が行われていない未加工のひじきを用い,加熱時間を30~360分間とした.その結果,鉄含有量は両ひじきともステンレス製に比べて鉄製の鍋を用いた方が 高値となった.また,鉄製の鍋を用いた場合,加熱時間が30分間に比べて360分間では30倍以上の高 値となった.日本食品標準成分表2015年版の値に比べてこれらの値は加熱時間が30分間では低値を,360分間では高値を示した.以上の結果から,本研究でひじきの鉄含有量がステンレス製より鉄製の 鍋で高値となったことは日本食品標準成分表2015年版と同様であったが,加熱時間によっても値が異 なることが明らかになった.
著者
竹中 理香
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.129-145, 2015

本研究では,戦後日本の在日コリアンに対する権利保障の経緯と内容,それに対する在日コリアンの社会運動を,「権利」と「参加」の側面から分析し,在日コリアン高齢者の現代的問題の背景を,戦後日本における在日コリアンに対する権利保障と社会運動との関係から明らかにした. 分析の結果,戦後日本における在日コリアンに対する権利保障と社会運動の変遷は,戦後から1965年までの第1期,1960年代後半から1970年代までの第2期,1980年代から1990年代前半までの第3期,1990年代前半から現在までの第4期に区分することができた.また,戦後日本における在日コリアンに対する権利保障と社会運動の変遷は,「本国志向」の自衛的な運動から,運動の担い手の世代交代と権利獲得運動へと変遷してきた.さらに,1990年代以降は,1世の高齢化にともなって,戦後補償や無年金問題が浮上した.2000年以降は,在日コリアン高齢者の福祉サービスからの排除問題が,2世たちによって発見されたことが明らかになった.
著者
小薮 智子 白岩 千恵子 竹田 恵子 太湯 好子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.59-71, 2009

本研究は,緩和ケア病棟の看護師97名,一般病棟の看護師248名,一般の人429名,大学生244名,合計1,018名を対象とし,スピリチュアリティという言葉のイメージを明らかにすること,また4つのグループ別に認知の有無と,イメージの特徴を明らかにすることを目的とし,質問紙調査を行った.スピリチュアリティという言葉を認知している人は全体で421名(41.4%),緩和ケア病棟の看護師が83名(85.6%),一般病棟の看護師が136名(54.8%),一般の人が92名(21.4%),大学生が110名(45.1%)であり,スピリチュアリティという言葉は未だ一般の人に認められた言葉ではないことが示された.得られたイメージを内容の類似性で整理した結果,【超越的】【内的自己】【人間存在】【死生観】【ビリーフ】【Well-BeingとPain】【他者や環境】の7コアカテゴリーが抽出された.その内容からスピリチュアリティは幅広いイメージを与え,主観的で抽象的であることが確認できた.またこれらは既存の学術的概念と類似していた.カテゴリーに分類されなかった「その他」には〈マスメディア〉〈超常現象〉〈否定的イメージ〉が含まれ,スピリチュアリティをスピリチュアルブームという大衆文化の中でとらえている人がいることが明らかになった.7コアカテゴリーは4グループすべてで抽出され,その中でも【超越的】と【内的自己】が共通して最も多かった.緩和ケア病棟の看護師はスピリチュアリティに幅広い,多くのイメージを持っていた.また一般病棟の看護師の約1割と大学生の約2割が〈マスメディア〉をイメージしていた.一般の人の【他者や環境】のイメージは,日本人の中・高齢者の特徴と考えられた.
著者
盛政 文子
出版者
川崎医療福祉大学
雑誌
川崎医療福祉学会誌 (ISSN:09174605)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.261-270, 2001

レアリスムの代表作『ボヴァリー夫人』の作家ギュスターヴ・フローベールは近代小説の祖とされている,一方, それ以前の作品はフローベールの信念獲得の過程で書かれた, ロマンチズムの作品と奮える, その中で, 小説『11月』は, まさに彼の青春期と壮年期との過渡期に書かれた作品と位置付けられる.この作品の中にフローベールは, 多情多感な青年の面影と, 虚無思想に捉えられて苦しむ姿とを同時に描いている.フローベール自身の恋愛が実を結ぶことはなかった.自らの生活に幸福を実現できなかったのは, 人生に対して求めることが強すぎたためではなかろうか.彼は女性を常に理想化して描いていった.恋は彼にとって, 美しいものとして制作された, 文学的テーマであった.女性は彼の作品の中で, 肉体的位置を文学的位置まで高めたに過ぎなかった.フローベールの作品申の主人公たちは, 恋愛から一時的な満足しか味わえず, 常に新しい恋を求めて苦悩する.求めても叶えられないと自覚する時, 虚無感が生まれ, 死が必然的となり, 死によって救われることを欲し始める.まさにフローベールの著名の批評家であるチボーデが語るところの「ボヴァリー症」の一面を有している。フローベールの小説には, 絶えず現れる倦怠と, 人生の失敗とが描かれている.強い想像力を持つ彼は, 全てのものを文学に結晶させ, 現実をより美しいものとして夢み, 現実をより真実なものに再構成するのである.作品の成功にもかかわらず, 19世紀の偉大な小説家, フローベールは, 常に心が満たされることはなかったと思われる.若きフローベールにとって, この時にはまだ虚無思想から逃れるための文学的創作活動によっても, 虚無を征服し得なかったのではないだろうか.だからこそ, 虚無感はフローベールの文学の不変のテーマとなり得たのである.