著者
堀田 修 田中 亜矢樹 谷 俊治
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.99-106, 2016-03-31 (Released:2016-06-23)
参考文献数
16

慢性上咽頭炎は肉眼的に判定することは困難とされ, 耳鼻咽喉科医の認知度は低い. しかし, 同部位の慢性炎症による局所症状は一般的には軽微であるがその解剖学的特性により, 慢性上咽頭炎は免疫系・自律神経系・内分泌系に影響を及ぼし, その結果として様々な全身症状を惹起する. 原病巣である慢性上咽頭炎が耳鼻咽喉科領域であり, 二次疾患である全身疾患が他科領域となるため, 1960年代に注目された後, 医療の細分化の潮流の中で, 一旦は医学界の表舞台から姿を消したが, 近年, 再び復活の兆しがある. 中でも慢性疲労症候群, 過敏性腸症候群などの機能性身体症候群における慢性上咽頭炎の関与は重要であり, 充分な上咽頭処置により全身症状の軽快が得られることが多い. それ故, 適切な慢性上咽頭炎診療の再興は将来, 日本の医療に大きなインパクトを与える可能性を秘める. その為には微細な経鼻的内視鏡的所見や具体的な処置方法を含む, 今日の医学に即した「慢性上咽頭炎診療マニュアル」の作成が切望される.
著者
近藤 康人
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.103-107, 2019 (Released:2020-06-10)
参考文献数
26

花粉に感作をされることによって食物アレルギーを合併することがある.口腔アレルギー症候群Oral allergy syndrome(OAS)もしくは花粉-食物アレルギー症候群(Pollen-associated Food Allergy Syndrome:PFAS)と呼ばれ,症状は口腔内に限局した即時型アレルギーである.新鮮な果物や生野菜を摂取している最中にみられる口腔から喉にかけての違和感,耳の奥のかゆみなどである.こういった症状は花粉と食物とのアレルゲンの共通抗原性に起因する. 我々はスギ花粉症患者でトマトOASを合併した症例を経験し,両者の共通抗原性について報告した.その後,スギ花粉症患者でトマトIgE陽性例に対しスギSCITを4ヵ月間行って,スギおよびトマトに対する好塩基球の活性化が低下した研究報告を行った.またPFAS予防の試みに関して海外の論文を紹介する.
著者
川本 将浩 猪原 秀典
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.129-133, 2011 (Released:2011-09-14)
参考文献数
5

【背景】本邦ではかぜ症候群罹患時におけるマスクの有用性が知られているが, 科学的根拠は乏しい.【対象】2009年10月から2010年3月の間に, かぜ症状を主訴に当科および協力施設を受診し, 研究の趣旨に同意した患者.【方法】対象者を無作為にA群40名 (日中のみマスクを装着) とB群32名 (日中および就寝時にマスクを装着) に分け, 質問紙を用いた統計学的手法により検討した.【結果】B群の患者のほうが, のど症状だけでなくかぜ症候群そのものが早期に軽快した. 症候別では咳と痰のスコアの改善が有意であった.【結論】就寝時のマスク装着は, かぜ症状を早期に軽減させると考えられた.
著者
堀田 修 永野 千代子
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.69-75, 2018 (Released:2019-03-31)
参考文献数
29
被引用文献数
1

1960年代にわが国で脚光を浴びた慢性上咽頭炎が近年,耳鼻咽喉科の枠を越えて再び注目を集めつつある.その理由は上咽頭の慢性炎症が後鼻漏,咽頭痛,咽頭違和感等の局所症状に留まらず,慢性疲労,起立性調節障害,過敏性腸症候群等の神経・内分泌系異常を介した症状,IgA腎症の急性増悪,掌蹠膿疱症,反応性関節炎等の自己免疫機序を介した症状等,実に多彩な臨床症状を呈することにある.そして,塩化亜鉛溶液を浸した綿棒を用いた上咽頭擦過療法(Epipharyngeal Abrasive Therapy,EAT)が様々な全身症状の改善に寄与することが再認識されつつある.過去20年の間に神経系と免疫系の連関メカニズムが次々と解明され,最近では迷走神経刺激装置を用いる神経反射を介した免疫疾患や神経疾患への臨床応用も登場し注目されている.上咽頭は神経線維が豊富で迷走神経が投射しており,EATの効果には類似の作用機序が関与していることが推察される.また,脳リンパ路が脳代謝産物の排泄路として重要な役割を果たすことが最近明らかとなったが,上咽頭はこの排泄路の要所であり,EATの瀉血作用を介した鬱血状態の軽減が脳リンパ路の機能改善に繋がると推定される.すなわち,塩化亜鉛溶液による炎症部位の収斂作用のみでなく,上咽頭擦過による迷走神経刺激と瀉血による鬱血・リンパ鬱滞の改善がEATの作用機序として関与していることが推察される.上咽頭は単なる空気の通り道ではなく,神経系・免疫系・内分泌系に影響を及ぼす,いわば全身の「健康の土台」を担う重要部位である.慢性上咽頭炎はこの「健康の土台」が傾いた状態であり,その是正は関連疾患・症状の改善のみならず疾病予防という見地からも重要である.慢性上咽頭炎の治療手段として現状ではEATがBenefit/Risk比の高い処置であるが,慢性上咽頭炎が内包する多様な病態の科学的解明とそれに基づいた新規治療法の開発が医学・医療のブレイクスルーにつながると期待する.
著者
大野 芳裕
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.32, no.1, pp.33-39, 2019 (Released:2020-03-31)
参考文献数
9
被引用文献数
4

慢性上咽頭炎症例73例に対して,生理食塩水による鼻うがいを併用し,1%塩化亜鉛を上咽頭粘膜に塗布する上咽頭擦過療法(EAT)を施行した.治療前後に自覚症状のアンケート調査を行い,電子内視鏡の上咽頭所見を比較して治療効果を検討した.主訴の改善率は79.5%,局所所見の改善率は87.7%であった.アンケート用紙に記載のある,頭痛・後鼻漏・咽喉頭違和感・咽頭痛・肩こり・耳鳴・耳閉感・めまい・咳のうち,耳鳴以外のスコアは有意差をもって改善した.内視鏡による局所所見の改善度と主訴スコアの改善の程度との関連において有意な相関が認められた.慢性上咽頭炎に対してはEATを含む局所療法が有用であることが示唆された.
著者
中嶋 正人 加瀬 康弘
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.65-71, 2010 (Released:2010-09-01)
参考文献数
12

伝染性単核球症の入院加療例で抗菌薬投与群と非投与群を比較し, 投与の必要性を検討した. 入院期間は抗菌薬投与群は平均10.5日, 非投与群は平均7.4日で, 両群において有意差はなかったが投与群で延長傾向にあった. 咽頭痛消失までの期間は抗菌薬投与群は平均5.0日, 非投与群は平均4.3日で, 両群において有意差はなかった. 入院後解熱期間は抗菌薬投与群は平均4.6日, 非投与群は平均3.1日で, 両群において有意差はなかったが, 投与群で延長傾向にあった. 肝逸脱酵素値の入院中上昇は抗菌薬投与群の42%にみられ, 抗菌薬非投与群は0%だった. 皮疹や粘膜疹の出現, 増悪は抗菌薬投与群の17%で, 抗菌薬非投与群は0%だった. 抗菌薬投与群中, 有害事象がみられ抗菌薬の中止が必要と判断された例は58%で, いずれも抗菌薬中止後回復した. 伝染性単核球症は可能なら, 入院での安静にて厳重観察のもとに, 抗菌薬投与をせずに, 扁桃周囲膿瘍の発症など, 明らかな抗菌薬加療が必要な病態がみられたとき, 投与を検討すべきと考えた.
著者
阪本 浩一 大津 雅秀
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.191-197, 2014-06-10 (Released:2014-08-20)
参考文献数
11

口蓋扁桃摘出, アデノイド切除の前後に OSA-18 による評価を行い, スコアの変化について検討した. また, アプノモニターによる AHI, SpO2 の値との関連も検討した. 対象は, 2008年から2013年に当科にてアデノイド, 扁桃摘出術を施行した144例. 男児99例, 女児45例. アプノモニターは, AHI は129例で, SpO2 は132例で測定された. 術前 OSA-18 の総スコアは平均59.7±20.1であった. 術後のスコアは, 平均30.3±10.7点で有意なスコアの低下を認めた. 術前 AHI は21.0±13.7回/hr, SpO2<90%は4.9±10.8%, SpO2 最低値は, 72.8±16.6%であった. 術後には, AHI は6.6±5.5回/hr, SpO2<90%は1.0±2.4%と低下し, SpO2 最低値は, 77.9±17.3%と上昇した. AHI と SpO2<90%に有意な改善を認めた. AHI と OSA-18 は, 総合スコアで相関係数0.52 (p<0.0001) と良好な正の相関を示した. 小児の睡眠呼吸障害の診断治療にあたって, OSA-18 は, 診断, 治療効果の判定に有用である.
著者
高岩 文雄 川内 秀之 斎藤 三郎
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.30, no.1, pp.5-8, 2017-03-31 (Released:2017-05-31)
参考文献数
7
被引用文献数
1

スギ花粉の主要抗原 Cry j 1 および Cry j 2 の主要なT細胞エピトープを連結して作成した 7Crp ハイブリットペプチドを発現させたスギ花粉米を開発した. 7Crp ペプチドはスギ抗原特異的 IgE 抗体と反応しないことから, 副作用が起こりにくくスギ花粉米を大量に摂取することが可能である. この米を炊飯加工して, パック米 (80g) としての剤形でスギ花粉症患者に提供したところ, 花粉飛散時を含む 5 ヵ月間の経口摂取を通じてスギ花粉抗原に対する免疫寛容が誘導されていることが示された. 臨床症状に関しては, 鼻症状が軽減化する傾向が観察された.
著者
原 真理子 守本 倫子
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.107-110, 2016-03-31 (Released:2016-06-23)
参考文献数
15

PFAPA 症候群は, 周期性発熱を主症状とし, アフタ性口内炎, 咽頭炎, 頸部リンパ節炎を随伴する. 比較的新しい概念の疾患であり, 詳しい病因や病態は分かっておらず, 診断に迷うことも少なくない. 薬物療法にはプレドニゾロン頓用があり, 著明な解熱効果が得られる特徴をもつ. 外科的治療法では, 口蓋扁桃摘出術が有効であり, 当科の治療成績でも高い有効率が示された. 病態仮説には, 自然免疫の活性異常や末梢組織での T 細胞活性などが提唱されている. また, 扁桃炎の随伴が多く, 口蓋扁桃摘出術が有効であることから, 本疾患と扁桃組織との間には何らかの関連性があると推測される. 現在, 扁桃組織の遺伝子とタンパク質の網羅的解析を進めている.
著者
福井 順子 河野 えみ子 奥平 咲絵 寺村 重郎 井野 千代徳 山下 敏夫
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.419-425, 1998-06-01 (Released:2010-06-28)
参考文献数
2

うがい薬はかぜ症候群, その他の口腔疾患の治療と予防に広く使用されており, その有効性についてはよく知られている.しかし, 使用方法についてはあまり検討されておらず, 各人各様に行なっているものと思われる.そこで患者が実際にどのようなうがいを行なっているか, ポビドンヨード含嗽剤を用いて調査し, 現在提唱されているマニュアルと比較した.その結果, 患者は規定の3~6倍薄い希釈液を用い, 短い時間でうがいを行なっていた.うがい方法については, 多くの患者が咽頭部分にうがい液が行き渡る咽頭型のみのうがい方法であった.これらの事実はうがいの有する機械的除菌作用と殺菌作用とが有効に活かされていないことを示している.その他, 現在提唱されているうがいの方法にも幾つか問題のある事が解り, 筆者らの目的である『有効なうがい方法の確立』に良い手がかりとなった.
著者
正木 康史
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.77-81, 2018 (Released:2019-03-31)
参考文献数
20

IgG4関連疾患は21世紀に入り本邦より発信された原因不明のリンパ増殖性疾患で,IgG4産生形質細胞が全身諸臓器で腫瘤性病変を形成し,高IgG4血症を呈する.IgG4関連疾患は初期には中等量ステロイド治療が著効する.しかしながら多くの鑑別疾患でも,高IgG4血症や組織中IgG4陽性形質細胞増多を認めることがあり注意を要する.治療は副腎皮質ステロイドprednisolone中等量内服より開始,慎重に漸減し,症状や臨床データの推移をもとに維持量を決定するのが望ましい.本疾患は頭頸部領域に病変を有する症例が多く,内科と耳鼻咽喉科の連携が重要である.
著者
渡辺 哲生 鈴木 正志
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.17, no.3, pp.345-352, 2005-06-01 (Released:2010-06-28)
参考文献数
11
被引用文献数
2

昭和58年10月から平成16年3月まで当科で入院加療した扁桃周囲膿瘍209例の細菌検査について検討した.187例 (89%) から351株の細菌が検出された.約半数の症例が混合感染で, 約70%の症例から好気性菌, 約40%の症例から嫌気性菌, 約20%の症例から両者が検出された.好気性菌は227株で, S.pyogenes, S.milleri groupが, 嫌気性菌は124株で, Prevotella属, Fusobacterium属が多くみられた.薬剤感受性検査の結果をNCCLSの基準からみると扁桃周囲膿瘍においては耐性菌の問題はなかったが, セフェム系抗菌薬に感受性の低いS.milleri groupの増加, クリンダマイシンに対する耐性菌がみられたので抗菌薬の使用に注意を要すると考えた.
著者
小川 真 猪原 秀典
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.77-84, 2013 (Released:2013-05-15)
参考文献数
22

咽喉頭症状のみを有する症例における咽頭後壁濾胞の所見とI型アレルギーとの関連性を調査するために, 吸入抗原特異的IgEの有無と抗ヒスタミン剤の効果との関連性について検討した. 全24例中17例において少なくとも1つの特異的IgEが陽性であった. 全症例に抗ヒスタミン剤を12週間投与し, 披裂部浮腫を伴う症例に対してはプロトンポンプ阻害剤を併用したところ, 特異的IgE陽性群では, 症状の程度が改善した症例および咽頭後壁濾胞数が5個未満に減少した症例の割合が経時的に増加したが, 陰性症例では変化が乏しかった. 以上の結果より, 咽頭後壁濾胞所見が咽頭におけるI型アレルギーの診断の手がかりとなる可能性が示唆された.
著者
藤原 啓次 林 正樹 山中 昇
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.39-42, 2009 (Released:2010-06-01)
参考文献数
11
被引用文献数
3

掌蹠膿疱症 (Palmo-plantar pustulosis: PPP) は病巣疾患として, 耳鼻咽喉科医, 皮膚科医とも, その認識は非常に高い. 実際, 扁摘効果はアンケート法により80-90%と報告されていたが, 客観的な評価法であるPPPスコアを用いて評価してみると, 91%というさらに高い効果が得られることが判明した. 残念ながら, 術前の病巣診断法についてはエビデンスとなるものはないことから, PPPに対する扁桃摘出術 (扁摘) の適応は皮膚科医が確定診断している中等症以上のPPPであり, 扁桃誘発検査は参考項目とされている. しかし, 扁摘実施率についてみてみると, PPP症例は扁桃誘発検査の結果により, 扁摘実施が判断されていることから, この扁摘適応基準を皮膚科医にも広める必要があると考えた.
著者
根本 純江 冨田 寛
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.165-172, 2014-06-10 (Released:2014-08-20)
参考文献数
20

心因性味覚障害とは, その患者が訴える味覚障害が, 味蕾の味覚受容機構の障害か, 神経伝達路における障害であるよりも, 心身症, 神経症, うつ, 人格障害等の心理的要素が強く関与し, 心療内科あるいは精神科の併用治療が必要と考えられる病態である. 先行研究では, 亜鉛欠乏性, 薬剤性, 全身疾患性等に比べて, 改善率や通院継続率が低いことが報告されている. 本研究は, 2011年~2012年の2年間に当院で診断, 治療した味覚障害340症例中, 心理面の関与が疑われた症例57例 (男性14例, 女性43例) について, 病態改善の向上を目的に, 管理栄養士との医療連携により, 心理療法 (認知行動療法, 簡易精神療法等) や栄養指導を実施した結果, 味覚検査における治癒, 有効を合わせた累積有効率, 通院継続率が向上したので報告する.
著者
山村 幸江
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.29, no.1, pp.91-98, 2016-03-31 (Released:2016-06-23)
参考文献数
20
被引用文献数
1

ドライマウス患者の多くは高齢者で, 唾液腺の加齢に服薬と咀嚼機能低下等が複合して関与する. 亜鉛欠乏も味覚障害のみならず口内痛や唾液量減少にも関わる. ドライマウスへの対応としてガムをかむなどの唾液分泌を刺激する習慣付けは有用である. 歯科的治療も咀嚼機能保持および齲歯と歯周病の予防・治療のために重要である. 内服薬では M3 ムスカリン作動薬は唾液腺機能が残存する場合は有効だが, 唾液腺以外のムスカリン受容体も刺激するため副作用による服薬中断例が少なくない. 副作用軽減の工夫として服用量を徐々に増やす漸増法, 同容量を多数回に分ける分割投与, 水溶させた薬剤をうがいに用いるリンス法, 飲料に混合する服用法がある.
著者
田中 亜矢樹
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.57-67, 2018 (Released:2019-03-31)
参考文献数
17
被引用文献数
8

1960年代に注目された慢性上咽頭炎の概念は現在広く普及しておらず,その理由に内視鏡が存在せず視診が困難であり,診断・治療が標準化されず不十分な上咽頭処置により不十分な治療結果となった可能性が挙げられる.頭頸部癌の新生血管発見目的に開発された帯域制限光内視鏡を上咽頭炎診断に応用を試み,1%塩化亜鉛溶液による即時的白色化現象,経時的白色化現象を中心に診断の要点を見出し,少なくとも中等度以上の上咽頭炎は内視鏡診断が可能と考えた.逆台形型時計に喩えた上咽頭各部位と内視鏡下上咽頭擦過療法(Endoscopic Epipharyngeal Abrasive Therapy:E-EAT)時の関連痛部位との相関を知ることは盲目的EAT(従来のBスポット療法)の手技向上にも有用である.
著者
堀田 修
出版者
日本口腔・咽頭科学会
雑誌
口腔・咽頭科 (ISSN:09175105)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.37-42, 2010 (Released:2010-09-01)
参考文献数
7
被引用文献数
1 1

慢性上咽頭炎はそれ自体が症状を欠き, 内視鏡検査では肉眼的に判別困難であるため, 臨床現場で耳鼻咽喉科医の注目を集めることは稀である. しかし, 上咽頭表層のリンパ球は健常者においてもT, B細胞とも活性化された状態にあり, 上咽頭は口蓋扁桃同様に生理的炎症部位である. 急性咽頭炎を伴う感冒時にはCD4細胞の活性化が増強され, 回復期にはB細胞の活性化の亢進が認められる. 上咽頭の線毛上皮細胞はMHC class II抗原を発現し抗原提示能を有することから, 上咽頭における抗原の慢性刺激により生じた慢性上咽頭炎が扁桃性病巣感染, 歯性病巣感染と同様な病巣感染的役割を果たし, 二次疾患の発症に関与することが推察される.