著者
小池 大助 永井 元樹 福元 健人 野村 幸博 田中 信孝
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.74, no.11, pp.3160-3163, 2013
被引用文献数
1

胆嚢結石症は妊婦に合併する消化器外科疾患において急性虫垂炎に次いで多いとされる.症例は27歳女性.糖尿病合併妊娠にて当院産科通院中であった.妊娠21週0日胆石発作のため当院救急外来受診となった.その後も数日おきに発作が頻発したため入院加療とした.食事で発作が誘発されるため経口摂取再開困難であった.中心静脈栄養による長期管理は子宮内胎児発育遅延のリスクがあるため,妊娠24週3日に手術施行した.臍からopen法により1stトロッカーを留置することで安全に気腹し,胆嚢摘出術を施行することができた.術中の気腹圧は8-10mmHgとして管理した.術後は良好に経過し妊娠40週0日2,824gの男児を経膣出産した.妊娠中期は比較的安全な手術が可能であるとされる.妊娠中の胆嚢結石症では症状の再燃率が高率であり,手術を第一選択とすることで胎児と妊婦に対するリスクを最小限にできる可能性がある.
著者
相澤 卓 渡辺 和宏 長尾 宗紀 亀井 尚 内藤 剛 海野 倫明
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.814-819, 2018 (Released:2018-10-31)
参考文献数
10

症例は34歳,男性.16歳時より潰瘍性大腸炎(UC)として加療されていた.左下腹部痛を主訴に当院消化器内科を受診した.下部消化管内視鏡・腹部CT検査でS状結腸に壁肥厚と狭窄,その近傍に膿瘍形成を認めて当科紹介となった.三期分割手術の方針として大腸亜全摘・回腸瘻造設術を施行した.当初,二期目手術に残存直腸切除・回腸嚢肛門吻合術を予定していたが,術後病理組織学的検査で非乾酪性肉芽腫を多数認めてCrohn病に診断変更となり,さらに二期目手術前検査で残存直腸のポリープからadenocarcinomaが検出されたため残存直腸切断術を行った.病理組織学的検査ではポリープ部のみならず周囲にcarcinomaやdysplasiaを広範囲に認めた.非典型的なUC症例では診断が変更になる可能性を念頭に置き,またcolitic cancerを合併した場合は病変が広範囲に存在することがあることを考慮する必要がある.
著者
池辺 孝 西岡 孝芳 真弓 勝志 寺倉 政伸
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 = The journal of the Japan Surgical Association (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.84-87, 2011-01-25
参考文献数
18
被引用文献数
1 1

症例は43歳,女性.激しい性行為の後,腹痛を自覚し近医を受診した.イレウスを疑われたため当科に紹介,救急搬送された.腹部造影CT検査で腸間膜の引きつれ像(radial distribution)を伴うイレウス像と小腸の虚血像を認め,小腸軸捻転症による絞扼性イレウスと診断した.発症後約11時間で緊急開腹手術を行った.Treitz靱帯より約2m肛門側の小腸が時計回りに180度捻転し,約80cmにわたり壊死を認めた.解剖学的異常,腫瘍,異常策状物等なかったため,原発性小腸軸捻転症と診断した.壊死小腸を切除し,端々吻合した.術後15日目に軽快退院した.<BR>成人における原発性小腸軸捻転症はまれで,腹部CT検査でのwhirl signが特徴的とされるが,自験例のように,whirl signを呈さない場合もあることを念頭に置き,早期診断,治療を行うことが重要であると考えられた.また,激しい性行為後の発症という点でも自験例はまれな例と考えられた.
著者
猪狩 公宏 藍原 有弘 落合 高徳 熊谷 洋一 山崎 繁
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.71, no.7, pp.1708-1713, 2010 (Released:2011-01-25)
参考文献数
18
被引用文献数
3 1

目的:鼠径部ヘルニア手術に対する局所麻酔法と腰椎麻酔法との比較検討を行った.方法:対象は,当院で2008年5月~2009年11月の1年6カ月間に膨潤局所麻酔法にて局所麻酔下ヘルニア根治術を施行した25例27病変と,同時期に施行した腰椎麻酔下ヘルニア根治術46例50病変とを比較検討した.結果:局所麻酔群は男性22例,女性3例.平均年齢は64.4歳.片側ヘルニアが23例,両側ヘルニアが2例.ヘルニアのタイプは,外鼠径ヘルニアが22病変,内鼠径ヘルニアが5病変.施行術式はMesh-plug法が26病変,Marcy法が1病変.腰椎麻酔群と比較し,患者背景,手術時間,術後の疼痛コントロールにおいて有意差を認めなかったが,手術室在室時間は有意に短く,入院期間の短縮も可能であった.結論:局所麻酔下手術は術後の早期離床,早期退院が可能であり,医療経済も含め腰椎麻酔下手術より優れていることが示唆された.
著者
林 貴史 澤田 隆 清水 哲 河村 良寛 岸 清志
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.60, no.5, pp.1366-1369, 1999-05-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
12

症例は60歳男性.糖尿病を指摘されていたが未治療であった.発熱,嘔気を主訴に入院,抗生剤の全身投与を行うも効果なく,敗血症からDIC状態となる. CTscanで肝外側区域に限局するガス産生化膿性肝膿瘍と診断されたため経皮的膿瘍ドレナージを試みるも少量の排液しか認めず,その排液からはKlebsiella pneumoniaeが検出された.膿瘍を含めた肝外側区域切除と胆嚢摘除術を行った.膿瘍は10×9×5cmで多数の隔壁を有する出血壊死巣であった.術後は治療に比較的よく反応し敗血症, DICは徐々に改善し,血糖はモノタード・インスリンでコントロール良好となった.膿瘍の経皮的ドレナージが困難なガス産生化膿性肝膿瘍症例に対する治療法の1つとして,膀膿瘍を含めた肝切除術は有効な方法と考えられた.
著者
伊藤 博道 加藤 昭紀 野崎 礼史 淀縄 聡 小川 功
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 = The journal of the Japan Surgical Association (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.69, no.7, pp.1651-1654, 2008-07-25
参考文献数
10
被引用文献数
2 3

症例は72歳,男性.咳嗽・右鼠径部膨隆を主訴に来院.右鼠径ヘルニアの診断にて根治術施行時に認めた腹水の細胞診から非小細胞癌が検出され,癌性腹膜炎と判明した.精査にて左肺を原発とするStageIVの非小細胞肺癌と診断された.カルボプラチンおよびパクリタキセルの化学療法を1コース施行し,原発巣は縮小したが,11日目から腹痛が出現し腹部X線にてfree airを認め,消化管穿孔による汎発性腹膜炎を疑い同日開腹手術を施行した.上部空腸にφ3×2cm大の転移巣を認め,その中心が壊死・穿孔していた.他にも3箇所小腸転移巣を認め,その転移巣も含めた小腸部分切除術を施行した.術後に化学療法再開予定であったが,肺病変の進行により全身状態が増悪して18病日に死亡した.肺癌の小腸転移例はしばしば認められるが穿孔例は少ない.腹腔内転移を伴う肺癌の治療中は,消化管穿孔の可能性を念頭において慎重に経過観察する必要がある.
著者
石崎 直樹 浜田 信男 門野 潤 中村 登 平 明
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.752-756, 2000

leucovorin (LV)の5-FU効果増強作用を利用した5-FUとLV併用療法は,結腸直腸癌に対する有効な化学療法である.またUFTと経口でのLV併用療法は静注5-FU/LV療法に匹敵するという報告もある.われわれは高度の進行結腸直腸癌症例に対し周術期にUFT/LV内服療法を行い,画像および組織上有効と判定された2例を経験したので報告する.症例1は50歳の膀胱浸潤直腸癌症例で, UFT 300mg/m<sup>2</sup>/dayとLV 100mg/dayを1クール(28日)行い,画像上腫瘍の著明な縮小化を得た後,骨盤内臓全摘術で根治術を得た.化学療法の組織学的効果判定ではGrade Ibであった.症例2は55歳の男性.肝転移を伴う結腸癌穿孔で結腸切除と腹膜炎の緊急手術後,同治療を2クール行った.化学療法後のCTで肝転移巣は縮小し, CEAも著明に低下した.症例2の軽度な下痢以外副作用は認めなかった.従ってUFT/LV内服療法は,進行結腸直腸癌に対する有効な周術期補助化学療法と考えられた.
著者
北原 直人 小野田 尚佳 石川 哲郎 日月 亜紀子 小川 佳成 平川 弘聖
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.62, no.6, pp.1518-1521, 2001-06-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
18

腎不全を合併した原発性アルドステロン症の外科的治験例に関する報告は少ない.われわれは,腹腔鏡下副腎摘出術によって,血圧,電解質異常の管理が容易となった1例を経験したので報告する.症例は49歳,男性.腎不全,高血圧にて加療中に低カリウム血症を認め,精査にて原発性アルドステロン症と診断された.腎機能の悪化により,透析導入となっていたが,血圧,電解質の管理が困難であった.腹腔鏡下に左副腎摘出術を施行し,術後透析のみで血圧,電解質はコントロール良好となった.透析導入例にみられた本症の治療に対する一致した見解は得られていないが,自験例では低侵襲の腹腔鏡下手術により,高血圧,電解質が改善したことから,今後同様の例での治療方針を決定するうえで示唆に富む症例と考えられた.
著者
田島 陽介 武者 信行 矢島 和人 木戸 知紀 坪野 俊広 酒井 靖夫 長谷川 功
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.69, no.3, pp.509-513, 2008 (Released:2008-09-05)
参考文献数
12

はじめに:鼠径へルニアの治療の原則は手術であるが,妊娠中に発症した鼠径ヘルニアの治療方針は確立していない.対象および方法:1996年から2006年の間に当科で行われた1,032例の鼠径ヘルニア手術症例のうち,妊娠中に発症した鼠径ヘルニア手術症例14例(1.4%)を対象とし,臨床的特徴,手術法,および治療成績について後ろ向きに検討した.結果:全14例が有症状で10例に鼠径部の膨隆,4例に疼痛を認めた.鼠径ヘルニア発症の時期は中央値が妊娠19.5週であった.12例が妊娠中,1例が帝王切開時,1例が出産後8日目に鼠径ヘルニア根治術を施行された.手術法は8例がMarcy法,6例がLichtenstein法であった.全例で妊娠・出産に関する合併症,鼠径へルニアの再発を認めていない.結論:妊娠中でも鼠径ヘルニア修復術は安全かつ十分に手術を行うことが可能であり,有症状例に対しては手術を考慮すべきである.
著者
坂口 昌幸 新宮 聖士 春日 好雄 小林 信や 天野 純 保坂 典子 野村 節夫
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.59, no.12, pp.3021-3026, 1998-12-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
52

症例は45歳女性.検診で前頸部腫瘤を指摘され,縦隔内甲状腺腫と診断された.この時に胸部X線で右横隔膜の挙上を指摘され, CT, MRIにて右肺下面と横隔膜との間に巨大な腫瘤を認め,右肺中葉を圧排していた. CT値より脂肪腫,胸腺脂肪腫が疑われた.これらの腫瘍を摘出した.縦隔内甲状腺腫は256g,縦隔内巨大腫瘤は2,000gで,病理組織学的にはそれぞれ腺腫様甲状腺腫,胸腺脂肪腫と診断された.縦隔内甲状腺腫を合併した胸腺脂肪腫は極めて稀で,われわれが検索しえた限りでは,本症例1例のみであった.
著者
荒木 政人 角田 順久 飛永 修一 國崎 真己 岩崎 啓介 石川 啓
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 = The journal of the Japan Surgical Association (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.72, no.5, pp.1190-1194, 2011-05-25
参考文献数
13
被引用文献数
2

症例は43歳,女性.1型糖尿病にて治療中.便秘と腹痛を主訴に前医受診し,左下腹部に強い圧痛を認めたため消化管穿孔が疑われ当院紹介.腹部CTにてfree airは認めず,S状結腸を先端として糞便塊を大量に含んだ著明な結腸の拡張を認めた.内科的治療に奏効せず,大腸内視鏡施行し粘土状の糞便を洗浄や鉗子にて破砕を試みると,周囲の腸管が全周性に深い潰瘍を形成していた.また,腹満による呼吸苦が出現したため緊急手術を施行した.開腹すると拡張したS状結腸は一部白苔を伴い,肛門側は虚脱していた.内視鏡にて潰瘍部を確認し,その肛門側にて腸管を切離.約1.6kgの便塊を押し出し,潰瘍形成した腸管を切除後,ハルトマン手術とした.術後経過は良好で,術後4カ月目に再入院し人工肛門閉鎖術を施行した.糞便性イレウスは透析患者や糖尿病を有する患者に発症しやすいが,穿孔が無く手術に至る例は少ない.文献的考察とともに報告する.
著者
内倉 敬一郎 柳田 茂寛 豊山 博信 三枝 伸二 福元 俊孝 愛甲 孝
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 = The journal of the Japan Surgical Association (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.65, no.6, pp.1529-1533, 2004-06-25
参考文献数
14
被引用文献数
3 2

症例は64歳,男性. 23年前,胃潰瘍にて幽門側胃切除(Billroth I)を受けている.平成14年4月頃より嚥下困難出現し当院受診.食道胃透視,内視鏡検査にてEG junctionから口側に約3cmの後壁中心1/4周,潰瘍,びらんを伴う隆起性病変を認めた.生検にて中分化および低分化型管状腺癌と診断され,左開胸開腹連続斜切開にてD2リンパ節郭清を伴う下部食道,残胃全摘術施行した.病理検査にて腫瘍の大半は高分化,中分化型管状腺癌(深達度ss)であり,腫瘍の口側2cmでは正常の食道扁平上皮とそれに連続する粘膜内扁平上皮癌が腺癌を被覆するように存在した.両者は相接して存在していたが,明らかな境界があり形態の移行像は認めなかった.以上より食道残胃衝突癌と診断した.
著者
北川 雄一 深田 伸二 川端 康次 藤城 健 安井 章裕
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.66, no.9, pp.2099-2102, 2005-09-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
20
被引用文献数
6 7

術前からの認知症の存在は,高齢者に対する外科治療の際の大きな問題のひとつである.平成13年度厚生労働省長寿共同研究「高齢者術後せん妄の治療と予防に関する研究」の中で,多施設共同「後ろ向き調査」の対象患者 (80歳以上) 461人中の442人を対象とし,術前より認知症を有した患者38人と残り404人を比較検討した.これら認知症患者は,有意に高齢で (86.4歳:83.7歳),術前ASA・PSが高かった.手術時間は認知症患者が短時間であった (106分:130分).術後在院日数 (44.1日:31.3日)は認知症患者で長期化していた.術後合併症発生率は認知症患者で高く (84.2%:44.8%),特に肺炎・呼吸不全の発生が多かった.また術後せん妄あるいは認知症の症状悪化の頻度も高かった.術前より認知症を有する患者では,術後合併症-特に呼吸器合併症の発生と,精神・神経症状悪化に注意する必要がある.
著者
須磨崎 真 磯谷 正敏 原田 徹 金岡 祐次 前田 敦行 高山 祐一
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.76, no.1, pp.58-62, 2015 (Released:2015-07-31)
参考文献数
20
被引用文献数
1 3

症例は30歳,男性.下腹部痛を主訴に来院した.Multi Detector-row Computed Tomography(以下MDCT)所見より病変は上腸間膜動脈により栄養され,回腸の腸間膜付着部に位置することから重複腸管を疑い,同日腹腔鏡下回腸部分切除術を施行した.回腸末端から約80cm口側の回腸に付着する嚢胞性病変を認め,体外にて病変を含めた12cmの回腸を部分切除した.病変部は回腸壁の腸管膜側に付着した6×4cm大の球形の嚢胞性病変であり,消化管内腔との交通は認めなかった.組織学的所見では小腸粘膜と粘膜下層,固有筋層よりなる嚢胞壁を有し,筋層の一部を腸管と共有していたことから回腸重複腸管と診断した.成人発症の重複腸管は比較的稀であり,臨床像も生じる部位によって様々であることから術前診断は容易ではない.本邦における成人発症の小腸重複腸管の臨床的特徴を検討する.
著者
杉 朋幸 高久 秀哉 貝塚 博行 田野井 智倫 東 和明 小田 竜也
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.81, no.3, pp.468-472, 2020 (Released:2020-09-30)
参考文献数
10

症例は42歳,男性.自傷目的で,注型用ウレタン樹脂(2液型)の主剤と硬化剤を計約500mlを服用した.6時間後に独歩で当院救急外来を受診した.腹部所見に乏しく,樹脂の自然排泄を期待し外来経過観察とした.2日後の再診時に腹痛,食思不振を訴えた.上腹部正中に硬い腫瘤を触知した.圧痛を認めたが,腹膜刺激症状は無かった.胸腹部骨盤CTで,食道下部から十二指腸球部にかけて蜂巣状でairの混在するlow densityの腫瘤を認めた.上部消化管内視鏡で除去を試みたが,硬いウレタン樹脂で除去は不可能であった.緊急手術を施行した.胃壁を切開し,食道下部から十二指腸球部にかかる硬化した型取りされたウレタン樹脂を分割して摘出した.主剤と硬化剤を混合攪拌すると硬化する注型用樹脂は,型取り用の資材として流通している.服用時は液体だが,体内で攪拌され硬化するため,外科的な摘出が必要になると考えられた.
著者
西田 裕紀 徳光 幸生 新藤 芳太郎 松井 洋人 松隈 聰 永野 浩昭
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.80, no.11, pp.2055-2060, 2019 (Released:2020-05-31)
参考文献数
11

症例は75歳,男性.膵管内乳頭粘液性腫瘍フォローのため施行された造影CTで,肝鎌状間膜内に20mm大の腫瘤を指摘された.超音波ガイド下生検を施行されたが,病理学的診断は困難であった.腫瘤は緩徐に増大傾向であり,FDG-PETで腫瘤にSUVmax=4.4の軽度集積を認めた.外科的診断目的で当科紹介となり,肝鎌状間膜由来の平滑筋肉腫や間葉系腫瘍を疑い,腹腔鏡下腫瘤切除術を施行した.腫瘤は肝円索の肝流入部に存在しており,腫瘤に近接していたG4を処理し,阻血域となった肝S4を部分切除した後に腫瘤を摘出した.切除標本の病理組織学的所見では,肝円索に多数のIgG4陽性形質細胞浸潤および線維化を認めた.血液検査で高IgG4血症を認めたため,IgG4関連疾患と診断した.肝円索病変を呈するIgG4関連疾患はこれまでに報告を認めない,稀な病態であると考えられた.
著者
佐々木 貴浩 佐藤 宏喜 古内 孝幸 竹中 能文 佐久間 正祥 堀 眞佐男
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.66, no.4, pp.926-930, 2005-04-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
18
被引用文献数
1 4

乳癌胆管転移の1例を経験した.症例は56歳,女性.平成9年左乳癌(TlN0M0)で乳房部分切除,腋窩郭清を施行.病理診断は浸潤性乳管癌 硬癌,リンパ節転移陰性,切除断端癌陰性で残存乳房照射50Gyとtamoxifen 20mg 5年間の補助療法を行った.乳癌術後5年5カ月,肝機能障害発症,画像診断上,中下部胆管が著明な狭窄を呈し,胆管癌の診断で膵頭十二指腸切除術を施行した.病理組織学的には粘膜直下より漿膜,膵に浸潤した腺癌が認められ,既往の乳癌の組織像に類似しているところから乳癌の胆管転移と診断した.乳癌の転移による胆管狭窄は肝十二指腸間膜リンパ節転移による報告例が散見される程度で本症例の如き胆管転移は極めて稀である.
著者
沖野 哲也 蔵元 一崇 木村 有 田上 弘文 稲吉 厚 八木 泰志
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.69, no.1, pp.13-19, 2008
被引用文献数
1

1996年から2006年に当院で行った早期胃癌に対する噴門側胃切除後の食道残胃吻合法22例(EG群)と,空腸嚢間置法14例(JPI群)を対象とし比較検討した.手術時間はEG群が有意に短く(EG群:JPI群=133分:161分),出血量,術後在院日数は両群で有意差はなかった.縫合不全,狭窄,膵炎,腸閉塞,肺炎等の術後合併症や,胸やけ,つかえ感,嘔吐,下痢,ダンピング症状等の術後愁訴,また食事摂取量,術後体重減少,術後栄養指標変動においても両群間に有意差はなかった.術後1年目の内視鏡検査では食道炎,残胃炎,狭窄,胆汁逆流において両群に有意差はなかったが,食物残渣の残存はEG群が有意に少なく(EG群:JPI群=14.3%:80.0%),JPI群の食物残渣は大部分が間置空腸嚢内に認められた.今回の検討ではEG群と比べJPI群に良好な成績は得られず,手術時間,食物残渣量の点でEG群の成績が良好であり,噴門側胃切除後の再建には簡便で従来の食道残胃吻合法が望ましいと考えられる.