著者
松岡 翼 延原 泰行 揚 大鵬
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.69, no.6, pp.1541-1544, 2008 (Released:2008-12-05)
参考文献数
15
被引用文献数
12 12

鼠径ヘルニア内容が虫垂であることは比較的稀であり,Amyand's herniaと言われている.今回,われわれはAmyand's herniaの1例を経験したので報告する.症例は54歳,男性.右鼠径部痛を主訴に近医を受診し,精査目的で当院紹介受診された.精査にて右鼠径ヘルニア嵌頓と診断されたが,嵌頓内容は断定しえなかった.用手還納を行った後,待機手術を施行した.術中所見では外鼠径ヘルニアであり,ヘルニア内容は虫垂および滑脱した虫垂間膜であった.Amyand's herniaと診断し,同一創にて虫垂切除術を行い,盲腸を腹腔内へ還納し,mesh plug法にて鼠径ヘルニア根治術を施行した.経過は順調で,術後6日目に軽快退院された.鼠径ヘルニア内容が虫垂であることは稀であり,文献的考察を加え報告する.
著者
福岡 恵 木村 桂子 木村 充志 米山 文彦 芥川 篤史 河野 弘 佐竹 立成
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.78, no.6, pp.1236-1242, 2017 (Released:2017-12-30)
参考文献数
13
被引用文献数
3 2

今回著者らは,稀な肺腫瘍塞栓症の1例を経験した.症例は62歳,女性.平成6年9月に左乳癌に対して乳房切除術を施行し,病理組織診断はPaget病,pT1micN0M0 Stage IAであった.平成21年7月に検診で胸部異常影を指摘されて受診.CTで腋窩・鎖骨上窩・縦隔リンパ節腫大を認め,生検結果よりリンパ節転移再発,ER・PgR陰性,HER2陽性と診断し,PaclitaxelおよびTrastuzumab療法を開始した.4サイクルでPRを得られたが,患者が化学療法の継続を拒否し,通院を自己中断した.平成25年1月に労作時の息切れを自覚して入院し,心臓カテーテル検査で肺高血圧症を認めた.原因不明の肺動脈微小血栓症の疑いで抗凝固療法を開始したが無効で,入院第4病日に呼吸状態が悪化し死亡した.病理解剖の結果,肺の細動脈・肝臓・甲状腺・骨髄の細血管内に癌細胞の浸潤を認め,肺腫瘍塞栓症と診断した.
著者
倉田 徹 中沼 伸一 林 泰寛 田島 秀浩 高村 博之 太田 哲生
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.75, no.10, pp.2839-2843, 2014 (Released:2015-04-30)
参考文献数
21

症例は82歳,女性.非アルコール性脂肪肝炎,糖尿病の加療中に肝S4/8,径5cmの肝腫瘤を指摘された.術前検査ではリンパ節,遠隔転移を認めず,腹腔鏡下に胆嚢摘出術,肝右葉授動の後,小開腹下にS4+前腹側区域の肝切除術を行った.病理結果は中~低分化型肝細胞癌成分と低分化型胆管癌成分が混在する混合型肝癌であり,切除断端は陰性であった.術後第26病日に呼吸苦が出現し,低酸素血症と両肺野の広範なスリガラス陰影の出現を認めた.急性呼吸性窮迫症候群と判断し集学的治療を開始したが,42日後死亡した.死後の肺生検にて胆管癌に類似した腺管構造を有する腫瘍細胞の増殖と繊維化を認め,癌性リンパ管症と診断した.術後早期に癌性リンパ管症を発症した原因として,悪性度の高い胆管癌成分を有していたことに加え高齢や肝切離面積が比較的広範囲となり手術侵襲が増大したことにより腫瘍の形成・転移能が促進された可能性も推測された.
著者
堤 親範 阿部 俊也 岡山 卓史 空閑 啓高 下川 雄三 植田 圭二郎 西原 一善 中野 徹
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.82, no.6, pp.1063-1069, 2021 (Released:2021-12-30)
参考文献数
27
被引用文献数
1

自己免疫性膵炎(AIP)は限局性病変を形成し,膵癌と鑑別困難な症例が存在する.本検討は当院で経験したAIP 34例を対象とし,その臨床学的因子,手術症例の周術期因子を解析した.AIPの5例(14.7%)で膵癌を疑い,手術を施行した.AIPにおいて,多変量解析でCA19-9高値(>37U/mL)(P=0.01),膵外病変なし(P=0.01),EUS-FNA未施行(P<0.01)が手術施行に関わる独立した因子であった.また,単変量解析で 血管浸潤所見(P=0.03)を認めるAIPで有意に手術が施行され,限局性膵腫大(P=0.06)を認めるAIPで手術が施行される傾向にあった.AIPと膵癌の特徴を同時に認める症例ではそれらの鑑別が困難になりやすく,AIPに対する手術を回避するためにはAIPに特徴的な所見を含め,EUS-FNA/FNBの重要性を再認識する必要があると考えられた.
著者
伊藤 貴明 新井 利幸 植村 則久 塚原 哲夫 山下 浩正 雨宮 剛
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.83, no.5, pp.931-936, 2022 (Released:2022-11-30)
参考文献数
25
被引用文献数
1

免疫性血小板減少性紫斑病(ITP)はCOVID-19ワクチン接種の稀な合併症として報告されている.症例は50歳,女性.2回のCOVID-19ワクチン接種の2週間後に過多月経で近医を受診し,血小板減少を指摘され当院を紹介.血小板数1,000/μL,網状赤血球数は増加し,赤血球数は減少.骨髄検査では巨核球は軽度増加のみが指摘された.Helicobacter pylori感染を認めなかった.造影CTでは脾腫や側副血行路を認めなかった.ITPと診断しステロイド治療(デキサメサゾン大量療法40mg/dayおよびプレドニゾロン25mg/day)を実施したが,血小板数は2,000/μL,5,000/μLで効果が認められず,脾臓摘出の方針とした.術前にガンマグロブリン(20g/day 5日間)とトロンボポエチンが投与されたが血小板数が23,000/μLであったため,血小板輸血後に腹腔鏡下脾臓摘出術を実施し,術中・術後合併症なく経過した.術後2カ月で血小板数は75,000/μLで安定した.COVID-19ワクチン接種後のITPに対し,脾臓摘出術が有効であった1例を経験したので報告する.
著者
池辺 孝 西岡 孝芳 真弓 勝志 寺倉 政伸
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.72, no.1, pp.84-87, 2011 (Released:2011-07-25)
参考文献数
18
被引用文献数
2 1

症例は43歳,女性.激しい性行為の後,腹痛を自覚し近医を受診した.イレウスを疑われたため当科に紹介,救急搬送された.腹部造影CT検査で腸間膜の引きつれ像(radial distribution)を伴うイレウス像と小腸の虚血像を認め,小腸軸捻転症による絞扼性イレウスと診断した.発症後約11時間で緊急開腹手術を行った.Treitz靱帯より約2m肛門側の小腸が時計回りに180度捻転し,約80cmにわたり壊死を認めた.解剖学的異常,腫瘍,異常策状物等なかったため,原発性小腸軸捻転症と診断した.壊死小腸を切除し,端々吻合した.術後15日目に軽快退院した.成人における原発性小腸軸捻転症はまれで,腹部CT検査でのwhirl signが特徴的とされるが,自験例のように,whirl signを呈さない場合もあることを念頭に置き,早期診断,治療を行うことが重要であると考えられた.また,激しい性行為後の発症という点でも自験例はまれな例と考えられた.
著者
箱崎 悠平 菅又 嘉剛 内田 まゆか 目黒 創也 多賀谷 信美
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.81, no.9, pp.1877-1882, 2020 (Released:2021-03-31)
参考文献数
12

近年では高齢化が進み,胃瘻造設状態患者の急性胆嚢炎に対する治療が増えると推測される.急性胆嚢炎を発症した胃瘻造設状態の患者では,鏡視下手術はポート配置や術野確保の困難性から敬遠される.今回,われわれは胃瘻造設状態患者の急性胆嚢炎に対して腹腔鏡下胆嚢摘出術を施行したので,その治療成績について報告する.症例の平均年齢は78.3歳,男性2例,女性1例で,全例入院あるいは施設入所中であった.1例は無石胆嚢炎,他の2例は胆石胆嚢炎で,後者に対し術前にPTGBDを施行した.全例,胃瘻部位に影響なく,通常の4ポート留置にて腹腔鏡下胆嚢摘出術が完遂された.平均手術時間,術中出血量および術後在院期間はそれぞれ143.3min,33.3mlおよび4.7日であった.術中偶発症および術後合併症は認められず,全例経過良好で以前の状態に回復した.胃瘻造設状態患者の急性胆嚢炎に対して腹腔鏡下胆嚢摘出術は安全に施行可能と思われた.
著者
安川 紘矢 中田 伸司 佐野 周生 草間 啓 西尾 秋人 袖山 治嗣
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.81, no.8, pp.1563-1569, 2020 (Released:2021-02-26)
参考文献数
23

症例は76歳の女性で,貧血の精査で撮像されたCTでの異常を指摘され当科を受診した.血液検査所見では血中HCG 194,000mIU/mlと高値を示し,腹部造影CTでは上行結腸に巨大腫瘤と十二指腸への浸潤を認め,肝臓に不整形腫瘤を認めた.上行結腸病変部からの生検では絨毛癌を認め,婦人科臓器には異常を認めなかったため,大腸原発の絨毛癌と診断した.腫瘍摘出は上腸間膜動脈への浸潤を認めたため困難であり,消化管の狭窄所見のため胃空腸吻合術,回腸横行結腸吻合術のみを施行した.術後,絨毛癌に基づいた化学療法,メトトレキサート,エトポシド,アクチノマイシンDを施行したが,癌は進行し,全身状態の急激な低下をきたし,術後約半年で緩和医療の方針となった.結腸・直腸原発の絨毛癌は非常にまれで,現在世界で22例の報告を認めるのみである.治療法の確立は無く,初診時に遠隔転移を有している場合が多く,予後は非常に不良である.
著者
村川 力彦 梅本 一史 鈴木 友啓 加藤 航平 山村 喜之 大野 耕一
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.76, no.9, pp.2289-2292, 2015 (Released:2016-03-31)
参考文献数
14

症例は61歳,男性.腹痛にて近医を受診,胆石症と診断された.術前精査で,横行結腸肝弯曲部に早期大腸癌を認めたが,内視鏡的切除が困難なため,手術目的で紹介となった.手術は腹腔鏡下結腸右半切除術および胆嚢摘出術を施行した.術中,胆嚢管内に腫瘤を認めたため,腫瘍を含め切除した.切除標本では胆嚢管に14×10mmの黄色調の亜有茎性腫瘍を認めた.病理組織学的検査で腫瘍細胞は核が円形から卵円形を呈し,好酸性顆粒状胞体を有し,胞巣状・索状・リボン状に増殖していた.免疫染色ではsynaptophysin陽性,chromogranin A陽性,CD56陰性,Ki-67指数は3-4%であった.以上より胆嚢管カルチノイドと診断した.腫瘍は核分裂像・脈管侵襲・神経周囲浸潤を認めなかったが,線維筋層への浸潤を認めた.術後4年6カ月再発なく経過している.
著者
黒田 誠司 塩谷 猛 南部 弘太郎 渡邉 善正 和田 由大 山田 太郎 内間 久隆 島田 裕司
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.75, no.1, pp.82-86, 2014 (Released:2014-07-31)
参考文献数
15
被引用文献数
1

症例は33歳,女性.嘔気・嘔吐を主訴に来院.31歳時,他院で帝王切開の手術歴があった.腹部単純X線検査にて骨盤内にX線不透過性の糸の塊様陰影を認めた.また,CT検査では小腸の拡張と鏡面形成を認め,下腹部小腸内にX線不透過性の糸状のものを含む3.5cm大の腫瘤様所見を認めた.腸管内異物に関与した閉塞性イレウスと診断し,同日,手術を施行した.腹腔内は小腸が約20cmに渡って一塊となり強く屈曲していた.剥離すると同部位の小腸が穿孔しており,その口側腸管内に固形物を触知した.固形物を含めて一塊となった小腸を部分切除した.固形物はX線不透過糸入りガーゼであった.術後の腹腔内異物は人為的な合併症であり,まれに敗血症・イレウス・腸穿孔を起こすことがあるため注意を要する.本症例は過去の手術の際に腹腔内に遺残した医療用ガーゼが腸管内に迷入したものと考えられるが,文献的にも珍しく,また発生起序の観点からも興味深い症例といえる.
著者
高橋 佳史 大森 浩志 小池 誠 佐藤 仁俊 北角 泰人 田窪 健二
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.72, no.12, pp.3089-3093, 2011 (Released:2012-07-24)
参考文献数
28
被引用文献数
1 1

症例は68歳,女性.8年前に悪性リンパ腫と診断され,化学療法と末梢血幹細胞移植施行後に再発したが,長期間のプレドニゾロン内服による治療で寛解状態にあった.2週間前からの食欲不振を主訴に当院を受診.腹部CTで小骨盤内の直腸周囲に腸管外ガスを認め,直腸穿孔の診断で緊急手術施行した.穿孔の原因は病理検査によってサイトメガロウイルス(CMV)腸炎と確定診断した.すでにガンシクロビル内服中であったため,同薬を増量したが,CMVアンチゲネミアの陰性化は得られなかった.2カ月後に症状が再燃したが,全身状態が不良であったため保存的治療を行い,手術加療は回避できた.以後の治療は再燃を防止するため,ガンシクロビル内服維持療法とし,在宅療養へ移行した.免疫抑制患者の消化管穿孔では同疾患を積極的に疑い,早期の抗ウイルス剤投与が望まれる.
著者
花岡 俊仁 鈴木 宏光 中川 和彦 福原 哲治 小林 一泰 佐伯 英行 白川 敦子
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.71, no.1, pp.62-66, 2010 (Released:2010-07-16)
参考文献数
16

症例は64歳,女性.糖尿病の既往がある.2002年6月血痰,喀血が出現し,当院を受診した.胸部CTにて左上葉中心に淡いスリガラス様陰影を認めた.気管支動脈造影にて2カ所血管の拡張部を認め,塞栓術を施行した.その後血痰は減少し,肺の陰影も消退したが,左上葉に8×5mm大の小結節影が残存した.経過観察となったが,2003年1月再び喀血が出現し,胸腔鏡補助下に左上葉切除術を施行した.病理組織検査にて肉芽形成を伴う気管支炎像があり,一部にムコールの菌塊が充満する像を認め,肺ムコール症と診断した.手術後6年2カ月を経過し,再発なく糖尿病外来に通院中である.肺ムコール症の頻度は稀で,免疫能低下状態で発症することの多い予後不良な疾患である.自験例は糖尿病があり二次性といえるが,左上葉の小結節影にムコールが付着・増殖した腐生性の要因も考えられた.
著者
森藤 雅彦 浜中 喜晴 平井 伸司 宮崎 政則 中前 尚久
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.94-98, 2001-01-25 (Released:2009-08-24)
参考文献数
13
被引用文献数
1 1

中皮腫は漿膜最上層のmesothelial cellを発生母地とする腫瘍である.われわれは,肉眼的に限局した形態で発見された悪性胸膜中皮腫の1例を経験したので報告する.症例は57歳,男性.胸部異常陰影にて入院した.精査にて横隔膜原発腫瘍を疑い胸腔鏡下切除術を施行した.術中迅速病理にて悪性所見を認め,肺,横隔膜にも浸潤していたため右肺下葉,横隔膜の一部を合併切除した.術後の病理組織検査にてmalignant mesotheliomaが疑われ,免疫組織学的検討にてCytokeratin陽性, Vimentin陽性, CD34陰性であった.その後2度局所再発し,手術と化学療法を施行し,現在外来通院中である. malignant mesotheliomaは診断が困難であるが,他疾患との鑑別に免疫組織学的検索が非常に有用である.現在本疾患に対する有効な治療法はなく,予後も極めて不良と言われる.新たな治療法の解明のためにも他疾患との明確な鑑別診断が必要と考える.
著者
古谷 裕一郎 平沼 知加志 島田 麻里 服部 昌和 道傳 研司 橋爪 泰夫
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.79, no.3, pp.548-553, 2018 (Released:2018-09-28)
参考文献数
17

症例は73歳の女性.自動車同士の交通事故にて当院へ救急搬送された.右側腹部に強い痛みを訴え,腹部CTにて肝臓から小腸へ繋がる索状物と索状物による小腸閉塞と口側腸管の拡張を認めた.索状物による腸閉塞と診断し単孔式腹腔鏡下イレウス解除術を施行した.手術所見として,小腸へ繋がるように肝右葉下縁が舌状に伸展し,その部位での腸閉塞を認めた.舌状に伸展した肝をクリップし超音波凝固切開装置にて切離し腸閉塞を解除した.病理学的所見にて肝細胞ならびに胆管の組織を認め,肝副葉(Riedel葉)と診断した.術後経過は良好で,術後7日目に退院した.肝副葉は異常形態の一つで,偶発的に発見されることが多い.また,肝副葉のうち肝右葉より舌状に下方に伸展するものはRiedel葉と呼ばれる.今回われわれは,肝副葉(Riedel葉)による腸閉塞に対して腹腔鏡下手術を施行した1例を経験したので報告する.
著者
宇野 耕平 吉永 和史 栗原 英明 矢永 勝彦
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.81, no.7, pp.1284-1288, 2020 (Released:2021-01-31)
参考文献数
16

食道穿孔を疑うZenker憩室内異物(有鈎義歯)を経験したので報告する.症例は84歳,男性.来院の1週間前に義歯誤飲を自覚したが,自然排泄を期待して自己判断で経過観察していた.頸部痛が持続し,食事摂取も困難なため来院した.頸胸部CTで頸部食道に義歯と食道左壁から連続する気腫像を認め,食道穿孔が疑われた.義歯は内視鏡で摘除可能であり,全身状態は安定していたため保存的に加療を行った.穿孔部の評価目的に施行した食道造影検査で咽頭食道憩室(Zenker憩室)が指摘された.有鈎義歯誤飲は,鋭利なクラスプ(鈎)が食道粘膜に刺入することで内視鏡での摘除が困難となり,さらに食道穿孔を併発して外科的治療が必要となることが多い.比較的稀な病態とは考えられるが,食道異物の診療を行う際は,Zenker憩室の併存と憩室内での異物停滞を念頭に置いて診療に当たることで,過大侵襲な治療を回避できる可能性がある.
著者
水本 一生
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.75, no.11, pp.3088-3093, 2014 (Released:2015-05-29)
参考文献数
28

症例は83歳,男性.便秘・腹痛・嘔吐を主訴に来院し,宿便による腸閉塞の診断で入院となった.翌日,腹痛と腹部膨満感が増悪し,Dynamic CTで結腸の拡張と腹水を認め,急性大腸偽性閉塞の診断で緊急手術を施行し,上行結腸から下行結腸にかけて腸管虚血・壊死を認めたため広範囲の結腸を切除し,回腸・S状結腸吻合術を施行した.術中所見および病理組織学的所見より非閉塞性腸管虚血症(non-occlusive mesenteric ischemia; NOMI)と診断した.術後はsecond look operationは施行しなかったが経過良好で,第28病日に退院となった.NOMIには特異的な身体所見や症状がなく,進行も緩徐で,そのためにしばしば重篤な印象を与えないことがあるが,実は致死的な病態である.急性腹症の診療ではNOMIを念頭に置くことが重要である.
著者
佐井 佳世 久保 尚士 櫻井 克宣 玉森 豊 前田 清
出版者
日本臨床外科学会
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.82, no.7, pp.1339-1343, 2021 (Released:2022-01-31)
参考文献数
8

症例は86歳の男性.心窩部不快感を主訴に近医を受診し,内視鏡検査で胃角部小彎に3型進行胃癌を指摘され,当院を受診した.諸検査で,cT3N2M0 Stage IIIと診断し,手術の方針とした.術中所見では肝門部リンパ節,総肝動脈リンパ節,左胃動脈リンパ節が累々と腫大しており,根治的切除を断念し,胃切除のみを行った.術後にTS-1を開始するも,術後10カ月目のCTで転移リンパ節の増大を認め,ラムシルマブ併用パクリタキセル療法に変更したが,リンパ節は縮小せず,術後19カ月目よりニボルマブの投与を開始した.術後22カ月目のCTでリンパ節腫大は消失したが,ニボルマブによる下垂体機能低下症が出現し,投与を中止した.術後40カ月現在,再発なく生存中である.転移再発胃癌に対するニボルマブの奏効率は11%程度と報告され,中でも完全奏効は極めて稀である.今回,ニボルマブを投与し完全奏効を得て長期生存中の切除不能進行胃癌を経験したので報告する.
著者
岡本 大輔 浦田 尚巳 冨吉 浩雅 藤原 英利 浮草 実
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.63, no.1, pp.71-74, 2002-01-25 (Released:2009-01-22)
参考文献数
12
被引用文献数
4 1

巨大植物胃石による胃壁の圧迫が原因と考えられる潰瘍形成から穿孔に至った稀な症例を経験したので報告する.症例は67歳男性,市販の干し柿を数個摂取した翌日から嘔吐,翌々日から食欲不振が出現し,摂食から1週間後に胃透視および胃内視鏡にて巨大な胃石を指摘された.保存的治療中,穿孔をきたしたため緊急手術にて胃切除術を施行し軽快した.胃石が胃に停滞した場合は潰瘍を併存することが多く,稀に穿孔をきたす場合があり,胃石の大きさにもよるが内科的治療に抵抗性の場合はすみやかに外科的処置をとる必要があると思われた.
著者
勝野 剛太郎 津村 眞 國土 泰孝 村岡 篤 鶴野 正基
出版者
Japan Surgical Association
雑誌
日本臨床外科学会雑誌 (ISSN:13452843)
巻号頁・発行日
vol.64, no.10, pp.2378-2383, 2003-10-25 (Released:2009-03-31)
参考文献数
10
被引用文献数
1 1

1992年3月より2001年8月までに胸腔鏡手術を行った自然気胸症例88側(81例)を対象とし術前検査(CT,胸腔造影)所見をもとに術後再発との検討を行った.術前胸部CT,胸腔造影が各82側, 41側(air leak持続例: 25例)に行われた.術後再発は8側(9.1%)でそのうち3例に対しVATSにて再手術を施行,いずれの症例もブラの新生を認めた.検討の結果,残念ながらいずれも統計学的に有意な所見に乏しくVATS術後再発の危険因子を術前に予測することは現時点においては困難であると考えられた.しかし,その一方で胸腔造影はair leak部位の局在を確認するという意味において重要であることも明らかになった.