著者
奥 健太 服部 文夫
出版者
Japan Society for Fuzzy Theory and Intelligent Informatics
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.524-539, 2013
被引用文献数
4

近年,推薦精度以外の評価尺度を重視した推薦システムに関する研究が注目されている.推薦精度以外の評価尺度の一つであるセレンディピティは,推薦システムがいかにユーザにとって意外かつ有用なアイテムを発見できるかを表す評価尺度である.本研究では,セレンディピティ指向情報推薦システムとしてフュージョンベース推薦システムを提案する.提案システムは,外発的および内発的偶然を発生させる機構をもち,ユーザがこれらの偶然の中から価値あるアイテムを察知できるような仕組みをもつ.我々は,セレンディピティ指向情報推薦においては,これらの機構をもつインタフェースを要件としたシステム設計が必要であると考える.提案システムは,ユーザが任意に選択した二つのアイテムを混ぜ合わせることで,セレンディピティなアイテムを発見するという,フュージョンベースアプローチの考え方に基づく.本研究の貢献は次のとおりである:セレンディピティ向上のためのフュージョンベースアプローチを適用した推薦システムを提案した.実際の楽天ブックスの書籍データセットを用いた被験者実験による推薦システムの有効性評価を行った.既存の推薦システムの一つである Amazon とのセレンディピティの観点から比較評価を行った.
著者
宮田 真宏 大森 隆司
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.712-721, 2019-06-15 (Released:2019-06-15)
参考文献数
23

従来,人の推論には直観的推論と論理的推論の2種類があるとされる.これまでに直観的推論はベイズ推論に代表される確率的な手法により,論理的推論はTree探索に代表されるシンボル的な手法により,それぞれモデル化されてきた.一方で,推論と脳部位とを対応付けた研究はあるが,脳の神経回路を考慮した論理的推論のメカニズムについて言及したものは少ない.脳における論理的推論過程のモデルは未解決である.そこで本研究では人の推論過程は直観的推論と論理的推論に明確に分かれているのではなく,一つの分散ニューラルネットワークのモード切り替えで実現されると考え,そのモデルを提案する.そのモデルでは連想記憶を用い,現在状態より関連する記憶を連想的に探索し,その記憶に価値を紐づけることで行動選択をする直観的推論を実現し,直観的推論にて見出された価値状態に対し,その利得に繰り返しバイアスをかけることにより論理的推論に見える動作を実現した.迷路探索シミュレーションでは,直観的推論に相当する確率的な行動選択と,論理的推論に相当する枝刈りを含むTree探索のような振る舞いが同一モデルのパラメータ変更により表出されることを確認した.
著者
中村 慎也 岩橋 直人 長井 隆行
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.21, no.5, pp.663-682, 2009-10-15 (Released:2010-01-12)
参考文献数
18
被引用文献数
4 2

本論文では,実世界状況において,ロボットが人と効率的及び相互適応的に共有信念を形成しながらコミュニケーションを行うための,発話生成手法を提案する.共有信念は,互いに共通する経験を基盤として形成され,対話者の心的状態の推定や曖昧な発話の理解に用いられる.提案手法は,ロボットが学習する信念システムとして,ロボットの想定する共有信念を表現する関数に加えて,人とロボットの想定する共有信念の一致度を表現する関数を扱う.共有信念を表現する関数は,確率モデルで表される音声言語や動作,オブジェクトの概念などを指示する様々な信念の重み付け和で表現される.共有信念の一致度を表現する関数は,発話が相手に正しく理解される確率の予測値を出力する.信念システムの学習は,人とロボットのオブジェクトを用いたインタラクションを通してオンラインで行われる.ロボットは,一致度を表現する関数を学習することで人の心的状態の推定と発話の予測理解率の推定が可能となり,環境だけでなく,相手との共有信念の一致度に応じて発話の単語数を増減させるなどの適応的な発話生成が行えるようになる.また,そうした発話によるインタラクションを通して一致度を表現する関数自体を更新し,人とロボットが相互適応的に共有信念の形成を行う.ロボットに学習させる信念システムや,人が行動を誤った場合のロボットによる正解の提示の有無など,様々な条件で実験を行い提案手法の有効性を評価した.
著者
笠松 美歩 上原 宏 宇津呂 武仁 齋藤 有
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.581-590, 2018-06-15 (Released:2018-06-15)
参考文献数
38

本論文では,絵本に対する子どもの認知発達的反応が描写された絵本レビューに対してテキストマイニング技術を適用し,絵本に対する子どもの認知発達的反応事例を網羅的に収集した.特に,典型的な5種類の反応の事例に対して,反応の詳細および絵本の特徴に基づき,合計13種類の下位分類を設定することができた.さらに,以上の結果と,既存の発達心理学文献における知見との間の比較分析を行った結果,発達心理学文献での報告事例の規模・種類とも上回る子どもの認知発達的事例を収集・類型化できることが分かった.
著者
本庄 将也 飯塚 博幸 山本 雅人 古川 正志
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.28, no.4, pp.744-755, 2016-08-15 (Released:2016-09-28)
参考文献数
18
被引用文献数
2

近年注目されている実数値最適化手法の一つに粒子群最適化(Particle Swarm Optimization, PSO)がある.PSOは群知能の一種であり,複数の探索単位(粒子)が互いに情報共有を行いながら解の探索を行う.多点探索を行うメタヒューリスティクスとしては遺伝的アルゴリズム(Genetic Algorithm, GA)が有名であるが,多くの実数値最適化問題においてPSOのほうがGAに比べて高速に良い解を発見できることが知られている.本研究では,組合せ最適化問題の一種である巡回セールスマン問題(Traveling Salesman Problem, TSP)に対して短時間で良い解を得ることを目的として,PSOを基にしたアルゴリズムである挿入操作PSO戦略を提案する.提案手法では,粒子の解候補は実数値ベクトルではなく巡回路として表現され,粒子間の相互作用は部分経路挿入によって行われる.本論文では,挿入操作PSO戦略について説明し,数値計算実験からパラメータと得られる解の良さと必要な時間の関係について調査し,パラメータ調整の指針を示す.また,各ベンチマーク問題に対して提案手法とGAなどの代表的なメタヒューリスティクスを適用し,提案手法がこれらの手法より短時間で良い解を求められることを示す.
著者
中岡 伊織 谷 久壹郎 亀井 且有
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
知能と情報 : 日本知能情報ファジィ学会誌 : journal of Japan Society for Fuzzy Theory and Intelligent Informatics (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.17, no.5, pp.631-640, 2005-10-15
被引用文献数
1

ポートフォリオは株価の変動から期待収益率とリスクを算出し, 最適な有リスク資産運用を目的としている.従来手法として様々な手法が提案されているが, 過去の期間での投資システムや単純に株価を予測するシステムしか提案されていず, 現実問題に適用可能な意思決定システムは未だ提案されていない.一方, 有リスク/無リスク資産分配においても, 従来法はポートフォリオによる銘柄選択とは独立して, 一般的な指標を用いてその分配比が求められており, 有リスク資産運用を考慮した最適有リスク/無リスク資産分配とは言い難い.本論文では, 分散投資の観点から自己組織化マップ(SOM)を用いて同様の経営指標を有する銘柄への複数投資を避けながら, 幅広く株式投資銘柄を選定し, またその選定銘柄の経営指標を用いてファジィ推論により, 有リスク/無リスク資産(株式/国債)の投資資産分配をする手法を提案する.また, 提案手法を実株価データへ適用し, TOPIXを用いた場合より受取額が多く, 2000年以降のITバブル崩壊のような株価急変に対しても有効な投資を行えることを示す.
著者
日景 奈津子 村山 優子
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.250-255, 2007-06-15 (Released:2007-08-24)
参考文献数
14

本研究では,これまでに安心感の定量的評価の実現を目的とした安心度評価モデルについて提案してきた.本論文では,安心度評価モデルについて紹介し,提案モデルの妥当性の検証について報告する.質問紙を用いて安心感に関する意識調査を実施し,得られた統計データを用いて因子分析を実行した.その結果,1)社会的信用と安全性に対するユーザの期待感,2)ユーザインタフェースを介して得られる満足度,3)ユーザの主観と経験に基づくリスク理解の3 因子が安心感要因として抽出可能であることを確認し,提案モデルを支持する安心感の構造を示した.今後の課題として,抽出された安心感因子を用いて,あるシステムに対するユーザの主観評価値を予測するためには,これらの因子を定量的に考慮した予測方法の定式化または数量化手法の検討が望まれる.
著者
加藤 真梨子 山下 利之
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.576-582, 2016-04-15 (Released:2016-04-20)
参考文献数
10
被引用文献数
3

CMCにおける絵文字のように,線画による表情には幾つかの特定の色が使用されることが多い.本研究では線画表情からの感情認知が,色によってどのように影響されるかを考察した.実験1では,喜び,悲しみ,怒り,驚きを表していると認知されやすい線画表情,中性表情を表す線画表情,あいまいな線画表情の計6つの線画表情を用いて,顔色の部分を赤,黄,青と変化させ,その表情認知を比較考察した.実験2では,背景色を変化させて,感情認知への影響を考察した.実験1,2ともに,主として眉毛や口の形態を感情認知に用いているが,顔色や背景色も感情認知を促進することを明らかにした.具体的には,実験1では,顔の赤色が喜び感情と怒り感情の認知を促進する一方,青色が喜び感情の認知を抑制した.また,青色が悲しみ感情の認知を促進した.実験2では,赤と黄の背景色が喜び感情の認知を促進し,青の背景色は悲しみ感情を促進した.
著者
田村 宏樹 淡野 公一 石井 雅博 唐 政
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.65-72, 2010-02-15 (Released:2010-05-21)
参考文献数
8
被引用文献数
1

人のポーズ・歩行動作から,人の感情を識別*1することが100%の精度ではないが識別可能であるとの研究報告がなされている[1]~[3].それらの先行研究の多くは,人のバイオロジカルモーション(体の関節部分の動き)[4]をモーションキャプチャ装置で抽出し,解析することで識別を行っている.しかし,モーションキャプチャシステムは高価であることをはじめ,使用場所に制約があるなどの問題点がある.これらの研究を踏まえて,本稿では単一加速度センサを用いた感情を込めた歩行動作の識別を行うシステムを提案する.まず,提案したシステムとして人の歩行動作時の加速度情報から特徴量を抽出する.この特徴量を識別器Chain Support Vector Classifer(C-SVC)を用いて各感情ごとに識別を行った.本実験では,3名の被験者に単一加速度センサを装着してもらい中立,悲しみ,喜び,怒りの4感情を表現した歩行動作を対象とした.単一加速度センサから得られた加速度情報から,本稿で提案したシステムにより感情を込めた歩行動作の識別の実験を行い,提案したシステムの有効性を計算機実験結果より検証する.*1 本稿では,人が感情を推定するときに「推定」の語句を用い,計算機が感情を推定するときに「識別」の語句を用いることとする.
著者
山脇 一宏 椎塚 久雄
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
知能と情報 : 日本知能情報ファジィ学会誌 : journal of Japan Society for Fuzzy Theory and Intelligent Informatics (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.17, no.5, pp.615-621, 2005-10-15
被引用文献数
2

共感覚保持者, とりわけ音と色彩に関する共感覚保持者(色聴保持者)の存在については, メシアン, スクリャービンの例が有名であるが, そのような色聴保持者の報告から音と色彩の協調的な関係の存在が想起される.著者らは, 音と色彩の協調的な関係に注目し, 色彩のイメージ分析に使われているカラーイメージスケールを利用した音楽の特徴抽出を試みる.音楽専攻の大学生らに対するアンケート調査を行った結果, 音楽の微細な特徴を抽出することができた.共感覚および共通認識に関する様々な議論に一つの実証を与えることもできた.
著者
佐藤 僚太 波部 斉 満上 育久 佐竹 聡 鷲見 和彦 八木 康史
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.28, no.6, pp.920-931, 2016-12-15 (Released:2017-01-20)
参考文献数
15
被引用文献数
4

公共空間内を往来する歩行者の属性や行動目的などを推定する技術は,施設の利用状況を自動的に観測し,各人物に最適な情報提供を行う情報環境の構築に貢献できる.その際には,どの人物同士が共に行動しているのかを推定し,歩行者をグループとして扱う技術が求められる.歩行者のグループを検出するには,2人の歩行者間の歩行軌跡や注意の向きの関係を手がかりとする手法が多く用いられる.これらの手法は,観測データ全体から特徴量を抽出して識別しており,歩行者グループは常にグループらしい動きをすること前提としている.しかし,実空間での歩行者グループは各個人の興味の対象の違いや障害物を回避する道筋の違いなどから常にグループらしい行動をする訳ではない.これによって,これまでの手法ではグループ検出が困難となる事例が見られる.本研究では,歩行データの時系列分割とマルチプル・インスタンス・ラーニング(MIL)によって,行動中の短時間に存在するグループらしい振る舞いを検出する手法を提案する.提案手法では,歩行データを時系列分割し,各時間区間の特徴量をMILを用いて別々に識別する.MILは教師あり学習の一種であり,複数の要素データの集合であるバッグ内に,少なくとも1つの正の要素データがあるかどうかを識別する.上記の時系列分割によって,時間区間の一部にグループらしい特徴があればそれを検出することができる.実験では,グループ動作を模擬したデータと,実際のショッピングモールで取得したデータを利用し,提案手法の有効性を確認した.
著者
加藤 浩介 坂和 正敏 片桐 英樹 小川 篤
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
知能と情報 : 日本知能情報ファジィ学会誌 : journal of Japan Society for Fuzzy Theory and Intelligent Informatics (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.402-411, 2007-08-15

多目的確率計画問題に対して,従来,期待値最適化モデルや分散最小化モデルに基づいて意思決定者の満足解を導出するための方法が提案されてきている.しかし,これらのモデルに基づいて得られる解と,不確実な意思決定状況で意思決定者が目的関数に対する満足度を表す効用関数の期待値を最大化しようとするという期待効用最大化原則に基づいて得られる解の整合性は保証されていない.一方,確率変数の分布関数を積分した二次分布関数の大小関係により確率変数を順序付けする二次確率優越という概念があり,目的関数に対する意思決定者の効用関数がリスク回避的である場合には,二次確率優越は期待効用最大化原則と整合的であるという性質がある.そこで,本研究では,多目的確率計画問題に焦点をあて,二次確率優越の概念に基づくパレート最適性を定義し,期待効用最大化原則と整合的な満足解を導出するための対話型ファジィ満足化手法を提案する.
著者
塚田 義典 田中 成典 窪田 諭 中村 健二 岡中 秀騎
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.27, no.5, pp.796-812, 2015-10-15 (Released:2015-11-13)
参考文献数
16
被引用文献数
1 6

我が国では,高度経済成長期に集中整備された多くの道路橋が老朽化しており,適切な長寿命化修繕計画の策定が急務である.適切な点検・補修計画の策定,および工法の選定には,現況の形状を正確に把握する必要がある.しかし,現地での再測量作業には通行止め等の措置が付随するため,全国で約70万橋を対象に実施することは,コスト面と人的資源の面で困難である.この問題に対して,MMSを用いることにより道路の通行止めを行わずに道路橋上部工の現況を3次元で可視化する研究がなされている.しかし,MMSは道路に面した領域のみを計測対象にしていることから,路面だけのモデルにとどまり,上部工全体のモデルを生成することはできない.加えて,橋梁の下部工のモデル化も不可能である.そこで,本研究では,地上設置型のレーザスキャナとUAVを用いて取得した点群データから橋梁の上部工と下部工を一体とした3次元モデルの生成手法を提案する.
著者
片井 修
出版者
日本知能情報ファジィ学会
雑誌
知能と情報 (ISSN:13477986)
巻号頁・発行日
vol.21, no.6, pp.958-975, 2009-12-15 (Released:2010-03-01)
参考文献数
36
被引用文献数
1

本論文は,制約指向の立場からファジィ集合を捉え,そこから導かれた問題解決の枠組みを起点として,自然なシステムの成り立ちを分析することにより,新しいシステムの在り方やコミュニケーションの捉え方さらに情報概念の拡張などについて究明するものである.まず,制約指向の立場から厳密な二値論理と接合可能なファジィネスの捉え方を追求し,その結果,逆に,自己組織型問題解決に行き着くことを示す.さらに,この立場の根底にある「区切れない」という対象の捉え方に注目し,その延長線上にある自然農法やパーマカルチャーに見られる新しい農のシステム観を通して,「重層性」という構造の成り立ちの重要性を明らかにする.その端的な形としてセミラティス構造のあることを示す.さらに,「べてるの家」という集団の場の在り方に注目し,グループダイナミックスの基礎づけとしての「かやの理論」を参照することによって,自然な人間集団の重層的な成り立ちを明らかにする.さらに,コミュニケーションにおける重層性をライプニッツの空間と時間の概念を通し,さらに存在グラフやペトリネットのような数学的表現を導入して論じる.その上で演劇戯曲を題材に重層的コミュニケーションの構造を明らかにする.この重層的なライプニッツ時空間は,コミュニケーションの生成を通して形成されつつ,逆に,コミュニケーションの生成を支えるという「コミュニケーションの土壌」としての役割を有している.その働きを究明する「情報土壌学」という新しい学域の可能性を展望するとともに,従来からのシャノンの情報概念に加えて「包摂的情報」という新たな情報概念の在り方があることを示す.この「区切れない」という重層性が結果として生じたシステム構造であるのに対して,その生成的な特性を特徴づけるものとして「毛羽立った」システムという概念の可能性を示す.それは,リスク回避など近年の人工システム構築で強調される偶然性や想定外事象を排除するのではなく,むしろ偶然的出来事や出会いを活かし,区切りを越境してゆくという新しいシステムの在り方を示すものである.