著者
中川 祥平 鈴木 基之 松本 和幸 北 研二
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.97, no.3, pp.533-539, 2014-03

本論文では,音声からの感情推定において特徴量を正規化して識別を行う方法を提案する.従来感情識別に用いられている平均パワーやピッチといった韻律的特徴量は,感情による変化だけではなく発話内容そのものによって大きく変化する.そのため,たとえ同じ感情で発話されたとしても発話内容が異なれば異なる韻律となり,感情推定の性能低下を招き得る.そこで本論文では,平静の感情で同じ発話内容を発話した音声からも特徴量を抽出し,それとの差分に注目することで感情による特徴量の変化のみを抽出する方法を提案する.使用している5種類の特徴量(平均パワー,ピッチ等)ごとに減算による正規化,除算による正規化,正規化なし,の三つの方法で正規化し,全ての組み合わせの中で最も性能が向上する組み合わせを探索した.その結果,最適な組み合わせによる識別性能は,正規化を行わない従来法と比較して5.98%向上した.正規化法に関する分析を行ったところ,平均パワーは正規化が必要(演算は減算でも除算でも大きな差はない)であり,一方ピッチとMFCCは正規化なし,残りの二つの特徴量についてはどちらでも性能は大きくは変化しないことがわかった.
著者
山根 健 蓮尾 高志 末光 厚夫 森田 昌彦
出版者
電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.90, no.3, pp.933-944, 2007-03-01
参考文献数
10
被引用文献数
2

シンボルグラウンディング問題やフレーム問題に起因する古典的人工知能の限界を超えるには,もともとパターンで表現される外界の情報をパターンのまま処理するパターンベースの推論が有効だと考えられるが,シンボルやそれに類するものを全く用いる必要のない推論エンジンはこれまでなかった.本論文では,非単調神経回路網が構成する大自由度力学系のダイナミックスを利用して,完全なパターンベースの推論を行うモデルを提案する.このモデルでは,情報はすべてパターンとして分散的に表現され,適切な推論結果を表すパターンへの状態遷移が生じるよう,力学系のある部分空間に軌道アトラクタを形成することが知識の学習に相当する.簡単な推論システムを構築したところ,全く未知の問いに対しても類推によって適切に答え,非単調推論も自然な形で実現できるなど,従来の推論方式にはない特徴が示された.まだ研究の初歩的段階ではあるが,本モデルは推論方式や性質が脳に似ており,大きな可能性をもつと考えられる.
著者
村田 匡輝 大野 誠寛 松原 茂樹
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.92, no.9, pp.1621-1631, 2009-09-01
参考文献数
22
被引用文献数
3

リアルタイム字幕生成とは,講演や解説などの音声をテキストで提示するものであり,聴覚障害者や高齢者,外国人らによる講演音声の理解を支援するための技術である.講演では一文が長くなる傾向にあり,多くの文がスクリーン上で複数行にまたがって表示されることになるため,テキストが読みやすくなる位置に改行が挿入されている必要がある.本論文では,読みやすい字幕を生成するための要素技術として,日本語講演文への改行挿入手法を提案する.本手法では,係り受け,節境界やポーズ,行長などの情報に基づき,統計的手法によって改行位置を決定する.日本語講演データの1,714文を使用した実験では,改行挿入の再現率で82.66%,適合率で80.24%を達成し,本手法の有効性を確認した.
著者
澄川 靖信 ヤトフト アダム
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J104-D, no.5, pp.486-497, 2021-05-01

歴史を理解することの重要性は広く認識されている.多くの人に知られている過去や地域史はTwitter上でも共有されているので,利用者ごとの関心に沿った歴史を提示できる対話システムが実現できると,多くの人に対して歴史への理解や関心を促進させることが期待できる.しかし,歴史学者ではない一般の人が気軽に歴史と対話できるシステムは実現されていない.本研究ではWikipediaから収集した過去の出来事をツイートするチャットボットを実現する.本チャットボットは,同じ日に起きた過去の出来事を定期的にツイートするだけでなく,利用者からのツイートに応じて適切な出来事をリプライする.また,利用者からのツイートが歴史に関するとき,そのツイートをリツイートして拡散する.本論文では,チャットボットの実現方法と,リツイートのために利用する分類器の訓練方法について述べる.訓練した分類器は再現率・適合率・F値の全てにおいて92%を超えることを確認した.
著者
旭 浩平 森 海里 中山 雅人 西浦 敬信
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J104-D, no.4, pp.186-197, 2021-04-01

パラメトリックスピーカは,音響信号の振幅によりキャリアと呼ばれる超音波を変調した振幅変調波を大音圧で放射することで超指向性を実現する.振幅変調波を放射すると,空気の非線形性により,音響信号が自己復調する.しかしながら,パラメトリックスピーカは空気の非線形性に基づいて音響信号を復調しているため,復調音の音圧が小さい.また,パラメトリックスピーカから振幅変調波を長時間放射することにより,超音波素子の疲労破壊が発生し,周波数ピーク雑音が発生する.そこで,本論文ではアドバンスドキャリアを用いてこれら問題を解決する手法を提案する.アドバンスドキャリアとはパラメトリックスピーカのもつ各問題点を解決するための最適なキャリアであり,キャリアの波形や周波数を目的に合わせて制御する特徴をもつ.具体的には,復調音の音圧を改善するために,キャリアの波形がもつエネルギーを増幅した矩形アドバンスドキャリアを最初に提案する.次に,周波数ピーク雑音を低減するために,キャリア周波数が超音波素子の共振周波数を中心に時間遷移する周波数アドバンスドキャリアを提案する.評価実験の結果,各提案手法の有効性を確認した.
著者
遠藤 駿 横川 慎二
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J104-D, no.4, pp.318-327, 2021-04-01

IoT技術の進展により,環境に関する多次元の時系列データを収集し,利活用する機会が増えている.ところが,多次元データの構造を可視化して把握することは容易ではない.従来法では,分析結果の図や表の数が増えてしまうことや,元データとの対応を考えることが困難になるという課題がある.このような多次元データの構造を可視化して比較的容易に把握することができれば,その結果を利用して様々なアクチュエータの制御に活用することや,深層学習の効率的な学習への応用が期待される.本論文では,大学附属図書館の施設内に設置された大量のセンサーから取得される多次元データに対して位相的データ解析(Topological Data Analysis; TDA)を適用し,対象エリアと近隣エリアのデータの関連性を可視化し,CO2濃度の上昇に寄与する要因を抽出した.本研究で提案する,TDAを用いたデータ構造の可視化によって元データとの対応を簡潔に表現する方法は,多次元時系列データの視覚的利用や応用に有用な結果を与えることがわかった.
著者
市井 誠 松下 誠 井上 克郎
出版者
一般社団法人電子情報通信学会
雑誌
電子情報通信学会論文誌. D, 情報・システム = The IEICE transactions on information and systems (Japanese edition) (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.90, no.7, pp.1733-1743, 2007-07-01
参考文献数
19
被引用文献数
2

ソフトウェア部品とはモジュールや関数,クラス等のソフトウェアの構成単位であり,参照や呼出しなどの形で互いに利用関係をもつ.ソフトウェア部品を頂点,利用関係を有向辺としたグラフはソフトウェア部品グラフ(部品グラフ)と呼ばれ,ソフトウェアの解析手法に広く用いられている.グラフを特徴づける要素として頂点の次数分布がある.近年,WWW上のページのリンク関係やソーシャルネットワーク等,様々な分野のグラフで次数分布がべき乗則に従うことが明らかになり,活発に研究されている.本論文では,Javaソフトウェアに含まれるクラス間の静的な利用関係に基づく部品グラフの次数分布にべき乗則が成り立つかどうかを調査した.その結果,一つのソフトウェア及び大規模なソフトウェアの集合に関し,入次数の分布がべき乗則に従い,出次数の分布は次数の大きな範囲でのみべき乗則に従うことが明らかになった.また,一部の部分集合においても同様の性質が成り立ち,特に,単語に基づく部分集合は非常に少ない部品数でも全体集合と同様の性質をもつことが明らかになった.
著者
鈴木 拓弥 小林 真 長嶋 祐二
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J101-D, no.3, pp.560-568, 2018-03-01

聴覚障害学生を対象とした授業では,聴覚の代行として視覚情報による支援が中心となる.しかし,実技演習時の細かな操作を教示する場合やタイミングが重要とされる場面では,視覚情報を中心とした手法では不十分な教示状態があることが分かってきた.本論文では,視覚によって提示される情報保障の一部を触覚によって伝達する手法を考案し,教員の実演内容を触覚情報によって提示する教示支援システムSZCAT (SynchroniZed Click Action Transmitter)を開発した.そして,開発したシステムの効果に関する基礎的研究として,従来からの手法と,触覚情報を追加した手法とを比較し,触覚情報提示の有効性を検証した.その結果,触覚情報を追加したことによる視線移動の減少効果や,教示内容の見逃しや誤認識を軽減させる効果について確認できた.
著者
瀧田 愼 大熊 浩也 森井 昌克
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J103-D, no.4, pp.291-300, 2020-04-01

キャッシュレス決済の手段としてQRコードの利用が進められている.QRコードは高い認識率を誇るものの,人は保存された情報をデコーダなしで知ることができない.悪意のあるものが偽装したQRコードを作成し,利用者の不用意な操作により悪性サイトに誘導することや不正送金させることが問題となっている.QRコードを利用した決済が広まりつつある中で,その安全性を十分に検証する必要がある.本研究では誤り訂正符号の性質を用いて,二つの情報を出力するQRコードを開発している.提案QRコードを悪用すると,通常は正常なサイトに誘導するが,稀に悪意のあるサイトに誘導する偽装QRコードを作成することができる.悪意のあるイベントの再現性が低いため,偽装QRコードの存在を検知することは困難である.本論文では,消失訂正を用いて二つの情報を出力するQRコードの構成方法を与える.提案手法により,正規のQRコードとの差異が小さい偽装QRコードを構成可能である.更に,偽装QRコードの具体的な対策について述べる.
著者
後安 謙吾 谷口 義明 井口 信和
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J104-D, no.2, pp.159-163, 2021-02-01

本論文では,MR技術を用い実空間上に仮想ネットワーク環境を構築するシステムを開発する.本システムにより,実ネットワーク機器を用いることなく,ネットワーク機器の配置や配線などの物理的な構成を確認しながら,ネットワークの検証や構築学習を実施できる.
著者
龍 梓 木村 龍一郎 飯田 頌平 宇津呂 武仁 三橋 朋晴 山本 幹雄
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J102-D, no.3, pp.104-117, 2019-03-01

ニューラル機械翻訳(NMT)の弱点の一つとして,扱える語彙に限りがある点が知られている.NMTにおいては,語彙辞書に含まれていない単語は未知語トークンとして出力されるため,これが誤訳となる.従来法では,出力文に含まれた未知語トークンが対応する原言語の単語を推定しその訳語に置き換えることによって,NMTにおいて出力可能となる語彙の規模を拡大した.しかし,この方式は,単語単位での語彙規模の拡大にとどまる点が弱点であった.本論文においては,ニューラル翻訳において,大規模フレーズ語彙に対応する方式を提案する.具体的には,訓練用対訳文においてフレーズ間の二言語対応の情報を収集し,二言語間で対応済みのフレーズ対訳対を同一のトークンに置き換えた後,NMTモデルの訓練を行う.翻訳時には,NMTモデルの語彙集合中の語彙部分に対しては,NMTモデルによる訳文生成がなされ,一方,その他のフレーズまたは単語語彙部分に対しては,SMTモデルによる翻訳がなされる.日中,中日,日英,英日の各方向の翻訳において評価を行い,提案手法の有効性を検証した.
著者
林 拓世@水野
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J91-D, no.7, pp.1874-1885, 2008-07-01

日常生活からのストレスは慢性化しやすく,時に重大な疾病を引き起こすが,評価方法については未発達段階である.本研究では,情動ストレス負荷時における生理学的信号解析として,脳機能と自律神経機能の客観的評価を行った.被験者は健常成人22名とし,大学生用ストレス自己評価尺度によりストレス群と非ストレス群に分類した.測定には脳波と心電図を用い,情動ストレス負荷として安静刺激,快刺激,不快刺激の視聴覚動画像刺激を用いた.脳波周波数解析の結果,両群ともに不快刺激は安静刺激及び快刺激と比較して,相対パワースペクトル値が高値を示した.更に不快刺激は,ストレス群では相対パワースペクトル値が有意に経時的減少を示し,非ストレス群では有意な一時的,または継続的な増加を示した.自律神経機能では,非ストレス群はストレス群と比較して反応性がより高く,特に非ストレス群では安静刺激は他の刺激と比較して副交感神経機能が有意に高かった.これらのことから,ストレスと脳機能の間に関連性が示され,更にストレス時における脳機能活動は生体抵抗性と類似した傾向を示すことが分かった.
著者
丸山 隼矢 水田 孝信 八木 勲
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J103-D, no.11, pp.755-763, 2020-11-01

レバレッジドETFとは,日々のリターンが原資産や原指数(例えば,日経平均やTOPIXなど)の価格の変動率に一定の倍数を乗じた値動きをするETFのことを指す.レバレッジドETFは,レバレッジ率を維持する(保有する原資産の純資産総額を,レバレッジドETFの純資産総額の決められた倍数に維持する)よう,原資産の価格が上昇すれば原資産を買い,反対に下落した際は原資産を売るというリバランス取引を日々行わなければならない.そのため,これらの売買が原因で原資産の価格を不安定にさせているのではないかと言われている.これまでに,人工市場を用いた研究によってレバレッジドETFが板寄せ方式の原資産市場の価格形成に影響を与えることが知られているが,ザラ場方式の市場は未調査のままである.そこで本研究では,ザラ場方式の原資産市場においてレバレッジドETFが価格形成に与える影響を調査した.その結果,レバレッジドETFのリバランス取引の最低注文数が小さいほど市場の価格形成に与える影響が大きいことを確認した.
著者
星 郁雄 天野 洋 橋本 大志 田中 大智 下馬場 朋禄 角江 崇 伊藤 智義
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J103-D, no.11, pp.808-816, 2020-11-01

近年,深層学習についての研究が盛んに行われている.その中でも,再帰型ニューラルネットワークはネットワーク内に再帰構造をもつ深層学習の一種で,時系列データの扱いに優れていることから音声認識や自然言語処理の分野で高い成績を残している.再帰型ニューラルネットワークに限らず深層学習では,高い性能の反面,計算コストが多い.そのため,クラウドコンピューティングやGraphics Processing Unitを用いて計算する研究が進められている.しかし近年では,応答性の観点から,この計算をクラウドコンピューティングのように別の場所に送信し計算するのではなく,エッジ側での処理が求められるようになってきている.そこで本論文では,回路を自由に書き換えることができるField Programmable Gate ArrayにRNNの推論器と学習器を実装し,回路の評価と,実際に音声識別を行った結果を評価した.
著者
相川 野々香 古池 謙人 東本 崇仁
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J103-D, no.9, pp.644-647, 2020-09-01

EBSは学習者の試行錯誤に有効なシステムである.しかし,正解を提示しないために一度行詰まってしまうと学習者の自力での解決が難しい.そこで本論文では,学習者の誤り傾向を分析し,学習者の理解できていない概念を学ぶ問題に移行する手法を提案する.
著者
湯川 誠人 谷口 義明 井口 信和
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J103-D, no.8, pp.591-602, 2020-08-01

ネットワークセキュリティ教育においては,防御側の視点のみでなく攻撃側の視点を加えた学習を行うことで,防御手法の理解をより深めることができる.そのため,攻防戦型演習のように両側の視点を学べる演習が有効とされている.そこで本論文では,無償で提供されているソフトウェアを組みあわせることにより,低コストに攻防戦型ネットワークセキュリティ演習を実施できるシステムを開発した.本論文で対象とする攻防戦型演習は,初学者を対象としており,2人の学習者が攻撃側と防御側に分かれて演習を行う.開発システムは仮想化ソフトウェアを利用しているため,既存のネットワークに対して攻撃を行わない安全な演習が実施可能である.また,開発システムではブラウザを通して機器を操作するため,学習者は自身の保有するPC等を使って手軽に演習を実施可能である.性能評価の結果,想定する演習のネットワークの規模に開発システムが対応可能であること,また,学習者が仮想ネットワークの構築を円滑に実施できることを確認した.更に,利用評価を行い,開発システムの有用性を確認した.
著者
宇都 雅輝 植野 真臣
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J103-D, no.5, pp.459-470, 2020-05-01

近年,学習者の実践的かつ高次な能力を測定する手法の一つとしてルーブリック評価が注目されている.ルーブリックは評価者の主観による評価基準をより客観的にするためのツールであるが,それでも評価がパフォーマンス課題や評価者,ルーブリックの評価観点の特性に依存してしまうことが指摘されてきた.この問題を解決する手法の一つとして,これらの特性を考慮して学習者の能力を測定できる項目反応モデルが近年多数提案されている.しかし,既存モデルは学習者・課題・評価者・評価観点で構成される4相の評価データに直接には適用できず,課題・評価者・評価観点の特性を同時に考慮した能力測定は実現できない.また,ルーブリック評価の評点は一般に段階カテゴリーとして与えられ,各カテゴリーに対する評価基準は評価者と評価観点の特性に依存する.しかし,既存モデルでは評価基準は評価者と評価観点のいずれか一方にのみ依存すると仮定している.以上の問題を解決するために,本論文では,評価観点と評価者の評価基準を考慮して,ルーブリック評価の4相データから学習者の能力を測定できる新たな項目反応モデルを提案する.また,シミュレーション実験と実データ実験を通して提案モデルの有効性を示す.
著者
古屋 貴彦 栗山 繁 大渕 竜太郎
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J99-D, no.8, pp.709-717, 2016-08-01

近年,画像検索に対する新たな要求として,描画スタイルに基づく画像検索に注目が集まっている.従来手法は,描画スタイルに関してラベル付けされた画像から大域視覚特徴量を抽出し,この特徴空間に対して教師あり距離計量学習を適用することによって,画像間の描画スタイルの比較尺度を得る.しかし,投稿型のウェブサイトに蓄積されたクリップアート等,描画スタイルのラベルをもたない画像に対して従来手法を適用することは困難である.更に,これまでの研究では大域視覚特徴量が描画スタイルの記述に最適であることは示されておらず,画像検索に広く用いられる局所視覚特徴量との比較が行われていない.描画スタイルに基づく画像検索の実用性を高めるには,描画スタイルを精度良く記述可能な視覚特徴量と,ラベルに頼らない距離計量学習の手法が望まれる.本論文では,描画スタイルを高精度に比較するため,局所視覚特徴量と教師なし距離計量学習を組み合わせた手法を提案する.評価実験の結果,数千枚のイラスト画像を含むベンチマークにおいて,大域視覚特徴量と教師あり学習を用いる従来手法よりも,検索精度が大幅に向上した.
著者
福田 匡人 黄 宏軒 桑原 和宏 西田 豊明
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J103-D, no.3, pp.120-130, 2020-03-01

現在の教職課程では様々な学校問題に対応する指導力を養成するカリキュラムが組まれているが,実際の教育現場において指導力を養う機会は少ない.教育現場では実際の現場に近い環境下で訓練を行う環境が求められている.この問題を解決すべく我々は,教員志望者が生徒としてのCGキャラクタ(仮想生徒)とのインタラクションを通して,指導力を養う新たなプラットホームの構築を進めている.実際の授業現場に近い環境を再現するには,複数の仮想生徒が授業に応じて適切な振る舞いを実施し学級の雰囲気を表出することが求められる.一方でCGエージェントが雰囲気を表出可能な群行動の制御手法は未だない.そこで本研究では専門家の協力のもと実験を実施し,パラメータ化された雰囲気の生成モデルの構築手法について提案する.
著者
藤原 香織 渡辺 澄夫
出版者
The Institute of Electronics, Information and Communication Engineers
雑誌
電子情報通信学会論文誌 D (ISSN:18804535)
巻号頁・発行日
vol.J91-D, no.4, pp.889-896, 2008-04-01

仮説検定とは,データが帰無仮説から発生していると考えることに無理があるかどうかを統計的に判断することである.仮説検定のアルゴリズムを作るためには,帰無仮説が真であると仮定したもとで,帰無仮説と対立仮説の対数ゆう度比の確率的な挙動を理論的に導出する必要があるが,特異モデルにおいては,フィッシャー情報行列が正則行列でなく,最ゆう推定量は存在する場合においても漸近的に正規分布に従わず,対数ゆう度は χ2 分布に法則収束しない.このため従来の統計的正則モデルで用いられている仮説検定手法を特異モデルに適用することはできないことが知られている.仮説検定において,帰無仮説と対立仮説がともに確率分布で与えられる場合には,ベイズ対数ゆう度比を用いた検定によって,同じ危険率のもとで検出力が最大になる.そこで,本研究では特異モデルのベイズ検定においてベイズ対数ゆう度比を用いる方法を考察し,特異モデルにおいてもベイズゆう度比の漸近挙動の導出が可能であることを明らかにする.また具体的な応用例として時系列変化問題を扱う場合における理論解析を行う. 実験により,本仮説検定法を用いた変化検出法が,適切に変化を検出し,雑音に強い変化検出法であることを明らかにする.