著者
三田 礼子 山名 順子 近藤 盛彦
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.548-551, 2015 (Released:2015-09-30)
参考文献数
23

パクリタキセル(以下,PTX)による末梢神経障害にラフチジンとトコフェロールニコチン酸エステル(以下,TN)の併用が著効した例を報告する.【症例】72歳男性,左上葉肺腺癌,肝転移と診断されたがPTX投与後に四肢のビリビリした痺れによる歩行困難を来たしたため化学療法は中止となり,転院となった.痺れはTN300mg/日では無効であったが,ラフチジン20mg/日の併用により急速に改善した.痺れはTNの減量で増悪したが,再度300mg/日への増量で改善し屋外歩行も可能となった.【考察】PTXによる末梢神経障害に対しTNとラフチジンの併用が有効であった.末梢神経の再生速度が緩徐であるのに対して薬剤量の変更で痺れが速やかに変化する点から痺れの改善はTNの微小循環改善作用とラフチジンのカプサイシン感受性知覚神経を介した血流増加および脱感作による効果と考えられた.
著者
中嶋 駿介 山口 健也 今村 秀 進藤 美舟 妙中 隆大朗 河野 健太郎 丹波 嘉一郎
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.163-167, 2021 (Released:2021-05-19)
参考文献数
12

【緒言】メサドン導入の際は本邦のガイドラインではstop and go法が推奨されているが,一時的な疼痛コントロール不良や重篤な副作用が出現する可能性がある.難治性がん疼痛の患者に対して,先行オピオイドに上乗せして早期に少量のメサドンを導入することで,症状緩和を得た症例を経験した.【症例】70歳男性.直腸吻合部の直腸がん再発による旧肛門部痛に対してタペンタドール,鎮痛補助薬を導入したが疼痛コントロール不良であったため,メサドン5 mg分1を併用した.メサドン開始後は著明な疼痛改善,QOL改善を認めた.【考察】より安全に疼痛管理を行うために本症例のような早期に少量メサドンを上乗せする方法が検討されうる.
著者
的場 康徳 村田 久行 浅川 達人 森田 達也
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.321-329, 2020 (Released:2020-11-30)
参考文献数
17
被引用文献数
1

【目的】がん患者の終末期医療に携わる医師のスピリチュアルペイン(SPP)を明らかにする.【方法】医師の臨床体験レポートを記述現象学と3次元存在論で分析した.【結果】すべてのレポートで医師のSPPが抽出され,時間性,関係性,自律性に分類された.とくに医師の意識の志向性が,がん治療や症状緩和の限界や患者の訴えるSPPに対応できないことに向けられ,それが医師としての無力・無能として現れる自律性のSPPが大多数を占めた.自律性のSPPの体験の意味と本質は,[治療(キュア)の限界に直面している自己が無力として現れる][患者のSPPに対応できない自己が無力として現れる][自分を取り巻く外的な環境の問題(過重労働や教育の不備など)が原因で自己の無力が生じる]という三つの構造で示された.またキュアの限界で医師が患者に会いづらくなる,避けるという体験は医師の自律性のSPPへの対処(コーピング)の可能性が示唆された.
著者
木内 大佑 久永 貴之 萩原 信悟 阿部 克哉 長田 明 東 健二郎 杉原 有希 沼田 綾 久原 幸 森田 達也 小川 朝生 志真 泰夫
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.169-175, 2019 (Released:2019-07-30)
参考文献数
15
被引用文献数
1 1

研究目的は緩和ケア病棟入院中の難治性せん妄患者に対する,クロルプロマジン持続皮下注射による有効性を観察することである.2013年7月〜2014年5月において2施設の緩和ケア病棟で,せん妄に対し規定量以上の抗精神病薬治療が行われているにもかかわらずDelirium Rating Scale Revised-98(DRS-R-98)≥13で,クロルプロマジン持続皮下注射で治療したすべての患者を対象とした.評価は治療開始前と48時間後と7日後に行い,DRS-R-98<12となる,もしくはDRS-R-98が低下しかつCommunication Capacity Scale(CCS)≤2であるものを有効例とした.評価対象84名中60名(71.4% 95%CI:61-80%)が有効例であった.CCSの平均値は治療前後で1.48から1.03に改善した(p<0.001).持続皮下注射の安全性についてはCommon Terminology Criteria for Adverse Events(CTCAE)注射部位反応でGr2以上は1名(1.2% 95%CI:0-7%)であった.難治性せん妄患者に対するクロルプロマジン持続皮下注射は,コミュニケーション能力を保ったまま,せん妄重症度を増悪させない可能性がある.
著者
丸中 淳 木村 好江 西海 嘉能 池垣 淳一
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.209-213, 2021 (Released:2021-06-30)
参考文献数
9

【緒言】造血幹細胞移植後に発症したHHV-6脳脊髄炎の症例を経験した.【症例】30代女性.臍帯血移植2週間後に,発作性の下肢の電撃痛・痒み・振戦・発汗と尿閉を生じた.プレガバリン,オピオイドを開始し,脳脊髄液中HHV-6DNA陽性の判明後,ホスカルネットが投与された.レベチラセタム1000 mg/日併用にて,電撃痛の強度・頻度ともに著明に減少した.経過中のせん妄と不安には,向精神薬により対症療法を行った.髄液中ウイルス陰性化の前より著明な傾眠となったが,レベチラセタム漸減中止後に意識清明となった.退院時の主症状は,肛門周囲のしびれを伴う痛みと痒みで,オキシコドン15 mg/日,プレガバリン225 mg/日,ロラゼパム0.5 mg/日で自制内であった.【考察】臍帯血移植後HHV-6脳脊髄炎に伴う間欠的な電撃痛にレベチラセタムは有効であった.
著者
山本 英一郎 樋口 雅樹 井上 裕次郎 青山 菜美子 廣橋 猛
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.191-196, 2021 (Released:2021-06-02)
参考文献数
5

【緒言】新型コロナウイルス感染症の第1波拡大中に, 疼痛コントロール目的に緩和ケアチームで介入していた患者が新型コロナウイルス感染症に罹患し死亡した2例を経験したので報告する. 【症例】疼痛コントロール目的にヒドロモルフォン錠を内服していた造血器腫瘍患者2例であった. 両者とも経過中に新型コロナウイルス感染症に罹患したが, 新型コロナウイルス感染症の特徴の一つとされるhappy hypoxiaと考えられる状態を認めた. 急激な全身状態の悪化を認めながらも呼吸困難感の訴えはなく, 投与経路を含めた薬剤調整を行い症状緩和に努めた. 【考察】緩和ケア診療で関与する患者が新型コロナウイルス感染症に罹患した場合, 基礎疾患を有するため急激な状態悪化を認める可能性があるとともに, 新型コロナウイルス感染症の特徴的な症状に応じたオピオイドタイトレーションが必要となる可能性がある.
著者
松坂 俊 大屋 清文 片山 勝之 松本 美奈 佐々木 理絵 Ivor Cammack 柏木 秀行
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.67-72, 2021 (Released:2021-03-02)
参考文献数
9

【緒言】緩和的放射線療法を含む集学的な加療により長期間放置され巨大化し自壊した頭部脂腺がんの局所コントロールができ,ADLが大幅に改善した1例を経験したので報告する.【症例】退職し独居,家族とも疎遠であり,社会的孤立がある48歳男性.3年前に頭部腫瘍を自覚した.近医に受診したが診断が得られず,その後放置していた.その後巨大化し,疼痛,滲出液が増悪し体動困難となり救急搬送された.頭頂部に最大径30 cmの腫瘤を認め,手術不能な脂腺がんと判断された.全身管理とともに計27 Gy/9 Frの緩和的放射線療法をしたところ腫瘍は2/3程度に縮小し,疼痛も改善,滲出液の減少も認め,外出することも可能となった.【考察】手術不能な巨大頭部脂腺がんであっても緩和的放射線療法を含む集学的加療で局所コントロール,症状緩和をし得る.
著者
新城 拓也 清水 政克 三宅 敬二郎 田村 学 遠矢 純一郎 白山 宏人 松木 孝道 石川 朗宏 村岡 泰典 濵野 淳
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.15, no.4, pp.259-263, 2020 (Released:2020-10-08)
参考文献数
14
被引用文献数
1

本研究は日本国内における,自宅で死亡したがん患者の状況,医師や看護師の死亡時の立ち会いについて調査することを目的とした.国内の在宅医療と緩和ケアを提供している診療所で,2017年7月1日から2017年12月31日の間に,自宅で訪問診療を受ける終末期のがん患者を対象に,前向きの観察研究を行った.診療した医師が,初診時と死亡時に,患者背景,治療内容,死亡時の状況を評価した.調査期間中に,45の診療所で死亡場所が自宅であった患者676人の死亡状況を解析した.同居者がいた患者は91%,休日と夜間の死亡は49%(95%信頼区間[45〜52%]),死亡時の医師,看護師の立ち会い(呼吸停止,心停止の前から継続して患者の家にいること)はそれぞれ5.6%,9.9%であった.自宅で亡くなった患者のほとんどは家族と同居し,死亡時の医師や看護師の立ち会いはほとんどなかった.
著者
川島 夏希 久永 貴之 浜野 淳 前田 一石 今井 堅吾 坂下 明大 松本 禎久 上村 恵一 小田切 拓也 小川 朝生 吉内 一浩 岩瀬 哲
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.14, no.3, pp.237-243, 2019 (Released:2019-09-26)
参考文献数
24

【目的】せん妄を呈した進行がん患者における苦悩の実態の検討.【方法】国内14施設の緩和ケア病棟に入院中または国内10施設の一般病棟に入院し精神腫瘍科が介入中の進行がん患者のうち,せん妄と診断され抗精神病薬の定期投与を受ける患者を前向きに連続サンプリングした.苦悩の有無を緩和ケア専門医が判断し,患者背景,DRS-R-98で評価したせん妄の重症度を比較した.【結果】対象患者818名のうち99名(12.1%)に苦悩を認めた.年齢,39歳以下,認知症の有無に有意差を認めた.治療前のDRS-R-98(15.3±8.1点 vs 17.3±7.8点,p<0.02)は苦悩を伴う群で有意に低く,情動の変容は有意に高かった.【考察】せん妄を呈した進行がん患者で苦悩を伴うものでは年齢が低く,認知症の併存が少なく,せん妄の重症度は低く,情動の変容が強いことが示された.
著者
佐藤 一樹 橋本 孝太郎 内海 純子 出水 明 藤本 肇 森井 正智 長沢 譲 宮下 光令 鈴木 雅夫
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.116-123, 2015 (Released:2015-04-17)
参考文献数
16
被引用文献数
3

【目的】在宅緩和ケアを受けた終末期がん患者の在宅診療中止の関連要因を明らかにする.【方法】年間看取り数20名以上の在宅療養支援診療所6施設から在宅緩和ケアを受けた終末期がん患者352名の診療録調査を行い,自宅死亡/在宅診療中止の関連要因を分析した.【結果】自宅死亡が289名(82%),在宅診療中止が63名(18%)であった.多変量解析の結果,患者や家族の看取り場所の希望が自宅以外(オッズ比〈OR〉=10[95%信頼区間2.5~41],52[12~227]),不明・明確な希望なし(OR=5.0[1.3~19],11[2.3~51]),家族に不安・抑うつがある(OR=4.1[1.2~14]),主介護者の介護頻度が少ない(OR=6.8[2.0~23]),在宅診療中の入院歴あり(OR=12[4.0~34])が,在宅診療中止に関連した.【結論】在宅緩和ケアを受けた終末期がん患者の在宅診療中止の関連要因が明らかとなった.
著者
西村 一宣 栗山 陽子 行徳 五月 寺戸 沙織
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.13, no.3, pp.281-286, 2018 (Released:2018-09-04)
参考文献数
15

【目的】医療で一般に用いられる言葉,「年・月・週単位」と「季節や時期を示す言葉」について医療者と患者家族の認識を調査した.【方法】医療者と患者家族に対し質問紙調査を行った.【結果】年単位を5年以内とした医療者は100%,患者家族は67.1%だった.月単位を3〜6カ月とした医療者は39.3%,6カ月以内は100%,患者家族は3〜6カ月10.1%,6カ月以内は68.3%だった.週単位を4週以内とした医療者は89.3%,8週以内は100%,患者家族は69.6%と77.2%だった.年・月・週単位を「わからない」とした患者家族が約1/5いた.桜の頃を3月下旬〜4月上旬とした医療者は71.4%,患者家族は58.9%だった.紅葉の季節,暖かくなる頃,寒くなる頃はばらつきがあり,梅雨の時期は6月が多かった.【結論】一般的に使用される平素な言葉でも,医療者と患者やその家族で認識が異なる場合がある.
著者
西 智弘 小杉 和博 柴田 泰洋 有馬 聖永 佐藤 恭子 宮森 正
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.901-905, 2017 (Released:2017-01-19)
参考文献数
8

2015年8月から,他院で化学療法中の患者を緩和ケアとして併診する目的で,早期からの緩和ケア外来(EPC外来)を開設.2015年8月~2016年1月に,EPC外来を受診した患者について,初診診察時間,診察の内容,入院・死亡までの期間などについて,診療録から後ろ向きに調査を行い,同時期に腫瘍内科を受診した患者と比較検討した.結果,EPC外来群19名,腫瘍内科外来群11名が,それぞれ延べ80回および117回外来受診.初診外来での診察時間中央値は各45分(10〜106),38分(23〜60)であった(p=0.17).診察の内容は,症状緩和,コーピングなどについてはEPC外来群が有意に多かった.EPC外来群では初診から60日以内死亡が5名(26%)であった.EPC外来で初診に要する時間は腫瘍内科外来と同程度であった.紹介されてくる時期が遅い患者も多く,今後の啓発と継続した実践が重要である.
著者
小西 徹夫 児玉 佳之 長岡 康裕 吉田 晴恒
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.501-505, 2014 (Released:2014-06-04)
参考文献数
12

【目的】消化管閉塞をきたした膵がん患者に対し倫理的考察を行い, チームが共通の理解基盤のもとで治療方針を決定し, 技術的工夫を行った減圧目的の経皮内視鏡的胃瘻造設術と摂取可能な食品の検討で患者のQOLが改善したため報告する. 【症例】80歳代, 女性. 膵がん末期でbest supportive careにて自宅療養をしていたが, 十二指腸浸潤から通過障害をきたした. われわれは患者・家族の思いを確認し, 臨床倫理の4分割表を用いて倫理的考察を行ったうえで減圧PEGを施行した. 減圧PEGでは胃内容物のリークによる腹膜炎や胃瘻チューブ閉塞が問題となるが, 胃壁固定の継続や人工胃液を用いて摂取可能な食品を検討した. 形態は限られるが, 経口摂取再開と外出が可能となったことから, QOLが改善した. 【結論】倫理的考察には臨床倫理の4分割表を用いたカンファレンスが有効であり, 減圧PEGや摂取可能な食品の検討でQOL改善の可能性がある.
著者
大道 雅英 鴻池 紗耶 山田 祐司 髙橋 陽 成田 昌広 青沼 架佐賜 宗像 康博 山本 直樹 杉本 典夫
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.140-148, 2017 (Released:2017-03-24)
参考文献数
22
被引用文献数
5

【目的】進行がん患者の生物学的予後スコアBiological Prognostic Score(BPS)2版,3版を開発し,予測精度を確かめた.【方法】がん治療を終了または差し控えた進行がん患者で血液検査値,performance status(PS),臨床症状,年齢,性別,がん種を変数とするパラメトリック生存時間解析を行い,BPS2,BPS3を開発した.次に,前向きにBPS2,BPS3とPalliative Prognostic Index(PPI)の精度を比較検証した.【結果】開発群589例よりBPS2,BPS3を開発した.前者はコリンエステラーゼ,血中尿素窒素,白血球数から算出し,後者はBPS2,ECOG PS,浮腫から算出した. 検証群206例で3週,6週生存予測の全体正診率は,BPS2,BPS3がPPIより有意に優れていた.【結論】BPS2,BPS3の有用性が示唆された.
著者
髙世 秀仁 北川 美歩 堀江 亜紀子 西連寺 隆之 立花 エミ子 谷 忠伸 上村 貴代美 桑名 斉
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.10, no.3, pp.915-919, 2015 (Released:2015-08-12)
参考文献数
7

【緒言】がん経験者,家族,遺族に対する心理社会的サポートの提供は重要だが,未だ不十分である.サポートグループ「がんカフェ」は,がん経験者,家族,遺族,誰でも参加でき,心理社会的サポートを提供し,緩和ケア病棟スタッフが支援している.【症例】53歳男性,2001年に肺がんで手術を行い,2006年治療中に再発した.治療中の2012年に家族で「がんカフェ」に参加した.本人は患者として,妻と子供は家族として,当事者,緩和ケア病棟スタッフと交流ができた.6カ月後本人が緩和ケア病棟に入院した時,顔見知りのスタッフがいて本人と家族は安心していた.退院後,妻は遺族として「がんカフェ」に参加され,同じスタッフがグリーフケアを行った.【考察】「がんカフェ」に緩和ケア病棟スタッフが参加することで,入院前の早期から退院後のグリーフケアまで,心理社会的サポートを中心とした緩和ケアを継続的に提供することができた.
著者
岩満 優美 平井 啓 大庭 章 塩崎 麻里子 浅井 真理子 尾形 明子 笹原 朋代 岡崎 賀美 木澤 義之
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.228-234, 2009 (Released:2009-07-07)
参考文献数
12
被引用文献数
3 5

本研究では, がん診療連携拠点病院を中心とした緩和ケアチームで一定の活動経験のある7名の医師および看護師を対象に, フォーカスグループインタビューを実施し, 緩和ケアチームが心理士に求める役割について検討した. インタビュー内容の質的分析の結果, 緩和ケア領域に携わる心理士が役割を果たすために必要な知識として, 第1に, 基本的ならびに専門的な心理学的知識とスキルが挙げられた. 第2に, がんに関する全般的ならびに精神医学的知識が挙げられた. その他に, 他職種の役割と医療システムに関する知識が求められており, 医療者への心理的支援を望む声も認められた. 以上より, 本研究で明らかにされた心理士に求める役割とは, がん医療に関する幅広い知識をもとに他職種と十分にコミュニケーションをとりながら, 心理学的な専門性を活かして, 患者・家族, および医療者に心理的支援を行うことであった. Palliat Care Res 2009; 4(2): 228-234
著者
西 智弘 武見 綾子 吉川 幸子 荒木 亜紀子 宮森 正
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.8, no.2, pp.341-345, 2013 (Released:2013-07-17)
参考文献数
10

【背景】がんサロン(以下, サロン)の開催の多くは日中に限られており, 夜に開催しているサロンと比較検討を行った報告はない. 【目的】昼と夜のサロン開催時間での参加人数, 参加理由の差などを比較検討し, 昼のサロンの問題点を探索的に検討する. 【方法】2012年7月~12月にサロンを, 一方は14時, 一方は18時から各2時間開催し, 参加者へのアンケートをもとに検討を行った. 【結果】延べ69名が参加し, 昼は22名(32%), 夜は47名(68%)であった(p=0.004). アンケートは55名から回収し, 回収率は80%. 60歳未満は昼8名(40%)であったのに対して, 夜は21名(60%)と多い傾向にあった. 参加時間の選択理由について昼は「特になし(55%)」が, 夜は「仕事の都合(34%)」が最多であった. 【考察】日中のサロン開催は若い働く世代が参加しにくい傾向があり, 夜のサロン開催は有用である可能性がある.
著者
田所 学 高橋 美穂子
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.293-298, 2023 (Released:2023-12-27)
参考文献数
17

COVID-19の流行による面会制限は緩和ケア病棟においても例外ではなく,患者と家族は分断を余儀なくされてきた.済生会宇都宮病院では,2023年7月,感染対策を徹底したうえで緩和ケア病棟での面会制限を解除し,それに伴い,制限解除の前後2カ月間の在棟患者数・年齢・在棟日数・在宅復帰率,COVID-19患者の発生,面会者の続柄および滞在時間,病床利用率を調査した.調査期間に80名の患者が在棟したが,COVID-19患者は認めず,面会者からの面会後の感染報告もなかった.制限解除後2カ月間の1回あたりの滞在時間の中央値は83分,面会者の続柄は親族が89%を占めた.制限解除決定前2カ月間の病床利用率の平均は45%であったが,制限解除後2カ月間は76%で,流行以前の水準に回復した.感染対策を徹底することにより,COVID-19の発生を増やすことなく,PCUにおける面会制限を解除できる可能性が見出された.
著者
牧野 壮壱 宮澤 一成 比嘉 花絵 宮田 剛彰 西口 沙也佳 小湊 彩佳 早野 史子
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.207-212, 2023 (Released:2023-10-06)
参考文献数
14

緩和的放射線治療は,適切に施行することで患者のQuality of Life(QOL)向上に寄与する.緩和的放射線治療の有用性の認知は進んできてはいるが,在宅医療機関からの緩和的放射線治療のニーズはまだ満たされていない.在宅療養中の患者が緩和的放射線治療を受けることでQOLが向上することはあるが,画像診断検査を行うことが難しい在宅診療の現場では,緩和的放射線治療の適応を判断することは困難である.また,在宅療養中の患者は全身状態が悪いことが多く,頻回の通院は難しいうえにその移動手段にも制限がある.そのような環境の中,われわれは在宅診療所と協力し,緩和的放射線治療を提供する活動を行ってきたので一部の症例とともに報告する.
著者
渡辺 裕之 中村 和行 石川 歩未 李 振雨 足立 康則 鍋島 俊隆 杉浦 洋二
出版者
日本緩和医療学会
雑誌
Palliative Care Research (ISSN:18805302)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.133-138, 2021 (Released:2021-04-22)
参考文献数
28

【緒言】糖尿病を合併した終末期悪性リンパ腫患者の経口投与が困難な難治性悪心に対して,アセナピン舌下錠を使用し,悪心の改善ができたので報告する.【症例】78歳男性,糖尿病を併発するびまん性大細胞型B細胞リンパ腫の患者で右前頭葉,小脳に腫瘤や結節,周囲脳実質に浮腫が認められた.中枢浸潤が原因と考えられる悪心・嘔吐を繰り返し,経口投与はできなかったためメトクロプラミド,ハロペリドール,ヒドロキシジン注を併用したが,悪心のコントロールは困難であった.アセナピンは糖尿病患者にも使用可能で,制吐作用があるオランザピンと同じ多元受容体作用抗精神病薬に分類される.その作用機序から制吐作用が得られることを期待し,アセナピン舌下錠5 mg,1日1回就寝前の投与を開始した.アセナピン舌下錠の開始後,難治性悪心は著明に改善した.【考察】アセナピンは,難治性悪心に対する治療の有効な選択肢となる可能性がある.