著者
小倉 拓人 谷津 元樹 原田 実
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.967-975, 2019-03-15

本研究では,ユーザが指定した小説中の登場人物との自然言語による雑談対話を実現する対話システムDeep EVEの開発を行った.提案システムでは,青空文庫から取得した小説作品から発話応答の対を抽出しその発話の発話者を意味解析結果に基づきルールベースで推定することで,発話者情報付きの対話データを自動構築した.この対話データを用いて発話者情報を考慮した対話モデルの学習を行い,ユーザの入力に対し指定された小説作品中の登場人物のキャラクタ性を反映した応答文を生成するSeq2Seqモデルを構築した.応答文の自然さや登場らしさについて,主観的評価実験を行った結果,提案システムでは従来システムと比較して,より自然でキャラクタ性を反映した応答を生成できることが示唆された.
著者
鳥海 不二夫 榊 剛史
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.1287-1299, 2017-06-15

近年,ソーシャルメディアにおいては,震災や選挙,炎上などの社会的イベントにより,特定の話題が大きく取り上げられるバースト現象が頻繁に発生している.そのような社会的イベントがどのように社会に受け止められているかを正確に理解するためには,バースト現象を分析し,どのような人々がどのような意見を表明しているかを明らかにするための技術が必要不可欠である.本研究ではバースト現象発生時に,(1)どのようなトピックが含まれるか,(2)各トピックがどのようなユーザによって拡散されているかを分析することで,バースト現象の詳細を明らかにする手法を提案した.まず,予備評価実験で,提案するトピック分類手法およびユーザ分類手法により適切な結果が得られることを示した.事例分析では提案手法を用いて炎上や自然災害など5つのバースト事例の分析を行い,それぞれの事例において,投稿数が多くかつ多様なユーザに語られていたトピック,投稿数が多いが一部のユーザのみに語られていたトピックを明らかにした.本提案手法は,必ずしも新しい手法ではなく,基本的には既存の手法の組合せによるものである.しかしながら,それによってバースト現象の詳細を分析することが可能であることを示した点が本論文における最も大きな貢献である.
著者
横田 知樹 近藤 亮磨 渡邊 慎一 森川 博之 岩井 将行
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.59, no.10, pp.1794-1801, 2018-10-15

紫外線(以下UV)は皮膚がんの発症や白内障などの重大な疾病につながるにもかかわらず,その健康影響の評価・予防は国内の労働現場ではあまり知られていない.さらに,反射率の高い建材の普及から過度なUVに暴露する潜在的なリスクは年々増大している.しかし,既存のUVセンシング手法は,天空面などの1方向のみの計測を行うものばかりであり,太陽の動きや地物のUV反射による影響を十分に考慮できていない.既存研究ではウェアラブルデバイスを用いて個人単位でのUV暴露を評価する試みがなされているが,作業者全員にUVセンサを装着することはコストの観点から現実的でない.そのため,作業者の周辺環境において瞬間ごとのUV暴露をより正確に計測することができれば,急性障害のリスクを認識することができ,繰り返し日々計測することで,反覆暴露によって積み重ねられる慢性傷害のリスクを認識することができる.そこで我々は,温熱環境分野で用いられる6方向からの日射と熱放射の計測により人体が受け取る熱量を推定する手法に着目してUVに応用し,地物および壁面からの反射を含めた,6方向からの紅斑紫外線量を計測するセンシングシステムとしてUV-Cubeを提案・設計・実装・評価した.本論文ではUV-Cubeを用いて,直接天方向から光が当たらない屋外作業現場などのUV暴露が軽視されてきた環境にも,太陽高度や反射が作用し複数方向から入射するUVによる潜在的な暴露があることを明らかにした.
著者
宮崎 正弘 大山 芳史
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.27, no.11, pp.1053-1061, 1986-11-15

漢字かな混りの任意の日本語文を明瞭で自然な連続音声に自動変換するための言語処理方式を提案する.まず 基本となる文解析においては 解析精度と処理能力を両立させるものとして 局所的総当り法による形態素解析をベースとし 必要に応じて係り受け解析などより深い解析を行う多段解析法を提案する.さらに 文解析の結果を基に 文を高い精度で音韻列に自動変換し 自然な韻律情報を自動付与する方法を提案する.辞書については 43万語を収録した日本語辞書を構築し その高速検索を可能とした.本言語処理方式と音声合成装置を組合せて 高い精度と処理能力をもった実用的な日本文音声出力システムを開発した.
著者
新井 利明 関口 知己 佐藤 雅英 木村 信二 大島 訓 吉澤 康文
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.46, no.10, pp.2492-2504, 2005-10-15

オペレーティングシステム(OS)はこれまでに多くのものが開発されているが,ユーザの要求が多様であり,すべての要求を満足するOS開発は不可能に近い.そこで,1台のマシン上に汎用OSと特定の目的を持つ専用OSを共存させ各々機能補完する仮想計算機機能のナノカーネルを提案し,実現した.豊富なソフトウェア資産を活用できる汎用OSと特殊機能を有する専用OSを1台のマシン上に共存させ,互いに機能補完させることができる.ナノカーネルは,上記の目的を達成するために,(1)複数OS共存オーバヘッドを削減するための資源分割機能,(2)OS間の機能補完を可能とするOS間連携機能,(3)OSの信頼性を向上させる障害監視,回復機能と擬似不揮発メモリ機能などで構成する.これらの限定した機能を実現することで,ナノカーネルは複数OSの共存を可能とし,補完環境をオーバヘッド2%以内で達成できることを確認した.また,汎用OSとリアルタイムOSの共存環境を構築し,汎用OS環境では不可能であったマイクロ秒単位の応答性を確保できることを確認し,ナノカーネルの持つOS間機能補完を実証した.さらに,専用の高信頼OSからの汎用OS障害情報の収集や汎用OSの再起動処理を実現し,システムの信頼性向上にも有効であることを確認した.
著者
富永 詩音 呉 健朗 伊藤 貴之 宮田 章裕
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.244-253, 2020-02-15

スマートフォンやタブレットをはじめとする電子端末の普及により,画像や動画などの電子情報の受け渡しは今や日常的に行われるようになった.メールやSNSなどを利用して電子情報を受け渡すためには,送信者は受信者の連絡先を知っている必要があるが,受け渡し相手が初見の相手や,その場限りの相手であると,連絡先を交換することに抵抗を感じるユーザは多いと思われる.この問題を解決するために,我々は,紙をちぎって手渡すことで電子情報を受け渡す方式を提案する.これは,ある紙を2片にちぎり分けたとき,各紙片の破れ目の特徴が合致する性質を利用したアプローチである.
著者
西村 友洋 樋口 雄大 山口 弘純 東野 輝夫
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.55, no.12, pp.2511-2523, 2014-12-15

スマートフォンの普及にともない,歩行者向けのナビゲーションが広く利用されてるようになっている.日常的に多くの人々が往来する地下街や商業ビルなどにおいて,各地点の混雑状況を把握することができれば,ユーザの状況に応じた移動支援などが可能になり,ナビゲーションシステムの利便性が大幅に向上することが期待される.そこで本論文では,スマートフォンに内蔵されたマイクおよび加速度センサを用いて端末保持者の周囲の雑踏音およびユーザ自身の歩行動作をセンシングすることで,周辺の混雑状況を推定する手法を提案する.一般に混雑時には周囲の群衆の歩行速度に合わせて移動するため,平時と比べて歩行のステップ周期に変化が生じる.また,混雑時は,環境音の低周波成分が増大する傾向がある.提案手法では,これらの知見に基づき,加速度および環境音の測定値から特徴量を抽出し,各ユーザのモバイル端末上でリアルタイムに混雑状況の判定を行う.各端末による判定結果をクラウドサーバ上で共有することで,混雑情報の参加型センシングが実現できる.実環境において性能評価実験を行い,周辺の混雑状況を平均約70%の精度で認識できることを確認した.
著者
Yasushi Negishi Kiyokuni Kawachiya Hiroki Murata Kazuya Tago
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.41, no.10, pp.2881-2894, 2000-10-15

Progress in semiconductor technology has made it possible to buildsmall network clients compact enough to be embedded in credit cardsor wallets. These devices which have severely restricted computingresources are called ``micro-clients.'' We propose an approach forbuilding systems for micro-clients.The requirements of a system for micro-clients are as follows:(? 1? ) It must work with a small amount of memory and a low-power processor.(? 2? ) It must work even while the link is disconnected because of thehigh cost of communication.(? 3? ) It must work with low-quality communication links.We introduce a software system called Tuplink that meetsthese requirements. The Tuplink system on the client node manages acentral data pool to hold user and system information in anintegrated manner. The server node also has a data pool for eachclient and the contents of both pools are kept identical by meansof a communication network. This server-side data pool makes iteasier to build a system in which necessary functions are dividedbetween server and client nodes. One-to-one communication betweenclient and server is abstracted by a synchronization operationbetween the two pools in order to hide link management andcommunication timing from other subsystems. A communication protocolfor synchronization called the Tuplink protocol is used tosynchronize the two pools. Other subsystems such as the RPC file and database systems use the central data pool instead of their ownbuffers. The state of the communication link is hidden from othersubsystems. We call this the ``meta-middleware'' approach.The Tuplink system meets the above requirements as follows:(? 1? ) Use of the central data pool eliminates duplication of buffersamong subsystems and copying of data among buffers.(? 2? ) The system can operate while the link is disconnected byusing the central data pool as a data cache.(? 3? ) The synchronization protocol efficiently handles packet loss byusing the central data pool as a communication buffer.We have built systems based on the Tuplink model and applicationsfor them on several platforms including a smart phone Palm III and Windows CE?@. This paper discusses the approach and findings ofthe system implementation.
著者
世木 寛之 田高 礼子 清山 信正 都木 徹
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.575-586, 2009-02-15
被引用文献数
1

大規模な音声データベースから音声データを選択して接続する波形接続型音声合成が提案されている.この音声合成方式で利用される大規模音声データベースは,音韻バランスなどを考慮して選定された文章を,音声合成に適した話速やスタイルで読み上げることで作成されることが多い.一方,放送局では過去に放送された番組が大量に保存されているため,これらを音声データベースとして利用することが考えられる.本研究では,ニュース番組の収録音声を,波形接続型音声合成システムの音声データベースとして利用することを試みた.高い頻度で音声データベースに存在する音素列を,前後の音素環境を考慮して抽出した"音素環境依存音素列"を探索単位として合成音を作成し,5段階のオピニオン評価実験を行った結果,MOSは4.01となり,「不自然な部分はあるが気にならない」という自然性を持つ合成音が得られた.特に,全体の39.8%が5の「自然である」と評価され,自然音声と変わらない品質の合成音がかなりの頻度で作成されていることが分かった.次に,目標スコアを用いた場合と,用いない場合の合成音とを比較したところ,MOSの差は0.18となり,音声データベースの発話内容と合成する文が類似している場合には,必ずしも韻律予測せず目標スコアを考慮しなくても,自然性の高い合成音を作成できる可能性が示された.Proposals have been made to implement a system that generates synthesized speech by concatenating segments of speech stored in large databases. While these databases are often created by recording sentences with a specific phonetic balance, read at a rate and in a style that are optimal for speech synthesis, this paper explores an alternative method of database creation, one that utilizes broadcast materials archived in networks. In our study, we used samples of recorded speech from news programs to create a speech database. An assessment of speech generated by the speech synthesis method using "context dependent phoneme sequences" as search units yielded the mean opinion score (MOS) of 4.01 in a one-to-five-scale rating. Overall, the samples were considered "somewhat unnatural but not bothersome." In particular, 39.8% of the entire samples scored 5.0, demonstrating their highly natural-sounding quality. In addition, we compared the evaluation on "synthesized speech with target scores" and that on "synthesized speech without target scores." The difference of MOS was 0.18. This result confirmed that prosody prediction or target scores are not necessarily required to create synthesized speech of natural-sounding quality when the content of input sentences is similar to the content of sentences stored in the database.
著者
本田 新九郎 富岡 展也 木村 尚亮 岡田 謙一 松下 温
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.38, no.7, pp.1454-1464, 1997-07-15

本稿では,在宅勤務の問題点である,コミュニケーションの機会の減少からくる個人の心理負担,社会からの疎外感を解消した仮想オフィスシステムについて述べる.システムでは,オフィス内での自然なインフォーマルコミュニケーションの実現のために,コミュニケーションの支援技術であるアウェアネスの概念を発展させた「位置アウェアネス」を考慮した.位置アウェアネスの実現に際しては,3次元仮想空間内に社員の座席を設けた「大部屋メタファ」に基づく仮想オフィスを構築した.このことにより,これまで考えられていなかったコミュニケーションの空間依存性を考慮したより自然なインフォーマルコミュニケーションが実現された.また「アウェアネススペース」という新たな概念の導入により,コミュニケーション空間とパーソナルスペースの確保の両立をはかった.個室ベースのシステムとの比較による評価から,在宅勤務における問題点解消について良好な結果を得た.
著者
長谷川 隆 西本 卓也 小野 順貴 嵯峨山 茂樹
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.1204-1215, 2012-03-15

本論文では,音楽から受ける「作曲家らしさ」の印象を説明し定量的に測定できる工学的手法を目指して,音楽学における様式分析手法の1つであるラルーらの綜合的様式分析において論じられている様々な定性的特徴に対応する特徴量を提案する.対象データはMIDIデータとし,音の厚み等の音楽的な表現語の意味を解釈し,楽譜情報から計算可能な量を検討する.正準判別分析の作曲家推測精度を求めることにより,提案した特徴量群による特徴空間上で同作曲家の楽曲が近接して配置されていることが,判別分析結果の階層クラスタ分析により,時代・文化が類似していて類似した印象を受けると考えられる作曲家の特徴重心が近接して配置されていることが示された.以上から,提案した特徴群は「作曲家らしさ」の尺度として妥当性を持つと考えられる.The purpose of this paper is to establish technique to explain and measure "composer-characteristic" impression extracted from music. For that purpose, musical features are proposed by quantifying various qualities stated in Style Analysis by LaRue et al., one of musicological analysis methods. Input is assumed to be MIDI data, and measurable features from sheet music information are investigated by elucidating musicological descriptors such as "sound thickness". Composer discrimination accuracy evaluated with canonical discriminant analysis showed points of music by the same composer in the feature space of proposed features are placed nearby. In addition, the result of hierarchical cluster analysis showed centroids of similar composers with homogenous chronological and cultural backgrounds are also placed nearby. Therefore, the proposed features are presumed to be feasible for measuring "composer-characteristic" impression.
著者
宮部 真衣 吉野 孝
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.1214-1223, 2009-03-15

テキストベースのリアルタイムコミュニケーションにおいて,メッセージ作成の長時間化は円滑なコミュニケーションを妨げる.コミュニケーションを円滑に行うためには,相手が許容できる時間内にメッセージ作成を終える必要がある.これまでに,システムの応答時間に関する人間の許容応答時間については明らかにされている.しかし,システムを介したテキストベースの対人リアルタイムコミュニケーションにおいて,相手の応答をどれだけ待つことができるのかについては明らかにされていない.本研究では,テキストベースのリアルタイム遠隔コミュニケーションにおける対人許容応答時間の評価を行う.評価実験では,対話状況を1対1での特に目的のない自由な対話とし,「相手の入力状況の提示」および「対話段階の進行」による対人許容応答時間への影響についての検証を行った.評価実験より,以下の知見を得た.(1) 対人許容応答時間は,平均で1分51秒であった.(2) 相手の入力状況を提示し,対話の序盤に測定するという条件下において,対人許容応答時間は平均2分35秒であり,相手の入力状況の提示により,対人許容応答時間が長くなる可能性が高い.(3) 対話の経過時間は,対人許容応答時間に対して大きな影響を及ぼさない可能性が高い.
著者
木全 崇 寺西 裕一 細川 貴史 原井 洋明 下條 真司
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.339-350, 2020-02-15

IoT(Internet of Things)において生成されるデータを,時刻などの連続値をキーとして保存・処理可能な分散クラウドストレージ上で消費電力の削減を実現する新たな管理・制御手法VNLB-ESを提案する.VNLB-ESは,分散クラウドストレージシステムにかかるストレージ負荷・検索負荷・処理負荷を,仮想ノードを用いて効率的に複数の物理ノード(計算機)に分散させる機能を備える.また,要求される処理に必要となるリソース量が少ない状況では,仮想ノードが稼働しない物理ノードを確保して,停止/一時停止状態とする機能を提供する.これら2つの機能の組合せにより,物理ノード間の効率的な負荷分散を実現しつつ,システム全体の消費電力を大幅に削減する.シミュレーション評価,および,実機を用いた評価により,VNLB-ESが,既存の負荷分散方式と比べて最大で電力消費量を70%程度削減できることを示した.
著者
田中 正和 福井 正博
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.43, no.5, pp.1323-1329, 2002-05-15

リーフセルの回路最適化において,性能および面積の観点からトランジスタの折り返し段数を最適化する手法について記述する.従来のトランジスタの性能最適化手法では,サイズすなわちゲート幅のみが最適化の対象であり,折り返し段数はレイアウト設計時に性能を考慮せずに決定されていた.一方,本手法では,トランジスタの拡散共有や折り返しが性能および面積に与える影響を推定する手法を利用し,性能最適化の観点からトランジスタサイズだけでなく折り返し段数をも決定する手法について記述する.実験の結果,トランジスタサイズのみを最適化した場合と比較して,ライブラリセルの遅延を最大15%改善できることが分かった.
著者
星野 光太 岩村 惠市 小林 友宏
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.60, no.12, pp.2170-2183, 2019-12-15

近年,プライバシとは「個人が自らの情報を制御する権利」という解釈が一般的になりつつある.一方,映像サーベイランスの普及にともない,監視カメラ映像に関するプライバシ保護が重要視され,監視カメラ映像に映った被撮影者をモザイクなどで秘匿する手法が数多く提案されている.しかし,このようなアプリケーションではシステムがかけたモザイクをシステムが外すことは容易であり,個人が自らの情報を制御するという上記の意味での真のプライバシ保護を実現していない.そこで,本論文では小林らが提案した監視カメラ映像の顔を秘匿する方式を改良した新たな監視カメラシステムを提案する.提案方式は,監視カメラ映像を公開しても安全なように,被撮影者の体全体を段階的に秘匿し,公開された秘匿映像から特定の被撮影者を検索できるなどの特徴を加える.さらに,システムではなくアプリケーションごとに被撮影者がモザイクを解除できる鍵を適切に管理できる.よって,システム側による被撮影者の望まない秘匿解除は行われない.提案方式によって,被撮影者は監視カメラ映像が公開されても自らのプライバシを制御可能になり,真の意味でのプライバシ保護を実現する.さらに,昨今注目されている監視カメラ映像を防犯以外の目的にも安全に利用できるようになる.
著者
尾崎 敏司
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.60, no.12, pp.2196-2210, 2019-12-15

2012年に独立法人情報処理推進機構により提示された「情報セキュリティ人材の育成に関する基礎調査」と2014年のその追加調査によると,約8.1万人の情報セキュリティ人材の不足が指摘されており,現在もその育成は課題となり続けている.自己学習や実業務の補助になると考えられるガイドラインは多く公開されているが,これらのガイドラインがセキュリティ業務のどの部分に該当するのかを学習者が把握することは難しい.そこで本研究では,学習者の体制化方略を補助する文書評価の枠組みを検討することを目的として,米国国立標準技術研究所の公開しているCybersecurity Frameworkをもとに,tf-idfによる特徴語のベクトルを用いてガイドラインの内容の可視化を行う手法の提案を行い,提案手法の妥当性と有利性の観点で評価を行った.情報セキュリティに関する4つのガイドラインに対して提案手法を適用して得た結果と,質的データ分析のテンプレートコーディングを実施して得た結果をコサイン類似度とピアソンの積率相関係数で比較したところ,フレームワークコアの機能で見た場合コサイン類似度の平均0.907,カテゴリで見た場合平均0.761となり,相関係数も機能では強い正の相関を示し,カテゴリでも正の相関を示した.これにより提案手法の分析結果の妥当性について確認できた.また,4つのガイドラインに対してtf-idfとk平均法によるクラスタリングとトピック分析を行った結果とCybersecurity Frameworkのテキストマイニングの結果を比較することで,体制化方略に求められる要求を満たすという観点で,枠組みを用いることに有利性があることを確認した.
著者
小林 智也 西本 一志
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.12-21, 2012-01-15

近年,チャットやTwitterなどの短いテキストを即時交換できるメディアを対面口頭での発表・質疑と並行させる試みが増えてきている.こうした試みは対面口頭対話のような制限がないチャットというメディアを聴衆に提供することで,より広い視点からの意見をより多く議論に取り込む目的で行われている.しかし,発表者が発表中や質疑応答中にもチャットに注意を払い続けることは困難であり,発表者が重要だと思うようなチャット発言を議論に取り上げることが難しいという問題があった.本論文では,チャットから対面口頭対話上での話題に対して返信することのできるクロスチャネル返信という概念を提案し,クロスチャネル返信を分析することによって,発表者が重要だと思うチャット発言を自動的に学習・推定することを試みた.クロスチャネル返信を実装したChatplexerシステムを使用して実験したところ,チャット上の発言の過半数はクロスチャネル返信に対する返信とその子孫ノードであり,発表者が重要だと思う発言もそれらのチャット発言であることが多いことが分かった.また,クロスチャネル返信の情報を用いると,発表者が重要だと思う発言をJ4.8で学習・推定させた場合に適合率が大きく改善されることが分かった.
著者
杉本 元輝 藤田 真浩 眞野 勇人 大木 哲史 西垣 正勝
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.60, no.12, pp.2095-2105, 2019-12-15

近年,プライバシ保護の観点から「忘れられる権利」の必要性が度々議論されている.本権利はEUの一般データ保護規則に「消去権」として記載されたこともあり,世界的に注目を集めており,生体認証の分野においてもこの「消去権」への配慮が求められる.その一実現形態としてテンプレートを乱数でマスクするキャンセラブル生体認証(テンプレート保護技術)が存在する.しかしこの方式では,登録された電子的な生体情報を保護することは可能であるが,登録時や認証時に提示される物理的な生体情報の漏洩まで保護することは不可能である.本論文では,物理的な生体情報に対して「消去権」に配慮した生体認証を実現するため,人間の微細生体部位を用いたマイクロ生体認証システムを爪へと応用した生体認証システムを構築した.ユーザ実験を通じて有用性を検証した結果,本システムが物理的な生体情報に対してテンプレート保護技術に準じた安全性を提供できる可能性が示された.
著者
來間 啓伸 佐藤 直人 中川 雄一郎 小川 秀人
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.407-416, 2020-02-15

計算機システムが実世界と密に連携して動作するためには,論理的に記述・分析できない不確実性に適合するソフトウェアが必要であり,未知の入力値に対して学習データからの推論により出力値を返す機械学習の適用が注目されている.一方,このようなソフトウェアは入力データ空間が定義できず出力値に予測不能性があるため,ソフトウェアの振舞いを確率的にしか把握できない.本稿では,機械学習適用ソフトウェアの高信頼化を目的に,段階的詳細化による演繹的な開発法と機械学習による帰納的な開発法の結合についてテスト・検証の観点から述べ,開発プロセスと制約充足性テスト方法を提案する.我々のアプローチは,演繹的モジュールと帰納的モジュールを分離し,それらをつなぐ部分仕様を設定するとともに,前者については部分仕様が満たされることを前提に論理的な検証を行う一方,後者についてはテストにより部分仕様の充足確率を評価し,論理的な検証結果に確率を付与する.これにより,帰納的に開発した機械学習適用モジュールと演繹的に開発した論理モジュールを,システムの信頼性評価のもとで整合的に結合する.形式手法Event-Bを用いたケーススタディにより,実現可能性を評価した.
著者
本廣 多胤 花田 裕美 吉廣 卓哉
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.61, no.2, pp.375-384, 2020-02-15

農業従事者の高齢化にともない,農業IoTの導入による農業の効率化が求められている.センサを農場に設置して常時観測し,客観的な指標に基づいて栽培における各種判断をすることが期待されている.従来の経験に基づいた栽培を脱し,客観的指標に基づいた農業のマニュアル化・大規模化が可能になる.しかし,センサを用いて大量のデータを取得し,植物の特性を把握したうえで適切な栽培判断の指標を確立するためには,多くの変数をともなうデータ分析が必要となる.本研究では,経済的価値の高い実用花卉であるトルコギキョウを対象として,栽培時に起こるロゼット化およびブラスチングと呼ばれる個体損失要因を分析する.土壌センサを用い,組合せ的に設計された試験からデータを取得し,階層ベイズモデルを用いた個体損失の予測モデルを構築することで,個体損失が発生する条件を解明することを目指す.トルコギキョウにおける既存の知見に基づいて個体損失モデルを設計し,センサの測定値と組合せ的な試験区設計に基づいて取得したデータを適用した.その結果,ロゼット化およびブラスチングに対する各要因の影響の度合いを数値化し,それらの結果が既存の知見と合致することを確認しただけでなく,個体損失に関する新規の知見を得られる可能性を見出した.