著者
草野 孔希 中谷 桃子 大野 健彦
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.55, no.2, pp.1016-1025, 2014-02-15

本研究ではシナリオを用いたユーザインタフェース(UI)設計を支援するツール,UI-Fillerを提案する.ユーザにとって使いやすいUIを実現するには「誰が,どのような目的で,どのように使うか」といった,ユーザの振舞いを熟慮しながら繰り返しUIを設計することが重要である.そこで,振舞いを物語のようにシナリオとして記述することで,特別な知識がなくてもユーザ像を具体的にイメージすることが可能となる.しかし,従来のシナリオに基づく設計手法には,1.複数の利用シナリオが考えられるインタラクティブシステムにおいて,シナリオどうしの関係性やトレードオフを加味しながらUIを設計することは難しい,2.設計したUIを評価しながら繰り返し改善する際に,シナリオとUIとの対応関係を維持することが難しい,という2つの難点がある.そこで,UI-Fillerはシナリオの階層化およびタグ付けを用いたシナリオの分析と管理の支援,および分析結果の可視化によってUIの反復設計を支援する.
著者
望月 理香 永徳真一郎 茂木 学 八木 貴史 武藤伸洋 小林 透
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.30-38, 2012-01-15
被引用文献数
1

『心はだれにも見えないけれど「こころづかい」は見える.思いは見えないけれど「思いやり」はだれにでも見える』(宮澤,2010).という詩にあるように,人それぞれの感性を外から知ることはできないが,その感性をもとに起こした行動は客観的にとらえることができる.本研究では,感性を言葉やジェスチャなどの表現を駆使して伝えるのではなく,感性に紐付く各人の行動(その人にとっての経験)を介して伝えることで,各人に最適化された分かりやすい表現により,感性のコミュニケーションが可能となるモデルを提案する.近年,ユーザ間のコミュニケーションをサポートするためのツールやインタフェースが発展し,多種多様な表現によって情報を伝えることが可能となってきている.しかし,感性の伝達においては,同じ言語表現・ジェスチャ表現であっても表現に対応付く感性が個人ごとに様々であるため,表現の伝え手がイメージした内容と受け手がイメージする内容が一致するとは限らない.そこで,本研究ではライフログから抽出される自身の経験を介した感性コミュニケーションモデルを提案する.本モデルは,言葉などの表現方法だけでは伝えることが難しい伝え手のイメージを,そのイメージに対応付けられる受け手の経験を提示することにより,情報の受け手が伝え手のイメージを分かりやすく理解できる,という新しいコミュニケーションチャネルを与えるものである.本稿では,本研究で対象とする経験の定義と感性コミュニケーションにおけるアプローチ方法を述べた後,提案モデルの各Pointの概要,実装方法を述べる.続いて,提案モデルの実現において重要なポイントである情報の受け手に提示する経験の選び方の検討を行った.経験に対する「なじみ」の強さを1つの指標とすることで,受け手に分かりやすい経験を選ぶことが可能になると考え,被験者実験によってその有効性を示した."No one can see your emotion but we can see your action (Miyazawa, 2010)." That is to say, we can't see emotion but can recognize the emotion from the action it triggers. We propose an emotion communication model supplement the regular communication modalities of words and gestures. Many tools and interfaces have been developed to support user-user communication. Literal information can now be exchanged in various forms. However, user-user communication is imperfect since it remains impossible to communicate images. In this paper, we propose an emotion communication model that permits images to be exchanged and attendant algorithms that identify "symmetry" experiences to be mined from Life-logs. Experiments are conducted to discover the criteria needed for accurate experience identification. The model establishes new communication channel through an analysis of personal actions (based on Life-log) as related to emotion. Therefore, it eases misunderstanding and increases intelligibility since it draws on personal experiences. In this paper, we report the concept of the emotion communication model and describe how to process Life-log data for matching experiences. Then, we conducted experiments to confirm the impact of explanations based on quantitative similarity and those based on familiarity to confirm the effectiveness of the emotion communication model.
著者
白井 良成 松田 昌史 藤田 早苗 小林 哲生 岸野 泰恵
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.61, no.11, pp.1660-1679, 2020-11-15

位置情報ゲームをWWWをフィールドとして実現するゲームの概念,WBG(WWW-based games)を提案する.膨大なコンテンツが存在し,多くの人が日常的に利用するWWWをフィールドにしたゲームを構築することで,WWW上のデータを利用したヒューマンコンピュテーション,Webコンテンツを利用した能力開発,Webサイトへの集客効果など様々な効果が実現できる.一方,その構築においては,実世界とは異なるWWWの特徴を考慮する必要がある.本論文では,実世界を対象とした位置情報ゲームとの対比からWBGの概念を整理し,また,WWW上の文字列を擬人化してWebサイトを奪い合うゲーム,テキストモンスターを題材に,WBGによる新たなゲーム体験の実現性,構築によって得られた設計に関する知見,副次的効果の実現可能性について論じる.
著者
白井 丈晴 藤田 真浩 荒井 大輔 大岸 智彦 西垣 正勝
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.58, no.12, pp.1901-1911, 2017-12-15

LTE網に接続可能なスマートフォン等の端末の急速な普及により,通信の前に端末に無線リソースを割り当てるためにLTE網内で発生する制御信号も増加している.制御信号が設備の容量を超えた場合には,LTE網全体の通信品質の低下を招く恐れがある.制御信号の輻輳への対策として,通信端末が発するすべての通信に対し,プロトコルエラーとならない程度の短時間のランダムな遅延を付与し,端末が制御信号を発生させるタイミングを分散する端末制御方式がすでに提案されている.端末制御方式では,付与する遅延を最大8秒としており,この遅延により制御信号スパイクが抑制できることをシミュレーションにより示している.しかし,端末制御方式によって付与される通信遅延による利用者の体感品質(QoE)の低下が懸念される.そこで本論文では,ユーザの心理的側面からアプローチすることによって,他の対策(設備投資の増加や補償金の支払い等の方法)よりも低コストで,通信遅延によるユーザのQoEの劣化を緩和する方式の提案・評価を行う.提案方式は,「ユーザが注目してしまうようなコンテンツ」をコンシェルジュのようなキャラクタが表示することによってユーザの注意をそらし,ユーザに通信遅延の発生を気付かせない方式となっている.提案方式の有効性を示すために,クラウドソーシングを利用した500名規模のユーザ評価実験を行った.
著者
島田 英之 島田 恭宏 大倉充
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.47, no.12, pp.3392-3401, 2006-12-15

近年,コンピュータにより高品質の毛筆書体をリアルタイムに筆記する研究例が報告されているが,現実の筆記環境と異なる方法で筆記するために,対話性が十分とはいえない.本論文では,筆者らが構築した仮想書道システムについて述べる.ユーザは,3 次元位置センサを内蔵した毛筆でスクリーン上に直接筆記し,実際の毛筆,仮想的な半紙や硯など,現実の書道とほぼ同じ作業環境のもとで,仮想的な書道を体験できる.毛筆が触れた場所に正確に筆跡を生成できるようにシステムをキャリブレーションし,実際の毛筆で筆記した筆跡の実測値に基づいて筆跡を生成する.これにより,毛筆が触れた場所に,実際に毛筆で筆記した場合と同じ太さの筆跡を表示できるので,手本をなぞる初歩的な書写練習も可能となった.また,毛筆の空間的な挙動をモニタし,墨の滴りや飛び散りなどの視覚効果も表現した.この結果,年齢を問わず簡単に操作でき,かつ多様な表現が可能なシステムを構築したので報告する.
著者
重本 賢太朗 清水 忠昭 鈴木 慶 吉村 宏紀 松村 寿枝
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.57, no.5, pp.1514-1523, 2016-05-15

我々は,空中手書き文字(AHC)入力システムのための自動的な文字分割手法の開発を行ってきた.これまでに提案した手法では,平仮名のAHCについて高い精度で文字分割に成功したが,連続して入力可能な文字数に制限があった.本稿では,同一領域に重ねて文字を入力する方法により入力文字数に制限のない文字分割手法を提案する.提案手法では,AHCのストロークを評価する5つのストローク評価指標を学習したサポートベクタマシン(SVM)によりストローク判別して文字分割を行う.提案手法によるストローク判別は,学習データでは,移動ストローク87.0%,文字ストローク96.5%の正解率となった.評価データに対しても,移動ストローク84.9%,文字ストローク96.1%の正解率を示した.試作した提案手法のデモ・システムについても紹介する.In this paper, we propose a segmentation method for an aerial handwriting character (AHC) input system. This work is an extension of a previously proposed hiragana AHC segmentation method that achieved high accuracy. However, its number of input characters was limited. In this paper, we propose a character segmentation method without such a limitation by overwriting characters on the same input area. Our method separates an AHC trajectory into characters by stroke distinction using a support vector machine (SVM) trained with five stroke evaluation indexes. The results of the evaluation experiments show that the detection accuracy was 80.9% for transition strokes and 98.1% for character strokes in the closed test, whereas it was 78.9% and 97.7%, respectively, in the open test. We also present a prototype system of the proposed method.
著者
五島 正裕 森 眞一郎 中島 浩 富田 眞治
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.37, no.7, pp.1399-1408, 1996-07-15
参考文献数
6

Virtual Queueシステムは 仮想化とストリームのキャッシングを特長とするメッセージ通信用ハードウェアである.仮想化によって 任意の数の仮想的通信機構を提供し システム・コールなしで利用できるなど メッセージ送受信時のソフトウェア・オーバヘッドを大幅に削減するので 細粒度の通信に耐える.また メッセージそれ自体ではなく メッセージのストリームへの参照の局所性を利用し よくアクセスされるストリームを物理的通信路にキャッシングすることによって高速化を図る.シミュレーションにより ベクトル・データの転送にも十分なスループットを持つことが確認された.The Virtual Queue system is a message communication mechanism, marked by virtualization and caching of message streams. The virtualization provides arbitrary number of virtual communication hardware, and enables a user to use the hardware without system calls. The system withstands finer grained communications, because the virtualization drastically reduces the software overhead in handling messages. And the system makes use of locality of reference, not to messages themselves but to the stream of the messages, and caches frequently accessed message streams to the fast physical channels. The simulation result showes that the system provides enough throughput for transmission of vector data.
著者
岡 照晃 小町 守 小木曽 智信 松本 裕治
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.54, no.4, pp.1641-1654, 2013-04-15

生の歴史的資料の中には,濁点が期待されるのに濁点の付いていない,濁点無表記の文字が多く含まれている.濁点無表記文字は可読性・検索性を下げるため,歴史コーパス整備の際には濁点付与が行われる.しかし,濁点付与は専門家にしか行えないため,作業人員の確保が大きな課題となっている.また,作業対象が膨大であるため,作業を完了するまでにも時間がかかる.そこで本論文では,濁点付与の自動化について述べる.我々は濁点付与を文字単位のクラス分類問題として定式化した.提案手法は分類を周辺文字列の情報のみで行うため,分類器の学習には形態素解析済みコーパスを必要としない.大規模な近代語のコーパスを学習に使用し,近代の雑誌「国民之友」に適合率96%,再現率98%の濁点付与を達成した.
著者
大沢 晃
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.779-786, 1997-04-15
参考文献数
8
被引用文献数
1

従来隠面消去方式としてはピクセル対応のZ?バッファ法が定着している.しかし,ピクセル単位のため面や辺の取扱いには適せず,ペンプロッタで線画が描けない,マウスによる図形ピックが困難等の問題があった.一方,ペンプロッタ用には,別プログラムで稜線と全物体面の組合せについて不可視数等の隠蔽関係を調べる方法があったが,図形数Nに対して処理時間がO (N2)となり,大規模データではバケット法など画面分割が必要であった.また計算誤差で可視判定が混乱して不正な表示をしたり,図形のトポロジーが矛盾して不安定化する問題もあった.今回スクリーン図形の内部表現として,スクリーン表示形式とは独立のスクリーン・バッファをスペースモデルのデータ構造で構成し,可視データだけを面と辺の形で保持する隠面・隠線消去両用方式を考案し,問題点を解決した.試作結果,従来の専用ハード化したピクセル対応Z?バッファよりは遅いが,道しるべ法により画面分割なしでO (N)の速度が確認できた.不正表示については,本方式では入力面が重なり部分ごとの小区画に分割されることを利用して,誤りを実用範囲まで削減できた.またトポロジーの矛盾については,ポインターでトポロジーを表現し管理する方式で解決した.その他,本方式はピクセルやスキャンラインと独立のため解像度の問題がない,データ構造が図形集合演算等,各種の図形処理に適した汎用性を持つ等の特徴も備えている.A new method for both hidden line and surface removal is developed.Because conventional Z-buffer holds only pixel data,it is inapplicable for a pen-plotter,picking a figure up by mouse,and such.So far,for pen-plotter,the other method examining quantitative invisibility is used.It's deficiency,however,is too large processing time as O(N2) unless dividing the screen.In the new method,where only visible surfaces and edges are held in the "Space Z-Buffer," O(N) processing time is realized without dividing the screen.Conventional hidden line removal systems are unstable if the topology of the figures is inconsistent caused by calculation errors.In this method,the system is stabilized by controlling the consistency using pointer representation of the topology.Another problem brought by calculation errors in depth comparison is erroneous display of invisible parts.This can be eased by dividing the figures into regions each of them overlaps with a different surface and by comparing the depth at the central portion of the each region.
著者
劉 佩潔 山下 遥 岩永 二郎 樽石 将人 後藤 正幸
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.59, no.1, pp.211-226, 2018-01-15

近年,インターネット上でユーザの提供したレストラン情報を掲載するグルメサービスが広く利用されるようになった.本論文で対象とするグルメサービスRettyでは,ユーザはレストラン検索に加えて,レストランに対するおすすめ度や推薦記事の投稿,他ユーザが投稿した推薦記事に対するリアクション(ex.,「いいね」)等をすることができる.このリアクションの数はサービス全体の活性度を表す指標として位置づけられ,サービス運営会社とユーザの双方にとって,リアクション数の増加が望まれる.そのため,ユーザの投稿やリアクションといった履歴情報を活用し,リアクション数の増加に結び付けられる施策を明らかにするための分析モデルは意義がある.一方で,これらのユーザの投稿やリアクションは,個々のユーザの判断に行われ,多様な個人的嗜好を反映したものとなっている.これらのユーザの嗜好は多様であり,全ユーザに対して単一的な統計的法則があるとは考えられないため,その異質性を表現した統計モデルを導入する必要がある.そこで本研究では,ユーザがレストランに対して情報を掲載する行動,ならびにその他のユーザがその情報にリアクションする行動を,潜在クラスモデルによって表現する.具体的には,ユーザがレストランに対しておすすめ度を含む推薦記事を投稿する事象を「投稿するユーザ」,「レストラン」,「おすすめ度」の3つの共起ととらえ,「発信ユーザのおすすめ度傾向モデル」を提案する.さらに,記事を閲覧しているユーザが投稿にリアクションする事象を「閲覧しているユーザ」と「レストラン」,「記事を投稿したユーザ」の共起と考え,これらの事象に対して「受信ユーザのリアクション傾向モデル」を提案する.これらの評価傾向モデルとリアクション傾向モデルの両者を統合的に分析することで,リアクション数を増加させるための施策を検討する方法を示す.In recent years, social gourmet services that post restaurant information provided by users on the Internet have been widely used. On a social gourmet service, users can make a restaurant search, recommendations to restaurants, reactions (ex., "like") to the recommended articles posted by other users, and the like. The number of reactions is positioned as an indicator of the activity level of the service site, and an increase in the number of reactions is desired for both a service operating company and users. It is, therefore, meaningful to provide analytical models to exploit historical information such as posts and reactions by users and to clarify measures linked to an increase in the number of reactions. In this research, we propose the two statistical models of behaviors that users post information to restaurants and that other users react to that information introduced by latent class models. By analyzing both of the evaluation tendency model and the reaction tendency model in an integrated manner, we show a method of examining measures to increase the number of reactions.
著者
溝口 誠一郎 笠原 義晃 堀 良彰 櫻井 幸一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.1087-1098, 2013-03-15

ネットワーク上に存在するボットに感染した端末を特定するために,ネットワークアプリケーションが送信するアプリケーションプロトコルメッセージの送信間隔に着目したボット検知手法を提案する.人間がアプリケーションを操作した場合,そのアプリケーションプロトコルメッセージの送信間隔はばらつくのに対し,ボットの場合はその挙動がコードによって規定されているため,アプリケーションプロトコルメッセージの送信間隔の分布に偏りが起きる.この分布の違いを利用して,人間とそうでないものを区別することで,ボットを発見する.はじめにネットワークアプリケーションに対する入力と出力の関係をモデル化し,IRCクライアントのIRCメッセージ送信間隔のモデル化を行う.続いて,提案モデルに従ったボット検知アルゴリズムを設計する.アルゴリズムでは,IRCメッセージの送信間隔の列に対して階層型クラスタリングを適用することで人間と機械のモデルの区別を行う.評価では,モデルに基づく擬似データを用いてアルゴリズムのパラメータを設定した後,実際の人間が操作するIRCクライアントで観測されたIRCトラフィックならびにIRCボットのトラフィックに対して提案手法を適用した.その結果,IRCボットのトラフィックは機械が生成したトラフィックとして正しく判定された.
著者
佐々木 良一 石井 真之 日高 悠 矢島 敬士 吉浦 裕 村山 優子
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.46, no.8, pp.2120-2128, 2005-08-15
参考文献数
13
被引用文献数
17

インターネット社会の進展につれて,リスクが増大してきており,そのリスクをどの程度どのように低減するかが重要な課題になっている.このため,住民などの意思決定者との間で合意を形成するためのリスクコミュニケーションが重要になりつつある.しかし,一口にリスクといってもセキュリティやプライバシや開発コストなどお互いに対立する概念に基づくリスクを低減する必要があり,関与者の合意を取りつつ最適な対策の組合せを求めるのは容易でない.このような問題を解決するために,(1) シミュレータや,(2) 最適化エンジン,(3) 合意形成用の表示部などを持つ「多重リスクコミュニケータ」が必要であると考えた.そして,その開発構想を固め,個人情報漏洩防止問題に試適用することにより有効性を確認するとともに残された課題が明確になったので報告する.Along with progress of an Internet society, the risk is increasing and it has been an important subject how the risk is reduced and how much. For this reason, the risk communication for forming agreement among decision-making persons, such as residents, is becoming important. However, it is not easy to search for the combination of the optimal measures, reducing the risk based on the concept which is opposed to each other, such as security, privacy, and development cost, and taking agreement. This situation requires development of the "multiplex risk communicator" with the function of which are (1) simulator, (2) optimization engine, and (3) displaying the computed result to decision-making persons. Developments design of "multiplex risk communicator" and its application to private information leakage issue is shown in this paper.
著者
野田 五十樹 篠田 孝祐 太田 正幸 中島 秀之
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.49, no.1, pp.242-252, 2008-01-15

利便性の高い公共交通手段としてデマンドバスは注目されているが,現状では小規模な運行にとどまっており,採算性や運行形態の自由度の問題をかかえている.本稿ではユビキタスコンピューティング環境を応用したデマンドバスの大規模運行の可能性を探るため,シミュレーションによりデマンドバスと従来の固定路線バスの利便性と採算性の関係を解析した.その結果,次のようなことが示された.(1) デマンド数とバスの運用台数を一定の比率に保つ場合,運行規模の拡大に従いデマンドバスの利便性は固定路線バスより早く改善し,十分な利用者がいる場合,同じ採算性でも固定路線バスよりデマンドバスの利便性を良くすることができる.(2) 利用者の分布が一極集中の場合はデマンドバスが,二極集中の場合は固定路線バスの方が利便性を改善しやすい.
著者
櫻井敦史 平田 富夫
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.41, no.12, pp.3344-3351, 2000-12-15

モルフォロジー演算は画像の特徴抽出やノイズ除去など 様々な画像処理に用いられる基本的処理である. 2値画像入力に対するその時間計算量は, 入力画像のサイズを $n?times n$, フィルタのサイズを $r?times r$ とすると? $O(n^2r^2)$ となり,処理時間がフィルタサイズに大きく依存する. しかし距離変換を用いることで処理時間がフィルタサイズに依存しな いモルフォロジー演算を行うことが可能である. 本研究ではフィルタ形状のあるクラスに対しては, $O(n^2)$ 時間でモルフォロジー演算ができることを示す. このクラスに入るフィルタ形状の例をあげると,円,長円形, 正三角形,長方形,台形などであり, 画像処理で用いられるフィルタのほとんどが含まれる.
著者
鳥海 不二夫 松澤 有 鈴村 豊太郎
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.58, no.6, pp.1277-1286, 2017-06-15

ソーシャルメディア上で頻繁に見られる意見と,世間一般における多数派の意見とは必ずしも一致しない.このような現象が発生する原因の1つにヴォーカル・マイノリティがあると考えられる.本研究では,ヴォーカル・マイノリティ現象が発生する要因を明らかにするために,ソーシャルメディア上でのユーザ行動のマルチエージェントモデルを提案した.提案モデルを用いたシミュレーションによってハブエージェントの影響がヴォーカル・マイノリティが発生する要因の1つであると考えられることを明らかにした.さらに,ソーシャルメディアの実データを用いて分析を行い,本シミュレーション結果が実データでも支持されることを確認した.
著者
石田 亨 西村 俊和 八槇 博史 後藤 忠広 西部 喜康 和氣 弘明 森原 一郎 服部 文夫 西田 豊明 武田 英明 沢田 篤史 前田晴美
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.39, no.10, pp.2855-2865, 1998-10-15

本論文では,国際会議におけるモバイルコンピューティング実験の報告を行い,その役割と効果について分析する.約100台の携帯電話付き携帯端末を用いて,実際の国際会議の参加者に通信/情報サービスを提供し,その際得られたログデータを解析した.ログデータのみでは十分知ることのできないユーザの使用感などは,事後アンケートにより調査した.以下の使用状況が観察されている.(a)ユーザは会議場ばかりではなく,会議後ホテルの部屋へ戻ってからも携帯端末を利用した.携帯端末は通常のデスクトップ型端末と比べて頻繁に使われ,かつ1回の使用時間は短かった.(b)情報サービスは,会議の進行を反映して利用にピークが現れるが,電子メールサービスは会議の進行にかかわらず定常的に利用された.
著者
森下 瞬 上野 航 田辺 瑠偉 カルロス ガニャン ミシェル ファン イートゥン 吉岡 克成 松本 勉
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.61, no.9, pp.1397-1413, 2020-09-15

インターネット上で発生している攻撃を観測するために,オープンソースハニーポットの研究や運用が行われている.しかし,オープンソースハニーポットの特徴は攻撃者によって検知可能であり,回避される可能性がある.本研究では,あらかじめ作成した20種類のハニーポット検知用のシグネチャを用いて,攻撃者が容易に検知可能なバナー等の応答をカスタマイズしていない14種類のオープンソースハニーポットの利用状況を調査する.そして,現状の運用者のハニーポット検知に対する問題意識を把握し,注意喚起により検知への対策を促進することを目指す.評価実験の結果,637のAS上で運用される19,208のハニーポットが容易に検知可能な状態で運用されていることが判明した.多くが研究機関のネットワークで運用されていたが,企業やクラウドでも運用されていた.そのうちのあるハニーポット群は著名なセキュリティセンタで実運用されていることが判明した.このうち,11組織のハニーポット運用者に連絡をとったが,4つの組織からしか返答が得られなかったことから,ネットワークやハニーポットの管理に十分な注意が払われていない可能性がある.加えて,ある国立研究機関のネットワークの運用者は,ハニーポット検知の問題を認識していなかった.また,いくつかのハニーポットが攻撃者によって,マルウェアの配布に悪用されている事例を発見した.検知されたハニーポットの運用者に通知を行い,シグネチャベースの検知を回避するためのカスタマイズを推奨した.同様に,ハニーポットの開発者に対しても通知を行い,本研究成果を共有した.そのうちの開発者の1人は我々の開示を考慮し,ハニーポットのリポジトリにカスタマイズの記述を追加した.このように,本研究はハニーポットの適切な運用に貢献できたと考える.
著者
佃 洸摂 中村 聡史 山本 岳洋 田中 克己
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.52, no.12, pp.3471-3482, 2011-12-15

映像の編集や検索を行う際に,ある人物がより視聴者の注目を集めている映像を検索したいということはよくある.また,現在視聴している映像の関連映像として,登場人物の活躍パターンが似ている映像を推薦してほしいということもよくある.しかし,映像に登場する人物がどの程度視聴者の注目を集めているかは,映像のテキストデータや画像解析だけでは判断できないことが多く,視聴者の反応に基づいて注目されている人物を推定する必要がある.そこで本稿では視聴者の反応として映像の再生時刻に沿って付与されたコメントを用いて,映像に登場する人物が視聴者の注目を集めているシーンの推定と各シーンにおける各登場人物の活躍の度合いの推定を行う手法の提案をする.ただし,本稿ではニコニコ動画に投稿された映像の中で,コメントが一定数以上付与された映像に登場する,視聴者に名前が広く知れわたっている人物を対象とする.
著者
石原 誠 宮崎 泰地 原田 智広 ターウォンマット ラック
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.57, no.11, pp.2414-2425, 2016-11-15

本稿では,対戦格闘ゲームにおけるゲームAI(AI)や操作法がプレイヤの感じる面白さに与える影響について分析する.対戦格闘ゲームには,キーボードなどの指先による操作と,Kinectを用いて体の動きで操作する方法がある.プレイヤがいずれの操作においても楽しく対戦格闘ゲームをプレイするためには,プレイヤと互角に戦うようなAIが必要である.また,それを実現させるためには強さをある程度持ったAIが必要である.本稿では,UCTをノード選択における戦略としたモンテカルロ木探索,ルーレット選択,ルールベースの手法を組み合わせることで,先述したAIを開発する.このAIをベースにし,UCTの評価関数を改変することによってプレイヤに合わせて強さを調整(難易度調整)するAIを開発する.そして,AIや操作法がプレイヤの感じる面白さに与える影響を,キーボード,Kinectのそれぞれの操作において分析する.対戦格闘ゲームの国際AI大会のプラットフォームとして利用されているFightingICEを用いた被験者実験より,難易度調整はプレイヤがより楽しんで対戦格闘ゲームをプレイするための重要な要素であり,特にKinectにおいて顕著な効果が示された.
著者
平岡 良成 坂東 忠秋 福永 泰 平沢 宏太郎 迫田 行介 中西 宏明 馬場 敬信
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.27, no.12, pp.1218-1228, 1986-12-15

記述性の高いレジスタ転送言語をソースとしてビットパターン形式のマイクロプログラムを生成するためのマシン独立なコード生成方式を開発した.従来高記述性をうたったマイクロプログラム開発システムの多くは 汎用性が乏しいか レジスタ間のデータ転送径路が複数存在するような大型の商用機を対象としていないため実用性に問題があった.これに対して本方式ではユーザが記述した「マシン定義」と呼ばれる マシンのハードウェア構成の記述を参照しながら処理が行われるため汎用性が高い.またユーザは実行したいデータ転送の転送元レジスタと転送先レジスタさえ記述すれば システムが自動的に転送径路を探索するため記述性も良い.さらに マシン内に複数のデータ転送径路がある場合も マイクロ命令間のフィールド競合の起こらないビットパターンをバックトラックを行いながら探索するため 複雑な構造を有する大型の商用機にも適用できる.なお本方式を組み込んだマイクロプログラムトランスレータMARTRANは 現在10種類以上のプロセッサのマイクロプログラム開発に実用されており 開発工数の低減に大きく貢献している.