著者
石崎 一明 安江 俊明 川人 基弘 小松 秀昭
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.124-136, 2002-01-15
参考文献数
13
被引用文献数
1

本論文では,Java等の動的クラスローディングをともなう言語において,実装が容易な動的メソッド呼び出しの直接devirtualization手法を提案する.本手法では,動的メソッド呼び出しに対して直接devirtualizationされたコードと,メソッドがオーバライドされた場合に実行する動的メソッド呼び出しの2種類のコードをコンパイル時に生成する.最初は前者を実行し,メソッドのオーバライドが起きたときにコードを書き換えて後者を実行する.本手法では,コード書換えによって直接devirtualizationされたコードを無効化するので,脱最適化のような再コンパイルのための複雑な実装が不要である.一方,再コンパイルを不要にするためにコンパイル時に2種類のコードを用意するため,制御フロー上に合流点が生成される.一般に制御フローの合流点はコンパイラの最適化を妨げるが,本論文では合流点が存在しても十分な最適化を可能にする手法を示す.また本手法と他のdevirtualization手法を組み合わせてJavaのJust-In-Timeコンパイラに実装し評価を示す.その結果,devirtualizationを行わない場合に比べ,SPECjvm98とSPECjbb2000において0?181%(平均24%)性能を改善できることを示す.This paper presents a direct devirtualization technique for a language such as Java with dynamic class loading.The implemetation of this technique is easy. For a given dynamic method call, a compiler generates the inlined code of the method, together with the code of making the dynamic call. Only the inlined code is actually executed until our assumption about the devirtualization becomes invalidated, at which time the compiler performs code patching to make the code of dynamic call executed subsequently. This technique does not require complicated implementations such as deoptimization to recompile the method that is active on the stack. Since this technique prevents some optimizations across the merge point between the inlined code and the dynamic call, we have furthermore proposed optimization techniques effectively. We made some experiments to understand the effectiveness and characteristics of the devirtualization techniques in our Java Just-In-Time compiler. To summarize our result, we improved the execution performance of SPECjvm98 and SPECjbb2000 ranging from 0% to 181% (with the geometric mean of 24%).
著者
千住 琴音 諏訪 博彦 水本 旭洋 荒川 豊 安本 慶一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.60, no.10, pp.1818-1828, 2019-10-15

ワンウェイカーシェアリングにおいて車両偏在問題の解決は重要な課題である.これまで,運営会社による効率的な車両移動による解決などが試みられてきたが,コスト面でのデメリットは無視できない.そこで我々は,新たなアプローチとして,潜在的利用者へ車両移動を依頼する手法を提案する.本提案は,依頼トリップの数を少なくしながら,要求トリップの成立数を最大化する問題として設定できる.提案手法の効果を検証するためにシミュレーションによる評価を実施した結果,依頼トリップの受託率が20%であったとしても,要求トリップの受託率を17%向上できることを確認した.また,依頼すべき潜在的利用者について検討するために,実証実験を実施しているパーク24株式会社から提供された利用実績データの分析を行った.その結果,利用行動パターンとして5パターン(常連,2way,分散,局所,1ルート)が存在することを明らかにした.また,そのなかでも依頼すべき利用者の利用パターンが,分散型,局所型であることを考察した.本研究の貢献は,車両偏在問題を解決するための新たなアプローチを提案し,シミュレーションだけでなく,実データの分析と合わせて議論していることである.
著者
山本 里枝子 大橋 恭子 福寄 雅洋 木村 功作 関口 敦二 上原 忠弘 青山 幹雄
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.60, no.10, pp.1896-1914, 2019-10-15

クラウドの普及にともない,RESTに準拠したWeb APIが企業の情報システムに広がり,Web APIの利用や提供のためのソフトウェア開発が急速に増加している.そのため,Web APIの品質がそれを利用したアプリケーション開発の生産性と品質に大きな影響を及ぼすことが明らかになってきた.従来のシステム内APIと異なり,Web APIはリモートで実行され,ユーザと独立に変更される.これらの特徴はWeb APIのソフトウェア工学の新たな問題を提起しており,特に数が増えているエンタープライズWeb APIを利用するユーザのリスクとなっている.本稿では,システムAPIと異なるWeb APIの品質面の特徴をとらえる試みとして2つの品質特性を定義した.Web APIを利用するアプリケーション開発者のパースペクティブから,ユーザビリティの品質副特性である習得容易性と互換性の品質副特性である相互運用性が我々の課題に対応すると特定し,品質モデルを定義した.この品質モデルに基づいて,尺度と定量的評価方法も提案する.本稿では提案する品質モデルを,Uber,WordPress,OpenStack,メディア処理を含む実際のWeb APIに適用した.提案したモデルを検証するため,Web APIの習得容易性と相互運用性について実証的実験を行った.提案した品質の統計値と実験結果を比較し,提案した品質モデルと尺度の有効性を検証した.
著者
井原 熙隆 石田 修平 松本 拓也 江草 典政 馬庭 壯吉 平川 正人
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.57, no.4, pp.1162-1171, 2016-04-15

高齢化あるいは疾患のために自らの足での歩行に不安がある場合,杖などの歩行補助具に頼ることになる.歩行動作を正確に獲得することは診療ならびにリハビリテーションプログラムの策定にあたり不可欠であるが,これまでは目視で行われることが多かった.身体あるいは歩行補助具にセンサを取り付けたり3次元運動解析システムを用いる方法もあるが,できるだけふだんどおりの状態の下で計測できることが望ましい.本研究では,フロア設置型圧力センサの上を歩行する患者の足ならびに杖の領域を抽出・追跡し,歩行能力を客観的に把握することを目指したシステムについて述べる.変形性関節症患者の歩行分析への試行を通して,獲得された分析データが臨床的特徴と合致することを確認した.
著者
大杉 隆文 仲西 渉 多井中 美咲 井上 卓也 伊藤 悠 岩井 瞭太 香川 健太 松下 光範 堀 雅洋 荻野 正樹
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.58, no.11, pp.1765-1775, 2017-11-15

本研究の目的は,動物園の来訪者を対象に,園内を回遊しつつ自発的に動物に対する知識を深めることを促すことである.動物園などの社会教育施設では,来訪者に対して学習機会を提供することが可能である.しかし,動物園においては,学習の機会を提供する役割が薄れ,娯楽施設のような認識がされており,来園者の能動的な学習の姿勢を促すような情報の提示方法についての工夫は不十分である.本稿では,展示物に対する説明提示の方法を改善するために,利用者が自発的に動物を観察し,動物に対する知識を得ながら園内を回遊できるアプリケーションを実装した.回遊アプリには,(1)クイズ機能,(2)キャッチフレーズ提示機能,(3) Map機能,(4)動物図鑑機能を取り入れた.ユーザ観察の結果,アプリケーションがより詳しく観察することに貢献していること,動物園の全体に行動が及んでいることが示唆された.The purpose of this research is to encourage a visitor of zoo to deepen their knowledge of animals by facilitating autonomic obserbation while walking around the zoo. In general, the primary role of social educational facilities such as zoo is to offer learning opportunities to visitors. However, particularly at zoo, the role is diminished and it tends to be recognized as entertainment facilities. We assume that ingenuity on presenting information of animals to encourage visitors' active learning is insufficient. In order to improve the problem, this paper proposes a mobile application that users can spontaneously observe animals and get knowledge of the animals while going around in the zoo. The application has fourfunctions: (1) providing a quiz, (2) providing catch phrases, (3) navigating in the zoo, and (4) surveying animals' biology. Experimental results suggested that the application facilitates more detailed observation, and that the participant's behavior is spreading throughout the zoo.
著者
水上 直紀 鶴岡 慶雅
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.60, no.7, pp.1325-1336, 2019-07-15

自己対戦を利用することで囲碁や将棋といった完全情報ゲームにおいて人間プレイヤを超えるコンピュータプレイヤが示されている.一方で不完全情報ゲームの分野である麻雀ではこのような研究は行われていない.そこで本論文では自動対戦棋譜の教師あり学習による麻雀プログラムを構築する方法について述べる.まず,人間の牌譜から教師あり学習によりコンピュータプレイヤを構築し,このプレイヤ同士を対局させることにより牌譜を生成する.次に,この牌譜を用いて手牌から和了の翻数を予測するモデルを機械学習により構築する.最終的に,この翻数予測モデルの出力と期待最終順位を用いて点数状況を考慮する麻雀プログラムを構築した.評価実験により,得られた翻数予測モデルは4翻以上の高い翻数の成功率を約1ポイント向上させることを確認した.
著者
伊藤 昭 矢野 博之
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.38, no.5, pp.944-952, 1997-05-15

自己の利益をのみ追求するエージェントの社会では,どのようにして協調が発現するのであろうか.我々は,過去の対戦履歴が公開されるという条件の下で,エージェントが囚人のジレンマと同型の対戦を,相手を次々と替えながら行わねばならないとき,どのような対戦戦略を採用すればよいのかを調べてきた.今回は,どのようにして協調的戦略が社会的に発現(進化)するのか,またそのための条件は何かなどを,遺伝的アルゴリズムの手法を用いて調べる.我々は,まず対戦戦略アルゴリズムを抽象計算器の上で定義する.次に,エージェントは対戦利益に応じて子を生成できるものとし,また子エージェント生成に際しては,戦略アルゴリズムに突然変異を導入してその進化を促す.その結果,最初単純なしっぺ返し戦略TFTから出発して,系は非協調的戦略を含む様々な戦略を持つエージェントを生成するが,生存競争の中でより強い協調的な戦略が成長してくることを示す.
著者
長井 真太郎 宮城 隼夫
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.44, no.3, pp.692-699, 2003-03-15

沖縄マルチメディアモデルスタジオシステムは,通信・放送機構の展開事業用システムとして沖縄と東京を光ファイバ回線で結び高速な映像コンテンツのネットワーク転送手段を用いて,遠隔地におけるコンテンツ制作の実現を目指すシステムである.本システムを用いた研究において,遠隔地間における映像コンテンツのコラボレーション編集を実現するための主要技術として仮想コンテンツによる映像転送方式を提案した.さらに,遠隔制御における機器の操作性,編集結果の転送,遠隔地間ネットワーク伝送性能の3点に関する実験評価を実施し,方式実現の可能性と遠隔地間におけるデータ転送性能の課題について考察した.Okinawa Multimedia Model Studio System is the Study System of Telecommunications Advancement Organization of Japan to realize the video edit collaboration between Okinawa and Tokyo by use of the optical fiber.In the study of this system,we propose the video contents transmit method using the virtual content description that the key technology for the video edits collaboration.And we estimate the method according to the operability of remote control,transmit of the editing result,and performance of the network data transfer by experiences.And then we get the possibility of this style of video editing and study the problem of the long distance data transfer.
著者
南條浩輝 山本 祐司 吉見 毅彦
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.1644-1653, 2012-06-15

機械翻訳(MT)の品質向上のための翻訳前の書き換え(前編集)について述べる.これまでの前編集は主にルールに基づくものであるため,MTシステムに依存し,かつシステム構築に労力を要した.これに対し,本論文では,MTシステムに依存しない統計的前編集システムの自動構築手法を提案する.具体的には,対象とするMTシステムに適した前編集システムを,当該MTシステムを含む複数のMTシステムおよび対訳コーパスから自動構築する手法を提案する.本手法の最も重要な特徴は,前編集によって翻訳品質の向上が得られる学習データを自動生成できる点にある.ロイター日英記事の対応付けデータを用いて4種類の日英MTシステム用前編集システムを構築したところ,3種類のMTシステムについて,多くの文に対して翻訳品質を向上させる前編集システムが構築できた.提案手法である前編集システムの学習データの自動生成は,3種類のMTシステムの前編集システム構築に効果的であったこと,および他の1種類のMTシステムの前編集システム構築に悪影響がなかったことを示し,提案手法の有効性を示した.
著者
坂内祐一 石澤 正行 重野 寛 岡田 謙一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.47, no.12, pp.3414-3422, 2006-12-15

近年,映像や音声情報に加えて,香りの情報を遠隔に伝える研究がさかんになっている1) が,香りの基底が見つかっていないため,香り情報を一意に表現する方法が確立していない.そのためオープンな香りコミュニケーションシステムでは,(1) 所望の香りをどう指定するかの問題,(2) 香り発生装置で発生できる香りの種類に限りがあるため,香り再生時に必ずしも意図する香りが伝えられない問題が存在する.この問題に対するアプローチの1 つとして,映像や音声の雰囲気を伝える背景香の概念を導入し,背景香の通信に香りの印象を表現する形容詞(香りの感性語)を用いたコミュニケーションモデルを提案する.映画のシーンを鑑賞する際に様々な背景香を発生させる実験を行った結果,背景香として香りの印象が近ければ異なる香りを用いても,同じように映像や音声の印象を増す効果があることが確認された.
著者
Kazuya Haraguchi Ryoya Tanaka
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.58, no.8, 2017-08-15

The Building puzzle (a.k.a., the Skyscraper) is a Latin square completion-type puzzle like Sudoku, KenKen and Futoshiki. Recently, Iwamoto and Matsui showed the NP-completeness of the decision problem version of this puzzle, which asks whether a given instance has a solution or not. We provide a stronger result in the present paper; it is still NP-complete to decide whether we can complete a single line of the grid (i.e., a 1 × n or an n × 1 subgrid) without violating the rule.------------------------------This is a preprint of an article intended for publication Journal ofInformation Processing(JIP). This preprint should not be cited. Thisarticle should be cited as: Journal of Information Processing Vol.25(2017) (online)DOI http://dx.doi.org/10.2197/ipsjjip.25.730------------------------------The Building puzzle (a.k.a., the Skyscraper) is a Latin square completion-type puzzle like Sudoku, KenKen and Futoshiki. Recently, Iwamoto and Matsui showed the NP-completeness of the decision problem version of this puzzle, which asks whether a given instance has a solution or not. We provide a stronger result in the present paper; it is still NP-complete to decide whether we can complete a single line of the grid (i.e., a 1 × n or an n × 1 subgrid) without violating the rule.------------------------------This is a preprint of an article intended for publication Journal ofInformation Processing(JIP). This preprint should not be cited. Thisarticle should be cited as: Journal of Information Processing Vol.25(2017) (online)DOI http://dx.doi.org/10.2197/ipsjjip.25.730------------------------------
著者
江木 啓訓 石橋 啓一郎 重野 寛 村井 純 岡田 謙一
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.45, no.1, pp.202-211, 2004-01-15
参考文献数
23
被引用文献数
8

本研究は,対面同期会議の参加者が内容の理解や発想,意識共有の質的向上を実現するために,議論への参加を促す手法について検討する.従来の議論の場面では発言する機会を得にくい参加者に着目し,発言とは違う形で貢献をしたり,議論のグループ全体の状況を把握しやすくしたりするために,協同記録作成を導入した議論の手法を提案する.議論の内容に関する記録編集を行うことを通じて,参加者が傍観することなく主体的に参加できることを狙いとする.パーソナルコンピュータを持ち寄った対面での議論の環境を対象とし,提案手法を実現するために必要な協同記録作成ツールを設計・実装した.議論に導入した結果,議論と記録の作成を並行するための認知的な負荷が増すという点が明らかになった.また,記録作成ツールを設計する際に,対面同期環境における参加支援の観点から必要なアウェアネス機能を整理し検討を加えた.The object of this research is to enable participants of a discussion to be able to improve the level of understanding, ideas, and shared consensus in a discussion. Toward this end, software which allows editing by multiple users at once was introduced during face-to-face discussion, creating an environment where participants of the discussion can also participate in the editing of the discussion minutes. As a result it became apparent to be a heavy load that assigning discussing and editing minutes to users at once. Furthermore, awareness functions required to encourage discussion contribution are investigated.
著者
小川 真彩高 本田 晋也 高田 広章
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.748-761, 2018-02-15

近年,車載システムは高機能化が著しく,エンジン制御に用いられるパワートレイン・アプリケーション(パワトレアプリ)もマルチコア化が求められている.マルチコアシステムの設計においては,処理のコア配置を適切に決定する必要がある.そのためには,マルチコアシステムでは処理のコアへの配置や共有データのメモリ配置によりメモリアクセス時間やコア間の排他制御の実行オーバヘッドが変化するため,これらを考慮したリアルタイム性解析が必要となる.本研究では,シングルコア向けの最悪応答時間解析手法を拡張し,前述の実行オーバヘッドを考慮することにより,マルチコアに適した最悪応答時間解析手法を実現した.実現した手法を,パワトレアプリを想定した評価ソフトに適用した結果は,実機実行の結果と相関が高く,コア配置の決定に有用であることが分かった.In recent years, vehicle systems have become more functionality. Among them, powertrain applications used for engine control are also required to be executed on multicore architectures. On multicore systems, it is necessary that each of processes is allocated to a core accordingly. Because the amount of execution overheads caused by memory access time and inter-core exclusive control depends on core and data allocation, considering those overheads is needed for analysis on multicore systems. In this study, we propose a worst case response time analysis method considering those overheads for multicore automotive systems. We applied our method to an evaluation software imitated power train application and executed this software on an actual processor board. As a result of comparison between them, our method can be used deciding core allocation because of strong relationship between them.
著者
尾田 政臣 加藤 隆
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.37, no.9, pp.1717-1725, 1996-09-15
参考文献数
18
被引用文献数
1

線画による顔画像は 感性を伝える手段としての利用や 多変量の直観的な表現法(顔グラフ法)としての利用などヒューマンインタフェースのうえで重要な役割を担っている. 顔の特徴に関しては 認識の観点からの特徴の顕著性や 表情と特徴の関係などについて研究されてきた. その結果 髪形 眉 目などが重要な特徴であること また典型的な顔の表情が存在することなどが調べられてきた. ところが 好みの顔や優しい顔といった受け手側の感性に強く依存すると思われる顔について 顕著な役割を果たす特徴の存在や 普遍的に受け入れる顔のタイプについては調べられていない. 本稿では これらについて好みの顔 嫌いな顔 優しい顔 怖い顔を用いて実験的に調べた. その結果 眉の傾きといった各タイプに共通な特徴のほか 各タイプに特有な重要な特徴が存在することが明らかになった. 好みと嫌いといった情緒的な顔のタイプに対しては位置や形に関する特徴だけでなく特徴間の距離や 特徴に囲まれた面積などの特徴も重要であることなどが明らかになった. また 感性的に表現される顔にも普遍的に受け入れられる顔のタイプが存在することが明らかになった. これらの結果は 線画の顔を使ったコミュニケーション手段としても フェース法への応用についてもベースとなる顔を決定するときに有効であろう.The line-drawn face has an important role in human interface, such as transmission of emotional expressions and the intuitive expression of multi-dimensional parameters (like a face graph). Facial features have been studied with regard to feature saliency for recognition or the relation between facial features and facial expression. The results showed that hair styles, eyebrows, and eyes were salient features, and that typical facial expressions existed for facial expressions. From this analogy we could expect a typical expression to exist for favorite or gentle faces, etc., and salient features to exist. Such a type of face would depend on the receiver's sensibility. In this paper, we investigate these issues using favorite, distasteful, gentle and fierce faces. The results showed that the eyebrows are salient in all types of faces and each type has its own salient features. There were salient features not only in position and shape features but also in distance and area features for the taste-based faces, that is, favorite and distasteful faces. Moreover, typical types of faces are derived for taste-based and emotional faces. These results will be useful for communication aids using line-drawn faces and for application to face graphs.
著者
古山 恒夫
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.37, no.12, pp.2326-2333, 1996-12-15
参考文献数
12
被引用文献数
12

ソフトウェア信頼度成長曲線に関する統合モデル^<1) 2)>は これまで提案された代表的なモデルをカバーするだけでなく これまでモデル化されていなかった領域もカバーできる. そのため このモデルを用いれば既存のソフトウェア信頼度成長モデルより高い精度で残存フォールト数を推定することができる. しかしながら 統合モデルを表す微分方程式の解の形式は 既存モデルの種別を表すパラメータγの値により飽和型モデルに限っても3つのグループに分かれる. そのため 最適なパラメータ群を推定するためには それぞれのグループに対してパラメータの推定を試みる必要があった. また 最尤推定法によるパラメータ推定では 超越方程式を数値的に解く必要があることから 解の収束に時間がかかったり 解そのものが求まらない場合があるという問題もあった. 本論文では 統合モデルを表す微分方程式の対数をとることにより 得られたデータ系列からこのモデルを表す微分方程式のパラメータを解析的に推定できることを示す. また 推定したパラメータをもとに具体的な推定曲線を求めるための手順を示す. 実際の累積バグデータを用いて 本方式と最尤推定法による残存バグの推定誤差を比較した結果 その差は2%以下であった.The manifold growth model that unifies existing software reliability growth models can cover a wide range of accumulated fault data including various types of data which are difficult to treat with existing models^<1),2)>. However, there are problems. For example, it sometimes takes a long time to solve transcendental equations to estimate parameters of the model by using maximum likelihood estimation, and the solution is difficult to obtain in some cases. This paper shows that the parameters of the differential equation that defined the manifold model can be analytically estimated for the given data by using a "Y-equation" derived from the differential equation. This paper also shows the concrete procedure for determining the most appropriate software reliability growth model, or the most appropriate shape of curve from Y-equation. Finally, the effectiveness of the Y-equation is shown by applying it to both ideal and actual data.
著者
原田 篤史 漁田 武雄 水野 忠則 西垣 正勝
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.46, no.8, pp.1997-2013, 2005-08-15
被引用文献数
23

現行のユーザ認証方式は,汎用性と利便性の高さから文字をベースとしたパスワード方式が主流となっているが,人間にとって長くランダムな文字列を記憶することは容易ではなく,新たなパスワードを設定するたびにユーザは記憶に関する大きな負担を要求される.そのため,人間の画像認識能力の高さを利用して認証情報の記憶の負荷を低減させる画像認証方式が注目されている.しかし,多くの画像認証方式は毎回の認証時にパスワード画像がディスプレイ上に表示されるため,認証時の覗き見攻撃に対して脆弱であった.そこで本論文では,有意味なオリジナル画像に対してモザイク化をはじめとする不鮮明化処理を施すことで一見して無意味な画像を作成し,それをパスワード画像として用いることで覗き見攻撃への耐性を有する画像認証方式を提案する.正規ユーザは,パスワード画像登録時に不鮮明化処理を行う前のオリジナル画像を見ることができるため,不鮮明化されたパスワード画像をオリジナル画像の持つ意味と結び付けて記憶することができる.そのため,認証試行時には画面上に表示される自身の不鮮明なパスワード画像を容易に再認識することが可能となり,記憶の負荷は小さくなる.一方,オリジナル画像を見ることのできない他のユーザが当該ユーザの認証行為を覗き見たとしても,意味を認識できない不鮮明なパスワード画像を記憶にとどめておくことは困難である.また,他者が正規ユーザからパスワード画像の意味を言葉で教えられたとしても,不鮮明なパスワード画像を教えられた意味どおりに認識することは困難であるため,本方式は正規ユーザからのパスワード漏洩に対してもあるレベルの耐性を有する.Although password-based systems are now widely used in all kinds of authentication, they have a problem that humans have a limitation to remember secure passwords (long and random strings). Thus, image-based user authentication systems using "pass-images" instead of passwords have been studied for reducing the burden of memorizing passwords. However, on many image-based systems, it is needed to present a user's pass-image on their display at each authentication trial, so they can be vulnerable against an observing attack. In this paper, we propose a user authentication system using "unclear images" as pass-images, in which only the legitimate users are allowed to see the original (picture) images corresponding to their unclear pass-images in the enroll phase. The legitimate users can easily remember their unclear pass-images using the original images as clues, while illegal users without the clues have difficulties to find out and remember other user's unclear pass-images. In addition, it is expected to be difficult for even a legitimate user to leak his/her unclear pass-image precisely to anyone with words via e-mail or telephone.
著者
原田 篤史 漁田 武雄 水野 忠則 西垣 正勝
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.46, no.8, pp.1997-2013, 2005-08-15

現行のユーザ認証方式は,汎用性と利便性の高さから文字をベースとしたパスワード方式が主流となっているが,人間にとって長くランダムな文字列を記憶することは容易ではなく,新たなパスワードを設定するたびにユーザは記憶に関する大きな負担を要求される.そのため,人間の画像認識能力の高さを利用して認証情報の記憶の負荷を低減させる画像認証方式が注目されている.しかし,多くの画像認証方式は毎回の認証時にパスワード画像がディスプレイ上に表示されるため,認証時の覗き見攻撃に対して脆弱であった.そこで本論文では,有意味なオリジナル画像に対してモザイク化をはじめとする不鮮明化処理を施すことで一見して無意味な画像を作成し,それをパスワード画像として用いることで覗き見攻撃への耐性を有する画像認証方式を提案する.正規ユーザは,パスワード画像登録時に不鮮明化処理を行う前のオリジナル画像を見ることができるため,不鮮明化されたパスワード画像をオリジナル画像の持つ意味と結び付けて記憶することができる.そのため,認証試行時には画面上に表示される自身の不鮮明なパスワード画像を容易に再認識することが可能となり,記憶の負荷は小さくなる.一方,オリジナル画像を見ることのできない他のユーザが当該ユーザの認証行為を覗き見たとしても,意味を認識できない不鮮明なパスワード画像を記憶にとどめておくことは困難である.また,他者が正規ユーザからパスワード画像の意味を言葉で教えられたとしても,不鮮明なパスワード画像を教えられた意味どおりに認識することは困難であるため,本方式は正規ユーザからのパスワード漏洩に対してもあるレベルの耐性を有する.
著者
長谷川 隆 西本 卓也 小野 順貴 嵯峨山 茂樹
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.1204-1215, 2012-03-15

本論文では,音楽から受ける「作曲家らしさ」の印象を説明し定量的に測定できる工学的手法を目指して,音楽学における様式分析手法の1つであるラルーらの綜合的様式分析において論じられている様々な定性的特徴に対応する特徴量を提案する.対象データはMIDIデータとし,音の厚み等の音楽的な表現語の意味を解釈し,楽譜情報から計算可能な量を検討する.正準判別分析の作曲家推測精度を求めることにより,提案した特徴量群による特徴空間上で同作曲家の楽曲が近接して配置されていることが,判別分析結果の階層クラスタ分析により,時代・文化が類似していて類似した印象を受けると考えられる作曲家の特徴重心が近接して配置されていることが示された.以上から,提案した特徴群は「作曲家らしさ」の尺度として妥当性を持つと考えられる.
著者
寸田 智也 宋 剛秀 番原 睦則 田村 直之 井上 克巳
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.59, no.9, pp.1749-1760, 2018-09-15

本論文では,トークン数が整数値である一般のペトリネットを対象とし,そのデッドロック検出についてSAT技術を用いた手法を提案する.提案手法では,非負整数値であるトークン数を表現するために順序符号化を採用することで,既存のSAT型手法では対応できなかった一般のペトリネットでのデッドロック検出を実現した.また,既存SAT型手法で採用されていたモデル(連続発火モデルと呼ぶ)よりも短いステップ長でデッドロック検出が可能となる多重発火モデルを提案し,性能向上を実現した.評価実験では,Model Checking Contest 2017のベンチマーク問題を用いて,連続発火モデルと多重発火モデルを比較した.ほぼすべての問題で多重発火モデルのほうが優れていたが,特に初期マーキングのトークン数が比較的多い問題に対する効果が大きかった.また,Model Checking Contest 2017デッドロック検出部門での優勝ソルバLoLAおよび準優勝ソルバTapaalとの比較を行った.提案手法は,デッドロックを検出できた問題数ではLoLA,Tapaalより少なかったが,LoLAおよびTapaalを含めたすべてのソルバがデッドロック検出に失敗した問題での検出に成功し,提案手法の有効性が確認できた.In this paper, we propose a SAT-based method to detect deadlock of general Petri nets in which more than one tokens are allowed for each place. In our approach, the transition relation of a Petri net is represented as constraints on integers and they are translated into SAT by order encoding, so that the deadlock of general Petri nets can be detected by a SAT solver, while existing SAT-based methods cannot be applied for them. Furthermore, in order to improve the performance, we introduced multiple firing model, which can detect deadlock with shorter steps than the model used in an existing SAT-based method, called successive firing model. We evaluated the successive firing model and the multiple firing model through a benchmark set of Model Checking Contest 2017. The multiple firing model showed better performance for almost all instances, and was especially effective for the instances in which there are many tokens at the initial marking. Through the comparison with the winner tool LoLA and the second place tool Tapaal of the contest, although the number of detected deadlocks are fewer than LoLA and Tapaal, we confirmed the effectiveness of the proposed method with some instances for which all tools including LoLA and Tapaal failed to detect deadlock.
著者
兼 岩憲 東条 敏
出版者
情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.48, no.12, pp.3996-4011, 2007-12-15
参考文献数
23
被引用文献数
1

法的推論システムの実現には,法令文のルール知識に加えて判例を描写するイベント(一回性の事象)のための表現手段が必要である.特に,判例の中身は複数のイベントによって展開されており,動的な知識表現とその論理的な推論を法的推論システムに取り込まなければならない.イベントは一回性・一時性を持った動作あるいはアクションであり,静的なプロパティと対比される概念である.これまでイベントの概念は,オントロジ,論理学,言語学,人工知能,演繹データベースなど様々な研究分野で扱われてきているが,各アプローチとも法的推論でのイベント記述の多様な側面を同時にとらえるには不十分であった.本論文では,法的推論で現れる語彙や記述を例に用い,イベントの量化,ソート階層およびイベント間の合成と排他性を導入した知識表現とその論理型言語(イベント論理と呼ぶ)を提案する.この言語は,順序ソート付き二階述語論理に準じた論理的な表現によってイベントを定数,ソート,述語および変数と見なし,イベント言明のための知識表現と推論を可能にする.さらに,法的推論システムを実現する推論メカニズムの基盤を与えるために,イベント論理に対するソート付きのタブロー計算を設計して,その反駁推論による質問応答システムを構築する.In order to implement a legal reasoning system, we have to provide a method that represents the suitable descriptions of events in addition to legal concepts and rules. An event, as opposed to an atemporal property, has its own time and location, and happens once and for all. Although the notion of events has been found in the researches of ontology, logic, linguistics, artificial intelligence and deductive databases, each approach does not seem to capture the various aspects of events represented in legal reasoning. In this paper, we propose an event logic with such expressions as quantification over events, event sort-hierarchy and composition and disjointness of events, based on some examples on event descriptions in legal knowledge. This logic is a variant of order-sorted second-order logic formalized by regarding events as constants, sorts, predicates and variables, which provides knowledge representation and reasoning for event assertions. In order to obtain a query-answering system, we present a sorted tableau calculus for refutation of event formulas in the logic.