著者
杉山 卓弥 小幡 拓弥 斎藤 博昭 保木 邦仁 伊藤 毅志
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.51, no.11, pp.2048-2054, 2010-11-15
被引用文献数
1

コンピュータ将棋において,複数のプレイヤの意見から1つの指し手を選択する合議アルゴリズムが注目されている.多数決による合議では,単純な手法であるにもかかわらず,単体のプレイヤに比べてパフォーマンスが向上することが報告されている.本研究では,各プレイヤの指し手に加えて,局面の優劣評価の値も利用する新しい合議法について報告する.正規乱数を用いて局面評価値を修正し生成された複数プレイヤから,最大の評価値を付けたプレイヤを選択する楽観的合議法を提案し,その有効性と仕組みについて議論する.The consultation algorithm, which selects a move based on decisions made by multiple players, recently attracted considerable attention in the computer Shogi community. It was reported that the consultation algorithm based on majority voting improved the strength of a computer Shogi program despite the simplicity of the algorithm. In this paper, we present a new consultation approach which utilizes not only the actual moves provided by the players but also the evaluation values of the moves. The proposed approach, optimistic consultation, selects a player that scores the highest evaluation value among the multiple players. Here, the multiple players are prepared by adding normal random noise to the original evaluation function. The performance and the mechanism of the algorithm are analyzed.
著者
松川 徹 日高 章理 栗田 多喜夫
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.3222-3232, 2009-12-15

スポーツやお笑いなどのエンタテイメント産業では,観客の観覧内容に対する満足度を知ることがサービスの質を評価するうえで重要となる.通常は観客に対するアンケート調査などで満足度評価を行うが,そのような方法では多くの人手や費用が必要となる.そのため観客の満足度調査をビデオ映像などから自動的に行う手法の開発が求められている.本論文では顔認識技術によって観客の表情や顔の向きなどの情報を自動的に取得し,それらに基づいて観客の満足度を機械的に推定するシステムを提案する.提案システムでは観客が映っているシーンからまず観客の顔の検出と向きの推定を行い,それから表情識別器によって検出された顔を笑顔と非笑顔に分類する.次に,あるシーンから検出された顔の向きと表情の組合せの出現頻度を数えあげたヒストグラムを作成する.このヒストグラムを特徴ベクトルとした識別器を用いて各シーンの状況(観客が喜んでいるシーンかどうかなど)を判別し,"喜んでいる" または"真検に観戦している" 度合いとしての満足度の推定を行う.実際のスポーツ観戦動画を用いた実験により,提案するヒストグラム特徴でサポートベクタマシンを学習し,観客が"喜んでいる" シーンかどうか,"真剣に観戦している" シーンかどうかなどの判別およびその満足度推定を有効に行えることを確認した.In the entertainment industry which treats sports or comedy show, understanding whether their spectators have been satisfied or not is important to evaluate the quality of their services. Currently, questionnaire survey has been used to evaluate the degree of their satisfaction. But great cares of cost and time are required for questionnaire survey. So it is desired to automatically evaluate spectator's satisfaction degree from video sequences. This paper presents a system for automatically evaluation of degree of spectators' satisfaction in video sequences. The proposed system is designed by a "bag-of-visual-words" approach based on face recognitions. First, the multiview (left-profile, front, right-profile) faces are detected from each image in the given video sequence. Then the detected faces are classified into the two expressions, smile or not. The classification results of the face directions and the facial expressions are voted to each classes' histogram over the video sequence. Finally, the state of the spectators is classified by using the kernel SVM on the voted histograms. The degree of spectators' satisfaction is estimated by the classification score of "Positive Scene" or "Watching Seriously". Our approach demonstrated promising results for classifications of "Positive Scene" and "Negative Scene" or "Watching Seriously" and "Not Watching Seriously".
著者
松川 徹 日高 章理 栗田 多喜夫
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.50, no.12, pp.3222-3232, 2009-12-15

スポーツやお笑いなどのエンタテイメント産業では,観客の観覧内容に対する満足度を知ることがサービスの質を評価するうえで重要となる.通常は観客に対するアンケート調査などで満足度評価を行うが,そのような方法では多くの人手や費用が必要となる.そのため観客の満足度調査をビデオ映像などから自動的に行う手法の開発が求められている.本論文では顔認識技術によって観客の表情や顔の向きなどの情報を自動的に取得し,それらに基づいて観客の満足度を機械的に推定するシステムを提案する.提案システムでは観客が映っているシーンからまず観客の顔の検出と向きの推定を行い,それから表情識別器によって検出された顔を笑顔と非笑顔に分類する.次に,あるシーンから検出された顔の向きと表情の組合せの出現頻度を数えあげたヒストグラムを作成する.このヒストグラムを特徴ベクトルとした識別器を用いて各シーンの状況(観客が喜んでいるシーンかどうかなど)を判別し,“喜んでいる” または“真検に観戦している” 度合いとしての満足度の推定を行う.実際のスポーツ観戦動画を用いた実験により,提案するヒストグラム特徴でサポートベクタマシンを学習し,観客が“喜んでいる” シーンかどうか,“真剣に観戦している” シーンかどうかなどの判別およびその満足度推定を有効に行えることを確認した.
著者
大沢 晃
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.31, no.1, pp.42-55, 1990-01-15
被引用文献数
2

計卵誤差により図形演算プログラムが暴走する問題は 従来から図形処理における大きな未解決課題とされていた.これに対し 従来普通には「非常に接近した図形要素は同一点を占めている」とみなす対策が行われていた.しかしこれはある場合にはかえって暴走の原因となり 対策として不完全であった.本論文ではスペースモデルにより図形のトポロジーを表現し 「どんなに接近した図形要素も たとえ両者の座標値が等しくなっても トポロジカには同一点とは考えない」手法を採り トポロジーに矛盾が起きないようにデータ構造を生成する 新しい対策法と実験結果につき述べる.座標値よりトポロジーを優先したこと 図形の正しさは追及せず トポロジーが矛盾しないことを条件としたこと スペースモデルを使うことで起こり得る形状の種類が限定でき すべての場合の列挙が可能になったこと などが本方式のキーポイントである.スペースモデルによれば 二次元・三次元 注目 局所集合演算 運動図形の衝突検出 等 多彩な機能が平均的にO(1)の対話速度で実現できるが 本方式により本質的に高信頼度が得られ 実用化の基礎を固めることができたと考えられる.
著者
松下 光範 馬野 元秀 鳩野逸生 田村 坦之
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.988-997, 1996-06-15

Reteアルゴリズムをはじめとする従来のプロダクション・システムの高速化手法では ルールの条件部をデータフローネットワークに展開し 作業記憶要素をトークンとして流している.これらの高速化手法は有効であるが 作業記憶の更新が頻繁に起こるような場合には そのネットワーク中の定数をテストするノードにおいてまだ無駄な処理を行っている.そこでこの無駄な処理を解消するために マッチング候補の概念を用いたデータフローネットワークによる高速推論アルゴリズムを提案する.このネットワークでは Reteネットワークでは定数をテストするノードとして同一に扱われているノードをパターン間テストノードとパターン内テストノードに分類して それらの間にマッチング候補メモリノードを持つことで 無駄な処理を行うことを従来手法に比べて少なくすることができる. また マッチする作業記憶要素と条件パターンの組を少ない比較回数で特定するために ID3決定木作成アルゴリズムの考え方を用いたパターン間テストノード作成アルゴリズムを提案する.Some fast pattern matching algorithms have been proposed to improve the reasoning speed of production systems. In almost all of these methods, rule conditions are represented in a data-flow network and elements in a working memory flow through this network as tokens. These algorithms are effective, however, excessive constant testing still cannot be avoided for instances when the working memory must be frequently updated. This paper proposes a fast pattern matching algorithm for a production system. It uses an improved reasoning network employing matched candidates to circumvent such constant testing which is inherent in conventional networks. Using an example conventional network, the Rete network, we classify constant-test nodes into inter-pattern test nodes and intra-pattern test nodes. Then we introduce memory nodes for matching candidates between these test node classes. This is done in order to find unnecessary matching patterns more quickly. The ID3 algorithm is used to make an efficient inter-pattern test network which is capable of finding patterns in the rule conditions for the working memory element. This algorithm is implemented in Austin Kyoto Common Lisp (AKCL) and is applied to several rule bases with good results.
著者
村井 保之 巽 久行 徳増 眞司
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.43, no.12, pp.4009-4022, 2002-12-15

VLSIフロアプランや板金板取などを含む一般的な板取ないし配置問題に関する研究の一環として,少なくとも1つの解が存在する特殊な配置問題である平面ポリオミノ箱詰め問題を取り上げた.本論では,この解法として,ピース配置に関わる位相的特徴量の潰し合いに着目した配置手順発見のための大域的な探索手法を開発した.この手法の中身は空間的な評価としての``盤面の評価''とそれに基づく手順の評価としての``攻めての評価''を活用して,最も有望な順序でピースを選択し配置するアルゴリズムからなっているが,本論ではさらに,原問題を拡張して2つの最適化問題を派生させ,これらについても前記アルゴリズムをベースとした解法を構成した.あわせて,これら手法の有効性を数値実験により検証した.In this paper,a planar polyomino packing problem is taken up as a specialized placement problem such that it has at least one solution of placement,but not so many in general.The authors have developed a new global search algorithm for solutions,based on the mechanism of generation and extinction of topological characteristics on placement of pieces.Then,two optimization layout problems are constructed and solved by extending the packing problem and its solution.Finally,it is proved by numerical experiments that these algorithms work well in good efficiency.
著者
橋本 力 鳥澤健太郎 黒田 航 デサーガステイン 村田 真樹 風間 淳一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.293-307, 2011-01-15

テキスト間含意関係認識と呼ばれる技術は,深い自然言語理解を必要とするタスクにおいて重要な役割を果たす.この技術が実用レベルに至るには,大規模な含意知識ベースの構築が不可欠である.本稿では,動詞間含意関係知識の大規模な獲得を目的として,条件付き確率に基づく方向付き類似度尺度を提案する.提案手法の評価実験では,WWW上の日本語1億文書から得られた52,562動詞(異なり)を対象とした.この動詞セットには,日常的に使用される動詞も特定の専門的な領域でのみ用いられるような動詞も区別せず含まれている.提案手法と先行研究の手法それぞれのスコア上位20,000位までの出力からランダムに選ばれた200サンプルを人手評価したところ,比較対象のすべての先行研究の手法の精度を提案手法の精度が上回ることを確認した.また,提案手法のスコア上位100,000の出力を人手評価したところ,大規模動詞含意知識ベースを構築する出発点としてリーズナブルな精度が得られていることを実験により確認した.Textual entailment recognition plays a fundamental role in tasks that require in-depth natural language understanding. For entailment recognition technologies to serve for real-world applications, a large-scale entailment knowledge base is indispensable. This paper proposes a conditional probability based directional similarity measure to acquire verb entailment pairs on a large scale. We targeted 52,562 verb types that derived from 108 Japanese Web documents, regardless whether they were used in daily life or only in specific domains. Evaluating 200 samples that were chosen randomly from the top 20,000 verb entailment pairs acquired by previous methods and ours, we found that our similarity measure outperformed the previous ones. For the top 100,000 results, our method worked well too.
著者
丸山 健一 丸山 稔 宮尾 秀俊 中野 康明
出版者
社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.44, no.8, pp.2270-2273, 2003-08-15
被引用文献数
1

本研究の目的はSVMを用いて高い累積正解率を持った多重仮説を構築することである.ある1つの候補を求める手法としては,DAGSVMが学習,識別時間の面で非常に優れている.しかしながら,累積正解率,つまり複数の候補を求めることを考慮していない.本論文ではDAGSVMとMax-Winアルゴリズムを用いたハイブリッドな認識手法を提案する.具体的には,DAGSVMの結果に基づき,Max-Winアルゴリズムの候補を限定する.実験の結果,提案手法はMax-Winアルゴリズムと同等の累積正解率でありながら,DAGSVMと同等の計算量であった.This paper describes a method to make multiple hypotheses with highcumulative recognition rate using SVMs.To make just a single hypothesis by using SVMs, it has been shown that DAGSVM is very good with respect to recognition rate, learning time andevaluation time.However, DAGSVM is not directly applicable to make multiple hypotheses.In this paper, we propose a method of DAGSVM and Max-Win algorithm.We also provide the experimental results to show that thecumulative recognition rate of our method is as good as the Max-Winalgorithm, and that the execution time is almost as fast as DAGSVM.
著者
木綿麻実路 岩切 宗利
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.1258-1265, 2006-04-15
参考文献数
4

テキストベースの情報メディアの一種に,文字の形状や濃度を利用して絵や自然画像を表現するアスキーアートがある.一般的なアスキーアート作成手法では,作者や作成日時などの属性情報を別に記録する必要がある.しかし,流通の過程でそれらの属性情報は失われる可能性がある.そこで本研究では,1 対1 であった文字と輝度の交換テーブルを1 対多とすることにより,アスキーアートに情報を埋め込む手法を考案した.本論文ではその考えに基づき,埋め込み可能容量を増大しながら出力画質を向上させる手法について示す.また,階調数を高く設定したうえで入力画像の特性を考慮した文字数選定を行うことにより,出力画質と埋め込み情報量をともに向上させることができることを実験により示した.本研究の結果,出力データサイズに対して最大21%程度の情報埋め込みに成功した.The ascii-art is one of techniques to the text based image representation, and it is using density or outline shapes of black-and-white dots on the character structures. Although, the ordinary ascii-art is not combined to the attribute informations, thus the separated records would be lost, easily. Therefore, in this research, we try to build up the information-hiding techniques for ascii-arts, and it applied a substitution table of the brightness to the many selectable characters for embedding secret messages. According to the experemental evaluations, the proposal technique increased the capacity of embedding with improving the quality of image, and these were upgraded by the optimizing method to the band-width of gray scales, moreover. As a result of this research, we realized that the embedding capacity about 21% at maximum to size of the cover data.
著者
岡野 裕之 横関 隆 並木 美太郎 高橋 延匡
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.32, no.5, pp.673-683, 1991-05-15
被引用文献数
4

共有メモリ型マルチプロセッサを対象にしたオペレーティングシステム OS/omiaon第3版(以下OMICRONV3)を開発した.OMIRONV3は タスクフォースをマルチプロセッサ環境で有効に機能させるために タスクフォースを1つのプロセッサに束縛せず タスクから見てプロセッサをアノニマスにする設計とした.このとき 対象ハードウェアがプロセッサに関して不均質であったため ハードウェアに直接OMICRONV3を実装すると OSの構成が複雑になることが予想された.そこで ハードウェアとOSの間にハイパOS眉を導入し ハードウェアを均質化した.これによって OMICRNV3の内部でプロセッサをアノニマスに扱うことが可能となった.OMICRONV3は プロセッサをアノニマスとして実装した結果 シングルプロセッサ用のOSと比べて数か所の変更でマルチプロセッサに対応できた.したがって ハイパOSを使った実装が OSの記述性 保守性を高める上で非常に有効であることが判明した.0MICRONV3の設計は OS内の統一した責源環境 マルチタスクのデバッガ OSの変更の容易性などを考慮して行った.本論文は OMICRONV3カーネルの設計と実現 マルチプロセッサヘの実装方式趣どについて述べる.
著者
加藤秀一 堀江 憲一 小川 克彦 木村 重良
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.61-69, 1995-01-15
参考文献数
12
被引用文献数
6

コンピュータシステムの使いやすさや分かりやすさ(ユーザビリティ)を、誰もが客観的に手軽に評価できるHI(ヒューマンインタフェース)設計チェックリストを開発しその有用性を検証した。本チェックリストは、(1)専門家でなくとも便いこなせ、(2)信頼性・客観性の高い定量的な結果が得られ、さらに、(3)実際に、改善にまで直結できること、を主な目的に開発された。合計133のチェック項目により、画面(9セクション、69項目)と操作性(7セクション、64項目)がチェックできる。チェック緒果は、先に開発したHI設計ガイドラインヘの適合度を表わす定量的な値で得られ、チェック項目やセクション間のバランス評価、他システムとの比較評価ができる。一方、本HI設計チェックリスト自身のユーザビリティを検証するため、4名の被験者の、半年間こわたるチェックデータやチェック時間を分析した結果から、チェックリストの末経験者でも、インタフェースの不適合な箇所を、客観的かつ網羅的に、短時間で検出できることを確認した。また、HI設計チェックリストで、運用/開発中のコンピュータシステムのユーザビリティを評価した結果から、HI設計時に見落とされやすい(守られない)ガイドライン項目や、レビュー時に重点的にチェックすべき項目を抽出できた。これらのユーザビリティ評価を通して、HI設計チェックリストの有用性が検証できたと考えている。
著者
木村 達洋 早坂 明哲 瀬川 典久 山崎 清之 村山 優子 宮崎 正俊
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.44, no.11, pp.2587-2597, 2003-11-15
参考文献数
25
被引用文献数
4

近年,インターネットの急速な普及にともないコンピュータが家庭にまで浸透し,VDT作業時間が急激に増加したことで,子供の視力低下や疲労が問題化している.また,ゲームなど強力な動機づけによる長時間使用で健康を害し,極端な場合には死亡例も報告されている.そこでユーザの健康を守る衛生学的観点から視覚系疲労を測定し,インタフェースを低負荷なものにする必要がある.本研究では,事象関連電位(ERP)を用いた視覚系疲労の客観的評価法を提案し,VDT作業による視覚系疲労評価を試みた.ERPは視覚情報の脳内過程を反映する.このうち一次視覚野の反応であるP100成分と,標的を非標的から弁別する際に現れるP300成分を指標とした.また,眼精疲労の指標として焦点調節能(近点)も計測した.その結果,視覚系疲労条件では,ERPのP100の振幅は増大し,非標的によるP300の振幅は,標的の場合の振幅に近づき,弁別性の低下が見られた.この傾向は主観的な疲労感との相関が認められた.一方,ERPの振幅や潜時と近点との相関は認められず,両者は独立な情報を含んでいると思われた.このことは眼調節系の疲労,認知機能の低下である中枢性疲労の2種類から構成されていることを示している.以上から,本方法を用いれば眼調節系と認知過程の2つの処理段階を考慮した視覚系疲労の評価が可能になると考えられた.In order to obtain a guideline for designing low-workload Human Interface (HI). We investigated assessment of visual fatigue induced by performing an interactive task as a model of HI software on personal computers utilizing measurement of Event Related Potentials (ERP) and accommodation. The ERP were measured in this study before and after a visual target detection task in healthy adult participants to assess visual fatigue of the central nervous system. As an index of accommodation, the ophthalmic near point was also measured using an accomodometer. As the experimental task, participants were instructed to click designated targets from a randomly arranged matrix of characters for one hour. All participants reported symptoms of visual fatigue after the task. From the averaged ERP waveform, P100 and P300 components were detected and their amplitudes and peak latencies were analyzed. Amplitude of the P100 component measured after performing the task was larger than that in the control condition. Near points after the task increased in comparison with those before the task. Results indicated that visual fatigue by the experimental task evoked both eye-strain and altered function of the primary visual cortex. Feasibility of applying the present method to a low-workload software development is discussed.
著者
森 彰 松本 吉弘
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.36, no.10, pp.2422-2432, 1995-10-15

圏論的結合子(categorical vombinator)はラムダ計算の変数を含まない翻訳であることから、圏論的解釈を利用した関数型言語の実装に用いられている。本稿では圏の構造を随伴関手(adjointfunctor)で定義することで、圏論的結合子とその等式が圏論の基本概念から天下り的に導かれることを示す。圏論的結合子は随伴関手に付随する自然変換である単因子(unit)と余単因子(counit)として得られ、その等式は圏、関手、自然変換の定義、および随伴関手の三角可換図(triangular identity)から直接導かれる。まず最初にカルテシアン閉圏(cartesian closed category)のための圏論的結合子の導出について述べ、これを用いた自由圏の構成を示す。そして次に圏論的結合子の非外延的(non-extensional)な等武が半随伴関手(semi-adojoint functor)から導かれることを示す。最後に一般の極限対象(1imit object)や再帰的対象(recursive object)について考察し、その際に右随伴関手と左随伴関手の双対性(dua1ity)がどのように作用するかをみる。
著者
宮狭 和大 坂内祐一 重野 寛 岡田 謙一
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.47, no.1, pp.181-192, 2006-01-15

複合現実感技術を用いて現実空間に仮想物体を重畳させることで,産業分野などにおける作業をシミュレーションすることができる.そのような作業の映像記録を参照することで作業の把握が可能であるが,作業映像を基にして作業の把握を試みる方法では,作業把握に有効な場面を知る指標が得られず,また3 次元情報の把握が困難なため,効率の良い十分な作業把握を行うことが難しい.そこで本稿では,作業者が装着しているビデオシースルーHMD からの映像に加え,作業者による仮想物体の操作情報および作業者と仮想物体の位置・姿勢情報を記録し,それらを関連付けて可視化することにより,MR 空間で行われた作業の把握を支援することを提案する.そして提案概念を実現する作業把握支援システムMR Work Visualizer を構築し,その有用性を評価した.
著者
清水 敬子 阿刀田央一 高橋 延匡
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.281-292, 1983-05-15
被引用文献数
2

情報工学を専攻する学生に対する計算機初期教育として EDSACを用いた機械語によるプログラミング教育を行っている.この教育の目標としては (1)ストアード・プログラム方式の計算機で実現可能なことの限界を実感として理解させること (2)計算システムに関する知的好奇心をわかせること (3)技術の発展の方向を認識させること などを目指している.本報告では とくに上記の実現のため カリキュラム上の考慮からはじめて 実際の教育 とくに演習を通して いかに実施しているかについて述べている.そのために (1)ミニコン化EDSACの開発 (2)TSS によるEDSACの仮想計算磯の開発 (3)EDSACのCAIシステムの開発 などの教育用ツールの開発と充実を行った.これら3種のツールの特徴を生かして使い分け 過去4年間 実際に初期教育を行った結果 学習内容およびツールの組合せ方などについて効果的な方法が確立され 教育目標も達成できたと思われる.その経緯を報告する.
著者
長谷川 祐司 竹内 勇剛
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.48, no.12, pp.3692-3702, 2007-12-15
被引用文献数
2

本研究では,ユビキタス・コンピューティング技術の発展にともなって増加することが予想される,物理的ないし時間的に制約のある公共空間での情報提供場面において,情報を個別化して提供することによってユーザの行動や態度を促進・抑制させるような情報提供手法を提案することを目的としている.本稿では,情報の効率的利用として従来から広く研究されてきた情報の個人化に対する概念として情報の個別化について述べ,情報が個別化されていることをユーザが認知するための要因について言及した.特に,提供されたコンテンツが個別化されているか否か,そのコンテンツを他者と共有できる状況にあるか否かの2 要因に着目し,ユーザの認知と行動にどのような影響を与えているかを観察するための実験室実験を行った.その結果,コンテンツを個別化することの有用性が示されたとともに,提供された情報を他者と共有することのできる環境で受け取ることによってさらにその効果が高まる可能性が示唆された.さらに実験室実験で得られた知見に基づいて実地実験を行い,その結果が現実社会においても十分な有効性を示すことを明らかにした.本研究において得られた知見から,情報の個人化という従来の視点に対し,人間の社会的認知傾向を考慮した情報の個別化という側面からの検討が,公共空間における個人間の差異を吸収した適切な情報伝達の実現に寄与することが期待される.In this psychological research we present an effective approach to convey individualized information in various real community spaces, which this research concerns ubiquitous information dissemination. We study the natural reception of information within the ubiquitous computing environment and consider the problem of conveying individualized information through psychological experiment. The experiments was conducted in the laboratory to observe the influence of information on experimental participants' acknowledgment and action. The result indicated the possibility that the contents were more effectively conveyed in populous circumstances. Moreover, we conducted the experiment on real location. The findings of this experiment indicated similar effectiveness to the result verified in laboratory, which suggests that the approach of this study to convey individualized information to each person is useful in public space.
著者
仲小路 博史 鬼頭哲郎 重本 倫宏 寺田 真敏 石山 智祥
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.52, no.1, pp.2-13, 2011-01-15

近年のP2P型ファイル共有ソフトウェアには通信自体の秘匿性を高めるための中継機能や,通信内容を隠すためのDiffie-Hellman鍵交換や,サービスポートを通信ごとに変更する機能が備わり,従来のIDSなどを使った手法では,調査対象とする通信がP2P通信であるかどうかを特定することが困難となってきた.本論文では国内で高いシェアを持つP2P型ファイル共有ソフトウェアWinnyの発展系であり,いまだ有効な対策が確立されていないWinnypを対象に,ディープ・パケット・インスペクション方式による通信検知機能の実装と性能の評価を行う.さらに,GPGPU(CUDA)に本機能を実装することによって,現在,コンシューマ向け接続サービスの中でも最も高速な1Gbpsのフルワイヤスピードにも適用可能なWinnyp通信検知装置を実装し,1,020台のノードによって構成される実験環境を用いて有効性を示す.
著者
小柴 等 相原 健郎 森 純一郎 小田 朋宏 星 孝哲 松原 伸人 武田 英明
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.63-81, 2010-01-15

本論文では,ブログとライフログを利用した記憶の想起と記録の支援システムの提案と,当該システムの一般ユーザにおける受容性について述べる.まず,ブログやライフログをめぐる現状の課題に関する概観について述べ,それらの課題を解決するために,ライフログデータをもとにしたブログ生成支援システムの提案と,支援システムを支える,ライフログデータからのユーザの興味・関心推定手法の提案を行う.次いで,実店舗と一般ユーザを用いた実証実験により,当該システムの有効性と受容性について考察を行う.実証実験の結果からは,ライフログデータをもとにしたブログ生成支援システムについて,ふだんブログに関する活動に積極的でないユーザからも多くの記事が編集されるなど,広く受容され,有効に機能したこと,筆者らの提案する興味・関心推定手法は,単純に滞在時間によって興味・関心を推定する手法に比べて,より高精度に興味・関心を推定できること,ライフログデータをもとにブログ記事のひな形を作成する際に,ユーザの興味・関心という主観を用いてデータを丸めることで,行動情報の取得に対する嫌悪感が低減され受容されやすくなる可能性のあること,などを示唆するデータを得た.We propose a methodology for memory recall and memo aid by an integrated system of blog and lifelog in this paper. We start off by discussing the relevant blog and lifelog issues. We then propose a solution that consists of two components. The first component is a blog authoring aid system based on lifelog data. It is a blog system integrated with lifelog for memory recall and memo aid. It automatically generates blog templates from lifelog data. The second component facilitates the interest estimate algorithm. The algorithm is implemented in the system in order to generate more acceptable blog templates. We have been conducting an experimentation using general customers as the subjects in an actually operating general store of up-to-date popular items. Our experimental results reveal that the proposed system supported the users to post blog entries. One interesting observation is that inactive blog users post as many blog entries as active blog users when using our system. The results also show that the proposed interest estimation algorithm is more accurate than a stay-time based method. In addition, it was found that the proposed method provides a positive result to reduce negative attitudes against behavior logging.
著者
安部 恵介 荒屋 真二
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.103-111, 1986-01-15
被引用文献数
19

列車運行管理への自動化技術の導入において 事故等によるダイヤ乱れからの速やかな復旧を図る運転整理は 複雑な組合せ問題であり 定量的評価も難しいため最も自動化が困難な分野である.そのため運転整理における計算機支援方式は シミュレーションをベースとした方式がとられており 緊急時における有効性の点からシミュレーションの効率化が強く要求されている.本論文では まず運転整理における列車運行モデルに対し その制約条件をグラフ表現する方法を示す.そして シミュレーションをグラフ上の最長径路探索として効率的に行う最長径路方式を提案する.また 運転整理では部分的条件変更が繰り返されるという特徴に着目して 変更影響の波及部分のみを求めて最長径路長を更新することにより 実際的観点からいっそう効率化を図ったパラメトリック方式も提案する.これらのグラフ方式では 従来の一般的なイベントシミュレーション方式に比べて 計算時間が大幅に短縮される.また条件変更に対してはグラフの修正で済み 変更矛盾によるデッドロック発生は グラフのサイクルとして発生箇所のみならず原因も速やかに提示できるという利点もある.数値実験によりこれらの方式の有効性を検討する.
著者
湯浅 夏樹 上田 徹 外川 文雄
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会論文誌 (ISSN:18827764)
巻号頁・発行日
vol.36, no.8, pp.1819-1827, 1995-08-15
被引用文献数
25

本稿では、特徴ベクトルを用いて自動的に文書分類を行う二つの手法を提案する。一つは、大量の文書データを用いて、同一記事中の単語間共起関係から分野の特徴を表す単語出現頻度分布の近似値を求め、この値を要素とする特徴ベクトルを用いて文書を分類する手法である。もう一つは、EDRの辞書をシソーラスとして用い、単語間の類似度を求め、この単語類似度を要素とする特徴ベクトルを用いて文書を分類する手法である。これらの手法を人手による分類と比較したところ、単語間共起を用いた手法では83.5%の記事が正しく分類され、易しい記事だけに限定すれば98.0%の記事が正しく分類されることが確認できた。また、シソーラスを用いた手法では、63.75%の記事が正しく分類されることが確認できた。