- 著者
-
竹内 勇剛
- 出版者
- 静岡大学
- 雑誌
- 若手研究(B)
- 巻号頁・発行日
- 2002
本研究は,知的人工物と人間との日常的な生活環境の中での自然なコミュニケーションの実現を目指し,知的人工物の知性と身体性に対する人間の認知的姿勢に基づいた適切なコミュニケーション環境モデルを提案することを目的とした.そこでまず,様々な状況におけるコンピュータやエージェントの一般的な利用場面を通して,それらの知性と身体性がどのような認知的姿勢のもとでそれらと人間との間の社会的なインタラクションに寄与しているかを検討した.この際,心理学的手法を用いた実験に対して統計的な分析を行なうことで,より定量的な視点での考察が可能になる.その結果,人間はアバターのように背後に実在する人間が操作しているような対象に対して,設計者が想定するように「アバター」として機能していることを基盤とした反応をせずに,インタラクションの実際の対象となっているアバターの像そのものに,人格性を帰属させた対人的反応を示すことが明らかになった.すなわち,人間はたとえ仮想的で実体を伴わない人工物であっても,その振る舞いが知的であると認知されると,そこに独立した人格性を帰属させ,背後にある様々な"仕組み"も対面している人工物自身の機能として認知してしまう反応をするのである.さらに,仮想的な身体を有した人物像との対話場面において,人間はその人物像のもつ身体的機能(視認・聴取・口述)を自然なものとして認知し,たとえば画面上に表示された人物像に対して,直接手にとったものを見せたり,話し掛けたり,人物像が発する音声が聞き取りづらいときに画面に近づいて耳を傾けるなどの間身体的反応が観察された.これらのことは,Reeves & Nass(1996)で主張されているMedia Equationパラダイムに基づく人工物とのインタラクションモデルを実証的なデータにも基づいて支持するものであり,ロボットなどの実体を伴った人工物とのインタラクションと仮想的な身体をもった知的人工物との特別な心理学的差異は存在しないことを示唆するものとして意義深い成果となった.