著者
服部 朝子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.9, no.4, pp.4_78-4_88, 1986-09-01 (Released:2016-03-31)
参考文献数
19

人間を統合された全体的存在として捉える立場は,看護科学の立場として諸家の同意を得ている。そして,人間の統合性・全体性を表現する上で,時間・空間概念が重要な鍵を握っている。しかし,看護を学び始めて間のない学生達が,「統合された全体的存在」という意味を,真に理解することは甚だ難しい。そこでその意味を,学生達に実感的に理解させるために,視覚遮断状況下で日常生活活動を体験させる試みを行った。その結果,視覚遮断状況下では,1)空間認知が曖昧で不鮮明になり,2)残存感覚を用いても抽象概念の把握が困難であり,3)動作が緩やかで大きくなるため,結果として時間認知が実際よりも遅くなる。それに伴い日常生活動作は,残存感覚をフルに生かし,行動をパターン化するというように変化する。視覚遮断状況下での体験学習は,統合された全体的存在の意味を理解する上で,学習素材として意義がある。
著者
福本 環 岩脇 陽子 松岡 知子 北島 謙吾
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.37, no.5, pp.5_45-5_53, 2014-12-01 (Released:2016-03-05)
参考文献数
98

目的:性暴力被害者に対する看護支援に関する研究の動向を検討し,今後の看護実践への示唆と研究課題を明らかにする。 方法:国内文献はキーワード「性暴力被害」とし『医中誌Web版』にて検索した52件を,外国文献はキーワード「rape victim」「sexual assault victim」「nurse」とし『PubMed』と『CINAHL』にて検索した39件を分析対象とした。年次推移別,研究内容別,研究方法別,研究対象別に分析した。 結果:国内では看護者による具体的なケアを検討した内容はほとんどなく,総説が7割以上を占め,質的研究はみられなかった。これに対し,海外では日本より約20年早く研究が開始され,看護者や実際の支援場面が取り上げられており,量的研究約3割,質的研究約2割であった。結論:日本においては内閣府による性暴力被害者支援施策が進められており,看護者が主体となって支援することが求められている。看護者の支援内容を具現化する研究や,看護者へのケアに関する研究の必要性が示唆された。
著者
岡本 亜紀 國方 弘子 茅原 路代 渡邉 久美 折山 早苗
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.31, no.5, pp.5_79-5_87, 2008-12-01 (Released:2016-03-05)
参考文献数
42

本研究は,精神疾患患者を支える家族を対象に,生活困難を抱える家族のストレス反応の軽減と患者の病状悪化を予防するための看護実践の基礎資料を得ることを目的として,患者受容,生活困難度,対処行動,批判的態度の因果関係を検討した。結果,中国四国圏内に住む150名の家族から質問紙調査の回答が得られ,患者受容とストレス対処行動(情緒優先対処行動)は,生活困難度を介して間接的に患者への批判的態度を規定するとともに,患者受容は直接的に批判的態度へ影響する因果モデルが支持された。決定係数は,生活困難度に対し0.34,批判的態度に対し0.47であり,生活困難度の分散の34%が患者受容と情緒優先対処行動によって説明でき,批判的態度の分散の47%が患者受容,情緒優先対処行動,生活困難度によって説明できることが示された。以上のことから,統計学的な根拠に基づいた家族へのストレス支援の手がかりが示唆された。
著者
磯谷 文衣 工藤 せい子 山辺 英彰 斉藤 洋子 鳴海 肇子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.1_73-1_82, 2000-04-01 (Released:2016-03-31)
参考文献数
11

糖尿病は自覚症状に乏しいため受診中断者が多い。 本研究では,継続して受診ができるような患者教育を検討する目的で,糖尿病性腎症による透析患者を対象に,家族・治療背景,健康観と性格特性を調査し検討した。 その結果,受診の中断には,治療背景が関係していた。 特に中断者は糖尿病教室の初期受講率が低かった。 理由として病院で糖尿病教室が定期的に開催されていないという理由もあった。 健康観については,MHLC を使用し,その結果,PHLC 得点が高く,他者に依存する傾向が強かった。 TEG では男性の受診継続者は平坦型(適応タイプ),中断者は FC 低位型傾向。 女性は両群とも NP 優位型(世話焼きタイプ)を示した。 受診継続ができない患者の健康観,性格特性を把握することの重要性が示唆された。 これらをもとに患者が指導を受ける機会を充実すること,患者・家族指導を行う際の指針が得られた。
著者
浅海 菜月 安達 圭一郎 大神 綾夏
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
pp.20220126178, (Released:2022-12-23)
参考文献数
19

目的:心理的安全を用いたモデルを看護師の職務場面に応用するため,看護師の心理的安全認識を測定する「日本語版チームに対する心理的安全尺度看護師用(JPSN)」を作成し,信頼性と妥当性を検討した。方法:Amy Edmondson(1999)のTeam psychological safety scale を開発者の許諾を得て翻訳した。逆翻訳と研究者間のレビューを行い暫定版を作成し,病棟看護師チームに所属する看護師を対象に無記名自記式質問紙を用いてWeb調査を行った。結果:515名を分析した。探索的因子分析にて原版同様の1因子7項目が抽出され,確認的因子分析にて良好な適合度を示した。尺度全体の信頼性係数(.787)と構成概念妥当性の検討より,信頼性と妥当性が示された。結論:JPSNは本邦の看護師に使用できることが確認された。今後,心理的安全認識と看護実践との関連性の探求が期待される。
著者
泊 祐子 赤羽根 章子 岡田 摩理 部谷 知佐恵 遠渡 絹代 市川 百香里 濵田 裕子 叶谷 由佳
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.4_841-4_853, 2022-10-20 (Released:2022-10-20)
参考文献数
35

目的:小児の利用者のいる訪問看護ステーション(以下,訪問看護St.)において属性と他施設・多職種との連携困難,診療報酬が算定できないサービスの実施状況の地域差を明らかにする。方法:無作為に抽出した指定小児慢性特定疾病訪問看護St.に質問紙調査を行った。結果:回収した455部を,都市部(31.4%),中間部(31.4%),郡部(36.3%)の3群で比較した。都市部と比べて,郡部では訪問距離「片道15km以上」が61.8%と多く,小児利用者数は4.8±7.0人と少なかった。医療的ケア児数には有意差がなかった。他施設・多職種連携困難は,「退院調整会議での連携に困難を感じる」が都市部より郡部が有意に多かった。また,診療報酬が算定できないサービスの実施は「受診時の訪問看護師の同席」が都市部より郡部が有意に多かった。結論:どの地域でも訪問看護St.が機能しやすい仕組づくりの必要性が確認された。
著者
平野 蘭子 小山 眞理子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.41, no.5, pp.5_971-5_981, 2018-12-20 (Released:2018-12-21)
参考文献数
30

目的:新任プリセプターが新人看護師指導において体験する指導上の困難とその困難を乗り越えるためにとった行動や求める支援を明らかにし,指導上の困難を乗り越えるための支援を検討する。方法:初めてプリセプターの役割を担う看護師11名に対し,半構成的面接を行い質的記述的に分析した。結果:指導上の困難は新人の理解度を把握するむずかしさ,自分の知識や指導への自信のなさ,同僚からの指導の協力の得にくさ等であった。困難を乗り越えるために新任プリセプターは同期とのかかわりや指導者としての自覚等を支えに,上司や先輩への相談,同期との悩みやつらさの共有等の行動をとっており,精神的支援者の配置,指導内容や方法の伝授等の支援を求めていた。結論:新任プリセプターが指導上の困難を乗り越えるための支援として,指導体制の整備,同期や同僚との心理的つながりの構築,プリセプター経験を肯定的にとらえられるようなかかわりが重要である。
著者
上田 恵美子 古川 文子 小林 敏生
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.29, no.5, pp.5_39-5_47, 2006-12-01 (Released:2016-03-31)
参考文献数
38

スタッフナースの心身の健康は,患者に対する看護の質を保証する上で重要な課題であるが,その実態と影響要因については明らかでない。本研究では,健康関連QOL(HRQOL),職業性ストレス要因,緩衝要因,個人要因の実態把握,各要因間の関係探索,HRQOLに及ぼす影響要因の検討を目的とした。対象者は近畿圏のスタッフナース500名で,HRQOLにSF-36下位尺度4項目,職業性ストレス要因に小林らの看護職職業性ストレス尺度,緩衝要因に影山らのコーピング尺度,自意識に菅原の自意識尺度を用い自記式質問紙調査を行った。その結果,SF-36の活力(VT)と心の健康(MH)は,20歳代,現喫煙者,看護職不向きと思う者,公的自意識の高い者が有意に低かった。またVTは達成感,気分転換,量的負荷からの影響,MHは質的負荷,達成感から有意な影響を受けていた。今回,主として達成感の充足支援と仕事負荷のコントロールがHRQOLの改善に重要であることが示唆された。
著者
劉 筱丹 阿曽 洋子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.34, no.2, pp.2_75-2_84, 2011-06-01 (Released:2016-03-05)
参考文献数
24

本研究は,看護の専門職的自律性測定尺度の中国語版を作成し,中国H省H市医科大学付属病院の臨床看護師450名を調査対象者として,信頼性と妥当性の検証を行なった。また,中国における職位および経験年数と自律性の関係を明らかにした。尺度の中国語版と日本語版では因子構造に違いがみられた。専門職的自律性の平均得点は,職位の高いものは専門職的自律性も高い傾向がみられた。また,経験年数が増えるにつれて,専門職的自律性の平均得点が上昇する傾向もみられた。 中国においては,看護師の免許は2年毎の更新制であることに加え,高い業務上職位を得るためには,継続教育を受ける必要がある。このようなシステムが自律性の形成に寄与している可能性がある。経験年数増加に伴う自律性平均得点の上昇傾向は,仕事を続けやすい社会的背景が一因と考えられた。
著者
大塩 佳名子 流郷 千幸
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.4_761-4_770, 2022-10-20 (Released:2022-10-20)
参考文献数
28

目的:夫婦を対象にし,夫婦関係満足度が児の泣きに対する育児困難感へ影響を与えるかを明らかにすることである。方法:A県内で生後3〜6か月の児をもつ父親および母親を対象とし,無記名自記式質問紙を配布した。質問紙は基本属性,夫婦関係満足度,児の泣きに対する育児困難感,対児感情(接近感情,回避感情)の3つを調査項目とし,重回帰分析,媒介分析を行った。結果:夫婦ともに回答のあった100人(父親50人,母親50人)から有効回答を得た。父親は夫婦関係満足度が父親の接近感情を媒介し,児の泣きに対する育児困難感に影響を与えていた。母親の児の泣きに対する育児困難感に影響を与えていたのは回避感情が最も強く,次いで接近感情,夫婦関係満足度であった。結論:父親・母親ともに夫婦関係満足度が児の泣きに対する育児困難に影響を与えていたことから,夫婦関係満足度を高めることで児の泣きに対する育児困難を軽減させることが示唆された。
著者
西田 千夏 合田 友美
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.45, no.4, pp.4_771-4_781, 2022-10-20 (Released:2022-10-20)
参考文献数
20

目的:発達障害特性が感じられる看護師への合理的配慮を含めた現任教育に関する実態調査から,その現状と課題を明らかにする。方法:看護師長等の看護管理者へ,無記名自記式質問紙による調査を実施した。調査内容は,発達障害の診断を受けていることを申告,または「発達障害特性があるのではないか」と看護管理者が感じる看護師の特性や教育上の配慮,合理的配慮に関する考え,等である。結果:看護管理者の認識する課題には,コミュニケーションの取りづらさ,本人が特性を自覚する必要性,他の看護スタッフとの関係,および合理的配慮の周知が存在した。結論:合理的配慮を申告しやすいシステム作りと,感情に焦点を当てすぎない面接により本人の自覚を促すことが必要である。発達障害特性について学びを深め,他のスタッフと一緒に解決方法を探り,到達目標の具体化と業務・環境調整の重要性が示唆された。
著者
江口 瞳
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.40, no.4, pp.4_603-4_612, 2017-09-07 (Released:2017-10-21)
参考文献数
18

先行研究をもとに倫理的ジレンマ尺度のアイテム80項目を作成し,全国がん診療連携拠点病院と全国緩和ケア病棟の,終末期がん患者の看護に携わっている看護師4,500人に調査し,1,337名の回答を得た。項目分析,因子分析の結果7因子58項目が採択され,第Ⅰ因子から,【説明不足により患者・家族の選択権が保証されていない】【意思決定を支援するための看護が見出せない】【患者のニーズに応じた看護を提供できていない】【医師との意見が食い違う】【患者の状況よりも化学療法や延命処置が優先される】【患者が置き去りにされたまま治療が進む】【患者と家族の意見が食い違う】であった。因子全体の尺度のCronbach’α 係数は .861であり,内的整合性が確認された。撫養ら(2014)の看護師の職務満足度尺度を基準とするPearsonの積率相関係数はr =-.260(p<.01)であり負の相関が認められた。
著者
浅海 菜月 安達 圭一郎 大神 綾夏
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.45, no.5, pp.5_897-5_903, 2023-01-20 (Released:2023-01-20)
参考文献数
19

目的:心理的安全を用いたモデルを看護師の職務場面に応用するため,看護師の心理的安全認識を測定する「日本語版チームに対する心理的安全尺度看護師用(JPSN)」を作成し,信頼性と妥当性を検討した。方法:Amy Edmondson(1999)のTeam psychological safety scale を開発者の許諾を得て翻訳した。逆翻訳と研究者間のレビューを行い暫定版を作成し,病棟看護師チームに所属する看護師を対象に無記名自記式質問紙を用いてWeb調査を行った。結果:515名を分析した。探索的因子分析にて原版同様の1因子7項目が抽出され,確認的因子分析にて良好な適合度を示した。尺度全体の信頼性係数(.787)と構成概念妥当性の検討より,信頼性と妥当性が示された。結論:JPSNは本邦の看護師に使用できることが確認された。今後,心理的安全認識と看護実践との関連性の探求が期待される。
著者
菅沼 真由美 佐藤 みつ子
出版者
一般社団法人 日本看護研究学会
雑誌
日本看護研究学会雑誌 (ISSN:21883599)
巻号頁・発行日
vol.34, no.5, pp.5_41-5_49, 2011-12-01 (Released:2016-03-05)
参考文献数
45

本研究の目的は,認知症高齢者の家族介護者(以下介護者と略す)の支援への示唆を得るために,介護者の介護評価と対処方法の特性について検討した。介護施設に通所している認知症の症状のある高齢者と同居している主介護者401名に質問紙調査を行い,回収率は60.3%(242名)であった。その結果,認知症の症状に対応できる介護者は肯定的評価が高く(p=.000),否定的評価が低く(p=.001),さまざまな対処方法を活用していた(p=.000)。認知症の症状に対応できない介護者は,認知症の症状がわからない(p=.000),相談相手がいない(p=.032)介護者に多かった。介護評価と対処方法の関連は,肯定的評価と対処方法はやや強い正の相関(p<.01),否定的評価と対処方法は弱い負の相関(p<.01)が認められた。このことから,肯定的評価を高め否定的評価を軽減するためには,認知症の症状に対応できること,多様な対処方法がとれるように支援する必要性が示唆された。