著者
小達 恒夫 石沢 賢二
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.108-129, 2010-03-30

第50次南極地域観測隊夏期行動の概要を報告する.第50次隊は総勢46名で構成され,このうち越冬隊は28名,夏隊は18名であった.他に夏隊同行者として,1名が参加した.昭和基地方面で夏期行動を展開した第50次観測隊本隊は,オーストラリアの観測船「オーロラ・オーストラリス」を活用した.観測隊本隊は12月25日に航空機で出発し,西オーストラリアのフリーマントルで「オーロラ・オーストラリス」に乗船した.「オーロラ・オーストラリス」は12月30日に同地を出港し,海洋観測を実施しつつ1月12日に氷縁に到着した.1月13日に昭和基地第1便が飛び,2009年2月2日の最終便までの間に,第50次越冬隊成立に必要な物資(91.8トン)の輸送と越冬隊員の交代を完了した.この期間の観測計画では,「オーロラ・オーストラリス」船上において氷海内の海洋観測を実施した.昭和基地における設営計画では,「しらせ」後継船就航に伴う輸送システムの整備として,道路整備工事,ヘリポート待機小屋建設等を実施した.往復の航路上では,海洋観測を実施し,ホバートに2月20日に到着,観測隊は航空機で2月24日に帰国した.一方,航空機により南極へ入りセール・ロンダーネ山地へ向かった隊は11月16日に成田を出発し,DROMLANチャーター機により,11月23日,プリンセスエリザベス基地(ベルギー)に到着した.同隊は,セール・ロンダーネ山地の西部で野外調査を実施した後,2月11日にケープタウンに戻り,2月17日に成田空港へ到着した.
著者
工藤 栄 田邊 優貴子 内田 雅己 掘 克博
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.226-235, 2010-11-30

南極湖沼中に設置し,湖底の植物群落の1年にわたる映像記録を捉える目的で水中ビデオシステムの開発を行った. システムはビデオカメラ,制御部,レンズ汚濁防止ワイパー(水中モーター),照明用LEDとリチウム電池から構成されたものである. 市販のハイビジョン方式のビデオを採用し,レンズ汚濁防止ワイパーの動作を簡潔化して,以前試作したビデオシステムよりも消費電力を増やすことなく記録感度を向上させることができた. この機材を第51次日本南極地域観測隊夏行動期間中に,宗谷海岸のスカルブスネス「長池(仮称)」湖底に潜水作業により設置し,一年間の湖底のインターバル撮影を開始した.
著者
半貫 敏夫 三橋 博巳 佐藤 稔雄
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.84, pp.120-130, 1985-03

南極氷床上に建設された観測用建物は, ほとんどの場合耐雪構造体の中に配置され, これら全体が雪面下にある。他方, みずほ基地では掘削した雪洞の中に建物を配置する方式を採っていて, ここでは雪面下の建物を雪圧から保護するための本格的な耐雪構造体はなく, 部分的に雪洞の形を保つための支保工が施されているにすぎない。小規模な基地ではこのみずほ方式が魅力的である。本論文では, この雪洞型の基地をつくる場合の難点である雪洞建設について一つの省力化試案を提出した。それは雪面下で雪洞を掘削するかわりに, 貯雪柵の組み合わせや簡易耐雪構造体を用いて雪面上に建てた建物周辺を覆い, このまわりに雪を積もらせて雪洞にしようというものである。この雪洞建設方法の実現の可能性を確かめるために, 軽量で取り扱いが簡単な網を素材にした貯雪柵の防風, 貯雪性能に関する予備的な風洞模型実験を行った。その結果, 網の防風, 貯雪性能はその充実率φによって大きく影響されるが, 適切な網を選択すれば貯雪柵として十分に役立てられるという感触を得た。現在さらに実験精度を吟味した風洞模型実験を継続している。
著者
工藤 栄 田邊 優貴子 井上 武史 伊村 智 神田 啓史
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.114-122, 2009-03-30
被引用文献数
1

南極の陸域環境の植物の分布と定着は,洪水をも含む環境の物理的撹乱による制限を強く受けていると考えられる.近年(第47次観測隊以降),日本南極地域観測隊の活動を通じ,東南極宗谷海岸のラングホブデ域にある氷河池(仮称)の多年性雪の堤防に大きな穴が開き決壊したことを確認した.同様の現象は約25年前にも報告されている.以前の穴はその後閉塞し,今回の決壊直前まで氷河融解水が涵養した湖沼となっていたが,現在ではその湖水のほとんどが失われ,湖の面積は著しく縮小している.ラングホブデ南部にある隣接したいくつかの渓谷及び湖沼は,土壌藻類・地衣類・蘚類や湖底藻類蘚類群落が発達した地域として知られている.これらの中で,氷河池内やこの雪の堤防の下流側の渓谷(やつで沢)にはごく乏しい植生しか見出すことはできない.この対照的に貧弱な植生の分布と定着状態は,繰り返し発生する堤防の決壊による物理的撹乱が湖沼内及びその下流側での植物の分布・定着を制限した結果であると考えられる.この報告を通じ,著者らはこの地域の氷床の融解量の変化の評価とともに,露岩域での生態学的研究及びこのエリアで今後とも行われる観測活動に際しての安全確保という観点から,この多年性雪堤防と氷河池の長期監視の重要性を訴えるものである.
著者
斉藤 満 関 剛 細谷 昌之
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.410-440, 1992-11

この報告は, 南極氷床ドーム深層掘削計画に使用するため, 新たに開発した大型雪上車の基本性能及び総合性能の試験結果について述べたものである。試験した結果, この雪上車は, 設定した性能及びシステムデザインのねらいをおおむね満足しているが, 構造の一部に不具合部分があることも認められた。試験は, 再現性を有し類似車両と性能の比較ができるコンクリート舗装路及び南極の積雪の硬さを模擬して造った転圧雪路で行った。
著者
竹内 貞男 喜納 淳 細谷 昌之 吉田 治郎 石沢 賢二
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.36, no.3, pp.p363-375, 1992-11

日本南極地域観測隊は, これまで4種類の雪上車を使って調査活動を続けてきた。それらの雪上車は用途別に内陸氷床上用と沿岸・海氷上調査用の2つに分類できる。内陸用の雪上車はこれまでSM50S型中型雪上車を使用してきたが, 「南極氷床ドーム深層掘削計画」も提言されるなど, 調査区域が年々内陸奥地に広がり, より低温性能のよい大型雪上車の開発が要望されていた。そのため, 国立極地研究所設営専門委員会に雪上車設計作業委員会を設置して, 現有のSM50Sの技術的課題を分析し, この結果を基に新型雪上車の開発を実施した。この雪上車は国内での試験走行の後, 1991年に南極に搬入され, 1992年の冬期には南極氷床で走行し, ほぼ予想された性能を発揮した。
著者
喜納 淳 細谷 昌之 竹内 貞男 金内 賢
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.218-237, 1988-07

昭和基地ならびに沿岸地域で使用する小型雪上車を国立極地研究所設営専門委員会小型雪上車設計作業委員会が開発した。この雪上車は, 主として氷上で行動することから, 軽量化を図ることを開発の条件の一つとした。このため, 動力伝達システムには全油圧駆動方式を採用した。この方式は, 日本の南極観測では始めてのことであるので, 低温下での始動試験, 始動に用いるバッテリーの持続試験を行った。全油圧駆動方式に伴う車両の操縦上の問題について試験を行い, 必要な改善策を講じた。また, 車両のピッチングを減少するために, 懸架装置についての試験も行い, 必要な改善を行った。完成した新小型雪上車は第28次観測隊により昭和基地に搬入され使用されている。
著者
成田 英器 前野 紀一
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.67, pp.11-17, 1979-10

南極みすほ基地て掘削回収した雪試料を用い,その試料の薄片から結晶粒の平均断面積を測定し,深さ50mまての結晶粒の成長過程を調べた.結晶粒の平均断面積は時間に比例して増加した.しかし,結晶粒の成長曲線は深さ約35mて不連続となった.成長曲線のこう配から求められる結晶粒の成長速度は深さ35mより浅い所の値より35m以深の値の方が2倍も大きかった.この違いは,積雪の荷重による応力増加のためか,35m以深の雪の層て雪の年間蓄積量を過少評価したためと考えられる.35m以浅て得られた結晶粒成長速度をほかの観測結果と比較することにより,みずほ基地の年間蓄積量は約70kg m^<-2>a^<-1>と見積られた.結晶粒の成長曲線が深さ約35mて不連続になること,およびその層て成長速度が急に増加することから,この雪が蓄積した頃,雪の蓄積量の少ない寒冷な時期が襲来したことが示唆された.結晶粒成長曲線から,寒冷期は約340年前に約70年間続いたと推定される.
著者
吉田 栄夫
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.31, no.3, pp.186-205, 1987-11

第27次南極地域観測隊は, 吉田栄夫隊長以下50名(うち内藤靖彦越冬隊長以下35名が越冬隊)で編成され, これに南極輸送問題調査会議の村山南極本部委員をはじめ, 運輸省船舶技術研究所, 海上保安庁からの調査者4名が夏期間同行した。1985年11月14日東京湾を出港した「しらせ」は, オーストラリアのフリマントル港に寄港中, エンダービーランド沖で40日余りにわたって厚い密群氷のため行動の自由を失った, オーストラリアがチャーターした観測船「ネラ・ダン」救出の命令を受け, 航路や観測の一部を変更して直行し, 12月14日氷からの解放に成功, 16日その任務を完了した。この後ブライド湾沖に12月10日に到着, 約110tの物資輸送, あすか観測拠点の発電棟建設, ブライド湾でのバイオマス観測などを行い, 8名のセールロンダーネ地学調査隊を残して, 「しらせ」は12月31日昭和基地へ向かい, 1986年1月4日昭和基地に到着し, 約760tの物資輸送, 鉄骨2階建て作業工作棟ほかの建設作業, 航空機の搬入と短期間の運航, 野外調査などを実施した。2月7日, 昭和基地近傍を離れて再びブライド湾に向かった「しらせ」は, リュツォ・ホルム湾の厚い密群氷帯の突破に2日間の苦闘を強いられたが, 2月11日ブライド湾に到着し, 第26次越冬隊の内陸調査隊, 第27次夏隊のセールロンダーネ調査隊を, 11日, 12日に収容し, その後係留ブイ揚収ほかのブライド湾バイオマス観測, グンネルスバンク, リュツォ・ホルム湾沖などの氷縁付近から北上航路での海洋観測などを天候の許す限り実施しつつ, ポートルイス, シンガポールを経て, 4月20日東京港に帰港した。
著者
福西 浩
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.77, pp.93-110, 1983-01

第22次南極地域観測隊の夏期行動の概要を述べる。吉田栄夫隊長以下隊員44名と約450tの観測隊物資を搭載した砕氷船「ふじ」は, 1980年11月25日東京港を出航した。「ふじ」は12月31日に昭和基地より約200海里の氷縁に着き, パックアイス帯, 定着氷域を一気に進み1月1日昭和基地より21海里の第1空輸拠点に到達した。その後輸送, 建設作業, 野外調査とも当初計画通りきわめて順調に進行した。本格輸送は1月3日より開始され, 15日までには油以外の物資の輸送はほぼ終了した。そして28日までにすべての物資が輸送された。情報処理棟, 海事衛星地球局, 西オングル島超高層無人観測所, 大型ロンビック短波受信アンテナ等の建設作業も2月3日までにすべて終了した。野外活動では, 昭和基地周辺で生物潜水調査を15回実施した他, プリンスオラフ海岸の天文台岩, あけぼの岩, 新南岩の測地・地質調査, また大陸上での人工地震実験, 気水圏みずほ旅行等を予定通り実施した。2月6日「ふじ」は昭和基地をあとにし, 2月10日から13日の間, 日・ソ超高層共同観測のためマラジョージナヤ基地を訪問した。そして2月19日氷縁を離れ, ポートルイスまでの間, 13ヵ所で海洋物理・化学・生物の停船観測を実施し, 1981年4月20日東京港に帰着した。
著者
斎藤 尚生 三澤 浩昭 佐藤 夏雄 赤祖父 俊一 Sun W. Deehr C. S.
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.233-258, 2009-11-30

地磁気嵐とその発生起源である太陽現象をペアとして捉える太陽・地球電磁関係物理学の手法に従い,従来のフレア型急始(Sc)嵐,コロナホール型緩始(Sg)嵐,フィラメント消失型Sc嵐のほかに,本研究では新たに次のような赤道横断磁気ループ型Sc嵐が見出された. 太陽の赤道を跨ぐ大きな磁気ループ(Transequatorial loop:TELと略称)が急激に膨張,爆発して,大規模なコロナ質量放出(CME)を発生させる事実は半世紀以上前から観測され,太陽のふち(limb)現象として,太陽物理学分野で大きく注目されてきた.このTEL型爆発は太陽のふち(limb)で頻繁に観測されるからには,太陽正面でも発生するはずであると推定して調べたところ,ディスク中心付近でかすかな線条構造が認められてから数日後に,地球で磁気嵐が発生していることが見出された.この線条付近ではフレアもフィラメントもコロナホールも認められなかったことから,これは新しいTEL型Sc嵐であると認定した.このようなTELは南北両半球にある黒点群または黒点消滅後の残留磁域とつながっているので,磁気ループの軸磁場の方向が求められる.この軸磁場は惑星間磁場(IMF)の強いBz成分を生むので,その地磁気嵐構成への影響について調べた.TEL型Sc嵐については,将来様々な興味深い研究成果が期待されるが,現時点で考えられる様々な課題についての提言がなされた.
著者
渡邉 研太郎
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.53, no.1, pp.9-54, 2009-03-30

第41次南極地域観測越冬隊(第41次越冬隊)は40名で構成され,全員が昭和基地で越冬し,所期の観測をほぼ実施して2001年3月28日,全員無事帰国した.2000年2月1日,第40次越冬隊より基地運営を引継ぎ,翌2001年2月1日に第42次越冬隊へ引き継ぐまでの間,第V期5カ年計画の4年次にあたる観測・設営活動を実施した.設営活動は,昭和基地整備計画(10カ年計画)の9年次として計画された,夏期隊員宿舎の増設,設備更新を主としたものだった.観測系ではみずほ基地滞在による吹雪観測,航空機による基地上空の大気採集や内陸大気観測等を行い,やまと山脈域での隕石探査では50 kgを超す鉄隕石を含む3554個の隕石を採集した.予想外の出来事としては試験的に持ち込んだ10 kWの風力発電装置が7月初頭の大型ブリザードにより倒壊したほか,12月中旬に発電棟内の燃料タンクから軽油が棟外へ漏れる事故があった.
著者
日高 秀夫 立川 涼
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.80, pp.14-29, 1983-12

第22次南極地域観測(1980-1982)において採取した大気, 雪, 海水, 魚介類などの有機塩素化合物(DDT, PCB, HCH)を分析し, 昭和基地周辺の環境濃度と, 基地活動による汚染について検討した。昭和基地の風上方向約13kmのとっつき岬で採取した雪の有機塩素化合物濃度と組成は, みずほ基地の風上約0.6kmの雪とほぼ同じであった。とっつき岬と昭和基地近辺の海水では, 濃度は同レベルであったが, PCB組成が若干異なった。海氷下の水の動きも考慮し, とっつき岬には大気・海水経由での基地からの汚染はないと判定した。基地近辺で採取した底生魚のショウワギス中のPCB濃度は, とっつき岬で採取したショウワギスより約30倍高く(p<0.001), DDTは約2倍高かった(p<0.01)。基地近辺の底生生物は, 南極地域外の魚と比べると低濃度ではあるが, 基地から漏れたPCBによる汚染をかなり受けており, DDTにも若干の影響を受けていると結論づけられる。今後, 基地からの汚染をなくすための, より厳密な廃棄物対策が必要であり, とくに, これらの有機塩素化合物汚染の推移と新たな汚染物質に対応するため, 底生魚を中心とする計画的な試料の採取と保存が望まれる。
著者
星合 孝男
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.35, no.2, pp.i-iv, 1991-07-30
著者
佐藤 健 東島 圭志郎 安ヶ平 一也 村方 栄真
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.409-471, 2003-11

昭和基地の地上気象観測装置は,第39・40次隊により1997年と1998年の2カ年計画で更新された. 新システムは,1999年2月1日より正式運用を開始したが,その後1年間は旧装置での観測も継続して行い,両装置の比較のためのデータを取得した. 比較観測の結果から,次のことが分かった.1) 両装置の観測データは,概ね精度の範囲内で一致し,新旧データの均質性が保たれていた.2) しかし,一部の要素については,観測値に僅かであるが無視できない差異が生じていた.3) これらの差異は,測器感部やデータ処理の方法,設置位置の変更など装置の仕様変更に起因していた. 本稿では,これら両装置の観測値の差異とその特徴,データの均質性などについて考察した結果を報告する.
著者
神沼 克伊
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.31, no.2, pp.155-162, 1987-07

日本の1986-1987年の国際共同観測は「マクマードサウンド地域の地球科学的研究」を継続した。神沼克伊(国立極地研究所), 三浦哲(東北大学理学部), 和田秀樹(静岡大学理学部)の3名が1986年11月中旬から1987年1月中旬まで, ニュージーランドのスコット基地に滞在し, 共同観測を実施した。主なテーマは1) CIROS (Cenozoic Investigation in the Western Ross Sea) 2) IMEEMS (International Mount Erebus Eruption Mechanism Study)の二つである。CIROSはロス海氷上での掘削プロジェクトで702mの掘削に成功し, 日本の分担したガス分析を和田が実施した。IMEEMSはエレバス山の噴火機構の研究で, 神沼と三浦が日本の分担課題を実施した。
著者
芳野 赳夫
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.11, pp.948-953, 1961-01

1.目的 万年雪,高圧気泡入氷からできた氷冠域において,雪氷の高周波誘電特性雪,表面の電波の反射吸収特性,比抵抗等を測定することにより,極地方の氷冠内における電波伝播特性の解析,氷冠上にて使用するアンテナの設計,通信回線の設計等のための資料を得ることを目的とし,1.5,10,100,250,300,400,3000Mcの各周波数毎に,(1)容量置換法,レッヘル線により,誘電率,誘電体損(tanδ)を,(2)ハイトパターン法により反射,吸収係数を,コーラウシュブリッジにより比抵抗を測定し,数種のアンテナにより通信を行ない電界強度を測定した.また気温逆転層による300,3000Mcのフェーディング特性,万年雪にまい没したアンテナと空間のアンテナとのインピーダンス,指向性パターン等も測定した.2.結果 実測の結果,万年雪および氷冠氷の比誘電率の値は非常に小さく,周波数の増加,密度の減少とともに減少する.誘電体正切特性の値も非常に小さく,周波数の増加とともに激減する.反射係数もHF帯では小さく,周波数の増加とともに増加する,従って氷冠の雪氷上で使用するアンテナは表面の雪の比誘電率が1に非常に近いので,雪面上に直接導線を置くだけの非常に簡単なアンテナで,ほぼ自由空間とみなし得る輻射が得られることが解り,秋春の大陸旅行において実証することができた.なお,測定に使用した機器は昭和基地にて製作したため帰国後検定中であり,期日の都合で今回は現在までに得られた較正データのみ中間報告として発表する.海氷上の電波伝播はVHF以下の周波数帯では大略海水面と同じ特性を示し,UHF以上はその表面の状態(氷,雪)の影響が大きい.なお偏波面は氷冠上が水平,海氷上は垂直が良いようであった.
著者
佐藤 夏雄 鮎川 勝 福西 浩
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.68, pp.181-202, 1980-02

昭和基地のほぼ地磁気共役点にあたる,アイスランドのHusafelにおいて,1977年7月29日から約50日間,ELF-VLF放射の共役点観測を行った.共役性についていえば,(1)昼間出現するポーラコーラス,準周期的(QP)放射の共役性は良い,(2)バーストタイプのティスクリート放射,オーロラコーラスの共役性は悪く,おもに北半球側が強い,(3)オーロラヒスの共役性は悪く,南半球(冬半球)側が圧倒的に強い.これらの観測結果から共役性の良いポーラコーラス,QP放射は磁気圏内の赤道面付近で発生し,磁力線に沿って伝搬しているものと理解できる.またオーロラヒス,バーストタイプ放射の非共役性は,電離層内の電子密度,磁場強度,磁力線の伏角等の南北半球での非対称およびこれらの放射の発生領域に依存すると思われる.
著者
寺沢 敏夫
出版者
国立極地研究所
雑誌
南極資料 (ISSN:00857289)
巻号頁・発行日
vol.63, pp.1-16, 1979-01

オーロラ粒子の加速機構について,最近の観測をもとに従来の結果を概観した.はじめに,粒子の加速をになうものとして,磁力線に平行な電場が存在していることの観測的な証拠についてまとめ,次に,電場エネルギーの供給源として外部起電力の必要性を示し,提案されているいくつかの起電力のモデルについて述べた.また,加速領域のモデルとして提案されている磁気ミラー理論について検討し,最後に,double layerをめぐる最近の話題として,室内実験,計算機シミュレーションにつき触れた.