著者
和泉 透
出版者
自治医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

ヒト肝癌由来Hep3B細胞は低酸素やコバルト刺激でエリスロポエチン(Epo)を産生する。この系において、いわゆる炎症性サイトカインのうちIL-1α、IL-1β、TNFαは濃度依存性に産生低下、IL-6は産生亢進の方向に働くことを以前見いだした。そこでIL-6によるEpo遺伝子産生調節について解析を進めた。ゲルシフト法によりHep3B細胞にはNFIL-6結合配列(TTGCGGAAC)に特異的に結合する転写因子の存在を確認したが、この発現は対照・低酸素刺激・IL-6添加時において明らかな変化を認めなかった。またfura-2を用いて測定した[Ca^<2+>]iはIL-6添加後も上昇を認めなかった。低酸素刺激によるEpo蛋白産生及びmRNA発現は12時間後にpeakとなるが、IL-6刺激では24時間後まで時間依存性に増加した。Hep3B細胞におけるIL-6で誘導されるEpo産生系のシグナル伝達機構は酸素センサーを介さない可能性があり、今後MAP kinase、JAK-STAT系の関与などについて検討する予定である。二次性貧血におけるIL-6の役割は現時点では明らかでないが、Epo産生抑制以外の機序で関与している可能性がある。最近我々は悪性リンパ腫の患者で血中TGFβ_1の高値を認め、化学療法後の貧血に対して投与したEpoが無効であった例を経験し、近く報告予定である。二次性貧血の発症機序について、IL-6以外にTGFβ_1など他の炎症性サイトカインとの相互作用も含めた検討が今後必要である。悪性リンパ腫や多発性骨髄腫、骨髄移植後ではEpo産生調節異常が存在することが推定される。現在これら疾患の臨床例について、患者血清を用いて解析を進めている。
著者
村田 哲人
出版者
福井医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

曹洞宗の僧侶20人(修行歴10〜40年の10人と修行歴5年未満の10人;それぞれM、D群)と坐禅の経験のない医師10人(C群)を対象に、坐禅中の脳波およびP300の変化を検討した。視察脳波では、坐禅を開始すると開眼のままでalpha波が出現し、さらに瞑想が深まるにつれ、より遅いalpha波あるいは前頭部に優勢なtheta波が観察された。alpha波の変化が、修行歴に関係なくすべての群の大部分に認められたのに対し、theta波の出現はC群にはみられず、M群の6人とD群の4人に観察された。脳波定量分析では、坐禅開始前の開眼安静状態、坐禅開始5分後、25分後の各記録時期の脳波を解析した。修行歴とstateについて、2元配置ANOVAを行い、相互作用がtheta2(FP1,F3,T5)、theta3(FP1,F3,T6)、theta2(FP1)に認められた。さらに下位検定より、修行歴の長い僧侶ほど、坐禅が深まるにつれ、theta2、theta3が著しく増加し、alpha2の増加の程度が抑制されることが示された。theta波は傾眠・睡眠期以外にも、暗算・想起など課題遂行時の精神作業中に起こりやすく、無課題でも考え事に没頭した時や問題解決の時などに出現すると報告されている。坐禅は静坐して雑念を追わず、注意を内部へ集中させる努力を続け、無我の境地に自然に達するような修行である。本研究で観察されたtheta波は、修行歴の長い僧侶ほど、坐禅の時間的系かにつれて多く出現し、修行によってもたらされた坐禅の本質、すなわちリラックスしながらも過度な緊張の保たれ、かつ意識の集中の高まった精神状態を反映していることが示唆された。さらに、坐禅中の認知機能・注意力の高さなどについて、認知機能の客観的指標として注目されているP300を用いて検討した。瞑想を妨げずに坐禅中にも適用が可能と考えられる受動的課題(sequence課題)を用いた。P300の潜時と振幅は、3群とも坐禅前と坐禅中で差がなかった。以上により、P300の結果は、theta波が有意に増加した坐禅中にも認知機能は低下することなく、坐禅前と同じ一定のattentionが保たれることを反映していると考えられた。
著者
伊藤 伸泰
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

稀釈合金系の磁性のモデルとして研究が始まったスピングラスモデルは、競合する相互作用を原因として複雑で興味深い振舞いを示すさまざまな系の研究の際にも重要なモデルとなっている。その重要性は今日、物性物理に留まらず、最適化問題、神経網、蛋白質ほかの分野でも認識されている。このようなスピングラス系に対して、相転移の研究に際して有効な場合が多いことが本研究代表者により明らかとなった「非平衡緩和法」を応用し、解明することが本研究の目的である。2年間に渡る研究の結果、次のような成果が得られた:正方格子および立方格子上のスピングラスモデルについて、常磁性強磁性相転移を精密に調べた。その結果、相境界がこれまで以上の精度で解明された。強磁性相互作用の濃度を変化させると、磁化や相関長などの静的な物理量の指数や動的指数は普遍的ではないことが明らかとなった。さらに静的な指数に対しては弱い普遍性が成り立つ一方、動的指数では弱い普遍性は成り立たないことが明らかとなった。この静的指数の弱い普遍性はスピングラス相との3重臨界点では、破れていることも明らかとなった。立方格子上のスピングラスモデルのスピングラス転移、スピングラス相でのクローン相関関数の非平衡緩和の様子が明らかとなり、グラス転移に対する非平衡緩和法による研究手法が確立した。現在、この手法によるゲージグラスモデルの研究も進められている。強磁性相の近くでは、スピングラス相中に強磁性秩序状態をもつ熱力学的状態が存在することが明らかとなった。このような状態は、ランダムな相互作用分布に対して測度0で存在すると解釈されるが、このような相を捉えることができたのは、非平衡緩和法ならではの発見である。このことから、3次元スピングラス相がこれまでに考えられていた以上に複雑な多重谷構造を持つことが示唆される。
著者
花村 克悟
出版者
岐阜大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

本研究は、将来の軽量耐熱合金として期待されているTi-Al系金属間化合物(特に超格子構造を有するTiAl_3を中心として)の燃焼合成における反応機構について微視的な立場から燃焼反応を凍結させ、その凝固過程も含めて反応経路を明らかにすることを目的としている。平均粒径約20μmのTiとAlの粉末をモル比1:3の割合で混合した後、ステンレスダイと圧縮試験機により圧縮し圧粉体試料とした。これを予熱ヒーターを兼ねた断熱流路に設置し、Arガスを流しながら、400〜650℃に予熱した後、試料の一端に点火する。この場合の最高温度と燃焼速度から、アレニウスプロットを描くことによってその勾配から総括活性化エネルギーを得た。その値は、347kJ/molである。また、燃焼途中で圧縮窒素ガスを吹き付けることにより反応を凍結させ、その断面を鏡面研磨した後、電子顕微鏡にて元素分析を行った。その結果、島状の断面内部中央ではTiがほぼ100%であり、その中心から同心状にTiの原子%が減少していることがわかった。したがって、融点665℃のAlが溶融しTi粒子を覆うと同時に反応が両者の界面から始まり、反応速度はTi原子とAl原子の拡散現象に支配されている。すなわち、アレニウスの拡散係数に従った燃焼現象であり、そのときの活性化エネルギーが上記の値であると言える。なお、最高温度は化合物TiAl_3やTiAlの融点より低く、Ti表面に固相の化合物が生成されると考えられるが、Al濃度が高い領域では液状に近いことが相図からわかるので、比較的容易に拡散できるものと考えられる。さらに、固相であるとしてもCuの固体中にNiやZnが拡散する際の活性化エネルギー200kJ/molとオーダー的には等しく、このような固相をAlが拡散するとの見方も、それ程物理現象から逸脱するものではないことがわかった。
著者
花村 克悟
出版者
岐阜大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本研究は流路内に充填された多孔質触媒に、メタンと水蒸気と空気を周期的に流動方向を反転させながら供給し、メタンの一部を燃焼反応させ、残りのメタンを効率良く改質(直接改質)させることを目的としている。実験装置は内径70mmの流路に流れ方向300mmの均質なセラミック多孔質触媒が充填された構造である。混合気は4つの電磁弁により周期的に流動方向が反転される。装置は、その中央流れ方向に100mm隔てて埋設された2本の電気ヒーターに通電することにより、まず、窒素ガスを用いて昇温され、150℃前後に達した後、水蒸気に切り替えてられる昇温される。所定の温度に達した後、メタンを徐々に加えて電気ヒーターによる改質を行う。さらに投入電力を増加させて温度を上昇させる。そして、空気をわずかに加えて点火させた後、電気ヒーターへの通電を止める。多孔質触媒に流入した混合気は、その内部を通過する間に予熱され、その中央近傍でメタンの一部が燃焼され、残りのメタンが改質される。生成ガスの温度はその下流側で、その顕熱が多孔質体に蓄熱されるので出口に達する前に低下する。流動方向が反転すると、この蓄熱された熱エネルギーが混合気の予熱に供される。可濃限界以上の混合気による点火が困難であったため、限界以内の混合気で点火したところ、多孔質体の耐熱温度を混合気の調節をする間もなく越えてしまい、実験不可能となったため、本年度は電気ヒーターによる改質結果に留まった。それによれば、熱損失が大きい上に、電気ヒーターの出力が小さく改質に適した温度まで達しておらず、メタンの転化率は10%程度であった。しかしながら、触媒多孔質体と不活性多孔質体との組み合わせにより、高効率直接改質器となる可能性も示唆された。
著者
山部 能宜
出版者
九州龍谷短期大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本年度の主たる成果は,以下の二点である.(1) 『観仏三昧海経』 (『海経』)の中心的テーマである「観仏」の修行は,仏像を用いた観想行であったと考えられるが,このような行法を明確に説くインド文献が殆ど確認できないことが,従来の観仏経典研究の上での大きなネックであった.ところが,『大宝積経』中に編入されている「弥勤師子吼経」(「師子吼経」)には,『海経』の記述と極めて類似した観仏行が説かれている.ここで,「師子吼経」のインド成立には疑問の余地がなく,かつ本経が『海経』成立段階で漢訳されていないことは重要である.『海経』が疑経であったことを否定するのは難しいので,以上の事実は,恐らくは『海経』が中央アジアで成立したということを示唆するであろうまた,「師子吼経」の背後にはさらに『維摩経』があったものと思われ, 『維摩経』にみられるような極めて哲学的な「仏を見る」思想が,「弥靭師子吼経」を経て『海経』に見られる極めて視覚的な行へと変化していったことが伺われるのである.(2) 『海経』にみられる陰馬蔵相をめぐる四つの説話は,極めて特異なものであり,他の仏典に類例を見ないものである.これらの説話には,明らかにインド・シヴァ派のリンガ崇拝の影響が認められるが,リンガ崇拝が中国では殆ど知られていなかったことは,上述の「師子吼経」の場合と同様の問題をはらむものであり,示唆的である.さらにまた,『海経』における陰馬蔵の記述には,リンガのイメージとナーガのイメージとの混淆が見られること,中央アジアの美術表現からの影響が伺われること,漢訳仏典にみられる要素の不用意な導入が認められること,天山地域に確認される生殖器崇拝が,これらの説話の背景となっていた可能性があることなどを指摘した.これらの諸点は,『海経』が中央アジアの多文化混在状況の中から生み出されてきたものであるとする私の仮説を支持するであろう.
著者
立花 宏文
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

ヒト抗体産生細胞がカフェインや植物レクチンの刺激により、本来産生していた抗体軽鎖を消失し、代わりに新たな軽鎖を産生する細胞が高頻度に出現する軽鎖遺伝子の発現シフト現象(Light chain shifting)を見出した。Light chain shiftingを起こした細胞より産生された抗体は、いずれも本来の抗原結合性を大きく変化させていることを明らかにしてきた。そこで本研究課題では、Light chain shiftingの自己抗体産生機構としての可能性について検討を行った。自己免疫病では、その発症に抗DNA抗体や抗赤血球抗体などの自己抗体の産生が直接的な役割を果たしているが、その産生機構はほとんど明らかにされていない。Light chain shiftingの自己抗体の産生への関与が明らかになれば、その誘導機構を解明することで自己抗体の産生を伴うことの多い自己免疫疾患の原因究明につながる可能性がある。そこで、Light chain shiftingによって発現した抗体の性質(自己抗原との反応性や軽鎖遺伝子の構造)を明らかにするため、Light chain shiftingを起こし軽鎖遺伝子の発現を変化させた細胞を多数クローニングして、それぞれの細胞より抗体遺伝子を調製し、その構造解析を行った。その結果、自己反応性を示した抗体の軽鎖の多くは、その可変領域に組み換えの際に生じたN領域を有していることが明らかとなった。このN領域は、重鎖の可変領域にのみ存在するとされ、デオキシヌクレオチド添加酵素(TdT)の働きにより形成される。実際、Light chain shifting誘導性の細胞では、TdTの発現が見られることを確認した。また、自己反応性を有する抗体軽鎖は、特定のV遺伝子を利用した遺伝子組み換えによるものであることが明らかとなった。Light chain shiftingは、従来よりいわれていた抗体遺伝子の組み換え誘導条件であるRAG-1,2の発現と胚型転写の誘導という二つの条件では誘導されず、その誘導には第三の因子が関与していることが明らかになった。
著者
森田 茂
出版者
酪農学園大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

(目的)睡眠は、家畜の疲労回復およびエネルギー蓄積に必要なものであるとされている。したがって、1日の睡眠時間の長さや睡眠の質(N-REM睡眠、REM睡眠)を検討することは飼養管理技術の改善につながる。(方法)脳波の導出で鼻梁に基準電極、頭部に探査電極を装着する単極導出法を用いた。24時間の脳波測定のために無束縛携帯型生体アンプとコンパクトカセットデータレコーダを専用のベルトで牛体に固定した。さらに、脳波測定と同時に暗視カメラによる行動観察を行い、休息行動(横臥時間)の成長に伴う変化を脳波測定による睡眠計測から検討した。(結果)幼齢子牛での24時間連続の睡眠脳波測定では、脳波測定用の電極を前頭部中央3箇所とし、記録紙送り速度を秒速1mm、電池交換時刻を飼料給与直後および23時の1日3回交換することが適切であると結論した。1日当りの睡眠時間(=N-REM+REM)は1週齢で493分、7週齢で267分と発育に伴い減少した。N-REM睡眠およびREM睡眠についても同様の結果となった。睡眠時間の日内パターンは週齢に伴う変化は認められなかった。1日当りの横臥時間は1週齢で1120分、15週齢で594分となった。また、1日当りの睡眠時間は1週齢で505分、15週齢で146分となった。N-REM睡眠は睡眠時間と同様の結果となったが、REM睡眠については一定の傾向が見られなかった。1日当り反芻時間は、給与飼料の種類によらず1週齢時ではほとんど認められず、7週齢時では6〜8時間の範囲まで延長した。1日当りの横臥時間は給与飼料の種類によらず1週齢で約18時間から、7週齢での約14時間へ短縮した。さらに、睡眠時間は1週齢での9時間程度から7週齢での4時間程度まで短縮した。成長に伴うN-REM睡眠の変化は、睡眠と同様の傾向であった。一方、REM睡眠には週齢に伴う一定の傾向が見られなかった。このことから、幼齢子牛における週齢に伴う睡眠時間の減少には反芻時間の延焼が大きく関わるものと考えた。
著者
伊藤 清美
出版者
北里大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

CYP3A4により代謝されるミダゾラムの経口投与後の血中濃度は、臨床において、エリスロマイシン(EM)およびクラリスロマイシン(CAM)の併用では大きく上昇するのに対し、アジスロマイシン(AZM)の併用では、相互作用の程度は非常に小さいことが報告されている。マクロライド系抗生物質によるCYP3A4の阻害機構は、阻害剤の代謝物が酵素と共有結合し不可逆的な阻害を起こす、いわゆるmechanism-based inhibitionである。そこで本研究では、阻害様式を考慮したモデルによりin vitro試験からin vivo薬物間相互作用を定量的に予測する方法論について検討した。NADPH存在下ヒト肝ミクロソームを、種々の濃度のEM、CAMあるいはAZMと共に37℃でプレインキュベーションした後、ミダゾラムを添加し、3分間インキュベーションを行った。生成したミダゾラムのα位および4位水酸化代謝物をHPLCにより定量し、酵素不活化に関する速度論パラメータを求めた。マクロライド系抗生物質濃度および酵素とのプレインキュベーション時間に依存して、ミダゾラムのα位および4位水酸化反応は同程度に阻害され、阻害の程度はEM、CAMに比べてAZMでは非常に小さかった。得られたパラメータと、マクロライド系抗生物質とミダゾラムの体内動態パラメータの報告値を生理学的薬物速度論モデルに代入し、in vivo相互作用のシミュレーションを行った結果、ミダゾラムのAUCはEM(500mgt.i.d.5days)の併用により約3.7倍、CAM(250mg b.i.d.5days)の併用では約2.3倍上昇するのに対し、AZM(500mgo.d.3days)の併用ではほとんど変化がないことが予測され、臨床の報告とほぼ一致した。以上の結果から、マクロライド系抗生物質において、この方法論の妥当性が示唆された。
著者
奥山 光彦
出版者
旭川医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

十分にインフォームドコンセントが得られた症例に対して、乳酸菌が及ぼすシュウ酸カルシウム結石形成抑制効果や尿路結石形成に関与しているか否かについて検討した。ヒト健康成人男性を用いて検討を開始した。乳酸菌投与中は特に食事制限や飲水制限などなく、通常の生活を送ってもらった。先述の健康男性に10日間乳酸菌製剤の内服をさせ、腸内細菌叢を改善させて、乳酸菌製剤の投与前後で24時間尿を採取し、各種尿検査を行う。検討項目 尿検査:24時間尿量、pH、BUN、Cr、Na、Ca、P、Mg、シュウ酸、クエン酸排泄量を検討した。実験結果:各群間で尿中生化学検査値に有意差は認めなかった。尿中シュウ酸、クエン酸排泄量にも変化を認めなかった。乳酸菌内服後の尿量が有意に増加しており、検討項目に有意差を認めなかった要因になっている可能性が示唆された。今後、乳酸菌が及ぼす尿路結石形成抑制効果については、内服前後での条件(飲水量、摂取カロリー等)を一定にさせたり、乳酸菌製剤の内服期間や内服量を変化させ、さらに検討を要すると思われた。乳酸菌は腸内細菌叢を改善させることにより、腸管からのシュウ酸吸収を減少させ、結果として尿中シュウ酸排泄量を減少させることにより、尿路結石症の治療ないし、再発予防に使用できる可能性があり、さらに検討する必要があると思われた。また、腸内細菌叢の異常に起因する便通異常を有する尿路結石患者に対する乳酸菌製剤の臨床的効果についても検討を行う必要性があると思われた。
著者
西村 誠次
出版者
金沢大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

【目的】末梢神経損傷を伴う外傷手で,示指各関節の屈曲あるいは伸展による各関節トルク値を算出し,示指屈曲・伸展運動における手内筋の関与を検討した.【対象】末梢神経損傷を伴う外傷手4例8手(年齢23.8±4.8歳)の示指を対象に健側手と対照させた.症例1と2は手内筋の回復が見られない手内筋マイナス群で,症例3と4は回復が見られる手内筋プラス群とした.【方法】4枚の歪みゲージ(日本電気三栄社製,N11-FA-10-120-11)を用いた自作の指押し力測定器具で指押し力を測定し,各々の関節からの距離との積によって各関節トルク値を算出した.各々測定は3回おこない最大値を記録した.【結果と考察】屈曲トルク値は,手内筋マイナス群ではDIPで最も大きく,PIPとMPはDIPの約1/3であった.PIPのトルク値が減少したのは,虫様筋の麻痺により深指屈筋の収縮力が有効に作用しなかったためと考えられたが,その機序は解明できなかった.またMPトルク値の減少はMPの屈筋群である第1背側骨間筋の麻痺によるものとも考えられる.伸展トルク値は,健側では,MP(IP伸展位),MP(IP屈曲位),PIP,DIPの順で大きく,患側では,MP(IP屈曲位),MP(IP伸展位),PIP,DIPの順であり,健側ではMPのIP伸展位が,患側ではMPのIP屈曲位が最も大きい値を示した.MP伸展力は指伸筋で作られるが,健側のIP伸展位では虫様筋が収縮しFDP腱を遠位方向に引き,FDPによる拮抗作用を減少させることでIP伸展位が大きい値を示したと考える.一方,患側では虫様筋が収縮しないため,PIP関節の肢位によってFDPによる拮抗作用は減少せず,IPI屈曲位で指伸筋は他動的に伸張され,その分収縮力が有効にMPに作用し大きい値で測定されたと考える.すなわち,手内筋の麻痺によってPIP,MP関節の屈曲力と伸展力はともに減少することが示唆された.
著者
木林 和彦
出版者
熊本大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

1)脳皮質挫傷による神経細胞死の機序(特に、アポトーシスの関与について):脳皮質挫傷7症例、脳皮質挫傷と類似の組織所見を呈する脳梗塞6症例及び正常対照5症例について約2週間ホルマリン固定した脳の肉眼検査を行い、損傷(病変)部位2個と定常部位13個の組織標本を作成して髄鞘染色と軸索染色を行った。神経細胞の虚血性変化は受傷後約6時間から始まり、軸索の腫張は12時間前後で起こり、境界明瞭な髄鞘の崩壊は約1日で形成されることを明らかにした。また、in situ end labeling法によるアポトーシスの検出と免疫組織化学法によるアポトーシス抑制因子bel-2の検出を行ったところ、皮質挫傷と梗塞の周辺部に神経細胞のアポトーシスと星状膠細胞のbel-2発現が観察された。今後検討を重ねて、皮質挫傷による神経細胞死の機序にはアポトーシスが関与し、星状膠細胞がbel-2を発現して神経細胞のアポトーシスを抑制していることを証明する。2)脳皮質挫傷に伴う深部白質損傷:瀰漫性軸索損傷の自験17症例の受傷機転と神経病理を検索した。瀰漫性軸索損傷の多くは頭部顔面への前後方向叉は上下方向の外力で生じ、受傷後生存期間と脳組織標本の関係から受傷後早期に脳橋内側毛帯に軸索腫張が出現することが判明した。以上の結果は法医解剖例の受傷機転の解析と瀰漫性軸索損傷の診断に役立っている。現在、脳皮質挫傷7症例について、脳の深部白質における軸索変性を抗ニューロフィラメント抗体を用いた免疫組織化学法によって検索しており、脳皮質挫傷には"intermediate coup contusion"と言われる深部白質損傷が高頻度に合併することを証明し、また瀰漫性軸索損傷との移動を明らかにする。
著者
北村 義浩
出版者
国立感染症研究所
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

HIVのインテグラーゼに対するマウスモノクローナル抗体を作製し、このマウスモノクローナル抗体から単鎖抗インテグラーゼ抗体分子(scAbE)を作製した。scAbEとHIVのアクセサリータンパク質であるVprとの融合タンパク質(scAbE-Vpr)、およびVprと結合することが明らかになっているペプチドモチーフ(WxxF)を付加したscAbE分子(scAbE-WxxF)を作製した。さらにscAbEとHIVのキャプシッドタンパク質(CA)との融合タンパク質(scAbE-CA)も作製した。これらタンパク質を発現するヘクターDNAをHIV infectious clone DNA(pLAI)とともにヒト細胞293Tにtransfectして培養上清中のウイルスを回収した。ウイルス粒子のタンパク質について、ウェスタンブロット法で調べたところscAbE-VprとscAbE-WXXFは効率よくウイルス粒子内に取り込まれていた。しかし、scAbEあるいはscAbE-CAはウイルス粒子には取り込まれなかった。これらウイルスの感染性をMAGIアッセイ法にて調べた。同じ量のRT活性で比較した場合、野生型ウイルスに比べてscAbE-Vprを取り込んだウイルスとscAbE-WxxFを取り込んだウイルスとでは、感染性が最大で、それぞれ10^3倍、10^4倍低下した。scAbE-WxxFを安定に発現するHeLa細胞を樹立できたが、その一方で、scAbE-Vprを安定に発現するHeLa細胞は得られなかった。このようにウイルス粒子に取り込まれてそのウイルス粒子の感染性を低下せしめる分子は全く新規の抗ウイルス治療分子であるので、packageable ativiral therapeutics(PAT)と命名した。scAbE-Vprとは異なりscAbE-WxxFは細胞毒性を呈さず、より理想的なPAT分子と思われた。この分子はAIDSの遺伝子治療に応用できるだろう。
著者
五十嵐 由里子
出版者
日本大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

古人類集団の人口構造を推定する際に要となるのが、古人骨の年齢推定である。古人骨において比較的残りやすい部位である腸骨耳状面を用いた年齢の推定方法は、Lovejoy et.al(1985)、五十嵐(1990)らによって掲示されている。今回は、東京慈恵会医科大学所蔵の近代日本人骨格標本のうち、生年月日と死亡年月日の記録があり、年齢の信憑性が極めて高い資料(男性30体、女性8体、年齢は25歳から85歳)を用いて、耳状面の形態による年齢の推定方法を新たに作った。新たな方法による年齢の推定値は、従来の方法による値と完全には一致しないことがわかった。縄文時代には地域によって人口構造が異なっていた可能性が、五十嵐(1990)によって示唆されている。今回は国立科学博物館所蔵の、蝦島貝塚(岩手県)人骨(縄文時代後・晩期、男性16体、女性30体、不明16体)を対象として、この集団の人口構造を推定した。年齢推定には今回新たに設定した方法を用いた。結果は以下の通りである。蝦島集団では、30歳代後半から40歳代前半での死亡率が最も高かった。蝦島集団の死亡率は、10歳代後半から30歳代前半では、他の本州集団(福島県三貫地遺跡、愛知県伊川津遺跡、吉胡遺跡、岡山県津雲遺跡)より高いが北海道集団より低く、30歳代後半以降では他のどの集団よりも高い。妊娠痕が判定できた全ての女性個体に妊娠痕が認められた。妊娠回数が多かったと判定した個体は40歳代後半以上の個体の60%を占める。この割合は、他の本州集団より高いが北海道集団より低い。以上の結果から、蝦島集団は、他の本州集団より多産多死傾向にあったが、北海道集団ほどではなかったという可能性が示唆できる。日本大学松戸歯学部で解剖された女性遺体6体について、骨盤上の妊娠痕の観察を行った。今後遺族へのアンケートによって、生前の妊娠出産に関する情報を収集する予定である。
著者
眞溪 歩
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

近年,脳機能を解明するための研究が盛んになってきており,その一例に脳神経活動の副産物として発生する磁界を多点で計測する脳磁界計測(以下,MEG,Magnetoencephalography)がある.MEGの目的のひとつは,逆問題を解き,脳神経活動を時間空間的に同定することである.この逆問題は不良設定問題であり,従来から行われている最適化による解法や,近年登場した統計的処理による解法では,それぞれ局所解に陥る,部分解能が悪いなどの問題を抱える.このような状況下で,本研究では2種類の手法を提案し,評価を行った.主な実績は,それぞれ下記のとおりである.1)ビームフォーミングによって,できるだけ高分解能に,空間的に離散化した脳内の各点の電気的活動を推定する.この段階での分解能は高くないが,各点の活動は時系列データとして得られるため,時系列間の相関をもとにクラスタリングを行い,同期して活動を行った部位ごとに表示することにする.聴覚野と運動野が時間帯をオーバーラップさせ活動するMEGデータに対し本手法を適用し,従来法では不可能であったそれぞれの活動の分離に成功した.2)必ずしも脳内の活動源推定に還元することなく,データどおしを比較し,その類似性を評価する手法としてバーチャルビームフォーミングを提案する.これは,脳内の具体的部位ではなく,特定のMEG活動のような抽象的なものをターゲットするビームフォーミングである.バーチャルビームフォーミングは,心理評価などの意識の介在する評価と異なり,MEGデータのみから脳内処理の類似性などを定量評価できる.音像定位関連MEGに対し,本手法を適用し,音源の移動幅が大きくなるにつれ,音源の出現・消失の反応と近くなることが確認された.