著者
山口 和也
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

光合成細菌にニッケル含有酵素ウレアーゼが存在することは、これまでほとんど知られていない。本研究において、紅色無硫黄細菌であるRhodobacter capsulatusがウレアーゼを生合成することを見いだし、さらにこの細菌のウレアーゼを単離精製することに初めて成功した。この光合成細菌は、通常の生育条件下ではウレアーゼを生合成することなく生育する。ところが、窒素源をアンモニウムイオンから尿素・アルギニン等に変え、窒素代謝系を制御することにより、この菌体におけるウレアーゼ生合成を誘導することができた。また、窒素飢餓条件下にすることで生合成されるウレアーゼの量が増加することも明らかになった。さらに、ウレアーゼ生合成過程においてニッケルイオンを添加するとウレアーゼ活性が著しく促進されることより、この細菌のウレアーゼも他の菌体のものと同様にニッケルを含む酵素であることも示唆された。光合成細菌中の色素や複合タンパク質の生成をおさえ、より多くのウレアーゼの単離精製を行なうために、暗所好気的条件下で培養した細菌からウレアーゼの精製を行なった。ウリアーゼ精製の際に用いるバッファーに2-メルカプトエタノールを添加することにより、精製効率は飛躍的に向上することが明らかになった。この添加剤は酵素の活性中心である複核ニッケルに架橋することにより酵素を安定化させる働きをしているものと考えられる。さらにイオン交換・疎水クロマト法により、従来単離されなかった光合成細菌のウレアーゼの精製に成功し、酵素比活性は38μmol(Urea)/min.mgまで向上した。SDSゲル電気泳動により、サブユニットの分子量は67KDであることも判明した。本研究により、高度に精製された新規の光合成細菌ウレアーゼが得られ、ウレアーゼの構造と機能の関連性を解明し生体中におけるニッケルイオン役割を明らかにするための礎が得られた。
著者
打樋 利英子
出版者
名古屋大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

近年のPCR法の開発により、毛髪からのDNAを利用した各種遺伝マーカーの判定が可能となり、私はこれまでにHLAクラスII遺伝子型の判定を毛髪に応用し、抜去毛の毛根部からの型判定、及び毛髪中のメラニンによるPCR反応の阻害を報告した。HLAクラスII遺伝子は多型性に富んだ遺伝マーカーであり、毛髪特に毛幹部に応用できるならば、毛髪資料が個人識別に大きく寄与することは確実である。しかしながら、毛幹部に含まれるDNAは微量であるため、本研究では、効率的なDNAの抽出法の検討や、高感度PCR法の応用を行なった。毛髪特に毛幹部に含まれるDNA量は極めて微量であり、さらに抽出段階で混入するメラニンによるPCR反応の阻害が無視できないことから、充分量かつ高純度のDNAを効率よく回収する抽出法の検討を行なったところ、フィルター付遠心チューブを用いることにより、従来のフェノール抽出法に比べメラニンをかなり除去することができた。この方法は短時間にかつ簡便に行なうことができるので、有効な抽出精製法と考えられる。こうして抽出したDNAから、HLA-DQA1遺伝子の第二エクソン部分をPCR法により選択的に増幅した。毛幹部より抽出したDNAは微量であるため、通常のPCR法よりも格段に増幅感度の高いsemi-nested PCR法を採用したところ、毛幹部から充分量の増幅産物が得られ、型判定も可能となった。このPCR法は他のHLAクラスII遺伝子にも応用が可能であり、他の法医資料や考古学的資料からのDNAタイピングに有用である。
著者
尾川 浩一
出版者
法政大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

本研究では、遺伝的アルゴリズムにおける、生殖、増殖、交叉、突然変異などの、遺伝子が変化し種が淘汰されていく過程の操作を画像再構成にどの様に応用するかを中心に研究を行なった。1.2値画像の画像再構成問題ミュレーションは、最も簡単な2値画像の再構成問題を取り扱い方法論の検討を行なった。実際には、乱数によって作成した16x16の2値画像を100枚用意し、この画像に対して投影計算(投影方向数18)を行い、測定投影データ(予め計算してある理想的な投影データ)との平均自乗誤差が最も少ないものから、子孫を残す優性度を決定し、次にこれらの画像の一部をでたらめに組み合わせた交叉画像(交叉点数32)を優先度を考慮して100枚作成し、子孫とした。画像をstringにコーティングする際は、全ての画素を1行ずつ連結させて実現した。この様な操作を、投影データの平均2乗誤差が少なくなるまで続けた。この際、突然変異を一定の確率(0.00195)で発生させ、局所的な画素値を変化させながら、画像を発生させた。このようにして、255世代で誤差の最小値が0となり、GAによる画像再構成に成功した。また、この演算速度を速めるために初期画像をフィルタード・バックプロジェクションした画像からも行なった。この結果、50世代で誤差の最小値が0になり、効果が現られた。2.多値画像の画像再構成問題多値画像の場合は、遺伝子コードをどの様に表現するかが問題となる。本研究では簡単のため画素データは3ビットとして取り扱い、コーティングはビット列をそのまま連結することで実現した。当初はハミング距離が短いグレイコードで表現することも考えたが、こちらの方法の方が良好な結果が得られるため方法を変更した。個体数は200、投影方向数は16、画像サイズは16×16で行なった。また、多点交叉の確率は0.1392、突然変異の確率を0.00098で行なったところ良好な結果が得られた。また、多値画像を取り扱う場合にはチェッカーボード状のアーチファクトが発生したため、画素間の連続性を考慮し、平滑化処理を行なうことで100世代程度で良好な画像再構成が可能となることがわかった。
著者
冨山 誠彦
出版者
弘前大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

筋萎縮性側索硬化症(ALS)における運動ニューロンの選択的脆弱性とグルタミン酸による興奮毒性の関係を,脊髄神経細胞におけるグルタミン酸受容体発現の違いの観点から検討した.グルタミン酸受容体は代謝型受容体とイオンチャネル型受容体に大別されるが,代謝型受容体の1-5型(mGluR1-5)mRNAの発現ををヒト正常脊髄で,イオンチャネル型受容体のうちAMPA型受容体サブユニット(GluR1-4)mRNAの発現を正常者とALS患者の脊髄で,in situ hybridization法を用いて検討した.代謝型受容体の正常脊髄での検討では,mGluR1とmGluR5 mRNAの発現が脊髄後角に豊富で,運動ニューロンでは低いことが示された.mGluR1とmGluR5に選択性のある作動薬は脊髄運動ニューロンに対し保護作用があることが示されている.従って,運動ニューロンにおけるmGluR1とmGluR5 mRNAの発現が相対的に低いことは,運動ニューロンは他の脊髄神経細胞に比べmGluR1とmGluR5を介した神経保護作用が少ない可能性を示しており,運動ニューロンの選択的脆弱性と関係しているかもしれない.一方,正常者とALS患者の脊髄でAMPA受容体サブユニットmRNAの発現をflip型,flop型を別個に検討した.Flip型は遅い再分極を,flop型は速い再分極を有するAMPA受容体を形成することが知られている.Flip型は後角に優位に分布し,flop型は灰白質にびまん性に分布していた.ALSの前角では正常者に比べ,flop型のmRNAの減少が著明に認められ,Flip型のmRNAは保たれていた.この結果はALSの前角においてはFlip型AMPA受容体が相対的に増加している可能性を示し,ALSの運動ニューロンは正常者の運動ニューロンに比べ再分極の遅いAMPA受容体をより多く有していることを示唆している.再分極の遅いAMPA受容体は作動薬に対してより強い毒性を介するとされている.従って,今回の研究の結果は,AMPA受容体刺激に対して,ALSの運動ニューロンは正常者の運動ニューロンよりも脆弱であることを示している.
著者
齋藤 健司
出版者
神戸大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

1 現行のフランスにおけるスポーツ基本法である1984年7月16日の法律について解説付きの逐条訳を行った論文を公表した。また,同論文の解説において1984年以降のスポーツ基本法の改正の歴史的な展開を次の通り示した。1985年1月3日の法律第85-10号による改正,1987年12月7日の法律第87-979号による改正,1992年7月13日の法律第92-652号による改正,1993年12月6日の法律第93-1282号による改正,1994年8月8日の法律第94-679号による改正,1995年1月21日の法律第95-73号による改正。2 フランススポーツ基本法のスポーツ法体系における位置について,論文「フランススポーツ法典の構成」の中で示し,スポーツ基本法が基礎となりフランスのスポーツ法体系および各種の関係する制度が発展していることを明らかにした。3 特にスポーツ保険法制度の指導的判例であり,スポーツ基本法のスポーツ保険理論の展開の前提となった1989年10月24日の破棄院判決を判例研究した。また,スポーツ基本法におけるスポーツ保険制度の歴史的な形成の過程を明らかにし,論文を公表した。4 特にスポーツ指導者資格制度に関する法の歴史的発展の過程を明らかにし,論文を公表した。5 スポーツ連盟の公役務および公権力の特権を行使することによる制裁に関わる指導的な判例研究を行い,論文を公表する。6 スポーツに関する特別な法律が誕生する1940年以前において,1907年から1920年に国会に提出された体育を義務化する法律案が存在し,これらが1940年のスポーツ組織に関する法律に与えた影響を検討し,論文を公表する。7 今後は,これまで行ってきた研究成果を踏まえて,フランスにおけるスポーツ基本法の成立と展開に関する歴史的な過程をまとめ,平成11年度以降に論文としてまとめる予定である。
著者
黒木 玄
出版者
東北大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

アフィン・リー環(捻れたアフィン・リー環を含む)の脇本表現を構成した.それを利用して,アフィン・リー環に関する一般化されたカッツ・カズダン予想を証明した.これは捻れのないアフィン・リー環のABC型の場合に対しては、別の方法によって,名古屋大の林氏などによって証明されていた結果の拡張になっている.一般化されたカッツ・カズダン予想とは,臨界レベルにおけるアフィン・リー環の「簡約された」ヴァーマ加群が定義されて、それはその最高ウェイトが一般の位置にあるとき既約になるという形に定式化される.(論文は現在準備中)
著者
黒木 玄
出版者
東北大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

共形場理論と量子可積分系の表現論的研究を行なった。楕円曲線上の臨界レベルのヴェス・ズミノ・ウィッテン(WZW)模型のボゾン化を考えることによって、カロジェロ・ゴーダン模型と呼ばれる量子可積分系の代数的ベーテ仮設法によるベーテ・ベクターが構成できることを証明した。この文脈における代数的ベーテ仮設法は数論における代数体に関するラングランズ・プログラムのコンパクト・リーマン面に関する類似に関係している。我々は関連の仕事を楕円曲線の場合に行なった。興味深いことは不思議なことに脇本表現と呼ばれるアフィン・リー環のホゾン化を用いた共形場理論の伝統的な方法によって結果が証明されていることである。その後は以下のような立場で研究を行った。我々が臨界レベルのWZW模型という立場で扱った量子可積分系は楕円曲線上のヒッチン系と呼ばれる可積分系の量子化になっており、空間方向が離散的な1次元巡回格子であるような量子系のある種の極限に成っている。すなわち、我々が扱った量子可積分系はヒッチン系と格子模型の中間にあるとみなせる。そして、臨界レベルでないWZW模型におけるクニズィニク・ザモロドチコク(KZ)方程式は等モノドロミー保存変形を記述しているシュレージンガー系の量子化になっており、空間方向を1次元巡回格子に離散化した模型に関係したq-KZ方程式のある種の極限になっている。このことに気付けば現在研究されている様々な可積分系(古典、量子、離散)の統一理論が存在しそうなことがわかる。そのような視点はこれから重要になると思われる。
著者
玄田 有史
出版者
学習院大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

労働者の労働意欲を高め、企業内への定着を促す為の誘因システムとして、日本の退職金制度がどのような機能を果たしているかを考察した。分析は、主に二つの内容からなる。一つは、情報の経済理論モデルを用いて、自就職時の労働需給状況と退職の際の自己都合退職金と会社都合退職金の差額との関係を分析した。経済理論的には、労働のインセンティブを高める為の長期契約には、供託金の労働者と企業間での授受によるもの(供託金仮説)と、企業が労働者に一定期間勤続後の退職には一定のプレミアムを含めた支払を行うもの(効率賃金仮説)の二つの種類が考えられる。これらの理論を退職金制度に応用した結果、次のことが明らかになった。供託金仮説が妥当であるときには、経済に発生する失業はすべて自発的な失業であり、需給逼迫時に就職した労働者ほど、退職時の二種類の退職金の差額は小さくなる。一方、効率賃金仮説が妥当であるときには、経済に非自発的失業が発生し、需給逼迫時に就職した者ほど二種類の退職金の差は大きくなる。もう一つの分析内容は、先の理論仮説についての実証研究からなる。実証分析には、中央労働委員会『退職金・年金事情調査』と労働省職業安定局統計を用いた。分析方法は、製造業の各産業について、被説明変数を二種類の退職金の差として、説明変数の中に就職時の雇用充足率を含め、その変数の最小自乗推計量を用いて行った。その結果、日本の製造業の退職金制度には供託金制度の妥当性を支持する結果は得られなかった。一方、繊維産業や機械産業などの製造業の退職金制度については、効率賃金仮説を支持する結果が得られた。これから、日本の労働者の動機付け、将来のプレミアムの支払らわれる可能性を通じて行われており、その結果日本の失業者には非自発的な失業者も含まれていることが分かった。
著者
芥川 一雄
出版者
静岡大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

当科学研究課題の目的は、スカラー曲率が正の山辺計量の収束・退化の解析とその低次元多様体への応用であった。具体的研究成果は下記の通りである。(1)山辺不変量正かつ体積1の山辺計量を持つn次元多様体の族Y(n)を考え、さらにある種の曲率積分有界の条件下で、収束・退化に関する成果を得た。これは、"11.研究発表の3番目の論文"の主結果の一般化である。(2)山辺計量の族Y(n)を考え、(1)とは別のタイプの種々の曲率積分有界の条件下で、それらのコンパクト性定理や正の定曲率計量に対するピンチング定理を得た。特に新しいタイプの定理としては、3次元閉多様体上の平坦な共形構造に対するピンチング定理を得た。以上(1)、(2)の研究成果は、次の論文にまとめており現在投稿中である。"K.Akutagawa,Convergence for Yamabe metrics of positive scalar curvature with integral bounds on curvature."またこれらの研究過程において、スカラー曲率が正の山辺計量は、トポロジーへの応用上、3次元の場合が特に有用でありかつ幾つかの予想問題が自然に提出されることがわかった。4次元の場合においても、反自己双対共形構造に対象を制限すれば、山辺計量の収束・退化の研究はそのモデュライ空間の研究に有用である(この場合には、山辺不変量の符号の条件は不必要となる)。実際"Sobolev半径"と言う概念が導入でき、それを物差しとして、反自己双対的山辺計量の収束・退化の解析はある程度可能であることもわかった。この対象においては具体例が豊富で、今後の研究は反自己双対的山辺計量の収束・退化の研究を中心に進める予定である。上記の研究において、研究費補助金による研究連絡は極めて重要であった。
著者
須田 康之
出版者
比治山女子短期大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

本研究の目的は、グリム童話の「狼と七匹の子やぎ」を題材とし、異文化間での受け取りの特徴を把握し、そこに現れた教育的価値意識を分析することにあった。調査対象国として、日本、中国、韓国、アメリカ、ドイツの5カ国を設定した。まず、日本語版調査用紙を作成し、その後、中国版、韓国版、英語版、ドイツ語版の各調査用紙を作成した。調査対象者は、各国ともに小学5、6年生の子どもと彼らの母親である。現在までに回収した日本と韓国のデータを用いて分析した結果、次のことが指摘できる。1.韓国のこどもや母親は、日本の子どもや母親より題材を面白く思い、しかもこの題材が好きである。また、母親は日本や韓国の別なく子どもよりもこの題材を残酷であると思い、恐いと回答している。2.日本の子どもも韓国の子どもも共通に、面白い個所として「狼が大きな鼾をかいて寝ているところ」と「狼が石の重みで井戸に落ちて死んでしまうところ」をあげている。また母親に比べ、恐い個所がないと回答した子どもが極めて多いのが特徴である。3.韓国の子どもと母親は、感想として「悪いことをしたら最後は必ず罰を受ける」と回答した者が最も多い。これに対し、日本の子どもは、「たとえ悪者でも殺してしまうのは問題だ」と答えた者が多く、母親は「お母さんはいつも子どもを大事に思っている」をあげた者が多い。調査の結果、韓国では、誠実・努力・勇気という価値が尊重され、日本では対人関係に配慮した思いやりが尊重されていた。こうした価値志向の違いが読み取りにも影響を与えているものと考えられる。本調査により、読み取りに与える影響として年齢と社会文化的要因を想定することができる。特に結果の4は、S.フイッシュの解釈共同体の存在を実証するものである。
著者
田仲 和宏
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

Ewimg肉腫(ES)とその類縁腫瘍PNETは、悪性骨軟部腫瘍の中で最も予後不良の腫瘍であるが、その90%以上に染色体転座t(11:22)がみられ、その転座の結果、異常な融合遺伝子EWS-Fli1が生じる。EWS-Fli1は強力な転写因子として働き、正常線維芽細胞をtransformする活性を有するため、ES/PNETのがん化の原因そのものと考えられている。これまでに我々は、アンチセンスオリゴを用いてEWS-Fli1の発現を抑制することで、ES/PNET細胞の増殖が抑制され、その際細胞は細胞周期のG1期に停止することを明らかにした。そこで、アンチセンスオリゴ処理前後のES/PNET細胞よりmRNAおよび蛋白質を抽出し、細胞周期関連因子の発現変化を調べると、G1-S期移行に関わるCyclin D1、Cyclin E、p21およびp27の発現が大きく変化しており、アンチセンスオリゴによる増殖抑制の原因の一つと考えられた。このうちp21遺伝子のプロモーター領域をluciferaseにつないだreporter constructを作成し、ES/PNET細胞にこのreporter constructを導入したところ、reporter遺伝子活性は抑制されていた。ここでアンチセンスオリゴ処理を行うとreporter遺伝子活性が誘導された。また、プロモーター領域内でのEWS-Fli1の結合部位を検索した結果、EWS-Fli1は直接p21プロモーターに結合し、その活性を抑制した。p21発現を誘導する薬剤Na Butylateを作用させると、ES/PNET細胞でのp21発現が濃度依存性に誘導され、細胞の増殖も抑制された。従って、p21はEWS-Fli1の直接の標的遺伝子であり、ES/PNETの増殖に大きく関与していること、ES/PNETの遺伝子治療のターゲットとして有用である可能性が示された。
著者
佐藤 清治
出版者
佐賀医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

これまで我々は、多剤耐性に最も関与している多剤耐性遺伝子MDR1の発現誘導に関し研究を続けており、種々の抗癌剤や紫外線等によってこの遺伝子の発現誘導がかかるエレメント(inverted CCAAT box)をプロモーター上に決定している。そして、これらのストレスによりこのエレメントに、ある転写因子が結合しMDR1遺伝子の発現を誘導している事実を見出していた。今年度は、サウスウエスタン法を用いてλgt 11 cDNAライブラリーよりスクリーニングを行い、この転写因子(MDR-NF1と命名)のcDNAを分離・同定した。そこでクローニング出来たMDR-NF1のDNA結合領域であるcDNAの塩基配列を決定すると、ヒトMHCクラスII遺伝子プロモーター上のY-boxに結合する転写因子YB-1と同一である事が示唆された(論文作成中)。また、この転写因子がリン酸化に関与していることこともすでに見出していた為、今回は、MDR1プロモーターの発現誘導におけるリン酸化阻害剤(H-7)の関与を調べてみた。その結果、H-7はMDR1プロモーターの発現誘導において、高濃度では紫外線や制癌剤によるMDR1promoterの発現誘導を、恐らく転写因子のリン酸化を阻害することによって抑制していることが推察され、逆に、低濃度ではMDR-NF1とinverted CCAAT boxとの結合を増すことによりMDR1promoterの発現を誘導するという、濃度特異的な2つの作用を持つことが判明した(Cellular Pharmacology,2:153-157,1995)。これにより、治療を含めた薬剤などによるこの耐性遺伝子の調節には、その使用法に詳細な検討を必要とすることが示唆された。今後この転写因子(MDR-NF1)の抗体の作製、臨床サンプルへの応用へと進める予定である。
著者
浅井 昭博
出版者
愛知学院大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

歯周病の原因である細菌は、Porphyromonas gingivalis, Actinomyces viscosus等の嫌気性細菌が有力とされているが、従来の方法による細菌採取では、歯周ポケットに限局した採取とならざるを得なかった。外科療法は歯周治療に占めるウエートは大きいが、歯周外科処置の細菌学的考察は困難とされていた。歯周病の発症や進行の機序解明に関する分野において、歯周ポケットのみならず、ポケット以外の歯周組織への細菌の侵入による局在の様子を明らかにし、実際に歯周病関連菌の侵入を受けている歯肉組織を歯周外科処置にて除去し得ているか、in situ Hybridization(ISH)法を含めて細菌学的に観察をすることを目的とした。歯周外科処置により除去した歯周組織を標本とし、P. gingivalisのFim遺伝子の約0.96kbp HincII-BsmI断片DNAプローベをもとに、従来検出不可能あるいは極めて困難であった歯周組織内への細菌の侵入、局在の様子を観察する方法を得た。その有効性を検証するために、歯周ポケット内においては従来の培養法を用い、歯周外科療法の効果実証を行った。細菌検査は歯周外科処置前後および対照菌について実施し、併せて臨床効果判定を行った。現在、歯周外科処置時に標本を採取することにより、P. gingivalisが歯周ポケット内のみに限局せず、歯周組織内に広範に侵入していることを明らかにしつつある。また、各種歯周病関連菌に対する培養法による結果を基に薬剤投与法の検討を行い、Local Drug Delivery System応用による塩酸ミノサイクリンの歯周局所への投与の有効性を細菌学的・臨床的に実証し、塩酸ミノサイクリンを含有したストリップスタイプ歯周病薬「SDP」を開発し、発表した。今後、“Checkerboard"DNA-DNA Hybridizationを行い、観察可能な歯周病関連菌の菌種を増やす予定である。
著者
小竹 佐知子
出版者
山梨県立女子短期大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

粘稠性のある食品のモデル系試料として、0〜15%濃度のデンプンゾル(粘度3.7Pa s以下)および油相体積分率0.3に調製して粘度を変えたエマルション(粘度2.1Pa s以下)を用い、香気成分には油-水間の平衡分散係数K_<ow>と空気-水間の平衡分配係数K_<aw>が大きく異なるdiacety1(K_<ow>=0.3、K_<aw>=1.6×10^<-3>)および2-heptanoe(K_<ow>=52.0、K_<aw>=11.6×10^<-3>)の2種類を、各モデル試料での濃度が0〜20ppm濃度となるように添加した。各試料5mlをパネルに供試して0〜2分間咀嚼させ、咀嚼中の放散香気をテナックスチューブ(2,6-diphenyl-p-phenylene oxide、35/60mesh)に補集し、ガスクロマトグラフィー(Carlo Erba MEGA 5300、検出器 FID、カラムSupelcowax 10(60m×0.25mm i.d.)、温度40℃4分間→95℃(2℃/min)→272℃(6℃/min)、ガス流量He 1ml/min)により放散量を測定した。両香気成分とも咀嚼時間に伴って放散量は増加しており、香気成分の違いによる放散量の違いは従来の報告と同様の傾向であったが、パネルにより放散量は大きく異なっていた(咀嚼2分時diacetyl低粘稠試料最低値300〜最高値800ng、高粘稠試料750〜2250ng、2-heptanone低200〜1750ng、高700〜1900ng)。同事に測定した分泌唾液量にもパネル間において大きな差が認められた(低0.3〜2.0g、高0.4〜2.8g)。これらの違いには男女差や年齢、人種による傾向は認められなかったが、分泌唾液量が多いほど試料媒体の希釈により、香気放散量の少ないことが認められた。
著者
内田 啓司
出版者
昭和大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

目的多量の高分子抗原が,消化管に入ると,正常の消化管であれば,種しゅの酵素,IgA, pinocytotic, 粘着バリアーなどの働きにより,容易に抗原性の持たない物質に分解される.しかし,腸管アレルギーでは,腸管粘膜の波状をきたし,容易に高分子抗原物質を分解できず,体内に吸収されることが報告されている.1981年,ROBERT等は分子量45.000のオバアルブミンで感作されたRatを用い,その腸管にオバアルブミンでchallenge後1時間後に分子量18.000のβ-lactoloblinの吸収がオバアルブミンで感作されていない(コントロール)群に比べ血中に抗原性を持つ形で出現することを報告した.また,高分子蛋白の最高血中濃度は,負荷後2時間が最高血中濃度を呈すことが報告されている.方法分子量45.000のオバアルブミンで感作されたRatを用い,オバアルブミンで経口的にchallenge後,1時間後,3時間後,6時間後,12時間後,24時間後の5群に分け,高分子抗原の分子量18.000のβ-lactogloblinを経口的に投与し,最高血中濃度を呈す2時間値(吸収率)をELISAを用い,その値をそれぞれの群で比較検討し,それを腸管炎症マーカーとした.結果1時間群(n=9)では,55%(5/9)に,β-lactogloblinが血中に出現した.また,55%の平均血中β-lactogloblinは,189.3ng/ml, 3時間群(n=5)では(1/5),20%の陽性率であった.またその1例の血中濃度は1800ng/mlであった.6時間群(n=7)では,(4/7) 57%で陽性であった.平均血中β-lactogloblinは,900ng/ml, 12時間群は,negative dataであった.24時間群(n=10)では,40%の陽性率であった.また,平均血中β-lactogloblinは,97.6ng/mlであった.考察今回の検討から,challenge後1時間から6時間あたりまでβ-lactogloblinの腸管吸収が亢進しており,12時間後には,一時低下するものの,24時間後に再びβ-lactogloblinの腸管吸収の亢進が認められた.このように2相性に,しかも持続してβ-lactogloblinの腸管吸収が認められる機序に関してはIgEdependent mechanismの即時相だけでなく,連発相も関与して抗原吸収に影響を及ぼしている可能性が示唆された.
著者
宮本 旬子
出版者
鹿児島大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

<目的> キヌガサソウKinugasa japonicaは日本固有のユリ科の多年草で、染色体数は2n=40の8倍体である。ツクバネソウ属Parisやエンレイソウ属Trilliumと形態的共通点があり、2属間の雑種起源ともいわれる。本研究では、スライドグラス上でキヌガサソウの染色体DNAにParisやTrilliumの全DNAを結合させたとき双方の塩基配列が似ていれば良く結合し異なれば結合しないことを利用して、キヌガサソウの40本の染色体中にParisやTrilliumの染色体と似た遺伝子配列を持つ染色体が在るか否かを調べることを目的とした。<方法> まずParisとTrilliumの2倍体種の葉からCTAB法によって全DNAを抽出して蛍光標識した。ゲノムin situハイブリッド法(GISH)によりこれらの全DNAをスライドグラス上に展開したキヌガサソウの染色体に結合させ、蛍光顕微鏡および共焦点レーザー顕微鏡を用いて観察し、蛍光強度から結合の程度を検討した。<結果> parisかTrilliumいずれのDNAを用いた場合でも、キヌガサソウの各染色体上に部分的にプローブDNAの存在を示すシグナルが現れた。このことはParisやTrilliumの塩基配列と良く似た配列がキヌガサソウの染色体上に存在することを示しているが、キヌガサソウの40本の染色体の中に現生のParisとTrilliumの染色体と全く相同な染色体が半々ずつ存在しているわけではないことも明らかになった。以上の研究結果の一部を平成6年にKEW Chromosome Conference(イギリス)、日本植物学会大会(札幌)、および染色体学会年会(高知)において公表したほか、本研究に関する論文を現在投稿中である。
著者
林 昇太郎
出版者
北海道開拓記念館
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

幕末期の松前を中心に活動した画家,早坂文嶺の経歴については,これまで、河野常吉による「松前藩の画師なり。奥州福島の人にして,弘化中松前藩に仕へ士籍に列す。最も仏画を善くす。其の蝦夷人を描くときは,殊に二司馬の号を用ふ。即ち夷語ニシパ,貴人の義,に採るなり。子元長は,明治元年正議派の一人たり」以上のことは不明であった。ただし,文嶺を四条派の画家である前川文嶺(1837・天保8年〜1917・大正6年)とする指摘があり,すでに資料目録など一部でそのように記載したものもみられた。しかし、本研究において、文嶺は1797(寛政9)年に生まれ、1867(慶應3)年に享年71歳で没したことや、松前に移り住む前に山形城下の旅籠町で表具屋を家業としていたこと、さらに,文嶺の父は山形市内に作品が相当数現存かる画家で、義川斎定信などと号していたことなどが判明した。作品については,文嶺の活動の本拠地であった松前町をはじめ青森県風間浦村やさらにはアメリカ合衆国ブルックリン美術館所蔵資料をふくむ24点を確認することができた。その中で年紀を有する作品は7点あり、それらは弘化および安政年間であった。これまで、文嶺はおもにアイヌ絵の作者として紹介されることが多かったが,アイヌ絵以外にも仏画や武者絵など,その画題は幅ひろい。画風としては,狩野派や浮世絵の影響が顕著であるが、四条派などの画風も見受けられる。ひとつの流派に位置づけることはかなりむずかしいが、技量的にはけっして低くはないと思われる。
著者
高木 厚司
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

1.肝門脈血液中のエンドトキシン(LPS)濃度の測定i)慢性植え込みカニューレを肝門脈に挿入後第3-4日目に採血、血漿分離後、検体とした。最初に採取した検体はしばしばLPS濃度が高値を示し、カニュレーションの死腔や先端の細菌汚染が予想された。しかし、2回目以後のLPS値はおおよそ低値で安定する傾向が見られたため、実験開始直後のサンプルのみをデータから除外した。ii)既知の標準LPS溶液を正常血漿中に加え、その回収率を算出した。その結果、検体を氷冷していた場合、その回収率は90%以上であったが、37度で10分間インキュベーションしてやると血漿中の添加した標準LPS量は、約1/3に低下してしまうことがわかった。血漿中には補体などのLPSを活性化する種々の因子の存在が報告されており、検体の温度管理がたいへん重要であることが明かとなった。iii)肝門脈血液の安静時LPS濃度は、一般静脈血のそれと比較して約30%高値を示した。拘束ストレス負荷により肝門脈中のLPSレベルは拘束負荷30分後に基礎値の約3倍まで上昇したが、1時間の拘束を加えているのに関わらず、拘束開始1時間後には下がり始め、2時間後(拘束終了1時間後)にはほとんど基礎値に戻った。2.肝クッパー(K)細胞のIL-6生産能を及ぼすノルアドレナリン(NA)の作用i)K細胞の一次培養系を用いて、NAが、IL-6の生産に及ぼす効果を観察した。その結果、NAの濃度(10nM-100μM)に依存して、IL-6の生産量が増加した。しかし、その効果は最大でも基礎分泌量の約30%増加に過ぎなかった。(NA,10μM)。ii)K細胞のLPS刺激によるIL-6の生産能は、用量依存的(1ng/ml-1μg/ml)に著明に増加した(約10倍)。さらに、NAの同時投与はこのLPSの効果を約30%増強した。iii)上記の結果より、拘束ストレス時の抹消IL-6増加反応では、腸管由来のLPSが肝でのIL-6産生の直接因子となり、交感神経の終末より遊離されるNAが、増強因子となっている可能性が示唆された。
著者
梶田 将司
出版者
名古屋大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

本年度は,前年度の研究成果である,「実環境からの音響情報の取得に分散配置型多点受音マイクロホン収録系を用い,同定すべきシーン内の音響情報を様々な場所で観測することにより,よりロバストな音声認識を行うための技術」について,引き続き詳細な検討行った.スペースダイバーシチ型音声認識の基本的な考え方は,残響や妨害雑音のある劣悪な音響環境下で発声された音声を様々な地点で観測し,その中から何らかの基準に従って信頼度の高い情報を得ることにより,高精度な音声認識を行うというものである.このようなシステムの実現には,(1)マイクロホンから離れた位置で発声される遠隔音声の認識手法の開発,及び(2)認識器へ入力される複数のチャネル情報の統合もしくは選択手法の開発,が求められる.本論文では,遠隔音声の認識手法として,ある観測点での室内伝達特性を畳み込んだ音声を用いて学習した遠隔音声モデルを複数地点分用意し,用いる.また,複数チャネル情報の統合/選択手法として,尤度レベル,特徴量レベル及び信号レベルでの統合/選択手法を提案する.実験結果より,分散配置マルチマイクロホンによるスペースダイバーシチ型音声認識手法により,83.6〜88.7%の認識精度が得られることが分かった.以上の研究成果報告は,IEEE主催の音声・音響・信号処理国際会議及び電子情報通信学会論文誌で行った.
著者
小平 久正
出版者
北里大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

H. pyloriは、菌体側の定着因子と宿主側の受容体との結合性を介して胃粘膜ゲル層および表層粘膜に定着している。その受容体の多くは糖蛋白や糖脂質であることが知られている。本研究の目的は薬物により影響を受けた胃粘液糖鎖構造の変化が、H. pyloriの結合に影響を及ぼすか否かを検討することである。1.胃粘液糖鎖構造をレクチン組織化学およびELISA法を用いて胃粘液ゲル層、表層粘膜、深層粘膜に分類した。H. pylori受容体糖鎖構造の一部として取られるシアル酸は粘液ゲル層において、フコースは粘液ゲル層および胃粘膜表層において観察された(日本薬学会第116年会発表予定、投稿準備中)。2.胃粘膜直接刺激性のあるアスピリンあるいはカプサイシン経口投与で胃粘液分泌性が増加し、表層粘膜におけるシアロムチンの増加と胃粘液ゲル層におけるシアル酸の増加を認めた(アメリカ消化器病学会発表予定)。3.上記薬物処置により得られた胃粘液を精製し、H. pylori分画抗原を固相化したELISAプレート(HM-CAP)に対する結合性を検討した。アスピリン処置により得られた粘液ゲル層ムチンは正常マウスに比べてHM-CAPに対する高い結合性が認められた。以上のことから、H. pylori受容体に関与する糖鎖は胃粘液ゲル層および粘膜表層において認められ、これら糖鎖との結合性にアスピリンが影響する可能性が示唆された。