著者
檜垣 立哉
出版者
埼玉大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

〈無意識〉という概念は、とりわけ近代的思想から現代的思考への転換の在りようを検討する場面で、根幹的なものとして位置づけられる概念であり、さらには現代におけるいわゆる構造主義やポストモダンの思想を総覧する場面では、表面的な応用・適用を越えたその哲学的内実の検討は看過しえない研究主題たりうるものと想われる。こうした考えを背景に、本研究では、基本的に次の二つのラインに従って研究を遂行した。一つは〈無意識〉という概念を、その概念装置そのものの創始者であるフロイトに精確に辿り返りながら、その概念の孕む哲学的内実を研ぎすまし、先ずはそこから〈現実的なもの〉という独自な概念を〈無意識〉の核として採り出したジャック・ラカンの思考を整理し、それが切り開く射程に関し考察を加えた。このなかで〈無意識〉という概念が〈抑圧〉を越えた〈排除〉と言う仕方で、記号的構造=象徴的なもの・知覚的錯綜=想像的なもの、という概念装置に奥深く連関する様を採り出しながら、〈無意識〉と〈主体〉〈言語〉の相関に関して、一定の考察を展開した。この成果は、「現実的なものの位置」(埼玉大学紀要)で既に発表済みである。第二には、ガタリと共に、一種の反精神分析という視点からフロイト以降の精神分析の運動を批判的に摂取し、別種のかたちで〈無意識〉に関する唯物論的・機械論的観点を提示し、ラカンとは異なったかたちで〈無意識〉の理論を拡張させるドゥルーズの議論の分析を、とりわけフロイトの理論においても根幹となるタナトス概念と〈器官なき身体〉の概念の関係などを中心に考察を進展させつつある。この点に関しては、いずれ近いうちに紀要・雑誌論文などでまとめる予定である。
著者
堀 彰
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

氷結晶中の気体の拡散係数の推定を行うため,非経験的分子軌道法を用いて,移動の障壁エネルギーの計算を行った。氷の格子間拡散の経路としては,結晶のc軸に沿った経路であるTuサイト→Tuサイトの拡散がより支配的であると考えられ,その取り扱いのために水分子18個からなるクラスターを作成し,移動の障壁エネルギーの計算を行った。非経験的分子軌道法の基底関数として6-311G(d,p)を用いて計算を行うと,Heのc軸に平行な方向の拡散の実験データと非常に良い一致を示した。さらに,原子の移動に伴う全エネルギーの変化から見積もったattempt frequencyの値から,古典的な遷移状態理論に基づく理論式を用いて拡散係数の前指数因子を計算したところ,実験データと良い一致を示した。また,Neに関しても同様であるが,計算値が実験値よりも5%大きくなったが,これは,構造緩和の効果を無視したためであると考えられる。酸素や窒素の分子に関しては,障壁エネルギーの計算を行ったところ,酸素分子の方が約0.3eV低い値となった。さらに,構造緩和の効果を調べるため,水分子378個からなる大規模クラスターを作成し,半経験的分子軌道法による計算を行った。その結果,両者の差は約0.1eVとなったが,分子径は酸素分子の方0.1Å小さいが,その差は,分子径の差からは説明できない。そこで,分子軌道を調べたところ,酸素の場合は,分子の移動の過程で氷の格子と結合を生成するため,障壁エネルギーが低下することがわかった。メタンについて同様の計算を行った結果,メタンの障壁エネルギーは約0.8eVと求められた。このことは,メタン分子では氷結晶中の格子間拡散は起こりえないことを示している。また,二酸化炭素については,直線的な形状・大きさの効果を考慮する必要があり,引き続き検討中である。
著者
高橋 喜博
出版者
松本歯科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

解剖学的に開口筋には筋紡錘が存在しないか,あるいはごく少数であることが明らかにされて以来,電気生理学的にも開口-閉口筋には四肢筋に見られる相反性抑制機構が認められていない.本講座の倉沢らは,咬筋ならびに舌骨下筋筋紡錘由来の求心性情報は,主として,それぞれ開口ならびに閉口運動時の顎位の制御に関与することが示唆されることを明らかにした.一般に,腕などにおける随意運動時の位置的制御にについては,運動により伸張される筋,すなわち拮抗筋由来の求心性情報の関与が有力視されている.これらのことから本研究は,咬筋ならびに舌骨下筋,特に胸骨舌骨筋との機能的相互作用(相反性抑制機構)の可能性について解析を行った.被験者は「説明と同意」を得た健常者とした.実験計画にしたがい,運動ニューロンの興奮性変化の指標はH反射応答を用いた.被験者に咬筋の筋電図波形をオシロスコープでモニターしながら中程度の強さの持続的咬みしめを行わせた後,今回購入した電気的刺激装置を用い,表面電極を通して咬筋神経の経皮的電気刺激によりH反射応答を誘発させた.咬筋のH反射は,潜時約6msで誘発された.これはFujii et al.の報告と同一のものと考えられる.しかしながら,短潜時であるため刺激のアーチファクトと現象がオーバーラップし,現象として正確に測定することは困難であった.そこでpost-stimulus time histograms(PSTH)を用い,被験者がモニターを観察しながら習得した約5%M.V.C程度の,咬筋針電極により記録した随意性のユニット活動に対する,舌骨下筋由来の求心性神経の電気的刺激の影響を解析した.その結果,咬筋の随意性ユニット活動は,潜時約12msで7〜8ms持続する抑制効果が観察され,舌骨下筋由来の求心性神経による咬筋運動ニューロンへの抑制性機構が示唆された.詳細についてさらに検討を行っている.
著者
梅井 利彦
出版者
福岡歯科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

白血病の治療は数種類の抗腫瘍剤を組み合わせた多剤併用療法が主体である。しかしながらこれらの抗腫瘍剤は副作用が強力で、しばしば治療を中断しなければならないこともあるほどである。アンチセンス法は癌特異的な抗腫瘍効果と分化誘導効果が期待できるため、今後の発展が望まれる治療法である。今回、まず癌遺伝子のうちc-mycに対するアンチセンスオリゴマー(5′d(AAC-GTTGAGGGGCAT)3′)を合成した。さらにコントロールとして(5′d(TTGGGATAA-CACTTA)3′の2種類のオリゴマーを合成した。これらを培養中の白血病細胞株(HL-60)に作用させ、その効果を見た。c-mycがコードしているp65蛋白の合成をウェスタンブロッティング法にて確認したところ、コントロールオリゴマーでは蛋白合成に何らの作用も及ぼさなかったが、アンチセンスオリゴマーではp65蛋白の合成低下が見られた。アンチセンスオリゴマーの濃度が10muMのときおおよそp65蛋白合成が半減した。一方、アンチセンスオリゴマー存在下でのHL-60細胞の増殖は濃度依存的に抑制され、10muMのアンチセンスオリゴマー存在下で増殖も約50%抑制された。これらの増殖抑制効果は、コントロールオリゴマーでは見られなかった。このように、アンチセンスオリゴマーは白血病細胞の増殖を抑制することがわかった。今回、実際の白血病患者より得られた癌細胞を用いて、アンチセンス遺伝子の効果を検討するまでは至らなかったが、急性、慢性骨髄性白血病などの遺伝子異常が見られる細胞や、成人T細胞性白血病、多発性骨髄腫などその増殖に関与するサイトカインが知られている細胞に対しては有効な結果が期待できると思われる。
著者
浅井 健一
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

自己反映言語のコンパイルを目指して、おもにその基礎技術である部分評価法の研究を行った。部分評価器を自己反映言語のコンパイラとして使用するためには、使用する部分評価器が(1)十分、強力で、かつ(2)効率的に動くこと、の2点が重要である。これらに対応して以下のような結果を得た。1. 部分評価器の能力として、構造データをきちんと扱えることが重要で、そのためには部分評価時に各式の値とコードの両方を保持することが重要であることを発見した。これに基づいて実際にonlineの部分評価器を作成し、その効果を確かめた。しかし、この方法はonlineのため効率に問題があることがわかった。2. より効率的な部分評価を実現するべく、上記の方法をofflineに拡張する方法を提案した。この方法は、構造データをうまく扱う特化器の作成と束縛時解析器の作成というふたつの部分からなる。このうち前者は、必要に応じて値とコードの両方を保持し、かつコードの複製を避けるためコード部分を必ずlet式に残すことでうまくできることがわかった。この特化器を使って実際にいろいろな特化を行い、自己適用によるコンパイラジェネレータの作成を含めてうまく動くことを確認した。後者に関しては、従来の束縛時解析の手法を拡張することで、値とコードの両方を持つべき場所を特定できることを示した。その過程で、束縛時解析は、比較的、素直に制約を生成する型システムとして定式化できるが、制約を解くためには従来の手法と違い、2段階にわける必要があることがわかった。束縛時解析は実際に実装を行い、うまく動くことを確認した。今後の課題としては、ここで提案した束縛時解析の多段の部分評価への応用、今回は行うことができなかった自己反映言語のコンパイルへの実際の適用などがあげられる。
著者
今井 雅夫
出版者
北里大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

妊娠正期妊婦から膣頚管粘液を毎週自然陣痛発来まで採取し、各種サイトカイン濃度を測定したところ測定時から4日以内に自然陣痛発来した妊婦の膣頚管粘液中の癌胎児性フィブロネクチン、IL8は有意に高値を示したがIL1,IL1ra,IL6,IL6 soluble receptor,TNF,TNF soluble receptor,IL10には有意な差を認めなかった。このことから癌胎児性フィブロネクチン、IL8測定により、陣痛発来時期の推定が可能と考えられた。また経膣自然分娩例、陣痛開始後の帝王切開例、陣痛発来前の予定帝切例の胎盤組織における、cPLA_2、sPLA_2mRNAの発現量を測定したところ陣痛発来前の予定帝切例では脱落膜側でsPLA_2mRNAの発現を、羊膜側でcPLA_2mRNAの発現を認め、腟側と子宮底部側では膣側に発現を強く認めた。しかし、陣痛発来後時間を経過したものでは、cPLA_2、sPLA_2mRNAともに脱落膜側に非常に強く発現しており、羊膜での発現が減少していた。このことからcPLA_2、sPLA_2mRNA誘導には解剖学的に膣側の因子(炎症の影響)が関与する可能性が強いこと、陣痛発来後には、無血管領野である羊膜では基質の欠乏からかPG産生が低下する可能性が示唆された。帝切の胎盤組織から得た培養細胞にTGFβを添加すると濃度依存性にサイトカイン産生を抑制した。
著者
伊藤 菊一
出版者
岩手大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

植物は哺乳動物とは異なり、自らの体温を調節することなく、外界の気温と共にその体温が変動するものと考えられてきた。ところが驚くべきことに、ある種の植物には、自ら発熱し、体温を調節するものが存在する。本研究においては早春に花を咲かせる発熱植物である「ザゼンソウ」に着目し、本植物の熱産生に関わるシステムを明らかにするための研究を行った。はじめに群落地および人工気象室におけるザゼンソウの発熱変動データーを収集し、肉穂花序の恒温維持に関わる特性を検討した。その結果、ザゼンソウの肉穂花序は約60分を1周期とする体温振動を示すことが明らかになった。興味深いことにこの体温振動は、外気温の変動を原因とする体温の変化により引き起こされ、しかも、この体温振動が誘導されるための体温変化の閾値は0.3℃であると見積もられた。植物界でこのような微少温度変化を認識し、恒温性を維持できる生体応答システムはザゼンソウ以外には報告がない。この研究成果は、2001年夏に米国で開催されたアメリカ植物生理学会年次総会で招待講演を行った。次に、このザゼンソウに特徴的な体温振動過程における発熱関連遺伝子のmRNA発現量について検討した。発熱関連遺伝子としては、哺乳動物で非ふるえ熱産生の原因遺伝子であることが明らかになっている脱共役タンパク質(uncoupling Protein : ucp)のザゼンソウホモログ、および、植物の発熱原因遺伝子であるとされているシアン耐性呼吸酵素(alternative oxidase : aox)遺伝子をターゲットとした。特にaox遺伝子は従来ザゼンソウ肉穂花序より単離されておらず、本研究においてその単離を行った。ノーザン解析により、肉穂花序の体温振動過程におけるucpおよびaox遺伝子の発現を調べたところ、それぞれのmRNAの蓄積量には大きな変動がなく、体温の変動は発熱関連遺伝子の転写レベルでは調節されていないことが推察された。
著者
佐々木 雅弘
出版者
旭川医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

これまでの指紋に関する研究は形態からの個人識別を中心に行われ、その他の目的で検査される事は無かった。もし,形態からの個人識別を行った後の指紋よりさらに別の種類の個人識別に有用な情報が引き出せるとすれば、鑑識実務上非常に有用である。一個の指紋から形態的検査のみならず、血液型,DNA多型が判定出来るとすれば,犯罪捜査上非常に大きな技術進歩と言える。今年度は部分指紋からPolymerase chain reaction法(PCR法)によりABO式血液型転移酵素遺伝子領域、D1S80領域、各種マイクロサテライト領域、性染色体特異配列などを増幅することによって性別判定と同時に血液型判定、個人識別を試み、有用であるとの結論を得た。現在、検索領域を性染色体上のいくつかのマイクロサテライトに広げ、そのアリル分析と、遺伝安定性、法医学的には性別判定と同時の個人識別、あるいは判別判定の確からしさの数値化にかんして検討を加えている。
著者
馬本 勉
出版者
比治山大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本課題研究においては、語の記憶の「連鎖」とハイパーテクストにおける「リンク」の類似性に注目し、コンピュータを用いた英語の語彙学習システムの構築を行った。2年間の研究期間中、学内のWebサーバを用いて各学習者のホームページを作成し、学内外からのアクセスが可能な形で、個人個人の連想ネットワーク(擬似メンタルレキシコン)を公開した。(http://ipr.hijiyama-u.ac.jp/〜umamoto/)特に2年目の本年度は、ホームページ作成ソフトの新規導入により、Webページ作成の負担を軽減できたことが大きい。1年目の文字情報中心・学内サーバ内リンク中心のものから、映像を含むマルチメディア情報・全世界の情報網へのリンクを伴う「擬似メンタルレキシコン」の立体化が進んだように思われる。同時に学習者間のリンクも進み、他者のメンタルレキシコンとの比較も容易になった。ホームページの作成・閲覧過程を通じての「語彙力」の伸びは、多くの学習者が実感するところとなった。特に、日本語による概念の広がりをきっかけとした英語の語彙拡充の一形態が、本研究で言うところの「学習システム」において実現できたように思われる。また、学習者のメンタルレキシコンの観察を通じ、対象とする語と共に学習するのが望ましい(周辺的な)情報のあり方についても検討が進んだ。上位語・下位語・類義語などの関連語や、コロケーションなどの語法的な連想に加え、学習者の個人体験に基づく「リンク」に目を向けることにより、「語と語の連なり」「語義の広がり」「語感の深まり」といった「立体的」な語彙学習のための、語彙選定への提言を行うに至った。
著者
是枝 雄二
出版者
日本大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

1)GTase-Sは透析BHI培地培養上清を硫安塩析,DEAE-SephaphacelおよびCM-celluloseのイオン交換クロマトグラフィーに供して,また,GTase-Iは1%硫安添加M4培地培養上清を硫安塩析、CM-celluloseイオン交換クロマトグラフィーおよびToyopearl HW-55ゲルクロマトグラフィに供して分離精製した.最終標品はいずれもSDS-PAGE的に均一であり,推定分子量はそれぞれ145kDa,160kDaであった.2)唾液被覆HAデイスクに対するS.sanguis菌体の吸着は,粗酵素標品の唾液への添加により顕著に促進され,吸着率は添加酵素量の増加とともに増大した.なおこのような吸着促進はショ糖存在下で菌体を長時間(10時間以上)インキュベーションすることが必要であった.3)GTase-Iの純化標品の添加によっても粗酵素と同様のS.sanguis菌体の著明な吸着促進が認められた.これに対し,GTase-S純化標品にはそのような吸着促進は認められなかった.4)S.milleri菌体に関しては,粗酵素標品,GTase-IおよびGTase-Sの純化標品のいずれにも菌体吸着を促進する作用は認められなかった.しかし本菌は,GTase-Sを含む酵素標品で前処理することにより,GTase-I添加唾液で被覆処理したHAデイスクに対する吸着性を獲得した.以上の結果,歯垢の主要構成菌であるS.sanguisは,S.mutans由来のGTase-Iの酵素作用で人工ペリクルに強く吸着すること,その吸着は,菌体結合性GTaseとペリクル中のGTase-Iとの協同作用によるde novoグルカン合成を介してなされること,外来性GTase-Sを表層に結合したS.milleriは同様の機序でペリクルに吸着することが明かになった.これらの結果より,血清型c S.mutansのGTase作用による歯面獲得ペリクルへの菌体吸着系が,歯垢形成の初期過程に機能していることが示唆された.
著者
石嶌 純男
出版者
千葉大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

マウスSwiss 3T3線維芽細胞を増殖刺激すると、早期に細胞内遊離Mg^<2+>濃度が上昇する。このMg^<2+>の増加は10秒以内に起こる一過性の初期相と、大部分は細胞の外からのMg^<2+>流入による30-60分後の第2相との二相性を示す。ここでは刺激直後に起こる一過性のMg^<2+>濃度上昇に焦点を絞り、細胞内でのMg^<2+>の遊離機構を解析した。遊離Mg^<2+>濃度の測定は、蛍光色素mag-fura-2と蛍光顕微画像解析装置Argus-100を用いて単一細胞レベルで行った。刺激は主として、ボンベシン-Swiss 3T3細胞系を用いた。1.細胞内Mg^<2+>遊離機構。細胞質内Mgの90%以上は各種のリガンド、特に40%はATPと可逆的に結合して存在する。しかし刺激後2分以内にATP濃度変化はみられず、Mg^<2+>上昇はATPよるものではない。さらにボンベシンにより細胞内はアルカリ化するが、弱塩基添加により細胞内をアルカリ化してもMg^<2+>濃度はほとんど変化せず、ボンベシンによるMg^<2+>上昇にも影響を与えなかった。一方、イオノフォアの一種であるイオノマイシンを加えるとMg^<2+>上昇がみられたが、ボンベシンあるいはイオノマイシンを加え2分後に他方を加えても二度目のMg^<2+>上昇はみられなかった。これは両者が同じMgプール、おそらくは膜系よりMg^<2+>を遊離させたことをしめしている。3.細胞外Ca^<2+>の役割。外液のCa^<2+>を除くとボンベシンによるMg^<2+>上昇の程度は六十%低下し、Caチャンネルブロッカーであるニカルジピンを加えるとMg^<2+>上昇は90%阻害された。このニカルジピンによるMg^<2+>上昇の低下は、外液のCa^<2+>濃度を上げることにより部分的に回復した。以上の結果は、ボンベシンが、細胞外Ca^<2+>に依存して早期に細胞内プールからMg^<2+>を動員することを示している。
著者
筧 楽麿
出版者
神戸大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

加速度記録のエンベロープ合わせによる高周波生成過程の推定に遺伝的アルゴリズムを用いる手法を開発した。モデルパラメータは加速度放射強度と破壊時刻である。1995 年兵庫県南部地震のシミュレーション記録をデータとして使った解析では,「現世代の上位5%はそのまま次世代の個体として残すという『エリートコース』」を設けることにより良好な観測・合成エンベロープの合いを実現した。シミュレーションでは非線形性の強いパラメータである破壊時刻も非線形性の弱い加速度放射強度と同等の良好さで決定され,この種の解析のネックであった非線形性は克服できたと考えられる。一方,シミュレーションで用いた観測点数(9点)では震源モデルを充分に拘束できなかった。これは手法の欠陥ではなく,破壊時刻と放射強度の両方をモデルパラメータとするにはデータの持つ情報量がやや不足していることを示している。即ち震源モデルを充分に拘束するには多くの震源近傍の観測点が必要であるということが明らかになったということで,高密度の強震観測の重要性を訴える結果である。超広帯域の解析として1994年のノースリッジ地震の解析を行った。残念ながら観測点数が5点と少なかったため破壊時刻をモデルパラメータに含めることができず,線形化してエンベロープインバージョンを行う手法で高周波(5-10Hz)の地震波の生成過程を推定した。Wald et al.(1996)による低周波数帯の解析結果と比較すると,(1)高周波はすべりの大きい領域の周辺部から励起されていること,(2)高周波を励起しているのは断層面上のごく限られた領域であることが明らかになった。(1)のメカニズムは第一義的にはstopping phase で説明される。また(1)は強震動予測においては対象とする周波数帯にあった震源モデルを用いることの重要性を示唆する。これらは超広帯域の解析が震源の物理の理解と強震動予測のための震源のモデル化に大きな役割を果たすことを示すものである。
著者
岡 孝和
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本年度は以下の2つの実験を行った.実験には雄ウイスターラット(300-350g)を用い,侵害受容閾値の測定にはプランターテストを用いた.[1] インターロイキン-1β(IL-1β)を視床下部視索前野(POA)に投与したときに生じる痛覚過敏におけるNOの関与の検討.実験1週間前に麻酔下でガイドカニューレとスタイレットをPOAの1.0mm上まで埋め込み,実験当日,薬物を目的部位に注入しpaw-withdrawal latencyの変化を観察した.IL-1β10pgをPOAに投与すると15-30分後にpaw-withdrawal latencyは短縮したが,IL-1β+N^G-monomethyl-L-arginin(10μg)を同時投与すると短縮効果が抑制された.POAにおいてIL-1βはNOを介して痛覚過敏を生じると考えられた.[2] Lipopolysaccharide(LPS)全身投与によって生じる痛覚過敏/鎮痛作用におけるプロスタグタンジン(PG)の関与の検討.LPS1-100μg/kgを静脈内投与したところ,投与45-60分後にpaw-withdrawal latencyが短縮した.一方,120分の観察時間内ではpaw-withdrawal latencyの延長はみられなかった.シクロオキシゲナーゼ-2阻害剤であるNS-3981.0ng/0.3μlを両側POA内に局所投与したところpaw-withdrawal latencyの短縮が抑制されたが,腹内側核,室傍核内への投与では抑制効果がみられなかった.細菌感染症にかかった時に生じる痛覚過敏にPOAでのPG産生が関与すると考えられる.
著者
桑門 秀典
出版者
神戸大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

サブリミナルチャネルを用いると,ディジタル署名の中に秘密情報を隠すことができる.署名者はその秘密情報の存在を第三者に知られることなしに送信できるので,悪用される可能性がある.しかし,もし秘密情報が存在する場合,そのディジタル署名を中継する者が,その秘密情報を破壊するような操作が可能であれば,全てのデータにその操作を施すことによってサブリミナルチャネルによる通信を防止することができる.このような操作が可能であるようなディジタル署名方式を開発し,実用化の検討を行うことが本研究の目的である.1.提案するディジタル署名方式の効率の向上:合成数を法とする平方根を求める困難さに安全性の根拠をおく使い捨て型ディジタル署名を基にして,サブリミナルチャネルの悪用を防止できるディジタル署名方式を考案した.この方式は,極めて効率が良く,現在の計算機上での実装も容易である.一般的に自己ランダム帰着という性質をみたす問題の中で,一方向性をもつ問題を利用した使い捨て型ディジタル署名は,効率が良く,かつサブリミナルチャネルの悪用を防止できるディジタル署名方式に変換できることがわかった.2.提案方式の安全性の検討:提案方式の安全性は,妥当な計算量的困難性な仮定に基づいている.悪意のある署名者が秘密情報をディジタル署名に隠したとしても,それが受信者に伝わる確率は,無視できる程小さいことがわかった.3.提案方式の実用化の検討:提案方式の実装は容易であり,計算に要する時間も短い.ただし,転送すべきデータが比較的多いので,低速なネットワークでは支障がでる可能性がある.しかし,近年の高速ネットワークの整備を考慮すれば,この欠点はあまり問題にならないと考えられる.
著者
林 和俊
出版者
高知医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

抗性腺作用を有するメラトニンと思春期発来との関連が注目されているが未だ明確ではない。我々は、メラトニンのゴナドトロピン分泌抑制作用は、Gn-RHのpulse generatorに作用し、LHpulseの発現を減弱させる機序に基づくことを明らかにしてきた。また、松果体のメラトニン産生能は、初回排卵後、排卵周期の確立過程で減少すること、さらに、このメラトニンの産生能動態に対して卵巣より分泌の増量がみられるエストロゲンが強く関与していることを明らかにしてきた。思春期のメラトニン産生能に及ぼすエストロゲンの作用機序を明らかにするためにラットを用いて卵巣摘除モデル、エストロゲン負荷モデルを作製し、メラトニン産生酵素である松果体内N-acetyltransferase(NAT)とHydroxyindole-O-metyltransferase(HIOMT)に注目し、検討した。NAT活性は、腟開口期の6週には有意に増量し、排卵周期確立過程の8週では減少、以後、同一レベルで推移し、メラトニンと全く同一の変動パターンを示した。一方、HIOMT活性は、4週より6週にむけて著増し、12週まで漸増する変動パターンであった。初回排卵が認められる6週に卵巣摘除を行うと、NAT活性は8週での減少は見られず、逆に有意の増加を示した。一方、HIOMT活性は正常群との差は見られなかった。6週に卵巣摘除し、エストロゲン(E2 benzoate)を連日皮下投与した群では、NAT活性は0.1μg投与群では、卵巣摘除で認められた増量を有意に抑制し、正常群と同一のパターンを示した。一方、HIOMT活性は0.1μg投与では正常群と同一のパターンを示した。1.0μg投与群では両酵素活性ともに正常群より有意に低値であった。以上の結果より、思春期から性成熟期にかけてのメラトニン産生能は、卵巣より分泌されるエストロゲンが主にNAT活性を強く規制することで調節されていることが示唆された。また、エストロゲンのメラトニン産生抑制作用はNAT、HIOMT活性を抑制することに基づくことが示されたが、その感受性には両酵素間で明らかな差があることも示唆された。
著者
竹中 正巳
出版者
鹿児島大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

朝鮮半島と日本列島の人々の成り立ちを明らかにするために,韓国出土の新石器時代人,原三国時代人,三国時代人、慶尚南道現代人の永久歯・乳歯の形態に関するデータを充実させ,分析した。釜山大学校博物館に出張し,凡方貝塚出土の新石器時代人、勒島出土の原三国時代人,礼安里をはじめとする三国時代人のデータを収集した。それを基に,統計学的分析(単変量・多変量分析)を行った結果,礼安里をはじめとする三国時代人は,慶尚南道の現代人・日本列島の渡来系集団と類似する形態を持つことが明らかになった。三国時代以降,現代に至るまで歯の形態は変化していない可能性が示唆される。これは,日本列島における歯の形態の時代的変化と同様である。弥生時代から古墳時代にかけて日本列島へ渡来した渡来人の原郷の一つと考えられる朝鮮半島でも,1500年の間,歯の形態に大きな変化がないことは渡来人の歯の形質を解明する上で意義深い。朝鮮半島の三国時代人,現代人,日本列島の渡来系弥生人,古墳時代以降の人々の持つ,大きな歯,シャベル(切歯)や屈曲隆線(下顎第一大臼歯)等の特徴は,渡来人が元々持っていた歯の特徴であり,それが朝鮮半島と日本で約2000年保持されてきた可能性が高い。
著者
稲城 玲子
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

ヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)は、突発性発疹の原因ウイルスで、発熱、発疹に加え、時に肝機能障害をも引き起こすことが知られている。しかし、その機序はいまだ不明な点が多い。そこで、今回我々はHHV-6感染によって生じる肝障害の機序を明らかにする目的で 1)HHV-6がヒト肝細胞を感染しうるか否か、2)HHV-6感染によって局所免疫を担う肝細胞の機能に変化が生じるか否かを検討した。まず、ヒト肝細胞株(HepG2)にHHV-6(HST株)を感染させ、それら細胞を経時的に採取し、抗HHV-6抗体を用いた間接蛍光抗体法にてウイルス感染細胞の検出を行ったところHHV-6は、HepG2に感染しうることが明らかとなった。次にHHV-6感染がHepG2の担う炎症系サイトカイン産生能にいかなる影響を及ぼすかを検討するため、HHV-6感染HepG2におけるIL-Iβ、IL-RNA発現量を半定量RT-PCRにて解析した。結果IL-IβmRNAの、発現はHHV-6感染によって変動しないのに対し、IL-8mRNA量はHHV-6感染にて有意に上昇した。またこの現象は熱処理やUV処理したHHV-6では認められないことも明らかとなった。以上のことからHHV-6は直接肝臓に感染し、局所での炎症系サイトカイン産生に影響を及ぼし、肝臓での炎症反応を誘導する可能性が示唆された。
著者
杉浦 正利
出版者
名古屋大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本研究では、日本人英語学習者がインターネット上の英語を読む際に、どのような情報を必要しているかを調査し、オンライン辞書を試作し、オンライン語学学習ツール開発のための基礎的な研究を行った。●研究実績(1)英語WWWページの収集:名古屋大学及び国内の大学の大学生が各自のホームページからリンクを張っている英語のページを調査し,1,000ページを収集しファイルして保存した(約2MB)。57,106行、326,849単語、2,153,141文字であった。(2)語彙頻度分析:上記ファイルを頻度分析し、アルファベット順、頻度順のリストを作成した。異なり語数は24,107語であった。(3)辞書ファイルの作成:語彙頻度の多い単語上位1万語に日本語訳をつけた。これは、総単語数中の93%に該当し、頻度が一回の単語(その多くは固有名詞)10,781語(3.3%)を除くと、事実上約96.4%の単語に日本語訳をつけたことになる。(4)辞書検索プログラムの作成:本研究専用WWWサーバをたちあげ、CGIを使い、Per1により辞書検索プログラムを作成した。(5)使用実験:実際に学生に利用させ、日本語訳の不十分さと、例文の必要性が判明した。日本語訳の充実は、試作開発である本研究の範囲を越えるので今後の課題とする。(6)例文検索プログラムの作成:(1)で作成したファイルの中から例文を検索表示するプログラムをCGIを使い、Perlで作成した。(7)インターネット用日本人英語学習者向けオンライン辞書の試作完成●研究結果日本人英語学習者が読みたいと思う英語のWWWページ中の96.4%の単語の日本語訳が出る辞書検索プログラム、及び、その単語が実際に使用されている例文を表示する例文検索プログラムを統合し、目的とするオンライン辞書の試作を完成させた。本プログラムは研究代表者のホームページよりインターネット上に公開されている。
著者
井上 厚史
出版者
島根県立国際短期大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

韓国性理学および日本朱子学の特徴について、新しく入手した資料をもとに基礎的研究を行い、以下のような成果を得た。1、李退溪の思想は、従来の「朱子哲学の限界を超えた」という観点から評価するよりも、朱子学の一つのヴァリエーションと考えるべきである。そして、その特徴は存養と省察の間に「格物」という過程がそっくり脱落しているところに端的に表れている。つまり存養省察の体認体察がそのまま窮理になるといってよく、この点で、朱子学の格物窮理はその対象を「心身」に限定することになった。2、李退溪の思想の影響を強く受けた日本の朱子学者-林羅山や山崎闇斎-も同様に、「心身」への強い関心が見られるが、韓国性理学の場合とは異なり、「理」は実体的に認識される傾向が非常に強い。その背景には、実体的な「心」の概念を提唱していた神道-たとえば『古事記』に見られる具象的なイメージ-との習合が強く関与していると考えられる。したがって、日本の朱子学を考察する場合、神道との比較考察を抜きにすることはできない。3、韓国性理学のもう一つの著しい特徴として、「正心誠意」と「天下国家の事」とが緊密に連結している点があげられる。有名な李退溪により「敬」の重視も、この強い国家意識を抜きにして語ることは難しい。彼が「心」や「善一辺純粋性情の定立」などを問題としながらも、単なる空想的な道徳論に陥らなかったのは、この強い政治意識が介在していたためだと思われる。4、以上の考察により今後問題となるのは、(1)日本朱子学における国家意識の継承、(2)日本朱子学と儒家神道との関係、(3)山崎闇斎に引き継がれた「敬義内外」説の政治的な観点からの分析、の三点である。日韓儒学の比較研究は「理気」論に限定されて考察される傾向が強かったが、今後が認識論レベルにおける比較や言語論からのアプローチを試みる必要があるだろう。
著者
角田 聡
出版者
大阪学院大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

組織が低酸素状態に陥ると、キサンチンオキシダーゼ(XOD)の活性化により活性酸素の生成が増大する。激しい運動中には生体内において低酸素状態が生じ、XODの活性化によるO2・が生成される。そこで本研究では、骨格筋の虚血・再灌流により、活性酸素の生成が増加するかどうかを、抗酸化物質であるビタミンEを過剰に投与したラットにおいて検討した。5週齢のSD系雄ラットを5日間予備飼育した後、2週間通常食群(C)とビタミンE(1000IU/kgdiet)食群(VitE)に分けて飼育した。実験は、疑似手術(Sham)群を加えて計3群とし、12時間以上の絶食後に行った。ラットをネンブタール麻酔下で開腹し、腹部下行大動脈の血流を阻止し、20分間の虚血後に血流を再灌流した。血流再灌流20分間後に下肢の筋肉をサンプリングした。氷冷した生理食塩水で振り洗いした後、水分をとり液体窒素に凍結保存した。大川らの方法によって筋肉のホモジネイトの過酸化脂質(MDA)を測定した。筋肉のMDAは、VitE群とSham群がC群に比べ、有意に低い値を示した。また、ビタミンEの濃度は、VitE群がC群よりも約20%程度有意に上昇した。筋肉の損傷の指標である血漿CK活性を測定したところ、VitE群が最も低い値を示した。さらに、活性酸素を発生させるFe^<2+>を2mM加え、37℃で1時間インキュベーションした結果、C群に比べVitE群が有意に低い値を示した。これらの結果から、骨格筋の虚血-再灌流は活性酸素の増加を促し、筋肉の酸化ストレスを増加させることが示唆された。また、骨格筋の虚血-再灌流による酸化ストレス、もしくは活性酸素発生物質に添加による酸化ストレスは、ビタミンE含量が高い状態で軽減することが明らかになった。さらに、ビタミンEがCKなどの血中逸脱酵素の上昇を抑える可能性も示唆された