著者
西本 照真
出版者
武蔵野女子大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

平成11年度の研究実績の概要は以下のとおりである。1.歴史学的研究『隋唐五代墓誌〓編』(全30巻)中の墓石資料を調査した結果、澄心寺比丘尼優曇禅師が三階教僧であったことが明らかになった。なお、平成12年3月の西安一帯の墓碑調査の結果、同禅師の墓碑銘は昭陵博物館に保存されていることが確認された。2.文献学的研究(1)敦煌遺書北新1002号(『仏性観修繕法』)は首尾を欠いた写本であるが、筆者が三階教文献として注目していた北京8386が文献の後半部分を筆写した写本であることを特定した。このことにより『仏性観修繕法』の全文がよみがえったことになる。(2)敦煌本と本邦本と『三階仏法』の成立と伝播について、七寺写本の特徴も含めて明らかにした。3.思想史的研究昨年度から研究を続けていた『三階観法略釈』(P2268)の思想内容の分析を終え、同文献には華厳や禅の思想的の影響が見られること、成立は7世紀半ば以降であることなどを明らかにした。
著者
岡ノ谷 一夫
出版者
千葉大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1995

ヒトでは音声の産出と知覚に関して大脳の左半球が優位である。申請者のこれまでの研究で、鳴鳥類の一種であるジュウシマツでは、音声の産出において大脳の左半球が優位であることがわかっている。今回申請した研究では、知覚における大脳の優位半球を特定し、それが種に特有な音声に限るのかどうか、生物学的に無意味な音の知覚にも脳の左右差があるのかどうかを検討した。実験にはオスのジュウシマツ4羽を使った。まず、これらの被検体から「地鳴き」と「歌」とを録音し、その後、鳥類大脳における音声産出の最高中枢であるHVCの左右のどちらかを破壊した。この際、被検体を脳定位固定装置で3次元的に定位し、HVCの3次元座標にもとづきラジオ周波数を放射する電極によりHVCとその周辺の組織を熱電気破壊した。回復をまって、オペラント条件付けによりGO/NOGOパラダイムで音声を弁別するように被験体を訓練した。弁別訓練に用いた音声刺激は、3kHz、200ミリ砂の純音と、同じ長さの白色雑音である。これと同時に、定期的に音声を録音し、歌の産出への影響も調べた。歌の産出に関しては、左のHVCを破壊された個体では歌の構成と音声構造が大きく変化し、ノイズ状の歌に変化してしまった。右のHVCを破壊された個体では手術後しばらく歌が変化したが、変化の度合は左の場合に比べ軽微であった。この結果は、申請者の先行研究と一致する。人工音声の弁別に関しては、4個体とも10セッション前後で弁別を学習し、HVCの破壊側による差はなかった。これらの結果と、申請者の先行研究とを総合して考察すると、鳥類のHVCは自種の音声と他種の音声とを弁別する際には左が優位だが、人工的な音刺激を弁別するには左右差がない、または必要がない、と考えられる。このことは、鳥類の左HVDは、人間のブロカ領とウエルニケ領とを総合したような働きを持つことを示唆する。
著者
久保 健一郎
出版者
早稲田大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

まず後北条氏関係文書約4500通の目録データベースを作成した。これには年月日・差出・充所等のほかにキーワードとして後北条氏における公儀を示す文言といわれる「大途」「公方」「公儀」を載せ、これらの使用者・使用対象・使用時期・使用方法等を検索できるようにした。「大途」文言の事例はおよそ120件、「公方」文言の事例はおよそ70件、「公儀」文言の事例はおよそ25件であった。これを基礎とした後北条氏関係文書の分析により、後北条氏における公儀の構造と機能を追究した。その結果、構造については当主ないし宗家のみが主体となる「大途」が支城主クラスの一族も主体となることができる「公方」「公儀」には見られない人格性・文書の発給主体・軍事的諸機能等の特徴を有していることを明らかにした。したがって「大途」は「公方」「公儀」に対して相対的に優位であり、「大途」を頂点とする公儀の構造を明らかにすることができた。特に「大途」の人格性は後北条氏における公儀の確立や維持に重要な規定を与えており、幕藩制国家における公儀に比して後北条氏の公儀の独自性を示していると考えた。この点は従来ほとんど追究されていないことであり、これを仮に公儀の人格的・イエ的構造と呼ぶことにした。機能については一般にいわれる訴訟→裁許や公共機能も再確認できたが、役賦課の正当性を示す機能や、上にも述べたように「大途」において見られる文書発給機能や軍事的諸機能をも見出すことができた。そしてこれらの必ずしも公共的でない機能が後北条氏の公儀においては重要な比重を占めていることを確認できた。なお毛利氏関係史料の調査・収集を行ったが、戦国期段階では公儀に類する文言はほとんど見出せなかった。後北条氏との大きな差異として留意し、今後追究したい。
著者
宮川 禎一
出版者
京都国立博物館
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

日本国内に所蔵された銅鼓のうち、東京国立博物館、東京大学、浅草太鼓館、浜松市楽器博物館、野洲町銅鐸博物館、泉屋博古館、辰馬考古資料館、国立民族学博物館、大阪音楽大学付属楽器博物館、九州歴史資料館に収蔵されている銅鼓を観察し一部実測などの資料収集と分析検討をおこなった。その結果は以下のようなものである。1、西盟型銅鼓については、その施文技術の変化、すなわち蝋原型のうえにどのような手法で施したのかの違いにより、時間的な先後関係を推測することが可能となった。その順序は(1)砂土製外型に対してスタンプ押しをおこなう失蝋法導入以前の段階(日本国内には実例は無い)。(2)失蝋法の導入直後で文様は単体スタンプ押捺によっておこなう段階(浅草太鼓館例など少数)。(3)失蝋法を用い、文様は回転押捺技法も加わった段階(東京国立博物館例など多数)。(4)失蝋法を用いるが、文様は単体スタンプ押捺と長分割型によるもので、回転押捺は見られなくなる段階(野洲町銅鐸博物館鼓、浜松市楽器博物館鼓など)。この結果は未解明であった西盟型銅鼓の前後関係を明らかとした点で重要である。2、麻江型銅鼓についてはその鼓面の文様構成の検討によって、ひとつの基本形から時間の経過によって拡散展開してゆく過程をたどることができた。具体的にはウイーン1号鼓の文様構成が最も厳格であり、その他の麻江型銅鼓はこのユィーン1号鼓より後続することが明らかとなった。その時間的距離は文様配置原則からどのくらい逸脱しているかによってはかられる。具体的にはウイーン1号鼓→辰馬2号鼓→東博2号鼓→東大教養鼓→東大文学部鼓、のような順序で変遷をとげたことが推測される。この結果は麻江型銅鼓の展開を研究するうえで基本的な骨格となるものである。
著者
栗原 秀幸
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1994

食後高血糖抑制効果を期待できるα-グルコシダーゼ阻害物質を水産食品中に見いだす研究はほとんどなされていない。その萌芽的研究として、本研究により海藻食品のヒジキからα-グルコシダーゼ阻害物質を初めて単離し、構造、阻害活性および様式を明らかにした。まず、寒天平板を用いたα-グルコシダーゼ阻害性試験を指標として、阻害成分の分画をおこなった。市販乾燥ヒジキの含水メタノール抽出物から各種クロマトグラフィーにより分画し、二種類の阻害物質を単離した。得られた両阻害物質はともに糖および含硫化合物呈色試験に陽性で、GCにより脂肪酸残基の存在が明らかとなった。各種臓器分析(IR、UV、MS、NMR)の結果から、両阻害物質の構造を植物の主要な糖脂質である6-スルホ-α-キノボビラノシルジアシルグリセロール(SQDG)およびそのリゾ型の6-スルホ-α-キノボビラノシルモノアシルグリセロール(SQMG)と決定した。速度論的解析により、SQDGの酵母α-グルコシダーゼに対する阻害物質定数(Ki)を3.0μMと、阻害様式を拮抗型阻害とそれぞれ明らかにした。SQMGの単離量が少なく、Kiを求めることができなかったので、SQMGとSQDGの同濃度での酵素阻害率を比較したところ、SQMGの阻害活性が2.5倍強かった。以上のように、ヒジキから新タイプのα-グルコシダーゼ阻害物質として糖脂質を得た。本研究では、SQDGとSQMGの酵素阻害性は始めて明らかにされ、糖脂質研究の中でも遅れていたグリセロ糖脂質を対象とした研究発展の端緒となるに違いない。今後、スルホキノボ-ス類縁体の酵素阻害性や単離した阻害物質のin vivoでの有効性を検討する必要がある。
著者
小口 高
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

本研究では、河川流域の上流(山地斜面)から下流(湖沼・扇状地)における土砂の移動過程とそれに関連する諸問題を検討した。上流域での侵食については、日本全国の資料を用いて現在の崩壊による土砂の生産量と降雨プロセスとの関係を検討した。その結果、豪雨が多い東海・南海地域では、他地域に比べて1回の豪雨で生じる崩壊の規模が大きくなるが、崩壊の頻度は他地域と類似していることが判明した。また、野外では三方五湖周辺と松本盆地の斜面を調査し、崩壊地の分布を調べた。その結果、崩壊が斜面の遷急線付近とその下位の谷壁斜面で多発していることを見いだした。これらの知見は、土砂流出や崩壊による災害の防止のためにも有益と考えられる。次に、第四紀の長期的な斜面侵食過程を明らかにするために、山地流域の地形分類と地質層序の調査に基づく検討を行った。その結果に基づき、山地斜面の遷急線が最終氷期と後氷期の地形を区別する際の重要な指標であることを指摘した。この結果と、流域の地形に関する数値データに基づき、後氷期における流域の侵食量を算出した。一方、下流域での堆積については、湖沼や扇状地における堆積物層序の解析を行い、後氷期の堆積土砂量を推定した。その結果を上流域からの土砂供給量と比較した結果、供給土砂の大半が堆積域に残存していることが判明した。上記の研究の成果は、一部をすでに学会誌や国際学会で公表した。また、一部は現在学会誌に印刷中もしくは投稿中であり、平成9〜10年度中に公表される予定である。さらに、現地で収集した試料の一部は現在分析中である。なお、当初は研究経費に旅費を多く計上していたが、平成8年度東京大学大学院理学系研究科・特定研究のメンバーとなり、旅費はすべてそこから支給されたため、本科学研究費は旅費以外の用途に使用した。
著者
小口 高
出版者
東京大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

本研究では当初、野外調査による崩積土の記載を重点的に行い、崩壊の地形発達への影響を検討する予定であった。ところが計画提出後、現地調査を予定していた夏季に北米への出張が決まった。このため予定を変更し、空中写真判読・地形計測・データの電算機処理等の室内作業による研究を進めた。成果は以下の通りである。1.土砂災害データの解析による日本の崩壊の発生周期と平均崩壊土量の推定…従来、崩壊の発生周期や生産土量については個別の地域での検討が多く、日本全体での一般的傾向を調べた研究は少ない。約700の土砂災害事例の資料を用いてこの問題を検討し、平均的な崩壊発生様式とそれを規定する要因を明らかにした(H6年10月の斜面水文学に関する国際学会で発表予定)。 2.東北日本における最終氷期末期以降の崩壊による斜面発達と土砂供給…北上河谷西縁の4流域と山形盆地東縁の3流域の地形分類を行い、最終氷期末期以降の土砂供給量を推定し、その値と扇状地規模との間の関係を明らかにした。また、以前検討した松本盆地周辺の流域での事例との比較を行い、降水強度の地域差が崩壊の規模・頻度に影響することを見い出した(H5年10月の日本地理学会で口頭発表。Bull.Dept.Geogr.Univ.Tokyoに投稿準備中)。 3.扇状地の規模と上流域の地形特性との関係(昨年度奨励研究(A)からの継続課題)…日本と合衆国南西部の資料を解析し、扇状地の面積と上流域の流域面積・流域傾斜・崩壊等による土砂流出速度との関係を吟味し、扇状地規模の地域差の原因を明らかにした(H5年8月の国際地形学会議で口頭発表。Zeitschr.Geomorph.に印刷中)。 4.中近東地域の斜面発達史…以前の現地調査により入手した中近東の斜面地形に関する資料の解析を行った。また、中近東地域の地形研究をレビューした(前者は研究継続中。後者は財団法人中東調査会の報告書に掲載)。
著者
丹羽 仁史
出版者
理化学研究所
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

昨年度構築したインスレーター活性を検出するためのレポータープラスミドpTIA(tester of insulator activity)を用いて、マウスゲノム断片からインスレーター活性を含むものを単離することを試みた。しかしながら、ゲノム断片挿入によるスペーサー効果と明瞭に区別しうるインスレーター活性の検出には至っていない。この過程で、他施設からの報告により、インスレーター配列のエンハンサー活性遮断効果は、当該エンハンサーの両側にインスレーターがタンデムリピートとして配置されることにより増強することが明らかになったので、現在これを踏まえたベクターデザインの改良を検討している。一方、昨年度の検討でES細胞においてインスレーター活性が検出できたニワトリβ-globin LCR(locus control region)由来CTCF結合配列を用いたインスレーターカセットに、比較的強力な活性を示すhuman β-actin promoterないしは極めて弱い活性しか示さないhCMV^*-1 promotorの制御下にβ-geo(β-galactosidase+neomycin耐性遺伝子の融合蛋白をコードする)を接続したレポーターカセットを組み込んで、これらをES細胞に導入した。この結果、インスレーターは弱いプロモーターがゲノム上の挿入部位近傍のエンハンサーから受ける活性化は遮断できるが、クロマチン構造に起因すると考えられるプロモーター活性への抑制効果は遮断できないと考えられた。今後、これらの結果をさらに種々の異なる方法で検討するとともに、より有用な外来遺伝子発現のためのカセットの構築を進めていきたい。
著者
丹羽 仁史
出版者
大阪大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究は当初、cDNA発現ライブラリーを染色体外発現ベクターを用いて構築し、この中からES細胞の分化を誘導するクローンを機能的に選択し、その遺伝子を単離・解析することを目標としていた。このために20万個のクローンからなるライブラリーを作製し、そのスクリーニングを行ったが、この過程で極少数の分化細胞からベクターを回収する効率の悪さが問題となった。この点を克服すべく条件検討や方法の改良を試みたが、結局現在に至るまで顕著な改善は得られていない。一方、年々増加する分化関連遺伝子に関する情報の増加に基づき、作製したライブラリーからまず候補遺伝子を含むものを単離し、これらに関して個々に検討を加えた。この結果、転写因子COUP-TFとCdx2が、それらの強制発現により、ES細胞を栄養外胚葉様細胞へと分化させることを見いだした(日本発生生物学会第32回大会にて発表予定)。また、これまで用いてきた染色体外発現ベクターpHPCAGGSに改良を加え、染色体に組み込まれた形でも高発現を示す多目的発現ベクターpPyCAGIZ,pPyCAGIPを開発し、これらを用いてドミナントネガティブ型STAT3の強制発現がES細胞では分化を誘導するがEC細胞ではなんら効果を示さないこと、および、これとは逆にc-junの強制発現はEC細胞においてのみ分化を誘導することを見いだした(Niwa H.,et al,Genes&Dev.1998、および日本癌学会年会にて発表)。今後は以上の成果に基づき、ES細胞の分化機構の解析を更に進めるとともに、ライブラリースクリーニングの効率的実施のための方法の開発を行うべきと考えている。
著者
杉村 和美
出版者
愛知学泉女子短期大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

1.研究実施計画の第1点である、性別、ライフスタイルによる中年期の自我同一性再構成の様相については、先行研究で特徴が明確化されていない女性に焦点を当て、面接法による検討を行なった。対象は、40代女性59名(有職群・専業主婦群)である。結果は以下の2点である(杉村,1993)。(1)次の4つの自我同一性再構成のパターンを見いだした。a.社会的役割同一性の安定→個人的同一性、b.社会的役割同一性の動揺→個人的同一性、c.社会的役割同一性の安定→その再確認と継続、d.社会的役割同一性の動揺→変化の方向が不明確。(2)パターンa・cは有職群、パターンbは専業主婦群に多いという結果から、中年期の自我同一性再構成の様相がライフスタイルによって異なること、特に専業主婦において心理的葛藤が顕在化しやすことが示された。2.研究実施計画の第2点である、自我同一性再構成における親子関係の変化の重要度については、有職群、専業主婦群ともに40%の対象者が、自我同一性再構成の要因として、子供の成長を契機とした“子育ての再考"(Erikson,et.al,1986)を報告するという結果を得た。このことから、女性に関しては、どのライフスタイルにおいても、親子関係の変化が、中年期の自我同一性再構成の重要な要因であることが確認された。3.自我同一性再構成を、親子関係と関連づけながら、より確実に把握するための新しい方法論を検討した。具体的には、対人関係的領域を重視し、自我同一性発達の力動的過程を把握し得る、Grotevant & Cooper(1981)の自我同一性地位面接を、わが国で初めて翻訳して修正を加え、予備面接を実施した。結果は現在分析中で、次年度は、第1に、この結果をもとにして本面接法を確立すること、第2に、本法を用いて自我同一性再構成を把握するとともに、これと親子関係の変化との関連の詳細を検討することを計画している。
著者
村上 明
出版者
近畿大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

マクロファージなどの白血球によるNOの過剰産生が発がんの危険因子であるとの考えのもとに、食用植物抽出物のNO産生抑制活性スクリーニングを行った。総計48種(60試料)のメタノール抽出物を試験した結果、200μg/mLの濃度において、アボカド、コマツナ、バジルなど17種(全体の28%)に70%以上の高いNO産生抑制活性が認められた。これらの抑制活性は、NO消去ではなく、iNOS誘導系の阻害と示唆された。ついで、タイ国産のコブミカン(Citrus hystrix DC)の果実より活性物質を検索し、クマリン関連物質のbergamottinが単離できた。bergamottinはRAW264.7細胞において高いNO産生抑制活性(IC_<50>=14μM)を示し、この活性は合成iNOS阻害剤のL-NIO(IC_<50>=7.9μM)に匹敵するものであった。さらにクマリン関連物質のNO産生抑制活性に関する構造活性相関を、23種のクマリン類を用いて検討した結果、これらの活性発現には、プレニル基、あるいはゲラゲラニル基といったテルペン系側鎖が必要であり、さらにこの側鎖に水酸基などによる修飾が入ると活性は消失するという興味深い研究結果を得た。そこで、細胞内への取り込み効率を検討した結果、不活性なクマリン類はほとんど細胞内へ取り込まれず、側鎖への水溶性の賦与が活性の低減化をもたらすことが示唆された。
著者
山西 博幸
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1997

本研究は、河道断面確保の立場から、河岸に堆積した底泥除去の一手法として、波による洗掘を室内実験と数値計算により検討した。まず、現地底泥のレオロジー的特性の一指標として、佐賀県六角川の河道側面に堆積した現地底泥を用いたベーン剪断試験を行った。このとき、撹乱・不撹乱試料ともに、含水比Wの増加とともに剪断強度τ_5が指数関数的に減少することから、τ_5をWの関数として表した。次に、平成9年度に導出した傾斜面上の衝撃砕波圧算定式及びその際に使用した経験式の妥当性について、自由表面を持つ流れで圧力を直接取り扱う数値解法であるSMAC法により行った。SMAC法で計算されたマーカー粒子の挙動は砕波水塊が傾斜面上に突込む様子、水塊の跳ね返る様子、砕波する際に気泡を巻き込む様子などを再現した。また、砕波水塊の入射角θ、跳ね返り角γは、いずれも経験式との良好な相関を示した。さらに、SMAC法で得られた変動圧力は、同一条件下で衝撃砕波圧算定曲線から求めた値とほぼ同一であることを確認した。波による底泥の破壊機構の解析には、個々の要素が接触時に力を伝達する要素ばねとその要素間の粘着性の効果を表す間隙ばねを組み入れた拡張個別要素法(EDEM法)を用いた。各パラメータは、現地不攪乱底泥を用いた一軸圧縮試験と数値計算の比較から値を定めた。また、繰り返し衝撃砕波圧が作用することによる底泥強度の脆弱化を考慮した。数値実験の結果、傾斜面表層部の要素群の多くは、表面上からはじき出され、衝撃砕波圧の作用領域では、間隙ばねの破壊が著しく、特に、第1突込点周辺では、亀裂が内部まで広がっている。間隙ばねの破壊された要素群は、戻り流れの作用により沖方向へ流されるものとすれば、間隙ばねの破壊状況から洗掘形状が推測される。これと洗掘実験結果はおおむね一致し、数値計算により底泥の洗掘形状とともに洗掘土量の概算も可能となった。
著者
傳 康晴
出版者
千葉大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

本年度は、人間同士の音声対話コーパスの分析を通じて、「命題要素+インタラクション要素」という観点から自然発話文の構造を記述することを目指した。その結果、以下の成果が得られた。・発話冒頭の語句の再開始 昨年度の成果により、発話冒頭に見られる語句の再開始(「たー、田中真紀子が、えーと、総裁選に出るんだって」)が、発話の滞りを聞き手に事前告知するための合図として機能することがわかったが、この事前告知を有標化する音の引き伸ばし(「たー」)が意図的なものであるか検討するため、類似した現象である語句の言い直し(「た、辻元清美が辞職したって」)と比較した。その結果、言い直しよりも再開始のほうが音の引き伸ばしは顕著であり、自己発話の滞りを話し手が事前に検知して告知するという意図的な方略であることがわかった。・非優先的発話の構造 依頼を断る場面など社会的に好まれない発話(非優先的発話)は、一般に、間延びしたり、回りくどい言い回しになることが知られているが、依頼そのものがぶっきらぼうであった場合には、さらに、呼応の隔りの調整のため、問い返しという方略がしばしば用いられることが実験的検討によってわかった。これは、非優先的発話では、発話が問い返しを含む複数のターンにわたって計画されることを示唆しており、単独文の文法規則によって自然発話文の構造を記述しようという本研究の限界を示し、今後の課題を投げ掛けるものとなった。
著者
小野 伸一郎
出版者
舞鶴工業高等専門学校
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

本研究は現在までに活躍した女子長距離選手を対象に,選手のBMI(Body Mass Index)と競技記録の関係分析から競技記録が最も高くなるBMI(至適BMI)を推定し,女子長距離選手のウエイトコントロール指標の提案を行うことを目的とする.本年度に得られた成果の概要は以下のとおりである.なお,成果(1)については高校女子選手を,成果(2)については中学女子選手を対象とした.成果(1):高校女子の800mから5000mまでの競技においては,競技距離の延長に伴いBMIの影響が大きくなり,等確率楕円より推定した至適BMIは,800mでは17.5,1500mでは17.6,3000mでは17.0,5000mでは16.8を示し至適BMIは小さくなる関係が示唆された.高校女子中長距離種目には,それぞれ競技成績を最もよく引き出すことのできる至適なBMIが存在するのではないかと考えられる.成果(2):中学女子の等確率楕円より推定した至適BMIは,800mでは17.4,1500mでは17.2であった.また,BMIと最高記録との関係による回帰分析より推定した至適BMIは,800mレースでは17.5,1500mレースでは17.8であり,中学女子種目にも競技距離ごとの至適BMIが存在する可能性が示唆された.計画にあげた「女子マラソン選手の至適BMI推定」については平成12年度に成果発表をおこなう予定としている.また,「BMIと体脂肪率との関係分析」に関しては現在データ収集している.
著者
青木 勇二
出版者
東京都立大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1996

遷移金属人工格子系で発見された巨大磁気抵抗効果が、近年、幾つかの希土類元素を含んだ金属間化合物でも観測されることが明らかとなってきた。両者に類似性があることから、その起源として同じメカニズムが考えられていた。本研究では、人工格子系では事実上不可能であるが金属間化合物では有力な研究手段となりうる比熱測定により、その巨大磁気抵抗効果を調べた。本研究では、巨大磁気抵抗効果が観測される金属間化合物として、UNiGaを中心に調べた。この化合物では、磁場印加によりその積層状態が、反強磁性的→強磁性的と変化するメタ磁性転移において約90%もの大きな負の巨大磁気抵抗が観測される。このメカニズムが何なのかが重要な問題であり、これまでに以下の二つの提案がなされた。つまり、(ア)同様な巨大磁気抵抗が観測されている人工格子系で提案されているスピン依存散乱、(イ)反強磁性状態でのフェルミ面上のスーパーゾーンギャップの形成である。本研究における大きな発見は、この転移で電子比熱係数が強磁性相で10%ほど増大することを初めて見出したことである。この変化は、明白にフェルミ面が変化していることを意味しており、後者の機構の直接的な証拠である。さらに、極低温で核比熱を観測し、Ga原子の核の有効磁場を求めた。この磁場から、反強磁性相での磁気構造を裏付けた。さらに本研究を、Eu、Smの希土類を含む金属間化合物に適用した。(「研究発表」参照)さらにこの様なメタ磁性転移における熱物性研究のため、定量的な磁気熱量効果測定方法の開発を進めた。CeRu2Si2における試験的実験により、磁気エントロピーの磁場依存測定が可能であることを示した。
著者
田中 元志
出版者
秋田大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1999

平成12年度は,足音のパワースペクトルの包絡線形状が歩行者,及び履物によって異なることに着目し,その形状をニューラルネットワーク(NN)に学習させることにより,足音の識別を試みた。本研究では,簡単な構成である入力層,中間層,出力層からなる3層の階層構造NNの適用を検討した。学習アルゴリズムにはバックプロパゲーション法を用いた。学習・認識用足音については,11年度と同様に,本学学生に協力して頂き,木造家屋内で歩行時の足音を採取した。履物条件は,家屋内で一般的なスリッパ,靴下,裸足とした。マイクロホンを床上に設置して,歩行時の足音をDATレコーダで録音し,インターフェースを介してパーソナルコンピュータ(11年度に購入)に取り込み,足音データベースを作成した。周波数解析により足音波形のパワースペクトルを求め,その包絡線を求めた。そして,可聴周波数帯域である50Hz〜18kHzの範囲から3〜45点を取り出し,これを特徴パラメータとした。処理プログラムは全てC言語で開発した。特徴パラメータの数によって学習回数,及び教師信号と出力結果の誤差が異なり,試行錯誤の上,NNの入力層のノード数を34,中間層のノード数を47とした。また,結果を0と1の組合せで識別できるように(例えば,歩行者Aのスリッパの足音が00,靴下が11),出力層のノード数を識別したい足音の種類(歩行者,あるいは履物)に応じて2(4種類まで)または3(8種類まで)とした。歩行者を特定して履物を識別した結果,約99%の認識率が得られた。また,履物を特定して歩行者を識別した結果,約91%の認識率が得られ,NNの歩行認識への適用の可能性が示された。
著者
李 禎燮
出版者
九州大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1998

扁桃核は解剖学的に不安行動に関連した脳内の主要な部位であるが、この神経核においてはγ-aminobutyric acid(GABA)が神経伝達物質として重要な働きをしており、また縫線核からのセロトニン入力がこのGABA放出を制御している。我々は、機械的処理によりシナプス前神経終末付着単離神経細胞標本をラット扁桃核より作成し、ニスタチン穿孔パッチ法および薬理学的手法を用いて、自発的GABA作動性微小抑制性シナプス後電流(mIPSCs)を記録した。このGABA作動性mIPSCsの頻度と平均電流量を指標として、セロトニン(5-hydroxytriptamine;5-HT)のシナプス前神経終末およびシナプス後膜への影響を検討した。その結果、セロトニンはシナプス後膜のGABA_A受容体に作用することなく、シナプス前神経終末の5-HT_<1A>受容体に作用してGABA放出を抑制することが明らかとなった。さらに、セロトニンによるGABA放出抑制反応の神経終末内情報伝達経路の固定をおこなった。セロトニンは神経終末部のGTP結合蛋白介在型5-HT_<1A>受容体に作用し、アデニリルサイクレース(adenylyl cyclase;AC)-cAMP系を不活性化してGABA放出抑制を生じていた。この細胞内AC-cAMP系は、シナプス前神経終末に存在するカリウムチャンネル、電位依存性カルシウムチャンネルを介することなく直接的にGABA放出を減少させていた。