- 著者
-
小田 寛貴
- 出版者
- 名古屋大学
- 雑誌
- 奨励研究(A)
- 巻号頁・発行日
- 2000
本研究では,加速器質量分析法(AMS)による^<14>C年代測定が古文書の年代判定法としてもつ有効性を検証することを目的とし,文献史学・書跡史学などの立場から歴史学的な年代が一年〜数十年単位で明らかになっている古文書・古経典の^<14>C年代測定を行った.一般に木製文化財には心材部や伐採後乾燥させた木材が利用されるため,その^<14>C年代は歴史学的年代よりも古くなるが,本研究によって,古文書・古経典については^<14>C年代が歴史学的年代とよく一致するという結果が得られ,AMS^<14>C年代測定法が古文書の年代判定法として有効であることが示された.さらに,この研究成果の上に立ち,文献史学・書跡史学などの手法だけでは年代を特定することができなかった古文書資料についてAMS^<14>C年代測定法を適用し,それらの年代決定を行った.浄瑠璃寺阿弥陀如来像の胎内に納められていたと伝えられる印仏は,印刷物であるため書風などからの年代決定が困難な資料であったが,^<14>C年代測定によってこれらが11世紀から12世紀前半のものであることが判明した.実践女子大学蔵源氏物語は室町後期の学者三条西公条の筆と伝えられていたが,AMS^<14>C年代測定によって,これが近世に入ってからのものであることが明らかにされた.また古筆切に適用することで,AMS^<14>C年代測定が散逸物語の年代判定などに重要な知見を与えることも本研究によって示されている.さらに,経筒などに入れられ土中に埋納されていたため炭化してしまった経典についても,AMSが有効な年代決定の手法となることが示された.また,近世前期末葉の薄墨紙の^<14>C年代測定では,この紙が漉き返しの紙ではなく新たに漉いた紙に墨を添加したものであることを支持する結果が得られた.