著者
崎尾 昇
出版者
熊本大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

[目的]現在免疫不全動物の飲水における比較検討された報告は少なく、免疫不全マウスに適した飲水を見つけ出すことを目的に、ATP法を用いて比較検討を行った。〔材料および方法〕マウスは、ジャクソン研究所より入手したNOD/SCIDマウスを、当センターで繁殖し、7週齢・雄のマウスを使用した。飼料は、γ線滅菌飼料(CRF-1・オリエンタル工業)を自由摂取させ、温度22±1~2℃、人工照明12時間で通常の飼育室とは隔離された環境下で飼育を行った。マウスの飲水は、給水ビンを使用し、また飲水の種類は、滅菌水群・水道水群・塩酸を添加した酸性化水pH2群およびpH3~3.5群・塩素2~3ppm添加水群および塩素20~30ppm添加水群の6群に分けた.6種類の飲水は、給水ビンを上に向けたまま放置した時の給水ビン中ATP濃度の経日的比較、およびマウスを1匹飼育・3匹飼育・5匹飼育した群に分けた時の給水ビン中ATP濃度の経日的比較を行った。給水ビン中のATP濃度測定は、ルミテスターPD-10(キッコーマン)使用し、清浄度検査キットは、ルシパックワイド(キッコーマン)を使用した。〔結果および考察〕給水ビンを上に向けたまま放置した時の給水ビン中ATP濃度の経日的比較においては、滅菌水群・水道水群のATP濃度が上昇したのに対し、塩酸を添加した酸性化水群および塩素添加水群では、ATP濃度の上昇は、観られなかった。マウスを1匹飼育・3匹飼育・5匹飼育した群に分けた時の給水ビン中ATP濃度の経日的比較においては、滅菌水群・水道水群のATP濃度の上昇が高く、塩酸を添加した酸性化水群および塩素添加水群は、低くなる傾向があった。1日の飲水摂取量の比較において飲水の違いによる差は、認められなかった。これらの成績の結果、塩酸を添加した酸性化水および塩素添加水は、現在のところ免疫不全マウスに適していると思われる。
著者
田中 福人
出版者
清心女子高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

○研究目的生物がもつ概日時計は多くの場合約24時間周期であり、光や温度などの環境サイクルへ同調することで正確に24時間の周期を保っている。動物の場合、光波長も概日時計を調節する能力を決める重要な因子であるとして研究が進んでいるが、植物では研究があまり進んでいない。よって本研究では、カタバミ科が概日時計の制御の下で行う就眠運動に対し、特に影響を与える光波長を明らかにすることを研究目的とした。○研究方法まず、温度を20度で一定にしたインキュベータ内に野外から採取したムラサキカタバミとイモカタバミを静量した。その後、赤・青・緑の波長の異なる3色のLED蛍光灯を用いてそれぞれ光を照射し、就眠運動の様子を観察した。用いたLED蛍光灯の波長は、赤色光が615~635nm、青色光が464~475nm、緑色光が520~535nmであり、与える光周期は(1)明期:暗期=12:12、(2)明期:暗期=3:3、(3)明期:暗期=1.5:1.5の3パターンとした。観察には赤外線Webカメラを用い、カメラを通じてパソコン上に写した画像を常時記録した。撮影終了後、10分おきに葉の開閉状況を調べ、各時間帯に葉が開いている割合を百分率で表し、光周期と合わせてグラフを作成した。○研究成果ムラサキカタバミとイモカタバミの両方において、(1)~(3)のいずれの光周期の場合であっても、光周期に同調して就眠運動を行う様子が観察できたが、暗期に光照射してから就眠運動が行われるまでの時間を各光波長で比較したところ、青色光が照射後約40分、緑色光が約50分、赤色光が約90分後であった。就眠運動は葉枕細胞内の容積変化によって引き起こされると考えられているので、この容積変化については青色光の効果が最も大きく、赤色光の効果が最も小さいことが明らかになった。
著者
新保 健介
出版者
仙台市立金剛沢小学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2012

【研究目的】社会的事象間の関連を説明するには,社会的事象への仮説立てと検証が不可欠である。折しも平成23年度から,新学習指導要領が完全実施された。その要諦は「言語活動」である。社会科における言語活動は,収集した情報を比較・関連づけ・総合しながら再構成すること。考えたことを伝えて互いに深め合うこととしている。しかし,仮説無きままの児童による言語活動では効果はありえない。そこで(1)地図統計等資料の比較によって仮説立てや検証を行えるよう支援する。(2)確かな仮説立てや検証のための話し合い・討論等の言語活動を行い,コミュニケーションの中で理解を確立する。以上二点を踏まえた授業開発が本研究の目的である。【研究方法】・比較により児童の積極的な仮説立てを促す資料の収集児童が資料比較活動によって仮説を自ら立てられるようにした。そのために児童が仮説を立てやすい資料を〓〓く収集した。映像資料や画像資料の取材にあたって,高解像度デジタルカメラやビデオカメラを活用した。また授業において児童が資料を比較する上で視覚効果を高めた。・児童が社会的事象を総合的に捉えることができる言語活動案の作成授業における言語活動には(1)資料比較による仮説立て(2)仮説の検証という二段階を含ませた。具体的にはKJ法を用いて児童同士が互いの考えを伝え合い深める活動やイメージマップを活用して互いの考えを練り上げていく活動をとり入れた。授業内容はデジタルビデオカメラで撮影し,検証した。授業後には児童へアンケートを行い結果を検証した。・言語活動の位置づけと効果的指導過程の策定小学校社会科教科書の解説書をもとにカリキュラムを分析し,言語活動の活用手順を盛り込んだ指導計画ならびに指導案を作成した。【研究成果】研究の結果,資料比較活動によって児童が仮説を立てやすくなることが分かった。調査によって,全99名の児童からの結果により,資料提示によって仮説を立てやすくなった(96.9%)という結果を得た。また児童のノート記述から資料から事実と予想がはっきり記述されていた。そこで予想の検証という次の段階へつながりやすくなり、イメージマップ活用による検証を目的とした言語活動が明確な意義を持って行われた。社会科での仮説立てと検証を盛り込んだ授業が、目的が明確な言語活動づくりにつながったと考える。
著者
蓮田 裕一
出版者
栃木県立宇都宮工業高校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2011

本校及び宇都宮市南図書館などにおいて、生徒と共にロボットの出前授業を8回行った。その他に夏季休業期間、本校でワールドロボットオリンピアード(WRO)世界大会用のロボット製作を小中高生に指導し、以下の成果を得た。1)世界大会ルールに基づき、自律型ロボットの動作に必要なセンサ類の原理の説明と操作方法の実技指導を小中高生に実施。ロボコンの国際ルールに即したロボットの製作の指導を行った。実施期間:2011年4月から翌年2月2)ロボコン公認地区予選会から日本代表決定戦まで勝ち進み、UAEで開催する世界大会に日本代表として出場し、6位入賞。参加32カ国のチームと技術交流を継続中。WROうつのみや予選会:8月6日本研究で指導を受けた小中学校の4チームが優勝・2位になり、本校チームと共に日本代表決定戦に選出される成果をあげた。電子ロボと遊ぶアイデアコンテスト:8月8日本校チームが「優勝・2位・3位」日本代表決定戦:9月18日東京スポーツ文化館、小学生が「7位」、本校が「3位」本校チームがWRO世界大会に選出される。WRO世界大会:11月18日から20日アラブ首長国連邦、本校チームが「6位」・「優秀賞」を受賞アブダビ会場で参加32カ国のチームと国際交流を行う。3)ロボット教室での指導研究結果を本校高校生が学会などで論文発表。第4回科学技術におけるロボット教育シンポジウムにて研究論文発表日本産業技術教育学会第54回全国大会:宇都宮大学にて論文2件発表日本機械学会論文発表:9月22日帝京大学理工学部、10月22日山梨大学工学部以上の様に、小中高生対象の出前授業を通して自律型ロボットの設計・製作を指導し、小中高生が参加した公認予選会の全てで優勝する成果をあげた。日本大会でも上位入賞し、さらに、本校チームが世界大会で入賞するなど、創造力と技術力を持ち合わせた未来のエンジニアの育成に著しい成果を達成した。
著者
片瀬 拓弥
出版者
学校法人未来学舎
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

1.研究目的本研究の関連研究である「判別分析による専修学校の中途退学者の早期予測方法の開発」は,線形回帰分析により中途退学者を予測し,その予測率は26.1%(n=271,申請時からの改定値)となっていた.この予測率向上を目的とし,本研究では,非線形回帰分析可能なニューラルネットによる予測方式を開発する.2.研究方法本研究は,2010年度から市販される専門学校版Q-Uを使用する予定であった.しかし,該当商品販売時期が年度後半に延期されたため,入学当初の調査時には,関連研究同様の高校版Q-Uを用いた.さらに,予測率向上を目指すため,性格検査(5因子検査)も同時期に実施した.それらの回答結果を非線形回帰分析手法であるニューラルネットワークの3層パーセプトロンモデルを用いて分析し,予測率向上を目指した.3.研究成果2010年度において新たに取得した性格検査,学力偏差及び高校版Q-Uのデータから説明変数として,29変数(性別:1変数,学力偏差:2変数,学級所属群:4変数,性格検査:5変数,学級状況:4変数,悩み:13変数)を選択した.そのデータを用いて関連研究と同様の線形回帰分析を実施した結果,予測率は14.4%(n=323)となった.つまり,単に性格検査などの説明変数を分析に増加導入しただけでは,直接の予測率向上には到らないことが判明した.そこで,このデータ群を用い,ニューラルネットによる非線形回帰分析を実施した.具体的には,3層パーセプトロンモデルを採用し,最適な中間層数を決定するため,ブートストラップ法による学習実験を数万回行なった.その結果,ニューラルネットワークが過剰学習を起こさず,最も良い予測率を示すのは,中間層のニューロン数が28個であることが判明した.また,その予測率は70.4%となり関連研究に比して大幅に向上した。さらに,中途退学防止策に関する担任の自由記述アンケートをテキストマイニング分析した結果,学級経営方針が指導型・援助型のタイプ別に退学防止の対処方法が異なることが判明した.今後の課題は,このニューラルネットワークモデルが2011年度以降の新入生に対し,実際にどれだけの的中率を持つのか検証することである.
著者
吉田 文茂
出版者
高知県日高村立日高中
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

本研究で明らかにすることができたのは、下記のことがらである。帝国公道会の地方公道会構想は1910年代半ばに構想されたが、構想実現のための個々の府県への具体的働きかけはなされず、高知県に対しても同様であった。高知県への巡回講演が実現するのは1919年秋のことであり、大江卓の16年ぶりの帰県という形で地方公道会構想の実現の契機が生じたのである。また、高知県においては主だった被差別部落において部落改善が長年すすめられてきたが、取り組みの行詰まりのなか、部落改善に尽力した指導者の多くは県単位での部落改善の取り組みや部落差別撤廃に向けた社会への働きかけを県当局に期待していた。県当局も内務省主催の細民部落改善協議会を受け、県として各地域での部落改善の動向の把握と県の部落改善施策の方針の浸透を図ることが求められており、そのためには各地域の部落改善指導者を巻き込んだ組織の必要性を実感していたのである。このような、大江、部落改善指導者、県当局三者の思惑の一致により、1919年10月の高知県公道会の結成となったのであるが、県当局は県組織の構成について独自のプランを有していたわけではなかったため、帝国公道会の地方公道会構想どおりに高知県公道会が誕生するのである。しかし、ビジョンを有していなかった県当局としては、高知県公道会に独自の活動を期待する予算的裏づけを積極的におこなおうとすることはなく、1921年度からの主事一名の配置にしてもただ単に職員を配置したにとどまる。なお、高知県公道会が帝国公道会の支部として機能することはなく、友好的関係は保持し続けるも、活動そのものが帝国公道会の動向に左右されることはなかった。ただ、水平社との関係で言えば、基本的には帝国公道会同様、高知県公道会も幹部養成講習会を開催するなど、水平社への対抗的位置関係にあったことは間違いなかった。
著者
小林 徹也
出版者
茨城県立竜ヶ崎第一高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

1. 研究目的 : 高校生に考える力をつけるため, 数学の問題を解く際「結論から仮定へ」の推論をより利用させることを目標とし, 今回その推論を「解析」とし, 次の2つの解明を目的とした.A : 「解析」をその意識的な指導, 方向, 機能および名称に着目して整理することB : 高校生の「解析」の利用がどのようなものであるか同定すること.2. 研究方法 : 上記Aについては「解析」に関する国内外の先行研究を検討し, Bについては生徒へのアンケートを分析した.3. 研究成果 : 以下のことなどが明らかになった。Aについて :(1)「解析」指導については意識的に指導されているが限定的であること.(2)「解析」には3つの方向性と4つの機能が存在すること.(3)我が国では, 結論を得るために仮定の方に遡る推論の方向と, 解を発見する機能へ着目することが多かったこと.(4)「解析」に対して統一した名称がないこと.Bについて :(1)数学の問題の解答を分析した結果, 生徒は問題を解く際に, 誤った「解析」をすることがあり, それは公式や定理の記憶違い・適用の誤り・計算違い等であること.(2)数学の問題の解答を分析した結果, 正しい解析によって別解を作る例が存在したこと.(3)アンケートの分析により, 解析をどのように有効性を認識したかについては, 学校の指導よりも自分で気づいたとする割合が多いこと,(4)アンケートの分析により, 調査における決定問題を解く際に解析をしたとする生徒が少ないこと.4. 今後の課題 : 以上の成果を活かした授業実践研究が課題である.
著者
武藤 正典
出版者
岐阜市立長良中学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

〈研究の目的〉観察, 実験を通して, 自然の事物・現象から発見した事実をもとに考察し, 問題を解決する喜びを実感できる授業を展開し, 科学的リテラシーを育成する理科の指導法を砲立する。〈研究の方法〉中学校第1学年の単元「大地の成り立ちと変化」において, 「剥ぎ取り法」を用い, 理科室でも野外観察と同等の観察・実験を行う。そこで得られた事実から, 地層の成り立ちについて考え, 課題を設定し, モデル実験で検証することで, 地層の成り立ちを考える。この一連の学習活動を通して, 科学的リテラシーを育成することができたかを検証する。〈研究の成果〉直接観察が可能だからこそ, どう観察させるのか, その観察の方法を確かにすることが科学的リテラシーを育成する第一歩となる。まずは地層全体をスケッチさせた上で, 直接観察する視点を明らかにした。特に, 構成物の大きさや粒形を, 手触りなど五感を大切にして直接観察させることで, 事実をもとに仮説を立てることができた。また, この観察を最初に行うことで, すべての子どもが共通の土台に立って追究を始めることができた。次に, 仮説を検証するために, 礫や砂等を用いてモデル実験を行い, 自分の仮説を自分で実際に確かめるという実験を位置付けたことで, 目的意識が高まった。また, そこで得られた事実をもとに検証することで, 地層の成り立ちについて実感を伴った理解を図ることができた。事後調査を行ったところ, 視点をもって剥ぎ取った地層を直接観察したことで, 課題化につながる事実を生徒全員がつかみ, 高い課題意識をもって追究を始めることができたことがわかった。同時に, 仮説を検証するモデル案験への目的意識も高まった。剥ぎ取った地層を視点をもって観察させることが科学的な探究を生み出し, 科学的リテラシーを高める一助となった。
著者
山本 道成
出版者
綾部市天文館
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

○研究目的各地で行われている流星電波観測の観測データをインターネットを利用して1カ所に集約し、解析およびデータベース化する流星電波観測網の構築の為に観測データから流星エコーの抽出などをおこなうプログラムやデータ転送システムの開発と実験を行う。○研究方法GPSを用いて時刻同期したサンプリングが可能なADボードを使用して観測された各地の観測データを集めて解析し、ノイズと流星エコーを抽出するプログラムを複数作成した。それぞれのプログラムを単独または複数の組み合わせによるエコーの検出精度を確かめた。特に流星群(ペルセウス座流星群、しし座流星群、ふたご座流星群)時のデータを主に使用した。また、インターネットを利用して転送できる程度のデータの圧縮と転送実験を試みた。転送実験にはNASを用いた簡易サーバを作成し、LAN上での転送実験を行った。○研究成果エコーの抽出精度に関しては、雷や飛行機によるノイズなど特定の物に関してはほぼ分離可能となった。しかしその他のノイズについてはエコーとの分離精度が実用には不十分なため、今後さらに精度を高める必要がある。また、観測地や時間帯によってはノイズの種類や性質が異なるため、それぞれの地点に合わせて解析プログラムの調整を施す必要があることがわかった。使用するパソコンの処理能力にもよるが、解析処理にかかる時間が観測時間と同等かそれ以上に必要であった。特に流星電波観測に使用されているパソコンの処理能力はさほど高くないため、現状では観測と解析をリアルタイムで行うのは難しいことがわかった。また、今回、観測に使用したサンプリングが200kbyte/s×2chであるため、1時間あたり1.5Gbyteものデータとなることも処理時間の問題に大きく関係している。今後、観測に使用するサンプリングも含めて検討が必要である。
著者
平賀 博之
出版者
広島大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

断熱膨張による雲の発生に関する実験は,教えにくい内容,生徒の理解しにくい内容の一つであると感じてきた。今回考案した方法は,透明なポリエチレン袋に高感度のデジタル温度計を入れて輪ゴムで口を閉じ,それを真空保存容器内に入れて,容器内の圧力を下げるというものである。容器内の圧力低下につれて,透明なポリエチレン袋の中の空気が膨張し,同時にその中に入れた温度の示度が下がることが,視覚を通して直感的に観察できる。この方法によりこれまでより,断熱膨張の現象に対する理解度が上昇することがわかった。また雲の発生に関する内容については,この実験を基に段階的に論理的な思考を通して学ぶことができる指導モジュールを開発した。主な内容は,(1) 真空保存容器のポンプを引くと,内部の気圧が下がる。(ポンプを引くことは空気を上昇させることと同じ意味になる。)(2) 容器内に口を閉じたポリエチレン袋やゴム風船を入れてポンプを引くと,ポリエチレン袋やゴム風船の内部の空気が膨張し,温度が下がる。(3) ポリエチレン袋に少量の水と線香の煙を入れて口を閉じたものを,容器内に入れてポンプを引くと,袋の中の空気が露点に達し,雲ができる。この指導モジュールはビデオ教材,ワークシート,指導案からなり,これらを活用して雲の発生に関する学習を進めるものである。これらを1枚のDVDに収録した。また,開発した指導モジュールによる授業実践を行い,教材に対する評価を行ったところ,これまでの教材に比べて生徒の理解状況が向上すること,生徒の学習に対する満足度が高まることが明らかになった。なお,教材の教育課程上の実施時期の都合で授業実践並びに教材に対する評価が3学期になったため,発表は平成21年度におこなう予定である。
著者
浜口 典茂
出版者
三重県立四日市工業高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

研究者は、工業高校においてものづくりが与える豊かな創造性を育てる意義に注目し、工業教育にものづくりを取り入れた学習効果を期待した研究を進めている。本研究では、建築教育とものづくりを融合させた授業カリキュラムに絞り、高校生の建築設計に対する興味と関心を高めることを目的にした実践研究を行った。具体的には、軽トラックに積載する軽量茶室を計画し、「生徒が設計した茶室を自らが建築する」というコンセプトで、高校生が建築製図とものづくりを学習する上での問題と学習効果を検討した。研究の流れは、次の通りである。1)茶室の計画、2)建築CAD・CGの作図と検討、3)スタディー模型の製作と検討、4)茶室製作に関する資料収集、5)原寸模型の製作と室内空間の検討。建築製図を木材加工と関連づけたことによって、生徒には製図を描く目的が明確になり、生徒の意欲の向上につながった。茶室の詳細部分の設計では資料収集が必要であるが、ここにおいても自主的に資料収集を行う姿勢が身についた。また、製作過程においては、建築CAD、模型製作、プレゼンテーションの技術やテクニックの向上につながった。特に、模型製作においては、スタディー模型、比較模型、原寸模型の異なったサイズの模型を製作しその効果を検証した。原寸模型の茶室においては、茶道の体験を取り入れることができたためより正確な空間把握が可能となった。原寸模型で使った主な模型材料はスタイロフォーム(厚15mm、30mm)で、天井高や空間サイズを検証する上では設計変更や接着が容易なことから利用効果が大きいと考える。今後は、軽量茶室の施工方法と軽量化対策について検討を深める必要がある。
著者
松山 さと子
出版者
国立国際医療センター(研究所)
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

ヒトiPS細胞は、京都大学由来株(253G1)、国立成育医療センター由来株(#40)を用いて検討した。分化誘導のプロトコールは、内胚葉分化、肝細胞初期分化、肝細胞成熟の3段階からなる分化誘導法で、一貫して単層平面培養で、無血清・無フィーダー法である。すなわち、動物由来成分の排除が達成され形態観察などが容易な優れた分化誘導系である。分化の過程で、様々の肝細胞マーカー(αフェトプロテイン、アルブミン、α-1アンチトリプシン(AAT)、チロシンアミノトランスフェラーゼ(TAT)、トリプトファン2,3ジオキシゲナーゼ(TDO2)、シトクロムP450(Cyp3A4))が培養期間依存的に遺伝子発現していることが確認できた。次に、分化の過程を蛋白レベルで検討した。その結果、αフェトプロテイン、アルブミン、肝酵素(AAT)はヒト肝(癌)細胞株(HepaRG、HepG2、HC)と同等に誘導された。遺伝子発現レベル、蛋白レベルでの肝細胞分化が確認されたので、最後に、成熟肝細胞機能の検討を行った。ICG取込能、グリコーゲン産生能、シトクロムC代謝活性のいずれの機能も分化細胞において十分に認められた。これらの3種類の成熟肝機能においても、ヒトiPS由来肝細胞はヒト肝(癌)細胞株(HepaRG、HepG2、HC)と同等、もしくはそれ以上であった。本報告での実績に基づいて、ヒトES細胞から肝細胞を分化誘導する研究計画を機関内倫理委員会にはかり、文部科学省に届け出て、ヒトES細胞を使用する研究も次年度に開始する予定である。
著者
笹渕 龍介
出版者
福岡県教育庁南筑後教育事務所
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

学級活動や総合的な学習の時間と関連させた連続的な道徳学習活動をつくり、人の内面的資質や外面的行為を問い直す活動を創造する。そして、社会的視点の発達を促し、自他の違いを意識したり、他者の感情や思考の心の内面を推測したり、自分の役割行動を決定したりできるようにする。道徳的価値の自覚(A型)と子どもの主体的な価値表現や価値判断の受容(B型)を組み合わせ、社会的視点の発達をうながす学習過程を仕組む。そして、よりよく生きようとする姿として共感的な態度・合理的な判断・自己効力が獲得されるのではないかと考え、道徳的価値を構成する内容項目の広がりの分析を行う。実践例としては、[Table]第一次の学級活動で学びについての考えを出し合い、学ぶ意義を学級の共通の課題として取り出す。そして、B型の道徳を仕組み、学びについて子どもそれぞれが持つ考えにについて班で話し合い、学ぶ意義の価値を広げる。第二次では、A型の道徳を行ない、学ぶ意義の価値を自覚させ、道徳的価値判断の基準を持たせる。そして、連続的にB型の道徳を行い、役割演技などを仕組み、第三者的に学ぶ意義を見つめ直す。第三次は、学習の仕方や高校進学などについて、悩みの解決を行ない、B型の道徳で、悩み解決のために生じる価値葛に気づかせ、学ぶ意義を自ら見出し、自ら解決することの価値付けを行なう。本実践後の評価基準B以上(おおむね満足)の子どもの割合は、共感的な態度(83%)・合理的な判断(75%)・自己効力(60%)であった。合理的な判断をするように仕組むためには、道徳的価値の自覚(A型)と子どもの主体的な価値表現や価値判断の受容(B型)を組み合わせ、価値基準の形成が大切であることがわかった。共感的な態度を育成するには、資料活用の方法が大切である。そして、(B型)の授業を行うには、批判だけに終わらないように、価値判断の受容まで活動を仕組む必要がある。また、(B型)の授業は、価値判断の受容を促すため、社会的視点を高ることができる。
著者
杉村 直美
出版者
愛知県立日進西高等学校
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2009

<本研究の具体的内容>本研究申請時には、発達障害児をとりまく保護者と学校の齟齬を解明するため、まずは保護者の「傷つき」の「物語」を明確にし、その上で養護教諭を中心とする学校関係者に聞き取り調査をする予定であった。しかし、発達障害「親の会」を通し現実に調査依頼をしたところ、「相談にのってくれるのならうれしいと思ったが、調査に使用されたくはない」「もう一回自分の傷をえぐることになりそうで、話したくはない」などの理由で、個人的な聞き取りを拒否する保護者が大半であった。結局「親の会」役員が「会としてうけた相談」のいくつかをエピソードとして提供してくれることになった。一方で、「障害学会」などに参加している当事者から「聞き取り許可」を得る機会に恵まれた。これらの話からは、学校における「傷つき」体験は、「なんらかの支援が欠けていた」/「支援が不適切であった」というような「特別支援」や「ケア」的行動の不足・不適切さよりも、むしろ学校教員のとる日常的な言動や思考形態-「教員文化」とよびうるもの-に起因することがうかがわれた。そこで、学校関係者へのききとりは、保護者と当事者の傷つき体験の中から代表的だと思われるものを選択し、そのときにその教員がとりうるであろう行動とその背景を聞き取ることとした。<本研究の意義とその重要性>保護者側・当事者側から提供される「語り」は「第三者」にとって、学校教員の言動の「心なさ」「発達障害に対する不勉強の証」として一般的に認知される可能性が高いものであった。しかしこの同じ言動が、教員側からも「心なさ」「不勉強」とみなされるケースは少なく、大多数の教員にとってその言動は「学校秩序」を維持するためにも「正統な言動」と評価されるものであることが明確になった。本研究の意義は、こうした保護者・当事者と教員との「すれちがい」/「異相」を明確にできたことにある。さらに両者の「語り」から、その「異相」をうめる現実的な方法論と今後の課題を明確にできた点が、重要である。
著者
金子 えつこ
出版者
四国学院大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2008

シニャフスキーも指摘しているプーシキンの言語の「軽さ」の第一要因としては、一文の短縮傾向があげられる。軽快性を保つため、カラムジンら先行の作家と比較しても一文に含む語数が少なく、しかもその傾向は後期により顕著となる。例えば『スペードの女王』では六語以下から成る短文が全体の実に34.7%を占める。また第二要因として、プーシキン散文における動詞の割合が高く総語数の40%であること、さらに完了体の含有率が異常と言ってもよいほど高く、例えば『スペードの女王』では52%にもなることにも注目すべきである。このような動詞中心の短文中に二語ばかりか三語も新情報(レーマ)が含まれる、といった手法により、場面転換、視点転移が迅速になり、叙述に自由闊達な軽快性が加味されると考えられる。さらに韻律性の要因が第三にあげられる。散文でありながら随所に韻律パターンが見られることをボンディが指摘しているが、独特のリズムと押韻を伴うS音等の「軽い」子音の配置、また、ある音韻が至近距離で呼応することで特定の雰囲気をテクストにかもし出す技法が見られる。例えば『スペードの女王』で主人公と賭博勝負をするチェカリンスキーは、物語の終結部分のみに繰り返し名前が登場するが、チェカリンスキーという語感は、発音の類似する単語чек,чеканкаなどにより金属的、金融的と言え、冷たく不安をあおる響きを持つため、主人公の暗い決死の賭博事情を語る時の伴奏のような効果がある。また、彼の登場するテクスト部分にчеловекなどчеで始まる語がちりばめられ、彼の台詞の中にもче,кという音が響く(я не могу метать иначе, какна чистые деньги.)など、音の呼応が場面全体の緊張感や主人公の発狂前の高揚を表現する一助となっている、と言える。
著者
江田 司
出版者
和歌山大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

【研究目的】1.ディズニー音楽映画「ファンタジア2000」(DVD)を起点に、聴いて楽しい20世紀の音楽作品を収集し、子どもたちに音楽を聴く喜びをいっそう深めること。2.ICT環境を充実するとともに関連鑑賞教材の指導法を開発することで,どの子どもにも音楽を味わって聴く態度を身に付けること。【研究方法】これらの2点について平成23年1月~3月まで、和歌山大学教育学部附属小学校5/6年生児童(5学級)を被研対象とした。《火の鳥》(『ファンタジア2000』収録/ストラヴィンスキー/1919年版)のアニメーション映像を見せて関心を高め、4曲から「カスチェイの凶暴な踊り」の音楽に焦点化し、1.オリジナル(1910年全曲版)の音源(CD:デュトワ指揮:モントリオール)、2.同管弦楽演奏映像(DVD:ラトル指揮ベルリン)、3.同バレエ映像(DVD:ゲルギエフ指揮マリインスキー&バレエ)と、広範な関連鑑賞資料を駆使して鑑賞活動を行った。とくに1の活動ではこの楽曲特有のモチーフの「反復」に着目させることで、2での楽器による音色の変化の認知に効果が表れた。本研究の有意性を確かめるために、3授業についてそれぞれ研究協力本学教員,初等音楽科教育法受講学生(150名)及び現職教員による参観レポート及び被研全児童からのワークシートを回収し分析した。【研究成果】子どもたちは4種類の『火の鳥』すべてに興味を示し、とりわけバレエ音楽への興味は、後日、強い要望で被験者全員が3(約50分)を鑑賞するまでになった。考察の結果、楽曲のドラマティックな魅力とともに、旋律と楽曲の構造を捉えた1、2の鑑賞の活動がこのような効果を生んだと考えられる。
著者
松永 知大
出版者
長崎大学
雑誌
奨励研究
巻号頁・発行日
2010

近年、夜11時以降に就寝する学童が、全体の半数以上を占めるようになるなど、子どもの夜更かしと、それにともなう睡眠障害の増加が問題視されている。また、これらの睡眠障害が、学童の注意力・忍耐力の低下を初めとした、学童に多く認められる各種の心理的・行動的問題の要因となっている可能性が指摘されている。しかし、学童の睡眠の実態把握は進んでおらず、客観的根拠に基づいた生活指導を行うのに必要とされるデータが、十分に整備されていないのが現状である。そこで、アクチグラムを用いた体動量計測による学童の睡眠の客観的評価と、行動学的手法による学童の認知情動能力の客観的計測を行なうことで、(1)学童の睡眠の実態把握を推進すると共に、(2)睡眠の質が学童の認知情動能力に与える影響を実証的に検討することを目的とし本研究を実施した。本年度は、小学3・4年生20名、小学5・6年生20名を対象に以下の測定を実施した。測定1:アクチグラフを一週間にわたり装着してもらい、客観的生活リズム測定を行った。測定2:客観的生活リズム測定終了後、標準化された行動課題(フランカー課題)を実施し、注意能力測定を実施した。測定1のデータをもとに、小学生の夜間睡眠を特徴づける睡眠パラメータ(実質睡眠時間・睡眠効率・中途覚醒回数など)を抽出した。これら睡眠パラメータと測定2で計測した注意能力との相関を分析した結果、両群で注意能力の指標となるConflicting Scoreと実質睡眠時間との間に有意な負の相関がみられた。この結果は、実質睡眠時間が短い小学生ほど、日中の注意能力が減退している可能性を示唆している。