著者
葛西 美恵
出版者
一般社団法人 日本医療・病院管理学会
雑誌
日本医療・病院管理学会誌 (ISSN:1882594X)
巻号頁・発行日
vol.48, no.4, pp.211-219, 2011 (Released:2011-11-23)
参考文献数
22

英国では,医薬品を含む医療技術の評価に経済分析を導入し,標準的な治療や処方の提供に活かす取り組みがなされている。NICE(National Institute for Health and Clinical Excellence)と呼ばれる公的機関がその中心的な役割を担い,医薬品等の償還の是非をガイダンスの形で提言してきた。しかしNICEガイダンスにより医薬品等の使用が制限された結果,国民の反発は増大したことから,2008年頃から保健省は,使用が制限された医薬品の一部が実質的に使用できるよう,補完する政策を次々と施行してきた。NICEは医療経済評価の手法を忠実に政策利用したにもかかわらず,このような政治的解決策を導入しなければならなかったその要因は何が考えられるであろうか。本稿では,英国NICEの役割とその変遷を概説するとともに,経済評価を日本で政策利用する際の課題について考察を行う。
著者
毛利 有希子 渡辺 美智子 山内 慶太
出版者
一般社団法人 日本医療・病院管理学会
雑誌
日本医療・病院管理学会誌 (ISSN:1882594X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.1, pp.19-31, 2017 (Released:2017-04-13)
参考文献数
16

医師・薬剤師がMRにどのような点を期待しているのか,またMR自身は,どのように期待されていると認識しているのか,公益財団法人MR認定センターの「MR実態調査」の回答データから潜在クラス分析を用いて双方の意識構造を抽出した。その結果,医師は,「自社医薬品の知識と人柄・マナー重視」「重視している項目なし」「全要素を幅広く重視」「人柄・マナー重視」「中立的情報提供と他施設・医療経済・症例ベースの情報重視」「自社医薬品・関連領域の中立的知識重視」に,薬剤師は,「自社医薬品の知識と迅速対応重視」「全要素を幅広く重視」「自社医薬品の中立的情報提供と人柄・マナー,迅速対応重視」「重視している項目なし」「中立的情報提供と症例ベースの情報重視」「訪問のタイミング重視」に,MRは,「全要素を幅広く重視」「人柄・マナーと迅速対応重視」「自社医薬品・関連領域の中立的知識重視」「重視されている項目なし」に大別され,各職種における意識構造の構成比も明らかになった。また,各グループを規定する要因について考察した。
著者
加藤 隆 池田 俊也 武藤 正樹
出版者
一般社団法人 日本医療・病院管理学会
雑誌
日本医療・病院管理学会誌 (ISSN:1882594X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.4, pp.285-294, 2013 (Released:2013-12-25)
参考文献数
24
被引用文献数
1

本研究は薬剤師による疑義照会を行なわない場合に起こると想定される治療や入院期間に対する影響を推定し,その医療費を推計することで,薬剤師による疑義照会の医療の質への貢献度ならびに経済的影響を評価することを目的とした。 東京都内の1病院にて調査を行い,12週間の調査期間中に薬剤師が行った疑義照会148例を対象とした。疑義照会が行なわれなかったと仮定した場合の治療や入院期間の影響を推定する際にデルファイ法を用いることで評価の精度を高め,医療費の算定に出来高ベースの金額を用いて医療資源削減額を評価した。 その結果,入院期間への影響は入院日数の延長,再入院日数を合わせて43症例,190日であった。また,疑義照会による医療費の回避額は推定75万円∼190万円となった。医療費を用いて疑義照会による貢献度を定量化することができた結果,薬剤師は医療の質ならびに経済面に貢献していることが確認された。
著者
渡辺 真弓 山内 慶太
出版者
一般社団法人 日本医療・病院管理学会
雑誌
日本医療・病院管理学会誌 (ISSN:1882594X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.65-75, 2017 (Released:2017-05-12)
参考文献数
65
被引用文献数
1

本研究は職場リーダーの自発的長時間労働が部下のワーク・ライフ・バランスに及ぼす影響を明らかにする目的で,病院に勤務するスタッフ看護職519名,師長30名を対象に調査を実施した。マルチレベル共分散構造分析の結果,職場リーダー(師長)の内発的モチベーションによる自発的長時間労働が,非自発的長時間労働を介して間接的に職場全体のワーク・ライフ・バランス満足度を減少させていた。一方,職場リーダーの外発的モチベーションによる自発的長時間労働は,直接的には職場全体のワーク・ライフ・バランス満足度をやや向上させていたが,総合効果としてはほとんど影響がなかった。職場リーダーがどのような理由によって長時間労働を行っているのかということを把握することは,その部下の満足度の向上にもつながることが示唆された。
著者
藤田 茂 平尾 智広 北澤 健文 飯田 修平 永井 庸次 嶋森 好子 鮎澤 純子 瀬戸 加奈子 畠山 洋輔 大西 遼 松本 邦愛 長谷川 友紀
出版者
一般社団法人 日本医療・病院管理学会
雑誌
日本医療・病院管理学会誌 (ISSN:1882594X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.3, pp.95-104, 2020-07-31 (Released:2020-11-11)
参考文献数
48

医療従事者の働き方改革は,医療従事者の健康や幸福だけでなく,医療安全の向上にも寄与すると推測される。本研究は,コメディカルの労働量と医療安全に関するアウトカムとの関係を明らかにすることを目的とした。1964年1月から2018年8月までに出版された医中誌Web収載の文献と,2008年8月から2018年8月までに出版されたPubMed収載の文献を対象に,システマティックレビューを行った。その結果,看護師の労働量に関する文献を26件,薬剤師の労働量に関する文献を2件,その他の文献を7件得た。それらの文献には,システマティックレビューが7件,対照群のある観察研究が28件含まれ,無作為化比較試験は無かった。コメディカルの労働量の多さが患者の死亡率に負の影響を与えるという明確なエビデンスは得られなかった。一方で,看護師の労働量が多いと,与薬エラーや集中治療室における院内感染症が増加する可能性が示唆された。
著者
下野 僚子 藤原 優子 水流 聡子 北條 文美 島崎 博士 廣瀬 俊昭 小川 武希 浅野 晃司 落合 和徳
出版者
一般社団法人 日本医療・病院管理学会
雑誌
日本医療・病院管理学会誌 (ISSN:1882594X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.77-86, 2017 (Released:2017-05-12)
参考文献数
12

持参薬の適正な運用のため,持参薬に特化した業務に関しては多く検討されているものの,持参薬と入院後処方薬の混在下で両者の整合性を確保しながら統合的に管理する観点からの検討は行われていない。本研究では,持参薬と入院後処方薬が混在する状況下で,両者の性質の違いを考慮しながら統合管理するための内服業務の標準化指針を開発した。 内服業務の統合管理を実現するために,情報収集,指示,準備,服用の業務ごとに業務目標を導出し,持参薬の特性を考慮した標準化指針を開発した。統合管理のためには,「受入」「休薬」「併用」「切替」を適切に実現する必要があると考えた。持参薬の特性として,「外部で処方・調剤される」「入院前の管理状況は患者に依存する」「患者資産である」の3点を考慮した。検証病院での調査により,業務目標と標準化指針が妥当であることを検証した。
著者
岩尾 亜希子 藤原 喜美子 長谷川 志保子 上野 京子 太田 久子 長谷川 幸子 櫻井 順子 會田 秀子 中澤 惠子 小市 佳代子 古畑 裕枝 中野 八重美 金子 恵美子 稲垣 一美 柳 努 北原 るり子 山下 小百合 落合 和徳
出版者
一般社団法人 日本医療・病院管理学会
雑誌
日本医療・病院管理学会誌 (ISSN:1882594X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.219-227, 2013 (Released:2013-09-10)
参考文献数
13

院内暴力の現状は,幾つか報告されているが,高度先進医療を担う大学病院に特化した報告はない。私立大学病院医療安全推進連絡会議では,職員が安全に働くための環境を整備する事を目的に2011年に都内私立大学附属病院本院に勤務する全職員29,065名を対象に質問紙による調査を行った。その結果,回収率は78.6%で過去1年以内に院内暴力を受けた人は44.3%だった。更に暴力が原因で「退職したいと思った」が3.7%(1,159名),「死にたかった」が0.2%(58名)いるにもかかわらず個人の対応としては,我慢や謝罪をしている現状が明らかになった。又,各施設で整備されているサポート体制の認知度は低く「サポート体制が無い」,「わからない」と回答した職員が合わせて71.7%だった。院内暴力に対する不安を5段階評価で2以上(何らかの不安を感じている)の職員が86.3%いた事は重く受け止められるべきであり,院内暴力の現状認識と有効な対策の立案が急務であるとともに患者・患者家族との信頼関係の構築が必須である。
著者
松田 謙一 濱本 洋子 綿貫 成明
出版者
一般社団法人 日本医療・病院管理学会
雑誌
日本医療・病院管理学会誌 (ISSN:1882594X)
巻号頁・発行日
vol.54, no.2, pp.95-105, 2017 (Released:2017-05-12)
参考文献数
31

本研究は,全国の急性期病院におけるせん妄患者への頓用向精神薬投与時の看護師の困難感を明らかにすることを目的に行った。看護師の薬剤の投与過程で必要とされる判断の困難感7項目を含む無記名自記式調査票を独自に作成した。調査票は,調査協力に同意の得られた全国の116病院3,848名の看護師に配布し,個別返送で回収した。その結果,1,958名分 (50.8%) が回収され,有効回答は1,748名(有効回答率45.4%)であった。せん妄患者への頓用向精神薬投与時の看護師の困難感は,具体的な判断が求められる薬物療法の必要性の判断,具体的な薬剤の選択,投与量・速度の判断で,「やや難しい」,「とても難しい」との回答の合計が68.4%から79.5%を占めていた。本研究の結果から,せん妄患者への頓用向精神薬の投与をより安全で効果的に行うためには,看護師をはじめとした医療職に対する向精神薬に関する教育や頓用向精神薬の指示形態の整備などを含め,せん妄に対する組織的取り組みを整備・普及させていくことが必要と考えられた。
著者
小木曽 加奈子
出版者
一般社団法人 日本医療・病院管理学会
雑誌
日本医療・病院管理学会誌 (ISSN:1882594X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.1, pp.21-30, 2023-01-31 (Released:2023-01-27)
参考文献数
28

本研究は,文献を用いてわが国における高齢者に対するトランジショナル・ケア(TC)の概念を概念分析により明らかにすることを目的とした。データベースは,Pub Med,医学中央雑誌web版,メディカルオンライン,CiNii Researchを用い,さらに,ハンドリサーチにて,研究目的に合う書籍2件を加え,最終的に20文献を分析対象とした。Rodgersの概念分析の手法を用いて分析をした結果,6つの属性として【多職種協働のチームケア】,【さまざまな療養の場における同じ方向性をもつケア】,【高齢者と家族のもてる力の活用】,【包括的・統合的なケア】,【高齢者の病状変化に伴うケア】,【高齢者と家族の意思決定支援】。3つの先行要件として,【生活の場を変えなければならないシステム】,【移行先の生活の場の機能】,【TCの範疇】。4つの帰結として,【生活の場での暮らしの継続】,【TCのPDCAサイクル】,【介護負担の軽減】,【高齢者と家族の意向の実現】が抽出された。これらから,本概念は高齢者の多様な病状変化の特徴を反映し,多職種協働による包括的・統合的なケアの要素を含むことが示唆された。
著者
古田 勝経 溝神 文博 宮川 哲也 森川 拓 永田 治 永田 実 福澤 悦子 油座 マミ 櫻井 淳二 庄司 理恵 藤井 聡
出版者
一般社団法人 日本医療・病院管理学会
雑誌
日本医療・病院管理学会誌 (ISSN:1882594X)
巻号頁・発行日
vol.50, no.3, pp.199-207, 2013 (Released:2013-09-10)
参考文献数
15

褥瘡は寝たきり高齢者に多い慢性創傷であり,難治であり医療費や患者の生活の質に影響を与える。チーム医療で治療を行うことが治癒促進につながるが薬剤師の積極的な関与が少なく本来のチーム医療の有用性は示されていない。そこで,本研究では,薬剤師の積極的関与のある褥瘡チーム医療治療群と褥瘡ハイリスクケア加算群とで,褥瘡治癒に関する費用対効果を検討した。患者数は(褥瘡チーム医療治療群 / ハイリスクケア加算群) 295名/80名,DESIGN点数の減少を用いた費用対効果の比較では総費用(円/点) 6,709 / 24,549で,褥瘡チーム医療治療群はハイリスクケア加算群に比べ約4分の1におさえられていた(p<0.001)。
著者
弘田 義人 六車 耕平 今中 雄一
出版者
一般社団法人 日本医療・病院管理学会
雑誌
日本医療・病院管理学会誌 (ISSN:1882594X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.11-19, 2020-04-24 (Released:2020-04-28)
参考文献数
36

本研究の目的は,日本の医療制度下における費用を用いた費用効果分析(費用効用分析),費用便益分析を網羅的に収集し,その特徴を検討することである。5つの電子データベースを用い,日本の医療制度下における費用を用いた増分費用効果比,増分費用効用比,純金銭便益,純健康便益,増分純便益のいずれかを検討した文献を系統的レビューの手法に則り検索・選択した。その後必要項目を抽出し,文献の特徴を検討した。その結果,1983年から2018年に発表された325文献を採択した。2017年以降文献数は急増しており,ガイドライン等の推奨に沿っている研究は近年増加傾向だったが,欧米における費用効用分析のレビュー論文の結果と比較すると,推奨に沿っていない研究が多かった。より一層,費用効果分析・費用便益分析の質の向上を図るべきである。また医療経済評価の方法論の標準化の推進に資するため,日本における医療経済評価研究を集積したデータベースの構築が望まれる。
著者
落合 英伸 大坪 徹也 猪飼 宏 今中 雄一
出版者
一般社団法人 日本医療・病院管理学会
雑誌
日本医療・病院管理学会誌 (ISSN:1882594X)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.183-191, 2014 (Released:2015-04-21)
参考文献数
23

我が国の抗精神病薬大量処方は,諸外国と比べて頻繁に実施されている。本研究では,広域地域国民健康保険および後期高齢者医療診療報酬データを活用し,外来維持期の統合失調症患者の抗精神病薬大量処方と患者因子,診療行為,受診施設の種類との関連について探索した。大量処方の定義は,患者当たりのクロルプロマジン換算値が1,000 mg/日を超える処方とした。大量処方患者は,全体(n=6,726)の7.9%,施設別では精神科病院13.1%,精神科診療所8.3%,一般病院5.0%,一般診療所2.0%と傾向に違いがみられた。多重ロジスティック回帰分析の結果では,大量処方の調整オッズ比は75歳以上の高齢者で低く,精神科リハビリ利用者の非利用者に対する調整オッズ比は1.89~4.38と高かった。医療政策面では,施設ごとおよび地域における抗精神病薬の実態がモニターできる有用なデータである。
著者
伊藤 嘉高 田中 幸子 大嶋 聡子
出版者
一般社団法人 日本医療・病院管理学会
雑誌
日本医療・病院管理学会誌 (ISSN:1882594X)
巻号頁・発行日
vol.47, no.4, pp.209-216, 2010 (Released:2010-12-25)
参考文献数
11

「看護師不足」が広く認識されるなか,看護職員への離職防止,定着促進策が種々講じられている。そうした動向の背景には,病院の看護職員の年齢構成がいわゆるM字カーブを描いておらず,30歳代から一貫した低下傾向にあるとの認識がある。しかしこの認識は全国的には必ずしも当てはまらず,山形県のデータではM字カーブを描いている。本研究では,この山形県の看護職員の年齢構成を子細に分析した。その結果,山形県でも都市部の急性期病院は30歳代から一貫した低下傾向にあるものの,地域間の転職・再就業の流れが地方部の重要な人材供給パスになっており,結果として県全体でM字カーブになっていることを明らかにした。山形県におけるM字カーブは必ずしも離職防止・定着促進の結果ではない。したがって,今後の看護政策には,急性期病院に目を向けた「固定化」策だけではなく,個々の看護職員の移動を視野に収めた施設横断的な就労支援策も求められる。
著者
田村 桂一 荒井 耕
出版者
一般社団法人 日本医療・病院管理学会
雑誌
日本医療・病院管理学会誌 (ISSN:1882594X)
巻号頁・発行日
vol.60, no.3, pp.95-103, 2023-07-31 (Released:2023-12-15)
参考文献数
15

病院建築の知見やノウハウの蓄積の状況について,病院に対するアンケート調査及びインタビュー調査により明らかにした。アンケート調査の結果からは,病院建築を行う病院のうち8割では,病院建築に関する知見やノウハウを明文化した文書は整備されておらず,病院建築以前に知見やノウハウの蓄積が行われていないことが分かった。また,病院建築の当時の担当者が10年程度経つと,3割ほどの病院で在籍しておらず,人的にも知見の蓄積が難しいことが分かった。したがって,病院建築の際に有用な情報を得ようとするならば,外部から収集する必要があると考えられる。インタビュー調査の結果からは,外部からの情報収集手段としては,他の病院の視察,病院建築プロジェクトチームへの建築系人材や病院建築研究者の参加,建築事業者からの情報提供が一般的であった。中でも,他の病院の視察が外部からの情報収集手段として最も多く挙げられていた。
著者
朝元 綾子
出版者
一般社団法人 日本医療・病院管理学会
雑誌
日本医療・病院管理学会誌 (ISSN:1882594X)
巻号頁・発行日
vol.53, no.3, pp.173-180, 2016 (Released:2016-12-10)
参考文献数
11

病院を3つのタイプ─国公立,公的,私立─に種別したうえで,厚生労働省DPC病院データと地域医療情報ネットから得た公開データをリンクさせて,脳梗塞(手術なし),および股関節大腿近位骨折の在院日数について重回帰分析を行なった。股関節大腿近位骨折では私立病院の在院日数が長く,脳梗塞(手術なし)では公的病院の在院日数が短かった。病院の組織構造から生じる固有の性質が,医師のインセンティブ(努力の誘因)に作用して,医療連携の成果に影響を与え得ることを議論した。