著者
田澤 悠 村上 健 堀口 利之
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.121-129, 2020-08-31 (Released:2020-12-31)
参考文献数
27

【目的】 近年,COPD の増悪に誤嚥が関与していることが明らかになってきている.今後の課題はCOPD 増悪の予防であり,呼吸機能や嚥下機能が具体的にどのようにCOPD の増悪に関わっているのかについて知ることが重要であると考えられる.今回,外来通院中のCOPD 患者を対象に,呼吸機能に加え嚥下機能に関する評価を行い,それらが過去の増悪歴の有無を有意に反映するかどうかを検討した.【方法】 対象は,外来通院中のCOPD 24 名(男性22 名,女性2 名)とした.増悪と診断されて入院の適応となった既往を増悪歴有りとすると,増悪歴が有ったのは11 名,無かったのは13名であった.MASAから抜粋した項目を評価した.嚥下造影検査により10 mL の液体嚥下での喉頭侵入/ 誤嚥の有無を調べ,スパイロメトリーでは特に努力肺活量(FVC),1 秒量(FEV1),対標準1 秒量(%FEV1),最大呼気流量(PEF)などを検討項目とした.次いで各々の項目に対し増悪歴の有無を最も効率的に分類できる最適cutoff値(co)を求め,各評価項目および測定値と増悪歴との関係を検討した.解析にはFisher の正確確率検定あるいはχ2 検定を用い,各々の項目の2 群と増悪歴に有意な関係を認めるかどうかを検討した.【結果】 増悪歴と有意な関係を認めたのは%FEV1(co: 42.0%, p=0.033)であった.一方,MASA, FVC,PEF は,増悪歴と有意な関係を認めなかった.【考察】 MASA は,嚥下機能低下が顕在化するに至っていない本研究の対象者において増悪歴を反映しないものと考えられた.PEF が有意ではなかったにもかかわらず%FEV1 が有意であったことは,PEF が瞬間的な呼気流速を反映するのに対し,%FEV1 は呼気流速に加え呼気流量も反映するためで,すなわち誤嚥に対する下気道防御においては,呼気流速に加え呼気流量も重要であることを示したと考えられた.
著者
佐藤 豊展 近藤 健男 柴本 勇 出江 紳一
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.3-10, 2021-04-30 (Released:2021-08-31)
参考文献数
28

【はじめに】舌挙上は舌骨上筋群の筋力を強化する訓練として適用されることが報告されている.筋力を強化する際,運動負荷量を適切に設定する必要があるが,舌骨上筋群の筋力を強化するための舌圧の強度は明らかになってはいない.そこで本研究は,健常若年者と健常高齢者を対象に,1)舌圧と舌骨上筋群の筋活動の関連性,2)舌骨上筋群を筋力強化するための舌圧強度について明らかにすることを目的に行った.【方法】対象は健常若年者15 名(27.1±2.6 歳,平均±標準偏差;以下同様),健常高齢者12 名(76.0±3.0 歳)とした.測定課題は頭部挙上と舌挙上の全6 課題とした.舌挙上は最大舌圧,舌圧80%,舌圧60%,舌圧40%,舌圧20%の5 課題を行った.測定装置は舌圧測定器と表面筋電図を使用した.被験筋は舌骨上筋群とした.統計解析は舌圧と舌骨上筋群の筋活動の関連についてピアソンの積率相関係数を行った.また,舌骨上筋群を筋力強化するための舌圧強度について,線形単回帰分析を行った.【結果】健常若年群と健常高齢群ともに,舌圧と舌骨上筋群の筋活動に強い正の相関を認めた.健常若年者では65%,健常高齢者では50% の強度で舌圧発揮を行うと,頭部挙上時の舌骨上筋群の筋活動と同程度の筋活動が得られた.【考察】健常高齢者において,50% の強度で舌圧発揮を行うと,舌骨上筋群の筋力を強化できる可能性が示唆された.今後,持続時間や頻度などの運動負荷量,舌前方部や舌後方部などの位置について検討が必要と考えられる.
著者
田中 厚吏 石﨑 直彦 宮地 隆史 栢下 淳
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.34-43, 2023-04-30 (Released:2023-09-10)
参考文献数
25

【目的】神経筋疾患患者の嚥下造影検査を後方視的に調査し,ゼリー・とろみ付き液体における物性の差異による誤嚥や咽頭残留との関連を調査した. 【方法】対象者は,嚥下造影検査(VF)を実施した神経筋疾患患者で診療録から後方視的に調査した.調査項目は基本情報としてVF 実施時点の年齢,身長,体重,BMI,摂食状況,食事形態を調査した.VF 側面像から固さ5,000 N/m2 および8,500 N/m2 の異なるゼリー,薄いとろみ(粘度116.6 mPa・s)および中間のとろみ(粘度276.8 mPa・s)の検査食を用い,誤嚥の有無,咽頭残留の有無を調査した.統計解析は,検査食の誤嚥・咽頭残留の比較にはχ2検定,Fisher の正確確率検定を用いた.また,誤嚥・咽頭残留の有無における年齢・BMI の比較にはt 検定を用いた. 【結果】期間中にVF を実施した65 名(男性:28 名,女性:37 名)を解析対象とした.誤嚥は検査食間で有意な差は認めなかった.喉頭蓋谷残留は,ゼリー5,000 N/m2 に比べ薄いとろみのほうが有意に少なく(p<0.05),ゼリー8,500 N/m2 では,中間のとろみおよび薄いとろみのほうが有意に残留が少なかった(p<0.05,p<0.01).梨状窩残留は,ゼリー5,000 N/m2 に比べ,薄いとろみのほうが有意に少なかったが(p<0.05),その他の物性間で差はみられなかった. 【結論】神経筋疾患患者における食品物性の違いによる誤嚥・咽頭残留との関連を調査した結果,咽頭残留の観点からは薄いとろみ程度の液体が適切である可能性が示唆された.
著者
吉岡 昌美 中江 弘美 篠原 千尋 十川 悠香 福井 誠 日野出 大輔 中野 雅徳
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.16-24, 2023-04-30 (Released:2023-09-10)
参考文献数
13

要介護高齢者の口腔機能低下やそれに伴う食形態の制限は,低栄養や免疫機能低下を通じて発熱や肺炎の発症リスクを上昇させると考えられる.本研究では,経口摂取が可能な施設入所要介護高齢者を対象に,「口腔ケア支援簡易版アセスメントシート」を用いた約1 年半のコホート調査を行い,その間の37.5℃以上の発熱とベースラインの口腔アセスメント結果との関連性について調べ,発熱発生に関連する要因を明らかにすることを目的とした.1 年間の発熱の有無が確定できた259 名を対象に分析した結果,1年間の発熱有無と主食形態,開口困難,舌の前突困難,飲み込みにくさ,口腔ケア自発性なし,開口保持困難,水分保持困難との間に有意な関連を認めた.さらに,観察期間を限定せずデータが得られた279 名を対象にこれらの項目と発熱発生との関連性について分析した結果,年齢,性別,BMI, 認知症自立度で調整しても開口困難,舌の前突困難,飲み込みにくさ,口腔ケア自発性なし,開口保持困難,水分保持困難との間に有意な関連性が認められた.また,年齢が高いほど,BMI が低いほど発熱リスクは高く,女性に比べて男性で発熱リスクが高いことも明らかとなった.以上のことから,開口,舌の前突,飲み込み,水分保持などに関する口腔機能の低下が,発熱リスクの予測因子となりうる可能性が示唆された.
著者
中尾 雄太 山下 泰治 齋藤 翔太 金森 雅 南都 智紀 笠間 周平 内山 侑紀 道免 和久
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.64-68, 2020-04-30 (Released:2020-08-31)
参考文献数
18

症例は63 歳男性,筋萎縮性側索硬化症(ALS)の患者である.上肢の巧緻運動障害,歩行障害,体重減少で発症し,ALS と診断された.その後,緩徐に呼吸機能と嚥下機能が低下し,夜間NPPV 導入および軟菜食,水分にとろみ付けを行い自宅で生活していた.今回,誤嚥性肺炎による呼吸不全のため救急搬送され,気管切開・人工呼吸器管理などの集中治療のため安静臥床を要した.舌圧を含む嚥下関連筋の急激な筋力低下を認めたことから,原疾患の進行のみならず,臥床に伴う廃用症候群の合併を考慮し,負荷量に留意した舌筋の筋力増強訓練を施行した.その結果,最大舌圧および嚥下機能の改善を認め,3 食経口摂取となった.ALS においても,廃用の要素が大きい際には嚥下筋の筋力増強訓練は有効である可能性が示唆されたため,文献的考察とともに報告する.
著者
柳澤 幸夫 松尾 善美 春藤 久人 直江 貢 中村 武司 堀内 宣昭
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.75-80, 2012-04-30 (Released:2020-05-28)
参考文献数
20

近年,誤嚥性肺炎を予防するトレーニングとして,呼気筋トレーニング(expiratory muscle training:以下,EMT)が注目されている.EMT の効果としては,呼吸筋力や咳嗽能力の改善,ならびに嚥下機能への影響を示唆する報告が散見される.しかし,これらに関する報告はまだ少ない.今回われわれは,在宅療養中のパーキンソン病患者に対して,EMT を実施し,呼吸機能,咳嗽能力,呼吸筋力に加えて,口腔筋機能や質問紙を用いて摂食嚥下機能に関連する周辺症状に与える効果を明らかにすることを目的とした症例研究を実施した. 症例は64 歳の男性.診断名はパーキンソン病である.現在,病院神経内科に通院し,介護保険サービスを利用し,在宅療養中である.Hoehn & Yahr 分類はstage Ⅲで,Barthel index は65 点である.研究計画はA-B-A デザインとした.EMT はThreshold IMT(RESPIRONICS 社製)を用いて,トレーニング期間を4 週間とした.EMT の負荷設定は最大呼気筋力の30% とし,頻度は1 日15 分間2 回とした.評価項目は,呼吸機能,咳嗽能力,呼吸筋力の測定である.また,口腔筋機能,摂食嚥下機能についての評価も実施した. その結果,EMT 後に,呼吸機能では最大呼気流速と咳嗽時最大呼気流速が増加した.呼吸筋力では,最大呼気筋力,最大吸気筋力が増加した.口腔筋機能では,RSST はEMT 前後とも正常であった. 口唇閉鎖力は,平均4.82 N から5.61 N に上昇した.摂食嚥下質問紙では,体重減少,嚥下困難感,むせ,口腔外流出の各項目に変化が認められた. 本研究の結果,EMT は単に呼吸筋力増強のみではなく,咳嗽能力を向上させ,摂食嚥下機能また口腔筋機能にも影響を与え,患者の致死的原因となる誤嚥性肺炎の予防につながる可能性が示唆された.今後,データを蓄積し,EMT が嚥下機能へ及ぼす影響について,さらなる検討をする必要があると考えられる.
著者
小島 千枝子 大野 友久 長谷川 賢一 藤田 大輔
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.17, no.1, pp.25-35, 2013-04-30 (Released:2020-04-30)
参考文献数
19

【目的】半固形物は一般に,舌を口蓋に押し付けることによる押しつぶしで処理される.しかし,健常者において,固形物のように咀嚼して食べる人が存在する.本研究では,口蓋の高さが半固形物の咀嚼パターンに影響している可能性を検討した.【対象】健常若年成人女性50 名.【方法】① 上顎の歯型模型を作製し,咬合平面から口蓋の底部までの高さを5 mm 間隔で計測した.② 最大舌圧を3 回測定し,平均値を分析の対象とした.③ ゼリー5 g 程度の自由嚥下を観察と問診で,咀嚼と押しつぶしパターンに分類した.④ 咀嚼パターンの9 名に対し,ソフトワックスによる模擬PAP(Palatal Augumentation Prosthesis)を口蓋の最も高い部分に貼り付け,摂食パターンの変化を観察し,舌圧を測定した.⑤ 3 名に対しVF を行い,模擬PAP 有無での嚥下動態を比較した.【結果と考察】統計分析により,押しつぶしと咀嚼に分ける口蓋の高さのカットオフ値が20 mm と算出された.口蓋の高い人は咀嚼が有意に多く,舌圧は有意に低かった.口蓋の高い9 名に模擬PAPを装着すると,咀嚼パターンから押しつぶしパターンに変わり,舌圧は平均5 kPa 上昇した.嚥下開始時の食塊の先端の位置は,咀嚼パターンでは喉頭蓋谷以降が83% を占めたが,押しつぶしパターンに変わると,口腔・咽頭上部領域が100% になり,喉頭蓋谷持続時間も短縮した.口蓋の高い人が半固形物を咀嚼する理由については,食塊を破砕しやすいことに加え,送り込みに関しても,半ば自動的に咽頭へ送り込まれる Stage Ⅱ Transport を用いたほうが容易であることによると推測された.嚥下障害者においても,口蓋の高い人はもともと半固形物を咀嚼していた可能性がある.スクリーニング段階で,口蓋の高さと咀嚼パターンを観察項目に加えることを提案したい.口蓋の高い人には,PAP 装着を選択することが有効と考えられた.
著者
太田 喜久夫 才藤 栄一 松尾 浩一郎
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.6, no.1, pp.64-67, 2002-06-30 (Released:2020-08-20)
参考文献数
2

我々は,嚥下障害患者の直接嚥下訓練に有効な頸部回旋とリクライニング座位の体位が,その組み合わせにより逆に問題を生じる可能性を考えている.今回その具体例を経験したので症例を紹介するとともにその機序について健常者で実験を行い確認したので報告する.症例は49歳男性で蘇生後脳症による両側性片麻痺や嚥下障害が著しく,主要栄養管理は胃瘻(PEGによる)で行われていた.ビデオ内視鏡検査の所見でリクライニング座位30度・右頸部回旋45度の姿勢で食塊の嚥下前気管内誤嚥を観察した.次に実験として健常者におけるリクライニング座位と頸部回旋の組合せによる食塊の通過経路について嚥下造影検査を用いて検討した.その結果リクライニング座位と頸部回旋の組合せによっては,食塊が回旋側の梨状窩に貯留後上方である反対側の梨状窩へ押し上げられ,嚥下時の喉頭挙上や披裂・声帯閉鎖が不十分な場合には喉頭内侵入や誤嚥が生じる危険が示唆された.以上から頸部回旋やリクライニング座位の姿勢の組合せには誤嚥予防の注意を必要とし,嚥下造影やビデオ内視鏡を用いた食塊通過経路や誤嚥の有無についての評価が行われるまでは,リクライニング座位の場合頸部は回旋させずに食塊が均等に左右の梨状窩を通過するように食事介助を行ったほうが安全ではないかと考えられた.
著者
西村 圭織 栢下 淳
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.26, no.3, pp.180-189, 2022-12-31 (Released:2023-04-30)
参考文献数
32

【目的】通所リハに通う要支援・要介護高齢者を対象に,低栄養と関連する要因を口腔・嚥下機能,食事摂取頻度に焦点をあて,低栄養の人数割合,口腔・嚥下機能,食事摂取頻度の調査,検討した研究である.これらの結果をもとに適切な栄養管理方法について考える.【対象者および方法】2017 年11 月から2018 年6 月まで,通所リハを利用している65 歳以上の地域在住高齢者で要支援1,2,要介護1~3 の118 名を対象とした.また,研究方法の理解が可能な者で,研究に同意を得られたものとした.研究デザインは横断研究である.調査項目は,栄養状態(Mini Nutritional Assessment Short-Form,BMI),口腔機能[ 最大舌圧値,摂食状況のレベル(FILS),オーラルディアドコキネシス(OD),咀嚼能力の評価],嚥下機能[改訂水飲みテスト(MWST),EAT-10,水分の一回嚥下量],食事摂取頻度(食品多様性スコア,食習慣)とし,栄養状態の評価より低栄養群,低栄養のリスク群および良好群の3 群に分け,統計学的解析を行った.【結果および考察】低栄養群が23 名(19.4%),低栄養リスク群が63 名(53.4%),栄養状態良好群が32 名(27.2%)であった.口腔・嚥下機能では,栄養状態と舌圧,水分の一回嚥下量,EAT-10 が関連していた(p<0.05).食品摂取多様性スコアでは,低栄養群で栄養状態良好群と比較して低い傾向がみられた(p=0.059).低栄養群では食品摂取の多様性スコアの点数が低く,特にたんぱく質の多い食品の摂取が少ないことがわかった.食物摂取頻度では,栄養状態と鶏肉および麺類に有意な関連がみられ(p<0.05),いずれも栄養状態良好群に比べて,低栄養群が少なかった.低栄養群は口腔・嚥下機能の項目および食品摂取の多様性スコアと関連がみられたことから,口腔・嚥下機能の障害が食事に影響していることが考えられる.【結論】低栄養は口腔・嚥下機能低下,食事摂取頻度に関連していた.要支援・介護になる前の段階から,口腔・嚥下機能低下予防を含めた低栄養対策を行うことが重要と考えられた.
著者
荒川 武士 樋口 康平 乗松 詩織 新野 直明
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.99-108, 2022-08-31 (Released:2022-12-31)
参考文献数
47

【目的】高齢患者を対象に頭部屈曲運動を実施し,嚥下能力に与える影響を検討することを目的とした.【方法】対象は,嚥下障害のない65 歳以上の患者70 名とした.除外基準は,頭部屈曲運動に対するリスクを呈する者,口頭指示が理解できない者とした.入院順に介入群と対照群を交互に割り付ける準ランダム化比較試験を実施した.介入群の介入内容は,背臥位での頭部屈曲反復運動を1 日に30 回×3 セット,2 週間実施した.対照群の課題は通常のリハビリテーションのみとし,嚥下能力,機能への介入はしないとした.主要アウトカム指標を3 回唾液嚥下積算時間とし,副次的アウトカム指標を舌圧,開口力,General oral health assessment index(以下,GOHAI)とした.介入群,対照群のアウトカム指標の介入前後の値の変化を以下のように検討した.正規性が認められた場合は,二要因(時間×群)の反復測定による分散分析および対応のあるt検定(Bonferroni 補正)で検討した.正規性が認められなかった場合は,各群の前後の差をWilcoxon の符号付順位和検定(Bonferroni 補正)にて検討した.有意水準は5% とした.【結果】介入群35 名,対照群35 名となった.各群の基本属性,アウトカム指標はすべての項目において有意な差を認めなかった.3 回唾液嚥下積算時間は介入群にのみ有意な減少を認めた.舌圧は介入群にのみ有意な増加を認めた.開口力は介入群のみ有意な増加を認めた.GOHAI は,両群とも有意な差を認めなかった.【考察】頭部屈曲運動は嚥下能力を向上させる効果的な運動方法であることが示され,嚥下障害を呈する高齢患者へ応用可能な有益な情報になることが示唆された.
著者
木口 らん 藤島 一郎 松田 紫緒 大野 友久
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.179-186, 2007-12-31 (Released:2021-01-17)
参考文献数
28

【目的】健常成人に唾液腺上皮膚のアイスマッサージを行い,唾液分泌が減少するかを検討した.【対象と方法】嚥下障害の既往がなく,唾液分泌に影響を及ぼす可能性のある薬剤を服用していない健常成人で書面にて本研究の目的を説明し同意を得たボランティアを対象とした.氷を入れた金属製の寒冷刺激器を用いて耳下腺,顎下腺,舌下腺各々の表面皮膚上を1分間ずつ合計10分間マッサージする方法を1クールとした。唾液測定は各々30分間とし,吐下法を用い重量計で測定し唾液分泌速度(SFR)ml/minを計算した.日内変動を考慮し測定は夕方に統一した.実験1:即時効果判定目的.健常成人36名(男性14名,女性22名,年齢29.2±6.5歳).唾液腺皮膚上のアイスマッサージ1クールを行い,前後のSFRを比較した.対照群として同一被験者でアイスマッサージをせずに10分間の休憩の前後でSFRを測定し,比較した.実験Ⅱ:長期効果判定目的.アイスマッサージ群:健常成人22名 (男性11名,女性11名,年齢30.4±5.8歳).10分間のアイスマッサージを1日3クール7日間行い,開始前と終了日のSFRを比較した.対照群:健常成人15名 (男性2名,女性13名,年齢26.9±5.0歳).アイスマッサージを行わず,7~8日の間隔をあけて2回のSFRを比較した,【結果】実験Ⅰ:アイスマッサージ後にSFRは有意に減少した (p = 0.002).アイスマッサージなしの休憩前後でSFRに有意差はなかった (p=0.120).実験Ⅱ:7日間のアイスマッサージ後のSFRは有意に減少した (p=0.033).対照群ではSFRに有意な減少はなかった (p=0.885).【考察】健常成人において,唾液腺上の皮膚アイスマッサージによりSFRが有意に減少し,即時効果と長期効果を認めた.流涎治療としてアイスマッサージ継続の有効性が示唆された.
著者
篠崎 昌子 川崎 葉子 猪野 民子 坂井 和子 高橋 摩理 向井 美惠
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.52-59, 2007-04-30 (Released:2021-01-16)
参考文献数
9

3歳から6歳の自閉症スペクトラム幼児(ASD児)123名と保育園に在籍する定型発達幼児(一般児)131名の保護者に対し,食材(品)8種類46品目の摂食状況についてのアンケート調査を実施し,比較検討し以下の結果を得た.(1)ASD児では「絶対食べない」食材(品)がある人数およびその食材(品)の数は一般児に比べ有意に多かった.21個以上と多数の品目を絶対食べない児が,いずれの年齢でも10%前後存在した.ASD児が絶対食べない理由として,外観を挙げることが多かったが,一般児では食べない理由は様々であった.ASD児の知能障害の有無と,絶対食べない食材(品)数との間には統計的な有意差はなかった.(2)ASD児ではしばしばそれまで食べていた食材(品)を食べなくなることや,食べなかったが食べるようになると言ったエピソードがあり,食べなくなるエピソードは60%,食べるようになるエピソードは53%といずれも半数以上に見られた.一般児ではそれぞれ14%,11%で,両者には有意差があった.知能障害の有無との関係では,食べなくなるエピソードが,有意差をもって遅滞群で多く見られた.(3)いわゆる偏食があっても,時期を待つことで自然軽快する可能性が大きいという結果は,療育上重要である.
著者
篠崎 昌子 川崎 葉子 猪野 民子 坂井 和子 高橋 摩理 向井 美惠
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.42-51, 2007-04-30 (Released:2021-01-16)
参考文献数
10

3歳から6歳の自閉症スペクトラム幼児(以下ASD児)123名と,保育園に在籍する定型発達幼児(以下一般児)131名の保護者に対し,食べ方の問題を「食事環境に関するもの」と,「食物処理に関するもの」に大別しアンケート調査を実施,年齢ごとに比較検討し,以下の結果を得た.(1)食事環境に関して6項目について調査した.3歳で60%近くのASD児に何らかの問題があり,4,5歳でやや増加し,6歳でも半数以上に問題がみられた.「じっと座っていられない」は年齢に関係なく半数以上にみられた.「いつもと違う場所だと食べない」,「いつもと違う人がいると食べない」,「食器が違うと食べない」3項目は療育により軽快する可能性があると考えられた.しかし「自宅あるいは通園でしか食べない」,「決まった時間に食べられない」ことは短期間では軽快しないと考えられた.(2)食物処理に関して7項目について調査した.年齢を問わず70から80%のASD児に問題がみられた.「スプーンやフォークがうまく使えない」がもっとも多く,一般児では皆無となる5,6歳以降も存続した.「口にいっぱい詰め込んでしまう」は年齢による減少はなく,「噛まずに飲み込む」,「口にためて飲み込まない」は年齢があがると却って増加しており,短期間では軽快しないと考えられた.「水分ばかり摂る」,「一度飲み込んだものを口に戻す」については,さらに検討が必要と考えられた.(3)知的能力との関連について知能障害がASD児の問題の発現に関係している可能性が考えられたのは,現段階では「食具がうまく使えない」の1項目であった.
著者
小池 一郎 小口 和代 保田 祥代
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.69-74, 2015-04-30 (Released:2020-04-24)
参考文献数
10

本症例は,23 歳の男性であった.勤務中,ベルトコンベアに頭部,体幹,左上肢を挟まれ左肩甲骨骨折,左多発肋骨骨折,左血気胸,両側肺挫傷と診断された.受傷1 日目,経口気管内挿管管理にて,保存的加療となった.受傷13 日目,挿管性と考えられる両側声帯麻痺を認めたため,気管切開術を施行し,カフ付側孔なしカニューレの装用を開始した.受傷17 日目,咽頭の唾液貯留や唾液誤嚥を認めたため,カニューレカフ上吸引ラインからの酸素送気による発声と唾液嚥下訓練(以下,送気訓練)を導入した.酸素1 ~ 3 l/min を使用し,喉頭侵入あるいは誤嚥した唾液を送気により吹き上げ,唾液嚥下を繰り返した.受傷34 日目,内視鏡や酸素送気の刺激で唾液分泌が増加し,送気訓練を継続的に実施するのは困難であったため,持続的酸素送気訓練から,間欠的に送気する方法に変更した.受傷42 日目,両側の声帯内転運動の改善と下咽頭から声門部の唾液貯留の減少を確認できたため,スピーチカニューレに変更した.受傷50 日目,スピーチカニューレを抜去した.経過中,送気訓練導入日である受傷17 日目と,スピーチカニューレ抜去日である受傷50 日目に随意的な唾液嚥下を計測した.評価方法は,本症例に「できるだけ何回も繰り返して唾液を飲むこと」を指示して,綿棒で口腔内を湿らせてから計測を行った.結果は,受傷17 日目と受傷50 日目それぞれにおいて送気なしに比し,送気ありでは随意的な唾液嚥下連続10 回実施所要時間の短縮を認めた.本症例は,送気により命令に応じた反復唾液嚥下回数を即時的に向上させ,唾液嚥下を繰り返すことで嚥下関連筋群を強化することができた.また,発声により声帯運動の廃用を最小限に抑えたことで,唾液処理の能力が改善した可能性が考えられた.
著者
須藤 崇行 真貝 富夫 山村 千絵
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.282-288, 2014-12-31 (Released:2020-04-30)
参考文献数
20

【目的】嚥下障害に対する間接訓練として,冷圧刺激(Thermal-tactile stimulation:以下TTS)が知られている.TTS は,嚥下誘発の感受性を高めるとされている一方で,その効果は必ずしも得られないという報告もあり,効果や作用機序は明確になっていない.本研究は,TTS 効果の基礎的研究を進めるために,嚥下反射惹起の刺激として舌根部への注水刺激を用い,前口蓋弓へのTTS が嚥下の潜時に及ぼす影響を検討した.【対象と方法】被験者は,摂食嚥下機能に問題のない健常若年成人10 名とした.空嚥下させた後に,舌背後部へ水を1.0 ml/min の速度で注水し,嚥下反射が惹起されるまでの潜時を5 回測定した.休憩の後にTTS を行い,再び注水により惹起される嚥下反射の潜時を5 回測定した.そして,TTS 前後の潜時を比較した.【結果】TTS 施行前の全被験者5 回分の平均潜時は13.8±6.7 秒(平均値±標準偏差)であるのに対して,TTS 施行後は11.2±5.6 秒となり,TTS 後に有意な潜時の短縮が認められた(p<0.05).また,TTS 後の各回の平均潜時は,1 回目から5 回目(TTS から約10 分経過時)まで順に,11.3±4.7 秒,10.7±5.1 秒,11.7±6.9 秒,11.2±5.8 秒,11.4±5.5 秒であった.TTS 後,各回すべてにおいて,潜時の有意な短縮が認められた(p<0.05).【結論】注水刺激による嚥下反射の潜時は,前口蓋弓へのTTS 施行後すぐに短縮し,その効果は10 分以上継続した.TTS は,嚥下反射の惹起を促進する方法として,臨床的にも有用であることが示唆された
著者
長井 勇太 山村 千絵
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.131-140, 2014-08-31 (Released:2020-04-30)
参考文献数
27

【目的】 本研究は,とろみ調整食品による粘度付加を行った溶液で,甘味,塩味,酸味の味覚閾値や味覚強度がどう変化するかについて調べることを目的に行った.【対象と方法】 健常成人16 名を被験者とした.ショ糖(甘味),塩化ナトリウム(塩味),酒石酸(酸味)を蒸留水に溶かし,濃度の異なる味溶液を調製した.トロミパワースマイルを用い,各味質において,とろみ無添加溶液,1%とろみ溶液,2%とろみ溶液を調製した.認知閾値の測定時は,3 味質ともに6 段階の濃度の溶液を設定し,明らかに味質が感知できる最低濃度を認知閾値とした.味覚強度の測定時は,3 味質ともに閾値上濃度に設定し,とろみ無添加溶液の味覚強度を基準として,1% とろみ溶液と2% とろみ溶液の味質をどの程度の強さで感じたかを,-3 から+3 までの7 段階で評価させた.【結果】 1.認知閾値:甘味では,とろみ無添加溶液と比べ,2% とろみ溶液は閾値が有意に大きかった(p<0.05).塩味では,各溶液間で有意差はなかった.酸味では,とろみ無添加溶液と比べ,1% とろみ溶液(p<0.001),2% とろみ溶液(p<0.001)は,閾値が有意に大きかった.また,1% とろみ溶液と比べ,2% とろみ溶液は閾値が有意に大きかった(p<0.05).2.味覚強度:甘味では,2% とろみ溶液は,他の溶液よりも有意に甘味が弱いと評価された(p<0.01).塩味では,各溶液ともに同程度の塩味であると評価された.酸味では,とろみ溶液はとろみ無添加溶液よりも有意に酸味が弱く(p<0.001),かつ,2% とろみ溶液のほうが1% とろみ溶液よりも有意に酸味が弱い(p<0.001)と評価された.【結論】 飲食物にとろみを付けると,粘度により味の感じ方が弱くなるが,とろみ調整食品に含まれている成分によって,異なる味の変化を示す場合があることが示唆された.
著者
中野 雅徳 藤島 一郎 大熊 るり 吉岡 昌美 中江 弘美 西川 啓介 十川 悠香 富岡 重正 藤澤 健司
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.240-246, 2020-12-31 (Released:2021-04-30)
参考文献数
17

【目的】聖隷式嚥下質問紙は,摂食嚥下障害のスクリーニング質問紙であり,15 の質問項目に対して重い症状:A,軽い症状:B,症状なし:C の3 つの選択肢がある.「一つでも重い症状A の回答があれば摂食嚥下障害の存在を疑う」という従来の評価法は,高い感度と特異度を有している.本研究では,回答の選択肢をスコア化し評価する方法を新たに考案し,従来の評価法と比較する.また,本法を健常者に適用し,嚥下機能が低下した状態のスクリーニングツール開発のための基礎資料を得ることをあわせて行う.【方法】聖隷式嚥下質問紙開発時に用いた,嚥下障害があるが経口摂取可能な脳血管障害患者50 名,嚥下障害のない脳血管障害患者145 名,健常者170 名を対象に行った調査データを使用した.選択肢を,A:2 点,B:1 点,C:0 点,およびA の選択肢に重みをつけ,A:4 点,B:1 点,C:0 点としてスコア化した場合の合計点数に対して,カットオフ値を段階的に変えそれぞれについて感度,特異度を算出した.ROC 分析により最適カットオフ値を求め,このカットオフ値に対する感度,特異度を従来の方法と比較した.また,健常者170 名のデータについて,年齢階層ごとの合計点数に解析を加えた.【結果】ROC 分析の結果,A:4 点としてスコア化し,8 点をカットオフ値とする評価法が最適であることが示された.本評価法は,感度90.0%,特異度89.8% であり,従来法の感度92.0%,特異度90.1% に匹敵するものであった.健常者における年齢階層別の比較では,75 歳未満と75 歳以上で明確なスコアの差が認められた.【結論】スコア化による聖隷式嚥下質問紙の評価法は,A の回答が一つでもあれば嚥下障害の存在が疑われるという従来の評価法とほぼ同程度の感度,特異度を有していた.一般高齢者では,75 歳以上になるとスコアが有意に高くなることが確認され,嚥下機能が低下した状態を評価するためのスクリーニングツール開発の基礎資料が得られた.
著者
根本 玲 相良 亜木子 沢田 光思郎 杉山 庸一郎 櫻井 桃子 川上 愛加 大橋 鈴世 三上 靖夫
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.69-76, 2020-04-30 (Released:2020-08-31)
参考文献数
23

【目的】皮膚筋炎に伴う重度の摂食嚥下障害は,回復まで長期間を要するとされている.さらに間質性肺炎と縦隔気腫を伴うと,治療はより困難になる.われわれは皮膚筋炎に間質性肺炎と縦隔気腫を合併し,重度の摂食嚥下障害をきたした症例に対し,リハビリテーション治療を行い良好な経過を得た.本症例で実施した摂食嚥下リハビリテーション治療の工夫と経過について報告する.【症例】69 歳男性.四肢の関節部痛と筋力低下,嚥下困難感を訴え,皮膚筋炎と診断された.間質性肺炎を併発し,プレドニゾロン,免疫抑制剤による薬物療法が開始されたが,嚥下困難感が増悪したため,リハビリテーション科に紹介された.嚥下造影検査では咽頭収縮は不良で,嚥下内視鏡検査(以下VE)ではとろみ水(段階1 よりうすいとろみ),ゼリー(コード0j)で誤嚥,喉頭蓋谷残留を認めた.摂食嚥下障害臨床的重症度分類2,藤島グレード2 であった.摂取エネルギー維持目的に経管栄養を開始した.過用による皮膚筋炎増悪防止のため頭部挙上運動などの間接訓練は実施せず,とろみ水(段階1)とゼリー(コード0j)の複数回嚥下による直接訓練を開始した.2 週間後,胸部CTで縦隔気腫と診断された.直接訓練では,縦隔気腫の増悪や縦隔炎の予防目的にゼリーを中止したが,摂食嚥下機能向上を目的にとろみ水(段階1)のみ継続した.疲労感,とろみ水摂取量,血清CK値,VE所見から摂食嚥下機能を総合的に評価し,食形態を段階的に変更した.12 週で,摂食嚥下障害臨床的重症度分類6,藤島グレード7 に改善し,1 日3 食の嚥下調整食(コード4)の摂取が可能となった.13 週目,亜急性期病院に転院した.【結論】皮膚筋炎に間質性肺炎と縦隔気腫を合併し,重度の摂食嚥下障害をきたした症例に対してリハビリテーション治療を行った.皮膚筋炎の過用に注意して経鼻経管による栄養管理を行い,縦隔気腫を増悪させないために間接・直接訓練を工夫することで,摂食嚥下機能の向上が得られた.
著者
岡田 澄子 才藤 栄一 飯泉 智子 重田 律子 九里 葉子 馬場 尊 松尾 浩一郎 横山 通夫 Jeffrey B PALMER
出版者
一般社団法人 日本摂食嚥下リハビリテーション学会
雑誌
日本摂食嚥下リハビリテーション学会雑誌 (ISSN:13438441)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.148-158, 2005-08-31 (Released:2020-12-26)
参考文献数
15

嚥下肢位として広く使用されているChin downを機能解剖学的肢位と関連づけることを目的に,摂食・嚥下障害を扱っている日本の言語聴覚士34名を対象に郵送と電子メールでアンケート調査した.回収率は88% (30名).1)Chin downの日本語名称は「顎引き」57%,「頚部前屈位」20%など様々で5通りの呼称があった.回答者の臨床経験年数,取り扱い患者数による傾向の違いはなかった.2)Chin downとして5つの頭頚部の機能解剖学的肢位像からの選択では,頭屈位53%,頚屈位30%,複合屈曲位17%の3肢位像が選択された.3)5つの頭頚部肢位像の呼称としては,肢位像おのおのが複数の名称で呼ばれ,逆に同じ呼称が複数の肢位像に対して重複して用いられ,1対1に対応させることが困難であった.4)Chin downに比べChin tuckという名称は知られていなかった.5)回答者のコメントとして「名称や肢位の違いは意識していなかった」などの感想があった.これらの結果は,Chin down肢位が機能解剖学的肢位としては極めて不明瞭に認識され,かつ,多数の異なった解釈が存在していることを意味した.Chin downをめぐっては,実際,その効果についていくつかの矛盾した結果が争点となっている.以上のアンケート結果は,その背景として様々な呼称と種々の定義が存在し,多くの混乱が存在する現状をよく反映していた.混乱の原因として,1)肢位が専ら俗称による呼称を用いて論じられ,また,具体的操作として定義されてきた,2)頭頚部肢位の運動が主に頭部と頚部の2通りの運動で構成されているという概念が欠如していた,3)訳語を選択する際に多様な解釈が介在した,などが重要と考えられた.今後,Chin downを機能解剖学的に明確に定義したうえで,その効果を明らかにしていく重要性が結論された.