著者
福井 里江 原谷 隆史 外島 裕 島 悟 高橋 正也 中田 光紀 深澤 健二 大庭 さよ 佐藤 恵美 廣田 靖子
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.213-222, 2004 (Released:2006-09-21)
参考文献数
22
被引用文献数
4 11

組織風土尺度30項目版(外島・松田,1992,1995)の短縮版を作成し,信頼性と妥当性を検証するため,民間企業2社の正社員819名を対象として自記式質問紙調査を実施した.調査内容は,原版の組織風土尺度30項目版,NIOSH職業性ストレス調査票(the Generic Job Stress Questionnaire, GJSQ),および一般健康調査12項目版(the 12-item General Health Questionnaire, GHQ-12)であった.組織風土尺度には伝統性尺度,組織環境性尺度という2つの下位尺度があり,それらの得点の高低によって,各従業員が認知する組織風土を伝統自由・組織活発型(イキイキ型),伝統強制・組織活発型(シブシブ型),伝統自由・組織不活発型(バラバラ型),伝統強制・組織不活発型(イヤイヤ型)に分類することができる.原版の組織風土尺度の主成分分析を行った結果(バリマックス回転,因子数2),それぞれの因子における因子負荷量が0.50以上であった各6項目を短縮版に採用し,組織風土尺度12項目版(the 12-item Organizational Climate Scale, OCS-12)とした.内的一貫性は伝統性因子がα=0.63,組織環境性因子が0.71と許容範囲であった.OCS-12の各下位尺度はGJSQの多くの下位尺度およびGHQ-12と有意に相関し,構成概念妥当性が比較的高いことが示された.OCS-12を用いて分類した組織風土の4類型間では,イキイキ型における職業性ストレスが最も良好であった.OCS-12は職場の組織風土に関する従業員の認知を測定する上で,おおむね十分な信頼性と妥当性を有することが示唆された.
著者
中嶋 理帆 中田 光俊 Nakajima Riho Nakada Mitsutoshi
出版者
Wellness and Health Care Society
雑誌
Journal of wellness and health care = Journal of wellness and health care (ISSN:24341509)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.1-9, 2019-08-01

従来,右前頭葉は損傷されたとしても,ヒトが生きる上での致命的な障害を残す可能性が低いことから,脳損傷後に生じる右前頭葉機能の障害にはあまり注意が払われてこなかった。しかし,実際には右前頭葉の損傷後,麻痺や言語障害がないとしても上手く社会復帰できない患者が少なからず存在したことも事実である。近年,脳画像解析の技術が進歩し,脳機能およびそのネットワークに関する理解は飛躍的に進歩した。これらの進歩と共に,右前頭葉はヒトが社会生活を営む上で欠かすことができない種々の機能を司っていることが明らかになってきた。本項では,種々の右前頭葉機能のうち,作業記憶,視空間認知,メンタライジング,注意に焦点を絞ってその症状と関連するネットワークについて最新の知見をまとめた。さらに,近年注目されている脳腫瘍の手術法,覚醒下手術における右前頭葉機能の温存についても言及した。
著者
中田 光俊 木下 雅史 中嶋 理帆 篠原 治道
出版者
日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.26, no.9, pp.657-667, 2017 (Released:2017-09-26)
参考文献数
61
被引用文献数
2 3

右前頭葉はヒトが社会生活を円滑に営むうえで重要な高次脳機能を有し社会脳として機能する. 右前頭葉の機能は運動機能に加え, 作業記憶, 非言語性意味記憶, 視空間認知, 社会的認知, 注意, 遂行機能を有する. 高次脳機能に関する皮質の機能局在は明確になっておらず広い局在が示されている. 白質神経線維として錐体路, 前頭斜走路, 前頭線条体路, 上縦束, 弓状束, 帯状束, 下前頭後頭束, 鉤状束が存在しそれぞれ運動, 運動開始, 運動統御, 視空間認知, メンタライジング, 注意, 非言語性意味記憶, エピソード記憶を担う. 右前頭葉病変に対して覚醒下手術を行う際には, 皮質の機能局在と白質神経線維の走行を熟知し適切なタスクを選択する必要がある.
著者
小牧 元 前田 基成 有村 達之 中田 光紀 篠田 晴男 緒方 一子 志村 翠 川村 則行 久保 千春
出版者
一般社団法人 日本心身医学会
雑誌
心身医学 (ISSN:03850307)
巻号頁・発行日
vol.43, no.12, pp.839-846, 2003-12-01 (Released:2017-08-01)
参考文献数
11
被引用文献数
3

われわれは先にアレキシサイミア評価のための構造化面接法を開発した.今回,引き続きアフレキシサイミアの自記式質問紙Toronto Alexithymia Scale-20 (TAS-20)日本語版の信頼性と因子的妥当性を検討した.対象は健常群347名と心身症・神経症などの患者群940名である.両群で3因子構造モデルは確証的因子分析により確認,再現された.質問紙全体としてほぼ満足できる内容であり,テスト-再テスト間の安定性も高いことから,日本語版TAS-20の信頼性および因子的妥当性は支持された.ただし,第3因子の外的志向に関しては内的一貫性が低く,その質問項目の均質性には問題があり課題として残された.
著者
阿久津 聡 内田 由紀子 中田 光紀 永田 智久 宮本 百合 Lee Jinju 山本 翔平
出版者
一橋大学
雑誌
基盤研究(A)
巻号頁・発行日
2021-04-05

研究者らはこれまでの研究で、遺伝子発現の技術を使い、会社に対する評価や職場での協調、自己効力感といった要因が高いと炎症マーカーの抑制や細胞性免疫の増強につながることを突き止めた。本研究では、働く人々の健康に影響を及ぼす、①国の文化、②企業、③従業員という3つの要因間の関係性を理論化した「三層モデル」を構築し、産業医学・神経科学・心理学の方法論を援用してモデル検証する。さらにモデルを基に介入調査を立案・実施し、その効果検証まで行い、効果的な健康経営施策への含意をまとめる。
著者
中田 光俊
出版者
Kinki Brain Tumor Pathology Conference
雑誌
Neuro-Oncologyの進歩 (ISSN:18800742)
巻号頁・発行日
vol.23, no.3, pp.1-8, 2017-02-08 (Released:2017-02-08)
参考文献数
27

Drug repositioning refers to the discovery of new indications for approved or failed drugs and the application of the newly identified drugs to the management of diseases other than the drug’s intended disease. It reduces the risk of developmental failure, cost, and time of development. In this review, candidate drugs identified so far based on drug repositioning for malignant glioma are summarized.
著者
赤坂圭一 中田光
出版者
医薬ジャーナル社
巻号頁・発行日
pp.28-35, 2013-11-25

肺胞蛋白症においてマクロファージおよび好中球の貪食殺菌機構の障害が起き,易感染性となる。自己免疫性肺胞蛋白症ではGM-CSF(granulocyte-macrophage colony stimulating factor:顆粒球単球コロニー刺激因子)シグナルの障害にともない易感染性となるが,免疫不全症には至らない。合併頻度の高い感染症は,ノカルジア症,アスペルギルス症,抗酸菌感染症である。自己免疫性肺胞蛋白症にともなう感染症は免疫不全症にともなうものとは異なり,比較的良好な治療効果が見込まれる。続発性肺胞蛋白症にともなう感染症は致死的となる可能性がある。自己免疫性肺胞蛋白症においてステロイド薬および免疫抑制薬は効果を期待できないとされるが,投与歴のある症例は少なくないと推定され,易感染性の増強が危惧される。
著者
石井 晴之 中田 光 田澤 立之 似鳥 俊明 後藤 元 横山 健一 平岡 祥幸
出版者
杏林大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2011

本研究の目的は高分解能CTのdensitometryを用いて、肺胞蛋白症(PAP)病変のCT値を分析することである。5症例のPAPを対象とし、重症度別に肺全体のCT値や肺volumeを客観的に評価することができた。また継時的変化も含めてPAP病巣を反映するCT値は-850HU~-750HU領域のすりガラス影であること、そしてこの領域でのvolumeは血清KL-6およびCEA値と有意に強い正の相関(0.867, 0.616)をみとめていた。稀少疾患であるPAPの早期診断は困難な場合が多いが、本研究成果はPAP診断アプローチに役立つ情報になると思われる。
著者
福井 里江 原谷 隆史 外島 裕 島 悟 高橋 正也 中田 光紀 深澤 健二 大庭 さよ 佐藤 恵美 廣田 靖子
出版者
公益社団法人日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.213-222, 2004-11-20
被引用文献数
1 11

組織風土尺度30項目版(外島・松田, 1992, 1995)の短縮版を作成し, 信頼性と妥当性を検証するため, 民間企業2社の正社員819名を対象として自記式質問紙調査を実施した. 調査内容は, 原版の組織風土尺度30項目版, NIOSH職業性ストレス調査票(the Generic Job Stress Questionnaire, GJSQ), および一般健康調査12項目版(the 12-item General Health Questionnaire, GHQ-12)であった. 組織風土尺度には伝統性尺度, 組織環境性尺度という2つの下位尺度があり, それらの得点の高低によって, 各従業員が認知する組織風土を伝統自由・組織活発型(イキイキ型), 伝統強制・組織活発型(シブシブ型), 伝統自由・組織不活発型(バラバラ型), 伝統強制・組織不活発型(イヤイヤ型)に分類することができる. 原版の組織風土尺度の主成分分析を行った結果(バリマックス回転, 因子数2), それぞれの因子における因子負荷量が0.50以上であった各6項目を短縮版に採用し, 組織風土尺度12項目版(the 12-item Organizational Climate Scale, OCS-12)とした. 内的一貫性は伝統性因子がα=0.63, 組織環境性因子が0.71と許容範囲であった. OCS12の各下位尺度はGJSQの多くの下位尺度およびGHQ-12と有意に相関し, 構成概念妥当性が比較的高いことが示された. OCS-12を用いて分類した組織風土の4類型間では, イキイキ型における職業性ストレスが最も良好であった. OCS-12は職場の組織風土に関する従業員の認知を測定する上で, おおむね十分な信頼性と妥当性を有することが示唆された. (産衛誌2004;46:213-222)
著者
砂田 徹也 関 直臣 中田 光貴 香嶋 俊裕 近藤 正章 天野 英晴 宇佐美 公良 中村 宏 並木 美太郎
出版者
一般社団法人情報処理学会
雑誌
情報処理学会研究報告システムソフトウェアとオペレーティング・システム(OS) (ISSN:09196072)
巻号頁・発行日
vol.2008, no.35, pp.163-170, 2008-04-24
被引用文献数
6

本報告は,省電力化技術であるパワーゲーティングを細粒度に施した MIPS R3000 ベースの CPU チップ Geyser-0 に対して,その上で動作する OS の試作およびその OS を用いてシミュレーションによる電力評価を行う.細粒度は,ALU,SHIFT,MULT, DIV および CP0 のそれぞれを PG の対象とすることを意味する.試作した OS は,例外・割り込み管理機能,システムコール, タスク管理機能を備えており,タイマ割込みによるマルチタスクを実現する.試作 OS によって 4 種類のベンチマークプログラムをマルチタスクで動作させた際の電力評価を行った結果,総電力で平均約 50%,リーク電力で平均約 72%の消費電力削減を実現した.This paper describes prototype of OS for processor Geyser-0 based on MIPS R3000 with a fine grain power gating technique to reduce power consumption and evaluation of power by the simulations when running the OS. The processor has power gating units such as ALU, SHIFT, MULT, DIV, and CP0. The prototype OS has the exception management, the system call, and the task management, and its OS achieves the multitask by the timer interruption. As the results of evaluation running four benchmark program on the OS and the processor, 50% working power and 72% leakage power are reduced.
著者
中田 光雄
出版者
日本哲学会
雑誌
哲学 (ISSN:03873358)
巻号頁・発行日
vol.2009, no.60, pp.101-120_L7, 2009 (Released:2010-11-09)

Après la grandeur et les défauts de l’idée de l’histoire des philosophies chez Hegel homme moderne allemand, et aprés la raison et les déraisons du discours post-moderne de l’endisme: la fin de la philosophie, de l’histoire, de l’homme, etc., on trouve et retrouve Bergson, avec Heidegger, Derrida, mettant en question l’histoire de la philosophie, et surtout ouvrant le champ philosophique sur le réel concret: devenir-durée-différence qualitative contre l’être logique, intellectuel, intemporel, immobile, vainqueur du néant, qui n’est qu’une pseudo-idée; Sein-Lichtung-Differenz ontologique qui se donne à travers l’expérience existentiale du néant contre la métaphysique de l’étant et de la subjectivité; différence-différance grammatologique contre l’idée de l’identité de la méta-physique de la présence et du logocentrisme. Tous les trois s’arrêtent plutôt, cependant, dans une hantologie, une méditation ésotérique, une intuition mystique et d’ailleurs pessimiste. Les bons résultats des pensées d’aujourd’hui, y compris celles de Foucault, Deleuze, Badiou, stiegler devront se transposer dans un champ plus ouvert, par exemple, non pas dans l’histoire des philosophies, mais plutôt dans une praxiologie philosophique dans l’histoire réelle et vivante.
著者
深田 亮 浅野 由美 中田 光政 葛田 衣重 水流添 秀行 村田 淳 田口 奈津子
出版者
一般社団法人日本理学療法学会連合
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.45, no.6, pp.380-384, 2018 (Released:2018-12-20)
参考文献数
8

【目的】進行癌に重度の対麻痺を伴った症例に対し,理学療法と動画を用いた介助方法の指導を行い,復学を達成したので報告する。【対象と方法】症例は毎日,中学校に通うことを楽しみにしていた10 代前半の男性。局所再発腫瘍の胸椎浸潤による対麻痺となり,腫瘍部分摘出術が施行された。階段昇降が復学を達成するために重要であったため,中学校の教員宛に動画を用いて介助指導を行った。また,復学を達成するために医療者カンファレンスに加え,教員を交えて復学カンファレンスを実施した。復学後も理学療法士と教員が積極的に情報を共有し学校行事に参加できるように多職種でアドバイスを行った。【結果】教員介助の下,安全に階段昇降を達成し,学校行事にも参加できた。【結語】動画を用いた介助指導,病棟スタッフとのカンファレンスによる目標設定,さらに復学後も教員と情報共有をしたことで,患児の希望に沿った復学を達成できた。
著者
中田 光俊 木下 雅史 中嶋 理帆 篠原 治道
出版者
一般社団法人日本脳神経外科コングレス
雑誌
脳神経外科ジャーナル (ISSN:0917950X)
巻号頁・発行日
vol.31, no.6, pp.356-367, 2022 (Released:2022-06-25)
参考文献数
75

高次脳機能とは, 伝達・表現・理解・遂行するためのヒトの高度な機能の総称である. 脳神経外科手術において高次脳機能を温存するためには, その機能局在および関連する神経ネットワークを知ることが必須である. われわれは白質神経線維の走行を理解するためには白質解剖が最も優れた手法であると考える. 高次脳機能を司る上縦束, 下前頭後頭束, 下縦束, 前頭斜走路, 帯状束は白質解剖で剖出できる. 覚醒下手術中に適切なタスクを用いて, これらの神経線維束が担う高次脳機能関連領域を同定することが可能であり, 同部位を傷害しないことで全身麻酔手術では温存し得なかった高次脳機能を意図的に温存できるようになった.
著者
北村 尚人 中谷 淳子 中田 光紀
出版者
学校法人 産業医科大学
雑誌
Journal of UOEH (ISSN:0387821X)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.295-300, 2014-12-01 (Released:2014-12-13)
参考文献数
13
被引用文献数
1 2

勤労者の睡眠問題と主観的健康感(以下,健康感)の関連を明らかにするために,日本人43,092人(男性34,164人,女性8,928人)を対象に質問紙調査を行った.健康感と睡眠問題の関連は多重ロジスティック回帰分析により解析し,オッズ比(OR)を求めた.男女間で健康感を「あまり良くない,非常に良くない」と答えた人の割合に有意な差があったため(男性29.4%,女性34.1%,P < 0.001),男女別に解析した.睡眠問題なしの者に比べ,睡眠6時間未満(OR = 男性1.39,女性1.40),入眠困難(OR = 男性4.44,女性3.85),中途覚醒(OR = 男性5.72,女性4.85),早朝覚醒(OR = 男性3.87,女性4.25),起床困難(OR = 男性3.30,女性3.40),起床時疲労感(OR = 4.97,女性4.82)および仕事中の過度の眠気(OR = 男性2.34,女性2.11)を有する者は有意に健康感が悪かった.睡眠問題と健康感の関連の強さは男女差が認められなかった.本研究により,勤労者において睡眠問題と健康感は関連することが示された.
著者
中田 光
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1027-1030, 2003-10-01

はじめに 特発性肺胞蛋白症は全国に推定400人の患者がいる希少肺疾患で,患者の3分の1は無症状であり,自然寛解も10%あるといわれている.1970年代に肺洗浄療法が開発普及してから,いくつかの薬物療法が試みられたが,注目に値する治療法はなかった.肺洗浄療法は,全身麻酔下で2ウェイ挿管チューブを用いて片肺ずつ2回で肺を洗う全肺洗浄法と,1区域ごとに複数回洗浄する反復区域洗浄法があるが,いずれにしても患者の苦痛は大きく,治療を受けた患者のなかには「悪くなってもいいから,もう二度とあの治療は受けたくない」と話す人もいる. 1994年,米国のマサチューセッツのホワイトヘッド生物医学研究所のDranoffが偶然,顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)欠損マウスに肺胞蛋白症が起こることを発見し,それが引き金となって,GM-CSFと肺胞蛋白症の関連が注目された.1999年,当時,東大医科研で肺胞蛋白症の病因物質を追求していた私は,2年半の苦闘の末,特発性肺胞蛋白症の気管支肺胞洗浄液と血中に大量の抗GM-CSF自己抗体が存在することを発見し,ついで血清抗体測定により血清診断法を開発した.以来,特発性肺胞蛋白症の患者は全例が自己抗体陽性であることがわかり,自己抗体が病因であるというのが定説となっている. 東大医科研の小さな研究室で特発性肺胞蛋白症のどろどろした肺胞洗浄液と格闘していた頃,オーストラリアとスイスでは,特発性肺胞蛋白症の病因がGM-CSFに対するマクロファージの反応性の低下にあると考えた医師がいた.彼らは,皮下注で連日GM-CSFを投与すれば改善するのではないかと考え,実行した.結果は13例に投与して6例が著明に改善した. 1999年,私は抗GM-CSF自己抗体発見の研究成果を発表するためにボストンで開かれたアメリカ胸部学会に出席し,初めてGM-CSF療法のことを知った.抗GM-CSF自己抗体が病因であると主張していたから,抗原であるGM-CSFを患者に投与するのは火に油を注ぐものだと考えて違和感を覚えたが,試しにスイスの医師Otto Schochに治療前後の血清と気管支肺胞洗浄液を送ってもらってその自己抗体価を測定した.結果は驚くべきものだった.血清中の自己抗体価は治療前に比べて治療後は60%程度であったが,気管支肺胞洗浄液中のそれは,治療6週後,12週後には消失していた.GM-CSFは皮下注で投与されていたから,肺の中に大量にある自己抗体が中和により消失したとは考えにくく,おそらく肺に脱感作による抗体消失が起こっていると思われた. GM-CSF皮下注療法の効果に感嘆していた頃,東北大学加齢研の貫和教授から,特発性肺胞蛋白症の重症例の治療について相談を受けた.外来受診された患者の動脈血酸素分圧は37mmHgで,二度全肺洗浄療法を受けたが効果なく,2000年夏には在宅酸素療法が開始され,やがて患者はほとんど寝たきりの状態になった.教室の田澤助手は,GM-CSF皮下注ではコストがかかりすぎること,スイスでの治験の情報から悪寒などの副作用があることから,GM-CSFを250μg/日連日で隔週で12週間,吸入によって投与することを決め,医学部の倫理委員会,厚労省医薬局の薬鑑証明など煩雑な手続きを粘り強くこなして半年かかってスイスより輸入し,2000年12月に国内初のGM-CSF吸入療法が実現した. その後,東北大学,近畿中央病院で各1例の重症特発性肺胞蛋白症に吸入療法が試みられ,いずれも劇的に改善している.