著者
布施 理美 長谷川 崇 清水 民子 廣岡 大吾 坂 慎弥 布施 明 横堀 將司 小山 博史 猪口 正孝
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.25, no.4, pp.672-678, 2022-08-31 (Released:2022-08-31)
参考文献数
13

目的:首都直下地震で未治療死が生じないために発生傷病者数をどの程度に抑制しなければならないかを明らかにすること。方法:災害医療シミュレーション・システムを用いて内閣府の首都直下地震東京湾北部地震想定を用いて,想定から1割ずつ発生負傷者数を減じた場合の未治療死数やその内訳を検討した。災害医療の動きは東京都の災害時医療救護活動ガイドラインに準じた。結果:内閣府想定では発災後初回トリアージが赤タグの傷病者(4,296人)のうち1,507人(35.1%),黄タグの傷病者(17,224人)のうち4,775人(27.7%)が未治療死となった。未治療死は災害拠点病院よりも連携病院で多く発生していた。負傷者数を想定の4割まで減らすことができれば未治療死は30人(負傷者数の0.4%)に減じた。結論:首都直下地震発生直後に未治療死が多数発生するという“医療崩壊”を起こさないためには発生負傷者数を内閣府想定の4割程度に減らす防災・減災対策が必要である。
著者
岩﨑 恵 庄古 知久 吉川 和秀 安達 朋宏 齋田 文貴 赤星 昂己 出口 善純
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.22, no.1, pp.55-63, 2019-02-28 (Released:2019-02-28)
参考文献数
20

field amputationは非常にまれであるが,時間的猶予のない傷病者には救命の切り札となり得る。海外の災害では四肢切断による救助例も報告されているが,現状の東京DMATに切断資機材はない。目的:当センターにおけるfield amputationプロトコルの策定。方法:わが国のfield amputationに関する文献を医学中央雑誌で検索しその実態について調査する。 同時に海外のプロトコルや報告例も調査する。結果:わが国では過去8件の現場四肢切断実施報告があり,受傷機転は機械への巻き込まれ事案が多い。約半数で切断資機材は後から現場に持ち込まれている一方,米国では出動に関するプロトコルや資機材リストが存在した。結論:field amputationは救命のため必要な場合があり,出動段階から考慮することで救出時間短縮につながる可能性がある。出動段階から適切な対応が取れるようにプロトコルを策定すべきである。
著者
竹内 若菜 松浦 裕司 櫻谷 眞佐子 山村 仁
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.25, no.6, pp.935-941, 2022-12-28 (Released:2022-12-28)
参考文献数
7

目的:本研究では小児の年齢や身長・体重に応じ適切な医療資器材や薬剤投与量を記載した小児用のファイルをドクターカーに導入し,その有用性を検討することを目的とした。方法:2014年7月〜2021年7月の期間における14歳以下の小児のドクターカー出動症例のうち,気管挿管とアドレナリン投与を要した心肺停止症例を対象とした。小児ファイルの使用の有無で,挿管チューブ挿入長・帰院後のチューブ調整の有無を比較検討した。アドレナリン投与量に関しては,体重が不明な現場での投与量が許容範囲内であったかを検討した。また,同乗看護師に対してアンケート調査を行った。結果:小児ファイル使用群で,位置不良で再調整を行った症例が減少した。アドレナリン投与量に関しても,許容範囲内で投与できていた。アンケート結果からは,ファイルを参照したことで,診療チーム内での認識統一や,準備時の混乱の軽減につながっていたことが明らかとなった。結論:小児ファイルはプレホスピタルにおいて,医療資器材や薬剤の準備と診療を正確に行うことにつながり有用であった。
著者
澤村 直輝 中野 航一郎 内田 祐司 高力 俊策
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.615-619, 2022-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
10

市販薬であるトラベルミン®(ジフェンヒドラミンサリチル酸塩とジプロフィリンの合剤)による急性中毒は近年国内でも症例報告が散見される。うつ病の既往がある34歳男性が痙攣と意識障害で発見され,隣にトラベルミン® 120錠分の空箱(ジフェンヒドラミン換算3,100mg)を認め救急搬送された。来院時はGCS 3点(E1V1M1),瞳孔散大,眼球クローヌス,口腔内乾燥,心電図で右脚ブロック波形と頻脈を認めた。トライエージDOA®でフェンシクリジンが陽性であった。人工呼吸器管理,活性炭投与,炭酸水素ナトリウム投与,20%脂肪乳剤の投与を行い,血液透析を施行した。数時間後には心電図は正常化し第2 病日には意識レベルも改善した。横紋筋融解を合併したが軽快し,第9病日に独歩で精神科へ転院となった。トラベルミン®中毒の報告はまだ多くないが入手は簡単で,インターネットの自殺サイトで取り上げられることもあるため今後も増加が予想される。救急医療に携わる者にとって多彩な臨床所見や治療法の知識を深めることが重要である。
著者
堀江 勝博 大谷 典生
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.25, no.3, pp.590-593, 2022-06-30 (Released:2022-06-30)
参考文献数
7

睡眠時無呼吸症候群,喘息の既往のある50歳,男性。電子レンジで加熱したおにぎりを食べた後から咽頭痛,呼吸苦が出現したため,救急外来に来院した。喉頭ファイバースコピーを実施し,喉頭蓋の著明な腫脹を認めたため,気道管理目的に気管挿管を施行し,同日入院となった。入院後は繰り返し評価を行い,喉頭蓋の腫脹の改善を確認の後,第8病日に抜管,第10病日に退院となった。本来,加熱した飲食物は通常,誤って口に入れてもすぐに吐き出すため,喉頭熱傷になることはまれと報告されている。本症例では,おにぎりを咀嚼せずに嚥下したこと,電子レンジ加熱の特性として外部より内部がより高温となったことが喉頭熱傷を引き起こした要因であると考えられた。電子レンジで加熱した食物を食べた後からの咽頭痛・呼吸困難は,喉頭熱傷の可能性があり,時として高度な気道管理を必要とする場合があることを念頭に診療するべきである。
著者
清田 和也 武井 秀文 熊谷 渉 田中 大 浜谷 学
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.21, no.6, pp.729-734, 2018-12-31 (Released:2018-12-31)
参考文献数
10

目的:救急搬送状況の改善のため,迅速かつ適切な救急搬送体制の確立に向けた施策を実施した。方法:①救急現場におけるタブレット端末を利用した医療機関検索,②搬送困難事案受入医療機関の確保,③MC医師による搬送先コーディネート,など。結果:重症以上傷病者搬送事案では,医療機関への照会回数4回以上の割合が平成23年の10.6%から,平成28年は4.1%と有意に減少した。また,平成29年に,搬送困難事案受入医療機関に要請が可能となる基準に達した事案のうち6号基準を適用して要請を行った件数は23.7%で,要請したうちの80.2%が受け入れられ,重症以上傷病者搬送事案では,現場滞在時間30分以上の割合が平成24年の16.7%から,平成28年は13.3%と有意に減少した。考察:新たな救急医療情報システムでは,救急現場において医療機関の受入状況がリアルタイムで確認でき,医療機関選定の有効なツールとなった。結語:今後,データの分析を進め,救急活動の質の向上とさらなる救急搬送受入体制の改善に役立てていく。
著者
野々内 裕紀 眞継 賢一 時田 良子 三木 寛之 中井 秀樹 伊藤 博美 喜多 亮介 大橋 直紹 端野 琢哉 濱口 良彦
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.781-790, 2021-12-28 (Released:2021-12-28)
参考文献数
8

薬剤師の集中治療室定数配置薬の在庫管理業務による経済効果は十分に明らかにされていない。そこで,われわれは定数の過不足・破損が報告された薬剤数および損失金額について薬剤師が集中治療室に常駐する前(2016年9月1日〜2018年8月31日)と後(2018年9月1日〜2020年8月31日)を比較して,定数配置薬の管理状況が改善するのかを調査した。 定数の過不足・破損が報告された薬剤数は薬剤師常駐後に329個から229個まで30.4%減少し,損失金額は192,910円から110,090円にまで42.9%減少した。ヒューマンエラーによる破損よりも管理状況に由来する定数の過不足を理由に報告された薬剤数が著しく減少した。薬剤師が集中治療室において定数配置薬の在庫管理業務を開始した後は,定数配置薬の管理状況が改善し,薬剤の定数不足や破損による経済的損失が減少した。
著者
長田 俊彦 廣田 哲也
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.24, no.6, pp.796-800, 2021-12-28 (Released:2021-12-28)
参考文献数
10

症例は69歳,男性。併存症は慢性腎不全(維持透析),洞不全症候群(DDD型ペースメーカー留置)。コハク酸シベンゾリン(以下CZ)を約1カ月間内服後に倦怠感と不穏が出現した。来院時,ペーシング不全を伴う高度徐脈と低血糖,高カリウム血症を認めた。高カリウム血症を是正後もペーシング不全と低血糖が遷延したため,CZ中毒と判断して第3,4病日に血液濾過透析(以下HDF)を施行し,以降,ペーシング閾値は低下して低血糖も改善した。初診時の血中CZ濃度は1,294ng/mLと高かったが,各HDF前後で血中CZ濃度は低下した。CZは血液透析による除去効率が低い薬剤とされるが,本症例と同様にHDFが薬物の除去や中毒症状の改善に寄与した報告が散見される。本症例のようにペーシング不全により高度の循環障害を伴うCZ中毒では各臓器での薬物クリアランスの低下も予想されるため,HDFが奏効する可能性があると考えられる。
著者
大森 達矢 樽井 武彦 守永 広征 松田 岳人 八木橋 厳 山田 賢治 松田 剛明 山口 芳裕
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.18, no.6, pp.703-707, 2015-12-28 (Released:2015-12-28)
参考文献数
18

背景:ガイドライン2010(以下,G2010と略す)施行以降,胸骨圧迫の重要性が強調されており,強い胸骨圧迫による合併症の増加や,治療成績に与える影響も懸念される。方法:平成24年に当施設に搬送された院外心停止患者のうち外傷例を除く210例を対象とし,G2010による東京消防庁救急活動基準変更の前後(105例ずつ)で,胸骨圧迫の合併症,自己心拍再開率を比較した。結果:肋骨骨折は105例(50%),気胸は26例(13%)で,救急活動基準変更の前後で有意差はなく,心拍再開率にも差はなかった(前後期とも19%)。合併症は75歳以上で有意に多く発生したが,心拍再開率には影響がなかった。また,気胸が発症した症例では心拍再開率が12%と低い傾向があった。結論:ガイドラインの変更に伴い合併症の増加が心配されたが,本研究はそれを否定するものであった。治療成績向上のためには,効果的かつ合併症を最小限に抑えるような胸骨圧迫が重要である。
著者
水津 利仁 水野 正之 阿部 雅志 松本 尚
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.52-57, 2020-02-29 (Released:2020-02-29)
参考文献数
8

諸外国(アフリカやインドなど)では遭遇する機会もまれではないが,わが国ではきわめてまれなライオンによる外傷を経験したので報告する。わが国では大型の野生動物による外傷といえばクマによる外傷の報告が多く,頭頸部と顔面から胸部までの上半身に与える損傷が大多数である。本症例はクマによる報告同様,頭部と頸部に受けた損傷が大きく,それ以外の部位では擦過傷程度であった。また,クマによる外傷は殴打による爪外傷の報告が多いのに対し,ライオンは牙による咬傷が多く,受傷形態はイヌ・ネコによる咬傷に近い。クマとライオン,イヌ・ネコとライオンそれぞれの外傷の類似点を踏まえ,今後同じような症例に遭遇した場合,造影CT検査を行ううえでの撮影法とその考え方について考察した。
著者
熊田 恵介 村上 啓雄 吉田 実 豊田 泉 小倉 真治 福田 充宏
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.20, no.1, pp.18-22, 2017-02-28 (Released:2017-02-28)
参考文献数
18

対象と方法:平成22年1月から平成26年12月末まで5年間の下呂市消防署管轄における入浴関連救急搬送事例と基幹病院へ搬送となった重症事例を対象に,重症度別,月別,時間帯別,要請元・発生場所別ならびに画像を含めた所見を回顧的に検討した。結果:全死亡例のうち入浴関連の割合は35.2%であったこと,月別では冬季に,時間帯別では夜間帯に重症例の発生件数が多かったこと,ホテル・旅館等と自宅等からの要請が多いこと,浴槽内での死亡例が多かったことが明らかとなった。また,重症例では血管系の内因性疾患が多く予後不良で,死後画像診断の実施率は80%で確定診断に至ったものは25.7%であった。考察:地方では温泉地など地域特性を明確化したうえで,関連諸機関が一体となった有効かつ効果的な救急医療支援策を講じておく必要がある。
著者
高橋 礼子 近藤 久禎 中川 隆 小澤 和弘 小井土 雄一
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.20, no.5, pp.644-652, 2017-10-31 (Released:2017-10-31)
参考文献数
11

目的:大規模災害時には巨大な医療ニーズが発生するが,被災地内では十分な病床数が確保できず被災地外への搬送にも限界がある。今回,実際の地域での傷病者収容能力の確認を行うべく災害拠点病院の休眠病床・災害時拡張可能病床の実態調査を行った。方法:全災害拠点病院686施設に対し,許可病床・休眠病床・休眠病床の内すぐに使用可能な病床・災害時拡張可能病床についてアンケート調査を実施した。結果:回収率82.1%(許可病床258,975床/563施設),休眠病床7,558床/179施設,すぐに使用可能な休眠病床3,751床/126施設,災害時拡張可能病床22,649床/339施設であった。考察:いずれの病床使用時にもハード面・ソフト面での制約はあるが,被災地外への搬送に限界があるため,地域の収容能力を拡大するためには,休眠病床・災害時拡張可能病床は有用な資源である。今後,休眠病床の活用や災害拠点病院への拡張可能病床の普及を進めると共に,各種制約も踏まえた医療戦略の検討が課題である。
著者
岸原 悠貴 安田 英人 須崎 紳一郎 原田 尚重 原 俊輔 蕪木 友則 東 秀律 寺岡 麻梨 山本 浩大郎 鈴木 秀鷹
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.643-650, 2020-10-31 (Released:2020-10-31)
参考文献数
9

目的:適切な入院先の選定を可能にすることで患者の予後を改善する目的から,重症化予測スコアリングモデルの検討を行う。方法:デザインは単施設後方視的コホート研究で, 2013年1月〜2015年12月に武蔵野赤十字病院救命救急センターに入院した急性医薬品中毒患者を対象とした。重症管理の有無を主要評価項目とし予測スコアリングモデルを複数作成,それらを統計学的に比較した。結果:171例を対象に解析を行い,重症管理群29例(17.0%),非重症管理群142例(83.0%)であった。予測スコアリングモデルを比較すると,ハイリスク薬剤内服の有無,内服薬の錠数151錠以上の有無,GCS 6未満の有無,心電図変化の有無を説明変数とすると妥当性がもっとも高かった(AIC=125.6)。結論:本予測スコアリングモデルによって急性医薬品中毒患者の重症管理予測の一助となる可能性がある。
著者
松本 紗矢香 廣瀬 智也 服部 雄司 指月 海地 戸上 由貴 山吉 滋 水島 靖明
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.23, no.5, pp.717-721, 2020-10-31 (Released:2020-10-31)
参考文献数
7

三環系抗うつ薬を含む薬物の大量服用による循環抑制に対しては,従来対症療法が行われてきた。静注用脂肪乳剤は,脂溶性の指標であるオクタノール/ 水分配係数(logP値)2以上の薬物中毒の治療法として近年その有効性が示唆されている。症例は49歳,女性,大量服薬による意識障害のため救急搬送となった。服用薬剤(logP値[実測値/ 理論値])はアモキサピン[不明/2.6]450mg,アミトリプチリン[1.9/5]90mg,トラゾドン[3.85/2.8]600mg などと推察された。薬物服用5時間後に血圧57/33mmHgまで低下し,輸液負荷とドパミン投与には反応しなかったが,20%脂肪乳剤250mLを静注後速やかに血圧84/41mmHgへ改善した。今回,三環系抗うつ薬などの大量服薬による循環抑制に対し,脂肪乳剤投与が有効であった1例を経験した。脂溶性薬物による中毒の治療法として,脂肪乳剤投与は考慮してもよい。
著者
青木 仁志 伊藤 太乙 長谷川 雄二
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.18, no.3, pp.491-498, 2015-06-30 (Released:2015-06-30)
参考文献数
8

目的:近年,救急医療においては,頭部外傷に対して頭部CTのみで診断している例が散見される。頭蓋内出血の検出に対して頭部CT が第一選択であることは論を待たないが,頭蓋骨骨折を考慮した場合,頭部CTのみの診断で良いのか,その適否について検証を行った。方法:当院(東京都指定二次救急医療機関)を受診した頭部外傷7,126例を対象に後ろ向き研究を行った。頭部X線と頭部CTの頭蓋骨骨折に対する感度を求め,加えて,頭部CTでは検出されにくい頭蓋骨骨折の形態的特徴の分析と,頭部X線を併せて施行した際の被曝量,検査から診断に要する時間の比較検討を行った。さらに,頭部X線を施行せず頭部CTのみで診断する場合の頭蓋骨骨折を見逃す危険度を求めた。結果:頭蓋骨骨折に対する感度は頭部X線が0.99,頭部CTは0.46であった。頭部CTでは骨折の幅と角度によって検出されない形態的特徴が存在した。頭部X 線の被曝線量は頭部CTに比べて低く,検査から診断までに要する時間の延長はみられなかった(CT画像再構成時と比較)。頭部CTのみの場合と頭部X線も併せて施行した場合の頭蓋骨骨折の見逃しの相対危険度は128であった。結論:頭部CTの頭蓋骨骨折の診断能は極めて低く,骨折の幅と角度によっては検出されないことが判明し,頭部外傷をCTのみで診断することの危険性が示唆された。
著者
布施 明 坂 慎弥 布施 理美 萩原 純 宮内 雅人 横田 裕行
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.22, no.4, pp.573-579, 2019-08-31 (Released:2019-08-31)
参考文献数
10

目的:気象データに熱中症関連ツイートの要素を加えることで熱中症救急搬送者数を予測できるかを検討すること。対象・方法:2015〜2017年を対象とした。2015年東京データを用いて,平均気温と熱中症ツイート数から,熱中症救急搬送者数の予測式を作成した。次に,作成した予測式が他年次や他地域へも適応可能であるかを評価するため,他年次の東京都および,大阪府と神奈川県に関するデータでの検証を行った。結果:予測値と実数の相関係数は0.9726であった。ツイート数を用いたことで予測精度が向上した。他地域でも熱中症ツイート数の補足を加えた予測式は平均気温から算出した予測式よりも有用であった。考察・結論:熱中症の“リアルタイムでの”予防対策として,気象データ(平均気温)に熱中症関連ツイートデータを加えた予測式による熱中症救急搬送者数の予測は有用であると考えられた。
著者
片山 祐介 北村 哲久 清原 康介 酒井 智彦 溝端 康光 嶋津 岳士
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.21, no.6, pp.697-703, 2018-12-31 (Released:2018-12-31)
参考文献数
12

患者が病院を受診すべきか否かを自身で判断できないことは救急車要請の一因である。その一方で,電話相談で「緊急度が低い」と判定されたにもかかわらず救急車出動した事例の実態については明らかにされていない。方法:対象者は2013〜2015年に大阪市内から救急電話相談に電話をし,「緊急度が低い」と判定された症例で,救急車が出動した症例のうち救急活動記録とひもづけできた救急搬送患者である。5歳年齢階層ごとの判定例1,000人当たりの救急車出動数を算出し,年齢階層別の動向をJoinpoint分析で評価した。結果:緊急度が低いにもかかわらず救急車が出動したのは185件で,もっとも多かった年齢階層は0〜4歳群で23件であった。一方でJoinpoint分析結果では,35〜39歳以降大きく増加していた。考察:とくに高齢者では緊急度が低いにもかかわらず救急車が出動する傾向にあり,救急車に代わる病院受診手段の確立が求められる。
著者
落合 敏夫 森本 文雄 渋谷 正德 大山 豊 岩井 伸幸 飯田 友巳 宇佐美 一幸
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.18, no.6, pp.720-722, 2015-12-28 (Released:2015-12-28)
参考文献数
3

目的:千葉県東葛飾北部地域における蘇生対象となったCPA(cardiopulmonary arrest)に対する静脈路確保について,現場における救急救命士数の影響を検討する。対象および方法:東葛飾北部地域メディカルコントロール協議会の検証グループで静脈路確保に関するチェックシートを作成した。平成22年4月1日から平成23年3月31日の間,域内で発生し救急隊が出動し心肺蘇生術(cardiopulmonary resuscitation)を施行した845件について記入を行った。得られたデータを基に,救急救命士1名乗車と2名乗車とに分け,静脈路確保の試行と成功とを検討した。また救急救命士2名乗車における薬剤投与認定救急救命士(以下,認定と略す)の影響を,認定2名の場合と認定1名の場合および非認定2名とで比較検討した。結果:救急救命士1名乗車589件(69.8%)に対し,2名乗車は256件(30.2%)であった。1名乗車の静脈路確保試行は290件(49.2%),成功は150件で,成功率は51.7%であった。2名乗車での静脈路確保試行は172件(67.2%),成功は116件で,成功率は67.4%と,1名乗車と比較し有意な差を認めた。認定2名乗車時は統計学的に有意な差はないが,最も高い試行率・成功率であった。結語:救急救命士2名乗車は,1名乗車に比べて静脈路確保の試行率・成功率ともに高く,薬剤投与認定救急救命士2名乗車が最も高かった。救急救命士2名乗車体制の有用性が示唆された。
著者
中村 眞人
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.21, no.1, pp.23-27, 2018-02-28 (Released:2018-02-28)
参考文献数
3

心停止の場所で人の生死が決まってよいのかとの思いで,千葉市を日本のシアトルに!構想がスタートした。医師会・千葉市・千葉大学が参加する連携委員会で協議し,小,中,高校対象の救急蘇生講習を軸としたいのちを守る推進プラン,医師会主催ICLS・BLS講習会,救急対応力向上研修会,医師会認定救急医制度などを開始した。例えばいのちを守る推進プラン実践校は,2011年は,1中学校区4校。2015年は,20中学校区56校と増えた。医師会主催のICLS講習会は10回,BLS講習会は8回,ICLSワークショップ講習会は2回開催した。その結果,ICLSディレクター 1名,ICLSインストラクター 8名が誕生し,BLS・ICLS講習会の医師会単独開催が可能になった。救急対応力向上研修会は39回開催し,医師会認定救急医は,初級が約20名,中級が4名,上級が1名になった。これらの活動は,学校医・産業医・かかりつけ医として医師会に求められる公益活動につながると思われる。
著者
安田 康晴 二宮 伸治 諌山 憲司 竹井 豊
出版者
一般社団法人 日本臨床救急医学会
雑誌
日本臨床救急医学会雑誌 (ISSN:13450581)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.5-14, 2015-02-28 (Released:2015-02-28)
参考文献数
19

救急車搬送中の傷病者の容態悪化を防ぐため安静に搬送する必要があり,高規格救急車には加速度等により生ずる揺れを吸収するために防振架台が設置されている。本研究は救急車の振動と防振架台の効果と対策について検討した。実験1:3種類の救急車で障害物を走行し,床上と防振架台上の振動を測定した。独立懸架方式サスペンションの救急車が最も振動が小さく(p<0.001),全救急車で床面上より防振架台上が大きく(p<0.05),共振により振動が増幅していた。実験2:救急車と防振架台の共振周波数について検討した。車体は5〜20Hzで振動が減衰しているが,防振架台上は3〜5Hzで減衰し,10Hz以上では車体に対して著しく振動が増加した。防振架台を固定すると当該振動のゲインが低くなった。防振架台は3〜5Hzの低周波域で効果的に振動を吸収するが,衝撃荷重では著しい共振を起こす。振動を抑制する対策として,防振架台を固定する,障害物の走行時は減速することがあげられる。