著者
尾針 由真 押田 龍夫
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.18, no.4, pp.115-120, 2013-12-19 (Released:2014-03-14)
参考文献数
10
被引用文献数
1 6

近年北海道ではエゾシカ(Cervus nippon yesoensis)の個体数が増加し,家畜の飼養地域に出没している。国内での家畜のカンテツ症は激減しているが,ニホンジカ(C. nippon)では高率にカンテツの寄生が認められる。このため,エゾシカが肝蛭症の保虫宿主として家畜やヒトへの新たな感染源となることが懸念される。本研究では,北海道十勝地方において,野生のエゾシカのカンテツ寄生状況を把握し,今後の肝蛭症拡大対策の基礎的資料となる情報を提示することを目的とした。2012年5月から10月の期間に十勝地方の10ヶ所の調査地点から収拾した計507サンプルのエゾシカの糞塊を用いて虫卵検査を行った。その結果,十勝地方におけるエゾシカのカンテツ寄生率は14.2%であり,道内の他地域からの報告と比べると低いレベルであった。また,今回の調査でカンテツが検出された調査地点と食肉衛生検査所の検査結果から得られたカンテツ寄生ウシの生産元地点を比較した結果,寄生分布が両者である程度重なっている傾向が示唆された。
著者
小倉 剛 大塚 愛 川島 由次 本郷 富士弥 上地 俊徳 織田 銑一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.149-155, 2000 (Released:2018-05-05)
参考文献数
21
被引用文献数
1

ジャワマングースの肛門傍洞内容物を用いた効果的な捕獲方法を検討するために, 肛門傍洞の形態の観察と肛門傍洞内容物に含まれる揮発性脂肪酸の同定を行った。本種の肛門傍洞の導管は, 肛門管皮帯内側に開口していた。肛門傍洞の分泌物貯留部は, 肛門管の左右に位置し, 直径は5mm程度で, 貯留部の一側の重量は平均約10mg/100g BWであった。組織学的には, 脂腺と考えられる発達した房状全分泌腺と, 観察頻度は極めて低かったが管状のアポクリン腺が肛門傍洞の周囲に観察された。肛門傍洞の内容物からは, 酢酸, プロピオン酸, イソ酪酸, 酪酸, イソ吉草酸および吉草酸の6種類の揮発性脂肪酸が同定された。また, 数種類の同定できなかったピークが存在した。雄の6種類の揮発性脂肪酸の構成比には一定の傾向が認められなかったが, 雌では酢酸が高い構成比を示し, イソ酪酸と吉草酸は低い構成比を示した。これらの傾向は, フィジーに移入された同種と類似していた。他の食肉目と比較した場合, 種特異的な揮発性脂肪酸は同定できなかった。今後, ジャワマングースの捕獲にこれらの成分を応用するためには, 未同定揮発性脂肪酸の同定と主要揮発性脂肪酸の季節や個体成長に伴う消長を把握する必要がある。
著者
村田 浩一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.145-148, 2002 (Released:2018-05-04)
参考文献数
6

飼育下アジアゾウ(Elephas maximus)3個体の体表にゾウハジラミ(Haematomyzus elephantis)寄生を認めた。感染個体は高度の瘙痒感を示し,室内の壁面や床面に体を擦り付ける行動が見られたが,これによる擦過傷や丘疹の発生は認めなかった。合成ピレスロイド系薬剤の寄生部位への局所投与には効果がなかった。カーバメイト系シャンプー剤による全身洗浄を約2か月間に5〜7回行ったところ著効が認められた。ゾウの検疫にはゾウハジラミ寄生にも注意を払う必要がある。
著者
川瀬 啓祐 冨安 洵平 伴 和幸 木村 藍 小野 亮輔 齊藤 礼 松井 基純 椎原 春一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.23, no.4, pp.83-89, 2018-12-25 (Released:2019-03-31)
参考文献数
25
被引用文献数
2 1

ライオンPanthera leoに行動的保定下で定期的な血中プロジェステロン(P4)濃度測定,腟粘膜上皮検査,外陰部粘液漏出量の変化の調査を行った。血中P4濃度,腟スメア像は周期的な変動を示し,腟スメア像において無核角化上皮細胞が主体となる期間は,血中P4濃度は基底値を示し外陰部粘液漏出量は多量であった。ライオンの発情周期は2.6±5.0日間,発情前期は8.3±1.5日間,発情期は6.2±2.7日間,発情後期と発情休止期を合わせた期間は37.2±4.6日間と推察された。
著者
加藤 雅彦 伴 和幸
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.129-134, 2023-09-01 (Released:2023-11-01)
参考文献数
21

本調査は,ある動物園において給餌される7種の一般飼料の表面と肉食獣に給餌される野生のニホンイノシシ5頭および野生のヤクシカ5頭のと体の表面について,一般生菌数および大腸菌群数を明らかにし比較した。なお,と体給餌は,生物資源の活用,環境エンリッチメントおよびそれらに関する教育のために試行された。これらのと体は,と体処理施設において消毒されていた。一般飼料の一般生菌数は1.96 log cfu/cm2から5.72 log cfu/cm2までであり,大腸菌群は4種の飼料から検出された。ニホンイノシシと体の一般生菌数は,胸部が1.52 log cfu/cm2から4.70 log cfu/cm2までであり,肛門周囲部が1.79 log cfu/cm2から6.00 log cfu/cm2を超えるものまであった。大腸菌群は,胸部が3頭のと体から検出され,肛門周囲部が3頭のと体から検出された。ヤクシカと体の一般生菌数は,胸部が0.20 log cfu/cm2から2.08 log cfu/cm2までであり,肛門周囲部が1.41 log cfu/cm2から3.46 log cfu/cm2までであった。大腸菌群は,胸部が1頭のと体から検出され,肛門周囲部が3頭のと体から検出された。これらから,一般生菌数および大腸菌群数で比較すると,対象園において給餌される一般飼料と野生動物のと体とは大きな差がなかったと考えられる。
著者
石坂 聡一朗 瀬川 太雄 石川 創 伊藤 琢也
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.121-127, 2023-09-01 (Released:2023-11-01)
参考文献数
26

紀伊半島沖で捕獲されたハンドウイルカの肛門から条虫のストロビラが排出された。生殖器の配置から裂頭条虫科Diphyllobothrium属(Diphyllobothrium Cobbold, 1858)であると推測し,COX-1遺伝子,リボソームDNA領域内のITS1領域および18S rRNAを標的とした分子学的解析を行った。その結果,DNAデータベース上のイルカ裂頭条虫と一致し,本種をイルカ裂頭条虫と同定した。本症例は,日本においてハンドウイルカからイルカ裂頭条虫が検出された初めての報告である。
著者
竹鼻 一也 安達 希 石川 真悟 山岸 則夫
出版者
Japanese Society of Zoo and Wildlife Medicine
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.115-120, 2023-09-01 (Released:2023-11-01)
参考文献数
24

アジアゾウの子ゾウ2頭の離乳前後4ヵ月における骨芽細胞マーカー[骨型アルカリホスファターゼ(ALP3)]および破骨細胞マーカー[酒石酸耐性酸ホスファターゼ5b(TRAP5b)]の活性値を測定した.両測定値は離乳後に有意に減少したことから,骨芽細胞による骨形成と破骨細胞による骨吸収の低下が示唆された。以上より,アジアゾウの母乳は成長期の骨代謝に重要な役割を持つことが推察された。
著者
鐘ケ江 光 Igor Massahiro de SOUZA SUGUIURA 佐々木 恭子 大塚 美加 濱野 剛久 田代 連太郎 Mario Augusto ONO 和田 新平 Eiko NAKAGAWA ITANO Md. Amzad HOSSAIN 佐野 文子 植田 啓一
出版者
Japanese Society of Zoo and Wildlife Medicine
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.107-114, 2023-09-01 (Released:2023-11-01)
参考文献数
24
被引用文献数
1

Paracoccidioides cetiiを原因菌とするクジラ型パラコクシジオイデス症 (英名:paracoccidioidomycosis ceti) は,小型鯨類を宿主とし,皮膚の慢性肉芽腫性病巣を特徴とする人獣共通真菌症である。今回,臨床症状を示すものの従来法では確定診断に至らなかったバンドウイルカ(Tursiops truncatus) とオキゴンドウ (Pseudorca crassidens) の皮膚病変生検組織由来DNAより,原因菌の特異的遺伝子であるgp43をPCRとLAMPの組み合わせにより検出し,確定診断を得た。なお,オキゴンドウ症例は世界初の確定診断例である。
著者
井上 春奈 森 悠芽 畑中 律敏 芝原 友幸 笹井 和美 松林 誠
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.103-106, 2023-09-01 (Released:2023-11-01)
参考文献数
11

野生鳥類の糞便101検体についてショ糖遠心浮遊法により寄生虫検査を実施した。その結果,寄生虫の陽性率は29.7%であり,内訳は原虫類(Eimeria 型もしくはIsospora 型のオーシスト)が20.8%,線虫類(毛細線虫類または回虫類)は8.9%であった。消化管寄生虫は糞便と共に排泄された後も長期間にわたり感染性を保持するため,間接的または直接的な糞口接触が比較的高率に生じている可能性が示唆された。
著者
Anne Marit VIK 土田 さやか 橋戸 南美 小林 篤 秋葉 由紀 原藤 芽衣 牛田 一成
出版者
Japanese Society of Zoo and Wildlife Medicine
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.95-101, 2023-09-01 (Released:2023-11-01)
参考文献数
26

ニホンライチョウの飼育では,雛の高い死亡率がかねてより問題になっていたが,その原因として移行抗体が不十分である可能性が指摘されていた。2020年に中央アルプスで単独で暮らす飛来雌が産卵をしたためその未受精卵と動物園で得られた未受精卵の卵黄抗体(IgY)および卵白中のIgA抗体とIgM抗体の濃度を比較した。卵黄IgY濃度は,飼育下未受精卵が高値を示したが,統計的には有意でなかった。卵白IgA及び卵白IgMは,いずれも低値を示し,二群間に有意差はなかった。母鳥からの移行抗体量に野生と飼育下に差があるとはいえず,飼育下の雛の高い死亡率を説明する要因ではないと推測された。
著者
吉野 智生 浅川 満彦
出版者
Japanese Society of Zoo and Wildlife Medicine
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.91-94, 2023-09-01 (Released:2023-11-01)
参考文献数
18

2013年12月16日に北海道羅臼町で回収されたケアシノスリの剖検と寄生虫検査を実施した。当該個体は重度削痩し右趾爪の欠損と胸骨骨折、胸部に褥瘡が認められたため,餌が十分に捕れず衰弱死したと考えられた。また消化管から線虫Porrocaeucum sp.および毛細線虫科の1種、属種不明四葉目条虫、体表からハジラミDegeeriella fulvaが得られた。D. fulvaは道東から初めて記録され、また毛細線虫科線虫および四葉目条虫は日本でケアシノスリから初めて記録された。
著者
川瀬 啓祐 紙野 瑞希 所 亜美 正藤 陽久 飯田 伸弥 生江 信孝 金原 弘武 楠田 哲士
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.28, no.2, pp.73-80, 2023-09-01 (Released:2023-11-01)
参考文献数
31

飼育下ハートマンヤマシマウマ(Equus zebra hartmannae)の雌1頭において,血中および糞中の性ステロイドホルモン濃度の測定,腟粘膜上皮細胞像の観察および直腸温測定を実施し,発情周期を調査した。血中エストラジオール-17β 濃度がピーク値を示した後,血中プロジェステロン濃度の上昇がみられた。糞中プロジェステロン代謝物濃度動態は血中での動態と類似しており,血中濃度と採血日から2 日後の糞中の濃度は有意な正の相関(r=0.80)を示した。糞中プロジェステロン代謝物濃度の動態はプロジェステロン分泌をよく反映していることが明らかになった。糞中プロジェステロン代謝物濃度の動態は年間を通して周期的な増減を示し,平均23.1±2.3日間の発情周期が確認された。無核角化上皮細胞の割合は,糞中プロジェステロン代謝物濃度が低い非黄体期に増加する傾向がみられたが,有意な変化ではなかった。直腸温については非黄体期に増減変化がみられ,ヒトなどで一般的に知られている黄体期の基礎体温上昇は確認できなかった。
著者
日方 希保 諸橋 菜々穂 樽 舞帆 鈴木 雄祐 中村 智昭 竹田 正裕 桑山 岳人 白砂 孔明
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.26, no.4, pp.127-134, 2021-12-24 (Released:2022-02-28)
参考文献数
13

ミナミコアリクイ(Tamandua tetradactyla)は異節上目有毛目アリクイ科コアリクイ属に分類される哺乳類の一種である。コアリクイの計画的繁殖には,基礎的な情報の蓄積による繁殖生理の解明が必要である。これまでミナミコアリクイの妊娠期間中の血中ホルモン変動に関しては,1個体で1回分の妊娠期間についての報告がされているが,同一個体で複数回の妊娠期間中のホルモン変動に関する報告は存在しない。本研究では,同一雌個体のミナミコアリクイに対して長期間における経時的な採血(約1回/週)を実施し,同一雌雄ペアで合計6回の妊娠期間における血漿中プロジェステロン(P4)またはエストラジオール-17β(E2)濃度の測定を実施した。全6回の妊娠期間中のP4濃度測定の結果から,妊娠期間は156.8±1.7日(152~164日)と推定された。各時期のP4濃度は,妊娠前では0.6±0.1 ng/ml,妊娠初期(妊娠開始~出産100日以上前)では13.2±1.8 ng/ml,妊娠中期(出産50~100日前)では28.1±4.3 ng/ml,妊娠後期(出産日~出産50日前)では48.2±11.8 ng/mlであった。出産後のP4濃度は0.4±0.1 ng/mlと出産前から急激に低下した。血漿中E2濃度は妊娠初期から出産日に向けて徐々に増加した。また,妊娠期間前後で6回の発情周期様の変動がみられ,P4濃度動態から発情周期は45.5±2.4日(37~52日)と推定された。以上から,ミナミコアリクイの同一ペアによる複数回の妊娠中における血漿中性ステロイドホルモン動態を明らかにした。また,妊娠初期でP4濃度上昇が継続的なE2濃度上昇よりも先行して観察されたことから,P4濃度の連続的な上昇を検出することによって早期の妊娠判定が可能であることが示唆された。
著者
斉藤 理恵子 川上 茂久 浅川 満彦
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.9, no.2, pp.115-118, 2004 (Released:2018-05-04)
参考文献数
15
被引用文献数
2 2

南アフリカから搬入された5頭のケープハイラックスProcavia capensisから検出された内部寄生虫を検討したところ,Inermicapsifer hyracis, I.cf. beveridgei, Grassenema procaviaeおよびEimeria dendrohyracisが検出された。I.hyracis以外は日本の飼育下ハイラックス類では初めての記録であった。
著者
ピンヘイロ マルセロ・ホセ・ペドロサ 佐方 啓介 佐方 あけみ 牧田 登之
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.2, no.2, pp.113-116, 1997 (Released:2018-05-05)
参考文献数
7

野生動物の減少を防ぎ, 畜産的に飼育繁殖をはかる目的で, クビワペッカリー(学名:Tayassu tajacu, 現地名Catetuカテトウ)の飼育をはじめた。雄1頭雌2頭を一組として, 3組を1群とする。野生の3群と, 自家繁殖による3群を, 10m×12mの区画に1群ずついれ, 飼料(ペレット), メロンなどの果物, イモなどの根菜, を給餌する。各群内で雌は共有されるが, 他群の雌を混ぜると侵入者とみなし殺す。雄が死んだ場合は群内の雌を総入替えする。性周期が約24日で, 発情期は約4日間である。通年発情を示す。妊娠期間は142〜149日で, 通常1頭を出産するが2頭のこともある。出産時には産場に雌を移す必要がある。出産後2〜3時間で子供は歩ける。1日位母親についているが, 4〜5日で親からはなして育てる。泌乳期は6〜8週間で, 子供は背後から乳頭に吸いつく。乳質は低脂肪である。野生群, 自家生産群との境界における両群の成体の行動のパターンを目下観察中である。
著者
楠田 哲士 森角 興起 小泉 純一 内田 多衣子 園田 豊 甲斐 藏 村田 浩一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.109-115, 2002 (Released:2018-05-04)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

飼育下ブラジルバク(Tapirus terrestris)雌2頭から週1回の採血を行い,エンザイムイムノアッセイ(EIA)法により血漿中プロジェステロン(P4)濃度を測定した。P4濃度の周期性から発情周期は約4週間であることが推察された。また,国内の動物園におけるこれまでのブラジルバク出産例を調査した結果,出産は年間を通して見られたが,3月から6月にかけてピークが存在した。P4動態からは明確な繁殖季節は存在せず,周年繁殖が可能であると考えられたが,年間の出産数に偏りが見られることを考え合わせると,気候的要因によって繁殖が影響を受けていることが示唆された。
著者
小針 大助
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.28, no.1, pp.19-23, 2023-04-05 (Released:2023-06-05)
参考文献数
10

近年,動物園における研究や教育活動は必ずしも珍しいものではなくなってきているが,一般的には,まだ研究や教育の場という認識が根付いているとは言い難い。一方で大学も,市民の目に見える形で公開されている研究成果が少なく,地域に根ざしたより実践的な研究の実施とその成果の社会への還元が強く求められている。そこで本学では「地元の大学が,かかりつけの研究機関として地域の動物園をサポートすることで,双方の研究と教育機能強化を図る」ことを目指し,農学部・工学部・教育学部の教員が集まり,2015年から日立市かみね動物園と, 2020年からは千葉市動物公園と研究と教育に関する連携活動を実施している。取り組みとしては,動物園を利用した研究の推進や飼育員による研究活動の支援,動物園のイベント等に大学教員や学生が協力する一方で,大学の授業やインターンシップ等で動物園に協力いただいたりしているが,特にそれぞれの活動の中で,スタッフ一人一人の顔が見え,互いに気軽に相談できるような連携関係を作っていくことを重視している。我々の実施している連携活動は,従来他の大学と動物園の間でも実施されてきている内容で,特に斬新なものではないが,地方大学と地域の動物園が,研究と教育の連携活動を通じて地域の学術文化拠点として根付いていくための一つのモデルになればと考えている。
著者
竹鼻 一也 川上 茂久 Chatchote Thitaram 松野 啓太
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.27, no.1, pp.17-27, 2022-03-01 (Released:2022-05-02)
参考文献数
46

若齢アジアゾウに致死的出血病を引き起こす原因とされるElephant endotheliotropic herpesvirus(EEHV)は,世界中のゾウ飼育施設において多くの死亡例をもたらし,直近20年の間で飼育下アジアゾウの最も主要な死亡原因となっている。EEHVはゾウを自然宿主とし,他のヘルペスウイルス種と同様に潜伏感染する。若齢ゾウにおいては,何らかの原因で血中ウイルス量が異常上昇することに伴い,致死的出血病に至ることがある。発症後の治療には反応が乏しく,有効な治療法が確立されているとは言い難いものの,発症初期に積極的な治療を行うことで救命率向上が認められる。そのため,飼育施設においては日常的な検査体制の確立による早期診断および早期治療開始が求められる。
著者
牧田 登之 Henry WIJAYANTO
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.3, no.1, pp.31-35, 1998 (Released:2018-05-05)
参考文献数
23
被引用文献数
1 1

ジャワのジョクジャカルタのスローロリスは, 手の第2指が短小化し, 足の第2指のみがかぎ爪になって, 把握には第2指が余り機能していないようであった。
著者
大野 晃治 福井 大祐
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.26, no.1, pp.11-16, 2021-03-31 (Released:2021-06-11)
参考文献数
18

ゴマフアザラシ(Phoca largha),24歳齢,雌が慢性の吐出,嘔吐,食欲不振を示した。ミダゾラムとブトルファノールによる鎮静下で造影CT検査を行ったところ,食道と肝臓およびその周囲に多発する腫瘤が認められ,剖検と病理組織検査により,肝臓と膵臓への転移を伴う食道原発の扁平上皮癌(SCC)と診断した。鰭脚類の造影CT検査の報告は少なく,本症例は食道SCCの生前診断につなげるための貴重な報告である。