著者
Sarad PAUDEL 坪田 敏男
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.65-69, 2016-04-30 (Released:2018-05-04)
参考文献数
27
被引用文献数
5

ゾウにおける結核は,ヒト型結核の病原体であるMycobacterium tuberculosisによって主に引き起こされる再興感染症の1つである。ゾウからヒトへの伝播が,いくつかの動物園で報告されており,公衆衛生上大きな問題となっている。ゾウの鼻腔洗浄によって得られる呼吸器系サンプルの培養が,ゾウ結核診断の最も信頼できる手法である。しかしながら,この手法の適用はあまり現実的でない。世界の動物園やゾウ飼育施設では,ゾウの結核診断法として抗体検査が開発され,広く使われている。ゾウと象使いでの定期的な結核スクリーニング検査が実施されるべきである。結核陽性の象使いはすぐに隔離され,抗結核薬が処方されるべきである。スクリーニング検査,隔離および治療はゾウとヒトと間での結核伝播を防ぐのに有効であり,飼育ゾウ-野生ゾウ間の結核感染の広がりを抑えることが絶滅危惧種である野生ゾウの保全に貢献することにつながる。
著者
楠 比呂志 木下 こづえ 佐々木 春菜 荒蒔 祐輔
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.37-50, 2009 (Released:2018-05-04)
参考文献数
35

人間活動に起因する全球レベルでの自然改変や環境破壊により,地球史上過去に類をみない速度で,完新世の大量絶滅が進行中であり,その回避は我々人類の急務であると筆者らは考えている。そこで我々は,国内各地の動物園や水族館などと共同して,希少動物の生息域外保全を補完する目的で,それらの繁殖生理の解明とそれに基づいた自然繁殖の工夫や人工繁殖技術の開発に関する研究を展開している。本稿では,我々のこうした保全繁殖研究の内容について概説する。
著者
高見 一利
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.125-130, 2014-12-22 (Released:2018-05-04)
参考文献数
5
被引用文献数
1

動物園・水族館では多種多様な動物を,生息域外保全や教育普及,調査研究といった様々な目的のために,バラエティに富んだ施設や方法で飼育している。広範な動物種を飼育しているため発生し得る感染症は多様であり,公開施設であるため多くの利用者が出入りすることから,飼育動物を感染症から守ることは容易ではない。一方で,近年,動物が関わる感染症が問題化する中で,動物園・水族館においても感染症対策は重視されており,様々な取り組みが進められている。感染症対策の検討にあたっては,予防策や拡散防止策を組織的かつ計画的に進める方法を考えることが求められる。感染症の予防には,日常の健康管理やワクチン接種などによる免疫力の向上,および環境の消毒や物理的バリアの設置などによる感染経路の遮断といった対策が考えられる。感染症の拡散防止には,健康診断や検疫,死亡時の剖検などによる早期発見,および動物の移動制限や隔離,治療,淘汰などによる封じ込めといった対策が考えられる。また,これらの対策の実効性を高めるために,組織的な対応やマニュアル等の作成,必要物品の備蓄などが求められる。動物を生息域外保全や教育普及といった目的で飼育する以上,病原体との接触を完全に遮断できる飼育環境を整えることはほぼ不可能であり,感染を皆無にすることは困難である。したがって,感染症は発生し得るという前提に立って,リスクを低減させる方法を考えることが重要である。
著者
根上 泰子
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.18, no.2, pp.53-59, 2013-06-01 (Released:2018-05-04)
参考文献数
7

野生動物の感染症は,野生動物そのものに影響を及ぼすもの,人,家畜に感染するものなど様々であるが,近年,環境改変などの人為的要因による感染症の発生が問題となっている。野生動物の死亡原因の究明は,時に生態系の異変の指標,また人,家畜の感染のセンチネルとして,感染症の早期発見および対応,ひいては生物多様性の保全にも寄与すると考える。環境省では,平成20年から野鳥での高病原性鳥インフルエンザウイルスの全国サーベイランスを,都道府県,大学,研究機関などとの連携のもと実施し,関係省庁,関係機関,近隣諸外国との情報共有にも努めている。このように特定の疾病に関する危機管理対応は整いつつあるものの,野生鳥獣の死因を幅広く究明する制度は整っておらず,新たな異変や感染症の早期発見の機能は十分とはいえない。本稿では,日本での野生動物の感染症対応の現状と今後の課題について,死亡原因の究明の観点から海外の事例も参照しながら考える材料を提供したい。
著者
野田 亜矢子
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.24, no.3, pp.105-108, 2019-09-25 (Released:2019-11-25)

動物園の4つの使命に数えられていながら,なかなか浸透しているとは言えない「調査・研究」であるが,近年少しずつ動物園の業績として表に出すところが増えてきた。しかし,時間を取ることができない,やり方がわからないなどの理由で,積極的に進められていないことも事実である。広島市安佐動物公園では,開園当初から動物園の使命の一つとして「調査・研究」を大々的に掲げ,様々な形で実践してきた。その一つが地元の自然に貢献しようとの思いで始まったオオサンショウウオの調査・研究事業である。また,各職員の調査・研究の成果をまとめる訓練として,園内職員を対象とした「飼育研究会」の開催および「飼育記録集」の編集が行われるようになった。本来,動物園における調査・研究活動は,このように「業務」として行うべきものであるが,実際には様々な面から難しいこともある。ひと昔前の動物園は単に珍しい動物を見て楽しむところだったものが,現在では先人たちの努力により「種の保存」などの言葉が一般にも浸透してきており,動物園の活動の一つとして広く認知されている。今後さらに「調査・研究」が動物園の業務の一つであることを,内外に浸透させていく必要がある。
著者
東海林 克彦
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.13, no.1, pp.9-14, 2008 (Released:2018-05-04)
参考文献数
12
被引用文献数
1 1

本稿では,野生動物についても愛玩動物と同列に情緒的な対象として扱いがちであるなどといった日本人の動物観の特徴についての検討結果を紹介するとともに,このような自然観が野生動物の適確な保護管理の遂行上の障害となるおそれがあることや狩猟の衰退を招いている現状などについて言及した。そのうえで,今後は,日本人の動物観を,動物愛護管理基本指針(環境省)に示された動物愛護管理に関する基本的考え方に即したものに変えて行く必要があること,また,野生動物の個体数調整の方式などについても動物の個体に対する情緒的感情を排した適切な内容に変えて行く必要があることなどを指摘した。
著者
黒木 俊郎 宇根 有美 遠藤 卓郎
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.27-34, 2003 (Released:2018-05-04)
参考文献数
27

クリプトスポリジウムは幅広い種類の脊椎動物に感染することが知られている。近年,爬虫類においてクリプトスポリジウムによる致死性の下痢症が頻発し,有効な治療法も無いために大きな脅威となっている。また,ヘビに由来すると推測されるクリプトスポリジウムのオーシストが水道原水から検出され,水道汚染の観点から新たに関心を集めている。ここでは,爬虫類に寄生するクリプトスポリジウムを中心にして,その生物学的特徴や病原性などの概要を紹介する。
著者
坪田 敏男
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.21, no.3, pp.47-51, 2016-04-30 (Released:2018-05-04)
参考文献数
14

近年,医学および獣医学から生物多様性保全に貢献する学問分野として保全医学が台頭してきている。感染症問題もこの保全医学からの視点で捉えることが大事で,有効な感染症対策を考えるには,人や家畜での病因学や疫学に関する情報に加えて,野生動物を含む自然界での宿主,ベクターおよび病原体(微生物)の生態についての知識が必要である。本稿では,ライム病および回帰熱Borrelia spp.,Anaplasma spp.,Ehrlichia spp.,Candidatus Neoehrlichia sp.およびBabesia spp.といったマダニ媒介性感染症を例にとり,動物宿主-ベクター-病原体の関係を“disease ecology”の観点から眺める。
著者
ガルシア G.W. バプチステ Q.S. アドグワ A.O. 加国 雅和 有嶋 和義 牧田 登之
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.55-66, 2000
参考文献数
20
被引用文献数
1 14

ヨーロッパ人が入る前には南米, 中米およびカリブ海諸国の一部ではアグーチが重要な蛋白資源であった。最近トリニダード・トバゴではアグーチを飼育繁殖して食肉その他として利用するようになっている。飼育に重要な餌付けのために, 消化器官の解剖学的知見が必要であるが, これまでの文献は, 数少なくまた, 胃, 腸など個々の部分について述べているので, 本報では全体を概観して口腔, 食道, 胃, 小腸, 大腸, 各部分の構造と長さおよび相対的重量を記載した。材料はトリニダード島南部のハンターから入手した10頭のアグーチを用いた。現場で採材後凍結し, 解剖はそれを解凍して行った。歯式は1013/(1013)=20で, 犬歯と前臼歯の間隙が広い。食道は長さ15.4cm, 直径0.5cm位で, 胃の長さは平均13.8cmであった。小腸の長さは全体で700±124cmであった。十二指腸と空腸の直径は1.4cmで回腸の直径は0.4cmであった。大腸のなかで特徴的なのは盲腸でその頭部の直径は4.2±0.8cm, 尾部の直径は2.4±0.4cmと太く, 胃よりやや小さい程度で, 盲腸の長さは平均22.5cmであった。結腸の直径は近位部は2.4±0.9cmとやや太いが遠位部は1.3±0.4cmと細くなっており, これは直腸とほぼ同じ太さである。結腸と直腸の長さは117±2.5cm。肛門腺が一対みられ, 長さ1.8〜3.0cm, 幅1.3〜1.8cm, 重さ1.3〜3.5gであった。左側の腺の方が右側よりも重い。アグーチは小腸が長いのが特徴で, 絨毛の密度の比較解剖学の材料に好適である。今後の盲腸, 肛門腺の比較解剖学的研究にも役立つであろう。
著者
馮 文和 趙 佳 藤原 昇
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.1, no.2, pp.135-142, 1996
参考文献数
10

ジャイアントパンダの自然における棲息状態をみると, 中国本土においてすら自然環境が徐々にではあるが破壊され, 棲息分布範囲が狭められており, それにともなって個体数も少しずつ減少していく傾向には変わりはない。また, 現在, 中国では14の自然保護区と17の自然棲息地帯, 例えば, 秦嶺山脈や臥龍山脈などがあるが, これらの場所あるいは地域へ人間の侵入を完全に禁止することができれば, 野生パンダの絶滅を少しは遅らせることができるのではないかと思われる。一方, 世界各国に出ているパンダについても, 例えば, 動物園, 研究所およびその他の施設で飼育されているものについては, 人工繁殖などが盛んに実施されており, 成果は上がっているようである。しかし, パンダの繁殖あるいは保育に関する研究は, まだ緒についたばかりで, これからの研究課題である。これまでのところ, 人工繁殖によって得られた子パンダを人工的に保育する技術が確立されておらず, 成獣になる割合は極めて低い現状である。これが今後の問題でもあり, 十分に研究して, その対策を検討することが必要である。したがって, これからは以前にも増して, パンダに関する国際的規模での研究を発展させていく必要があろう。
著者
福井 大祐
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1, pp.1-10, 2006
参考文献数
56
被引用文献数
1 1

地球上の美しい生物を次世代のこどもたちに引き継ぐため,早急に生息地の保全と回復を進めなければならない。同時に,動物園水族館は,国際的な協働の下,希少野生動物の生息域外保全および生物多様性保全への長期的な貢献を目指して活動しなければならない。遺伝的多様性を保持した飼育個体群の維持のため,人工繁殖技術の確立と生殖子などの細胞保存は重要な課題である。北海道内の5つの動物園と北海道大学は,アムールトラとヒグマの人工繁殖を目指した共同研究を進めてきた。「環境試料タイムカプセル化事業」の一環として,絶滅危倶種の組織採取を行い,国立環境研究所で細胞培養および凍結保存が行われている。動物園で飼育する鳥類の初期発生卵から始原生殖細胞(PGCs)を採取し,凍結保存も行っている。さらに,PGCsの異種間移植を用いて生殖巣キメラ個体を作出し,将来的に希少鳥類の増殖に応用し得る発生工学的手法の研究も進めている。人工繁殖や細胞保存は,それのみで野生動物の保全に結びつくものではない。これらの活動を社会に広く「伝える」ことを通して,野生動物の現状を知る機会を与えることも重要である。本稿では,希少野生動物の種の保存を目的とした人工繁殖および細胞保存に関する研究について紹介するとともに,動物園水族館が野生動物と地球の健康を守るためにできることを論じる。
著者
進藤 順治 阿部 隆士 山口 隆幸 小林 寛
出版者
Japanese Society of Zoo and Wildlife Medicine
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.105-109, 2000 (Released:2018-11-03)
参考文献数
19

フンボトルペンギンの精子形態と大きさに関する報告はない。今回, フンボルトペンギンの精子形態を走査電子顕微鏡(SEM)で観察し, また各部位の長さを測定した。精子は, 紐状で頭部は細長くやや湾曲していた。全長ならびに各部位の長さを測定した結果, 全長は73.8±3.6μmであった。頭部は11.4±0.9μmで, 先体は1.1±0.2μm, 核は10.3±0.8μmであった。尾部は62.6±3.8μmで, 中片部は2.8±0.2μmであった。フンボルトペンギンの精子形態は典型的なnon-passerine birdsのグループに属し, また全長は他種よりもやや小型であった。
著者
中村 進一 花田 郁実 水主川 剛賢 村上 翔輝 曽田 公輔 岡谷 友三アレシャンドレ 常盤 俊大
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.25-30, 2017

<p> 動物園や水族館で飼育動物が死亡した際,多くの施設では動物を剖検して必要な検体を採材・保存し,自施設で検査を実施,または外部の検査機関に検体を送付している。疾病診断や死因究明のためには様々な検査結果を総合的に判断する必要があるが,それは正しいサンプリング方法をとることが大前提となる。検体の採取,保存,輸送にあたっては,適切な方法で実施されなければ期待される検査結果が得られないことが多い。検査目的に合わせて適切な採材方法を選択することは,早期かつ正確な診断につながり,後に続く飼育個体の死亡を防ぐことができる。迅速で正しい診断を得ることは,飼育管理を円滑に行ううえでも不可欠である。検査が無駄とならないようにするためには,検査を依頼する側と実施する側双方の実情を知ることが重要であり,日頃からコミュニケーションを図る必要がある。</p>
著者
木戸 伸英 山本 裕彦 亀ヶ谷 千尋 大浦 篤志 飯野 雄治 山本 芳郎
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.15, no.2, pp.121-126, 2010

10か月齢のオスのスーチョワンバーラル(<I>Pseudois nayaur szechuanensis</I>)が,排尿困難の症状を示した。身体検査,血清生化学検査およびX線検査の結果から尿道閉塞が示唆され,尿道切開術が行われた。術後,重篤な尿毒症が認められたが,輸液療法により治癒した。結石は炭酸カルシウムにより形成されていた。尿道切開術は上行性泌尿器感染症の危険性が低く,排尿や繁殖といった正常な行動を維持することができる。術後2年経過したが,本バーラルは正常な排尿を続けている。
著者
岩尾 一
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.17, no.4, pp.139-144, 2012-12-21 (Released:2018-07-26)
参考文献数
22
被引用文献数
1

全ての生物学的事象には至近要因と究極要因が存在する。伝統的に獣医学は病気の至近要因に集中してきた。進化医学は,病気の究極要因を問う学問分野である。本稿では,進化医学の概念と,進化医学の主流テーマから,感染症と宿主防御,進化適応環境(EEA)とのミスマッチの2つを紹介する。とりわけ飼育下の野生動物を対象にした臨床医学では,EEAとの不適合は,飼育下個体で好発する種特有の病気の病態理解のうえで重要である。胃炎症候群は,飼育下の鯨類では高率にみられる病気の1つである。 病因としては様々な要因があげられているが,はっきりとした病因は不明である。野生下の鯨類は,昼夜関係なく摂餌を行っているが,飼育下では人の活動時間の日中に集中して給餌を受ける。結果,野生下では生じにくい, 極端に長い空胃時間が日常的に繰り返され,その結果,胃炎が生じるという仮説を提唱したい。筆者の自験例では,この仮説を支持する結果を部分的に得ている。進化医学的な視点は,野生動物の臨床において,有益な洞察を与えるものと思われるが,安易な適用には批判的になり,常に対立仮説を意識すべきである。
著者
遠藤 秀紀 佐々木 基樹
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.45-53, 2001
参考文献数
15
被引用文献数
3 1

哺乳類の科以上の高次分類群に関して,その和名を検討し,リストとして表現した。目レベルでは原義を尊重しながら実際の定着度を考慮して和名を提示し,科レベルでは代表的属名のラテン語綴りを片仮名表記する方針をとった。分類体系の議論は加えていないが,従来の食虫目において,第三紀初期の化石諸群および現生するクリソクロリス類などが目として独立したため,トガリネズミ類,モグラ類,テンレック類などを無盲腸目と呼称する必要が生じていることが特筆される。また,有袋類を複数の目に分割する必要性が生じ,新たな和名を提案することとなった。近年,行政や出版界から,学校教育・社会教育の現場に影響する形で,学術的検討成果を顧みない安易な目名の変更が提案された経緯があり,本結果が哺乳類の高次分類群の和名について,学界のみならず社会的にも有意義な示唆となることを期待する。
著者
松立 大史 三好 康子 田村 典子 村田 浩一 丸山 総一 木村 順平 野上 貞雄 前田 喜四雄 福本 幸夫 赤迫 良一 浅川 満彦
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.8, no.1, pp.63-67, 2003 (Released:2018-05-04)
参考文献数
10
被引用文献数
1 16

国内5郡県で採集されたタイワンリスCallosciurus erythraeus 24個体およびヌートリアMyocastor coypus 53固体について内部寄生蠕虫類の調査を行った。これら2種の外来哺乳類における本格的な寄生蠕虫調査は今回が初めてである。その結果,タイワンリスからはBrevistriata callosciuviおよびStorongyloides sp.が,またヌートリアからはStorongyloides myopotami. Calodium hepaticumおよびFasciola sp.がそれぞれ見つかった。Fasciola sp.がヌートリアに寄生していた例は日本において初めての報告である。Fasciola sp.とC.hepaticumは人獣共通寄生虫症の病原体なので留意すべきである。
著者
皆川 智子 植田 啓一 佐野 文子 上迫 春香 岩永 海空也 小峰 壮史 和田 新平
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.45-50, 2018
被引用文献数
4

<p> 水族館飼育下のカマイルカの体表にクジラ型パラコクシジオイデス症を疑う多発性の肉芽腫性結節患部を観察した。生検を実施して各種検査を行ったところ,渡銀染色下にて多極性出芽を示した球形の酵母様細胞を認めた以外は何らかの感染症を示唆する所見は得られなかったが,抗真菌剤を用いた治療により患部が緩解しているため,本症例の病態に何らかの真菌が関与している可能性が考えられた。</p>
著者
遠藤 秀紀 大村 文乃 酒井 健夫 伊藤 琢也 鯉江 洋 岩田 雅光 安部 義孝
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.79-86, 2012 (Released:2012-08-29)
参考文献数
31
被引用文献数
1

現生シーラカンスの第一および第二背鰭を三次元復構画像を用いて検討し,軸上筋と軸下筋,第一背鰭に関連する筋肉,第二背鰭固有の筋肉の断面積を画像解析手法により計測した。第一背鰭に関連する筋肉は体幹の背側端を超えて鱗状鰭条まで伸長することはなかった。しかし,鱗状鰭条からなる放射した鰭は体幹部の骨性の板によって支持されていた。第二背鰭では,体幹部の2つの骨が鰭の4つの骨格要素を支持し,その4つの骨の周囲には,体幹部から固有の筋層が発達していた。第一背鰭は,体幹部の骨質の板から伸びる比較的小さな筋肉と,体幹部の骨質の板と鱗状鰭条の間の機械的な関節によって制御される,受動的な安定板として機能していると推察された。対照的に第二背鰭は,速度の遅い運動時に積極的な推進力を生み出す装置となっていることが示唆された。第一背鰭が位置する体幹前方と比べて軸上筋と軸下筋が減少する体幹後方においては,肉鰭類の鰭による推進力の発生は,第二背鰭に要求される機能であることが推測された。
著者
田中 正之
出版者
日本野生動物医学会
雑誌
日本野生動物医学会誌 (ISSN:13426133)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.1-7, 2014-03-31 (Released:2018-05-04)
参考文献数
17
被引用文献数
1

現代の動物園には,果たすべき4つの役割があると言われる。保全・研究・教育とレクリエーションである。しかし,研究や教育の面では,日本の動物園はその役割を果たしているとは言い難い。京都市動物園では,2008年より京都大学と連携して,野生動物保全に関する研究や教育を共同で行ってきた。さらに2013年4月より新たなセクションとして,生き物・学び・研究センターを設置し,動物園が主体的に研究や教育を行う姿勢を明らかにした。本稿では,京都市動物園が現在取り組んでいる研究や教育の取り組み事例を紹介する。研究では,霊長類を対象にした比較認知科学研究と,ゴリラの妊娠・出産から人工哺育児を両親に戻すまでの過程を観察した研究を紹介する。教育としては,地元の中学校と連携した体験実習プログラムを紹介する。生き物・学び・研究センターでは,研究・教育を実施する上で必要な資金を,外部の助成金を獲得することでまかなっている。それら外部資金についても紹介し,その獲得の意義について,外部評価を受けるという視点から考察したい。