著者
小坂田 ゆかり 谷口 陽子 松浦 拓哉 岡地 寛季 塩尻 大也 渡部 哲史 綿貫 翔 丸谷 靖幸 田中 智大
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.32, 2019

<p>水文・水資源学若手会(以下,若手会)は2009年から活動を開始し,主に水文・水資源学会に所属する博士課程学生や若手研究者を中心に構成されている研究グループである.これまで本若手会は,分野を超えたネットワークの構築を目的として他分野交流を中心に活動を行ってきた経緯がある.そして,当時若手会の中心であったメンバーが徐々に学位を取得していくにつれ,水文・水資源学に関わる若手〜中堅の研究者,技術者のコミュニティWACCA(Water-Associated Community toward Collaborative Achievement)といった新たな先進的研究グループも本若手会から発足している.今年度の本グループ活動では,学位取得後も続く他分野交流や学際性の取得を目指して,学位取得前の若手の間でも継続した活動の基盤づくりを行うことを目指した.もちろん学生は自身の研究テーマを深めることが重要であるが,今後はより学際性が求められていくことに加え,学生のうちから様々な分野の同世代と意見交換・議論を行うことで,学位取得後にも役立つ幅広い視野とネットワークが得られると考えた.これらの背景,目的を踏まえ,本要旨では,本年度我々若手会の活動について報告する.</p>
著者
山浦 大和 小川 進
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.20, pp.65, 2007

16-19世紀,南米ボリビアのポトシ(Potosi)銀山(正称セロ・リコ・ポトシ)では,銀の精錬に大量の水銀が使用され,鉱山周辺は深刻な水銀汚染に見舞われた.そこで本研究では,水銀生産量と衛星データの流域解析から水銀汚染地域を特定し,スペイン統治時代のポトシ銀山における水銀汚染のリスク評価を定量的に行った.その結果,汚染地域がボリビア国境とアマゾン川の流域界まで達し,ポトシは文明崩壊の危機に瀕していた可能性が認められた.
著者
堀池 洋祐 山口 弘誠 古田 康平 中北 英一
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.30, 2017

近年,線状メソ対流系による豪雨災害が日本各地で増加する傾向にある.このような豪雨災害の被害を減少させるためには,数値予報モデルを用いた高精度な予測情報が求められている.モデルを用いた短時間降水予測では,最適な初期値を与えることが予測精度向上に大きく影響する.そのため,データ同化は最適な初期値を与えるための有効な手法の一つである.線状メソ対流系の初期の同化による発達の予測はある程度成果が出始めているが,気象レーダーを用いたデータ同化によるメソ対流系の発生段階の予測に取り組んだ既往研究はほとんどない.本研究では,中国地方4基・近畿地方4基のXRAINから得られるレーダー反射強度Z<sub>HH</sub>から推定した雨水混合比<em>q<sub>r</sub></em>,偏波レーダーから推定した固相降水粒子混合比を同化することでメソ対流系の発生段階における予測精度向上を狙う.<br />本研究では,2012年7月15日に京都,亀岡で起きた豪雨事例を対象とした.メソ対流系が発生した原因の一つとして,中下層の低温化の気塊が六甲山上空を通過した際に大気不安定をもたらしたと考え,メソ客観解析の気温データをメソ対流系発生前にあたる23:00-23:45に同化した.その結果,中層が低温化し,対流セルが発生した.この結果を踏まえ,雨滴の蒸発による低温化を期待してXRAINの同化を行った.結果として,六甲山系中層の温位低下と水蒸気混合比の増加が確認できた.しかし,対流不安定になるほどの気温低下は起こらず,強いメソ対流系を発生させるには至らなかった.<br />そこで,六甲山でメソ対流系が発生する約5時間前に山口県で降り続いた降水が蒸発しながら東進し,中下層の低温化をもたらしていると考え,同化する時間帯をメソ対流系が発生する時間帯から大幅に早め,同化領域を山口県が含まれるように西側に広く取った.山口県沖から東進する雲をターゲットにして同化を行うことにより,中下層の低温化を引き起こし,メソ対流系初期の降水予測精度を向上させることを目指した.その結果,XRAINの同化によって中下層で低温化が起こり,低温域が六甲山域に到達するタイミングで40メンバー中の7メンバーにおいて対流セルを発生させることに成功した.今後は,雲微物理モデルスキームの改善による予測精度の向上や,アンサンブル予測情報の有効な利用手法の検討について考察していく.
著者
岡元 宏薫 河村 明 天口 英雄 中川 直子
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.23, pp.123-123, 2010

著者は全国一級水系代表観測点のみを対象としたDVDによる流量年表データベースの日流量データを流量年表のそれと比較・精査することにより,DVD日流量データの入力ミスを抽出しその成因について考察し,また流量年表自体の日流量データの誤記についても検証を行っている.本研究では,全国一級水系代表観測点を対象に,DVD日流量データの入力ミスを補正し,また流量年表自体の日流量データについては明白な誤記についてのみ補正を行い日流量データの再構築を行った.次いで,再構築日流量データを月流量データに累積し,これを流量年表に記載され正しいと考えられる月流量データと比較することにより,本再構築データで補正しきれていないデータについて検討を行った.
著者
佐藤 悠人 中北 英一 山口 弘誠
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.29, 2016

2008年神戸市都賀川で豪雨による突然の出水により5名の方がなくなるという悲惨な事故が起こった.河川付近にいる人々をゲリラ豪雨から安全に避難させるため,わずか数分でも早いゲリラ豪雨の予測技術の確立,高精度化がより一層急務であると言える.中北らはゲリラ豪雨に発達するタマゴ内部に高い渦度が見られることを発見し,渦度がゲリラ豪雨の危険性予測に極めて有効な指標であることを示しゲリラ豪雨の予報システムを開発した.しかしなぜ高い渦度を持つ積乱雲が発達するかというメカニズムについては未だに明らかでない点が多く,メカニズムの解明が重要である.そこで本研究では渦度とタマゴ発生・発達の理論的背景を解明するために積乱雲初期の渦度分布構造を詳細に解析し,新たな知見を得ることを目的とした.中北らはゲリラ豪雨のタマゴが鉛直渦管構造を持っていることを発見し,これはスーパーセル発達過程初期に見られる渦管構造と類似していることを示した.これによりスーパーセル初期の渦管の発達を表現する流体力学の理論を用いて上昇流の位置を推定できると考えられる.そこで本研究では観測されたレーダー反射因子差<i>Z</i><sub>DR</sub>を用いて上昇流の位置を推定し,理論から導かれる上昇流の位置と一致するか検証を行った.鉛直渦度方程式から上昇流の両脇で正負の渦度が形成されることがわかっており,上昇流がゲリラ豪雨の事例で確認できるか<i>Z</i><sub>DR</sub>を用いて検証した.融解層以上の<i>Z</i><sub>DR</sub>に注目したところ,High<i>Z</i><sub>DR</sub> Columnが確認された.これにより本事例に上昇流が存在しているということがわかりHigh <i>Z</i><sub>DR</sub> Columnの位置と理論から推定される上昇流の位置を比較したところ,上昇流と渦度が対応していると考られるという結果を得た.しかし下層に雨粒がなければ上昇流があってもHigh <i>Z</i><sub>DR</sub> Columnが見られないこと,強い上昇流の位置を正確に知ることができないことからより詳細な上昇流解析を行うためには実際に鉛直風速を算出する必要がある.そこで清水らの手法を用いたTriple Doppler手法から鉛直風速を算出した.ペアーの渦管の間には周囲と比較しても強い上昇流が存在しており,<i>Z</i><sub>DR</sub>による上昇流部推定の結果と矛盾しないことがわかった.
著者
大泉 伝 斉藤 和雄 伊藤 純至 レ デュック
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.29, 2016

本研究では、「京」コンピュータに最適化した気象庁非静力学モデル(JMA-NHM)を用いて、広域を対象とした超高解像度実験を行い、それによって豪雨の予測が向上するかを調べた。豪雨の数値予報に影響を与える次の3つの要因について調べた:(1)解像度(5, 2 km, 500, 250 m)、(2)乱流クロージャモデル:Mellor-Yamada-Nakanishi-Niino(MYNN)とDeardorff(DD)スキーム、(3)島の地形。 MYNNを用いた解像度2kmと500mの実験では、強い降水帯が実況より北西に位置し、島を完全に覆わなかった。DDを用いた実験では、実況と同様に降水帯が完全に島を覆い、再現性が良かった。高精度な地形を用いた解像度250mで実験が、降水帯の位置と伊豆大島内の降水分布を最もよく再現した。本研究の結果から、数値モデルによる豪雨の予報では、広い領域を高解像度で計算する事によって、降水の再現性が良くなることを示した。
著者
乃田 啓吾 岡根谷 実里 沖 大幹
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.25, 2012

水資源は人間生活にとって必要不可欠なものであるが、将来的な人口増加、生活水準の向上によって、その需要が逼迫すると言われている。特に淡水利用の約70%を占める農業用水の不足は、世界的な食糧問題を引き起こすものと懸念されている。元来、水が時間的・空間的に偏在する資源であることに加え、農業生産システムは気候、作物等によって地域・国ごとに大きく異なる。そこで本研究では、水不足が引き起こす食糧問題に注目し、その影響を受けやすい地域を特定することを目的とする。具体的には、食糧生産のために使用された水の総量を農業投入水量定義し、これと農業生産量に正の相関が認められる国を、食糧生産が水不足の影響を受けやすい国として判別する。人口1,000万人以上かつデータを入手できた155カ国を解析の対象とした。国ごとに各年の農業投入水量と主食作物の農業生産量の相関係数Rを求め、R>0.33の場合に水不足によって食糧生産が減少する国と判定した。ここで、主食作物とは小麦、トウモロコシ、米の三種の穀物のうち、最も生産量の多いものとした。 米を主食作物とする国は、他の二作物を主食作物とする国比べて、水不足により食糧生産が減少する国が少なかった。米は他の二作物と異なり、主に水田で栽培される。水田は貯水機能により、降雨を有効に利用できるため、水不足による農業生産量の減少が生じにくいものと考えられる。日本のように十分な灌漑設備を有する国や東南アジアのように降水量が多い地域では、降水量の多い年には日照が不足し農業生産量が減少することから、農業投入水量と農業生産量の間には負の相関がみられた。また、インドは米を主食作物としながらも水不足の影響を受けやすい国として判定された。インドは将来の人口増加による水需要の逼迫が特に懸念されている国であり、食糧生産が大きな影響を受ける可能性が高いことが確認された。 一方、小麦を主食作物とする国では、先進国・発展途上国問わず多くの国で水不足による農業生産量の減少が生じると判定された。1960年代の緑の革命以降、小麦の単収は、窒素肥料の投入により飛躍的に向上したが、広範囲で渇水が生じた場合、大幅に総生産量が減少する可能性が示唆された。
著者
西山 浩司 広城 吉成 井浦 憲剛
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.32, 2019

<p>本研究では,古記録に基づいて,享保5年に筑後国の耳納山麓で起こった土石流災害をもたらした豪雨の特徴を調べた.その結果,その土石流災害は,東西方向に走行を持つ線状降水帯が耳納山地の西側から東側にかけて豪雨をもたらしたことが要因であることが推測できる.その結果は,地域の災害リスクを明確化し,地域住民に危機意識を持たせる意味で極めて重要である.</p>
著者
阿部 紫織 中村 要介 若月 泰孝 佐山 敬洋
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.30, 2017

気候変動に関する政府間パネル(IPCC)において,IPCC第5次評価報告書が公表されており,人為的な気候変動の理論はもはや疑う余地がない.この気候変動が河川の流況や人間活動に及ぼす影響については,全球レベルでの研究は多数報告されているが,流域スケールでの影響評価事例はまだ十分ではない.一方,気候変動との因果関係は定かではないが,全国各地で浸水被害が発生しており,2015(平成27)年9月関東・東北豪雨による鬼怒川の堤防決壊や2016(平成28)年8月末の小本川の外水氾濫は記憶に新しい.現在気候下での外水氾濫のリスクを評価するだけでなく,将来気候下での浸水被害を定量的に評価することは,気候変動への適応策としても水防災意識社会の再構築の観点からも重要である.本研究では,利根川水系鬼怒川・小貝川を対象とし,気候変動が河川の流況やその氾濫原に及ぼす影響を定量的に評価することを目的とした.<br />本研究では,CMIP-3,SRES-A1Bシナリオに基づいた21世紀末の気候場について,領域気象モデル(WRF)で予測を行った結果を用い,将来の気候場の予測を領域気候モデル実験で推定した.同様のモデルを用いて現在気候の再現計算を行い,現在気候と将来気候の比較を行った.気候変動を評価する水文モデルにはRRIモデルを用いた.シミュレーション期間は2007年~2009年の3年間とし,それぞれ2ヶ月のスピンナップ期間を除いた前年の11月1日~当該年の10月31日とした.<br />河川への気候変動の影響を評価するため,①基準水位の超過頻度,②豊平低渇流量,③氾濫による浸水域について集計を行った結果,以下の推察が得られた.<br />氾濫危険水位の超過が最大で2倍増加し,浸水リスクが増加傾向にあると予測された.また,平水~渇水流量は減少傾向にあり,渇水リスクが増加傾向にあることが示唆された.浸水リスク増加に伴い浸水域が10~40%程度増加し,地域の水害リスクが高まることが確認された.<br />なお,気候変化影響評価には3年間の集計では不十分であり,今後30年分の計算結果を適用する予定である.また,本気候実験の降水量は過大であり,バイアス補正についても別途検討している.
著者
綿貫 翔 田中 智大 丸谷 靖幸 谷口 陽子 星野 剛 岡地 寛季 小坂田 ゆかり
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.31, 2018

水文・水資源学若手会(以降,若手会)は,主に水文・水資源学会(以下,本学会)に所属する博士課程学生・20代から30代の若手研究者を中心に構成され,2009年に発足した研究グループである.ここ数年の若手会は,発足当時の学位を取得したメンバーが主だった会を主催し,研究面での意見交換や共同研究の可能性など議論してきた.しかしながら,総会の活動報告で,若手会のメンバーが工学に偏っているという指摘があり,試行錯誤しながら,勉強会や現地見学会を企画してきた.<br><br>本学会の創立30周年にあたる本年は,学会誌に特別号が組まれ,その中で若手研究者による総説原稿執筆の機会をいただいた.この機会を活用することで,より幅広い若手研究者との協働の場が得られ,また現在までの研究の軌跡を残すことができると考えられる.<br>そのため,これらの背景を踏まえ,本グループ活動では,工学系以外を背景に持つ人との人脈の作成・拡大を目的として,その人脈によって見識を広げ,水文・水資源学に応用するために勉強会や討論会を通じて,議論することを目指した.さらに,上記の背景から多数の若手研究者による総説を本学会30周年記念号に寄稿した.
著者
丹治 肇 桐 博英 小林 慎太郎
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.22, pp.5, 2009

エネルギー供給とスマートグリッド技術の進歩を前提に,21世紀の水田灌漑システムの再編の条件を検討した.今後,化石エネルギーから自然エネルギーへの転換が起こり,灌漑システムでもエネルギーの自立性が求められよう.スマートグリッドの通信制御技術を効率的に使うために,水田灌漑システムは流水システムから貯水システムへの転換が必要になり,耕作放棄地を活用したラグーン等の設置が求められる.スマートグリッド技術を活用し,水循環を制御すれば,水利用の自由度が上がるとともに,生態系,水質問題の解決が可能である.また,ラグーンを揚水発電と組み合わせることで,灌漑システムのバッテリー利用も有望である.これらの改変で,農地面積は減少するが,発電等の使用料が農家の収入になれば,全所得の向上が可能になろう.
著者
向田 清峻 芳村 圭 キム ヒョンジュン 沖 大幹
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.27, 2014

文化の黎明期から人類は常に洪水に悩まされてきた、我が国日本もその例外ではない。本研究では、全球モデルを小さな領域スケールにおいて適用することによってスケールの違いをシームレスにつなぐ河川流路網のモデリングの枠組みを構築することを目的とする。またダウンスケーリングに従って全球モデルでは考慮されていなかった現実の断面形状を組み込み、水位・流量のモデル内での表現を現実に近づける。本研究に用いるCaMa-Floodという河川流路網モデルを開発したYamazaki(2011)の手法を基に日本域において1/12&deg;格子の解像度で河川流路網を作成しシミュレーションを行った。計算は浅水回水路における一次元サンブナン方程式を採用し、キネマティック波に加え拡散波による水の流れを表現し、かつ拡散方程式では無視れさた局所慣性項を考慮して計算の安定性を確保すると同時に高速化を実現している。その中で高解像度にすることに応じて河道断面形状を考慮するために二つの点を導入した。一点目は利根川流域において国土交通省の水文水質データベースとGoogle Mapを用いて各グリッドに対して河道幅と河道深を一つ一つ手作業で入力した。二点目は矩形の単断面に仮定していた断面形状を2つの矩形を横に連結した形の複断面とし導入した。この二点の導入により現実の河道断面形状をモデルに反映させた。栗橋観測所での水位と流量を比較した結果、流量・水位の変動のトレンドを良く表現できた。また全球モデルのCaMa-Floodのシミュレーションでは河道幅、深さは各グリッドの上流流出量の関数によって推定していたが、その関数を本研究での利根川の実河道幅、深さで補正することで利根川流域における河川断面マップを作成した。利根川流域の検証により流量のトレンドが捉えられた。それを利用し河道幅、河道深を推定し全国の河川でシミュレーションを行い水位流量に関して一定の改善が見られた。これは全球における河道幅、深さのパラメタでは小さいスケールの河川を表現できなかったことに起因する。以上の結果から全球スケールでの再現性が確認されているモデルを用い、日本の河川の流域という領域スケールでの水位・流量の再現性を確認できた。実断面形状を考慮することで結果が向上したことにより、十分な地理的データのある場所で高解像度でのシミュレーションが行えることが分かった。
著者
吉田 奈津妃 キム ヒョンジュン 沖 大幹
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.28, 2015

陸域水循環のモデリング研究において、大気と地表面の間のエネルギー交換(潜熱と顕熱)とそれに伴う水の相変化(蒸発散)は重要なプロセスである。これまで地球規模のエネルギー・水収支の算定をより現実的に行うため、地表面の情報を陸面モデルに取りこむ研究がなされてきた。しかし、地表面情報には異なる手法や元データの時空間的な不均一性等による不確実性が存在することが指摘されている。陸域水文研究においても、気候外力である降水データの持つ不確実性が河川流量に影響を与えることが明らかになっている。しかし、これまで地表面情報の不確実性が全球陸面水文モデルの推定値にどのような影響を与えるのかはほとんど明らかにされていない。そこで、本研究では地表面情報の不確実性が全球陸面モデルによる水収支に与える影響を明らかにすることを目的とする。地表面の情報については、植生被覆・土地被覆・土壌タイプを対象とし、現存するこれらのデータを複数収集し、陸面モデル入力データの整備をした。そして、陸域水文モデルMATSIROを用いたアンサンブルシミュレーションを行った。得られた水文量について、降水が蒸発散量と流出量に分かれる内訳や、蒸発散量の内訳(蒸散・遮断蒸発・土壌蒸発・植生からの昇華、土壌からの昇華)、流出量の内訳(表層流出、深層流出)について、全球やBudyko気候区分による地域ごとの比較を行った。その結果、まず地表面情報の不確実性については、LAIと土地被覆分類は、特に北半球の高緯度地域において不確実性が高いこと、土壌分類は全球的に不確実性が高いことが確かめられた。また、LAIと土地被覆分類の不確実性は、水収支へ与える影響は小さいものの、蒸発散量や流出量の内訳を大きく変えることがわかった。特に半湿潤地域と寒湿潤地域での流出量の内訳を変えることがわかった。土壌分類においては、水収支と蒸発散量の内訳へ与える影響は小さく、半湿潤地域と寒湿潤地域の流出量の内訳を変えることがわかった。本研究は、初めて地表面情報の不確実性が全球陸面モデルに与える影響を明らかにした研究であり、複数のデータセットを収集し、アンサンブルシミュレーションを行うことで不確実性の幅を明らかにした。この成果は、陸域水循環のモデリング研究において、推定値の確からしさを判定する際やモデルの改良点を見つける際に有益な情報となる。
著者
ソクサバト ボンサック 中山 幹康
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.24, pp.9, 2011

ラオスのナムグム1ダムは1971年に発電を目的として建設された.本研究は,建設後約40年を閲した時点での,移転民の生活再建状況を精査することである.1968年に移転したPakcheng村および1977年に移転したPhonhang村の2つの村について,各50世帯を対象とした訪問調査を実施した.Pakcheng村の人々はPhonhang村に比べて遙かに豊かであった.2つの村での貧富の差は,水利と道路整備の差異に起因していることが判った.Phonhang村での灌漑施設の建設や道路の舗装など,2つの村の間に存在する経済的な格差を減少する為の対策が,政府により執られることが望まれる.
著者
萩原 葉子 栗林 大輔 澤野 久弥
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.28, 2015

&nbsp; 2011年のタイ国チャオプラヤ川の洪水は死者815名、経済被害約400億ドルという大きな被害をもたらした。日本はこれまでタイへの最大の投資国であり、特に浸水被害が大きかった中~下流域の7つの工業団地では被災企業804社のうち日系企業が半数以上の451社を占めた。本稿の目的は、2011年の洪水後、在タイ日系企業の工場がどのように洪水対策を強化したかを調査し、今後の企業防災や地域防災のための課題を明らかにすることである。2015年2月~3月に、バンコク日本人商工会議所会員企業1,605社のうち、製造業の会員企業735社を対象に実施したアンケート調査の結果を2011年の洪水前後の洪水対策の実施率に焦点をあてて、浸水のあった工場と浸水のなかった工場それぞれについて分析した。<br> &nbsp; アンケートについて、コンピュータ・電子製品・光学製品、電気機器、金属製品、その他輸送用機械器具等の業種に属する28工場から回答を得た。そのうち12工場が2011年の洪水で浸水し、平均床上浸水深は約1.7mであった。浸水した工場は中~下流のアユタヤ県あるいはパトムタニ県に位置していた。浸水しなかった残りの16工場は下流のバンコク都、サムトプラカン県、バンコク南西のサムサコン県、東部のプラチンブリ県、南東部のチャチェンサオ県、チョンブリ県、ラヨン県に位置していた。<br>&nbsp;&nbsp; 分析の結果、企業防災・地域防災を強化していくうえでの今後の課題が明らかになった。2011年に浸水したアユタヤ県、パトムタニ県に位置する12工場は従業員の安全確保や浸水を防ぐ構造物の築造、洪水関連情報の入手、操業の早期復旧、防災計画や防災を管轄する部署の設置等の対策を強化した事がわかった。しかし、自社の生産拠点の多角化、事務所・工場等の生産拠点の確保、取引先との災害時の協力体制の構築、といった事業継続に必要な社内外との協力を伴う対策については、実施率が低いことがわかった。一方、2011年に浸水しなかった工場も非常時の連絡網の整備や指揮命令系統明確化については洪水後に6割以上の工場が実施し、敷地の盛土・防水壁の築造等や基幹業務システムのバックアップ対策の実施率も上がったが、他の対策の実施率は未だ低く、ほとんどの対策について5割以下であることがわかった。今後さらに業種、事業規模、取引先との関係等によって洪水対策実施率に違いがあるかを分析する。
著者
中 大輔
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.25, 2012

積雪は春先に安定した水資源を供給する.一方,融雪出水の要因でもある.近年の地球温暖化は冬季の降雪を降雨に変え,冬期の流出量増加と春先の流出量減少が指摘されている.したがって,対象流域内における積雪を広域で把握するとともに,積雪の変動が河川流量に及ぼす影響を明らかにする必要がある.特に中国地方は暖地性積雪のため,湿雪である.そのため,積雪深ではなく,積雪深と積雪密度を考慮した積雪水量を正しく把握しなければならない.衛星データと積雪モデルを用いた積雪水量の広域推定手法が検討されている.積雪モデルは降雪モデルと融雪モデルで構成され,融雪モデルとして,Degree-Day法を適用した.しかしながら,中国地方は暖地性積雪であるため,積雪の日変化が大きく,日積雪水量の推定精度が十分でないことがわかっている.そこで,本研究では,次の3つを進め,積雪水量が冬期河川流量に及ぼす影響を解明する予定である.まず,①積雪モデルを改良し,積雪水量の推定精度を向上させる.次に,②改良した積雪モデルと衛星データを用いて,対象流域内の積雪水量の広域推定を行う.そして,③河川流量の観測結果と比較することで流域内の積雪水量の変化が冬期河川流量に及ぼす影響を把握する.本稿では,①の積雪モデルの精度向上に着目し,積雪モデルに関する先行研究をレビューし,降雪モデルと融雪モデルを整理するとともに,各モデルが中国地方に適用可能かどうかを検証することを目的とする.
著者
菊池 秀哉
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.26, 2013

近年の気候変動に伴い,気温は上昇している.気温の変化の予測は各地とも上昇傾向にあり1),不確実性はどのくらいの温度上昇幅か,という大きさの問題だけである.しかし降水量の変化は非常に複雑であり,地域によって量も大きく増減するために不確実性はまだまだ大きいといえる.また,降水形態が雪から雨に変化し,また積雪も直ちに融解するため,積雪量は大きく減少し,季節の訪れが早くなり,融雪が早まり,融雪水量の減少が考えられる.実際に平成23年4月に岩木川水系において融雪洪水が生じ,新鳴瀬橋(弘前)地点における氾濫注意水位を上回った.また,暖冬傾向となり,積雪量が減少し,梅雨期の降水量も多い年と少ない年の変動が大きくなる.そうなれば渇水などの頻度が増える可能性が高いと考えられ,水不足が懸念される.実際に平成23年夏季に岩木川水系において渇水が生じた.目屋ダムの貯水位は平成に入ってから最低水位である160mを下回った2).したがって流量解析における積雪水量の推定が重要であると考えられる.しかしながら本研究で用いるSWEモデル3)は実測の積雪深データを使用し,同化する手法(section3-2)を用いているため,データ自体の不足や将来予測を行う際の積雪深データはないため,補う必要がある.そのため,推定式を導きたい.したがって,本研究は前段階として同化手法を用いて各積雪深観測地点における同化量(積雪水量差)を解析し,積雪量と標高,同化量の関係を評価した.
著者
瀬戸 心太 下妻 達也 久保田 拓志 井口 俊夫
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.27, 2014

二周波降水レーダ(DPR)を搭載した全球降水観測計画(GPM)主衛星は、2014年2月28日にH2Aロケットにより打ち上げられ、3月よりDPRの運用が開始された。DPRは、TRMM(熱帯降雨観測衛星)搭載のPR(降雨レーダ;周波数13.8GHz)の後継と位置づけられるKuPR(周波数13.6GHz)と、弱い雨や固体降水の観測に適した設計のKaPR(周波数35.5GHz)から構成されている。図-1に示すように、一部のピクセル(紫色)では、KuPRとKaPRによる二周波同時観測が可能であり、降水推定精度が高くなると期待されている。DPRに適用する降水推定アルゴリズムは、日米共同チームで数年前から開発が進められてきた。打ち上げまでは、PRから作成した模擬観測データを用いて、アルゴリズムの検証と改良を行った。運用開始以降、実際の観測データにより、プロダクトの検証とアルゴリズムの調整を行っている。標準プロダクトは、打ち上げ半年後の9月頃から一般公開される予定である。本発表では、レベル2プロダクトの概要と初期評価結果を紹介する。
著者
久米 朋宣 オダイール ジョセ マンフロイ 蔵治 光一郎 田中 延亮 鈴木 雅一
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.19, pp.94, 2006

本研究では,単木の蒸散計測手法である樹液流測定を利用した簡便な遮断蒸発量の推定方法を開発した.本法では遮断蒸発が生じる樹冠濡れ時間を特定することがキーとなる.筆者らは,樹液流測定を利用して樹冠濡れ時間を特定する方法を編み出し,この樹冠濡れ時間を蒸発散量推定モデルの検証データとして利用し,未知パラメーターである最大付着水分量及び空気力学的抵抗を決定した.得られた未知パラメーターより遮断蒸発量を推定し,観測値と比較検討することにより,本研究で開発した手法の実用性を検証した.
著者
戸田 淳治 田中 賢治 浜口 俊雄
出版者
水文・水資源学会
雑誌
水文・水資源学会研究発表会要旨集
巻号頁・発行日
vol.26, 2013

[研究の目的]自然災害による犠牲者を一人でも減らすため、洪水災害や土砂災害の予測から避難警報に至るまでのプロセスをシステム化し、防災情報を必要とする人々が避難に対する意思決定を行う上での指針を示すことが最終目標であるが、今回は洪水氾濫シミュレーション部分を中心に述べる。  [システムの概要]近年頻発するようになった大雨などによる洪水災害に備えるため、我々は流出予測及び氾濫予測を行うための流出氾濫統合システムを構築した。流出モデル及び氾濫モデルを統合し一元的に扱うため、両モデルの空間解像度、計算時間間隔は同一とする(前者は1km、後者は10分毎)。流出モデルから出力されるメッシュ毎の水位データ等が氾濫モデル入力データとなる。また地盤高データは10mDEMを使用し、下記の佐用川流域での大雨イベントにおける再現計算で使用した降雨データは1kmメッシュの解析雨量である。  [これまでの研究]構築された洪水氾濫統合解析システムを実流域にあてはめ、再現性を評価する研究を行った。我々が取り上げたのは2009年8月に兵庫県佐用町で発生した水害である。出力結果(メッシュ毎の浸水深)の評価手法であるが、浸水深実績データとの比較に加えて平面二次元不定流モデルの出力結果と比較することで行った。平面二次元不定流モデルの空間解像度(50m)を基準にして、内・外水氾濫マクロモデルの空間解像度を50m、100m、1kmと変化させて計算精度を比較した。1kmメッシュの浸水深データは50mメッシュにダウンスケーリングした。 [今後の予定]上記システムを用いて2011年8月下旬に発生した台風12号がもたらした紀伊半島豪雨の再現計算を行う。計算対象は十津川流域、降雨データは空間解像度2kmのメソアンサンブルデータを使用する予定である。この事例では洪水災害に加えて土砂災害の影響が大きかったため、洪水氾濫モデルから出力されるメッシュ毎の浸水深データに土砂災害の発生危険度分布を加味したデータ(複合災害に対する危険度を示すデータ)を作成し、避難モデルの入力データとする。