著者
吉村 高男
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育 (ISSN:03856992)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.250-255, 2003-12-20 (Released:2017-02-10)
参考文献数
3

21世紀は,人類が宇宙に進出する宇宙時代である。月や火星等の天体上に建造物を造って住むことも考えられるが,それらの天体は,地球とは重力や環境が大きく異なる。地球上と同じ重力が遠心力で容易に得られるスペースコロニーは,人類が移住可能となる宇宙に浮かぶ優れた近未来の人工建造物と言える。その内部での物理現象について議論することは,21世紀の物理教育を語る際に,興味深く有効である。
著者
斎藤 吉彦
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育 (ISSN:03856992)
巻号頁・発行日
vol.53, no.2, pp.103-107, 2005
参考文献数
9

2次元三角格子方位磁石集団にはお互いが向きを揃える秩序状態がある。カーアクセサリー用の方位磁石1000個で鮮明な磁区が得られる。磁石で外からこの方位磁石集団をかき乱すと,しばらくして秩序状態が現れて落ち着く。これは強磁性体の高温状態から低温状態への相転移(キュリー温度)に対応する。交換相互作用を知らない初学者にも強磁性体のミクロ構造の学習が可能になった。この秩序状態の出現は「自発的対称性の破れ」の実例でもある。素人から専門家まで,生の自然現象で磁区と「自発的対称性の破れ」を楽しむことができる。
著者
岡田 直之
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育 (ISSN:03856992)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.85-90, 2009-06-10 (Released:2017-02-10)
参考文献数
9
被引用文献数
2

電気パンが焼ける間に流れる電流値は増減を繰り返し,その時間変化のグラフは"二コブ"の形になることを報告する。本報告では,この電流値変化がホットケーキミックスにデンプンが含まれているために生じることを明らかにした。この電流値変化は,デンプンの糊化に伴うパン生地の電気伝導率の変化が原因であると考えられる。
著者
押切 志郎 稲波 悠季 菅原 身奈 木村 真一 平山 訓之 八木 一正
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育 (ISSN:03856992)
巻号頁・発行日
vol.54, no.3, pp.252-254, 2006

「見えないものをよりわかりやすく」このことは物理実験を行う上で非常に重要になる。見えないものを視覚化することで,原理というものがより簡単に理解できるようになるからである。本研究室では,「空飛ぶみそラーメン実験装置」などと名付けた風を送るデモ実験装置などを開発してきた。そして,それらを使い,身近にあるスズランテープで風の流れを見やすく工夫をしたところ,これまで見えないはずの様々な空気の流れの様子が簡単に見えてくることがわかった。その研究の概要を紹介する。
著者
脇島 修 鬼塚 史朗
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育 (ISSN:03856992)
巻号頁・発行日
vol.42, no.4, pp.419-422, 1994
参考文献数
6
被引用文献数
1

ケルビンの水滴発電機を定量的に考察して演示効果を高める方法を検討した。試作した発電機では,最大電圧18kv(0.1μA),最大電流1.2mA(1.8V)を得て,赤色発光ダイオードをかなりの明るさで連続点灯させることができた。本発電機の原理は興味あるものであるし,その機構には物理教育上の重要事項が多数含まれている。本発電機は簡単に作れて操作も容易であるので,高校物理の電気分野の導入や発展,課題研究の教材として秀れている。
著者
原 尚志 鈴木 幸太 木谷 美思 小野寺 悠 鈴木 諒 斎藤 美緑
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育 (ISSN:03856992)
巻号頁・発行日
vol.63, no.2, pp.87-91, 2015

福島第一原子力発電所事故により,福島県内は放射性物質による汚染が心配されている。福島高校スーパーサイエンス部では,高校生の外部被ばくに注目し,昨年6月福島県内外で個人線量調査を実施した。この結果から,福島県内の高校生の個人線量が特異的に高いわけではないことがわかった。
著者
宇田川 茂雄 山崎 松吾 伊東 香 川角 博 小室 孝志 野口 禎久 谷田貝 秀雄 藤原 博伸 藤川 清一 岡戸 靖一 田原 輝夫 井上 健 高橋 仁 野坂 正史 山下 一郎
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育 (ISSN:03856992)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.196-209, 2001

専門委員の勤務校は,都立,国立,私立,全日制,定時制,普通科,工業科,男女共学,男子校,女子校,中学校併設などさまざまである。しかし,生徒のつまづきどころには,共通点があるように思われた。実際にそう言えるのか,またそれが事実ならばこの共通のつまづきの原因は何であるのか。その原因が分かれば,物理の理解を深めるのに役立つに違いない。また,陥りやすい過ちがはっきりしているならば,それをテーマにして実験をさせれば,新鮮な驚きを生み出し,「いつの間にか,物理現象について考えはじめてしまう」授業を創ることができるのではないかと考えた。今回は,力学に絞ってアンケート形式の調査間題をつくり,区立中学も含めてさまざまな学校学年での調査を行った。データを立体的に分析するために,個々人の1問1問の回答をデータベース化することにした。しかし,調査データは膨大であるので,個々人のデータベース化は全調査の一部約630名分である。後術の項目3に示すグラフは,このデータベースから抽出したデータに未入力データを一部追加したものに基づいている。項目4以降については,さらに未入力の追加データを利用していることもある。このため,分析対象によって総計などに違いもありうる。
著者
桜井 康雄
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育
巻号頁・発行日
vol.37, no.1, pp.14-15, 1989

回転板上でミニカーをばねで回転中心につなぐ.質量mのミニカーの回転半径を求めるために,2つの発光ダイオードA,Bを用いる.Aは,回転板上5cmくらいの高さで回転板に平行に固定された支持捧の回転中心からrの位置に固定する.ミニカー上には水銀電池で発光するBがある.ダイオードA,Bが同じ位置にくるようにしたときのばねの張力Fをもとめる.つぎに回転板を直流モーターで回転させ,回転数を調節して,ダイオードA,Bが同じ位置にくるようにする.このときの角速度をωとすると,質量mのミニカーが半径r,角速度ωで回転しているとき中心向きにFの力を受けていることになる.F,m,r,ωのすべてのデータがわかるので,向心力の式F=mrω^2が成り立つことを確かめることができる.
著者
福山 豊
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育
巻号頁・発行日
vol.36, no.1, pp.30-33, 1988

ニュートン力学は,アリストテレス的世界観から新しい世界観への転換を示してくれた体系であり,その考え方を是非とも学生たちに理解させておきたい,そのために花火の運動を考察することによってニュートン力学の特徴を理解させることを試みている.このとき花火の運動を三段跳び(ホップ,ステップ,ジャンプ)にたとえて,慣性の運動,重力による自由落下の運動,空気の抵抗(速度に比例)の3段階でとらえ,その役割と特徴をあきらかにする.花火のかけら(星)の形は,どの段階でもつねに円(球)となって落下することが導けるので意外性があり印象的である.
著者
伊東 正人
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育 (ISSN:03856992)
巻号頁・発行日
vol.67, no.1, pp.22-26, 2019-03-08 (Released:2019-05-08)
参考文献数
8
被引用文献数
1

ランベルトのW関数は,指数関数を含む超越方程式を解析的に表現するときに使う.大学物理の授業において,ランベルトのW関数が適用できる演習問題をいくつか示し,数理的な要素を含んだ授業ができることを紹介する.特に理系学生が,最初に微積分と出会う「粘性抵抗を受ける質点運動」の問題において,ランベルトのW関数は有効となる.また,懸垂線の導出で有名な「ぶら下げた鎖の形状」の問題において,ランベルトのW関数を使うと鎖のたるみの長さが計算できる.
著者
森 雄兒
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育 (ISSN:03856992)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.20-25, 2017-03-16 (Released:2017-04-10)
参考文献数
7
被引用文献数
3

計量法の改正に伴い全面SI化が導入され,商品売買に使用される単位が,重力単位系からSI単位系にシフトされた。そして「重さ,重量」の単位による商品売買が使用禁止され「質量」の使用が義務づけられた。このときを前後して経産省は,「重さ,重量」=「質量(mass)」というSI単位系に反する用語法を容認する方針を採用した。このため,物理の学習者を中心に「重さ,重量,質量」について混乱や誤解を及ぼしつづけている。
著者
Black P. J. 笠 耐
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, pp.103-108, 1984

これは,昨年の11月19日に物理教育学会主催で開かれた,英国の科学教育に関する講演会のために,ブラック教授が用意された手稿を訳したものである.ブラック教授はナフィールド物理Aレベルの監修者であり,英国の科学教育の中心部ともいえるチェルシーカレッジの科学教育センターの所長として活躍されている国際的に著名な物理学者である.此のたび,11月14日から18日まで松下AVセンターで開かれた日英セミナーにイギリス代表の長として来日され,お忙しい時間を割いて講演してくださった.内容は「生徒に科学を実践させることによって科学を理解させる」というナフィールド物理の精神を,一層実践的に推進してゆくための問題提起となっている.1980年から5年計画で実施されている英国の全国的教育調査の経験に基づく話である.
著者
岡崎 隆 池田 清朗 沢田 康太 宮崎 隆也 寺島 靖香
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育 (ISSN:03856992)
巻号頁・発行日
vol.58, no.1, pp.49-52, 2010-03-15 (Released:2017-02-10)
参考文献数
9

振子の等時性とその破れ,ホイヘンスによって考案されたサイクロイド振り子について解説する。サイクロイド振子の運動を解き,等時性が回復される振動解の具体的振る舞いを調べる。作成したサイクロイド振子による振動実験を行い,等時性が回復される様子を示す。また,自転車の車輪を使った実体振子の振動を測定し,大振幅の振動で周期が振幅に依存する様子を示す。
著者
鈴木 康文 高田 緑 土居 良子 深澤 優子
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育 (ISSN:03856992)
巻号頁・発行日
vol.62, no.1, pp.13-18, 2014

高校生や大学生に対して,身近な電気製品に使われている科学技術に対する興味を喚起するためにLEDを用いた光通信に関する教材を作製した。一つはLED光線電話であり,もう一つはLEDによる音声・映像通信機である。前者は古くから知られたものであるが,後者は新たに考案したものである。LEDからの光をDVDプレイヤーからの音声信号と映像信号で変調させ,この光を受光側に置いたLEDで受け取り,増幅し,テレビで再生するものである。2本のアクリル棒を光ファイバーケーブルとして用い,その中で光を送信する。教材としての改良を繰り返しながら,子ども・保護者・高校生・大学生.教員らに対し複数回の教育実践の機会を設けた。その結果,これらの教材は従来もっている通信の概念とは異なって目新しく映り,見る者の驚きとともに興味や関心を引き付けることが分かった。
著者
奈良 旬平
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育 (ISSN:03856992)
巻号頁・発行日
vol.69, no.2, pp.98-99, 2021-06-11 (Released:2021-07-19)
参考文献数
3
著者
鈴木 亨
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育 (ISSN:03856992)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.1-3, 1998 (Released:2017-02-10)
参考文献数
8

ホール効果については,センター試験をはじめとする大学入試でも近年,頻出している。受験テクニックとして横行し,一部の教科書にも記載されるに至っている。ところが,固体内の荷電粒子の挙動を,古典的粒子像で説明することには限界があり,高校の指導範囲から逸脱する感がぬぐえない。高校教材としては,できればホール効果は取り扱わないこととし,大学入試問題からは排除することを提言する。
著者
菅野 礼司
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育 (ISSN:03856992)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.101-104, 1997-04-25 (Released:2017-02-10)
参考文献数
6

近代科学の基礎にある機械論的自然観について,その成立の背景と近代力学の形成において機械論的自然観が果たした意義を考察する。目的論的自然観に代わって機械論的自然観が生まれる背景には自然科学の進歩による自然像の転換や手工業の発達などがあるが,さらにキリスト教の自然観である「神が創造し操縦する宇宙像」の影響も見逃せない。近代科学の意味での「自然法則」の概念はこのような状況のなかで確立した。特にデカルトの場合は,物心二元論と物質世界に対する機械論の根拠を神に求めた。一口に機械論的自然観といっても,その意味内容は人により異なるし,時代とともに変化してきた。どこまでを「機械論」というべきかその定義は単純ではないので検討する。最後に,近代科学における機械論に対する批判についても論ずる。
著者
長谷川 大和 勝田 仁之
出版者
日本物理教育学会
雑誌
物理教育 (ISSN:03856992)
巻号頁・発行日
vol.61, no.3, pp.137-140, 2013-09-06 (Released:2017-02-10)

高等学校物理では,力学的エネルギー保存則を学んだ後に運動量保存則を学ぶ。これらを学習後に取り組む典型的な問題として,動くことのできる斜面台上での物体の運動がある。このような問題では,台と物体で及ぼし合う垂直抗力がそれぞれ仕事をすることになり,これらがちようど打ち消し合うことを説明しなければ,力学的エネルギーの和が保存されることに対して生徒は違和感を持つ可能性が生じる。この問題の高等学校での取り扱いについて考察する。