著者
伊藤 公雄 MIYAKE Toshio 三宅 俊夫
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

研究実施計画に基づき、まず、戦前から戦後にかけての日本社会におけるオクシデンタリズムについての文献収集と分析を、受け入れ教授の伊藤公雄のアドバイスを受けつつ進めました。前年度、特に消費文化とポピュラー文化のグローバル化について検討を加えることで、近年の日本におけるイタリアイメージの形成について、考察を進めました。その成果の一部は、5月にダートマス大学で開催された「イタリアン・カルチュラル・スタディーズ学会」で発表しました("ltaly Made in Japan : Occidentalism, Self-Orientalism and Italianism in Japan", Dartmouth College 2010. 05. 08)。また、日独伊3国同盟を擬人化した『ヘタリアAxis Powers』という人気マンガを分析し、その成果について、「カルチュラル・タイフーン2010学会」で報告を行いました("Revisiting Japanese Occidentalism via Hetalia Axis Powers : Nation Anthrapomorphism and Sexualized Parody in otaku/yaoi Subcultures,駒澤大学、2010.07.04~07)。さらに、日本において進めてきたオクシデンタリズムと自己オリエンタリズムの交錯について、収集した資料等を活用しつつ、これまでミヤケが発表してきた論文を対象に再検討を行い、論文の修正点や改正点を洗い出した上で、"L'Occidente e l'Italia in Giappone. Occidentalismo, italianismo e auto-orientalismo"(日本における「西洋」と「イタリア」:オクシデンタリズム、オリエンタリズム、自己オリエンタリズム)と題した著書の出版の準備を進め、ほぼ完成段階に至っています(2011年に刊行予定)。
著者
小林 亜津子
出版者
鳥取環境大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2000

G.W.F.ヘーゲルの「宗教哲学」の新資料に関する図書や、その他の関連書籍等を購入し、また、ヘーゲル研究会等に出席して「宗教哲学」資料についての情報収集を行ないながら、研究を進めた結果、つぎの二点を明らかにすることができた。1.全四回の講義のうち、1821年「宗教哲学」草稿の記述には、キリスト教精神の世俗世界での実現と言う思想的モティーフガ展開され、キリスト教の歴史を世俗史のなかに移し入れるという発想が登場してくる。こうした発想は、キリスト教救済史の時間性を損なう可能性がある。なぜならキリスト教の聖なる歴史を世俗史に移し入れてしまうことによって、ヘーゲルはキリスト教固有の救済史観を骨抜きにしてしまうことになるからである。21年草稿にみられるへ一ゲルの歴史意識を検討することによって、ヘーゲルの歴史意識と現代終末論によって再興されたキリスト教救済史の時間意識とのあいだに現前している埋めがたい決裂点が浮かび上がってくる。2.ヘーゲルもルターも共に、聖餐における神との直接的で、主体的な接触を介して初めて宗教性がなりたつという核心を共有しながら、その核心の内部では、神との直接的な一体感を享受するという神秘主義そのものと、否定を媒介することで神との合一に達するという神秘主義の精神化といった、二つの対立する態度を示している。これらの研究成果のうち、1については、4月に日本哲学会の学会誌『哲学』上に論文として発表した。2については、京都哲学会の学会誌『哲学研究』に掲載された。
著者
土原 和子
出版者
国立研究開発法人 森林総合研究所
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

・昨年度タンニンとの結合を確認した候補タンパク質のうちN末端がブロックされていた3種タンパク質の構造決定する為に酵素消化して解析した。酵素で切断して質量分析(MARDI-TOF-MASS)をおこなったところ、3種類とも全く別の解析パターンを示したが、タンニン結合性候補タンパク質Proline Rich Proteins (PRPs)と相同性があったのは、静岡産の2サンプルであった。また、メインの分画であるアカネズミ(盛岡産)30kDとアカネズミ(静岡産)30kDのタンパク質を酵素消化してアミノ酸シークエンスをおこなった。その結果、タンニン結合タンパク質ではなかった。・森林げっ歯類のうち、ドングリ食であるアカネズミ、ドングリ食と草食の混合食であるヒメネズミ・シマリス・ニホンリス、樹皮を主とする草食のエゾヤチネズミ、完全草食のハタネズミの6種の唾液からタンパク質を抽出単離して、PRPs量の測定、およびSDS-PAGEによる分画と、その分画のタンパク質の精製をおこなった。その結果、PRPsの含有量が最も多かったのは混合食であるヒメネズミで、その次はドングリ食のアカネズミ、そして混合食のシマリス・ニホンリス、そして最も少なかったのは、草食性のエゾヤチネズミ・ハタネズミであった。この結果は、食餌と唾液中のPRPs量との相関はリーズナブルであったといえるが、完全ドングリ食のアカネズミより混合食のヒメネズミのPRPs量が多いのは予想外であった。また、草食性のエゾヤチネズミ・ハタネズミの唾液中にもかなりのPRPsを含んでいたことより、以前はこの2種もタンニンを含むドングリ等を食べていた可能性が高いが、現在は必要なくなったといえる。このように森林性齧歯類は、基本的にはタンニン結合タンパク質であるPRPsを唾液中にもっており、現在ではそれぞれの生活様式にあわせて食餌を変化させてきたといえる。
著者
景山 千愛
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

本年度は、化学物質過敏症の社会的な取り扱われ方に重点を置き、調査研究を行った。具体的には、(1)化学物質過敏症の因果性に関する法学と医学の齟齬、(2)化学物質過敏症の存在を支持し調査研究を行う医師・学者のグループである「臨床環境医」の主張、の分析を行った。(1)に関しては、特に、化学物質過敏症罹患を争点とする訴訟と、化学物質過敏症の医学的不明確性がどのように関連しあっているのかを時系列的に読み解くことを試みた。これにより、「疾患」として医学的な論争のただなかにある化学物質過敏症が、法学という異なる分野において、その不明確性ゆえに法的論理に取り込まれる余地があることを示した。(2)に関しては、化学物質過敏症に関する一般読者向けの書物を対象にして、医学的に確立されていない「病」をいかに正統なものとして示すのかを明らかにした。これら2点の共通性は、ある「病」の不明確性が、異なるアクターが折衝する場面において、どのようにある「病」の不明確性が説明されるのか明らかにする、ということである。医学と司法、化学物質過敏症の存在を支持し研究を行う「臨床環境医」と一般の医師、患者など、異なるアクターや業界の狭間で、ある「病」の不明確性が新しく解釈されなおされるという現象は、化学物質過敏症に限らず、今まさに論争中にあるさまざまな「病」に関しても同様である。また近年では、柔軟剤やアロマなどによる「香害」が社会問題となっており、この文脈で化学物質過敏症も再注目を浴びている。このような社会的状況からしても、本研究でさまざまな「医学的に説明されない症候群」、ひいては化学物質過敏症について扱う意義がある。
著者
神園 巴美
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究では、ブトキシブチルアルコール(BBA)の作用を明らかにするために、(1)実験条件をそろえた精度の高い実験系を確立し、次に(2)その実験系でブロイラーの筋肉タンパク質代謝とエネルギー代謝に対するBBAの効果を調べ、最後に(3)BBAによる代謝連鎖機構について調べることとした。平成25年度は、主に上記(2)と(3)の一部を中心に研究を進め、すなわち、0日齢ブロイラー(オス、Ross、16羽)を供試し、基礎飼料給与の対照区、BBA添加飼料(30mg/kg基礎飼料)給与のBBA区に2区に分け、各試験飼料で27日齢まで飼育して屠殺・解体した。その結果、BBAには体重・筋肉重量の増加による成長促進効果、飼料効率の改善、ならびに、脂質過酸化とタンパク質酸化損傷の抑制、α-トコフェロール濃度上昇による酸化ストレス軽減効果があることを明らかにした。BBAによる成長促進効果、特に筋肉タンパク質代謝に対する影響に関しては、タンパク質分解の抑制だけでなくタンパク質合成能の上昇も関与した。これらはμ-calpainとatrogin-1 mRNA発現量の低下、さらにIGF-1 mRNA発現量の上昇の結果として捉えることができる。また、BBAによる飼料効率の改善効果は、ATPを必要とするユビキチン・プロテアソーム系(IGF-1とatrogin-1が関与)によるタンパク質分解抑制によってATPが節約され、その結果、エネルギー変換効率が上昇したとの仮説が成り立つ。一方、BBAが酸化ストレスを軽減することを考え合わせると、酸化ストレスの原因となる活性酸素を消去し、またはミトコンドリアでの活性酸素産生量を抑えることで酸化的リン酸化効率を高めている可能性も否定できない。このように、BBAはタンパク質代謝だけでなくエネルギー代謝にも影響し、それらが相互に連関して成長促進効果を発揮している可能性を明示した。
著者
川瀬 晃道 TRIPATHI SAROJ RAMAN TRIPATHI Saroj Raman TRIPATHI S. R.
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は、汗腺のミリ波・テラヘルツ波帯でのアンテナとしての機能を検証することにより、生体とミリ波・テラヘルツ波の相互作用について明らかにすることである。そこで本研究では汗腺がヘリカルアンテナとして機能した場合軸モードとノーマルモードについて調べた。昨年の研究では汗腺の軸モードで共振周波数 442±72 GHz という値を得たが本年度は特にノーマルモードに着目し、共振周波数の計算を行った。そこでまず汗腺の様々なパラメータ例えば汗腺の直径、巻き数、長さ等の情報を得るためOptical Coherence Tomography (OCT) を用い32人の被験者に対して計測を行った。その結果平均直径は 95μm、平均長さは304μmと平均巻き数は5であった。これらのデータの基に汗腺がノーマルモードで機能した場合約 130GHz 付近で共振する可能性があるという結果を得られた。
著者
深町 はるか
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2003

口臭の原因物質としてメチルメルカプタンや硫化水素といった揮発性硫化物が注目されている。これらの揮発性硫化物は口腔内細菌がメチオニンを基質としてメチルメルカプタンを、またシステインを基質として硫化水素を産生することが分かっている。特に、歯周病患者からは歯周ポケットの深さに比例して呼気中から高い濃度の揮発性硫化物が検出される。本研究では歯周病患者の歯肉縁下プラーク中の細菌であるPorphyromonas gingivalis, Fusobacterium nucleatum,およびTreponema denticolaに着目し、揮発性硫化物産生酵素をコードする遺伝子をクローニングし、これらの酵素学的な性質を解析した。現在までに、P.gingivalis, F.nucleatumおよびT.denticolaのメチオニン分解酵素、F. nucleatumのシステイン分解酵素を単離精製した。メチオニン分解酵素の性質としては、P.gingivalisとT.denticolaのメチオニン分解酵素のKm値を比較した結果、メチオニンに対する親和性はT.denticolaが極めて高いことが分かった。また、菌体から産生するメチルメルカプタン量をガスクロマトグラフィーで比較した結果、T.denticolaが口腔内に存在する程度の低濃度のメチオニンからメチルメルカプタンを高産生することが分かった。また、揮発性硫化物の発生を抑制するという報告のある塩化亜鉛について、P.gingivalis, F.nucleatumおよびT.denticolaの揮発性硫化物産生に対する抑制効果を解析した。まず、全菌体をから産生されるメチルメルカプタン量をガスクロマトグラフィーで測定した結果、産生されるメチルメルカプタン量は塩化亜鉛量に依存して抑制され、P.gingivalis, T.denticolaは10ppm, F.nucleatumは100ppmでメチルメルカプタン産生が完全に抑制された。つぎに、P.gingivalis, F.nucleatumおよびT.denticolaの組換えメチオニン分解酵素を用いて塩化亜鉛による酵素活性の抑制をみたところ、すべての酵素ともに、100ppmの塩化亜鉛でメチオニン分解酵素が完全に阻害されることから、塩化亜鉛によるメチオニン分解酵素の阻害がおこりメチルメルカプタンが産生されなくなることが明らかになった。
著者
三家本 里実
出版者
一橋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は、日本型雇用システムの変容について、企業の労務管理の変化と若年正社員の離職動向との関係から考察することで、必要な雇用政策のあり方を検討することにある。その際、主な研究対象を情報サービス産業におけるITエンジニアに設定し、2015年度においては、以下の課題に取り組んだ。(1)インタビュー調査: 2014年度に引き続き、企業の労務管理と労働者の働き方(より具体的には、労働者の有する自律性)との関連を明らかにするために、労働者へのインタビュー調査を実施した。下請企業ほど、労働過程における決定権は制限され、労働者が、より直接的な管理のもとに置かれることが想定されるが、実際には、いわゆる「丸投げ」というかたちで、労働者が労働過程における決定を行っていることが明らかとなった。(2)文献研究: インタビュー調査を受けて、企業の労務管理と労働過程において労働者が発揮する自律性の関連を分析するために、労働過程論を参照した。ハリー・ブレイヴァマンの労働過程分析と、その後の労働過程論争を辿り、技能との関連において、労働者の自律性を把握する必要性が浮かび上がった。(3)アンケート二次分析: 情報サービス産業においては、長時間「残業」の問題が深刻であり、メンタルヘルス不調や離職率の高さの原因としても考えられている。長時間残業の発生する要因について、労働政策研究・研修機構のアンケート調査データの使用許可を得て、分析を行った。その結果、目標値やノルマの高さなど、企業の労務管理が大きく影響していることがわかった。(4)アンケート調査: 産業別組合の協力のもと、ITエンジニアの転職行動に関するアンケート調査を実施した。労働時間の長さなど労働条件に加え、スキルアップが転職を志向する要因として挙げられた。とくに後者については、キャリアコースによって転職意識に違いが生じることが明らかとなった。
著者
桐原 尚之
出版者
立命館大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

これまで精神障害者の社会運動に関する歴史研究は、精神医学の一部や社会福祉学の枠内等で検討されてきており、精神医学の進歩史上の一事象や社会福祉の価値の正当化のための歴史として叙述されてきた。そのため、これらの目的に反する実践の記録の大部分は歴史から意図的に除外されてきた。障害学は、障害を医療や福祉の対象とする枠組み――医学モデル――からの脱却を目指す試みであり、上述のような従来の歴史認識を批判し、障害の観点から歴史研究をすることが志向される。しかし、現在の障害学は精神障害者の不利益を捉えられる枠組みにはなっておらず、従来の歴史に批判を加えるための基盤となる理論が存在しないという点で問題がある。本研究の目的は、精神障害者の社会運動の現代史を通じて、そこから示唆される知を明らかにすることである。対象範囲は、1960年代後半から2000年代前半までとし、全国「精神病」者集団の歴史を中心とする。第一に精神障害者の社会運動は発生し活動を続けてきたのかという集団形成の歴史を記述した。そこから運動が発生した理由、集合的アイデンティティの設定過程、設定された価値を分析した。その結果、精神障害者の社会運動は、精神障害者の生命を守り人権を回復すること、協調からの逸脱という精神障害者像に基づき精神障害者同士の助け合うことを志向した運動であったことを明らかにした。第二に精神障害者の社会運動は何を求めたのかという主張の歴史を明らかにした。そこから何を批判対象となる価値規範や不利益と措定し、いかなる負担をどのように分散することを求めたのかを分析した。その結果、精神障害者の社会運動が求めたことは、「関わることを止めないこと」を求めた運動であったことを明らかにした。第三に精神障害者の社会運動の歴史を記述したことによって従来の医学や社会福祉学の歴史認識にどのような変更が加えられるのかを明らかにした。
著者
北澤 直宏
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

本研究の目的は、宗教事情を通した、ベトナム近現代史の再考である。本年度は、特に以下の2項目で進展が見られた。1つ目は、南ベトナムの大統領であり、宗教の弾圧者として知られるゴー・ディン・ジェム政権(1955-1963)の宗教政策の分析である。そもそも、共産党の独裁体制が続くベトナムにおいて、公定史観以外の視点は把握し難い。特に共産党に敵対し滅びた南ベトナムは、今日においても否定的な言説が目立つ。新たな視点を提供は、より相対的な歴史事情を把握する上で不可欠と言えるだろう。新資料の分析により明らかになったのは、ジェムの政策が、当時のベトナムには馴染みのなかった「政教分離」の導入を図っていた点である。しかしこれは宗教勢力から反発を招き、やがて彼は弾圧者として否定的な評価が強調されていくことになる。2つ目は、宗教者の交流を通した、日本-ベトナム関係の考察である。これは歴史資料の分析に加え、各地にある在日ベトナム人宗教施設での調査を主としている。そこで明らかになったのは、20世紀から始まる両国宗教者の交流が、互いの無関心により成り立っていた事実である。そもそも日本の宗教者が示していたベトナムへの関心は、1940年代の南方進出及び1960年代以降に激化したベトナム戦争という、時勢に左右されたものであった。一方ベトナム側では、1950年代以降日本留学を経験する宗教者が続出している。しかし彼らの目的は、日本で学位を取得することであったため、彼らは70年代以降その拠点を欧米に移し始める。このような漠然とした友好関係は、互いが交流しないからこそ可能であった。訪日ベトナム人数が増え続け、在日共同体も拡大を続けていった近い将来、この見せ掛けの関係が破綻する可能性は否定できないだろう。
著者
ROBERT F.RHODES SARAH J.HORTON
出版者
大谷大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

平安時代中期から後期にかけて、仏教が民衆の間に広まったことは、従来より指摘されている。しかし、仏教の拡大において、比叡山などで行われた「講」が大きな役割を果たしたことは、あまり注目されてこなかったように思われる。本研究では仏像の宗教的・社会的役割を解明するために、平安時代から鎌倉時代に行われた各種の講に焦点を当て、仏教儀礼の研究を行った。その結果、平安・鎌倉時代における仏像の宗教的・社会的役割がごある程度把握できたと考える。この研究を進める上で、二つの方法を採用した。一つは文献的研究である。この一年間をかけて研究分担者のホートン教授とともに、いくつかの講式(仏教儀式の時に用いられる式次第)や説話集に散見する仏像や仏教儀礼の記述をに関する解読作業をおこなった。取り上げた文献の主なものは『日本霊異記』、『法華験記』、『今昔物語集』、永観の『往生講式』などであったが、それに加えて『源氏物語』や『枕草子』に見られる仏像に関する記述や『矢田寺縁起絵巻』なども検討した。第二の方法として、平安時代・鎌倉時代の仏像を安置する寺院で行われている儀式に参加し、調査を行った。特にホートン教授は、ほぼ毎週近畿圏で行われている各種仏教儀礼に参加し、その様子を写真やビデオに納めた。また、その際には住職や一般信者に聞き取り調査も行った。特に興味深かったのは、奈良の薬師寺や京都の知恩院と清浄華院で行われる仏像の身拭い式であったが、その他にも奈良の伝香寺の有名な年中儀礼である裸地蔵の着替え式や京都の本能寺で行われる放生会にも参加することができた。
著者
DIPESH KHAREL (2015) DIPESH Kharel (2014) DIPESH Kharel (2013)
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

My PhD research project "A case study of Nepali migrant workers in Japan" will examine the unique characteristics of Nepali migrants working as cooks in Nepali restaurants in Japan, who are categorized by Japanese immigration authority as "skilled labor (cook)". There are already more than a 500 Nepali restaurants in Tokyo, and that number is still increasing.Based on my research plan, I have been in Nepal to conduct my research fieldwork in April 2015. When I was conducting the fieldwork in Nepal, the devastating earthquake hit Nepal in 25th April and 12th May 2015. In the earthquake disaster, I got injured and have lost my fieldwork data as well as fieldwork equipment, however I luckily survive. My house, located in Dolakha district Nepal has completely collapsed due to the earthquake. Because of this unexpected circumstance of the earthquake I could not collect fieldwork data as my research planed. I have again conducted fieldwork in Nepal (Kathmandu and Malma village) for a month (October 2015) to recover my fieldwork data on the migrants’ families’ situation in Nepal. Finally, I have almost completed my fieldwork and task of collecting data. However, I could not write my thesis in the last year because of the earthquake disaster. I was suffered from PTSD (Post Trams Stress Disorder) and still could not concentrate on writing the thesis.I have attended at fives international conferences/workshops/seminars to present my research findings. Using the fieldwork data, currently I am writing my PhD dissertation. I am planning to complete it by next year.
著者
安平 弦司
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

昨年度後半に引き続き、本年度はその全期間を通じて、ユトレヒト大学のJ・スパーンス博士の指導下で在外研究に従事した。本年度前半は、昨年度から行ってきた、都市ユトレヒトの財政問題解決に向けた交渉におけるカトリックの主体性に関する研究を綜合した。分析を通じ、都市のカトリック名士が当該の交渉の中で、《公》なるものを独自に定義づけ、カトリック共同体、特にその貧民の生存の余地を積極的に創り出していたことが明らかになった。この研究成果に関して、2016年4月に古カトリック学国際研究会で口頭報告(ボン大学)を行い、同年9月にはオランダ史専門の学術雑誌BMGN - Low Countries Historical Reviewに英語論文を投稿した(2017年4月現在においてまだ査読結果は得られていない)。本年度後半は、ユトレヒト市裁判所に残された史料を用いて、カトリックに関する言説や彼らが用いた言説を分析した。分析の結果、自らの生存可能性や権利を護持するため、カトリックが多様な種類の戦略を駆使していたこと、そして彼らは時に良心の自由という観念の言及して自己弁護を図っていたが、その観念に関して異なる複数の理解があったことが明らかになった。注目すべきは、良心の自由を拡大的に解釈することで、自らのあるいはカトリック共同体全体の公的領域での権利を積極的に擁護し、時に拡大しようとするカトリック名士たちがいたことである。彼らは時に、都市共同体における合法的かつ傑出した自らの公的地位を掲げ、独自の《公》認識に基づいた主張を展開することで、都市共同体において共有された《公》なるものの境界線を揺るがし、カトリックが宗派的アイデンティティを捨てずに生き残るための余地を創り出していた。この研究成果に関しては、2016年10月にオランダ宗教学会で口頭報告(アムステルダム大学)を行い、英語論文の執筆も進めている。
著者
小畑 拓也
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2000

今年度の研究課題である「インターフェイスとしての身体」,すなわち生命体の環境への適応の結果として獲得される固有の身体的特徴に焦点を当て,人の多様な可能性が,いかに奪われ,いかに拡大されてきたかを異星人,サイボーグ等の形態の描写を中心に追う試みについては,Osaka Literary Review第41号掲載の論文Alien Protocolにまとめた.この論文ではR.A. Heinleinの他者間交流を描いた作品中の,意思疎通を支える知性の獲得に必須とされるハードウェアとしての身体の条件と,交渉を可能とするためのソフトウェアとしての共通言語,すなわちプロトコルの分析を通じて,意思疎通と交渉が不可避的に抱え込む力学的関係それ自体が,常に逆説的なものとしていずれかの優位を保証し得なくなる過程について論じた.さらに2000年度から今年度に渡る研究を総合するものとして,人工知能との対比によって前景化する「知性」,そしてロボット,アンドロイド,異星人,サイボーグなどが浮き彫りにする「顔」と「身体」の問題が交錯するところに,いかなる人間像が生み出され,SFの中に描かれてきたのかを検証した結果の一部は,2002年度大阪大学英文学会大会において「陽電子洗脳-CampbellからAsimovへのロボット工学三原則バグフィックスとアップデート」の題目で口頭発表を行った.これは,SFのみならず,広く人口に膾炙した「ロボット三原則」(ロボット隷属の正当性の主張)が,後にその制定者の一人であるIsaac Asimov自身によって「四原則」へと書き換えられることにより,「他者」を隷属させる「掟」から「他者」同士の共存の可能性を拓く「自律」へと変容した事実について,人造人間という「他者」をいかに制御するかというテーマを含んだ他の作品と通時的に比較しつつ,その意味づけを試みたものである.
著者
今井 宏昌
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

最終年度である平成28年度は、成果の発表につとめると同時に、前年度に引き続き、ヨーロッパや日本国内の古書店、大学図書館のデータベースを利用し、研究テーマに関連する文献の調査・収集をおこなったほか、平成28年8月8日から9月1日にかけて、ドイツで文書館史料の調査・収集をおこなった。具体的な成果としては、まず博士論文を単著『暴力の経験史:第一次世界大戦後ドイツの義勇軍経1918~1923』(法律文化社、2016年)として出版したことが挙げられる。この出版により、ドイツ義勇軍の経験が戦間期のドイツ・ヨーロッパ史に与えたインパクトとともに、本研究が重視する「経験史[Erfahrungsgeschichte]」の分析視角をより広くの人びとに知らせることができた。また「経験史」に関してはさらに、T・キューネ/B・ツィーマン編『軍事史とは何か』(原書房、2017年)を共訳書として発表した。特筆すべき研究の進展としては、義勇軍経験をめぐる史料の「発掘」と収集が挙げられる。ザクセン州立ライプツィヒ文書館では、義勇軍出身のナチ党員であるH・O・ハウエンシュタインが1926 年11 月にヒトラー率いる党中央から離反する形で結成したドイツ独立国民社会党の機関誌『ドイチェ・フライハイト』の1927 年5 月22 日号を「発掘」し、組織の中で明確に義勇軍経験が意識されていた点が明らかとなった。さらにマールブルクのヘルダー研究所では、義勇軍雑誌『ライター・ゲン・オステン』の大部分を収集することに成功し、これによりバルト地域を中心とする義勇軍運動の記憶がナチズムに接収されていく過程を跡づけるための前提条件が整った。ただ、これらの史料「発掘」と収集により、論文執筆スケジュールに大幅な変更が生じ、結果として平成28 年度中に雑誌論文としての成果の発表には至らなかった。
著者
加藤 健治
出版者
総合研究大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

脳梗塞・脊髄損傷後による運動機能障害は、大脳皮質と脊髄間を結ぶ下行路が切断されているために起こるが、損傷領域の上位に位置する大脳皮質や、下位に位置する脊髄・末梢神経・筋はその機能を失っているわけではない。従って、機能の残存している大脳皮質より神経活動を記録し、損傷領域を超えて下位の神経構造へ、神経活動依存的な電気刺激を送る「人工神経接続」によって、失った随意運動機能を再建できる可能性がある。本研究では、脳梗塞モデルサルにおける大脳皮質-筋間の人工神経接続に対する運動適応過程とその神経メカニズムについて検討した。3頭のサルを用いレンズ核線条体動脈或いは前脈絡叢動脈を結紮することにより脳梗塞モデルサルを作成した。大脳皮質-筋間の人工神経接続は、大脳皮質前頭葉へ慢性留置したシート状電極のうち1極を任意に選択し、記録された脳活動よりhigh-γ帯域(80-120Hz)の特徴的な波形を検出し、その検出頻度に依存して電気刺激の強度と周波数を変調させることにより達成した。人工神経接続切断時では麻痺手の随意制御ができなかったが、人工神経接続中には、随意的に麻痺手の運動を制御することに成功した。さらに、一次運動野、運動前野、一次体性感覚野におけるいずれの脳活動を使っても、麻痺筋の随意制御は可能であり、手関節力制御タスクの成績は時間に伴って有意に向上した。その学習に関わる神経メカニズムを調べたところ、人工神経接続への入力信号を効果的に増加させることによって、自己学習できることがわかった。これらの結果は、脳梗塞サルであっても、自ら脳活動を大規模に再編成させて新規な大脳皮質-筋間の人工神経接続に対して自己適応し、失った手の随意制御を再建できることを示唆している。将来、このような神経代替方法によって、脊髄損傷・脳梗塞等で失った四肢の随意運動機能を補綴する基礎的なメカニズムの理解に、重要な貢献をなすものである。
著者
坂倉 真衣
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

平成26年度は、1)The Contextual Model of Leaning(学びの文脈モデル)(Falk & Dierking 2005)を再考することと「出会い(encountecing)」という観点を用いてインフォーマルな学習環境におけるユーザー(利用者、来館者)の「体験」を共通に捉えることのできる枠組み、方法論を確立、2)1)で確立した枠組み、方法論を用いた博物館、公民館における利用者の「学び」データの収集(行動観察、発話採集)、整理、3)1)~2)および平成25年度に実施した公民館と博物館それぞれで行われてきた「学び」の体系化(文献調査)によって得られた成果を元に開発した3件の学習プログラムの試行、検証を行った。その結果、1)平成25、26年度と引き続き問い、多面的に検討してきたインフォーマルな学習環境(博物館•公民館)における「体験」(ひいては「学び」)を捉えることのできる枠組み、方法論を確立でき、2)博物館においてよく見られる典型的なパタン(他にもいくつかのパタンが見出されている)において、「出会い」(とくに「出会いの幅」)を理解するための4つの観点(“引き出される”“ぶつかる”“つなげられる”“浮かび上がる”)および「体験」を捉える上で重要となる「出会い方」という概念を得、(1)で再考したモデルを「出会いを起点とした文脈モデル」として提示した。さらに、(3)「出会いを起点とした文脈モデル」によって開発した公民館•博物館をはじめとするインフォーマルな学習環境での学習プログラムの内実を明らかにし、その現場に関わる研究者であり実践者であるという「関わり手」としてよりよい実践へとつなげる新たな研究サイクルを確立しつつある。現在、主要な学会誌へ論文投稿の準備段階にあり、今後さらに事例研究の精緻化と論文化を進めていく予定である。
著者
佐藤 峰南
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

1. 主要元素および微量元素組成分析:これまでの研究により,三畳紀後期遠洋性堆積物中に隕石衝突の痕跡が記録されていることが明らかとなった(Onoue, Sato et al., 2012; Sato et al., 2013).そこで,三畳紀後期隕石衝突よって引き起こされた可能性のある古海洋環境変動を明らかにするため,隕石衝突層準およびその上下の層状チャートを1枚ずつ採取し,主要元素および微量元素濃度の測定を東京大学工学部にて行った.その結果,生物生産に関する示すシリカ(Si), カルシウム(Ca)ストロンチウム(Sr),バリウム(Ba)の濃度が,イジェクタ層の直上で急激に低下していることが明らかとなった.同様の結果は,白亜紀/古第三紀(K/Pg)境界でも報告されており,隕石衝突による海洋環境の変化に伴う石灰質・珪質プランクトンの生産性の低下を示している可能性が示唆された.2. 論文執筆:これまで見つかっている日本の遠洋性堆積物中に記録された4セクションのイジェクタ層を用いて,白金/イリジウム(Pt/Ir)比,ルテニウム/イリジウム(Ru/Ir)比,クロム/イリジウム(Cr/Ir)比から,三畳紀後期隕石衝突の衝突隕石の種類がコンドライト隕石であるとする論文を執筆し,投稿準備中である.3. 国内外における研究成果発表:AGU fall meeting(サンフランシスコ)および日本地球惑星科学連合大会(千葉),日本地質学会(鹿児島)において,三畳紀後期隕石衝突による海洋環境の変動の可能性について,研究成果を発表した.
著者
斎藤 英喜 ALASZEWSKA J. JANE Alaszewska
出版者
佛教大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

(1)ジェーン・アラシェフスカ氏は、来日後、斎藤の大学院ゼミで、これまでの「民俗音楽」研究の経過、成果などについての報告を行なった。またそのときに先行研究である本田安次氏によって公刊された、伊豆諸島南部の巫女祭文を解読し、そのなかでとくに、高知県物部村のいざなぎ流祭文との類似点が見出される「呪詛の祭文」の精密の解読を進めた。その結果、いざなぎ流の祭文とほぼ同様な表現があること、また陰陽道系の呪符などには、近世社会に流布した『大雑書』の引用があることが確認された。(2)以上の研究成果にもとづいて、2010年6月25日に立命館大学で行なわれたSOASの日本宗教研究センター主宰のシンポジウム「祈祷と占い」での研究発表を行った。その発表については、中世宗教研究者である阿部泰郎氏、伊藤聡氏からも高い評価を得ることができた。とくに阿部氏からは『大雑書』の引用については、愛知県「奥三河の花祭り」との接点なども指摘されて、ジェーン・アラシェフスカ氏の研究の広がりを再確認することができた。(3)その後、中世の祭文、神楽に関する先行研究である岩田勝氏の『神楽源流考』などの著作をめぐって斎藤との共同研究によって、伊豆諸島南部の巫女祭文の研究が、中世の祭文、神楽の問題へと展開すべきことを指示した。(4)さらに2010年10月7日から11月15日までの長期にわたる伊豆諸島、とくに青ヶ島におけるフィールドワーク行なった。そのなかで10月20日の「船頭の祭り」、21日の「東台所神社の祭り」の祭祀を見学し、計十二時間におよぶ映像記録を撮影した。また25日には、広江清子巫女の自宅で行われた「天神祭り」を取材し、十時間におよぶ映像記録を撮影した。さらに青ヶ島村で行われた巫女の土葬儀礼を見学し、取材を行なった。一方、東台所神社、奥山家、広江家、佐々木家などの巫女・神職関係者が所蔵する祭文資料を収集し、その撮影を行なった。(5)今後は蒐集した祭文資料などをデジタル化して、できれば公刊することをめざす。また中世の祭文、神楽研究のテーマからは、とくに仏教との関わりが「念仏」読誦の問題として浮上したこと、さらにいざなぎ流や奥三河花祭りなどに見られる「浄土神楽」との接点がどのようにあるかが今後の研究課題として残されている。また蒐集した祭文中に見られる修験道儀礼、呪符との繋がりの解読も来年度における研究課題となった。
著者
八重樫 徹
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

本研究の最終年度にあたる本年度は、エトムント・フッサールの後期備理思想における愛と便命に関する考察を手がかりに、人間的行為者に固有の自由がもつ感情的基盤に注目し、これを明らかにすることを主な目的として研究を進めた。前期フッサールによれば、われわれの自由とは、合理的な熟慮にもとついて、価値があるとみなした事態を行為によって実現することにある。この発想自体は後期においても変わらないが、自由な自己決定の外側にある事実性への着目が、後期倫理思想に固有の論点として付け加わる。われわれは合理的意志決定によらない仕方で、特定の人を愛したり、特定の活動を自分にとって重要なものとみなしてそれに身を捧げたりする。そのようにして何かを大事に思うことは、いわばわれわれの生き方の中核をなすものである。「私はそれをせずにはいられない。なぜならこれが私にとって大事なものだからだ」。このように語るときの「せずにはいられない」という義務感は、外側から押し付けられたものではなく、その人自身の生の中心から湧いてくるものである。こうした現象は行為者の自由とは対極の不自由さを構成しているように思われるかもしれないが、それはむしろ人間に固有の自由を可能にしているものである。なぜなら、合理的な熟慮に実質を与え、そのつどの意志決定を根底で支えているものこそ, 何かを大事に思うことから生じる義務感あるいは使命感にほかならないからである。後期フッサールの倫理思想に見られるこうした発想には、B・ウィリアムズやCh・コースガードといった現代の倫理学者による「人生のプロジェクト」や「実践的アイデンティティ」と呼ばれるものを重視する立場に通じるものがある。われわれの生き方の中核にある不合理性を積極的に認めることは、道徳的義務のみに着目する狭い意味での倫理学を超えて、「愛」や「ケア」といった概念を重視し、「人生の意味」や「生きがい」といった価値を明らかにしようとする、より開かれた倫理学的探究を可能にする。自由意志の現象学的解明を目的とした本研究の主な成果は、人間的自由の感情的基盤を探ることを通じて、価値の現象学的探究が愛や人生の意味に関する重要な洞察を与えるという可能性を示したことにある。