著者
大崎 遥花
出版者
九州大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

リュウキュウクチキゴキブリは、配偶時に雌雄が互いの翅を付け根付近まで食い合う。翅の食い合いは性的共食いの一種とみなせるが、これまでは決まった性が異性を食う一方的な性的共食いしか報告がない。食われた個体は将来の繁殖成功が著しく低下する。このため性的共食いは性的対立の究極的な例と考えられている。性的対立とはオスメス間の利害対立であり、子を残す最適な戦略は雌雄で異なるために生じる。よって性的対立は生物の生態や行動の進化を理解する上で鍵となる重要な概念である。両性が互いに食い合う初の性的共食いである翅の食い合いの意義を解明することで、性的対立の理解に大きく貢献し、新たな雌雄の繁殖戦略の知見を提供する。
著者
宇佐美 雄生
出版者
大阪大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

本研究は、分子ネットワークを用いたリザーバコンピューティングを構築し、物質ネットワークに立脚した情報制御の可能性を示すことを目的とする。リザーバコンピューティングは、入出力と計算資源であるリザーバ層から成り、出力との接続部分の結合の強度のみを読み取ることで情報処理及び学習を行う演算システムの一つである。リザーバコンピューティングの肝であるリザーバ層を物質系である金微粒子-導電性高分子ネットワークで担い、入出力をソフトウェアで制御することで、情報処理機能を発現する。
著者
徳田 幸雄
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

当該年度は、一般に「回心」という語で括られる宗教的な新生あるいは再生の体験、具体的にはタウバ(イスラーム)とコンバージョン(キリスト教)、廻心(仏教)を、それぞれクルアーン、聖書(ヘブライ語旧約聖書、ギリシャ語新約聖書、ラテン語訳聖書)、『浄土真宗聖典』に基づいて比較考察し、そこに宗教の相互理解に資するような共通構造を取り出すことに取り組んだ。結論を先取りして言えば、その共通構造とは、人(自力)の転換と神(他力)の転換とが同時に成り立ち、そこにおいて人(自力)と神(他力)とが相互に回帰し、両者が逆説的に接するという構造である。これを明らかにするために、アラビア語のタウバと英語のコンバージョンの共通の語源であるヘブライ語のシューブやギリシャ語のエピストレフォーにまで遡って考究した。およそ一千か所にも及ぶ膨大な参照個所をふまえつつ、先の共通構造を浮き彫りにさせたことは、これらがいずれも各宗教の核心部分を構成するがゆえに、宗教一般を理解するうえでも大きな意義をもつ。とりわけ、宗教をもっぱら人間側の現象としてのみ捉えることの限界を示唆したことは、従来の宗教研究のあり方に一石を投じることになろう。なおこの研究成果は、『東北宗教学』第6号に掲載予定の論文「イスラームにおけるタウバとキリスト教におけるコンバージョン、そして仏教における廻心-各聖典を中心とする比較考察-」において発表することになっている。
著者
西 栄二郎 KUPRIYA-NOVA E. KUPRIYANOVA E.
出版者
横浜国立大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

オーストラリア産多毛類と日本産多毛類を中心とする底生生物の生物相を比較しながら、外来種の調査を行った。オーストラリア沿岸の付着生物(カキやイガイなど)の隙間に棲む多くの種類が外来種の可能性があることが確認できた。また、オーストラリア産、日本産、米国西海岸産の数種の比較で、外来種ではなく、それぞれ別個の種である可能性があることがわかった。今後、これらの外来種なのか別個の種なのか判明していない種の起源や移入・伝播経路等をDNA解析により明らかにしていく予定である。また、海洋研究開発機構との共同研究により、深海産の多毛類について新記録種が見つかった。この種はDNA解析により既知種との類縁性が考えられるものの、剛毛などの外部形態に差異があることから新種(未記載種)の可能性がある。今回は採集された個体数が少なく、外部形態の差異が変異なのか固定形質なのか判別できないため、新種または既知種との判断は行っていない。今後の調査により同種が採集された場合には種の位置付けが確定されると思われる。横浜港など東京湾内や相模湾内の底生生物調査とともに、淡水産生物の調査も行った。淡水には特異な進化を遂げた種が分布し、その分布域に外来種が入り込むことで、多くの淡水産種が分布を狭めたり、絶命に瀕する例が知られている。そのため、淡水産の種とそれに影響を及ぼす可能性がある種を調査・研究することを目的とした。欧州の洞窟に棲む種やタイの淡水・汽水に棲むカンザシゴカイ科、日本の洞窟内淡水に生息するホラアナゴカイ科などを調べた。それぞれ現在も良好な分布が確認されたが、今後もモニタリングすることにより、その分布域の減少に注視する必要があると思われる。
著者
板垣 竜太 SHAPIRO MICHAEL SHAPIRO Michael マイケル シャピロ
出版者
同志社大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

本年度の研究目的は、現在までの研究をシャピロ氏が書籍にまとめることにあった。その内容は、日本帝国とグローバル規模のキリスト教伝道事業を代表するキリスト教青年会(YMCA)との二重の枠組みのなかで、日本と朝鮮におけるキリスト教徒がどのような関係を結んだのかを解明しようとするものである。この目的に向けて、2冊の出版企画書をまとめた。一つは日本・朝鮮・中国のYMCA運動の起源と相互関連を取り上げ、それらが植民地朝鮮においてどう交差したのかを問うものである。これまでの研究では、この過程を単に<非キリスト教勢力 対 キリスト教勢力>の衝突として扱うことが主流であったが、この研究ではキリスト教青年会(YMCA)に焦点を当て、このグローバル規模のキリスト教伝道団体と日本帝国における天皇制という二つの異質的な制度が、いかに植民地朝鮮において妥協点を探りながら共存しようとしたのかという観点に基づき二者の関係の解釈を試みる。もう一つの企画書は、プロテスタント教徒で有名なジャーナリストだった徳冨蘇峰が朝鮮総督府の御用新聞であった『毎日申報』の監督として果たした役割を取り上げる書籍の出版企画書である。1910年代の毎日申報を取り上げている先行研究では、監督の徳富蘇峰の編集方針を度外視してきたが、この発見によって朝鮮における最初の近代小説家とされる李光洙(イ・グァンス)との意外な思想的関係が明らかになる、というのがこの本の主張である。これをもとに、現在、出版企画が進んでいる。
著者
権 哲源
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2018-04-25

血管は血管内皮細胞と血管平滑筋細胞の2つの細胞から構成されている。中でも、我々が注目しているアペリン受容体(APJ)は、血管内皮細胞における血管拡張作用が広く研究されている一方で、血管平滑筋細胞における役割は不明であった。そこで、本研究では、血管平滑筋細胞特異的にAPJを過剰発現したマウス(SMA-APJ)を作製し、血管平滑筋細胞APJと血管収縮に焦点を当てた解析を行っている。昨年度までの研究において、アドレナリン受容体アゴニストのノルアドレナリンやフェニレフリン、およびアドレナリン受容体の阻害剤を使用した薬理実験から、アペリン誘導性の血管異常収縮に対するα1Aアドレナリン受容体(α1A-AR)の関与が示唆されていた。しかし、これら生理活性物質は、いずれもアドレナリン受容体の「α1サブタイプファミリー」に作用する可能性があり、α1Aアドレナリン受容体の関与を直接的に断定するものではない。そこで、本年度は、α1Aアドレナリン受容体の選択的アゴニストであるA-61603を活用し、SMA-APJに対してアペリンとA-61603を同時投与した場合でも、血管の協調的な収縮が見出されることを明らかとした。さらに、この協調的な収縮が、SMA-APJ/α1A-AR-KOマウスにおいて有意に消失したことから、血管平滑筋細胞APJが担う血管異常収縮に対する、「α1Aアドレナリン受容体の関与」を断定できた。アドレナリン受容体は9つのサブタイプを有するGPCRである。複雑な血管組織・タンパク質が相互に作用する血管収縮に対し、1つのGPCRサブタイプの役割を断定できたのは、大きな進捗であったと考える。以上の研究成果に併せて、本年度は、国際学会(ポスター1件)と国内学会(ポスター2件)での発表を行った。さらに、J. Biochem誌に第五著者として研究成果の一部が掲載された。
著者
岩崎 達哉
出版者
東北大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2020-04-24

本研究は,高校生とその親がもつ大学進学への認識を,社会階層や高校生の通う高校の特性との関連において明らかにする。従来,日本において大学進学という行動は経済学的に分析がなされてきたが,それらは経済学が分析に際して暗黙裡におく仮定の元で研究が行われてきた。そのような分析上の仮定の存在ゆえに,従来の大学行動分析は社会学的視座との交流が十分になされてこなかった。しかし,本当に大学進学行動に経済的要因以外は影響をもたらさないのか。本研究は,従来の分析の仮定レベルまで立ち返り,その妥当性を検討することで,大学進学の意思決定メカニズムを再考するものである。
著者
高井 英輔
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012

アルツハイマー病と関連する老人班の主要成分であるアミロイドβ線維をターゲットに、大気圧プラズマの作用の新たな利用原理を開発することを目的に実験を行った。実験はプラズマを照射する時間を変えて行い、照射時間に伴うアミロイドβ線維の変化を種々の方法で観察した。その結果の1つ目として、プラズマ照射にしても線維には形状や線維長、分子量、線維量といったマクロな変化は観察されなかった。次に、マクロな変化は起きていないアミロイドβ線維のプロテアーゼ耐性を調べた。0-30minプラズマ照射したアミロイドβ線維にトリプシンを加え、24h常温で静置した後の波長350nmにおける吸光度を調べると、プラズマ照射時間に伴って吸光度が減少しており、20および30minでその値は約30%減少していた。この結果はプラズマ照射されたアミロイドβ線維のみがトリプシンの分解を受けたことを意味しており、プラズマ照射によってプロテアーゼ耐性が喪失してことを示している。実際に30minプラズマ照射したアミロイドβ線維をトリプシン分解後にAFMにて観察すると球状の凝集体となっていた。したがって、プラズマ照射によってプロテアーゼ耐性が喪失することを発見した。プロテアーゼ耐性が喪失したメカニズムを調べるため、0-30minプラズマ照射したアミロイドβ線維の2次構造をCDスペクトルで、βシート含有量をThT蛍光強度で、線維表面の親水-疎水性をANS蛍光スペクトルで測定した。すると、アミロイドβ線維のβシート含有量および線維表面の疎水性が減少していることが示唆された。以上のようなアミロイドβ線維の性質変化はアミノ酸側鎖の官能基における酸化反応に起因していると考えられ、プラズマ照射によってプロテアーゼ耐性が喪失した機構であると言える。以上の結果から、大気圧プラズマの作用の新たな利用原理としてアルツハイマー病と関連する老人班の主要成分であるアミロイドβ線維を除去するのを促進することに利用できることを提案した。
著者
秋草 俊一郎
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2006

今年度も研究活動、具体的には学会報告、論文執筆・発表といった活動を引き続き積極的に行った。研究はナボコフの自作翻訳について調査した。その結果、多くの作品について新たな知見がえられ、研究が大幅に進展した。また、ナボコフの翻訳論については実際にそれを翻訳するなどの作業も行った。一般的に英文学研究のオピニオン誌と見なされる『英文學研究』に二本、ロシア文学研究・スラヴ研究のオピニオン誌と見なされる『ロシア語ロシア文学研究』『スラヴ研究』に一本ずつの論文を掲載しており、双方で研究が質量ともに高い水準であることを示した。また日本ナボコフ協会でも成果として論文を発表するなど、専門家に向けたアピールも忘れなかった。学会発表も、ロシア文学会とナボコフ協会で二度行った。それ以外にも、大小さまざまなワークショップや研究会などで積極的に発表を行った。その際、海外の一流研究者を含むさまざまな研究者と交流し、幅広い意見交換を行った。さらに特筆すべきは、今年度の平成20年9月、博士論文『訳すのは「私」:ウラジーミル・ナボコフにおける自作翻訳の諸相』を完成させたことである。このため、博士課程修了を3年で修了して博士号を授与された。研究テーマが一応の完成を見たといえ、事実上、日本学術振興会に提出した当初の研究計画をほぼとどこおりなく遂行したと言えるだろう。なお、この博士論文と学業成績を対象にして、東京大学総長賞並びに総長大賞が授与された。
著者
下出 敦夫
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2012-04-01

昨年度は重力のゲージ場である多脚場と場の強さである捩率の時間成分を用いて熱輸送の理論を確立したが,今年度はそれらの空間成分を用いて運動量輸送の理論を確立した.まず捩率の空間成分の電場が回転の角速度と歪み速度テンソルを記述することを示し,軌道角運動量と粘性がそれぞれ電気分極と電気伝導度の運動量版であることを見出した.特にゲージ原理の観点からは角速度が磁場ではなく捩率の電場であるということは重要な指摘である.昨年度までに確立した曲がった時空におけるKeldysh形式を用いてそれらを定式化し,波数空間における簡単な公式であるBerry位相公式を導出した.Cooper対が軌道角運動量をもつ2次元または3次元カイラル超伝導体に対してこの公式を応用し,既存の普遍的な結果を再現するとともにHall粘度の温度依存性を得た.この研究は理化学研究所およびCEA Saclayの木村太郎氏との共同研究であり,Physical Review Bに出版されている.さらにCooper対自身は軌道角運動量をもたないトポロジカル超伝導体に対しても軌道角運動量のBerry位相公式を応用し,2次元カイラル超伝導体とは異なる,Rashba型のスピン軌道相互作用に依存した非普遍的な結果を得た.これにより,既に知られているトポロジカル超伝導体の非普遍的な不純物効果を定性的に説明することができた.この研究は日本原子力研究開発機構の永井佑紀氏との共同研究であり,Physical Review Bに投稿中である.
著者
山川 隼平
出版者
筑波大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2019-04-25

棘皮動物は左右相称の祖先から五放射相称の体制を獲得した。進化過程を通し棘皮動物はなぜ他でもなく五放射相称の体制を獲得したのだろうか。本研究ではヒトデにおける五放射の発生機構を明らかにし、その獲得プロセスの分子基盤の解明を目指す。ヒトデは変態期に入ると幼生体内に五放射相称の成体原基を形成する。これまでに成体原基のパターン形成への関与が示唆される候補因子を幾つか絞り込んだ。そこで、今後はゲノム編集技術の導入等により以上の因子の五放射形成への関与を検証する。
著者
平井 洋一
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

ゲーデル・ダメット論理の証明から非同期通信する並行プログラムを抽出する方法をみつけて、FLOPS2012という国際学会で発表した。交付申請書に記載した研究目的にあるとおり、直観主義論理の証明からプログラムを抽出するプログラム抽出の技法を応用したといえる。ゲーデル・ダメット論理は直観主義論理の拡張であり、今回の研究で抽出したプログラムはもともと直観主義論理の証明から抽出できていた型付きラムダ計算の拡張である。さらに、研究目的にあるとおり、抽出されるプログラムは非同期通信する並列プログラムである。本研究の最も重要な結果は、無待機計算で解ける問題はゲーデル・ダメット論理をもとにしたプログラミング言語で解けるし、ゲーデル・ダメット論理をもとにして解ける問題は無待機計算で解けるという特徴付けの結果である。論理学への貢献はゲーデル・ダメット論理の計算的意味を明らかにしたことであり、計算機科学への貢献は無待機計算用のプログラミング言語を発見したことである。ゲーデル・ダメット論理の計算的意味が何かという問題は1991年にArnon Avronによって提起されて以来解かれないまま20年以上の時間が経過した。本研究ではこの古い問題を解けた。無待機計算は、理論計算機科学で、1990年代に注目された概念であり、2004年のゲーデル賞は無待機計算の位相幾何学的特徴付けという仕事に与えられた。本研究では、無待機計算のプログラミング言語による特徴付けを実現した。
著者
岡本 和夫 CASALE Guy
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2004

微分方程式のガロア理論と付随する葉層構造のガロア理論の関係は、微分体の拡大の観点から梅村浩教授により研究されているが、これを微分方程式の観点から研究し両者の関係を明らかにすることが目的の一つである。一方、パンルヴェ方程式のガロア理論の観点からの研究は日本で盛んに研究されているが、ここでも微分グルポイドの視点は有効であると期待される。例えば、パンルヴェ方程式の既約性について新しい証明を得ることを目標の一つとしている。前者が微分ガロア・グルポイドの可積分性に関する研究であり、後者がそのパンルヴェ方程式への応用である。これら2つの研究は今のところ独立に並行して遂行する。第一の研究課題が進展すれば、その第二の課題への適用が可能となり、ともに発展が期待できる。具体的にまず考察すべきは以下の視点である。すなわち、非線型微分方程式のガロア理論においては、微分体の拡大と微分方程式の特殊解との関係を確立することが肝要であり、そのときの鍵となるのが付随する葉層構造のガロア理論である。分担者の今回の滞在予定期間は当初一年であったが、2ヶ月ほど延長し上記研究目的に挙げた研究を遂行した。目標の一つは、微分方程式のすべての解を含む微分体を構成するであるが、これはすぐ上に述べた付随する葉層構造の完全第一積分を含む微分体を通して行われるものである。パンルヴェ方程式の既約性について、ガロア・グルポイドを用いるやり方はもとのパンルヴェ自身が考察したアイデアに近いものであるので、何とか完成したい。とりわけ、パンルヴェ方程式に関するデュラックの予想についての研究はじゅうようであるからこれを遂行した。日本各地の研究者との交流は重要であるから、引き続き積極的に行った。また、得られた成果は部分的なものであったとしても研究会などで発表し、これはさらなる発展に資するものと期待している。そのためには他機関の研究者との交流に取り組み、研究打ち合わせを行った。海外の研究集会にも参加し、研究成果を公表した。また、研究代表者がパンルヴェ方程式に関する若手研究者を中心とする研究グループの構築を図っているのでこれに協力したが、今後とも協力するつもりである。
著者
矢ヶ崎 一幸 BLAZQUEZ SANZ David BLAZQUEZ SANZ David
出版者
新潟大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

前年度に引き続き,幾何学的および代数学的アプローチを用いて,微分ガロア理論の力学系に対する応用について理論的研究を行った.まず,可逆的な常微分方程式系において,ホモクリニック軌道のサドル・ノードおよびピッチフォーク分岐がある非退化条件の下で起こるとき,ホモクリニック軌道の変分方程式が微分ガロア理論の意味で可積分となることを証明した.次に,前年度に得られたストゥルム・リウビル問題に対する結果を一般化し,アレン・カーン方程式と呼ばれる偏微分方程式の進行フロント解の線形安定性を解析し,これまでに知られていなかった固有値が求められた.また,これら2つの理論結果に対して具体的な適用例を示し,さらに数値計算結果と比較し検討するなどして,それらの有効性を明らかにし,微分ガロア理論を用いた,常微分方程式のホモ/ヘテロクリニック軌道に対する新しい分岐解析手法を確立した.偏微分方程式のソリトン,パルスおよびフロント解が,常微分方程式のホモ/ヘテロクリニック軌道で表わされる多くの場合があり,得られた結果はこれらの解の分岐や線形安定性に直接応用することが可能で,非線形偏微分方程式の分野においても非常に重要である.さらに,不変多様体を有するハミルトン系に対して,微分ガロア理論により可積分性を解析するMorales-Ramis理論の拡張とそのカオス現象との関連性について論じた.本研究により,力学系にとどまらずより広い数学および応用科学の分野における微分ガロア理論の有用性がさらに高められた.
著者
鈴木 一敏
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2008

本研究では、現在の貿易自由化交渉の基本的特徴を提えたマルテエージェント・シミュレーションのモデルを作成し、各国の戦略やその進化的安定性、系に対する外的要因(例えば交渉参加国や争点の増加、産業構造の変化など)が与える影響を、動態的に分析する。これによって、システム内で国家がとる戦略と貿易ネットワークのあり方との関係、無差別最恵国待遇を尊重する戦略やFTAを多用する戦略などの広がり方、通商交渉を巡る環境(参加国や争点の数、個々の国家の産業構造の変化)の変化が秩序に与える影響、などを検証するものである。本年度は、まず、既存の交渉理論、貿易自由化交渉の研究、相互依存論等における議論に基づいて、多争点の二国間交渉、多国間交渉のルールを、シミュレーション・モデルのルールにできるところまで明確化すべく、検討を行った。そして、この検討に基づき、個々の国家が自らの利益に基づいて譲歩の交換を行う基本モデルのコーディングを開始した。モデルは、多数の国家が多数の品目について関税譲許を交換するシミュレーションモデルとなっている。個々の国家は、各品目について、選好する関税率、政治的重要度等の変数を持っており、政治的な利益(選好する関税率と実際の関税率との差分縮小幅を、政治的重要度によって重み付けして算出される)を目指して、他国とアトランダムに交渉を行う。その際、国家は、無差別最恵国待遇、特定国最恵国待遇、自由貿易協定といった戦略を用いる。データの収集と編集に関しては、世界各国のGDP、成長率、分野別平均関税率、地域貿易協定の締結数の変化などについて、第二次大戦後の時系列データを可能な限り収集し整理した。このデータは、来年度以降、シミュレーションの初期値として用いたり、シミュレーション結果と比較検証するために用いる予定である。
著者
水野 さや
出版者
名古屋大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2001

「中国・韓国・日本における八部衆像の研究」と題し、平成13年度から15年度にわたり研究を行ってきた。その過程で、八部衆(阿修羅、竜、迦楼羅などで構成される)という護法神の枠組みは中国で成立したものであることを明らかにしてきた。もちろん、八部衆を構成する阿修羅などの尊像は、インド、東南アジアにおいても確認され、中国で八部衆像としてグループ化される以前から信仰されてきた神々である。本年度は、このような単独で信仰されてきた阿修羅(アシュラ)、竜(ナーガ)、迦楼羅(ガルダ)などの作例を視野に入れ、これらの神々が単独で造られ、信仰されている場合の図像と、八部衆像として造られた場合の図像とでは違いがあるのかないのか、あるのであればどのような違いなのか、考察を広げてみた。阿修羅像については、八部衆における阿修羅像は日・月、曲尺、天秤などの持物を執ることが、本研究者のこれまでの研究により明らかになっている。河南省竜門石窟賓陽北洞(7世紀中頃)などの中国の初期の作例から、慶尚北道慶州昌林寺址三層石塔(8世紀後半)など、韓国の統一新羅後期から高麗前期に至る作例など、いずれの八部衆における阿修羅像にも必ず確認できる持物である。一方、八部衆ではない単独の阿修羅像には見いだせないものが多い。日・月などの持物も、中央アジアから中国において付加された持物と思われる。それには、阿修羅像が仏教に取り入れるまでの重層的な流れが反映されている。一つは西アジアにおける最高神アフラ・マズダーの一性格としてのアスラである。最高神であり司法神であるアスラが中央アジア経由で中国に直接もたらされ、天秤・鋏・墨壺を持つことが多い中国古来の天地創造の神々のイメージと重なり、阿修羅の図像が形成されたと考えられる。その一方で、西アジアのアスラはインドにおいて軍神インドラに敵対するアシュラとなり、ヴューダ聖典、仏教経典において、インドラに調伏される荒ぶる神々として認識されるようになる。中国、韓国、日本にみられる、怒りのイメージを思わせる赤の身色、荒々しい表情をもつ阿修羅は、ここに起因する。このように、東アジア以外において単独で信仰されている神々の図像との比較により、八部衆に取り入れられた各尊像が、その形成過程でどのようなイメージを強く受け、どのような役割を期待されて組み込まれたのか、その一端を考察する資料となった。
著者
小室 靖明
出版者
中央大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2014-04-25

本研究の背景筋小胞体カルシウムポンプはP型のATP加水分解酵素であり,筋小胞体膜中に存在する膜タンパク質である.1個のATPを加水分解し,2個のCa2+を細胞質から小胞体内腔へ1万倍の濃度勾配に逆らって能動輸送する.これまでX線結晶構造解析によって輸送サイクルの反応中間体の立体構造が決定され,カルシウムポンプは大規模な構造変化によってイオン輸送を実現していることが示唆された.本研究では,分子動力学(MD)計算によって生体環境中のカルシウムポンプの熱運動を解析した.多リン酸分子力場の改良脂質二重膜に埋め込まれたATPとADPそれぞれの結合状態の筋小胞体カルシウムポンプの全原子MD計算を実行した.本研究では,多リン酸分子の力場パラメタをより高精度に改良した.改良された力場パラメタをATP結合状態のカルシウムポンプだけでなく,他のATP結合タンパク質のMD計算に適用して検証を行った.カルシウムポンプの場合では,従来の力場を用いるとATPの構造が大きく崩れてしまう結果に対し,改良された力場ではATPの構造は安定に保持した.他の4種類のATP結合タンパク質を用いた場合でも同様な結果が得られた.また,ATPの取り得るコンフォメーションの多様性の比較のため,改良した力場とオリジナルの力場を用いて溶液中ATPのレプリカ交換MD計算を行った.従来の力場を用いた場合ではATPの三リン酸部分が伸びきった構造のみ出現したが,改良された力場ではこの構造も含むより広範囲なコンフォメーションを実現していた.改良された力場で得られた三リン酸構造の分布は,PDBに収容されているタンパク質に結合したATPの構造との重なり合いが見られた.改良した力場は生体分子のダイナミクスの研究に適しており,カルシウムポンプや一般のタンパク質のMD計算におけるATPの熱運動の解析に有用であることを示した.
著者
小幡 圭祐
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

本研究は、薩摩藩出身の政治家・大久保利通の国家構想と大久保が長官を務める内務省の制度・政策を解明することで、明治初年に近代国家形成の基礎を構築したとされる「大久保政権」の位置づけを解明し、日本近代史研究に理論的な貢献をすることを目的としている。平成30年度においては、⑤地方三新法を巡る内務省と地方官、⑥明治憲法体制の確立過程についての分析を行うため、⑤については、国立国会図書館憲政資料室・大分県公文書館などが所蔵する、地方三新法の起草や地方勧農政策に関する未刊行史料を、⑥については、国立国会図書館などが所蔵する、井上馨・大久保利通・伊藤博文ら国家建設当事者に関する未刊行史料を網羅的に収集した。分析結果は以下の通りである。⑤地方三新法を巡る内務省と地方官前年度の④で解明した明治10年の中央行政改革は、内務省への地方管轄権一元化を志向した地方行政改革としての性格も併せ持っていたことを明らかにした。その成果は、④の成果とあわせて東北史学会・内務省研究会で発表を行い、雑誌論文を準備中である。また、内務省の改革志向性は、内務省によって任命された地方官の志向性とは必ずしも一致していなかったことを地方勧農政策の事例より展望した。この点については、研究発表・雑誌論文を準備中である。⑥明治憲法体制の確立過程日本において近代国家が明治憲法体制によって確立する過程が、井上馨・大久保利通・伊藤博文ら主要な国家建設当事者の国家構想の相克過程として位置づけられることを、明治4年の廃藩置県前後に行われた制度取調を事例に展望した。分析の成果は、『明治維新史研究』第16号に査読付論文「太政官三院制の成立過程―明治四年の制度取調―」として公表した。
著者
藤野 正寛
出版者
京都大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2016-04-22

マインドフルネスとは、今この瞬間の経験に受容的な注意でありのままに気づくことである。この能力を高めるための実践法は、特定の対象に意図的に注意を集中する集中瞑想と、経験に対して抑制することなくありのままに気づいている洞察瞑想の2種類の瞑想技法から構成されている。近年、この実践法が人々のウェルビーイングの改善・向上に貢献することが多くの研究で示されている一方で、対象者によってはネガティブな経験を抑制してしまうことで有害事象が生じる事例も示されている。そこで、安全かつ効果的な実践法の適用・開発のために、マインドフルネスの中核的な機能を育む洞察瞑想の心理・神経基盤を解明することが求められている。本年度は、瞑想未経験者72名を対象として、昨年度に開発した介入用教示を用いて、集中瞑想と洞察瞑想の30分の短期介入が、妨害刺激の対処方法に与える影響の違いを検討した。実験では、妨害刺激としての表情顔の中央に呈示された文字の向きを解答する弁別課題を用いた。その後、弁別課題時に呈示した顔と呈示しなかった顔を用いて選好度判断課題を実施した。その結果、対照群では表情顔に対する単純接触効果が見られなかった。しかし集中瞑想群と洞察瞑想群では単純接触効果が見られた。さらに集中瞑想群でのみ介入後のリラックス状態と単純接触効果の間に有意な正の相関が見られた。これらの結果は、統制群では弁別課題で呈示された顔を抑制したために、呈示顔の魅力度が低下したことを示している。また集中瞑想や洞察瞑想の短期介入が、注意制御機能や情動調整機能に影響を与えることを示すとともに、洞察瞑想が集中瞑想による選択的注意を強めることとは異なる心理メカニズムに影響を与えていることを示している。これによって、従来確認されていなかった、瞑想未経験者でも洞察瞑想による情動調整を実施できるということの傍証をえることができた。
著者
木村 淳夫 WONGCHAWALIT Jintanart
出版者
北海道大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2007

単量体アロステリック酵素、すなわちモノマー酵素が示す協同性(基質活性化)の現象例は極めて稀である。我々は、3種類の同酵素(α-グルコシダーゼ・β-グルコシダーゼ・キチン分解酵素)の取得に成功している。従って3酵素が示す協同性の分子機構を究明することは学問上において興味深い。本研究の目的は、単量体アロステリック酵素の分子機構を解明し、応用研究に結び付けることにある。本年度は次の研究成果を得た。アロステリック部位の決定1)X線結晶構造解析:3酵素について結晶作製を継続してきた。キチン分解酵素に関し、X線構造解析が可能な結晶の作製に成功した。2)活性化部位の確認:キチン分解酵素とβ-グルコシダーゼの触媒部位周辺に可動性ループがあり、基質の取り込みにより大きな構造変化の発生が予想された。キチン分解酵素に関し、本ループにある1アミノ酸をTrpに置換し基質分子を与えると、Trp由来の大きな構造変化が観察された。従って基質分子に起因する本ループの構造変化が解明された。またβ-グルコシダーゼに関しては、可動性ループにあるアミノ酸で特に触媒ポケットの入口付近に位置する残基に注目し点置換体を構築した。本変異酵素の解析から可動性ループがアロステリック作用に関わることが判明した。アロステリック酵素の作製ショ糖分解酵素とβ-グルコシダーゼに関し、高い相同性を持つがアロステリック現象を示さない酵素を対象に、アロステリック現象に関与すると予想される構造因子の移植を試みた。ショ糖分解酵素の場合、構造因子の移植によりアロステリックな性質を与えることができた。β-グルコシダーゼは可動性ループ移植を行ったが、酵素活性は大きく減少した。移植位置が触媒部位近傍であるためと考えられ、ループサイズを小さくする工夫が必要と考えられた。なおβ-グルコシダーゼを用いた構造解析で新規なβ-グルカンの取得が明らかになった。